わたくしと○○ベース

 

弁護士 中野 仁

 

先日,わたくしが,あるシンポジウムに出席していた際の出来事である。

 

パネリストのお偉い先生が,「お願いベースですが,,,」というお話をし始めた。

 

その瞬間,わたくしの脳裏に衝撃が走った。勤務弁護士時代に起こった,ある出来事が鮮明にフラッシュバックしたためである。

 

たしか,あれは勤務弁護士2年目のことだったと思う。

 

わたくしの所属事務所が顧問をさせて頂いていた上場企業の会長がお亡くなりになられた。

 

会長はご高齢であり,実務は社長,専務が執り行っていたため,わたくし自身も2~3度しかお会いする機会はなかったが,ボス弁とわたくしが葬儀に参列させて頂く雰囲気となった。

 

事件は,葬儀の時間や場所について,専務とメールでやりとりをしている際に起こった。

 

専務からメールを頂いたのだが,その内容は,

 

「正直ベース,先生方にお忙しい中時間を作って頂くのも申し訳ございませんし,当社としても先生たちの送迎(*注:駅からかなり離れている場所での葬儀だった)をどうするかなどの問題も出てきてしまうので,今回は無理にきて頂かなくても結構です(本音ベースです)」

 

というものであった。

 

当時,まだ若く,社会経験も乏しかった私は,「ベース!?って何だ!?」と戸惑い,右往左往することとなった。

 

何しろ,正直「ベース」,本音「ベース」である。あくまで「ベース」は「ベース」であって,「本音」というわけではない。

 

「ベース」ということは,あくまで「基本的にはそうだけど・・・」という意味であって,その裏に隠された本音があるのかもしれない。

 

「本音ベース」,もはや,何が本音で,何が建前かも分からない,恐ろしい言葉だ。

 

ネットで「正直ベース」「本音ベース」を検索するしか打開策を思いつかず,泡を吹いていたわたくしを横目に,ボスが専務と連絡を取り合い,結局,葬儀に参列させて頂くこととなったが,一連の出来事により,わたくしは,もはや世の中の何が本音で,何が建前かも分からなくなり,人間不信となった。

 

・・・そんなわたくしに,翌日,追い打ちをかける出来事が起こった。まさかの連日の出来事である。

 

友人の結婚式の二次会の幹事の集まりに向けて,タイムスケジュール表などを作成していたわたくしに,同じく幹事を務めていた後輩が一言。

 

「申し訳ないんですけど,そのタイムスケジュール表,紙ベースで打ち出しておいてもらってもいいですか?」

 

紙ベース(横)1

 

いやいや。

そこに,「ベース」は要らないだろ,絶対。

紙は,紙だろ。

その使い方,絶対違うし。

 

と思ったが,前日の「正直ベース事件」によりダメージを受けていたわたくしは,もはや反論する気力もなく,

 

「わかった,取り急ぎ紙ベースで打ち出しておくよ。」

 

と回答してしまった。

 

もちろん,内心では,

 

いやいや。

「取り急ぎ」の使い方,絶対違うし。

 

と思ってはいたが。

 

 

後日,社会人の友人から聞いたところによると,会社では,結構「紙ベース」という言葉は使うとのことであった。

 

また,インターネットなどで検索してみると,「紙ベース」はけっこう検索に引っかかるし,「英訳するとpapper basedとなる」など,英訳まででてくる始末だ。

 

しかし,わたくしの中で,

 

いやいや。

そこに,「ベース」は要らないだろ,絶対。

 

というわだかまりは消えなかった。

 

 

・・・その後,時の流れがわたくしの傷を癒やしてくれ,わたくしは,「○○ベース」のことなど,とうに忘れ,幸せな日々を過ごしていた。

 

そんな幸せなわたくしを襲った,冒頭の「お願いベース事件」。

 

もちろん,先生も無意識でおっしゃったのだろうし,「お願い」よりもさらにトーンの弱い言葉というニュアンスでおっしゃったのだろう(インターネットでも,法律の業界で使う言葉であるという記事も出てくる。なお,わたくしは使用したことはない。)が,わたしくの悪夢を呼び起こさせるには十分であった。

 

 

わたくしとしては,「○○ベース」撲滅委員会委員長の座は,とうに引退したつもりだった。

 

しかし,このようなことが蔓延する世の中を,黙ってみているわけにはいかない。

 

世の中を憂いていた幕末の志士もこんな心境だったのだろうか。

 

自分を坂本龍馬に重ね合わせた,そんな初夏の日。

 

 

結論:紙は,紙だよ!「ベース」は要らないよ!

 

合掌。

 

弁護士 中野 仁

 

 

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