コロナ禍で弁護士に求めるもの?

弁護士 辻本 恵太

新型コロナウィルス感染症が猛威により,自宅待機の時間も増え,経済への影響も少なくない。社会科学が苦手だった私でもそれはわかる。
オレンジ法律事務所のある埼玉県も4月7日の緊急事態宣言発令時に対象とされたため,オレンジ法律事務所でも弁護士,秘書の出勤日数をかなり制限し,できる限り,リモートワークを実現している。

元々,オレンジ法律事務所では,電話会議かビデオ会議をすることも少なくなかったのだが,今月に入ってから,よほどのことがない限り,対面での法律相談はしていない
電話会議,音声会議,ビデオ会議のいずれかである(なお,ビデオ会議は,Zoom,Whereby,GotoMeeting,chatwork,Microsoft Teamsなど,ある程度クライアントに合わせて行っている)。 
最初は,戸惑うクライアントも,一度,ビデオ会議などで法律相談をすると,すぐに慣れて便利に感じてもらえることが多いように感じる。

そんな中で,最近,事務所に相談にくる案件から,埼玉県の方,一般の方はオレンジ法律事務所に,私に何を求めているのかを考えたい。

①離婚,相続,交通事故

オレンジ法律事務所は,埼玉の法律事務所の中では,離婚,相続の割合は低い。
なお,クライアント層としては,離婚も相続も,一般の法律事務所と比較して,高額な案件が多いように思われる。
また,交通事故も,比較的に少ないと思うが,埼玉県は交通事故が多いため,オレンジ法律事務所でも,常時,数件の交通事故を取り扱っている。
技術の進歩により,交通事故にならないような色々な機能が車に組み込まれて,交通事故の数が減っていると聞くが,今後も,交通事故はそれなりにあるはずであるし,緊急事態宣言後,今のところ,大きな変化は感じない

②契約書のチェック

いろんな種類の契約書のチェックも,通常どおり,相談が多い。
偶然かもしれないが,コロナ問題以前より増えている印象がある
働くということについて意識が変わっている証かもしれない。あるいは,多くの業種が対面でのサービスができないことで,新たな事業分野に挑戦しているからかもしれない。

典型的な契約書を頼まれることもあるが,現状,クライアントの考え方に応じたオーダーメイドの契約書を作って欲しいというものも多い。
普段使っている契約書一式を,改正民法に対応するようにして欲しいというのも多い。
新規に開業するにあたって,契約書を一通り見て欲しいというものもある。
相手方の会社とのパワーバランスを考えながら,押したり引いたりする,契約交渉も多く,交渉はやはり楽しい。

③労務の相談

顧問先企業から,自宅待機をしてもらっている従業員についての休業手当(労働基準法26条)を支払うべきかなどの労務の相談は,かなり多い。「使用者の責に帰すべき事由による休業」の解釈が問題となり,自分なりの意見はあるのだが,本筋と離れるので,ここでは割愛したい。
また,雇用調整助成金や小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援などについて,相談を受けることも多い。

会社も従業員の生活を守るため,会社を存続させるため,踏ん張っている。きれい事ではあるが,労使が協力してこの難局を何とか乗り越えたいと願う。

④売掛金の回収交渉

未回収の売掛金の回収の交渉も,緊急事態宣言後,それなりにある
少し前のブログで書いたが,現在,埼玉県の近郊の裁判所は,緊急性の高い事件を除き,期日が開かれていない(→コロナと案件の変化と裁判所の動向)。
そのため,交渉がうまくいかないと,裁判で決着をつけるという選択が通常よりは取りにくく,弁護士にとって,交渉がうまいかどうかは,かなり重要だといえる。

私は,理系だからそう思うのかもしれないが,交渉はゲームであり,一方的な効用の大きさではなく,理論的に,ナッシュ交渉解(各交渉参加者の効用の総乗を最大化する合意案候補)を探したいと思うのだが,その話も本筋から離れるので,割愛することにする。

知人からこういう緊急時には cash is king という言葉があると聞いた。
なるほど,だからこそ,事業者は,未回収になっている売掛金の回収をして,現金を手元にと思うのかもしれない
なお,今月4月1日から改正民事執行法が施行され,第三者からの情報取得手続ができるようになり,売掛金の回収がしやすくなった。待望の法改正であり,早速使っている。

⑤新規ビジネスの相談

顧問先企業などから新規のビジネススキームについての相談を受けている。新型コロナウィルスの影響は関係なさそうである。
国民の生活や労働のあり方が変化していることで新たなビジネスにつなげる会社も多く,ここにオレンジ法律事務所へのニーズがある。
特に,様々な感染症対策,リモートワークに関して,販路の相談,開発の相談などもあり,弁護士業務そのものというよりは,理系や情報通信技術の知識を使ったり,マーケティングや経営に関して,クライアントと一緒に頭を絞ったりすることも多い
このあたりの相談は,新たなものを生み出すことに寄り添うことでき,やはり楽しい

まとめ

こう見ると,世の中には紛争が尽きることはなく,当事者に代わって交渉をするという弁護士の本質的な業務は,コロナ禍の中でも求められているが,特に,スピーディーな交渉,結果が求められていると感じる。

speed is our priority.(スピード命)

また,社会のニーズの変化についていくだけでなく,先を予測して,柔軟に,創造的に,新たな付加価値を提供していけるよう,変化し続けることが求められていると感じる。理系だったり,プログラミングが得意だったことを,役に立てたいと思う。

最後に,慶應義塾大学環境情報学部のアカペラのサークルが楽しそうな動画をYouTubeにアップし,それに村井純先生が「SFCの学生はすごいぞ!」と鼓舞していたので,紹介したい。

(了)