第四回目 やさしい手形・小切手のお話

広報 秘書 田村 司
いつもお読み頂き有難うございます。

「やさしい手形・小切手のお話」のシリーズの第一回目,第二回目,第三回目とは,あいだが長く開きましたので,リンクを貼りましたので,必要な方は前回分はリンクでご確認ください。
第一回目は小切手の使われる理由と注意することについて
第二回目は手形が使われる理由と注意(手形の流れ)することについて
第三回目は法律(手形法・小切手法,他)と契約(当座勘定規定,他)の関係と実務への影響(効果)について,

そして,今回の第四回目やさしい手形・小切手のお話は「実務上の『異例な事例・事態(紛失・盗難)』について注意すべきこと」について説明します。

手形を盗難などにより紛失した場合には,何を考えなければならないのでしょうか。
手形金の支払を受けるためには,原則として,手形を支払銀行に呈示しなければならないので,手形を紛失すると,原則として手形金の支払を受けることができなくなります。

そうすると,2つのことを考えなければなりません。

1つは,紛失手形を取得した第三者に手形金が支払われないようにすること,
もう1つは,手形を呈示しなくても,手形金の支払を受けることができるようにすることです。以下,順に説明します。

Ⅰ まずは,第三者に手形金が支払われないようにするために,支払銀行と振出人に対して,次のような対応をとる必要があります。

1,まずは,至急,電話でよいので,支払銀行に連絡して,手形を紛失したので,誰かがその手形を支払銀行に呈示しても,その人に支払わないように伝えて下さい。
支払銀行が分からない場合は,振出人に連絡して教えてもらって下さい。
そのとき,支払銀行が,どの手形に対する支払を止めれば良いのか分かるように,手形の記番号を伝えなければなりませんが,それが分からないときは,手形の振出人に連絡をして,記番号を教えてもらって下さい。

2,しかし,それだけでは不十分です。手形の振出人は,支払銀行に対して,手形を呈示した人に手形金を支払うことを委託しているので,振出人にその委託を取り消してもらわなければ,支払銀行はその委託に基づいて手形金の支払をしなければならないからです。
そこで,振出人に連絡して,支払銀行に対する手形金支払いの委託を取り消すための事故届を,支払銀行に提出するように依頼して下さい。

3,以上の対応をして,手形を紛失したことを支払銀行や振出人に知らせることにより,支払銀行が誤って手形金を第三者に支払ってしまうことを防ぐことができます。

Ⅱ 次に,手形を呈示しなくとも,手形金の支払を受けることができるようにするために,警察と簡易裁判所に対して,次のような対応をとる必要があります。

手形を紛失しても,手形金の支払を受けることができるようにするためには,手形から,手形に化体している(取り憑いている)手形権利を取り除くための除権(除霊?)が必要になります。この除権は,簡易裁判所に公示催告の申立をして,簡易裁判所に公示催告の申立てをして,手形から手形債権を除く,除権決定をもらうことが必要です。

1,まず,警察署への遺失(盗難)届を出し,手形の公示催告の申立てをすることを告げて,遺失(盗難)届の届出証明書(受理証明書)を発行してもらって下さい。
この遺失(盗難)届の届出証明書(受理証明書)が,公示催告の申立てのときに必要になります。
警察署イメージ図

2,次に,簡易裁判所で公示催告の申立てをしてください。

⑴ 申し立てる簡易裁判所は,手形の「支払地」を管轄する簡易裁判所です。管轄については,裁判所のHP等でご確認下さい。
⑵ 申立てのとき,申立書と一緒に遺失(盗難)届の届出証明書(受理証明書)を提出して下さい。その他の提出書類等につきましては,裁判所HPや簡易裁判所への問い合わせ等によりご確認下さい。
⑶費用は,申立手数料として,収入印紙1,000円分が必要になり,その他に郵便切手,官報公告の掲載料等が必要になりますが,詳しくは裁判所HPや簡易裁判所への問い合わせ等によりご確認下さい。
簡易裁判所イメージ図

3,公示催告の申立てをした後の大まかな流れは,次のようになります。
⑴ 簡易裁判所は,申立てに不備や問題がなく,申立ての理由があると認めた場合には,公示催告手続を開始する旨の「公示催告手続開始決定」と,官報に以下の内容の催告を公示する「公示催告決定」をして,申立人に,そのことを記載した通知書を送付します。

「有価証券(約束手形)を所持している人は,権利を争う旨の申述の終期までに,申述すると共に有価証券(約束手形)を提出すること。もしその期限までに申述及び提出がない場合には,その有価証券(約束手形)の無効を宣言することがある。」

つまり,ざっくりと言い換えると,「紛失手形を所持している人は,自分がその手形に化体している手形権利を適法に持っているのだと主張したいなら,所定の期限内に,その手形を持って裁判所に出頭して下さい。期限を過ぎたら,その手形から手形権利を除権して,その手形はただの紙切れになっちゃいますよ。」ということです。

⑵ この公示催告は,公示催告決定から,おおよそ2週間から1か月後に,官報に掲載されます。
権利を争う旨の申述(自分はその手形に化体している手形権利を適法に持っていると主張すること)及び手形の提出の終期(期限)までは,公示催告決定がされてから2か月以上の期間が必要とされていますが,個別具体的な期間については,申し立てた簡易裁判所にご相談下さい。なお,例えば,東京簡易裁判所では,諸事情を考慮して,公示催告決定から権利を争う旨の申述の終期までに約4か月半の期間をおいているとのことです(東京簡易裁判所HP)。
⑶ 簡易裁判所は,権利を争う旨の申述の終期までに,適法な権利を争う旨の申述と手形の提出がない場合には,除権決定をします。この除権決定により,手形から手形に化体していた手形権利は除権され,紛失した手形はただの紙切れになります。
⑷ 簡易裁判所は,除権決定の正本を申立人に送付します。また,除権決定は官報に公告されます。

4,除権決定正本を受け取ったら,それを持って,支払銀行に行き,除権決定正本を呈示して,手形金の支払を受けて下さい。

また,以上の対応に関連して,紛失手形を取得した第三者が手形上の権利を善意取得するかどうかという法的な問題が生じますが,この問題については,話がややこしくなるので,ここでは省略します。ご興味をお持ちの方は,以前のブログ「事実は小説より奇なり」をご参照下さい。

異例なことがおきましたら,自己判断せずに専門家にぜひ相談の上,お取り扱いすることを強くお勧めいたします。
次回第5回目は「裏書について注意すべきこと」について説明いたします。

手形による企業間取引は減少しておりますが,手形を利用している企業は,中小請負業者等,まだまだ数多く存在します。オレンジ法律事務所は,企業法務も多く手がけており,企業法務において特に重要な,事件になるリスクを回避するための予防法務にも力を入れております。企業経営者の皆様,予防法務のための顧問弁護士について,是非ご検討ください。
なお,今回のブログ掲載にあたり,片山弁護士の加筆を頂きすすめました。

すこしでも,皆様の企業活動のお役にたてましたら,それだけで,私の生きがいであり,喜びです。 今回もお読み頂き誠に有難うございます。