田村が調べた「世界と米国の相続」

広報担当 秘書 田村 司

いつもご愛読有難うございます。

先日の晩(2018.1.31)の皆既月食(スーパームーン・ブルームーン・ブラットムーン)をご覧になりましたか?

35年ぶりの天体ショーが見られました。

実は私は初めて見ました。

 

オレンジ法律事務所は埼玉県の大宮駅徒歩3分に位置しています。

日本人と外国人が関係する複雑な相続のご相談も、海外の有資格の弁護士の協力を頂いて、解決した事案もあるようです。オレンジ法律事務所の海外弁護士とのネットワークで解決できる可能性もあるようです。外国人が被相続人で、お困りの方は一度ご相談いただけましたら、お力になれるかと思います。

 

通常の銀行取引では,日本居住の外国人と締結した預金債権発生・消滅(特約の無い限り)は行為地法(日本)によります。ですから通常は不便を感じません。

しかし,日本で外国人の相続が発生した場合,大変難しい問題が横たわっております。

当然,税法も違うので,節税対策も含めて本国法の相続に詳しい弁護士・専門家に必ず相談の上,相続手続をする必要が出てきます。

そこで,事前のご理解のため,簡単に世界の相続を分類して説明いたします。2種類(重複部分あり)に分類されます。

分類1,包括承継主義と管理清算主義,

分類2,相続統一主義と相続分割主義

そして,その図が下記のイメージ図になります。

相続統一主義とは不動産と動産を一体として,被相続人の属人法(本国法又は住所地法)によって規律しています。

相続分割主義とは不動産は所在地法,動産は被相続人の住所地法又は本国法を適用しています。

 

包括承継主義とは相続を親族関係に基づく財産・身分の包括的な承継です。

日本の相続法はこの包括承継主義になります。(なお昨年の9月に「前編 相続のお話」と「後編 相続のお話」を掲載しております。)

 

管理清算主義とは相続財産は一応全て遺産財団(Estate)帰属し裁判所に選任された人格代表者(personal representative)に,それによる管理清算を経た後,残余の積極財産についてのみ相続人への分配・移転が認められるようです。

この管理清算主義は,英米系が該当します。

 

管理清算主義のイメージとしては日本の限定承認の手続きに似ています。

戦後,家督相続から現代の相続法に改定するとき,英米法の人格代表制度の管理清算主義の利点を限定承認という選択肢として,議論され,規定されたようです。日本の限定承認は日本家督相続の包括承継主義と米国の管理清算主義の整合性を持たせるように検討されたようです。

日本の相続法では相続人は,選択肢は3つあります。単純承認,限定承認,相続放棄があります。プラス財産,マイナス財産(債務)をそのまま承継するものが単純承認です。特別な手続きは要りませんが,ある行為をすると単純承認したものとみなされます。

 

限定承認は被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐものです。

限定承認手続は相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に相続財産の目録を作成し,限定承認の申述をしなければなりません。そしてそれは相続人全員が共同して行います。

そして,相続人が数人ある場合にはその中から相続財産管理人が選任されます。相続財産管理人が人格代表者のイメージとなります。

つまり,限定承認のときの相続財産は相続財産管理人により,管理清算されます。人格代表者が相続財産を管理清算した上で残余があれば,相続人に分配されるようです。そっくり,似てますね!

 

被相続人の国籍が日本人でない場合は,「法の適用に関する通則法」を調べなければなりません。そうすると,その条文,第36条(相続)に「相続は,被相続人の本国法による。」と規定されている。そして,第41条「当事者の本国法によるべき場合において,その国の法に従えば,日本法によるべきときは,日本法による。」の規定があります。

 

米国の相続は州法により違いがありますが,probate court(検認裁判所)にpetition for probate(申請書類)を提出。裁判所が発行するletters testamentaryにより権限付与された遺言執行者,遺産管理人(人格代表者personal representative)が裁判所に代わって法律行為をします。日本に居住した米国人が死亡した場合は,当該州法の反致条項を確認して,反致条項があるなら日本法が適用となります。

 

日本法→米国法→日本法にもどってくるのが反致です。

言葉の説明を若干致します。

Personal representative (人格代表者)とは,遺言相続の場合におけるexecutor(遺言執行者)および無遺言相続の場合におけるadministrator(遺産管理人)の双方を含めて人格代表者という。

人格代表者は裁判所の監督のもとに遺言を執行し,また遺産の収集および清算を行い,残余財産について相続人への遺産の分配案を決定し,管理計算書とともに裁判所へ提出し,裁判所の承認をうけることによって,その任務を終了する。

 

Probate(検認)とは,1,法定の方式に従って,遺言能力のある遺言者によって作成された遺言として証明され裁判所によって確定されること。またそのような遺言であるかどうか,その有効・無効を確定する手続をいう。(日本の検認は証拠保全の意味で取り扱われています。)

検認の申立ての義務を有する者,遺言の所持人であるが,executor(遺言執行者)に指定された者も検認の申立てができます。

2,検認には,検認手続の開始時に通知がなされたことを必要としない通常形式の検認(probate in common form)と全利害関係人に通知がなされた上で,聴聞が行われる訴訟形式の検認(probate in solemn form)とがあるようです。

3,Probateと言う言葉は相続関係の手続一般(administration of estate)を含む意味でも用いられるようです。

 

もう一つ,面白い発見を致しました。「相続税は誰に課税されるか」でありますが,日本は相続人に課税されますが,米国は被相続人に課税されるようです。だから人格代表者が被相続人の財産から清算・納税されるようです。

 

先般(2015.8.17)EU加盟国(英国,アイルランド,デンマーク王国を除く)の国籍保有者は,原則として「被相続人が,その死亡時にその常居所を有している国の法」と定められました。他方で遺言によって,明示的に自らの本国法又は死亡時の本国法を選択することができます。ですから日本で死亡するとEU加盟国の国籍保有者は遺言で特別な明示がなければ日本法が適用になります。

そして,隣の国(韓国)の相続は第四順位まであります。そして,韓国の遺言書に「日本法を適用する」旨の記載により,韓国法の反致条項により,日本の法律で取扱可となるようであります。ただし日本に居住して死亡した場合に限るようです。

お読み頂き有難うございます。再度申上げます。概略を簡単に説明いたしましたが,大変難しい分野であり,専門家に十分確認の上でお取り扱いください。

全体のイメージを掴んで頂けましたら,それが私の喜びです。

 

 

 

 

 

 

参考文献

山田 鐐一著『国際私法(新版)』 有斐閣 2003 :563-590

溜池 良夫著『国際私法 講義[第3版] 』 2005  有斐閣:546-550

 

第一東京

弁護士会

人権擁護委員会    編者 『外国人の法律相談Q&A第2次改訂版』ぎょうせい2011

国際人権部会

 

東京弁護士会法友全期会編集『遺言書作成・遺言執行実務マニュアル』 新日本法規 2008

最高裁判所事務総局家庭局監修  『渉外家事事件執務提要 上・下』 法曹會2000