広報担当 秘書 田村 司
いつもお読み頂き誠に有難うございます。
銀行で相続案件の業務に携わっていると,①相続人が行方不明(不在)であること,②相続放棄等によって相続人がいなくなること(不存在)がよくあります。
過去の銀行での経験において,「不在」と「不存在」の内容を混同して理解している方がおりましたので,今回のブログでは,「不在」と「不存在」について,話をしてみたいと思います。
かくいう私も,相続業務を始めたときには,両者の区別が明確ではありませんでしたので(呵呵),このブログを読んで,理解につながれば嬉しい限りです。
なお,銀行の融資という意味では,以前,私が作成した「融資の相続」というブログをご覧いただけると幸いです。
少しだけ説明しますと,遺産が預金のみの場合は,遺産分割協議により共同相続人の合意で決着しますが,これに対して,融資がある場合には,負の遺産となる債務が残ることになるので,債権者(金融機関)との協議・交渉が必要になりますし,場合によっては,他の法定相続人,包括受遺者との間の協議・交渉が必要になることもあります。
話を戻しますが,共同相続人全員の所在が判明している場合には,遺産分割の協議を進めることができますが,共同相続人の中に行方不明者がいると,全員の合意が得られないので,協議が進まないことになります。
さて,このような場合,どうすればよいのでしょうか?
【不在者財産管理人の申立て】
相続人が行方不明の場合に,まず,思い浮かぶ手続は,家庭裁判所への不在者財産管理人の申立てです(民法25条参照)。
この申立により,選任された不在者財産管理人が,不在者の財産を管理,保存するほか,家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で,不在者に代わって,遺産分割,不動産の売却等を行うことができます。
例えば,銀行としては,被相続人の不動産を任意売却によって,回収したい場合に申し立てをすることがあります。なお,相続人の協力が得られるケースでは,債務引受等の手続を進めることもあります。
【失踪宣告の申立て】
相続人が行方不明になってから,その生死が7年間明らかでないときには(普通失踪),家庭裁判所へ失踪宣告の申立てをする方法をとることが考えられます(民法30条参照)。
行方不明(※捜索願受理証明書により証明することが多いです)になってから7年間が満了したときに,失踪宣告の審判をうけることにより,死亡したものとみなされ,行方不明者についての相続が開始されます。
間違いやすい点として,失踪宣告の審判日ではなく,7年間の満了日が死亡日になります。失踪宣告の審判書には失踪日のみが記載されていますので,ちょっと7年目の満了日を計算しなければなりません。なお,失踪宣告が記載された戸籍謄本には,死亡したものとみなされる日は,記載されます。
失踪者が生きていた場合には,失踪宣告を取り消す手続を行います(民法32条参照)。
ただし,このような取消が発生することになった場合,各法律関係が複雑に絡んできますので,法律事務所にご相談いただいた方がよろしいかと思います。
ちなみに,特殊なケースになりますが,戸籍謄本の中に「高齢者職権削除」の表示があるのをご覧いただいたことがあるでしょうか。
これは単に戸籍行政上の便宜に基づくものであって,失踪宣告のように死亡という法的効果が発生しているわけではないので,ご注意ください。
【相続財産管理人の申立て】
それでは,相続人が「不存在」の場合には,相続財産はどうなるのでしょうか。
まず,相続人が「不存在」の場合とは,相続人全員の相続放棄等により,遺産を相続する人がいなくなった場合のことです。なお,最初から相続人が存在しないときもこれにあたります。
相続人が不存在となった場合,遺産が宙に浮く状態を避けるため,検察官や債権者等が家庭裁判所に対し,申立てをして,相続財産管理人が選任されます(遺産は,相続財産法人に帰属します。)
遺産から回収を図りたい被相続人の債権者がいる場合には,この申立てをしなければなりません。
相続財産管理人は,弁護士や司法書士等の専門職が選任されることが比較的多いです。
相続財産管理人は,遺産を換価して,被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行います。各債権者は,債権額の割合に応じて,支払がなされます。 そして,残余財産があれば,最終的には,国庫に帰属させることになります。特別縁故者がいる場合には,国庫に帰属させる前に,かかる者に分与されることもあります。
オレンジ法律事務所は,知的財産・企業法務について強みをもっていますが,相続案件についても多数取り扱っております。
前述のような「相続財産管理人」については,辻本弁護士や有馬弁護士が裁判所から選任を受けて,業務にあたっており,豊富な活動実績があります。お困りの時には,お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき,誠にありがとうございます。簡潔ではありますが,専門的な内容を説明いたしましたので,分かりにくい点もあるかもしれませんが,少しでも皆様のお役にたてましたら,幸いです。
なお,この執筆に関しては,有馬弁護士の助言を頂いて完成致しましたことを申し添えます。
<参考文献>
■水野賢一著「相続人不存在の実務と書式」(株)民事法研究会H25年4月8日 第1刷第2版p13,p25,p26
■遠藤俊英・小野瀬厚・神田秀樹・中務嗣治郎監修「金融機関の法務対策5000講 Ⅲ巻 貸出・管理・保証編」きんざい 2018年2月15日第1刷発行
■髙妻 新・荒木文明著「相続における戸籍謄本の見方と登記手続」日本加除出版 平成23年5月2日 全訂第二版発行 p332