特許法102条2項の推定覆滅について,製品に対する特許発明の実施部分の割合に基づく覆滅率を25%,その他の観点からの覆滅率を25%として損害賠償を認めた事例(東京地裁平成30年3月1日判決)

主文
事実及び理由
第1 請求
第2 事案の概要
第3 当裁判所の判断

オレンジ法律事務所の私見・注釈

弁護士 辻本恵太

本件は,発明の名称をいずれも「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする2件の特許権を有するXが,①Y1おいて,Y製品を輸入し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をした行為,②Y2において,Yの各製品を輸入し又は販売した行為が,いずれもXの上記各特許権を侵害していた旨主張して,不法行為に基づく損害賠償等を請求をした事案である。
 なお,Yの各製品が特許権2に係る特許発明の技術的範囲に属すること,特許権2に係る特許が有効であることは当事者間に争いがなく,主たる争点は,Xの損害額である。
裁判所は,対象期間におけるY1,Y2の限界利益額を認定したうえで,Y製品全体に対する特許発明の実施部分の割合を理由とする覆滅率を25%,その他の観点からの覆滅率を25%として,限界利益額の5割及び弁護士費用の損害賠償金の支払いを認めた。
3  特許法102条2項は,「特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する」と規定し,侵害者による特許権侵害行為がなければ,特許権者が利益を得られたであろう事情があるときには特許法102条2項の適用が認められる。
 他方,「特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である」とされ(知財高裁平成25年2月1日判決〔紙おむつ処理容器事件知財高裁大合議〕,この覆滅できるか否かについては,「侵害行為によって生じた特許権者等の損害を適正に回復するとの観点から,侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といった営業的要因や,侵害品の性能,デザイン,需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的に考慮して」判断すべきものであるとされる(知財高裁平成26年12月17日判決)。
 本判決も同じ枠組みと考慮要素を用い,製品に対する特許発明の実施部分の割合に基づく覆滅率を25%,その他の観点からの覆滅率を25%として,合計50%の推定覆滅を認定したものである。
特許侵害を理由に損害賠償請求をする特許権者にとって,推定覆滅は損害額への影響が大きいにもかかわらず,推定覆滅率の算定過程の分析が困難であり,予測がしにくい印象があるが,本件は,覆滅率を客観的に算定が容易な事情(実施割合)と,その他の事情に分けて検討したことに特徴があり,今後の裁判への影響が考えられ,実務上,参考になろう。
2020・5・15 弁護士 辻本恵太

主文

 1 被告ハナヤマは,原告に対し,1億6721万6599円及び別紙1-1記載1ないし10の各「内金額」欄の内金額に対する同別紙記載1ないし10の各「起算日」欄の年月日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
 2 被告エイチ・ディー・エスは,原告に対し,7772万8816円及び別紙1-2記載1ないし10の各「内金額」欄の内金額に対する同別紙記載1ないし10の各「起算日」欄の年月日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
 6 この判決に対する原告の控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1 請求

 1 被告ハナヤマは,原告に対し,3億3443万3199円及び別紙2-1記載1ないし10の各「内金額」欄の内金額に対する同別紙記載1ないし10の各「起算日」欄の年月日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
 2 被告エイチ・ディー・エスは,原告に対し,1億5545万7627円及び別紙2-2記載1ないし10の各「内金額」欄の内金額に対する同別紙記載1ないし10の各「起算日」欄の年月日から各支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。

第2 事案の概要

 本件は,発明の名称をいずれも「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする特許第5514962号及び特許第5575340号に係る各特許権を有する原告が,①被告ハナヤマにおいて,別紙3被告製品目録記載の各製品(以下,同目録記載1の製品を「被告製品1」,同目録記載2の製品を「被告製品2」といい,これらを併せて「各被告製品」という。)を輸入し,販売し,販売のために展示し,又は販売の申出をした行為,②被告エイチ・ディー・エスにおいて,各被告製品を輸入し又は販売した行為が,いずれも原告の上記各特許権を侵害していた旨主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき,被告ハナヤマに対し,損害賠償金3億3443万3199円及び別紙2-1記載1~10の各「内金額」欄の内金額に対する不法行為日又は不法行為後の日である同別紙記載1~10の各「起算日」欄の年月日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の支払を,被告エイチ・ディー・エスに対し,損害賠償金1億5545万7627円及び別紙2-2記載1~10の各「内金額」欄記載の内金額に対する不法行為日又は不法行為後の日である同別紙記載1~10の各「起算日」欄の年月日から各支払済みまで年5分の割合による各遅延損害金の支払を,それぞれ求める事案である。なお,上記各特許権に基づく各損害賠償請求権の併合形態は,後記のとおり選択的併合である。
 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
  ⑴ 原告の特許権等
   ア 原告は,発明の名称を「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする特許第5514962号(出願日・平成23年6月23日,登録日・26年4月4日。以下「本件特許1」という。)に係る特許権(以下「本件特許権1」という。)を有している。
 本件特許1の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1,8~10の各記載は,本判決添付の本件特許1に係る特許公報の該当項記載のとおりであったが,被告ハナヤマは,平成27年2月23日,特許庁に対し,本件特許1についての特許無効審判(無効2015-800034。以下「本件無効審判1」という。)を請求し,他方,原告は,同年6月5日付けで,特許庁に対して特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求(以下,「本件訂正請求1」という。)をした。特許庁は,同年12月28日,本件無効審判1につき,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決1」という。)をし,被告ハナヤマが,知的財産高等裁判所に対し,同審決の取消しを求める審決取消訴訟(平成28年(行ケ)第10035号)を提起したが,平成28年11月28日,同裁判所において請求棄却判決を受け,同判決は確定した。本件審決1の確定により,本件特許1に係る特許請求の範囲の請求項1,8~10の各記載は,遡及的に次のとおりとなった(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1-1」,請求項8~10に係る発明をそれぞれ「本件発明1-8」~「本件発明1-10」といい,これらを併せて「本件発明1」という。)。なお,下線部は本件訂正請求1及び本件審決1に係る訂正部分である。
 (ア) 請求項1
 一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
 前記リンクはブルニアンリンクであり,前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり,
 ベースと,
 ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバーであって,ピンバーは,各々がリンクを望ましい向きに保持するための上部フレアー状部分を含んだ,列に配置された複数のピンと,複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上のアクセス溝を含むものと,
 を含むキット。
 (イ) 請求項8
 リンクの一端を捕捉するためのアクセス溝中に伸長するように適応されたフックを含む,請求項1記載のキット。
 (ウ) 請求項9
 一連のリンクの端部を一緒にしっかり留めるためのクリップを含む,請求項1記載のキット。
 (エ) 請求項10
 一連のリンクは,一連の弾性バンドを含む,請求項1記載のキット。
 (以上,甲1,2,14,24,43,乙34,弁論の全趣旨)
   イ 原告は,発明の名称を「ブルニアンリンク作成デバイスおよびキット」とする特許第5575340号(出願日・平成26年1月29日(特願2013-537663の分割),原出願日・平成23年6月23日,優先日・平成22年11月5日,登録日・平成26年7月11日。以下「本件特許2」という。)に係る特許権(以下「本件特許権2」といい,本件特許権1と併せて「本件各特許権」という。)を有している。
 本件特許2の特許出願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1,3,6~8,10及び11の各記載は,本判決添付の本件特許2に係る特許公報の該当項記載のとおりであったが,被告ハナヤマは,平成27年2月23日,特許庁に対し,本件特許2についての特許無効審判(無効2015-800035。以下「本件無効審判2」という。)を請求し,原告は,同年6月5日付けで,特許庁に対して特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求(以下,「本件訂正請求2」という。)をした。特許庁は,同年12月28日,本件無効審判2につき,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決2」という。)をした。被告ハナヤマは,知的財産高等裁判所に対し,同審決の取消しを求める審決取消訴訟(平成28年(行ケ)第10036号)を提起したところ,平成28年11月28日,同裁判所が請求棄却判決をしたため,最高裁判所に対し,上告受理申立てをしたが,同裁判所は,平成29年8月25日,上告不受理決定をし,これにより,本件審決2は確定した。本件審決2の確定により,本件特許2に係る特許請求の範囲の請求項1,3,6~8,10及び11の各記載は,遡及的に次のとおりとなった(以下,請求項1,3,6~8,10及び11に係る各発明を併せて「本件発明2」といい,これと本件発明1を併せて「本件各発明」という。)。なお,下線部は本件訂正請求2及び本件審決2に係る訂正部分である。
 (ア) 請求項1
 一連のリンクからなるアイテムを作成するための装置であって,
 前記リンクはブルニアンリンクであり,前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり,
 ベースと,
 ベース上にサポートされた複数のピンと,を備え,
 前記複数のピンの各々は,リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,当該複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面側の開口部とを有し,複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている
 装置。
 (イ) 請求項3
 上部部分が,複数のピンの少なくとも1つの上でリンクをその場に保持するためのフレアー状部分を含む,請求項1記載の装置
 (ウ) 請求項6
 一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
 前記リンクはブルニアンリンクであり,前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり,
 リンクを望ましい向きに保持するための上部部分と,複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面側の開口部を含み,ベースによりお互いに対してサポートされた複数のピンを備え,
 前記複数のピンは,複数の列に配置され,相互に離間され,且つ,前記ベースから上方に伸びている,
 キット。
 (エ) 請求項7
 望ましい向きに保持されたリンクを,複数のピンの少なくとも1つの上で操作するためのフックツールを含む,請求項6記載のキット
 (オ) 請求項8
 一連のリンクの端部を接続するための少なくとも1つのクリップを含み,該クリップは,各リンクをクリップの内側エリア内に捕捉するための内向きに面した端部を含む,請求項6記載のキット。
 (カ) 請求項10
 開口部が,複数のピンの各々の少なくとも1つのサイドに沿って配置されたアクセス溝である,請求項6記載のキット。
 (キ) 請求項11
 上部部分が,複数のピンの少なくとも1つの上でリンクをその場に保持するためのフレアー状部分を含む,請求項6記載のキット。
 (以上,甲8,11,15,25,44,62,乙35,弁論の全趣旨)
  ⑵ 各被告製品の本件各発明についての構成要件充足性等
   ア 本件発明1-1を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。
 A 一連のリンクからなるアイテムを作成するためのキットであって,
 B 前記リンクはブルニアンリンクであり,前記アイテムはブルニアンリンクアイテムであり,
 C ベースと,ベース上にサポートされた少なくとも1つのピンバーであって,
 D ピンバーは,各々がリンクを望ましい向きに保持するための上部フレアー状部分を含んだ,列に配置された複数のピンと,
 E 複数のピンの各々の,ピンの列の方向の前面上のアクセス溝を含むものと,
 F を含むキット。
   イ 本件発明1-8~本件発明1-10は,いずれも本件発明1-1の従属発明である。
   ウ 各被告製品は,本件発明1-1の構成要件A,B,E,Fをいずれも充足する。
   エ また,各被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属する。
  ⑶ 被告らの売上等
   ア 被告エイチ・ディー・エスは,業として,各被告製品を平成26年7月11日から平成27年4月30日までの間(以下,同期間を「対象期間」という。),輸入し,日本国内において被告ハナヤマに販売した。また,被告ハナヤマは,業として,対象期間中に各被告製品を日本国内において販売した。
   イ 被告ハナヤマの対象期間における各被告製品の売上及び仕入原価は以下のとおりである。
 (ア) 売上
 被告ハナヤマの対象期間における各被告製品の売上は,下記一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円である。
 記
 「●(省略)●」
 以上
 (イ) 仕入原価
 被告ハナヤマの対象期間における上記(ア)の売上に係る各被告製品についての仕入原価は,下記一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円である。
 記
 「●(省略)●」
 以上
   ウ 被告エイチ・ディー・エスの対象期間における各被告製品の売上及び仕入個数は以下のとおりである。
 (ア) 売上
 対象期間における被告エイチ・ディー・エスの被告ハナヤマに対する各被告製品の売上は,上記イ(イ)の一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円である。
 (イ) 各被告製品の仕入個数
 対象期間における被告エイチ・ディー・エスの被告ハナヤマに対する各被告製品の譲渡数量は,下記一覧表のとおり,被告製品1の通常販売に係る譲渡数量が合計「●(省略)●」個,被告製品1の先行販売に係る譲渡数量が合計「●(省略)●」個,被告製品2の譲渡数量が合計「●(省略)●」個であり,これらはいずれも対象期間における被告エイチ・ディー・エスによる各被告製品の仕入個数と一致する。
 記
 「●(省略)●」
 以上
  ⑷ 本件訴訟における無効主張に関する経過
 なお,被告らは,従前,本件特許1及び2がいずれも無効であるとして特許法(以下「法」という。)104条の3に基づく無効の抗弁を主張していた。当裁判所は,本件各特許権について侵害論の審理を行い,第17回弁論準備手続期日において,被告ハナヤマが全ての構成要件充足性を認めた上で無効の抗弁の主張をした本件特許権2について無効の抗弁は成立しないとの心証を開示した上で損害論の審理に入ったが,本件特許権1については損害論の審理に入らなかった。その後,上記⑴のとおり本件審決1及び2がいずれも確定したことなどを受けて,被告らは,第25回弁論準備手続期日において,上記無効の抗弁の主張をいずれも撤回した。(弁論の全趣旨)
 2 争点
  ⑴ 各被告製品の本件発明1についての文言侵害の成否(争点⑴)
  ⑵ 各被告製品の本件発明1についての均等侵害の成否(争点⑵)
  ⑶ 原告の損害額(争点⑶)
 3 争点に関する当事者の主張
  ⑴ 争点⑴(本件各被告製品の本件発明1についての文言侵害の成否)について
 [原告の主張]
   ア 本件特許1の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書1」という。)には以下の各記載がある。
 (ア) 【背景技術】
 「従って,独自の装着可能なアイテムを作成するための材料を提供するのみでなく,望ましく耐久性のある装着可能なアイテムを成功裡に作成することを多くの技量および芸術的レベルの人々にとって容易するように構築を簡略化もするキットについての必要と願望がある。」(段落【0003】。ただし抜粋)
 (イ) 【発明の概要】
 「ブルニアンリンク(Brunnian link)とは,チェインを形成するために,別の閉じたループを捕捉するようにそれ自体上で二重化された閉じたループから形成されたリンクである。」「例示的キットは,ブルニアンリンク組み立て技術を使って独自の装着可能な物品の成功する作成を提供する」(段落【0004】。ただし抜粋)
 (ウ) 【発明を実施するための形態】
  a 「ピンバー14は,単一の列に規定された複数のピン26を有する一体構造である。ピン26の各々は等距離Aの間隔を空けられている。」(段落【0014】。ただし抜粋)
  b 「図14A-Cを参照すると,例示的キットによって提供されるブルニアンリンクを形成する方法は,弾性バンドを隣接するピン26上に装填する最初のステップを含む。この例では,一番右の端部で始まって各ゴムバンドが隣接するピンに渡って引き伸ばされ中央部分において保持される。第1の弾性バンド52が,隣接するピン26の第1のペアの間に置かれる。第2の弾性バンド54がそれから,前に組み立てられた第1の弾性バンド52の一端の上に置かれ,それから第3の弾性バンド56等々,望ましい数のゴムバンドが対応するピンバー14上に置かれるまで,となる。これらの例では,3つの弾性バンド52,54および56のみが説明の目的で示されているが,実際には,完成品の望ましい長さを提供するために多くの弾性バンドが利用され得ることに注意されたい。」段落【0020】
  c 「一旦弾性バンド52,54および56がピン26の各々の上に置かれると,フック16が,アクセス溝40中に挿入され,一番上の弾性バンド56を通り過ぎて下向きに動かされる。フック16はそれから,弾性バンド54の一端がフック端中に捕捉されることを許容するのに十分な距離だけ矢印58によって指し示された方向に溝から外向きに動かされる。更なる持ち上げは,図14Bに示されるように別の隣接するピン26上での組み立てのために第3の弾性バンド56の端部を通して60によって指し示された方向に第2の弾性バンド54の捕捉された端部を引っ張り上げる。捕捉された端部は,フランジ状上部38の上を越えて引っ張り上げられ,隣接するピン上に引っ張り戻されて,単一のリンクを形成する。弾性バンド54の捕捉された端部はそれから,隣接するピン26と係合するように開放される。このプロセスが,望ましい長さのリンクのチェインが得られるまで繰り返される。」(段落【0021】)
 (エ) 図14A~図14C
図省略
   イ 上記アに掲記した本件明細書1の記載及び図面を踏まえれば,本件発明1の構成要件C及びDの「ピンバー」は,①複数のピンが等間隔で列になって配列されている構造であり,かつ,②当該複数のピンを物理的に一体のものとして取り扱うことのできる構造を意味するものと解釈すべきである。なお,構成要件Cの「ベース」と「ピンバー」との関係については,ピンバーがベース上にサポート(支持)されていればよいのであるから,「ベース」と「ピンバー」が一体の場合を含む。
 各被告製品は,①複数のピンが,等間隔で,列になって配列されている構造を含み,②それらの複数のピンは「ベース」を通じて物理的に一体のものとして取り扱うことのできる構造となっている。したがって,各被告製品のうち下図のベース上の点線で囲まれた部位が,「ピンバー」に相当する。
図省略
   ウ したがって,各被告製品は「ピンバー」を備えるものといえ,本件発明1-1の構成要件C及びDを充足するから,本件発明1-1の全ての構成要件を充足するし,本件発明1-1にフック,クリップ及び弾性バンドを付加したにすぎない本件発明1-8~本件発明1-10の技術的範囲にも属する。したがって,各被告製品について,本件発明1に係る特許権の文言侵害が成立する。
 [被告らの主張]
 本件明細書1によれば,本件発明1は,ベースとピンバーを様々な組み合わせ及び向きに組み立てることができる編み機を提供し,もって,無尽のバリエーションの編み物製品を容易に製作できるようにすることにある(段落【0005】)。また,本件明細書には,「ベース」と「ピンバー」が別体である構造についてのみが説明されており(段落【0011】,【0018】,【0012】,【0013】,【0017】),「ベース」と「ピンバー」が一体である構造については一切説明されていない。したがって,本件発明1-1の構成要件C及びDの「ピンバー」は,「ベース」との組み合わせにより様々に編み機全体の形状を変化させることのできるものでなければならず,少なくとも「ベース」とは別体で,「ベース」から取り外し,組み合せることが可能である必要がある。
 これに対し,各被告製品には,ベースに取り付けたり,ベースから取り外したりできる構造を有する部分がなく,各被告製品が「ピンバー」を有しないことは明白であるから,各被告製品は,本件発明1-1の構成要件C及びDを充足しない(なお,各被告製品にはピンバーを取り付けたり外したりできる構造を有する部分もないから,各被告製品は,本件発明1-1の構成要件Cの「ベース」も備えていない。)。したがって,各被告製品について,本件発明1-1に係る特許権の文言侵害は成立せず,本件発明1-1の従属項である本件発明1-8~本件発明1-10に係る特許権の文言侵害も成立しない。
  ⑵ 争点⑵(各被告製品の本件発明1についての均等侵害の成否)について
 [原告の主張]
 仮に,本件発明1-1の構成要件C及びDの「ピンバー」が「ベース」と別体で物理的に分離可能でなければならないとすると,本件発明1の構成と各被告製品とは,「ベース」上に直接「ピン」が固定されるか(各被告製品),「ピン」を含む「ピンバー」が「ベース」上にサポートされるという形態で固定されるか(本件発明1)という点(以下「本件相違点」という。)で文言上相違することとなる。しかし,以下のとおり,各被告製品は,本件相違点について均等論の要件をいずれも満たすものといえるから,本件特許権1の均等侵害が成立する。
   ア 第1要件(本件発明1の非本質的部分)
 本件明細書1によれば,本件発明1の本質は,ブルニアンリンクの作成キットであること,ベース上に,アクセス溝と上部フレアー状部分を含んだ複数のピンが列になって配置され,当該列においては,該ピンは,アクセス溝の方向を揃えて等間隔で配置されていることであって(段落【0004】,【0020】,【0021】及び【図14A】~【図14C】参照),列になって配置された複数のピンが,「ピンバー」として,「ベース」と別体に構成されていることは,本件発明1の本質的部分ではない。
 したがって,本件相違点は,非本質的部分にとどまり,各被告製品は,均等論の第1要件を充足する。
   イ 第2要件(置換可能性)
 「ピンバー」と「ベース」が一体に形成されようが別体に形成されようが,ベース上に複数のピンが固定されているという構成において何ら相違はなく,各被告製品は本件発明1と同様,ブルニアンリンクを製作できる。したがって,各被告製品と本件発明1とで,何ら作用効果において相違する点は存在しない。よって,各被告製品は,均等論の第2要件を充足する。
   ウ 第3要件(置換容易性)
 本件明細書1に記載された本件発明1の構成及び作用効果に鑑みると,ブルニアンリンクの作成には,4個以上のピンが列になって等間隔で配置されていれば十分であることは明らかである。したがって,ピンバーとベースを一体に構成することは当業者にとって自明であって,何ら困難はない。よって,各被告製品は,均等論の第3要件を充足する。
   エ 第4要件(公知技術等非該当)
 本件発明1は,任意の長さのブルニアンリンクを作成できるという点に本質があるところ,これを実現するための構成,すなわち,ピンが一列の直線状に並んだピンバーの構成において,当該直線方向に沿って全てのピンのアクセス溝が前面を向いて並んでいるという構成は,本件特許1の出願当時に存在した公知技術から容易に推考できるものではなかった。よって,各被告製品は,均等論の第4要件を充足する。
   オ 第5要件(非意識的除外等)
 本件明細書1の段落【0009】以下には,「ベース」と「ピンバー」が別体である実施例が開示されているが,これらはいずれも実施例にすぎず,ベースとピンバーが一体となった構成を明示的に除外する記載は存在しない。また,原告が本件特許1の出願審査の過程等において,ピンバーとベースとが一体に形成された構成を意識的に除外した事情もない。よって,各被告製品は,均等論の第5要件を充足する。
 [被告らの主張]
   ア 第1要件について
 本件発明1は,無尽のバリエーションの編み物製品を,容易に製作することができる編み機を提供するという技術的課題を解決すべく,「ベース」と「ピンバー」を,様々な向きに組み合わせ,組み立てることができる編み機を提供し,かかる編み機を用いて編むことにより,無尽のバリエーションの編み物製品を容易に製作できるようにしたものであるから,本件発明1の本質的部分は,「ベース」及び「ピンバー」が別体で,様々な向きに組み合わせることのできる構造を有するという点にある。
 したがって,本件相違点は本件発明1の本質的部分に係るものといえ,均等論の第1要件を充足しない。
   イ 均等論の第2要件について
 本件発明1は,従前の編み機と異なり,「ベース」及び「ピンバー」を別体にし,様々な向きに組み合わせることのできる構造とすることで,これまで提供されてきた編み機では製作することができなかった無尽のバリエーションの編み物製品を容易に製作できるという作用効果を有するものであるところ,本件相違点に係る本件発明1の構成を,各被告製品の構成と置き換えた場合には,「ベース」と「ピンバー」を様々な向きに組み合わせることができず,本件発明1の作用効果を奏することはできない。
 よって,均等論の第2要件も充足しない。
   ウ 均等論の第3要件について
 上記イのとおり,本件相違点に係る本件発明1の構成を各被告製品における構成と置き換えると,同一の作用効果を奏することができない。したがって,当業者が,そのような置換えを容易に想到することはできず,均等論の第3要件も充足しない。
   エ 均等論の第4要件について
 ベースとピンバーを様々な向きに組み合わせることのできない構造の編み機は,本件特許1の出願時においてありふれたものであった。各被告製品は,このようなありふれたものであった編み機と同一の構造であるから,均等論の第4要件も充足しない。
   オ 均等論の第5要件について
 上記エのとおり,本件特許1の出願時において,各被告製品のようなベースとピンバーが一体である編み機はありふれたもので,当業者もそのように認識していたから,かかる構造を有する編み機について特許出願をするとは考えられないし,本件明細書1にも,「ベース」と「ピンバー」が一体である編み機に関する記載は一切ない。したがって,原告は,各被告製品のような「ベース」と「ピンバー」が一体である編み機を特許請求の範囲から意識的に除外したといえ,均等論の第5要件も充足しない。
  ⑶ 争点⑶(原告の損害額)について
 [原告の主張]
   ア 被告ハナヤマによる本件各特許権の侵害に係る原告の損害額
 (ア) 法102条2項に基づく損害額の算定
  a 原告は,被告ハナヤマによる本件各特許権の侵害行為について,いずれも法102条2項に基づく損害を主張するから(なお,本件特許権1の侵害による損害賠償金の請求と本件特許権2の侵害による損害賠償金の請求とは選択的併合の関係にある(第24回弁論準備手続期日における原告の陳述)。),被告ハナヤマが本件特許権1又は2の侵害行為により得た利益の額(限界利益額)が原告の受けた損害の額と推定される。
  b 各被告製品の売上
 被告ハナヤマの各被告製品の売上は,上記1⑶ア(ア)のとおり,「●(省略)●」円であるから,同額を基準に被告ハナヤマの限界利益を算定すべきである。
 これに対し,被告ハナヤマは,被告製品1には編み機,フック,クリップ及び弾性バンド以外に取扱説明書が,被告製品2にはこれら以外にアクセサリーの作り方の解説本である「作り方BOOK」(以下「本件解説本」という。)やビーズが含まれているところ,原告の損害算定に当たって根拠とすべき売上は,各被告製品のうち編み機,フック,クリップ及び弾性バンドの部分に対応する売上に限定すべきであると主張する。
 しかしながら,被告ハナヤマが商品として販売しているのは,被告製品1及び被告製品2であって,編み機本体等を独立した商品として販売しているわけではない。また,例えば取扱説明書について,編み機本体等と別の製品として販売しているわけでもない上,取扱説明書等は,編み機本体等がなければ全くの無価値である。したがって,各被告製品の限界利益から,編み機本体等の限界利益を分離して算出することはできない。
  c 各被告製品の仕入原価
   ⒜ 各被告製品の仕入原価は,上記1⑶イ(イ)のとおり,「●(省略)●」円である。
   ⒝ これに対し,被告ハナヤマは,各被告製品の仕入原価に原価比率なる概念を乗じることにより,売上から控除すべき各被告製品の仕入原価を計算している。しかしながら,被告ハナヤマは各被告製品をいずれも一つの商品として仕入れているのであって,編み機本体等を分離して仕入れているわけではないから,仕入原価に原価比率を掛け合わせて,編み機本体等の仕入原価を算出するという計算方法は妥当でない。
  d  仕入原価以外の限界経費
   ⒜ 仕入原価以外に認められる限界経費は運搬費用のみである。上記1⑶ウ(イ)のとおり,対象期間における各被告製品の譲渡数量は,合計「●(省略)●」個であるところ,その運搬費用は多くとも一個当たり5円であるから,下記一覧表のとおり,運搬費用は,対象期間における各被告製品の譲渡数量に5円を乗じた合計「●(省略)●」円である。
 記
 「●(省略)●」
 以上
   ⒝ これに対し,被告らは,対象期間に販売した被告ハナヤマの全商品の売上に占める各被告製品の売上の比率によって,各被告製品の運搬費用を算出しているが,運搬費用は,必ずしも売上に比例するものではないから,上記のような算出方法は妥当でない。
 また,被告らが被告ハナヤマの仕入原価以外の限界経費として主張する運搬費用以外の経費については,いずれも各被告製品の販売に直接関連する経費とはいえないから,限界利益の算出に当たってこれらを控除することはできない。
  e 限界利益
 したがって,対象期間における各被告製品の販売による被告ハナヤマの限界利益は,下記一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
 記
 「●(省略)●」
 以上
  f 推定覆滅
 原告は,輪ゴムを編み込んで作るアクセサリーの編み機の開発者であり,米国において,本件各発明の実施品である「レインボールーム」(以下「原告製品」という。)を平成23年(2011年)から販売し,世界中で大ブームを巻き起こした。原告製品は,日本においても人気商品となっていたが,被告らは,原告製品の人気に便乗して,原告の本件各特許権を侵害したのである。
 各被告製品の売上は,以下のとおり,専ら本件各発明の作用効果によってもたらされたものであり,本件各発明の技術が需要者の購買動機となっているから,損害額の推定は一切覆滅されない。
   ⒜ 各被告製品の売上に対する本件各発明の寄与が大きいこと
 各被告製品は,輪ゴムを利用して,アクセサリーを作成するためのキットであるが,編み機本体等がなければ,輪ゴムを利用したアクセサリーを作成することはできないし,取扱説明書等だけでは,輪ゴムを利用したアクセサリーを作成することはできない。したがって,需要者の購入動機となっているのは,本件各発明の実施品である編み機本体等であって,各被告製品の商品価値は全て本件各発明によってもたらされているから,本件各発明こそが各被告製品の売上に寄与している。
 このことは,被告ハナヤマが,「カンタン&たのしくつくれちゃう!」(乙67の2),「作り方はカンタン!」(乙68),「簡単アクセサリー作り」(乙71の1),「シリコーンバンドを編み込むだけで,手軽にブレスレットが作れる」(乙71の3),「編み機とシリコンバンド7色入りで,カンタンに作れるのもいいね!」(乙73の1),「シリコンバンドを編むだけで,簡単にブレスレットなどのアクセサリーが作れるメイキングホビー」(乙73の3),「自分だけのオリジナルアクセサリーが簡単に作れる」(乙74の3),「子供でもできる簡単作業なので」(乙76の3),「誰でも簡単にくさり編み状のアクセを作ることができます」(乙80の1)などと,誰でも容易にブレスレット又はネックレスを作成できるというまさに本件各発明の技術的効果(本件発明2に係る明細書の段落【0003】参照)を利用して宣伝を行っていたことからも明らかである。
   ⒝ 原告の営業努力及び原告製品のブランド力が優れていたこと
 原告は,米国で平成23年(2011年)から原告製品の販売を開始した。原告製品は,同年に「Craft & Hobby Association」でイノベーション・アワードを,平成25年(2013年)に「Toy & Game Inventor of the Year Awards」で玩具デザイン賞を受賞し,平成26年(2014年)の「Toy Of The Year」においては,史上初めて「Toy Of The Year大賞」に加え“Activity”,“Girl”,“Specialty”の3部門も受賞した。また,「CNN」,「ニューヨーク・タイムズ」,「ブルームバーグ」でも特集されるなど,米国を代表するおもちゃとなり,平成25年の原告製品の年間販売数は,300万セットを超えた。
 原告は,日本国内における独占的販売事業者であるレインボールームジャパン株式会社を通じて,平成25年12月8日から,日本市場でも原告製品の販売を開始した。原告製品は,平成26年から平成27年にかけて,多くのテレビ番組(フジテレビの「はやく起きた朝は・・・」,テレビ朝日の「グッド!モーニング」,日本テレビの「スッキリ」,TBS(「ひるおび」,「王様のブランチ」,「NEWS23」),NHK中部(「ウィークエンド中部」),毎日放送(「ちちんぷいぷい」),TV朝日(「スマステーション!」),CBCテレビ(「イッポウ」),関西読売テレビ,NHK全国放送(「あさイチ」),など)や刊行物(日本ヴォーグ社「Tukutte7月号」(平成26年6月24日発売,光文社「Mart誌8月号」(平成26年6月28日発売),学研社「レインボールームガイドブック」(2冊組。平成26年8月11日発売),ブティック社「レインボールームガイドブック」(2冊組。平成26年8月28日発売),読売新聞(平成26年12月6日夕刊),講談社「なかよし」8月号(平成27年7月3日発売)などのメディアに取り上げられた。また,原告製品は,平成27年(2015年)に「日本ホビー協会賞」と「キッズデザイン賞」を受賞するなどし,日本においても爆発的なブームとなった。
   ⒞ 原告製品と各被告製品の需要者が共通すること
 インターネット通販サイトの各被告製品のレビューには,原告製品と各被告製品の両方を購入した需要者からの投稿が存在し,また,原告製品と各被告製品とが同じコーナーに展示されている量販店もある。このように,原告製品と各被告製品の需要者は共通している。
   ⒟ 原告と被告ハナヤマの営業戦略及び販路
 被告ハナヤマは,各被告製品を家族向けの手芸玩具とは考えておらず,女児のみの玩具としか考えていなかった。そのため,各被告製品の顧客ターゲットの範囲は,極めて狭いものであった。
 これに対し,原告は,原告製品を,父親と母親も一緒に遊ぶ女児向け手芸玩具と位置付け,女児だけなく,父親や母親を含めた家族全員をターゲットとしている。このように“大人でも楽しむことができる”というポイントも,原告製品が人気となった要因の一つである。原告は,上記のような原告製品の位置付けから,玩具店のみならず手芸店,さらには書店においても原告製品が販売されるようにする営業戦略を採った。具体的には,①需要者への直接販売(レインボールーム公式サイト及び大手オンラインショッピングモール(楽天市場,アマゾン)によるネット通販並びに展示会やショッピングモールでのワークショップによる実演販売など),②大手量販店(例えば,大手手芸店であるユザワヤ,イオン「パンドラハウス」,Canaelle(キャナエル)浅草橋前店,グランツリー武蔵小杉店,WRAPPLE(ラップル)福岡パルコ新館店,シモジマ 名古屋店,パッケージプラザエジマヤ(福岡県飯塚市),パッケージプラザ トヨフク中津店(大分県中津市)等)と大手玩具店であるイトーヨーカドー,KiddyLand,東急ハンズ ANNEX店(名古屋))への直接卸売販売,③卸売業者(石川玩具社,清原株式会社)への卸売販売,④出版社である株式会社学研プラスとの提携による日本全国の書店(数万店舗規模)及び学研オンラインショップ「ショップ.学研」での販売という4つの販路を展開した。
 このように,原告は,全国の大手手芸店は勿論,全国の大手玩具店や書店にも販売を広げていたのであり,玩具店のみという各被告製品の販路よりも広く,しかも,原告は卸売業者に卸すだけでなく,手芸店や玩具店大手チェーン店に直接に卸すことも行っており,更にはネット販売により直接販売を行っていたのであって,原告製品の営業戦略,顧客ターゲットが被告ハナヤマのそれよりも優れていたことは明らかである。
   ⒠ 競合品の存在が推定覆滅事由とならないこと
 被告らは,市場に各被告製品以外の多くの代替品・競合品が存在し,かつ,それらの市場占有率も決して無視できないものであったから,被告ハナヤマが各被告製品を販売していなくても原告製品が各被告製品と同数の商品を売り上げていたということはできないと主張する。しかしながら,被告らの主張する代替品・競合品は,いずれも本件各特許権の侵害品であり,このような本件各特許権の侵害品である競合品に向いた需要,すなわち,特許権侵害品を販売する競合メーカーの市場占有率を考慮して,推定覆滅事由とすることはできない。
 (イ) 弁護士・弁理士費用
 本件訴訟の遂行において,原告は代理人を選任せざるを得ず,弁護士・弁理士費用の発生は不可避であったから,被告ハナヤマの不法行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用として,「●(省略)●」円が認められる。
 (ウ) 合計
 以上より,原告の損害額は,「●(省略)●」円(上記(ア)e)及び「●(省略)●」円(上記(イ))の合計額である3億3443万3199円となる。
   イ 被告エイチ・ディー・エスによる本件各特許権の侵害に係る原告の損害額
 (ア) 法102条2項に基づく損害額の算定
  a 原告は,被告エイチ・ディー・エスによる本件各特許権の侵害行為について,いずれも法102条2項に基づく損害を主張するから(なお,本件特許権1の侵害による損害賠償金の請求と本件特許権2の侵害による損害賠償金の請求の関係が選択的併合であることは上記ア(ア)aのとおりである。),被告エイチ・ディー・エスが本件各特許権の侵害行為により得た利益の額(限界利益額)が原告の受けた損害の額と推定される。
  b 各被告製品の売上
 対象期間における被告エイチ・ディー・エスの各被告製品の売上は,前記1⑵ウ(ア)のとおり,合計「●(省略)●」円であるから,同額を基準に被告エイチ・ディー・エスの限界利益を算定すべきである。
 これに対し,被告らは,被告製品1には取扱説明書が,被告製品2には本件解説本やビーズが同梱されているところ,原告の損害算定に当たって根拠とすべき売上は,各被告製品のうち編み機等の部分に対応する売上に限定すべきであると主張するが,そのような主張に根拠がないことは上記⑴ア(イ)のとおりである。
  c 各被告製品の仕入原価
   ⒜ 対象期間における被告エイチ・ディー・エスによる各被告製品の仕入個数は,前記1⑵ウ(イ)のとおり,被告製品の通常販売分が「●(省略)●」個,被告製品1の先行販売分が「●(省略)●」個,被告製品2が「●(省略)●」個である。そして,各被告製品1個当たりの仕入原価は,被告製品1の通常販売分が「●(省略)●」円,被告製品1の先行販売分が「●(省略)●」円,被告製品2が「●(省略)●」円である。
 したがって,各被告製品の対象期間における仕入原価は,下記一覧表のとおり,被告製品1が合計「●(省略)●」,被告製品2が合計「●(省略)●」円となる。
 記
 「●(省略)●」
 以上
   ⒝ これに対し,被告エイチ・ディー・エスは,各被告製品の仕入原価に原価比率なる概念を乗じて計算しているが,このような計算方法が妥当でないことは上記ア(ア)c⒝のとおりである。
 また,被告エイチ・ディー・エスは,取引先にサンプルとして無償で提供した各被告商品についても仕入個数に含めて仕入原価を算出しているが,原告が本件各特許権の侵害を主張する対象は,あくまで販売された各被告製品であるから,仕入原価についても販売された各被告製品に係るもののみとすべきであって,サンプルとして無償提供するために仕入れた各被告製品を仕入個数に含めることはできない。
  d 仕入原価以外の限界経費
 被告エイチ・ディー・エスの主張する経費(倉庫関係費用,物流関係費用,貨物保険料)は,いずれも各被告製品の販売のためにのみ支払われたものとは認められないから,変動費又は直接固定費には当たらず,限界利益の算出に当たって控除することはできない。
 なお,万が一,被告エイチ・ディー・エスの主張する経費の一部が変動費又は直接固定費に当たるとしても,変動費又は直接固定費に当たるのは,各被告製品と関連商品の売上によって案分された金額(被告らの主張する限界経費の「●(省略)●」%)にとどまる。
  e 限界利益
 以上より,対象期間における各被告製品の販売による被告エイチ・ディー・エスの限界利益は,下記一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円となる。
 計算式:「●(省略)●」
 記
 「●(省略)●」
 以上
  f 推定覆滅
 各被告製品の売上が,専ら本件各発明の作用効果によってもたらされたものであって,損害額の推定が一切覆滅されないことは上記ア(ア)fのとおりである。
 (イ)弁護士・弁理士費用
 原告は,本件訴訟の遂行に当たって代理人を選任せざるを得ず,弁護士・弁理士費用の発生は不可避であったから,被告エイチ・ディー・エスの不法行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用として,「●(省略)●」円が認められる。
 (ウ) 合計
 以上より,被告エイチ・ディー・エスによる本件各特許権の侵害行為によって原告が受けた損害の額は,「●(省略)●」(上記(ア)e)及び「●(省略)●」円(上記(イ))の合計額である1億5545万7627円となる。
 [被告らの主張]
   ア 被告ハナヤマによる本件各特許権の侵害に係る原告の損害額
 (ア) 法102条2項に基づく損害額の算定
  a 被告ハナヤマが各被告製品の販売により得た限界利益は,各被告製品の売上から,各被告製品の仕入原価と,各被告製品の販売によって生じたその他の変動費及び直接固定費の合計額を差し引いた金額となるが,本件における法102条2項の「利益の額」は,上記限界利益の全額ではない。
 すなわち,原告は,本件各特許権の侵害を主張するが,一方で,本件各発明の技術的範囲に属しない物品の販売は,本件各特許権の侵害に当たらず,その販売から得られた限界利益は,法102条2項の「利益」に該当しない。被告製品1は,編み機本体,フック1本,クリップ25個,シリコンバンド600本及び取扱説明書がセットになった製品であり,被告製品2は,編み機本体,フック1本,クリップ50本,シリコンバンド1000本,ビーズ100個及び本件解説本がセットになった製品であるところ,被告製品1の附属品である取扱説明書,被告製品2の附属品であるビーズ及び本件解説本は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属しないものである。したがって,各被告製品に含まれる物品のうち,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドの販売に係る限界利益のみが法102条2項の「利益」に該当する。
  b 売上 「●(省略)●」円
 各被告製品の対象期間における売上は前記1⑵イ(ア)のとおり,「●(省略)●」円であるところ,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る売上は,対象期間における上記各被告製品の売上に,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドの被告製品における原価比率を掛け合わせることにより算出される。
 対象期間における編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る原価比率の平均値は,被告製品1については約「●(省略)●」%程度,被告製品2については約「●(省略)●」%程度である。そして,対象期間における被告製品1の売上(「●(省略)●」円)に被告製品1についての原価比率の平均値を掛け合わせると「●(省略)●」円となり,対象期間における被告製品2の売上(「●(省略)●」円)に被告製品2についての原価比率の平均値を掛け合わせると「●(省略)●」円となる。したがって,これらの合計金額である「●(省略)●」円が,対象期間における各被告製品のうち編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る売上である。
  c 限界経費 「●(省略)●」円
 対象期間に係る各被告製品の限界利益の計算において売上から控除すべき費用(限界経費)である変動費及び直接固定費は,以下のとおり仕入原価「●(省略)●」円並びに販売促進費用,広告宣伝費用,開発研究費用及び運搬費用の合計「●(省略)●」円の合計額である「●(省略)●」円である。
   ⒜ 仕入原価 「●(省略)●」円
 対象期間における被告製品の仕入原価は,「●(省略)●」円である。
 このうち,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドにかかる仕入原価も,上記bと同様に,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドの被告製品における原価比率を掛け合わせることにより算出される。すなわち,対象期間における被告製品1の仕入原価は,「●(省略)●」円であるから,これに原価比率約「●(省略)●」%を掛け合わせると「●(省略)●」円となり,対象期間における被告製品2の仕入原価は,「●(省略)●」円であるから,これに原価比率約「●(省略)●」%を掛け合わせると「●(省略)●」円となる。したがって,これらの合計金額である「●(省略)●」円が,対象期間における各被告製品のうち編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る仕入原価となる。
   ⒝ 販売促進費用 「●(省略)●」円
 被告ハナヤマが支出した各被告製品の販売促進費用は,各被告製品のチラシ,ポップの製作に関する費用,各被告製品に関する映像製作費用,各被告製品の特設販売スペースの設置に際して要した製品サンプル又はモニター等の費用及び各被告製品の実演販売費用等を合計した「●(省略)●」円であり,その内訳は,別紙4のとおりである。具体的には,例えば,被告ハナヤマは,株式会社「●(省略)●」に対し,被告製品の店頭販促ツールの製作を依頼し,その対価として「●(省略)●」円を支払っている(乙108~110)。
 なお,上記①~④の各金額には,対象期間以前の販売促進費用も含まれるが,対象期間以前に実施されたプロモ―ション活動,マーケティング活動及び宣伝広告活動は,対象期間以前のみならず,対象期間における各被告製品の売上にも寄与するものであるから,対象期間以前に実施されたプロモ―ション活動,マーケティング活動及び宣伝広告活動に要した費用も対象期間における被告製品の売上から控除されるべきである。
 そして,これに各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)に従って上記bの原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
   ⒞ 見本市出展料 「●(省略)●」円
 被告ハナヤマが支出した見本市出展料は,日本ホビー協会の開催する日本ホビーショー,東京玩具人形共同組合の開催する東京おもちゃショー等の各種業界団体が開催する玩具の見本市への各被告製品の出展費用を合計した「●(省略)●」円であり,その内訳は,別紙5のとおりである。具体的には,見本市への参加費,ブースの設営費用,実演者等の人件費,見本市用の販促物の製作費等の費用である。具体的には,例えば,「東京おもちゃショー2014」に各被告製品を出展し,その出展費用として,一般社団法人日本玩具協会に対して,「●(省略)●」円を支払った(乙111~113)。
 なお,上記各費用にも,上記⒝と同様に対象期間以前の分も含まれるが,対象期間以前に実施された費用も対象期間における各被告製品の売上に寄与するものであるから,対象期間以前の分に要した費用も,対象期間における被告製品の売上から控除されるべきである。
 そして,これに各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)に従って上記bの原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
   ⒟ 広告宣伝費用 「●(省略)●」円
 被告ハナヤマが支出した各被告製品の広告宣伝費用は,①テレビ,雑誌及びウェブへの広告掲載料や広告掲載のコンサルティング費用等(「●(省略)●」円),②小売店や問屋に対するカタログ掲載料や協賛金等(「●(省略)●」円)の合計「●(省略)●」円であり,その内訳は,別紙6-1及び別紙6-2のとおりである。具体的には,例えば,被告ハナヤマは,雑誌「ちゃお」への各被告製品に関するタイアップ記事の掲載費用「●(省略)●」円(乙114~119),テレビ東京「おはスタ」への番組提供費「●(省略)●」万円(乙120~122),「●(省略)●」のクリスマスカタログに被告ハナヤマの販売する商品を掲載するための掲載料「●(省略)●」円(乙123~125)を支払った。
 なお,上記①の費用には,上記⒝及び⒞と同様に,対象期間以前の広告に関する分を含むが,対象期間以前に行った広告も,対象期間における各被告製品の売上に寄与するから,同広告に要した費用も,対象期間における被告製品の売上から控除されるべきである。
 そして,同費用に各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)に従って上記bの原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
   ⒠ 開発研究費用 「●(省略)●」円
 被告ハナヤマが支出した開発研究費用は,各被告製品の商品開発費用や一般社団法人日本玩具協会の玩具安全基準への適合性検査費用等の開発研究費用を合計した「●(省略)●」円であり,その内訳は,別紙7のとおりである。具体的には,例えば,被告ハナヤマは,「●(省略)●」に対し,各被告製品の試作費として「●(省略)●」万円を支払った(乙126~128)。
 なお,上記費用にも,上記⒝~⒟と同様に,対象期間以前の費用を含むが,研究開発費用は各被告製品の販売に先だって不可避的に必要となる費用で,その性質上,販売期間に対応して償却されるべき費用であるから,対象期間以前の費用も,対象期間における各被告製品の売上から控除されるべきである。
 そして,同費用に各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)に従って上記bの原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
   ⒡ 運搬費用 「●(省略)●」円
 被告ハナヤマは,対象期間において,各被告製品を含む被告ハナヤマの販売する全ての商品に係る運搬費用(具体的には,各被告製品を含む商品の梱包その他の発送作業費用及び運賃)として,「●(省略)●」円を支出した。
 そして,対象期間における被告ハナヤマの販売する全ての商品の売上(「●(省略)●」円)に対する被告製品1の売上(「●(省略)●」円)の比率及び対象期間における被告ハナヤマの販売する全ての商品の売上(「●(省略)●」円)に対する被告製品2の売上(「●(省略)●」円)の比率は,いずれも約「●(省略)●」%であるから,上記運搬費用にこれらの各比率を掛け合わせることによって,各被告製品の運搬費用に相当する部分を算出することができる。
 その上で,各被告製品の運搬費用に相当する部分にそれぞれ上記⒝の原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。したがって,同額が限界利益の算出に当たって控除すべき各被告製品のうち編み機等に係る部分の運搬費用となる。
 「●(省略)●」
  d 限界利益
 したがって,各被告製品のうち,編み機等に係る被告ハナヤマの限界利益は,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
  e 推定覆滅
 各被告製品の売上は,以下のとおり,被告ハナヤマの有する販路の種類及び数,被告ハナヤマの営業力,営業戦略,宣伝広告及びプロモーション力等の賜物であって,本件各発明は各被告製品の売上にほとんど寄与していない。仮に技術面が売上に貢献しているのであれば,技術面で優位にある原告製品の方が各被告製品より多くの売上を得られたはずであるが,現実には,原告製品は,市場において各被告製品より圧倒的に劣勢であった。
 したがって,法102条2項による原告の損害額の推定は,少なくとも95%の割合で覆滅されるべきであり,結局,原告の損害額は,「●(省略)●」。
   ⒜ 顧客ターゲット及び営業戦略の相違
 原告製品と各被告製品とでは顧客ターゲット及び営業戦略が大きく異なる。
 原告は,原告製品がアメリカで主に手芸用品マーケットで成功したことから,日本でも同様のターゲットを設定すれば人気が出ると考えていた。そのため,原告製品は,その販路のほとんどが手芸専門店であり,主な顧客ターゲットは大人の女性である。
 これに対し,被告ハナヤマは,各被告製品のセールスポイントを可愛いアクセサリーを簡単に自分で作成できるという点に置き,顧客ターゲットを小学生女児に絞って玩具マーケットにおいて売り出すという営業戦略を取った。これは,アメリカにはホビー,クラフトとしての手芸用品に一定規模のマーケットがあり,子供から大人まで広範な年代層を顧客とする専門店も多数存在するのに対し,日本にはそのような広範な年代層を顧客とする手芸品マーケットや専門業態の店舗がほとんどなく,手芸の市場規模が小さいためである。
 このように,被告ハナヤマは,日本独特のマーケット,消費者動向や商慣習を熟知し,それを踏まえた顧客ターゲットの設定と営業戦略の採用を行ったのに対し,原告は,アメリカで成功した営業戦略をそのまま日本に持ちこんで商売し,方向修正もできなかった。
   ⒝ 原告と被告ハナヤマでは販路の種類及び数が異なること
 玩具業界では,製品の販売ルートを確保することがビジネスを成功させる重要な要素の一つである。
 被告ハナヤマは,創業80年を超える老舗の玩具メーカーとして,日本の玩具業界において高い信頼と実績を有し,名だたる企業とのタイアップ商品を多数手掛けけるなど,玩具業界において確固たる地位を築き上げており,その玩具販売ルートは,玩具店の他にも,百貨店,量販店,家電量販店,雑貨店,書店,手芸店等の広範囲に及ぶ。
 これに対し,原告の販売ルートは一部の手芸店や量販店などのごく狭い範囲に限られている。
   ⒞ 被告ハナヤマの宣伝広告及びプロモーション並びにブランド力が各被告製品の売上に寄与していること
 各被告製品の主要な消費者である小学生の女児が商品を購入する主な動機は,テレビや雑誌で紹介された商品である,知名度の高い商品である,友達が持っている商品であるというものだと考えられる。そのため,被告ハナヤマはこのような消費者の購買動機に着目した効果的な広告宣伝活動を行った。具体的には,被告ハナヤマは,各被告製品の販売店舗にPOPや店頭モニターを設置したほか,子連れの家族が集まる場所で体験会を実施するなど,のべ1000店舗以上,回数にして2000回以上,各被告製品の認知度の向上と拡販のためのイベントを開催した。
 また,被告ハナヤマは,年少児に対して大きな影響力をもつ媒体を通した広告宣伝活動に注力しつつ,多数の広告媒体を通じた広告宣伝活動も大規模かつ積極的に行った。例えば,小学生の認知度の高いテレビ番組であるテレビ東京「おはスタ」に,2014年12月及び2015年12月に,各被告製品を30秒間宣伝広告する枠を購入し,CS放送の子供向けテレビ番組キッズステーションの「ほびっちょ」1に,2014年10月3日から同年12月21日にわたり多数回テレビCMを放映するとともに番組内での商品告知も行った。また,被告ハナヤマは,各被告製品を売り出したのと同時期の平成26年から27年にかけて,小学生を中心とする女児の間で圧倒的な人気を誇る女児向け雑誌に多数の広告を掲載した。
 その結果,平成26年において,各被告製品は,多くのテレビ番組(NHK BS‐1のNHK WORLD,日本テレビの「ヒルナンデス」,「ズームインサタデー!」及び「真相報道バンキシャ!」,TBSの「あさチャン!」,「Nスタ」及び「ランク王国」,読売テレビの「かんさい情報ネット ten.」,テレビ長崎の「ヨジマル!」,札幌テレビのどさんこワイド179,テレビ東京の「おはスタ」,九州朝日放送の「アサデス。KBC」,関西テレビの「ミヤネのナンバーワン」等)で取り上げられたほか,その他のメディア(ラジオ,新聞,雑誌,フリーペーパー,ウェブサイト)においても,多数取り上げられた。また,各被告製品は,日経トレンド誌「2014年ヒット商品ベスト30」で同年に大ヒットした女児玩具として紹介され,東京玩具人形共同組合主催の「クリスマスおもちゃ見本市」において行われる人気投票「プロが選ぶ今年のクリスマスおもちゃ」において女の子向け玩具の第2位に選出された。さらに,業界誌月刊トイジャーナルにおいて発表された2014年12月のクリスマス商戦期の販売実績ランキングにおいて,各被告製品は,それぞれ全体の第4位(被告製品1)と第19位(被告製品2)にランクインした。さらに,平成27年にも,各被告製品は,引き続き多くのテレビ番組(テレビ朝日の「くりぃむナンチャラ」,NHKの「おはよう日本」,日本テレビの「PON!」及び「誰だって波瀾爆笑」,名古屋テレビの「ザキロバケイコ」,フジテレビの「とくダネ」,テレビ東京の「モーニングサテライト」及び「ほはスタ」,フジテレビの「めざましテレビ」,名古屋テレビの「ドデスカ!」等)で取り上げられたほか,その他のメディア(雑誌,ウェブサイト,イベントチラシ)にも多数取り上げられた。
 このように,被告ハナヤマによる宣伝広告及びプロモーションの結果,もともと被告ハナヤマが取り扱う商品として一定程度のブランド力を有していた各被告製品に,更なるブランド力が付与され,数ある競合製品の中で圧倒的な知名度を得たのであって,このことが,各被告製品の売上に大きく貢献した。
 これに対し,原告製品は,日本の市場で人気があったことを根拠付けるほどの受賞歴が見当たらないし,メディア等に取り上げられた数も各被告製品と比べて少なかった。
   ⒟ 各被告製品と原告製品の売上の差並びに各被告製品及び原告製品以外の多数の競合品が市場に存在したこと
 各被告製品と原告製品とでは,その売上に雲泥の差があり,特にブームの大きかった平成26年10月27日から平成27年1月4日までの各被告製品と原告製品の売上の比率はおよそ1対190となる。
 また,各被告製品の他に,各被告製品と同種の輪ゴムを編んでアクセサリーを製作する「バンダルーム」,「クレイジールーム」,「ドリーミールーム」等の競合品が市場に多数出回っている。このうち「バンダルーム」は,既に30万個販売されているなど,競合品の市場占有率も決して無視できないものであった。なお,これらの競合品が本件各特許権に係る特許発明の技術的範囲に含まれることは認める。
 したがって,被告ハナヤマが各被告製品を販売しなくても原告製品が各被告製品と同数の商品を売り上げていたということはできない。
   ⒠ 原告製品についての営業や顧客サービスが劣っていたこと
 原告製品は各被告製品と比較して技術面では優位にあった。他方,原告製品に係る宣伝・広告を始めとする営業やプロモーションは非常に脆弱かつ消極的であった。原告製品の消費者からは,原告製品の販売会社について,問い合わせても日本語が通じないとか,アフターサービスが充実していないとの声も聞かれ,各被告製品の販売会社は,日本の消費者への対応が遅れていたものと推測される。
   ⒡ 各被告製品の販売終了後に原告製品の販売が伸びていないこと
 被告ハナヤマの各被告製品及びこれらを引き継いだ新製品のブームはいずれも平成27年秋に終わったが,それに替わって,原告製品の売上が急伸したということはない。このことは,各被告製品が市場に存在したことと原告製品の売上減少との因果関係が存在しないことを示す事実といえる。
 (イ) 弁護士・弁理士費用
 争う。
   イ 被告エイチ・ディー・エスによる本件各特許権の侵害に係る原告の損害額
 (ア) 法102条2項に基づく損害額の算定
  a 被告エイチ・ディー・エスが各被告製品の販売により得た限界利益は,各被告製品の売上から,各被告製品の仕入原価と,各被告製品の販売によって生じたその他の変動費及び直接固定費の合計額を差し引いた金額となるが,上記⑴ア(ア)のとおり,本件における法102条2項の「利益の額」は,上記限界利益の全額ではなく,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドの販売に係る限界利益のみである。
  b 売上 「●(省略)●」円
 各被告製品の対象期間における売上は前記1⑵ウ(ア)のとおり,「●(省略)●」円であるところ,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る売上は,上記ア(ア)bのとおり,各被告製品の売上に,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドの各被告製品における原価比率(被告製品1については約「●(省略)●」%,被告製品2については約「●(省略)●」%)を掛け合わせることにより算出される。
 対象期間における被告製品1の売上(「●(省略)●」円)に被告製品1についての原価比率(約「●(省略)●」%)を掛け合わせると,「●(省略)●」円となり,対象期間における被告製品2の売上(「●(省略)●」円)に被告製品2についての原価比率の平均値(「●(省略)●」%)を掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。したがって,これらの合計金額である「●(省略)●」円が,対象期間における各被告製品のうち編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る売上である。
  c 限界経費 「●(省略)●」円
 対象期間における各被告製品の限界利益を計算するに当たって売上から控除すべき限界経費である変動費及び直接固定費は,以下のとおり仕入原価「●(省略)●」円並びに仕入原価を除く変動費及び直接固定費合計「●(省略)●」円の合計「●(省略)●」円である。
   ⒜ 仕入原価 「●(省略)●」円
 対象期間における各被告製品の仕入原価は,合計「●(省略)●」円である。
 このうち,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドにかかる仕入原価も,上記(イ)と同様に,編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドの各被告製品における原価比率を掛け合わせることにより算出される。すなわち,対象期間における被告製品1の仕入原価は,「●(省略)●」円であるから,これに原価比率約「●(省略)●」%を掛け合わせると「●(省略)●」円となり,対象期間における被告製品2の仕入原価は,「●(省略)●」円であるから,これに原価比率約「●(省略)●」%を掛け合わせると「●(省略)●」円となる。したがって,これらの合計金額である「●(省略)●」円が,対象期間における各被告製品のうち編み機本体,フック,クリップ及びシリコンバンドに係る仕入原価となる。
 なお,上記各仕入原価には,対象期間に被告エイチ・ディー・エスが被告ハナヤマに販売した各被告製品(上記1⑶ウ(イ)以外に,取引先との良好な取引関係の構築や各被告製品のプロモーション等を目的として無償で譲渡した各被告製品(サンプル)が含まれる。このような無償のサンプルも各被告製品の売上向上に寄与したのであるから,その仕入原価も限界費用を構成する仕入原価として当然に売上から控除されるべきである。
 また,原告は,各被告製品の仕入原価を乙57の別紙2の為替レートを使用して計算しているが,被告エイチ・ディー・エスは,各被告製品の仕入原価を2回又は3回に分けて支払っているので乙57作成時点の為替レートのみを使用して仕入原価を計算すべきではない。
   ⒝ 倉庫関係費用 「●(省略)●」円
 被告エイチ・ディー・エスは,各被告製品を含む被告エイチ・ディー・エスの販売する商品の在庫保管を株式会社陽光社,トライネット・ロジスティックス株式会社及び熊井倉庫株式会社に委託し,これらの企業に対し対象期間に合計「●(省略)●」円を支払った。なお,各被告製品の売上が,同在庫保管に係る被告エイチ・ディー・エスの全商品の売上に占める割合は,「●(省略)●」%である。
 そこで,上記支払額に「●(省略)●」%を乗じた金額に,上記ア(ア)c⒝と同様,各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)と原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,合計「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
   ⒞ 物流関係費用 「●(省略)●」円
 被告エイチ・ディー・エスは,流通業者として,まるま運輸株式会社及び株式会社日立物流バンデックフォワーディングを使用し,両社に対し,各被告製品の物流関係費用として合計「●(省略)●」円を支出した。なお,同物流関係費用は,各被告製品以外の商品を含む被告エイチ・ディー・エスの物流関係費用に,各被告製品に相当する比率(各流通業者からの請求金額のうち,各被告製品相当分を割り出した数値)を掛け合わせて算出したものである。
 そして,これに上記⒝と同様,各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)と原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
   ⒟ 貨物保険料 「●(省略)●」円
 被告エイチ・ディー・エスは,三井住友海上火災保険株式会社に対し,各被告製品の輸入の際の貨物保険料として合計「●(省略)●」円を支出した。なお,同貨物保険料は,各被告製品以外の商品の貨物保険料も含めて被告エイチ・ディー・エスの支払った貨物保険料に,各被告製品に相当する比率(貨物保険料の請求金額のうち,各被告製品相当分を割り出した数値)を掛け合わせて算出したものである。
 そして,これに上記⒝と同様,各被告製品の売上比率(被告製品1が約「●(省略)●」%,被告製品2が約「●(省略)●」%)と原価比率(被告製品1について約「●(省略)●」%,被告製品2について約「●(省略)●」%)をそれぞれ掛け合わせると,「●(省略)●」円となる。
 「●(省略)●」
  d 推定覆滅
 上記ア(ア)eのとおり,各被告製品の売上は,被告ハナヤマの有する販路の種類及び数,被告ハナヤマの営業力,営業戦略,宣伝広告及びプロモーション力等の賜物であって,本件各発明は各被告製品の売上にほとんど寄与していない。また,被告エイチ・ディー・エスは,被告ハナヤマからの受注に応じて各被告商品を海外から輸入し,輸入価格に被告ハナヤマとの合意に基づく一定割合を乗じた価格で被告ハナヤマに販売したのであって,各被告製品が本件各発明に係る技術を用いた商品であるから輸入したというわけではないし,各被告製品の輸入価格に乗じた上記の割合は,他の製品についての割合と同じである。したがって,被告エイチ・ディー・エスの得た利益と,本件各発明の実施とは無関係であり,各被告製品が売れなければ,原告製品が売れたであろうという関係は存在しない。
 以上によれば,被告エイチ・ディー・エスとの関係においても,法102条2項による原告の損害額の推定は,少なくとも95%の割合で覆滅されるべきである。
 (イ) 弁護士・弁理士費用
 争う。

第3 当裁判所の判断

 1 本件特許権2の侵害による原告の損害額について
 各被告製品が本件発明2の技術的範囲に属すること,本件特許2が有効であることは当事者間に争いがない。そこで,事案に鑑み,まず争点⑶(原告の損害額)のうち,各被告製品の販売等による本件特許権2の侵害によって原告に生じた損害額について検討する。
  ⑴ 被告ハナヤマによる本件特許権2の侵害によって生じた原告の損害額
   ア 各被告製品の限界利益の算出について
 (ア) 法102条2項の「侵害の行為により」受けた「利益」とは,侵害品の売上から侵害品の製造又は販売数量の増加と直接関連して変動する経費(限界経費)を控除したもの(限界利益)と解するのが相当である。そして,前記第2の1⑶イ(ア)のとおり,被告ハナヤマによる各被告製品の売上は合計「●(省略)●」円と認められるから,同額から各被告製品の限界経費を差し引く方法によって各被告製品の限界利益を算出することができる。
 これに対し,被告らは,被告製品1には編み機以外に取扱説明書が,被告製品2には編み機以外に本件解説本やビーズが含まれているので,被告ハナヤマの限界利益の算定に当たり根拠とすべき売上又は限界経費は,それぞれ各被告製品のうち編み機部分に対応する売上又は限界経費に限定すべきである旨主張する。しかしながら,取扱説明書は編み機等と共に被告製品1として販売され,また,本件解説本及びビーズも編み機等と共に被告製品2として販売されているのであって,これらが独立に販売の対象とされていたとは認められないから,各被告製品の販売による被告ハナヤマの限界利益を算出するに当たっては,上記のとおり,各被告製品全体の売上又は限界経費を基準とすべきである。したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。もっとも,各被告製品に本件特許権2の侵害品ではない物が含まれていることは,被告ハナヤマの利益が原告の損害に直ちに結びつかないことをうかがわせる事情と評価し得る場合もあるから,後記イの推定覆滅の有無及びその割合を判断するに当たり,同事情についても併せて検討することが相当である。
 (イ) 被告ら主張に係る被告ハナヤマの支出した経費が限界経費として認められるかにつき,以下,費目ごとに検討する。
  a 仕入原価 「●(省略)●」円
 各被告製品の仕入原価は,下記一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円であることに争いがない(前記第2の1⑶イ(イ)のとおり。なお,各被告製品の編み機部分に対応する仕入原価に限定すべきである旨の被告らの主張が採用できないことは上記(ア)のとおりである。)。
 記
 「●(省略)●」
 以上
  b 運搬費用 「●(省略)●」円
 被告らは,被告ハナヤマによる各被告製品の運搬費用につき,対象期間に支出した各被告製品を含む被告ハナヤマの販売する全商品についての運搬費用(「●(省略)●」円)に,全商品の売上に占める被告製品1又は被告製品2の売上の比率(いずれも約「●(省略)●」%)を乗じて各被告製品の運搬費用を算出した上,これに原価比率を掛け合わせる方法によって各被告製品の運搬費用を算出すべきであると主張する。しかしながら,運搬費用が限界経費と認められるためには,当該運搬費用が各被告製品の運搬のためにのみ要した費用といえる必要があるところ,上記のような売上の比率を乗じる方法によって算出された金額は,各被告製品の運搬のためにのみ要した費用の額であるということはできないから,被告らの主張は採用できない。
 そして,他に被告らが各被告製品のためのみに支出した運搬費用の額を認定するに足る証拠はないから,下記のとおり,原告が認める合計「●(省略)●」円の限度で売上から控除することが相当である。
 記
 「●(省略)●」
 以上
  c その他の経費について
 被告らは,上記a,bのほか,①販売促進費用,②見本市出展料,③広告宣伝費用,④開発研究費用が,被告ハナヤマの売上から控除されるべき限界経費に当たると主張し,これに対し,原告は,これらの経費は,いずれも各被告製品に直接関連する経費ではないから,限界経費として控除することはできない旨主張する。
 そこで検討するに,まず上記①の販売促進費用については,いずれも各被告製品の販売のみに向けられたものであると認める証拠がなく,各被告製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費であるとは認めることができない。これに対し,被告らは,被告ハナヤマの株式会社「●(省略)●」への平成27年4月30日の支払が各被告製品の店舗販促ツールの製作費であると主張し,その裏付証拠として乙108~110を提出するが,これらの証拠によっても同社への支払が各被告製品のみの販売に向けられたものであるかは一義的に明らかでなく(なお,被告らも同支払に各被告製品に関連しない経費の支払が含まれていることを認めている。),これを被告ハナヤマの売上から控除すべき限界経費であると認めることはできない。
 次に,上記②の見本市出展料についても,各被告製品のみの販売に向けられたものであると認める証拠はないから(なお,見本市に各被告製品以外の被告ハナヤマが販売する商品も出展されていたことは被告らも認めるところである。),各被告製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費であるとは認めることができない。この点に関し,被告らは,見本市のために支出した全体の金額を基準に各被告製品のブースの専有面積に応じて算出したとも主張するが,具体的な専有面積の比率及び算定方法等についての主張・立証はないし,見本市出展料の増加率が専有面積の増加率と直ちに一致すると認めるに足る証拠もないから,上記説示を左右しない。
 また,上記③の広告宣伝費用について,被告ハナヤマは,ⓐ雑誌「ちゃお」に各被告製品に関するタイアップ記事を掲載して掲載料を支払った,ⓑテレビ東京「おはスタ」に番組を提供し,番組提供費を支払った,ⓒ「●(省略)●」のクリスマスカタログに被告ハナヤマの販売する商品を掲載して掲載料を支払ったなどと主張し,これらの事実の裏付証拠として乙114~119(上記ⓐ関係),乙120~122(上記ⓑ関係),乙123~125(上記ⓒ関係)を提出する。しかしながら,証拠(乙114)によれば,上記ⓐは,平成26年5月1日発売の雑誌に係る支出であって,対象期間における各被告商品の販売に向けられた支出とは認めることができないし,上記ⓑ及びⓒについては,被告らの提出する上記各証拠によっても,いずれも各被告製品の販売のみに向けられたものであるとは認められない(なお,上記ⓒのクリスマスカタログに被告ハナヤマの各被告製品以外の商品が掲載されていた事実については被告らも認めるところである。)。したがっていずれの支出についても,各被告製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費であるとは認めることができない。なお,被告ハナヤマが主張する上記ⓐ~ⓒ以外の広告宣伝費用については,いずれも支出を裏付ける具体的な証拠がない上,支出の趣旨も判然としないから(加えて,一部の支出については,対象期間外のものと認められる。),被告ハナヤマの売上から控除すべき限界経費であると認めることはできない。
 さらに,上記④の開発研究費用も,被告らの主張する支出が各被告製品の開発研究のためのみに支出されたものであると認めるに足る証拠はない。この点,被告らは,被告ハナヤマの「●(省略)●」への平成27年2月28日の支払が各被告製品の試作費であると主張し,これを裏付ける証拠として乙126~128を提出するが,これらの証拠によっても同社への支払の趣旨は判然とせず(なお,被告らも同支払に各被告製品に関連しない経費の支払が含まれていることを認めている),これを被告ハナヤマの売上から控除すべき限界経費であると認めることはできない。
 (ウ) 以上によれば,売上から控除すべき限界費用として認められるのは,仕入原価(上記a)及び運搬費用(上記b)のみであるから,各被告製品の限界利益は,下記一覧表のとおり,各被告製品の売上から仕入原価及び運搬費用を控除した合計「●(省略)●」円と算定するのが相当である。
 記
 「●(省略)●」
 以上
   イ 推定覆滅について
 (ア) 原告は,対象期間における被告ハナヤマによる本件特許権2の侵害について,法102条2項による損害賠償を求めるから,原告が受けた損害額は,対象期間における被告ハナヤマの限界利益額である「●(省略)●」円(上記ア(ウ))であると推定される。
 そして,法102条2項の推定を覆滅できるか否かは,侵害行為によって生じた特許権者の損害を適正に回復するとの観点から,侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といった営業的要因や,侵害品の性能,デザイン,需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的に考慮して判断することが相当である(知的財産高等裁判所平成26年12月17日判決参照)。
 (イ) 各被告製品全体に対する本件発明2の実施部分の割合の観点
 そこで検討するに,まず,本件発明2はブルニアンリンクを作成するための装置又はこれを含むキットに係る発明であるから,各被告製品を構成する部材のうち,編み機,フック,クリップ及び弾性バンドは,本件発明2の実施品というべきである。そして,被告製品1は,編み機,フック,クリップ及び弾性バンドから構成されるから,その全体について本件発明2が実施されている(なお,被告製品1には取扱説明書が同梱されているが,取扱説明書は本件発明2の実施品である編み機等の取扱方法等を説明するものである上,この種の商品には通常同梱されるものであると解され,本件発明2の実施品である上記編み機等と独立して取引の対象となることも通常考え難いから,上記判断は左右されない。)。
 他方,被告製品2は,編み機,フック,クリップ及び弾性バンドに加え,本件発明2の実施品でないことが明らかなビーズ100個及び本件解説本から構成されているところ,証拠(乙67の2,乙68等)によれば,被告製品2の価格(4980円(税抜))が被告製品1の価格(2000円(税抜))の約2.5倍に上ると認められるのであって,被告製品2が被告製品1と比べ,同梱されるクリップ及び弾性バンドの数がやや多いことを勘案しても,上記価格差(2980円)の大部分は本件発明2の実施品ではないビーズ及び本件解説本によるものと考えられる。なお,本件解説本はアクセサリーの作成方法を説明する記述が大部分を占める一方で各被告製品の使い方を解説した部分はわずかであり(弁論の全趣旨),また,各被告製品を構成する編み機等を用いたアクセサリー等の作り方を説明する本件解説本に類似する書籍が,各被告製品とは独立に販売されていることも認められる(乙85,86,弁論の全趣旨)。
 以上の事情を総合すると,被告製品2のうち,本件発明2の実施品でないビーズ及び本件解説本の価格に相当する部分については,上記の観点からの推定覆滅を認めることが相当である。そして,前記第2の1⑶イのとおり,対象期間における被告製品1と被告製品2の売上はそれぞれ「●(省略)●」円と「●(省略)●」円(ただし,いずれも値引は考慮しない。)「●(省略)●」に照らせば,59.8%(計算式は,2980円[被告製品1と被告製品2の単価の差]/4980円[被告製品2の単価])に「●(省略)●」を乗じた割合をベースとした上で,被告製品2に同梱されたクリップ及び弾性バンドの数が被告製品1に同梱されたものと比べてやや多いことを勘案し,各被告製品の限界利益の25%について推定覆滅を認めることが相当である。
 (ウ) 特許発明の実施部分の割合以外の観点からの推定覆滅
 本件発明2は,ブルニアンリンクアイテムの作成が個人の技量に依存するという課題を解決し,個人の技量に依存することなく,様々な技量レベルの人々にブルニアンリンクアイテムを簡単に作成するキットを提供することを可能とするものであって(本件発明2に係る明細書の段落【0003】及び【0004】),このような本件発明2の作用効果に加え,上記のとおり,被告製品1の全部及び被告製品2の中心である編み機,フック,クリップ及び弾性バンドについて,それぞれ本件発明2が実施されていることや,本件発明2を除く各被告製品の性能,デザイン等の特徴が需要者の購買意欲に殊更に影響していることを認めるに足る証拠はないこと等に照らせば,本件発明2の実施品であることが各被告製品に対する需要者の購入意欲に大きく結びついているものと考えられる。
 他方,証拠(乙59,65,66,乙67の2,乙68,69,乙70の1~4,乙71の2,4,5,乙72の1,2,乙73の1~4,乙74の1~3,乙75の1~6,乙76の1,3~7,乙77,78,乙79の1,2,乙80の1~5等)及び弁論の全趣旨によれば,被告ハナヤマは,玩具メーカーとして長年我が国において営業を続けてきたことから,各被告製品についても,その販売のターゲットを小学生の女児に絞り,したがって,その販路も玩具販売を目的とするものに集中しており,また,広告宣伝等についても,対象期間中に小学生の女児という顧客層にターゲットを絞った多くの広告宣伝活動や販促・営業活動を行ったこと,一方,原告は,特にそのように販売のターゲットを絞っていなかったため,原告製品の販路や宣伝広告等も特に小学生の女児をターゲットとして絞り込んだものではなかったこと,被告ハナヤマが原告とは異なる販路(取引先)を相当程度有していたことも認められるのであって(なお,被告らは,これらに加えて,被告ハナヤマの営業戦略や販路,ブランド力が原告よりも優れていたとも主張するが,同事情を認定するに足る証拠はない。),このような事情も推定覆滅の一事情として考慮すべきである。もっとも,上記のとおり,本件発明2の実施品であることが各被告製品についての需要者の購入意欲に大きく結びついていることや,本件発明2を除く各被告製品の性能,デザイン等の特徴が需要者の購買意欲に殊更に影響しているとは認められないこと等に鑑みれば,このような被告ハナヤマの広告宣伝活動や販促・営業活動が一定程度各被告製品の売上に貢献していること,原告と被告ハナヤマの広告宣伝のターゲットとなる顧客層が異なることや,取引先・販路の相違等を考慮しても,大幅な推定覆滅を認めることは相当ではない。
 以上の点を総合考慮すると,各被告製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合以外の観点からの推定覆滅割合については,25%と認めるのが相当である。
 なお,原告製品と各被告製品は,いずれも輪ゴムを編むことによってアクセサリーを製作する装置及びその他のキットであるところ,このような製品に関する具体的な市場シェアは証拠上必ずしも明らかでないものの(被告らは,各被告製品のシェアが原告製品の190倍であるなどと主張するが,その根拠とする乙129の調査結果のほとんどが黒塗りで,調査対象や調査方法も不明であることなどからすると,被告らの同主張は直ちに採用することができない。),原告と被告ハナヤマ以外にも多くの事業者が参入しているものである(当事者間に争いがない。)。被告ら以外の事業者の製造販売等に係る製品の具体的な構成は証拠上明らかでないが,これらの競合事業者の製品が本件各特許権に係る特許発明の技術的範囲に含まれることについては当事者間に争いがないから,そうである以上,これらの競合事業者の製品の存在を推定覆滅事情として考慮すべきではないというべきである。
 (エ) 以上によれば,法102条2項の推定に係る推定覆滅の割合については,50%(25%(上記(イ))+25%(上記(ウ))と認めるのが相当である。
   ウ 小括
 そうすると,被告ハナヤマによる本件特許権2の侵害行為によって原告の受けた損害(逸失利益)の額は,「●(省略)●」円(計算式は,「●(省略)●」円[上記ア(ウ)の限界利益額]×50%[上記イ(ウ)の推定覆滅率])と認められる。また,原告の弁護士費用のうち「●(省略)●」円については,被告ハナヤマによる本件特許権2の侵害行為と因果関係を有する損害と認めるのが相当である。
 したがって,原告は,本件特許権2の侵害による不法行為に基づく損害賠償金として,被告ハナヤマに対し,1億6721万6599円(計算式は,「●(省略)●」)を請求できる。
   エ 遅延損害金の起算日
 原告の本件特許権2の侵害に基づく損害賠償金に対する遅延損害金の起算日については,以下のとおりとなる。
 (ア) 内金「●(省略)●」円について,平成26年7月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月11日から同月31日までの限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.1参照)×50%(推定覆滅率)
 (イ) 内金「●(省略)●」円について,同年8月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.2参照)×50%(推定覆滅率)
 (ウ) 内金「●(省略)●」円について,同年9月30日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.3参照)×50%(推定覆滅率)
 (エ) 内金「●(省略)●」円について,同年10月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.4参照)×50%(推定覆滅率)
 (オ) 内金「●(省略)●」円について,同年11月30日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.5参照)×50%(推定覆滅率)
 (カ) 内金「●(省略)●」円について,同年12月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.6参照)×50%(推定覆滅率)
 (キ) 内金「●(省略)●」円について,平成27年1月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.7参照)×50%(推定覆滅率)
 (ク) 内金「●(省略)●」円について,同年2月28日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.8参照)×50%(推定覆滅率
 (ケ) 内金「●(省略)●」円について,同年3月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.9参照)×50%(推定覆滅率)
 (コ) 内金「●(省略)●」円について,同年4月30日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.10参照)×50%(推定覆滅率)+「●(省略)●」円(弁護士費用)
  ⑵ 被告エイチ・ディー・エスによる本件特許権2の侵害によって生じた原告の損害額
   ア 各被告製品の限界利益の算出について
 (ア) 対象期間における被告エイチ・ディー・エスによる各被告製品の売上は,下記一覧表のとおり,合計「●(省略)●」円と認められるから(前記第2の1⑶ウ(ア)),同額から各被告製品の限界経費を差し引く方法によって各被告製品の限界利益を算出することができる。
 なお,被告らは,各被告製品に本件発明2の実施品以外のものが含まれているとして,被告エイチ・ディー・エスの限界利益の算定に当たり根拠とすべき売上又は限界経費は,各被告製品の編み機部分に対応する売上又は限界経費に限定すべきであると主張するが,同主張が採用できないことは上記⑴ア(ア)のとおりである。
 記
 「●(省略)●」
 以上
 (イ) 被告ら主張に係る被告エイチ・ディー・エスの支出した経費が限界経費として認められるかにつき,以下,費目ごとに検討する。
  a 仕入原価 「●(省略)●」円
   ⒜ 仕入個数
 被告エイチ・ディー・エスの売上(上記(ア))に係る各被告製品の仕入個数は,下記一覧表のとおりである(前記第2の1⑶ウ(イ))。
 記
 「●(省略)●」
 以上
 これに対し,被告らは,被告エイチ・ディー・エスが取引先にサンプルとして無償提供した各被告製品の仕入個数を上記の仕入個数に加算して仕入原価を算出すべきであると主張する。しかしながら,原告が法102条2項の限界利益の算定の基礎として主張する売上は,各被告製品の販売によるものであるから,当該売上に係る限界経費としての仕入原価(各被告製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費としての仕入原価)は当該売上に係る各被告製品についての仕入原価に限られるというべきであって,上記被告らの主張を採用することはできない(なお,被告エイチ・ディー・エスの無償サンプル提供に関する上記主張を,広告宣伝費用又は販売促進費用等としての主張であると善解しても,当該無償サンプルの提供が各被告製品の販売に結びついたことを具体的に認めるに足る証拠はなく,かえって,対象期間における被告エイチ・ディー・エスの各被告製品の販売先は被告ハナヤマのみであること等を勘案すると,無償サンプルの提供が各被告製品の販売に貢献したか否かは疑わしい。)。
   ⒝ 仕入単価
 証拠(乙57の別紙2)によれば,各被告製品1個当たりの仕入原価は,被告製品1の通常販売分が「●(省略)●」円,被告製品1の先行販売分が「●(省略)●」円,被告製品2が「●(省略)●」円と認められる。
 これに対し,被告らは,被告エイチ・ディー・エスは,各被告製品の仕入原価を一度に支払っているわけではないから,乙57の別紙2に記載された為替レートを使用して仕入原価を計算すべきではない旨主張する。しかしながら,乙57の別紙2は,被告ハナヤマが被告エイチ・ディー・エスから提供されたデータに基づいて作成した原価比率に関するエクセルファイル形式のデータであって(乙57の4頁),同別紙に記載された為替レートの正確性を疑うに足る事情はないし,証拠上,同為替レート以外に計算の基礎とすべき具体的な為替レートも見当たらないのであるから(なお,被告らも,各被告製品の仕入原価を支払った具体的年月日及び当該年月日時点での為替レートについて,何ら主張・立証しない(第24回弁論準備手続期日における被告らの陳述)。),被告らの上記主張は上記判断を左右するものとはいえない。
   ⒞ 以上によれば,対象期間における被告エイチ・ディー・エスの各被告製品の仕入原価は,上記⒜の仕入個数に上記⒝の仕入単価を乗じた金額,すなわち,下記一覧表のとおり,被告製品1が合計「●(省略)●」円(計算式は,「●(省略)●」),被告製品2が合計「●(省略)●」円の合計「●(省略)●」円となる。
 記
 「●(省略)●」
 以上
  b その他の経費について
 被告らは,上記a(仕入原価)に加え,①倉庫関係費用,②物流関係費用,③貨物保険料が,被告エイチ・ディー・エスの売上から控除すべき限界経費に当たると主張し,これに対し,原告は,これらの経費は,いずれも各被告製品に直接関連する経費ではないから,限界経費として控除することはできない旨主張する。
 そこで検討するに,上記①~③の各費用は,被告らの主張によっても,いずれも被告エイチ・ディー・エスが扱う各被告製品以外の商品を含む商品の在庫保管(上記①),物流(上記②)又は貨物保険(上記③)のために支払われたというのであって,各被告商品の販売のみに向けられたものとはいえないから,各被告製品の販売数量の増加と直接関連して変動する経費と認めることはできない。したがって,上記①~③の各費用は,いずれも,被告エイチ・ディー・エスの売上から控除すべき限界経費であるとは認められない。
 (ウ) 以上によれば,被告エイチ・ディー・エスの売上から控除すべき限界費用として認められるのは仕入原価のみであるから,各被告製品の限界利益は,下記一覧表のとおり,各被告製品の売上から仕入原価を控除した合計「●(省略)●」円と算定するのが相当である。
 記
 「●(省略)●」
 以上
   イ 推定覆滅について
 (ア) 原告は,対象期間(平成26年7月11日から平成27年4月30日まで)における被告エイチ・ディー・エスによる本件特許権2の侵害について,法102条2項による損害賠償を求めるから,特許権者である原告が受けた損害額は,対象期間における被告エイチ・ディー・エスの限界利益額である「●(省略)●」円(上記ア(ウ))であると推定される。
 そして,前記⑴イ(ア)のとおり,法102条2項の推定を覆滅できるか否かは,侵害行為によって生じた特許権者の損害を適正に回復するとの観点から,侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合のほか,市場における代替品の存在,侵害者の営業努力,広告,独自の販売形態,ブランド等といった営業的要因や,侵害品の性能,デザイン,需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等といった侵害品自体が有する特徴などを総合的に考慮して判断すべきである。
 (イ) 各被告製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合の観点
 そこで検討するに,まず,前記⑴イ(イ)のとおり,本件発明2はブルニアンリンクを作成するための装置又はこれを含むキットに係る発明であり,各被告製品を構成する部材のうち,編み機,フック,クリップ及び弾性バンドは,本件発明2の実施品というべきであるから,被告製品1については,その全体について本件発明2が実施されているというべきである。他方,被告製品2については,本件発明2の実施品(編み機,フック,クリップ及び弾性バンド)に加え,本件発明2の実施品ではないビーズ100個及び本件解説本から構成されている。この点に加えて,被告製品1と被告製品2の各売上比率等をも勘案すると,各被告製品の限界利益の概ね25%について,侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合の観点から推定覆滅を認めることが相当である。
 (ウ) その他の観点からの推定覆滅
 被告らは,被告エイチ・ディー・エスについても被告ハナヤマと同様の推定覆滅事情を主張する。そこで検討するに,上記⑴イ(ウ)のとおり,本件発明2の実施品であることが各被告製品についての需要者の購入意欲に大きく結びついているものと考えられる一方,本件発明2を除く各被告製品の性能,デザイン等のその他の特徴が需要者の購買意欲に殊更に影響していると認めるに足る証拠はないこと,その反面で,被告ハナヤマは,各被告製品の販売のターゲットを小学生の女児に絞り,その販路も玩具販売を目的とするものに集中しており,対象期間中に上記顧客層にターゲットを絞った多くの広告宣伝活動や販促・営業活動を行ったこと,一方,原告製品の販路や宣伝広告等は特に小学生の女児をターゲットとして絞り込んだものではなかったこと,被告ハナヤマが原告とは異なる販路(取引先)を相当程度有していたこと等の事情が認められる。
 なお,被告らは,上記に加えて,被告エイチ・ディー・エスに固有の推定覆滅事情として,要旨,被告エイチ・ディー・エスが被告ハナヤマからの発注に応じて海外から仕入れ,仕入価格に一定割合を乗じた価格で被告ハナヤマに転売しているにすぎないため,各被告製品が本件発明2の実施であることは,仕入量や転売価格に影響しない旨主張する。しかしながら,上記のとおり,本件発明2の実施品であることが各被告製品についての需要者の購入意欲に大きく結びついていることに照らせば,各被告製品が本件発明の実施品であることが,被告ハナヤマからの発注量(=被告エイチ・ディー・エスの仕入量)及び価格設定に大きく貢献しているというべきであって,被告らの上記主張は採用できない。
 そうすると,被告エイチ・ディー・エスについても,被告ハナヤマと同様,各被告製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合以外の観点からの推定覆滅の割合については,25%と認めるのが相当である。
 (エ) 以上によれば,法102条2項の推定に係る推定覆滅の割合については,50%(25%(上記(イ))+25%(上記(ウ)))と認めるのが相当である。
   ウ 小括
 そうすると,被告エイチ・ディー・エスによる本件特許権2の侵害行為によって原告の受けた損害(逸失利益)の額は,「●(省略)●」円(計算式は,「●(省略)●」円[上記アの限界利益額]×50%[上記イ(エ)の推定覆滅率])と認められる。また,原告の弁護士費用のうち「●(省略)●」円については,被告ハナヤマによる上記特許権侵害行為と因果関係を有する損害と認めるのが相当である。
 したがって,原告は,本件特許権2の侵害による不法行為に基づく損害賠償金として被告エイチ・ディー・エスに対し,7772万8816円(計算式は,「●(省略)●」)を請求できる。
   エ 遅延損害金の起算日
 原告の本件特許権2に基づく損害賠償金の内金に係る遅延損害金の起算日については,以下のとおりとなる。
 (ア) 内金「●(省略)●」円について,平成26年7月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月11日から同月31日までの限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.1参照)×50%(推定覆滅率)
 (イ) 内金「●(省略)●」円について,同年8月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.2参照)×50%(推定覆滅率)
 (ウ) 内金「●(省略)●」円について,同年9月30日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.3参照)×50%(推定覆滅率)
 (エ) 内金「●(省略)●」円について,同年10月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.4参照)×50%(推定覆滅率)
 (オ) 内金「●(省略)●」円について,同年11月30日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.5参照)×50%(推定覆滅率)
 (カ) 内金「●(省略)●」円について,同年12月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.6参照)×50%(推定覆滅率)
 (キ) 内金「●(省略)●」円について,平成27年1月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.7参照)×50%(推定覆滅率)
 (ク) 内金「●(省略)●」円について,同年2月28日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.8参照)×50%(推定覆滅率)
 (ケ) 内金「●(省略)●」円について,同年3月31日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.9参照)×50%(推定覆滅率)
 (コ) 内金「●(省略)●」円について,同年4月30日
 計算式:「●(省略)●」円(同月の限界利益…上記ア(ウ)の一覧表No.10参照)×50%(推定覆滅率)+「●(省略)●」円(弁護士費用)
 2 結論
  ⑴ したがって,原告は,本件特許権2に基づき,被告ハナヤマに対し合計1億6721万6599円の損害賠償金及び別紙1-1記載1~10の各「内金額」欄記載の内金額に対する同別紙記載1~10の各「起算日」欄記載の年月日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,被告エイチ・ディー・エスに対し合計7772万8816円の損害賠償金及び別紙1-2記載1~10の各「内金額」欄記載の内金額に対する同別紙記載1~10の各「起算日」欄記載の年月日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,それぞれ請求できることとなる。
  ⑵ なお,原告は,本件特許権1に基づく損害賠償請求に係る損害額につき,本件特許権2に基づく損害賠償請求に係る損害額の主張と全く同一の主張をした上でこれらを選択的併合として本件訴えを提起しているところ,本件全証拠によっても本件特許権1に基づく損害賠償金の額が本件特許権2に基づく損害賠償金の額を超えることをうかがわせる事情は見当たらないから,本件特許権1に基づく損害賠償請求に係る損害額についてさらに算定する必要はない。したがって,争点⑴及び⑵について判断するまでもなく,上記のとおりの結論となる。
 (この点につき,被告らが弁論終結日(平成29年12月26日)から2週間超が経過した平成30年1月12日付けで提出した「上申書」(以下「被告ら上申書」という。)には,要旨,「裁判所が,従前議論されていなかった本件特許権1に基づく請求と本件特許権2に基づく請求の関係について,最終の弁論準備手続期日において原告に選択的併合であると確認したことが,被告らの手続保障を顧みない不当な訴訟指揮であるから異議を申し立てる」旨の記載がある。そこで,この点につき念のため付言するに,原告は当初から本件特許権1に基づく損害賠償金の額と本件特許権2に基づく損害賠償金の額を同額として請求し(訴状,平成26年8月22日付け訴えの追加的変更申立書),平成29年10月30日付けの訴え変更申立書【追加的変更】においても,本件特許権1に基づく損害賠償金の額について本件特許権2に基づく損害賠償金の額とは別の金額又は計算方法を主張することはなかったのであるから(なお,第26回弁論準備手続期日で陳述された原告第13準備書面にも「本件特許1も本件特許2と同様に」「損害賠償請求を求めていることに変わりはなく」との記載がある。),原告の本件特許権1に基づく損害賠償請求と本件特許権2に基づく損害賠償請求が当初から選択的併合の趣旨であったことはその経過からも合理的に推察される(なお,当裁判所が,第26回弁論準備手続期日において,念のためこの点を原告に確認したところ,原告もそのような趣旨であると述べており,また,原告提出の平成30年2月5日付け「被告らの平成30年1月12日付け上申書に対する反論」と題する書面にも同旨の記載がある。)。これに対し,被告らは,本件特許権1に基づく請求と本件特許権2に基づく請求が「単純併合であ」る(被告ら上申書3頁)ことを前提に当裁判所の訴訟指揮を論難するが,そもそも併合形態の選択は原告が決定すべきものであるし,仮に被告らのいうように原告が両請求について単純併合の意思であったと考えると,本件特許権2に基づく請求に関する訴えの追加的変更(平成26年8月22日付訴えの追加的変更申立書参照)が,請求原因の追加として行われ,請求の趣旨を追加するものではなかった(訴額の算定も従前と同様であった)経過とも矛盾することとなる。以上によれば,被告らの上記指摘は的外れというほかなく,到底採用できない。)。
  ⑶ 以上によれば,原告の請求は主文第1項及び第2項の限度で理由があるからこれらを認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。