元銀行員の田村の経験と視点「決算書類の粉飾」

広報担当 秘書  田村 司

オレンジ法律事務所は知財関係に強みを持ち,ビジネス法務も幅広く手掛けています。それ以外の幾多ある外部活動で,辻本弁護士は「週刊帝国ニュース埼玉県版」に「弁護士の生命線」のコラムに寄稿していました。そしてそのご縁で,私は,辻本弁護士から「週刊帝国ニュース埼玉県版」が発刊されたときはいつも見せて頂いております。

今回は「横行する複数の決算書類を作成する粉飾手法」2018.5.23付の週刊帝国ニュース埼玉県版P10の記事を目にしまして,過去の銀行時代の融資経験を思い出しました。

また,元銀行員シリーズになりますがご容赦ください。

皆様に興味深い話で有るか分かりませんが,実は,私は融資先の粉飾決算書に遭遇したということです。

しかし守秘義務がありますので詳細は申上げることが出来ません(本当のところ,遠い昔のことなので詳細は忘れました,呵呵)。

当時の職業柄,「粉飾決算書の見つけ方」の本を買い熟読しましたが,実際は本のお陰で粉飾決算書を発見できた訳ではありません。本を読んだだけでは,粉飾の発見は私には大変難しかったのです。粉飾する者にとって,「粉飾が見つからないための粉飾の指南書」と思いました。そんな私が粉飾決算に遭遇したのは,偶然の出来事でした。

 

一般の方々には粉飾決算は「縁遠い」お話と思いますが,しばらくお付合いください。

 

「業績を良く見せる粉飾」株主対策,銀行対策イメージ図

粉飾の実態について

新聞を賑わしている上場会社の不適切会計や粉飾決算を会計のエキスパートである公認会計士による監査が行われているのに見抜けない又は関与していることが報道されたことがあります。

会社から報酬をもらっている監査法人が中立の立場でちゃんとした監査ができるのか,問題があったらきちんと指摘できるのか,との疑問をもたれることになっています。

某上場会社の不適切な会計処理については,内部統制システムの構築の難しさ,機能していないことに加え,会計監査人の監査で多くの不適切な会計処理が看過されて外部監査が十分機能していなかったことも原因であるとされています。

それは,社長等の経営陣からの著しく実力を上回る利益目標が不適切な会計処理の原因になったといわれています。

大幅な債務超過を隠蔽する等,会社が倒産する恐れがあるとき以外に,実力以上の利益目標の設定により不適切な会計処理が起こり得るようです。個人的見解としては,担当者に同情を禁じ得ない(銀行も一般会社も50歩100歩ですね)。

 

【粉飾の手法について】

売上の架空計上,前倒し計上,現預金勘定の水増し,架空在庫や売掛金の過大計上などがあります。複数の異なる決算書類を作成して金融債務を簿外化することで負債を少なく見せる粉飾手法もあるようです。その他色々な手法がありますが,省略します。

 

そして,粉飾を大きく分けて2つに分類されます。

業績をよく見せる粉飾」と「業績を悪くみせる粉飾(逆粉飾)」があります。

 

そして,「業績を良く見せる粉飾」には株主対策,銀行対策のためです。

逆に,「業績を悪く見せる粉飾」には税務対策があります。

 

【私の経験談について】

遭遇した粉飾とは決算書を複数作成していたケースでした。

それは,融資先は税務署提出用銀行提出用複数の決算書を作成していたようです。

私に経理担当者が決算書を渡してきたため,過去に提出された決算書と照合したら,整合性がとれないことが分かり,事情を確認したら,もう1通の決算書があり,税務署提出用と銀行提出用を作成していたことが分かっりました。先方の「Own goal」の失点によりそれが粉飾決算書であることが発覚しただけです。 私の財務分析により発見したわけではありません。その決算書は売掛金を増やして調整していたと記憶しています。ほかは忘却の彼方です。遠い昔のお話です。

 

【粉飾に対する姿勢について】

ちなみに企業の2割は粉飾をしていると言われています。

公認会計士も見抜けないものをどのように対処すると良いのでしょうか?

8割が正しい決算書を作成しているので,信じるか?

2割の粉飾決算に当る確率は高いので,すべてを疑うか?

やはり取るべき行動は,「記載された数字は信用できない」ということになるのかな?

悲しいですね! 疑ってかかるのも切ないものがありますね!

2割が粉飾決算をしているなら,逆に8割が正しい決算書を作成していることになります。

やはり,疑ってかかるのもどうかと思いますが,2割粉飾決算所のために「記載された数字は信用せず」取扱うことになります。

 

個人的見解になりますが,赤字決算書を堂々と公開している会社はある程度信用できると私は思います。銀行に提出するために,赤字決算に粉飾する理由がないと思われるからです。(ただし脱税の懸念があることは否めない)。

業況は浮き沈みします。赤字のときもあります。後は,どのように赤字の改善対策をするかです。

 

【粉飾に対する調査について】

専門家の公認会計士の監査で看過されるくらいであるから,実際に銀行員が決算書類のみで見抜くことは大変難しいのです。実際には内部告発で粉飾が発覚しているようです。

 

そして,税務署提出用銀行提出用複数の決算書の対策の一つとして,決算書には税務署受付の確定申告書の添付の提出による方法がありますのでご確認下さい。

それによって,税務署提出用銀行提出用複数の決算書に惑わされることは回避されると思います。税務署受付の確定申告と明細を添付した決算書の提出に難色を示す場合は,そのときは,「粉飾?」と考えた方が良いかもしれません。

つまり,普通に決算書をみても粉飾は見つかりません。見つからないように作成しているからです。このように,別な角度(税務署提出用であるかどうか)からの確認が必要な理由です。

 

【粉飾の末路について】

赤字決算を粉飾することで乗り切ったとすると,毎期の決算書は連続していますので,泥沼化して抜け出せなくなります。根本的な改善がなされないままになります。

そして脱税目的の粉飾は,べつの方面から調査が入り発覚します。銀行にも時々国税局の査察が入ります。

金融機関にはマネーロンダリング(資金洗浄)防止対策がされており資金は把握されます。

粉飾決算は百害あって一利なしと言われています。「上手の手から水が漏れる」ようにいつかは,ばれます。そのときの信用失墜の被害が大きくなります。

 

【赤字決算の対応について】

赤字決算になりそうなときは,粉飾しないで,正直に専門家に相談されることをお勧めします。

銀行に融資を受けないで,取引先に粘り強く交渉し,売掛金サイト,買掛金サイト,受取手形サイト,支払手形サイトの改善で,キャッシュフロー上,資金繰りが楽になるケースもあります。

(簡単にいうと,受取るものは早く,払うものは遅くすれば,手許に資金(キャッシュ)が残ります。)

実体は黒字経営でも資金繰りが苦しい企業は「サイト」の改善で楽になることがありました。簡単なアドバイスで蘇る企業もたくさんありました。そのような理由もあり,税理士などの専門家にご相談をお勧めします。

 

なお,赤字決算でも,三期の決算書の内容や個人資産(不動産担保,預金担保,有価証券担保,動産担保,債権担保)などの状況次第で,銀行によっては,融資の相談にのってくれるかもしれません。(ただし,銀行によって融資判断は違いますので断言出来ません。)

 

先般,埼玉県信用保証協会に行きパンフレットを頂きました。次のような記載がありました。

Q「赤字決算でも保証の申込できますか?」

A「赤字だけを理由にお断りすることはありません。赤字の原因や経営意欲・事業計画などを総合的に検討し判断しています。」

まさに,その通りです。

銀行も保証協会も赤字決算だけでなく総合的に判断します。

長い事業期間中には良いときも悪いときもあります。銀行や保証協会に赤字決算書のご相談をお勧めします。

 

オレンジ法律事務所はビジネス法務を通じて,他の専門家を交えての事業経営の相談を受ける場合もあります。お困りのときは,気軽にお声をお掛け下さい。

 

ちょっと派手な表題「決算書類の粉飾」で始まりましたが,結論は期待外れ(赤裸々な暴露ではない)の内容で終わりました。申し訳ございません。

少しでも皆様のお役に立てるようでしたら,それが私の喜びです。

 

 

 

 

参考文献

井上一生監修 野口誠著「あなたの会社が赤字でも『借りて下さい』と銀行に言わせる方法」(株)あさ出版 2009.11.13. 第一刷

 

井端和男著「最近の粉飾-その実体と発見法-第3版」(株)税務経理協会平成22年5月30日第3版第1刷発行

 

「TDB TEIKOKU NEWS」(株)帝国データバンク 2018.5.23 P10 (トピックス 横行する複数の決算書類を作成する粉飾手法)

 

清田卓生「めちゃくちゃわかるよ!会計 決算書を読んで使って,疑う本」ダイヤモンド社 2003.7.31 第1刷発行

 

永沢 徹,遠藤康弘『「不適切会計」に対する内部統制と監査』(会社法務A27)第一法規2015.11.25発行P8~13