刀剣の引渡請求訴訟において自白の撤回の可否が認められて時機に遅れた攻撃防御方法とはいえないとした事案(山形地裁令和元年8月6日判決)

主文
事実及び理由
第1 請求
第2 事案の概要
第3 当裁判所の判断
第4 結論

オレンジ法律事務所の私見・注釈

弁護士 辻本恵太

1 本件は,いずれも重要文化財に指定されており,X告の評価によるといずれについても,少なくとも1振り8000万円程度の価値がある3振りの刀剣を所有していたと主張するXが,盗難にあった本件各刀剣を買い取ったYがこれを占有しているとして,Yに対し,所有権に基づき,本件各刀剣の引渡し及びその執行不能に備えた代償金の支払を求めると共に,Yが本件訴訟において本件各刀剣を占有している旨の自白を撤回したのは違法行為であるとして,不法行為による損害賠償請求をした事案である。

2 Yは,本件訴訟で,本件各刀剣を所有していたこと及び本件各刀剣を占有していることを認めていたことを認めていたが,その後,Yが占有している上記の3振りのY主張刀剣は,いずれも本件各刀剣と同じ銘(備前國長船兼光,備前國長船住長義,来國次)を有し,本件各刀剣と似ているものの本件各刀剣とは異なるとして,①本件各刀剣を所有していたこと及び②本件各刀剣の占有を否認するに至ったため,これらの自白の撤回の可否が問題となった。

3 この点,本判決は,①については,証拠からXが運営するa博物館から盗まれた刀剣がY主張刀剣であると認めることはできないから,Xが本件各刀剣を所有していなかったことが証明されているとはいえず,Xが本件各刀剣を所有していたというYの自白の内容が真実に合致しないものであるということはできないとして,この点に関する被告の自白の撤回は認めないと判断した。
 他方,②については,平成29年7月頃,当該各刀剣の保管状況を当裁判所に報告するために,これを確認したところ,当該各刀剣はY主張刀剣であり,本件各刀剣ではなかったことが判明したものと認められ,平成26年売買はYにとっては必ずしも高額な取引ではなかったということも可能であり,そうだとすれば目的物を詳細かつ厳密に確認しなかったとしても直ちに不自然であるとはいえないなどとした上で,平成26年売買の目的物はY主張刀剣であったと認められ,Yは本件各刀剣を占有していないと認められるから,本件刀剣の占有についての被告の自白は,真実に反するものであり,かつ錯誤に基づくものということができ,その自白の撤回は許されることとなると判断した。
 そのうえで,Yが本件各刀剣を占有していることを前提とする本件各刀剣の引渡請求及び代償金の支払請求は認められないとした。
 また,本判決は,被告代表者が刀剣の保管状況を裁判所に報告するために同年7月上旬に平成26年売買の目的物である各刀剣を確認した結果,当該各刀剣が本件各刀剣ではなく被告主張刀剣であったことが判明し,被告が本件各刀剣を占有していることについての自白を撤回するに至ったこと,刀剣の取引において実績のある者から,それぞれ本件各刀剣と同じ銘(備前國長船兼光,備前國長船住長義,来國次)を有する刀剣がある旨の情報を得て,本件各刀剣と似ているY主張刀剣について名刀であるとの評価を信頼し,多忙でもあったため,これを詳細かつ厳密に確認することなく,本件各刀剣を買い受けたものとの誤認に基づいて,上記の自白をしたことなど,自白を撤回した経緯については特に責められるべき事情があるとはいえず,本件の帰すうに極めて重大な影響を持つ事実として,真実発見の要請が大きいものといえるとして,いまだ時機に後れて提出されたとまでいうことはできないとして,時機に後れた攻撃防御方法として却下の申立てを却下した。

4 民事訴訟法179条は自白が成立した場合,証明が不要であることを定め,これにより裁判所及び当事者拘束力が生じるところ,自白を前提に訴訟行為が積み重なるため,安易に撤回されるべきではない。相手方の同意がある場合や,自白が第三者の詐欺等によりなされた場合を除くと,自白が真実に合致しておらず,かつ錯誤に基づいてされたことが証明されたときに,自白の撤回ができるとされている。また,反真実が証明された以上,錯誤を否定すべき特段の事情がない限り,錯誤に基づいてなされたと認められる(最高裁第3小法廷昭和25年7月11日判決)。
 本件①②について,自白の撤回の可否の判断が分かれたのは,反真実の認定が分かれたことに起因する。
 また,自白の撤回の主張自体も攻撃防御方法であるところ,民事訴訟法157条1項は,時機に遅れた攻撃防御方法を却下する旨指定されているため,これにより却下されるかが問題となる。時機に遅れたといえるかは,進行状況,攻撃防御方法の性質にてらして,早期に提出することが期待できるような客観的な状況があったかで判断される。
 本件では,自白をした経緯については軽率であったとの謗りを免れない面があるが,真実発見の要請も大きいなどを総合考慮して,自白の撤回が時機に遅れて提出されたとはいえないと判断している。

[民事訴訟法]
(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
第百五十七条 当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

(証明することを要しない事実)
第百七十九条 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

5 自白の撤回や時機に遅れた攻撃防御方法の却下は,通常の訴訟で問題となることの少ない民事訴訟の制度である。これらは,審理の混乱,審理の遅延を招き,相手方への影響等,迅速な手続を保障するという観点と真実発見の要請がぶつかる場面である。
 弁護士として代理人をする立場であるからか,民事訴訟の各種手続きの運用について,実務では真実発見の要請がやや強く感じてしまうことがないでもないが,裁判システムという側面からすれば,やむを得ないものと思っている。

弁護士 辻本恵太

主文

 1 原告の請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の刀剣を引き渡せ。
 2 第1項の引渡しの執行が功を奏しないときは,被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の刀剣1本当たり8000万円を支払え。
 3 被告は,原告に対し2400万円及びこれに対する平成29年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 本件は,別紙物件目録記載の3振りの刀剣(以下「本件各刀剣」という。)を所有していたと主張する原告が,盗難にあった本件各刀剣を買い取った被告がこれを占有しているとして,被告に対し,所有権に基づき,本件各刀剣の引渡し及びその執行不能に備えた代償金の支払を求めると共に,被告が本件訴訟において本件各刀剣を占有している旨の自白を撤回したのは原告に対する違法行為であるとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき,2400万円及びこれに対する被告が自白を撤回した平成29年9月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 前提事実(当事者間に争いがないか後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
  (1) 当事者
   ア 原告は,山形県上山市○○においてa博物館と称する博物館を営む公益財団法人である。
   イ 被告は,大阪府茨木市を本店所在地とし,医薬品の販売等を目的とする会社である。被告代表者は,刀剣の収集家である。
  (2) 本件各刀剣は,いずれも重要文化財に指定されており,原告の評価によると,いずれについても,少なくとも1振り8000万円程度の価値がある。
  (3) 原告は,平成3年6月15日当時,社会的に本件各刀剣であると認識されていた3振りの刀剣を所有し,これをa博物館において所蔵していたが,同日深夜ないし翌16日未明にこの3振りの刀剣を盗まれ,その占有を失った(甲3の1ないし3の2,4)。
  (4) C1ことC(以下「C」という。)から本件各刀剣を買い取ったと主張していた被告は,原告に対し,平成27年9月18日の第1回弁論準備手続期日において,Cが平成4年3月30日に本件各刀剣の占有を開始し,占有開始時に無過失であったとして,平成14年3月30日の経過によりCにおいて完成した取得時効を援用するとの意思表示をし,また,平成24年3月30日の経過によりCにおいて完成した取得時効を援用するとの意思表示をした。
  (5) 被告は,本件訴訟において本件各刀剣を占有していることを認めていたところ,平成29年9月22日の第10回弁論準備手続期日において,被告が占有している3振りの刀剣は本件各刀剣ではないとして,本件各刀剣の占有を否認するに至った。
 被告が占有している上記の3振りの刀剣(以下「被告主張刀剣」という。)は,いずれも本件各刀剣と同じ銘(備前國長船兼光,備前國長船住長義,来國次)を有し,本件各刀剣と似ているものの,本件各刀剣とは異なる刀剣である。
  (6) 被告は,本件訴訟において,原告が本件各刀剣を所有していたことを認めていたところ,平成30年8月29日の第17回弁論準備手続期日において,原告が所有していた3振りの刀剣は本件各刀剣ではないとして,原告の本件各刀剣の所有を否認するに至った。
 2 争点及び当事者の主張
  (1) 原告が本件各刀剣を所有していたことについての被告の自白の撤回の可否
 (被告の主張)
   ア 株式会社bは,平成26年10月1日,被告に対し,Cから買い受けた3振りの刀剣を代金1億2600万円で売り渡した(以下,かかる刀剣の売買を併せて「平成26年売買」という。)ところ,その対象とされた3振りの刀剣は,被告主張刀剣である。
 被告主張刀剣は,付着している錆の状態などからすると,作刀から100年以上経過していると考えられるから,被告がこのような刀剣を偽造したり,本件各刀剣と3振りとも同銘の偽造された刀剣を取得したりすることは不可能である。これに加え,原告が盗難に遭った刀剣と同銘の3振りの刀剣が同時にCの手元に存在していたことを踏まえると,被告主張刀剣と原告が盗難に遭った刀剣は同一である可能性が高い。
 したがって,重要文化財に指定され,日本刀大鑑に記載された特徴を持ち,かつ,原告が盗難に遭ったという全ての特徴を持つ本件各刀剣は存在しないから,原告は,本件各刀剣を所有していなかった。
   イ 被告代表者は,平成26年売買当時,その目的物が本件各刀剣であると認識していたが,前記のとおり,平成26年売買の目的物は被告主張刀剣であったことが判明したことから,原告が本件各刀剣を所有していたことについても自白を撤回したものであって,その経緯は不自然ではない。
   ウ したがって,原告が本件各刀剣を所有していた事実についての被告の自白は,真実に反するものであり,かつ錯誤によるものであるから,被告による自白の撤回は許されるべきである。
 (原告の主張)
   ア 以下のとおり,被告の自白の撤回は許されない。
 (ア) 日本刀大鑑には,原告が所有する刀剣として,本件各刀剣の特徴が記載されると共に,その写真が掲載されているところ,かかる写真は,原告が所有していた本件各刀剣を撮影したものであり,被告主張刀剣とは特徴が異なる。したがって,原告が,本件各刀剣を所有し,盗難時に占有していたことは明らかである。
 (イ) 被告の主張を前提としても,錆の付着状況等から,被告主張刀剣が100年以上前に作刀されたものとはいえず,現時点において100年以上前に作刀されたという外観を有する刀剣を作成することも可能である。また,仮に,100年以上前に作刀されていたとしても,これを被告が入手することは可能である。
 (ウ) 被告代表者が,平成26年売買において,その目的物が本件各刀剣でない可能性が高いと判断したのであれば,通常は,日本刀大鑑を見て確認するはずであり,取引直後から3年間も確認せずに放置することは不自然である。
   イ また,仮に,被告が本件各刀剣を占有していないとしても,被告主張刀剣の早期確認の必要性は高く,被告が,平成26年売買から9か月もの間,被告主張刀剣を日本刀大鑑の記載と照合しないまま,被告が本件各刀剣を占有していることを前提として,原告が本件各刀剣を所有していたことを自白したことには,故意に準ずる重大な過失があった。そして,被告は平成26年売買から4年近く経過してから自白の撤回を表明しており,これによって原告は大きな不利益を被った。したがって,仮に,原告の本件各刀剣の所有について被告に錯誤があったとしても,信義則に照らし,錯誤の主張をすることは許されない。
  (2) 被告が本件各刀剣を占有していることについての被告の自白の撤回の可否
 (被告の主張)
   ア 平成26年売買の目的物は,被告主張刀剣である。
 被告代表者は,平成26年売買における立会人らとの信頼関係,平成26年売買において,C及び立会人らとの間で売買対象物の刀剣が偽物であれば返品・返金する旨約していたこと,平成26年売買は被告代表者にとって必ずしも高価すぎる取引ではなかったこと,被告代表者が多忙であったこと,Cの事情により売買を早急に行う必要があったことなどの事情から,平成26年売買時にその目的物の刀剣を詳細に確認しなかった。また,平成26年売買に係る契約締結後に作成された契約書(以下「平成26年売買契約書」という。)には,平成26年売買の目的物の特徴として本件各刀剣の特徴が記載されているが,これは,平成26年売買契約書の作成時にその目的物の各刀剣と本件各刀剣との同一性の確認作業を行わず,目的物である各刀剣は本件各刀剣であるとする前提で記載されたものにすぎず,上記事情からすれば不合理なことではない。
 被告が,平成26年売買の後に,被告代表者の多忙さなどが理由となって,買い受けた刀剣を詳細に確認することなく保管していたことは不合理・不自然なことではない。
   イ また,被告が大阪府教育委員会に提出した刀剣は,被告主張刀剣である。教育委員会の登録審査における刀剣の測定は精密なものではないし,なぞり書による記録も誤差が生じ得るものであるから,登録原票に記載されている数値等は正確性が十分に担保されているものではない。さらに,登録審査は厳密な年代の測定を行わないから,作刀時期の記載が正確であるとは限らない。
   ウ したがって,被告が本件各刀剣を占有している旨の被告がした自白は,真実に反するものであり,かつ錯誤によるものであるから,被告の自白の撤回は許されるべきである。
 (原告の主張)
   ア 平成26年売買の目的物は本件各刀剣である。
 刀の写しや偽刀は存在し得るものであり,被告は,これを占有することが可能である。平成26年売買契約書における目的物の記載は,本件各刀剣の特徴と完全に一致し,被告主張刀剣の特徴とは一致しない。
 平成26年売買は代金が1億2600万円に及ぶ高額な売買であり,立会人らを含む当事者による目的物の特定は厳密に行われるものであるから,平成26年売買時に当事者がその目的物を確認しなかったというのは通常の取引観念から著しく逸脱しているし,また不自然でもある。
 また,被告代表者を含め刀剣に詳しいはずの当事者が,本件各刀剣と被告主張刀剣との間の素人でも判別がつく程度の複数の相違点に気づかないのも不自然である。
 さらに,平成26年売買契約書には,平成26年売買の目的物が偽物である場合には返品するという約定について何ら記載がないが,当該約定があったとすれば,その記載がないのは不自然である。
   イ 被告が大阪府教育委員会に対して提出した刀剣は,登録原票に記載されている刀剣の特徴が本件各刀剣と酷似しており,被告主張刀剣とは異なることが明らかであるから,本件各刀剣である。
 大阪府教育委員会による登録審査は,本件各刀剣が盗難に遭っていることを認識してされているから相当慎重に行われたと考えられるし,被告が刀剣の作成年代を特定できるレベルの高い技術を有していることからしても,年代を大幅に誤るということは考えられない。
   ウ 以上のとおり,被告の自白の撤回に関する主張は,従前の主張及び当事者の陳述等を含めた証拠と矛盾する不自然なものであり,真実に反するものである旨の被告による証明がされているとはいえず,自白の撤回は認められない。
   エ また,前記(1)(原告の主張)イのとおり,被告に本件各刀剣の占有について錯誤があったとしても,信義則に照らし,錯誤の主張をすることは許されない。
  (3) 自白の撤回の主張が時機に後れた攻撃防御方法か否か
 (原告の主張)
   ア 被告は,本件訴訟の当初から本件各刀剣を占有していることを前提に主張しており,平成28年11月10日の第4回弁論準備手続期日においてこれを明確に認めた。この経緯に照らせば,訴訟提起後2年以上を経過し,裁判所による争点整理案が作成され,証人等の尋問期日が指定されていた段階でされた被告による自白の撤回は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
   イ 前記のとおり,被告は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである本件各刀剣の占有にかかる自白の撤回の後に,原告が本件各刀剣を所有していた事実についての自白も撤回したものであって,これについても,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
 (被告の主張)
   ア 被告は,被告主張刀剣が本件各刀剣ではないことについて認識しておらず,刀剣の保管状況を裁判所に報告するために確認したところ,このことが発覚したものである。刀剣の鑑定は必ずしも容易ではないことも併せて考えれば,被告が争点整理終了後に自白の撤回の主張をしているとしても,これは故意によるものではなく,これに重大な過失があったともいえない。
 また,原告にとっても,被告による本件各刀剣の占有の有無は重大な関心事である。したがって,本件各刀剣の占有についての被告の自白の撤回は,時機に後れた攻撃防御方法の提出として却下されるべきではない。
   イ 原告が本件各刀剣を所有していたことについての被告の自白の撤回が,時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるとして,これを却下すべきという原告の主張は,争う。
  (4) 即時取得の成否
   ア 取引行為及びこれに基づく引渡しの有無
 (被告の主張)
 Cは,平成4年3月30日,D(以下「D」という。)から,本件各刀剣を2億4000万円で買い受けた(以下「平成4年売買」という。)。Cは,平成4年売買に基づき,Dから直ちに本件各刀剣の引渡しを受けた。
 (ア) Cは,40年以上前から象嵌や刀剣,小道具等の取引に従事し,主には刀剣の購入希望者と売却希望者をマッチングすることによりコミッションを受け取ることで生計を立てていた。Dは,当時,熊本県の△△に「c店」の店舗(以下「本件店舗」という。)を構えており,Cとは20年程度にわたる取引があった。
 Cは,平成4年3月頃,刀剣購入の目的で本件店舗を訪れ,本件店舗1階に展示されていた本件各刀剣のうちいずれか1振りを目にした。Cは,同日,Dから,本件店舗2階に展示してある本件各刀剣のうち他の2振りを含む刀剣を多数見せられ,その結果,突出して名刀であった本件各刀剣3振りを購入したいとDに申し出た。
 Cは,本件各刀剣の代金額について,Dから,実際の買値を上回る金額の提示を受け,数日間にわたり,3,4回,本件店舗へ足を運び,Dと金額交渉をした結果,本件各刀剣の代金額が3振りで2億4000万円に決定した。
 なお,原告は本件店舗に刀剣は展示されていなかったと主張するが,Dは,刀剣取引を行う場合に限り,取引相手の来店に合わせて刀剣を店に展示していたのであり,刀剣を常時展示していたわけではない。また,Dは,平成4年売買当時,経済的に困窮していたものではないが,仮にそうであったとしても,平成4年売買が実質的に第三者を仲介するものであったとすれば,Dの経済的事情は,平成4年売買の実現可能性に影響を及ぼすものではない。さらに,Dが平成4年売買時に勾留されていたという事実ははない。そして,未発見の文化的価値のある刀剣は,相当数存在しており,本件各刀剣の取引金額が不自然であるとはいえない。
 (イ) Cは,平成4年3月30日,刀剣商見習いをしていたE(以下「E」という。)に手伝ってもらって現金を運搬し,本件各刀剣と引換えに,本件店舗内でDに2億4000万円全額を手渡した。Cは,日ごろより現金を自宅で管理しており,2億4000万円は自宅内の金庫に保管されていたものである。Cは,平成4年売買当時,知人の業者などから,しばしば百万円単位の借入れの相談を受け,現金を貸すこともあり,多額の現金が急きょ必要になることもあったから,自宅の金庫で現金による金銭管理をしていた。
 (ウ) 刀剣業界では,ほとんどの場合,取引に係る預かり証や領収証を発行しないが,本件各刀剣の取引が高額の取引であったことや,税理士からの指摘を踏まえ,C側で予め準備した書面にDが押印する形で,譲り渡し状(乙1。以下「本件譲り渡し状」という。)が作成された。本件譲り渡し状には不十分な記載しかないが,Cとしては,相手の氏名や購入金額,購入品名が記載されていればそれで必要十分と判断し,本件譲り渡し状を受領したものであり,不十分な記載しかないこと自体が,本件譲り渡し状が事後的に作成されたものではないことを示している。
 Dの娘のFの夫であるGが,Dの遺品の中からDが生前使用していた3種類の印章を見つけたところ,そのうちの一つの印章の印影は,本件譲り渡し状の印影と合致している。
 (原告の主張)
 平成4年売買があったとの主張は否認する。
 (ア) 本件店舗は,土産物屋であり,刀剣は展示されていない。
 Dは,平成4年2月以前に本件店舗を閉鎖し退去しており,また,本件店舗は同年3月30日以前に所有者により取り壊されているから,同日に本件店舗内で平成4年売買が行われたことはあり得ない。
 Dは,平成4年売買当時,経済的に困窮しており,2億4000万円もの取引の相手であることはあり得ず,取引の仲介を依頼されることもあり得ない。また,Dは,平成4年4月9日に懲役1年6月の実刑判決を受けており,平成4年売買が行われたとされる同年3月30日には勾留されていた可能性がある。
 そして,重要文化財ではない無冠の刀剣に1振り8000万円の値段を付けることはあり得ず,無冠の刀剣であるとの認識を前提としながら,本件各刀剣が2億4000万円であったとする被告の主張は作り話である。平成元年以降,新たに重要文化財に指定された刀剣は存在せず,重要刀剣類で一般に未発掘の刀剣は少ない。
 (イ) Cが2億4000万円もの現金を自宅で保管していたとの点は否認する。自宅での現金保管は防犯上極めて危険であり,現金取引をするにしても,取引時に金融機関から現金を用意すれば十分足りる。
 しかも,Cは,福岡県の自宅に保管していた2億4000万円を熊本市の本件店舗まで運搬したとするが,そもそも熊本の金融機関で調達すればよいのであって,2億4000万円の現金を他県まで運ぶなどというのは,自宅保管に輪をかけた極めて危険で不合理な行為である。
 (ウ) 本件譲り渡し状の成立の真正を否認する。
 本件譲り渡し状は,Dの記名下に何らかの押印が存在するものの,Cの押印と考えられるものは存在せず,また,Dの住所すら記載されておらず,外形上疑問がある。本件譲り渡し状は,古い紙の裏にワープロないしパソコンで印刷したものであり,Dの自筆はなく,この形式であれば,後日容易に偽造できる。
 被告は,Dが生前使用していた印章の印影と本件譲り渡し状の印影が合致していると主張するが,印影は同一でないように見えるし,仮に同一であったとしても,第三者が押印した可能性もあるから,Dが本件譲り渡し状に押印したとは直ちにいうことができず,仮にDが本件譲り渡し状に押印したとしても,偽装架空売買の証拠としてDが押印した可能性も十分考えられ,平成4年売買が存在しないとの原告の主張と矛盾するものではない。
   イ 悪意の有無
 (原告の主張)
 仮に平成4年売買があったとしても,CはDが本件各刀剣の所有者であると信じていなかったものであり,悪意であった。
 (ア) Cは,刀剣業者であり,本件各刀剣について,原告が盗難に遭ったことは重要品触で知っているはずである。
 そして,平成3年7月には,財団法人dの全国的月刊誌の「e誌-7月号」に,本件各刀剣を含む12振りの刀剣の盗難の事実が掲載されており,文献を調査すれば,本件各刀剣が原告の所有物であることは容易に判明する。
 本件各刀剣の盗難事件は,平成3年6月17日に全国紙の新聞に記事が載っており,全国の刀剣業者に風評として伝わっていた。
 (イ) 刀剣を購入する際には,盗難品であるか否かを調査するのが当然であり,本件各刀剣はCが1振り8000万円もの価値を見出すほどの名刀であったのであるから,買主であるCは相当丹念に盗難品でないことを確認しているはずである。平成4年売買当時,売主であるDは,刀剣に関する2つの被疑事件で逮捕されて刑事裁判中であり,なおかつ経済的に困窮していた状態であったのであるから,買主はより一層,盗難品ではないかと疑って当然である。
 (ウ) Cは,銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)17条1項の届出を行っていないところ,これは犯罪であり,Cには届出をすることができない事情があったと考えられ,この事情とは本件各刀剣が盗難品であることを認識していたことに他ならない。
 また,Cは,本件各刀剣を購入する前に鑑定を実施していないが,これは,鑑定を行えば盗難品であることが明らかになってしまうからであり,鑑定手続をしていないことは,本件各刀剣が盗難品であることを認識していたことの証左である。
 そして,被告ないしCは,本件訴訟において,本件店舗の所在を隠しており,Cは,虚偽ないし矛盾する事実を陳述しているのであって,これらはCが悪意であることを推認させる。
 (被告の主張)
 CはDが本件各刀剣の所有者であると信じていたものであり,悪意ではない。
 (ア) Cは,平成4年売買当時,古物営業の許可業者ではないのであり,重要品触が許可業者以外の全刀剣愛好家に配布されるものでない以上,これについては認識していない。
 原告は,平成3年7月発行の「e誌-7月号」に,本件各刀剣の盗難の事実が掲載されているとするが,その記事は掲示板の欄の一部に小さく記載されているにすぎないものであるし,そもそも全ての刀剣業者が毎月この月刊誌を隅々まで読み込むかは甚だ疑問である。
 本件各刀剣が原告の元から盗難されたという事実が,全国的にどの程度認知されていたかは不明であり,認知した者の記憶が維持されていた期間も不明である。Cは,原告の存在を認識しておらず,また,Cが住んでいる福岡は原告の所在地である山形とは遠く,さらに,Cは刀剣業者であって原告とは業種も異なるから,両者間には物理的な距離や業種の違いがあったといえ,当時は現在のようにインターネットが普及していなかったことも考慮すれば,山形の原告の元から重要文化財の刀剣が盗まれたという出来事があったとしても,これが九州の刀剣業者の耳に当然に入ることにはならない。
 (イ) 刀剣愛好家にとってみれば,美しい刀剣を手に入れることができれば,それ自体に価値があるのであって,極端にいえば当該刀剣の作者,作成時期,売値などを知る必要はないから,文献調査を行う必要はない。
 Cにとってみれば,長年取引していた信頼できるDとの取引であったこと,一見して真正なものと思われる登録証が存在していたこと,Cの購入が転売目的ではなく,収集目的であり,そのものの金銭的価値が高いことを理由に手に入れたいと考えていたわけではなかったことに照らすと,Cが本件各刀剣について盗難品であるか否かの情報を収集していなかったとしても不自然ではない。
 (ウ) Cが本件各刀剣について銃刀法上の登録届出を行っていなかったのは,Cに届出の習慣がなくなっていたことによるものである。Cは,他の刀剣についても銃刀法上の届出をしていないし,他の全ての業者が,購入の都度,銃刀法上の登録を行っているわけではないという実情もある。
 また,刀剣売買において鑑定を行うことは必須の条件ではなく,実際の刀剣取引においては,鑑定評価のみにより価格が決まるわけではないから,刀剣取引において,価格評価の前提としての鑑定を行わないとしても,それは一般的なことである。
 原告が主張する事実は,いずれも本件各刀剣が盗難品であるとCが認識していたことを裏付けるものではない。
   ウ 過失の有無
 (原告の主張)
 仮に,平成4年売買があったといえ,かつ,Cが悪意であったとはいえないとしても,CにはDが本件各刀剣の所有者であると信じたことについて過失があった。
 前記イのとおり,Cは,重要品触等の確認を行っていない。名刀が刀剣商の店頭に陳列されていることは経験則上稀であるから,Cは,刀剣業者である以上,「国宝・重要文化財大全」や「日本刀大鑑」等の文献で所有者を確認することにより,盗難品でないことを確認すべきであったのに,これをしていない。
 また,Cは,登録証の発行元である都道府県の教育委員会に問い合わせるなどして,本件各刀剣に附属されていた偽造の登録証が真正なものであるかを確認すべきであったのに,これをしていない。
 そして,Cは,Dが平成4年当時経済的に困窮していたこと及び刀剣に関する犯罪で高等裁判所において公判中であったことを知っていた。経済的に困窮しており,かつ公判中の身であるDが,2億4000万円もの価値がある刀剣を所有していることは不自然である。それにもかかわらず,Cは,Dが本件各刀剣の正当な処分権者であることについて確認しなかったのであり,Cには過失がある。
 (被告の主張)
 CにはDが本件各刀剣の所有者であると信じたことについて過失はない。
 名刀が刀剣商の店頭に陳列されていることが稀であるという経験則自体に疑問がある上,Dは大物の刀剣業者であったから,Dが名刀を所持していたことは稀ではない。DとCのそれまでの刀剣取引実績にも鑑みると,Dが本件各刀剣の権利者であるとCが信じたとしても,何ら不思議なことではないから,Dが真の権利者であるか疑念を持って然るべきであるとはいえない。
 平成4年売買に附属していた登録証は,いずれも本物と区別がつかないほどに精巧な偽造登録証であり,偽造されている可能性が高いと推知することが容易なものではなく,Cが登録証の発行機関に問合せをしなかったとしても何ら不自然ではない。
 Cは,平成4年売買当時,Dが刀剣に関する刑事裁判を受けていたことを認識していなかったが,CとDとの間には長年にわたる刀剣取引の実績があるから,CがDの犯罪の有無まで調査しなかったとしても過失があったことにはならない。
   エ 隠避な占有の有無
 (原告の主張)
 前記イのとおり,Cは,本件各刀剣が盗難品であることを認識していたものであり,刀剣の購入者としてとるべき行動をとっていないから,Cの平成4年売買による占有取得は隠避によるものであったといえる。
 Cは,平成21年4月6日に破産手続開始決定を受け,当該破産手続は,同年7月8日に異時廃止で終了しているところ,この事実は,Cの占有が当初から隠避であったことを推認させる。
 (被告の主張)
 Cは,当初から本件各刀剣を公然と占有していたのであり,平成21年の破産は占有取得における公然性とは全く関係がない。
  (5) 短期取得時効の成否
   ア 占有開始時と10年経過時の占有の有無
 (被告の主張)
 Cは,平成4年3月30日に平成4年売買により本件各刀剣の占有を開始し,平成14年3月30日の経過時にも本件各刀剣を占有していた。平成4年売買があったことは,前記(4)「即時取得の成否」のア「取引行為及びこれに基づく引渡しの有無」で述べたとおりである。
 (原告の主張)
 Cが平成4年3月30日に本件各刀剣を占有していた事実はない。平成4年売買があったとはいえないことは,前記(4)「即時取得の成否」のア「取引行為及びこれに基づく引渡しの有無」で述べたとおりである。
   イ 無過失の有無
 (被告の主張)
 CにはDが本件各刀剣の所有者であると信じたことについて過失はない。前記(4)「即時取得の成否」のウ「過失の有無」で述べたとおりである。
 (原告の主張)
 CにはDが本件各刀剣の所有者であると信じたことについて過失があった。前記(4)「即時取得の成否」のウ「過失の有無」で述べたとおりである。
   ウ 隠避な占有の有無
 (原告の主張)
 仮に,Cの占有が認められるとしても,それは隠避な占有であった。
 (ア) 被告は,Cが勉強会を開催していたと主張するが,本件各刀剣の登録証を見れば,当該刀剣が備前国長船兼光,来国次,備前国長船住長義であることがわかり,仮に登録証を見なくても,全長,刀紋等の刀の特徴を見れば,当該刀剣が原告所有の本件各刀剣であることは一目瞭然であり,Cが本件各刀剣を占有しているという事実が世に全く知れなかったことは,被告の主張する勉強会が開かれていないことの明確な証左である。
 また,被告は,Cが福岡の日本刀技師のH(以下「H」という。)に本件各刀剣の研ぎを依頼していたと主張するが,そのような事実は認められず,仮に,研磨していたとしても,公然の占有にはならない。そして,平成4年売買後,E及びHがCの自宅で本件各刀剣を現認していたとしても,公然の占有があったことにはならない。さらに,Eが本件各刀剣を展示していたとの主張については,Eが無許可営業をしていたものであり,平成25年に破産していることなどから,否認する。
 仮に,Cが,被告の主張するような内輪の勉強会を行っていたとしても,それによって,原告がCの占有を知ることは事実上不可能であり,隠避にあたる。
 (イ) Cは,平成21年4月6日に破産手続開始決定を受け,当該破産手続は,同年7月8日に異時廃止で終了しているが,Cが本件各刀剣の占有を秘して破産を申し立てた事実は,Cが平成4年3月30日から平成14年3月30日の間に隠避な占有をしていたことを推認させる。
 (被告の主張)
 (ア) Cは,本件各刀剣について,自宅の床の間にある刀掛けに掛けて鑑賞していた。
 Cは,その所有する刀剣を紹介し,お互いに鑑識眼を養い,学習の機会を持つための勉強会を年に数回開催したり,このような勉強会に参加したりしており,その際には本件各刀剣を第三者の鑑賞に供してきた。
 勉強会は,刀剣の所有者が,知人である愛好家,刀剣を取り扱う業者,友人,美術館関係者などに声掛けをして,刀剣所有者の自宅で開催するのが一般的であるが,取引先で刀剣を紹介するという形で,事前に召集をせずに開催する場合もある。
 その頻度は,まちまちであるが,所持している刀剣を取引先で紹介する場合を除けば,何か月かに1回程度の頻度であった。
 勉強会の内容としては,新しく手に入れた刀剣等それぞれが所有する刀剣を持ち寄って,あるいは主催者の所有する刀剣を展示して,茎を隠した状態で,刀剣についてそれぞれの意見や感想を述べるというものであり,その場で正式な鑑定をしたりはしない。
 自宅での開催であれば,参加者の人数は多くとも6名程度であり,一度に提供される刀剣の数は,多くても10振り程度である。
 Cは,福岡の日本刀技師のHに本件各刀剣の研ぎを依頼している。また,平成4年売買後,E及びHは,Cの自宅で本件各刀剣を現認している。さらに,Eは,平成11年,福岡市で刀剣店を開設した際に,開設直後の展示即売会で,本件各刀剣を展示しており,平成16年に店を移転した際にも,本件各刀剣を展示している。
 原告は,目利きの刀剣愛好家や刀剣業者であれば,当該刀剣を見れば,それが原告の元から盗まれた本件各刀剣であると容易に判断できるかの如く主張するが,そのように判断するのは容易ではない。
 公然とは,ことさらに隠避しないことであるから,結果としてCの占有が原告その他の占有の存在を知るにつき利害関係を有する者に知られるところでなかったとしても,Cの占有態様は通常あり得る刀剣の占有態様であって,ことさらに隠避したとはいえない。
 (イ) Cが平成21年4月6日に破産手続開始決定を受けたのは事実であるが,これをもって隠避の占有になるとはいえない。
 Cは,その頃,特定の金銭の借入れ先に対して,事実上の担保の趣旨で,本件各刀剣を一時的に預けていた。Cとしては,本件各刀剣を一時的に第三者に預けていたとはいえ,Cの所有であったから,本来は申告の必要があったものの,破産手続外での処理を意図して,本件各刀剣の存在及び同借入先に対する債務の存在を破産裁判所に申告しなかったにすぎない。
 平成21年の破産の事実が,それより7年も前の占有について,隠避なものであったとする根拠になるとはいえない。
  (6) 長期取得時効の成否
   ア 占有開始時と20年経過時の占有の有無
 (被告の主張)
 Cは,平成4年3月30日に本件各刀剣の占有を開始し,平成24年3月30日の経過時にも本件各刀剣を占有していた。平成4年売買があったことは,前記(4)「即時取得の成否」のア「取引行為及びこれに基づく引渡しの有無」で述べたとおりである。
 (原告の主張)
 Cが平成4年3月30日に本件各刀剣を占有していた事実はない。平成4年売買があったとはいえないことは,前記(4)「即時取得の成否」のア「取引行為及びこれに基づく引渡しの有無」で述べたとおりである。
   イ 占有継続の不存在の有無
 (原告の主張)
 Cは,平成21年4月6日に破産手続開始決定を受け,当該破産手続は,同年7月8日に異時廃止で終了している。本件各刀剣をCが占有していたのであれば,異時廃止になることなどあり得ないので,Cは平成21年4月6日以前に本件各刀剣の占有を喪失していた。
 (被告の主張)
 Cが平成21年4月6日に破産手続開始決定を受けたのは事実であるが,本件各刀剣の占有は喪失していない。
 Cは,前記(5)ウのとおり,当時,本件各刀剣を預けていたのであり,刀剣の預け先を介して本件各刀剣に対し間接占有を有していたのであって,破産の事実あるいは第三者に本件各刀剣を預けたという事実をもってCが占有を喪失したとはいえない。
   ウ 隠避な占有の有無
 (原告の主張)
 (ア) Cは,平成21年4月6日に破産手続開始決定を受け,当該破産手続は,同年7月8日に異時廃止で終了しているところ,仮にCが平成21年4月6日以前に本件各刀剣の占有を喪失していないのであれば,Cは本件各刀剣を占有しながら,それを秘して福岡地方裁判所に破産申立てをし,さらに本件各刀剣を所有していることを破産管財人にも秘していたことになり,この行為が隠避になることは明らかである。
 (イ) その他の主張は,前記(5)「短期取得時効の成否」で述べたとおりである。
 (被告の主張)
 (ア) Cが平成21年4月6日に破産手続開始決定を受けたのは事実であるが,当該破産手続の際に本件各刀剣の所持を報告しなかったのは,前記(5)ウとおりであり,Cは,積極的に裁判所に対して本件各刀剣の占有を隠匿しようとしたわけではないから,隠避につとめたとまではいえない。
 (イ) その他の主張は,前記(5)「短期取得時効の成否」で述べたとおりである。
  (7) 原告の本件各刀剣の引渡請求が信義則違反又は権利の濫用となるか否か
 (被告の主張)
 仮に,原告の本件各刀剣の引渡請求が認められ得るとしても,以下のとおり,原告の本件各刀剣の引渡請求は,信義則に違反し,権利の濫用である。
   ア 被告代表者が,平成26年売買の前に,原告が営む博物館を訪れた際や,電話で何度も連絡した際に,原告代表者は,被告代表者が本件各刀剣を購入し,被告が本件各刀剣の所有者となることについて承諾していた。また,被告代表者が,原告に対し,被告が本件各刀剣を取得した際は,原告が営む博物館で展示する必要があれば,本件各刀剣を無償で貸し出す旨伝えたところ,原告代表者は,本件各刀剣を被告が購入することを期待し,支援する旨述べていた。
 しかし,被告が,原告に対し,平成26年売買によって本件各刀剣を購入したことや,本件各刀剣が盗難品ではない可能性があることなどを連絡すると,原告は態度を変化させ,被告に対し,本件各刀剣の登録証は原告にあるなどと主張するようになった。その後,原告代表者は,本件各刀剣の名義変更手続に協力せず,被告に対し,本件各刀剣の返還を求めた。
   イ 原告は,本件各刀剣を買い戻すことができるだけの資力がなく,Cとの面識もなかったため,自ら本件各刀剣を取り返すことができなかった。
   ウ 以上のような事実関係からすれば,原告は,自ら本件各刀剣を購入することができず,素性がわからないCに対して直接返還請求することも困難であったため,返還請求をすることが容易な被告を利用して,被告による本件各刀剣の取得を承諾し,その所有権を放棄するかのように振る舞った上で,その後,前言を翻して本件各刀剣の返還を求めているものであり,信義則に違反し,権利を濫用している。
 (原告の主張)
   ア 原告代表者は,被告代表者に対し,本件各刀剣の所有権を放棄するような素振りをしていない。
   イ 原告代表者には,被告を利用して本件各刀剣の回収を容易にする意図はなかったし,実際,被告に対する返還請求が容易でないことは,本件訴訟の経緯からしても明らかである。
   ウ 被告代表者は,本件各刀剣について,時効取得又は即時取得の抗弁が成立すると信じていたのであるから,原告代表者に対し,本件各刀剣の購入について同意を得る必要性がないし,同意があることが本件各刀剣を購入する動機に影響を与えるものでもなかったから,被告が主張する事実を前提としても,原告代表者の言動と被告による本件各刀剣の取得とは関連せず,原告による本件各刀剣の引渡請求が信義則に違反することになるとはいえない。
   エ 以上のとおり,原告の引渡請求が信義則に違反し,権利を濫用するという被告の主張は認められない。
  (8) 本件各刀剣の価値
 (原告の主張)
 本件各刀剣の価値は,1振りについて8000万円を下らない。
 (被告の主張)
 争う。
  (9) 不法行為の成否
   ア 加害行為の有無
 (原告の主張)
 前記(2)における原告の主張のとおり,被告は本件各刀剣を占有し,これを認識しているにもかかわらず,平成29年9月22日の第10回弁論準備手続期日において,突如自白を撤回する旨主張し,被告主張刀剣に関する書証を提出した。このような被告の自白の撤回行為は,裁判所を欺罔し,被告勝訴判決を得ることによって本件各刀剣の返還を拒むという訴訟詐欺的不法行為である。
 (被告の主張)
 否認し,争う。
   イ 損害の発生の有無及び因果関係
 (原告の主張)
 所有権に基づく返還請求と不法行為に基づく損害賠償請求では要件事実が全く異なり,訴訟代理人は,不法行為を立証するために別途の主張立証活動をする必要があるから,原告には弁護士費用相当額の2400万円の損害が発生しており,これと被告の加害行為との間には因果関係もある。
 (被告の主張)
 原告が主張する不法行為の事実関係及びそのための立証活動は,所有権に基づく返還請求における自白の撤回に関するものとほとんど重なるものであり,独立した主張立証活動の必要性がないから,損害は発生していない。また,仮に損害が発生するとしても,所有権に基づく返還請求に関する主張立証活動とほとんど重なるから,2400万円の損害が発生するとは考え難い。

第3 当裁判所の判断

1 認定事実
 前記前提事実,証拠(甲2,12の2,14,19,乙2ないし4,6ないし8,46ないし48,61,証人C,証人I,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
  (1) 被告代表者は,株式会社bの代表取締役であるJ(以下「J」という。)から,本件各刀剣が売りに出されているとの情報を入手したので,原告の運営するa博物館から盗まれた本件各刀剣を買い戻すことを目的として,平成26年売買の取引の準備を開始した(証人I,原告代表者及び被告代表者)。
  (2) 平成26年売買には,被告の担当者として被告代表者の指示により被告の取締役であるI(以下「I」という。)が単独で臨み,C,Jが売主側として加わり,K(以下「K」という。)が立ち会った(乙6,乙8,証人I及び証人C)。
 被告代表者は,それまで刀剣に係る契約締結について,Iに単独で任せたことはなかったが,平成26年売買ではIを単独で取引に臨ませ,その場で支払ができるように本件各刀剣の価格として提示された1億2000万円を持参させていた(乙6,乙7,証人I,証人C,被告代表者及び弁論の全趣旨)。また,Iは,平成26年売買の目的物と本件各刀剣との同一性を確認するための資料として,原告代表者からあらかじめ送付されていた原告作成の本件各刀剣の「重要品触」(甲12の2)と毎日新聞社が平成11年に発行した「国宝・重要文化財大全」(甲14)のコピーだけしか持参していなかった(証人I)。
 Jは,被告が行う刀剣の取引について,これまで何度も仲介したことがあり,Kも平成26年売買当時に被告代表者と面識があった(証人I,証人C及び被告代表者)。
  (3) 被告代表者は,取引に臨んでいたIから,JとKが平成26年売買の目的物である刀剣は名刀であると評価しており,昭和26年に発行された旨の記載がある銃砲刀剣類登録証が付属している旨の報告を受け,当該刀剣を購入することにした(乙61,被告代表者)。
  (4) 被告代表者は,Iが持ち帰ってきた平成26年売買の目的である刀剣を当日のうちに一度確認した後,平成29年7月頃まで再確認することなく,保管していた。
 被告代表者は,被告訴訟代理人から裁判所に提出する目的で刀剣の保管状況を写真に撮影するなどして報告するように依頼され,平成29年6月中は多忙であったため,同年7月上旬に蔵出しをしたところ,被告が平成26年売買の目的物として保管している刀剣の銘が不自然なことに気付いた(乙46,被告代表者)。
 被告代表者が,上記3振りの刀剣の錆を除去するなどの手入れをし,刀剣について実物大の写真を添えて解説している「日本刀大観」で紹介されている本件各刀剣と比較した結果,上記の各刀剣は本件各刀剣ではなく,被告主張刀剣であることが判明した(甲2,19,乙46ないし48,被告代表者)。
 なお,上記の日本刀大観においては,本件各刀剣はa博物館が所蔵しているものとして紹介されている(甲2,19)。
 2 争点(1)(原告が本件各刀剣を所有していたことについての被告の自白の撤回の可否)について
  (1) 被告は,前提事実(6)のとおり,本件訴訟当初より原告が本件各刀剣を所有していたことを認め,自白が成立していたものの,これを撤回して,当該事実を否認するに至り,原告が運営するa博物館から盗まれたのは被告主張刀剣であるとして,原告は本件各刀剣を所有していなかったと主張する。
  (2) しかしながら,本件全証拠によっても,原告が運営するa博物館から盗まれた刀剣が被告主張刀剣であると認めることはできない。仮に,被告が主張するとおり,平成4年売買があり,その目的物が被告主張刀剣であったとしても,原告が運営するa博物館から刀剣が盗まれた時から平成4年売買までには9か月以上が経過しているし,証拠(甲4)によれば,平成3年7月10日に財団法人(当時)dが発行した「e誌 第四一四号七月号」において,上記の盗難に関する記事が掲載されていることが認められ,上記の盗難の事実については,刀剣の愛好家らなどが一般に知り得る状態になっていたといえるから,Dが被告主張刀剣を本件各刀剣と偽って売却した可能性も否定できず,原告が運営するa博物館から盗まれた刀剣が被告主張刀剣であったと認めるには足りない。かえって,前記認定事実によれば,被告が本件各刀剣と被告主張刀剣の同一性を確認する資料とした日本刀大観においては,本件各刀剣をa博物館が所蔵していると紹介されているのであり,本件各刀剣を原告が所有していたことに疑問があるとはいい難い。
 そして,他に原告が本件各刀剣を所有していなかったと認めるに足りる証拠はない。
  (3) したがって,原告が本件各刀剣を所有していなかったことが証明されているとはいえず,原告が本件各刀剣を所有していたという被告の自白の内容が真実に合致しないものであるということはできない。そうすると,この点に関する被告の自白の撤回は認められないから,本件では原告が本件各刀剣を所有していたことが前提とされることとなる。
 3 争点(2)(被告が本件各刀剣を占有していることについての被告の自白の撤回の可否)について
  (1) 被告は,前提事実(5)のとおり,本件各刀剣を占有していることについて自白していたものの,その後,これを撤回して,当該事実を否認するに至り,平成26年売買で買い受けた目的物が本件各刀剣であると認識していたため,それを被告が占有しているとして本件各刀剣の占有を認めていたものの,被告が平成26年売買で買い受けた目的物は本件各刀剣ではなく,被告主張刀剣であったと主張する。
  (2) 前記前提事実及び前記認定事実によれば,被告は,平成26年売買の目的物である3振りの刀剣がそれぞれ本件各刀剣と同じ銘であることなどから,当該各刀剣が本件各刀剣であると認識してこれを保管していたものの,平成29年7月頃,当該各刀剣の保管状況を当裁判所に報告するために,これを確認したところ,当該各刀剣は被告主張刀剣であり,本件各刀剣ではなかったことが判明したものと認められる。
  (3) これに対し,原告は,次のとおり,平成26年売買で取引されたのは本件各刀剣であり,本件各刀剣を被告が占有していると主張する。
   ア 原告は,平成26年売買契約書に記載された刀剣の特徴が本件各刀剣と一致していると主張する。
 しかしながら,被告代表者の陳述(乙61)によれば,平成26年売買契約書における売買の目的物である刀剣の特徴の記載については,Jが日本刀大観等を見ながら書いたものと認められる。
 そうすると,平成26年売買契約書に記載された売買の目的物である刀剣の特徴が,本件各刀剣の特徴と一致するのは当然であり,このことをもって,平成26年売買の目的物が本件各刀剣であったと認めることはできない。
   イ 原告は,平成26年売買の代金が高額であるにもかかわらず,被告代表者がその目的物を詳細かつ厳密に確認していなかったというのは不自然であると主張する。
 しかしながら,証拠(乙61,62)によれば,被告の平成29年7月期の決算における売上は1000億円余りであり,経常利益は33億円余りであったと認められ,このような被告の経営規模からすると,平成26年売買は被告にとっては必ずしも高額な取引ではなかったということも可能であり,そうだとすれば目的物を詳細かつ厳密に確認しなかったとしても直ちに不自然であるとはいえない。
 また,証拠(乙46,61,被告代表者)によれば,被告代表者は,その当時も多忙であって,かつ,平成26年売買以外の取引でも多数の刀剣を購入していたと認められ,その結果として各取引に割くことができる時間が乏しくなっており,また,前記認定事実によれば,被告代表者は,平成26年売買の際に,刀剣の取引において実績のあるJやKの名刀であるとの評価を確認しており,これに信頼をおいたため目的物についての確認がおろそかになってしまったということもあり得るところであるから,この点からも平成26年売買の目的物を詳細かつ厳密に確認しなかったことが不自然であるとはいえない。
 そして,証拠(乙61,被告代表者)によれば,被告代表者は,本件訴訟が提起された後も平成29年6月頃まで,平成26年売買の目的物であった各刀剣について,ほとんど確認していなかったと認められるところ,これは上記の各刀剣が問題とされている本件訴訟の当事者の対応としては極めて不適切ではあるものの,被告代表者の多忙さなどの上記説示の各事情に照らすと,これをもって不自然であるとまではいえない。
   ウ 原告は,被告が大阪府教育庁に提出した刀剣と被告主張刀剣とは一致せず,被告は大阪府教育庁に提出した本件各刀剣を所持していると主張する。
 証拠(甲14,57,乙46)によれば,被告代表者は被告主張刀剣が作成されたのは江戸時代後期から大正にかけてであると思われる旨陳述しているのに対し,平成26年11月頃に被告が大阪府教育庁に提示した刀剣の特徴を記載した同庁保有の登録原票の写しには,上記刀剣の作成された時代について,「備前國長船兼光」という銘文があるものは室町時代と,「来國次」という銘文があるものは鎌倉時代と,「備前國長船住長義」という銘文があるものは南北朝時代と記載されていること,他方,これらの時代の記載は文化庁が監修する「国宝・重要文化財大全」に記載された上記と同じ銘文がある刀剣の作成時代と一致していることが認められる。そうすると,上記登録原票に記載した者が上記図書と銘文を参考にして当該時代を記載しただけであった可能性を否定することができない。
 また,原告は,上記登録原票に記載された刀剣の茎部分のなぞり書きは,被告主張刀剣の茎部分と一致しない旨主張し,同旨の記載された検査回答書(甲61)を提出するが,なぞり書きに用いた筆記具の角度をどのようにするかによって,なぞり書きの精度は大きく異なると考えられるから,上記登録原票に記載されたなぞり書きが被告主張刀剣と一致しないことをもって,被告が大阪府教育庁に提示した刀剣が被告主張刀剣ではなかったということはできない。なお,上記検査回答書(甲61)には,本件各刀剣の茎部分の輪郭線も記載されているところ,この輪郭線も上記登録原票に記載されたなぞり書きと完全に一致しているものではない。
 以上に加えて,証拠(乙51,52)によれば,上記登録原票が作成されるのは飽くまでも刀剣が存在していることを登録するためであって,人の判断に頼って作成されるものであることが認められるから,その記載内容に不正確な点があることは十分にあり得ることである。
 そうすると,上記登録原票の記載と被告主張刀剣との間に誤差があったとしても,被告が大阪府教育庁に提示した刀剣が被告主張刀剣ではなかったということはできない。
   エ 原告は,被告が本件訴訟により本件各刀剣を失うことを恐れて被告主張刀剣を偽造あるいは別途購入した可能性があると主張する。
 しかしながら,前提事実(1)イのとおり,被告代表者が刀剣収集家として活動していることや,証拠(乙61)によれば,被告及びそのグループは数千振りの刀剣を所有していて,その中には国宝に指定されたものも2振りあること,被告がこれまでに刀剣に支出した費用の総額は100億円をはるかに超えていると認められることに照らして,被告が,本件各刀剣を返却するのを避けるために,刀剣収集家としての地位に傷が付くリスクを犯してまで,本件各刀剣の偽物として被告主張刀剣を偽造し,あるいは偽造された刀剣を購入するような行動を採るとは考え難い。
  (4) 以上によれば,平成26年売買の目的物は被告主張刀剣であったと認められ,被告は本件各刀剣を占有していないと認められるから,本件刀剣の占有についての被告の自白は,真実に反するものであり,かつ錯誤に基づくものということができ,その自白の撤回は許されることとなる。
 そして,これによると被告が本件各刀剣を占有していることを前提とする本件各刀剣の引渡請求及び代償金の支払請求は,いずれも理由がないことになる。
 4 争点(3)(自白の撤回の主張が時機に後れた攻撃防御方法か否か)について
 被告が,平成29年9月22日の第10回弁論準備手続期日において,被告が占有している3振りの刀剣は本件各刀剣ではないとして,本件各刀剣の占有を否認するに至ったことは前提事実(5)のとおりであり,また,前記認定事実(4)のとおり,被告代表者が刀剣の保管状況を裁判所に報告するために同年7月上旬に平成26年売買の目的物である各刀剣を確認した結果,当該各刀剣が本件各刀剣ではなく被告主張刀剣であったことが判明し,被告が本件各刀剣を占有していることについての自白を撤回するに至ったものである。そして,既に認定し説示したところによれば,被告代表者は,刀剣の取引において実績のあるJから,それぞれ本件各刀剣と同じ銘(備前國長船兼光,備前國長船住長義,来國次)を有する刀剣がある旨の情報を得て,本件各刀剣と似ている被告主張刀剣についてのJやKの名刀であるとの評価を信頼し,多忙でもあったため,これを詳細かつ厳密に確認することなく,本件各刀剣を買い受けたものとの誤認に基づいて,上記の自白をしたものと窺われ,自白をした経緯については軽率であったとの謗りを免れない面があるものの,必ずしも了解し得ないわけではなく,自白を撤回した上記の経緯については特に責められるべき事情があるとはいえない。
 また,被告が本件各刀剣を占有しているかどうかは,原告の被告に対する本件各刀剣の引渡請求を根拠付ける事実の一つであると共に,仮に,原告の請求を認容する旨の判決が言い渡された場合には,その執行の成否にも直結する事実であるから,本件の帰すうに極めて重大な影響を持つ事実として,真実発見の要請が大きいものといえる。
 そうすると,被告がその保管する刀剣が本件各刀剣ではないことに気付いた上記の経緯及び真実発見の要請の程度に照らし,本件各刀剣の占有を否認する旨の被告の主張の追加については,いまだ時機に後れて提出されたとまでいうことはできないとするのが相当である。したがって,これに関する原告の申立てを却下することとする。
 5 争点(9)(不法行為の成否)について
 原告の主張する不法行為が成立するためには被告が本件各刀剣を占有していることが前提になるところ,被告が本件各刀剣を占有していないことは前記3で説示したとおりであるから,上記不法行為が成立すると認めることはできない。

第4 結論

 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。