弁護士 片山輝伸
先日(平成30年7月頃),尾形大先生が私に向かって,「近日中に,親戚から超美味いサクランボが送られてくる。そんじょそこいらのサクランボではない。事務所に持ってきて食わせてやるから,楽しみに待っとけ。」とおっしゃいました(注1)。
ここだけの秘密なので口外禁止なのですが,私は,いつも喧しい尾形大先生のことが好きではありませんから,「ああ,そうですか。それは大変楽しみですねぇ。ええ。」と適当に聞き流していました(注2)。
数日後,尾形大先生が何やら立派な段ボール箱を持ってきて,その段ボール箱を開けるや,私に「ほれ。食べてみろ。」と,サクランボ様の物体を差し出してきました。そのサクランボ様の物体は,私が普段目にするサクランボよりも,色が鮮やかで,大きかったので,直ちにサクランボと認識することができませんでした。
私は,尾形大先生に逆らうと後で何をされるかわからないので(注1),おそるおそる,そのサクランボ様の物体を手にして,口に入れてみました。
するとどうでしょう。私は,実はあまり好きではなかったはずなのに,手がもう1個,またもう1個と手が止まらないではありませんか。私は,未体験の食感と甘みに感動に近い感覚を覚えていました。
すると,尾形大先生が得意げに私の横に来て「思い知ったか。このサクランボは,尾形大農場(こと「原田果樹園様」。(注3))にて栽培された『紅秀峰』という品種である。覚えておくが良い。」とおっしゃいました。
嗚呼,紅秀峰!その歯応え,超好嚼的現品!その甘み,超好甘的現品!
そのとき,「そういえば,紅秀峰といえば,何かあったな・・・」と,「紅秀峰」と言う言葉が,私の脳みそを駆け巡り,とある大事件の記憶に辿り着きました。
その事件というのは,平成17年に,外国籍の人物が「紅秀峰」の苗木を日本から国外に持出し,その苗木から収穫されたサクランボを日本に輸入しようとしたところ,山形県がそれを覚知し,農林水産省と協力して,その輸入を阻止したという事件です。
「紅秀峰」の苗木を国外に持ち出してはいけなかったのでしょうか。
その苗木から収穫されたサクランボを日本に輸入してはいけなかったのでしょうか。
いけなかったのです。
その理由は,山形県が「紅秀峰」を,「種苗法」という法律に基づいて品種登録し,「育成者権者」となっていたからです。
すなわち,山形県は,「紅秀峰」の「育成者権者」として,「紅秀峰」の苗木等を「輸出」して国外に持ち出したり,その苗木等から収穫されたサクランボ果実(「紅秀峰」)を「輸入」するなどの権利を独占的に持っており,山形県や山形県の許可を受けた者以外の者が無断で「紅秀峰」の苗木を国外に持ち出したり,その苗木から収穫されたサクランボ(「紅秀峰」)を輸入することはできなかったのです。
そんな種苗法の話は「その2」にて。
なお,「紅秀峰」は,その周囲に所員が群がり,やれ「美味い」だの,やれ「甘い」だの,やれ「歯応えが良い」だの,やれ「大きい」だのと,殊更に騒ぎたて,私が少し目を離した隙に,あっという間になくなってしまいました。
原田果樹園様,ごちそうさまでした。
(注1)尾形大先生のキャラは,フィクションです。現実の尾形弁護士は,謙虚で礼儀正しい好青年です。
(注2)現実の尾形弁護士は,私を含め,所員全員に愛されています。
(注3)もちろん,ここでの「尾形大農場(おがただいのうじょう)」という農場は,架空のものであり,頂いた紅秀峰は,「原田果樹園様」にて栽培,収穫されたものです。