田村の解説「戸籍謄本収集の重要ポイント」

広報担当 秘書 田村 司

いつもお読み頂き誠に有難うございます。

 

オレンジ法律事務所は埼玉県では知的財産,特許,医療,企業法務などに強みを持っています。法人以外にも個人の相続での遺産分割,遺留分減殺請求,交通事故など幅広く取り扱っております。

オレンジ法律事務所でも相続関係などで,戸籍謄本(全部事項証明書)を取り扱う機会がありますが,皆さんにとっては,パスポートを発行するとき以外は日常,あまり,必要がないと思われます。戸籍と関係があることとしては,婚姻関係,実親子関係,養親子関係などの身分関係の届出により戸籍に掲載されます。その結果,相続開始時の相続の証明として戸籍が活用されています。そのため相続のときは戸籍謄本を収集しなければなりません。

私は銀行業務の相続手続のために戸籍謄本にたずさわった経験があり,皆様も相続のための戸籍謄本をご自分で収集することにご苦労されているとの思いにいたり,実務的な重要ポイントを掲載することと致しました。

その前に,戸籍制度のイメージのため,明治5年(西暦1872年)からの146年間の俯瞰図を掲載いたします。

ご存じのように,H29,5,29に「法定相続情報証明書制度」がはじまりましたが,依然として,戸籍謄本(全部事項証明書)の収集は大変なようです。

【重要ポイント】

1,戸籍謄本を収集するときの手法と確認すべきポイント

 

⑴,「表による見える化」の手法をおすすめします。

死亡の記載のある戸籍謄本から,その前の在籍している戸籍謄本にさかのぼっていかなければならないのです。なお,抄本ではなく謄本が必要です。

図のように,日付,編成(改製)事由,を細かく戸籍の連続を確認する必要があります。

 

戸籍の確認方法の手法(表による見える化)図(例)

・入籍受付と除籍消除が同日の場合がありますので,年月日・編成・改製事由までしっかりご確認ください。

(例)戦前の家制度のときは「家柄,格式」があり,結婚のため,格式の高い家柄に養子縁組で入籍して,その「家」から同日に婚姻のため除籍する場合もあります。

・短期間の戸籍謄本の不足を支障がないと思わないようにして下さい。不足の戸籍に養子縁組・認知の記載があり,相続人が増える場合もあります。

 

⑵,戸籍謄本が戦災で焼失しているときは「告知書」または「焼失証明書」で連続を補完することになります。

ただし,この不足(焼失)期間に別な本籍地で相続人が生存していた事例もあります。

また,戦災で焼失したときに再製をした戸籍の中の人物Aが,別な戸籍に生存していたという二重戸籍状態の事例もありました。

同様な事例で,「失踪宣告」の人物Bが,実は,他の戸籍でBが生存していた事例があります。

「事実は小説より奇なり!」と再認識した次第です。

 

2,「戸籍謄本の始まりが分からない!」と判断に迷う事例の確認ポイント

 

⑴,戸籍に「司法大臣ノ命二依リ〇年〇月〇日 本戸籍ヲ改製ス」の表示がある戸籍謄本は,そこからスタートの表示(その戸籍の始まり)となります。又は「司法省訓令第4号二依リ」の表示もあります。これは大正4年式の戸籍に変更したときの表示方法です。

 

特に,「司法大臣ノ命二依リ〇年〇月〇日 本戸籍ヲ改製ス」の表示の前の行に△年△月△日に家督相続や転籍の表示があってもそれはその戸籍の始まりではありません。

 

このような説明が記載された解説書は少ないので,手前味噌ですが,このブログの蘊蓄(うんちく)として皆様に提供いたします(呵呵)。

 

⑵,戸籍に「昭和32年法務省令27号」の表示がある場合は要注意です。

「司法大臣ノ命二依リ〇年〇月〇日 本戸籍ヲ改製ス」の表示と似たような表示ですが,

「昭和32年法務省令27号により昭和△年△月△日 本戸籍改製」の表示のときには戸籍が新しくなっていません。この場合はその表示の前の行の家督相続又は転籍などの表示がその戸籍の始まりになります。

」図の例では「Cより転籍」が戸籍謄本の始まりです。

 

「昭和32年法務省令27号により昭和〇年〇月〇日あらたに戸籍を編成したため本戸籍を削除」の表示のときには戸籍が別途新しくなっています。

この削除された戸籍が「改製原戸籍」と欄外冒頭に表示されます。

この次に編成された戸籍には「改製原戸籍」の内容がすべて移記されません。

そのために移記されていない事項をさかのぼって戸籍謄本で確認しなければならないのです。

 

⑶,「転籍」も戸籍が新しくなる事由ですが,本籍地と同じ行政区である場合は,新たな戸籍が作成されません。「旧本籍地を訂正して新本籍地が記載された戸籍」の謄本となります。

 

3,住所地を調べるポイントについて。

そのために「戸籍附票」というものがあります。これは本籍地が住所地とはなりませんので,本籍と住所地と関連づけるための記録です。住所地が分からない場合は「戸籍附票」の交付を受けるとその附票に住所が記載されています。

4,「法定相続情報証明書」の活用ポイントについて

なお,登記で「法定相続情報証明書」を発行したものを金融機関への書類提出にも利用できる場合もありますので,その場合は金融機関にご相談ください。

 

このブログで戸籍謄本の全てを説明できず,残念でありますが,戸籍謄本の収集でつまずいた経験を記載しました。その経験が,少しでも皆様に役立つこと,それが私の喜びです。

なお,実際に146年間の色々な戸籍謄本で相続手続をした個人的な感想ですが,行政区の市町村の戸籍課の事務の正確さには驚きを感じています。それと共にその先人には敬意を払わずにはいられません。

 

 

 

 

 

参考文献

 

高妻新,荒木文明著「相続における戸籍の見方と登記手続」日本加除出版 H23.5.2

全訂第二版

 

末弘厳太郎創刊 法律時報 『特集 民法と戸籍制度』日本評論社2016年88巻11号通巻1104号 窪田充見著「企画趣旨」,岩志和一朗著「身分法としての民法の変容と戸籍」

小野博司著「〈戸籍〉の成立」,増田勝久著「現在の戸籍制度が果たしている役割」,水野紀子著「戸籍の虚偽記載と訂正等をめぐる問題」,常岡史子著「戸籍制度と氏をめぐる問題」,

床谷文雄著「戸籍法の立法的課題」

 

法務省 「法定相続情報証明書制度」

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00284.html

 

戸籍謄本について みずほ銀行

https://www.mizuhobank.co.jp/retail/tetsuduki/inheritance/pdf/kosekitohon.pdf