わたくしと得意分野

弁護士 中野 仁

 

弁護士をやっていると,よく聞かれるのが,「専門は何ですか?」という質問だ。

 

これは,多くの場合,過去の経験が豊富な分野,詳しい分野など,業務の分野を問う趣旨であり,依頼者の心理からしたら,その分野に強い弁護士に頼みたいと思うであろうことは当然といえる。

 

わたくしの所属するオレンジ事務所であれば,通常の法律事務所が取り扱う分野の他,知的財産権,行政事件,廃棄物処理関連なども対応するというのが,ひとつの特徴であるため,わたくしは,上の質問に対しては,「専門というわけではなく,個人のことから企業のことまで色々と雑多なこともやっておりますが,特徴的なものとしては,知的財産権,行政事件,廃棄物処理関連なども対応することですかね。」などと,回答している。

 

(なお,日弁連の業務広告に関する運用指針によれば,「専門分野」という表示は控えることが望ましいとされている。また,「得意分野」はOKだが,豊富な経験を有しない分野については,「関心のある分野」などと表示することが正確かつ誠実とされている)

 

質問者,依頼者のニーズに合わせ,そのような回答をしているのだが,わたくしの秘かな野望その2として,いつかやってみたいことは,上の質問に対し,

 

「わたくしが,得意なのは,ズバリ,証拠です。」

 

と回答することである。

 

もちろん,質問者は目がテンである。

 

いやいや,そういうことを聞いてるんじゃなくってさ,もしもーし,聞こえてますかー,という空気になることは間違いない。

 

質問に対し,あえて質問の趣旨を外し,ちょっと深そうな匂いのする回答をする,そんなスタンスが格好いい,とわたくしが勘違いしていることも事実であるが,たしかに,裁判は証拠で決まるのだ。

もっと言うと,裁判を見据えた交渉段階でも,証拠は重要な役割を果たす。

 

勝つためにどのような証拠が必要かを考え,手持ちの証拠の意味を考え,裁判において相手方の保有するであろう証拠を提出させ,相手方の提出した証拠を精査し,分析し,弾劾する。

弁護士業務と証拠は切っても切れない関係にあるのだ。

 

その意味で,わたくしは,証拠に強い弁護士というのは,特定の分野のみに強い(特定の分野について経験豊富な)弁護士よりも,よっぽど優れた弁護士ではないかと思っている。

 

 

わたくしは,弁護士になりたてのころ,幸運にも,その後最高裁判事になられた敏腕弁護士(仮に,X弁護士とする)と一緒に仕事をさせて頂く機会があった。

 

その際に言われたのが,

 

「中野くん,いいか,証拠は収集するものじゃない。採集する,すなわち,相手の懐に入ってつかみ取るものだ。」

「そのために,民事訴訟法に証拠収集・採集手段が規定されているのだ。」

 

 

証拠採集

 

 

 

これを聞いたわたくしは,「これぞ弁護士だ!格好いい!」と感銘を受け,それからというもの,同期や後輩をつかまえては,

 

「いいか,証拠は収集するものじゃない。採集する,すなわち,相手の懐に入ってつかみ取るものだ。」

と,恐れ多くも一言一句漏らさずパクらせて頂き,説教しては悦に入っていた。

 

先日,X弁護士とお会いする機会があり,上記の「証拠採集」のことを思い出した。

 

そこで,ふと,「そういれば,あのときは,先生の格好いい雰囲気にヤラれて,深く考えていなかったけど,収集と採集の違いって何だろう」と思い,両者の違いを認識すべく,GOOGLE先生で検索させて頂いたところ,そこには衝撃の結末が待っていた。

 

収集=集めること,よせ集めること

採集=資料などにするため,取って集めること

 

まさかの・・・。

ほぼ同じ意味である。

 

わたくしが大好きであったこのフレーズは,上記のとおり,まさかの結末を迎えた。

 

しかし,X弁護士のようなスペシャルな弁護士が言うと,重みが違うのだ。

 

わたくしも,そのような弁護士に一歩でも近づきたい。

 

10年後のわたくしは,

 

「わたくしが,得意なのは,ズバリ,証拠です。」

 

と胸を張って言えているのだろうか。

 

10年後,自分に聞いてみたい。

 

 

結論:証拠は,収集するものであり,採集するものでもある。

 

(注:もちろん,X弁護士のお考えは,ただ能動的に動かなくても集まってくる証拠で満足するのではなく,民事訴訟法上の制度等を利用し,積極的に証拠を集める活動をすることが重要であるとのことであり,収集と採集には,明確な違いはあると思います。)

 

合掌。

 

弁護士 中野 仁

 

さて,

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当事務所には,特許庁で特許審査業務を担当していた弁護士や埼玉県庁職員で廃棄物・残土対策業務を担当していた弁護士,金融機関に勤務し銀行実務に精通した弁護士,プログラミング等理系畑出身の弁護士など,それぞれ異なったバックグラウンドを持った弁護士がおり(詳細は当事務所HP弁護士紹介をご覧下さい),各弁護士が協力しながら,よりよいリーガルサービスを提供できるよう日々努力を重ねております。

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