わたくしと全部味噌

弁護士 中野 仁

 

つい先日,中学時代の部活の仲間数人で集まって話していたときのことである。

 

友人Kが,

 

 「大人になっちゃうとさー,何か奇跡的なハプニングみたいなものがないよね。腹を抱えて笑えるハプニング笑いみたいなものがさ。」

 

と言い出した。

 

たしかに,そうなのである。

 

大人になると皆,きちんとするので,奇跡的なハプニングが生じにくい。

 

同窓会など,昔の仲間と会うときに,どうしても昔起こった事件の笑い話になるのも,単に現在同じ時間を共有していないために共通の話題がないというだけでなく,奇跡的なハプニングの笑い話は,どうしようもなくくだらないことをしていた学生時代に起こっている確率が高いためであり,その話が楽しいからだと思う。

 

そんなことを考えながら,わたくしは,高校時代に起こったある奇跡的な出来事に想いをはせていた。

 

・・・あれは高校の修学旅行のときであったと思う。

 

修学旅行の行き先すらもはや忘れてしまっているのだが,夜に起こったその出来事のことだけは鮮烈に覚えている。

 

夜は,部屋で遊びに興じ,最終的に,何故か怖い話をする流れになった。

 

プレゼンテーターであった友人Nが,とっておきの怖い話をするという。それも,聞いた人には呪いがかかり,その怖い話の謎が30分以内に解けなければ,その人の身に災難が降りかかるという。

 

これは,友人Nの部活に古くから伝わる話であり,実際に友人Nの1つ学年が上の先輩は,合宿でこの話を聞かされ,2人が謎が解けず,一人は財布を落とし,1人は部活中に足をくじいてしまったとのことであった。

 

友人Nの前説のうまさもあり,部屋の中にピリッとした空気,緊張が走った。わたくしも緊張でドキドキしていた。

そこは高校生である。簡単に話を信じてしまうのだ。

 

話の詳細は正確に覚えているわけではないが,簡単にいうと,昔,あるお寺の住職が,ときの権力から弾圧を受け,最終的に衰弱死することになったときに,死に際に放った一言が呪いの言葉だという(そこに至るまで,相当詳細なエピソードがあったのだが,忘れました)。

 

そして,その言葉は,5文字で,

 

 「ぜ・○・○・○・そ」

 

だそうだ。

 

ここまで話し終えた友人Nは,

 

「もう聞いちゃったから,この5文字の言葉を解かないと,大変なことになるよ」

 

と,わたくしたちをあおり,わたくしたちの闘いは始まった。

 

わたくしは,人をおちょくることが好きなNの性格やエピソードが支離滅裂であったことなどを総合考慮し,1つの結論,正解にたどり着いた。

 

そう。もうお分かりだと思うが,正解は,

 

 「ぜ・ん・ぶ・う・そ」

 

である。友人Nのこの話自体が真っ赤な嘘だったのだ。

 

わたくしは,5分ほどで正解にたどり着き,その後も続々と正解者がでて,5人中4人が10分以内に正解にたどり着いた。

 

問題は,ただ一人取り残された友人Xである。

 

友人Xは純朴な気の優しい男で,その反面,気が弱いというか,恐がりなところがあった。そんな男が,30分以内に呪いの言葉を正解しないと災難がふりかかるという嘘に振り回される。

バラエティー的には,これ以上ない展開である。

 

予想どおり,友人Xの顔は青ざめ,慌てふためいていた。

 

たしかに,今,文字にしてみるとすごく分かりやすいのだが,深夜,暗い部屋で口頭で1度聞いただけだと,パッと出てこないとしても,友人Xを責めることはできないのかもしれない。

 

 

友人Nは,さらに,そういえば,と,ありもしない,災難にあった先輩の話をし始めた。

 

わたくしたちも,卑劣にも友人Nサイドにつき,「やばい,あと10分だ!」,「大丈夫,最終的に何か災難が降りかかりそうになったら,俺らが守るよ!」などと言って,友人Xの不安をあおっていた。

 

残り5分を切ったところで,友人Xは,捨て身の作戦に出た。

 

 そう,「あいうえお作戦」である。

 

「ぜ・あ・・・・」と,あいうえお順に言葉を埋め込んでいくという,非効率的この上ない作戦だ。

 

ましてや,正解は「ぜ・ん・・・・」という,「あ」から一番離れた文字だ。

 

残り2分を切ったところで,その作戦の絶望感に気づいたのだろう。

 

友人Xは,「ぜ」や「そ」を単語にするためにそれぞれに文字をくっつける,という作戦に切り替え,「そ・・・,そ・・・,しそ」など,正解に近づき始めた。

 

その発想や良し。しかし,いかんせん時間との闘いである。

 

 

これは,友人Xは(嘘の)呪われ確定だと誰も思った残り30秒,友人Xは,突如として,

 

 「分かった!分かったぞ!絶対これ合ってる!」

 

と叫んだ。

 

時間的には,ラストチャンスだ。

 

さすがに正解にはたどり着いたのだろう。ネタ的には最後まで分からない方が面白いのだが,友人Xの性格を考えると,ここで正解しておいた方が収まりがよい。

 

 

・・・ところが,次の瞬間,友人Xは,衝撃の一言を放った。

 

 「答えは・・・,ぜ・ん・ぶ・み・そ!」

 

味噌 

 

・・・冗談でもネタでもない。もちろん,正解を分かった上でのボケでもない。

 

ガチンコである。

 

彼は,ひたすら迷走し,作戦をミスり,頭を絞りに絞った挙げ句,ガチで,「全部味噌」が正解だとの考えにたどり着いたのだ。

 

 全部味噌って。

 なんでやねん。

 

何故それが呪いの言葉になるのか,その過程での住職が弾圧を受けた話だとかは友人Xの中ではどこかにいってしまっていた。

 

今,目の前にある恐怖から解放されること,それのみにとらわれすぎていたのだろう。

もしかして,住職=坊主とマルコメ味噌を結びつけたのだろうか。

あるいは,当時公開されていたホラー映画「リング」を見過ぎていたのかもしれない。

 

それを聞いた瞬間,わたくしの頭を,この30分間の出来事が走馬燈のようにかけめぐった。

 

迷走した友人X,

作戦をミスった友人X,

設定が頭から飛んでしまっていた友人X,

最終的に,かなり惜しいところまで肉薄した友人X,

95点と100点が天と地ほどの差があることを知らしめてくれた友人X,

「全部」と「味噌」という,味噌汁や味噌ラーメン以外の話題では絶対につながりようのない2つの言葉を,呪いの言葉という形でマリアージュさせてしまった友人X。

 

今思うと本当に失礼な話であるが,当時の私は,人目もはばからず爆笑してしまった。

 

これぞ,ハプニング笑い。

 

わたくしは,この出来事から20年経った今でも,このことを思い出すと,クスリと笑ってしまう。

 

そう,ハプニング笑いこそ,最強の笑いなのだ。

 

 

結論: ハプニングに優る奇跡なし。全部味噌に優る味噌なし。

 

 

合掌。

 

弁護士 中野 仁

 

 

さて,

 

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