広報担当 秘書 田村 司
いつもお読み頂き誠に有難うございます。
今現在,オレンジ法律事務所アソシエイト弁護士の有馬弁護士が家庭裁判所から相続財産管理人の選任をうけて手続きをしております。過去には,成年後見人の選任を受けて手続きの経験があると聞いています。
(認知症のイメージ図)
実は,私には,成年後見制度については,強い思い入れがあります。
銀行の相続実務経験からお話しますと,成年後見人の関わった遺産分割協議書や預金の払戻請求で少なからず,成年後見制度の理解は必要でした。
私が若い時に経験した禁治産者,準禁治産者からすると,成年後見制度は,使いやすくなっていると思います。
禁治産者,準禁治産者,無能力者を知っておられる方は,戸籍謄本に禁治産宣言の旨が記載されましたので,大夫,抵抗がありました。そのために,高齢者が,判断能力が衰えているにも関わらず,通常の契約を無理強いされ被害が発生しても,救済することができませんでした。(現在の成年後見制度では戸籍に記載されることはありません。)
そのような時代背景(高齢者の被害)のときの私の思い入れの話です。
未だ,その当時のことを,強く記憶していることがあります。
銀行で働きながら,平成8年に放送大学の民法の講義をうけました。星野英一放送大学教授 (東京大学名誉教授 民法学者)の講義の印象を今も強くもっています。
残念ながら,今は他界されておりません,星野先生は5年前にご逝去されたようです。ご冥福をお祈り致します。
「禁治産者 準禁治産者は,戸籍に掲載され半永久的に記載が残るのでこれは使いやすい制度ではない。そして『禁治産者,準禁治産者,無能力者』という表現の言葉は侮辱的な言葉で使用をためらうなど理由で,記載変更や,戸籍から登記記載する案などが,法務省内成年後見問題研究会で検討がされている」との講義内容でした。
なぜ,記憶に強く残っているのかというと,3点あります。
1,講義を「ソクラテスの問答方式で講義を進める。」ということで,各学生に二,三回質問しました。居眠りする暇なしの講義です。
その講義には東大法学部の学生も多数受講していました。
2,その当時先生が取り組んでいる「成年後見問題研究会での検討について」の今後の法改正に説明してくれました。
法改正にはこのような協議検討を経た上で進められる,ということが少し分かったような気がしました。
もう一つ,「立法者は誰か」との問いかけ。
国会議員に働きかけて,間接的ではあるが権利行使する立場として,主権者たる国民が立法者である自覚が必要である旨の説明がありました。
3,星野教授が自分の父親との会話について,「父親(元銀行員後弁護士)から,『お前は,世間知らずだ。』といわれた。しかし,私は色々な判例を読んでいるから,すくなくとも,世間知らずではない,と反論した。」というエピソードを話してくれました。
東京大学名誉教授という高名な学者に,苦言を呈するのは親しかいない,親だから言えるのかなと感じて強く印象に残りました。
その後,成年後見制度導入は平成12年4月1日施行されました。
それは,後見・保佐・補助なども自己決定権を尊重しつつ,その人権侵害がないように,配慮され,侮辱的と言われた「無能力者」という名称は 制限能力者に名称変更されました。
私は,成年後見制度導入後,しばらく関わることがなかったが,平成20年から銀行事務の相続手続をするようになってから,実務の必要上,深く関わるようになりました。
12年後に星野英一教授の検討された成年後見制度に銀行の実務として携わることになりました。ご縁というか運命のように感じました。
近年,新聞に後見人の横領の記事をみると,哀しい思いになります。
ここからは,経験談に基づく個人的見解を多分に含みます。
後見監督人がいれば,横領の抑止になると思いますが,監督人が選任されていないときは,後見人に2名を選任し,財産管理の場合は共同代理人として,共同の連署にすると抑止効果が期待できると個人的には考えています。
(銀行の英文小切手の振出の場合,共同代理人としてAとBの共同の連署名を必要とする場合が多い。)
体力の衰えと認知症併発で,老人ホームで生活されている方に,成年後見人が選任されず,親族が身辺のみ面倒をみている場合も多い。財産管理はその親族がこっそりと行っている場合もあるようです。相続の時,別な親族とのもめごとになるケースもあるようです。
一番判断が難しいところは,いつから弁識能力が無くなっているか,その分岐点が分かりにくいのです。
成年後見制度の次善策の選択肢として,任意後見制度(本人の理解があれば)の活用で,財産管理が上手くいく場合もあります。しかも財産管理委任契約(任意代理契約)とセットで対応することもできるようです。ただし,本人の希望が無ければ,叶いません。
銀行預金などで任意後見制度を活用して,任意後見人または任意代理人として,請求される方も多数おりました。
任意後見制度の大まかな順序と内容は,次の通りとなります。
(イメージ図)
1, 弁識能力があるうちに任意後見人を選任する。
2,代理権の内容を決める。
契約で定められた特定の法律行為に限定される。契約を締結する。
3,公証人役場で公正証書を作成する
4,その契約内容を登記する
5,弁識能力低下したら
6,家庭裁判所が任意後見監督人を選任する
登記事項に記載される
7,監督人が選任されてはじめて
任意後見人が契約内容の行為ができる
8,契約外の法律行為が必要ならば,
法定後見人の選任の手続きへ
9,同時に,財産管理委任契約(任意代理契約)を締結しておく
弁識能力の減退する前から,細かい財産管理をしてもらい,
管理の継続性が維持されるところに利点がありますります。
高齢化に向けた事前準備としてすこしでも役立つ知識がありましたら,
それが私の喜びです。
今回もお読み頂き誠に有難うございます。
以下は興味のある方のために記載いたします。
*星野 英一著『民法』放送大学教育振興会,1994,8第二刷 P60~61
「高齢化社会に伴い,老人に巧みに取り入って危険な取引をさせる事例がかなり報告されており,また,やや判断能力の低下した老人の財産管理についての問題も提起されている。
他方で,判断能力のやや低い人一般についても,現行の禁治産・準禁治産制度が果たして適当か,との疑問が出されている。前者については,一方で,判断能力の低下した老人の財産の保護の必要性は否定できず,禁治産宣告のなされる事例も増えているといわれている。ただ,実際は老人の財産をめぐる親族間の争いの面があり,後見人になることにより(民法上後見人の財産管理にはかなり厳格な規約はあるが)事実上その財産に対して,有利な地位に立つことを望む者の争いが生ずるとも報告されている。そこで立法論が論じられているが問題が多い。未成年者と異なり,老人の判断力は人によって多様であり,少なくとも一定年齢以上の者を一律に扱うのは適当ではない。しかも社会生活を生き抜いてきた老人のプライドを無視することは人権問題ですらある。さらに宣告が戸籍に記載されることを嫌うために,その申請がなされないこともある。問題は広く,後者,つまり,現行制度に存する。第一に言葉の問題だが,無能力者とか,禁治産・準禁治産の用語は本人について,侮辱的でさえあって,適当ではあるまい。・・・改正が議論されている。」(抜粋)