(参考判例)平成 18 年 9 月 25 日知財高裁判決〔特許権侵害差止等請求控訴事件 〔椅子式マッサージ機事件〕〕
特許法 102 条 1 項ただし書の事情および同条 2 項の推定覆滅事由


第2 事案の概要

 本判決においては,原判決と同様に又はこれに準じて,「本件特許1」「本件発明1」「本件明細書1」「被控訴人製品」「控訴人製品」「フジ医療器」「松下電工」等の略称を用いる。
 1 本件は,被控訴人が,控訴人に対し,椅子式マッサージ機である控訴人製品1~4(原判決別紙物件目録記載の(1)ないし(4))を製造,販売等する控訴人の行為が,被控訴人の有する本件特許権1~5を侵害するとして,①控訴人各製品の製造,販売等の差止め,②同各製品の廃棄,③損害賠償等として36億5669万7000円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である(ただし,第1,2審とも,本件特許権2に基づく控訴人製品3及び本件特許権4に基づく控訴人製品2~4の差止め等の請求は,本訴請求から除外されている。)。
 2 原判決は,控訴人製品1は,本件発明1,3,4,5の,控訴人製品2は,本件発明1,3,5の,控訴人製品3は,本件発明1,5の,控訴人製品4は,本件発明1,5の各技術的範囲に属し,かつ本件特許権1,2,3,5について無効理由が存在することは明らかとはいえない(本件特許権4について明らかな無効理由が存在するとの主張はされていない。)と認定判断し,さらに,控訴人製品1,2は現時点では設計変更され生産もされていないことなどを考慮して,①控訴人製品3,4の製造,販売等の差止め,②控訴人製品3,4の廃棄,③損害賠償等として15億4744万3172円及び遅延損害金の支払いを認容した。
 そこで,控訴人は,原判決を不服として,控訴した(なお,被控訴人は,以下に述べる経緯はあったものの,当審においても,原審におけると同じ上記請求を維持している。)。
 3 本件特許1~5に関する無効審判及び審決取消訴訟の経過及び結論は,以下のとおりである。
  (1) 本件特許1(特許第3012127号)
 控訴人は,平成13年11月8日,本件特許1に関し,無効審判(無効2001-35499号)を請求し,特許庁は,平成14年7月31日,同特許を無効とする旨の審決をした。これに対し,被控訴人は,東京高等裁判所に審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第427号事件)を提起したが,同裁判所は,平成16年3月23日,被控訴人の請求を棄却する旨の判決をし(乙146),同判決に対する上告受理申立て(平成16年(行ヒ)第189号)は受理されなかった(乙163)。
 これにより,本件特許1を無効とすべき旨の審決は確定した。
  (2) 本件特許2(特許第3014572号)
 控訴人は,平成13年12月5日,本件特許2に関し,無効審判(無効2001-35530号)を請求し,特許庁は,平成14年7月31日,訂正を認めた上,控訴人の審判請求は成り立たない旨の審決をした。これに対し,控訴人は,審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第459号事件)を提起したところ,同裁判所は,平成16年3月23日,審決を取り消す旨の判決をし(乙147),同判決に対する上告受理申立て(平成16年(行ノ)第63号)は却下された(乙158)。同判決を受けて,特許庁は,平成17年2月7日,本件特許2について訂正を認めた上,同特許を無効とする旨の審決をし(乙171),同審決は確定した。
 これにより,本件特許2を無効とすべき旨の審決は確定した。
  (3) 本件特許3(特許第3012774号)
 控訴人は,平成13年12月4日,本件特許3に関し,無効審判(無効2001-35526号)を請求し,特許庁は,平成14年6月20日,同特許を無効とする旨の審決をした。これに対し,被控訴人は,東京高等裁判所に審決取消訴訟(平成14年(行ケ)第341号)を提起したが,同裁判所は,平成16年3月23日,被控訴人の請求を棄却する旨の判決をし(乙148),同判決に対する上告受理申立て(平成16年(行ヒ)第182号)は受理されなかった(乙164)。
 これにより,本件特許3を無効とすべき旨の審決は確定した。
  (4) 本件特許4(特許第3012780号)
 本件特許4は,特許第3012780号の請求項3に係る特許であるところ,控訴人は,平成13年11月16日,本件特許4の請求項1~4に関し,無効審判(無効2001-35508号)を請求し,特許庁は,平成14年7月31日,訂正を認めた上で,請求項1に係る特許を無効とし,請求項2~4に係る特許についての審判請求は成り立たない旨の審決をした。
 控訴人は,上記審決のうち,請求項2~4に係る審判請求が成り立たないとした部分について,東京高等裁判所に審決取消訴訟(東京高裁平成14年(行ケ)第460号)を提起したところ,同裁判所は,平成16年3月23日,上記審決のうち請求項2~4に係る発明について審判請求は成り立たないとした部分を取り消す旨の判決をし(乙149),同判決に対する被控訴人の上告受理申立て(平成16年(行ヒ)183号)は受理されなかった(乙165)。その後,被控訴人は,請求項3について,訂正審判(訂正2004-39172号)を請求したが,特許庁は,平成17年4月26日,審判請求は成り立たない旨の審決をするとともに(乙172),平成17年8月2日,請求項2~4に係る特許を無効とする旨の審決をし(乙173),同審決は確定した。
 これにより,本件特許4を無効にする旨の審決は確定した。
  (5) 本件特許5(特許第3121727号)
 控訴人は,平成13年12月11日,本件特許5について無効審判(無効2001-35537号)を請求し,特許庁は,平成14年6月20日,審判請求は成り立たない旨の審決(乙73)をした。これに対し,控訴人は,東京高等裁判所に審決取消訴訟(平成14年(行ケ)386号事件)を提起したが,平成15年9月29日,同裁判所は控訴人の請求を棄却する旨の判決をした(乙153)。
 控訴人は,平成14年10月15日,2回目の無効審判(無効2002-35436号)の請求をし(乙96),特許庁は,平成15年4月2日,審判請求は成り立たない旨の審判をした(甲56)。
 さらに,控訴人は,本訴が当審に係属中の平成16年5月11日,3回目の無効審判(無効2004-80055号)を請求したが(乙156),特許庁は,平成16年9月28日,審判請求は成り立たない旨の審決(乙166)をした。これに対し,控訴人は東京高等裁判所に審決取消訴訟(当庁平成17年(行ケ)10339号事件)を提起し(乙167),同事件は当裁判体に係属した。当裁判体は,平成17年12月1日,控訴人の請求を棄却する旨の判決をし(甲60),同判決に対する上告受理申立て(平成18年(行ヒ)第53号)は受理されなかった(甲61)。
  (6) まとめ
 以上のとおり,本件特許1~5のうち,1~4については,これを無効とする旨の審決が確定したので,これらの特許権は初めから存在しなかったものとみなされることとなる。したがって,当審においては,本件特許5の侵害のみが問題となる。
 4 本訴において,当事者間に争いのない前提事実は,以下のとおりである。
  (1) 本件発明5の構成要件(甲23)
   A1 圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者を押上げる座部用袋体が配設された座部,
   A2 及びこの座部の後部に所定の傾斜角度をもって設けられた背もたれ部とを有する椅子本体と,
   A3 前記座部の前部に設けられ,かつ,圧搾空気の給排気に伴って膨縮し,膨張時に使用者の脚部をその両側から挟持する脚用袋体が配設された脚載置部と,
   A4 圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と,
   A5 この圧搾空気供給手段からの圧搾空気を給排気管を介して前記各袋体に分配して供給する分配手段と,
   A6 前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードを含む複数の動作モードを入力する入力手段と,
   A7 この入力手段から前記動作モードの中から所望の動作モードが入力されたときこの動作モードに応じて前記袋体への給排気を行うように前記圧搾空気供給手段及び分配手段を制御する制御手段とを備え,
   B 前記座部用袋体への圧搾空気の給排気動作に同期させて前記脚用袋体への給排気を行う動作モードにおいて,前記脚用袋体が膨張して使用者の脚部を挟持した状態で,前記座部用袋体が使用者を押上げるように膨張することを特徴とする
   C 椅子式エアーマッサージ機。
  (2) 控訴人の行為
 控訴人は,控訴人各製品を製造,販売した。なお,控訴人製品3及び4は,それぞれ控訴人製品1及び2の脚部の設計を変更した製品であり,控訴人が,本訴提起後に,製造,販売したものである。
  (3) 本件発明5と控訴人各製品との対比
 控訴人製品1,2は,本件発明5の構成要件A2ないしA7,Cを充足する。控訴人製品3,4は,同発明の構成要件A2,A4ないしA7,Cを充足する(したがって,控訴人製品1,2については,構成要件A1,Bの,控訴人製品3,4については,構成要件A1,A3,Bの充足が問題となる。)。