活きた字

弁護士 辻本恵太

活字にふれない四半世紀

私は,弁護士には珍しいくらい,とにかく活字が苦手だった。
それも,司法試験合格直前まで,読書の数でいえば,日本全体の下の下あたりだったと思う。教科書や試験問題など読まなければならない活字を除くと,本当に活字にふれた機会は本当にごくわずかであった。
25歳までに,自分で読んだ小説は10冊に満たない。
なので,タイトルなども良く覚えている。高校性のときに読んだのが,赤川次郎の「白い雨」「禁じられたソナタ」,斉藤洋の「ベンガル虎の少年は」,だれかが書いた「西遊記」など。

活字嫌いの克服

これでは,いけないなと思って,司法試験合格直前の1年間は,意識的に目標をもって本を沢山読むことにした。
目的は、活字を読むことの抵抗をなくすこと。できれば本を好きになること。
それなので、立てた目標は、1年間に読書100冊。
なんだか小学生みたいな目標である。
また,読書した本の数を稼ぎたい一心で,つまらないと思ったにもかかわらず最後まで読もうとすることは避けたかった。無理をすれば,ただでさえ,嫌いな本をより嫌いになってしまうからである。
そこで,つまらないと思って途中で読むのをやめた本も1冊読んだものとカウントすることとした。
誰よりも自分に甘い。

その1年間は,ブックオフなんかで大量に買った古本,図書館などで大量に借りた本を次々と読んでいった。ファーブル昆虫記とかガリレオ・ガリレイの伝記を読んだりした。
厳密にいえば,読み切る本もあれば,つまらないと思って途中で読まなくなる本もあった。
東野圭吾,宮本輝,村上春樹,村上龍,阿刀田高,辻仁成などは,記憶に残っている。

とても司法試験受験生の行動とは思えない行動だったが,何とか司法試験を受かることができて良かったと思う。
かれこれ15年も前のことだが,活字を読むスピードがあがったのは間違いない。
そして,何よりも読書をするようになった。たまに小説も読んだりすると,とても心が満たされる。
数学の印象しかない,学生時代の知人からすると,私が読書をすることにびっくりすると思う。
いま読んでいる本についても書いてみたい。

活きた字を書く

ちなみに,字と言えば,ホワイトボードやメモ書きの字は,あまり上手な方ではない。
ときどき,秘書の田中さんや小田倉さん,事件担当の上村さんが,私の走り書きを見て,ああだのこうだの議論しているときがある。
ある日,「そのひと文字だけ見ても読めるものではないよ。文章全体で見てみると,だんだん推測できてくるよ。」といつものようにアドバイスをしながら,みんなが読めないというメモ書きをのぞいてみたが,私も読めなかった。

なんというか,私の字は,書いたばかりのときには読めないこともないのだが,一週間もして,書いた記憶が薄れると,読めなくなってしまうのだ。私が書く字こそ,活きた字,まさに「活字」と言っても過言ではない。いや,過言である。