オレンジの事業体制とサクラ2

弁護士 辻本恵太

1 ブログで反響が大きかったこと

昨年は,なるべく多くのブログを書きたいと思って取り組んだため,多少,ブログの本数が増えた。
裁判例の解説は,普段,業務で書き慣れているものであり,それほど時間がかからないのだが,それ以外のふわっとしたブログは慣れないもので,書くのに時間がかかる。

ただ,顔が見えない,性格や考え方が見えないと,会社の命運をかけるような,いざというときに依頼できないと思うので,なるべく私の性格や考え方がわかるようなブログを書こうと思う。

さて,昨年書いたブログの中では,オレンジでの仕事の環境に関してのブログがアクセス数が多かったようである。たとえば,「誘惑に負けがち」という昨年の5月に書いたブログがある。
今思えば,内容とマッチしたタイトルをつけた方が良かったと思うのだが,このブログは,資料管理だとか,RWの取り組みだとか,データベースだとか,オレンジ法律事務所内でのデジタルな環境について、簡単にふれたものである。
良くホームページを持っている事務所が最近増えたなどと話題になっているくらいなので,弁護士業界では,デジタル化というのか,そういうものは思っている以上に進んでいないと思われる。

話はそれるが,ホームページがないからと言って,その法律事務所の仕事の質に問題があるというわけでは決してない。紹介を介さず連絡が来た方の相談を受けないという法律事務所があるが,そのような法律事務所の弁護士は,かえって,仕事の質が高いことが多い。ちなみに,私が勤務弁護士のときに在籍していたはる総合法律事務所の飯田秀郷先生は,特許訴訟の分野ではかなり著名であるが,紹介案件以外受けておらず,ホームページは,主として求人用として存在していたと思われる。

2 オレンジの事業体制(収入共同)

オレンジの経営と最も密接に結びついているものは,Microsoft Accessで組んでいるデータベースだと考えている。いくつかのデータベースが入り組んでいるので,今回,詳細までは説明できないが,概要だけ書きたいと思う。

オレンジ法律事務所は,ブログでも度々登場する中野弁護士と2012年に開所した当初から,経費共同ではなく,収入共同の事務所であった。つまりオレンジは,1つの財布を観念している。
株式会社などの組織を想像すれば,普通のことのように思えるが,弁護士業界では,かなり稀な事業形態である。複数弁護士がいる法律事務所の多くは,収入に関しては,パートナーが1人1人営業をして売上を得て,支出については,パートナーが全員で経費を分担しあうという,経費共同というのが実情である。

収入共同の事務所の良い面としては,組織的に事件にあたることができるので,難しい事件や緊急時の柔軟な対応が可能になったり,ノウハウのマネージメントができたり,1人ではなく議論でぶつかるのも含めて人と一緒に仕事をすることに楽しみを覚えるところがある。能力,機会,熱意を他人から補完されうるというのも大きな利点だろう。世の中にある会社組織を想像すればメリットは容易に想像できる。経営その他の資源の合理化が最大のメリットである。そういえば,オレンジ法律事務所には,ここ3年連続,東京大学やそのロースクール出身の司法修習生が来ているが,オレンジの「議論の文化」は,みんな,とても気に入っているようであり,弁護士になっても事務所に遊びにくる人もいるくらいである。私は,何より,人と一緒に議論をしたりするのが大好きで,オレンジ内でもそうであるし,滋賀に行った中野とも,未だに,しょっちゅう議論をしている。そうだ、ミカン法律事務所にリンクを張っておこう。

他方,収入共同の悪い面としては,営業においても事件の貢献においても,他の弁護士に任せっぱなしの弁護士が生まれたり,それが原因で不和が生じることもありうる可能性があることである。

利益共同事務所を成功裏に運営するためには,不和を生じないようにするための事務所の「文化の醸成」,文化に合う人の「採用」,その後の「アラインメント」が重要である。他人をフォローすることができないのもそうであるが,何よりも,議論できない人はオレンジに合わないと思われる。文化とシステムの両方を整える必要があるのである。
そして,営業においても事件においても貢献を分析して正しく評価できるような,少なくとも弁護士が納得するような基準と運用が不可欠である。ここにデータベースが必要とされる理由があるのである。

数字は,かなり正確に出るが,そのために貢献が強制されるわけではない。
報酬と貢献が見合うこと,客観的な貢献がわかり納得することが大切なのであり,入所2,3年は自由に研鑽を積んだり,オレンジの文化に親しむことが望ましい。
それゆえ,事務スタッフも,概ね,RWが自由にできるし,突然,その日にRWをするということも多い。
根岸先生も,オレンジに入所して1年くらいだが,毎週RWをし,急にRWにする日も少なくない。丘先生も,小さなお子さんがいるため,出勤する日もコアタイムは11時から16時30分くらいまでである。

多様な働き方を可能にするのも,貢献を可視化できることが不可欠なのである。
私としては,多様な働き方の中でのみ輝くとがった人材が入所して,活躍できるよう,やはり,文化の醸成,文化に合った採用,マインドセットのアラインメントが大事だと思う。

3 サクラ2

オレンジ法律事務所では,私がMicrosoft Accessで組んだ「サクラ2」と呼んでいるデータベースを使っており,ADO(ActiveX Data Objects)という様々なデータソースへのアクセスインタフェースを提供するデータベースアクセス技術をつかって,Excelからアクセスできるようにしている。

このサクラ2は,営業や事件の貢献度の管理のみならず,依頼をうけた事件の進行の管理,顧問先企業の管理,依頼を受ける前の案件や終了事件の管理などをしており,事件を担当する秘書の事件管理の評価もできるようになっている。
管理,管理というと嫌な言葉に見えるが,大切なのは,貢献度の低いスタッフを締出すことではなく,評価の客観性を担保したうえで,能力もパフォーマンスも高い弁護士,スタッフが嫌に思わない職場環境を作ることである。

長くなってしまったので,また,今度に。

なお,私は,慶應大学の環境情報学部で,先日,加藤勝信官房長官は内閣官房参与に任命したという村井純教授の研究室の出身ではある。ぜひ,「村井純」とググってほしい。
ちなみに,私は,プログラミングは好きであるが,昔からPC等の環境を整えるのはそれほど得意ではないので,色々とてつだってくれる人がいたらいいなと思う。

ちなみに,サクラ2は,サクラとケヤキのデータベースを合わせて1つのリレーショナルデータベースにしたものである。全く内容とは無関係のネーミングであるが,あえて,そのような言葉をあてている。

(了)