弁護士 中野 仁
唐突だが,苗場といえばスキーだ。
そして,わたくしは,高校3年時に友人とスキー旅行に行ってからというもの,20年近く一度もスキーをしていない。
スキーに苦い思い出があるからである。
わたくしは,部活を引退した高校3年生の冬,気心の知れた部活の友人数人と,卒業旅行をかねてスキー旅行に行った。
わたくしは,スキーはうまくなかったと思うが,下手なりにスキーを楽しんでいた。
1日目は,3年間,部活などで苦楽をともにした友人たちと,スキーに興じ,笑いあったりして,まさに青春の1ページという感じだった(注:オトコのみです)。
・・・悲劇は,1日目の夜に起きた。
高校生なので,当然そんな豪華な宿泊施設には泊まれない。
わたくしたちが泊まった宿も,いわゆる安宿の旅館であった。
旅行の夜は楽しい。
普段,全然やらないトランプやウノを急にやりだし,急に熱中し,大貧民がこの世で一番楽しいゲームに思えてきたり,自分の生き甲斐に思えてきたりする。
わたくしもご多分に漏れず,大貧民で,革命を起こした際のしてやったり感に,生き甲斐を見いだしたりするタイプで,虎視眈々と革命の機会を狙っていた。
そのときである。
わたくしの背筋に寒気が走った。
おかしい。昼は,あんなに元気だったのに,まさか風邪を引いたのだろうか…。
すると,突然,友人Aが,
「おい,何か,異常に寒くね?」
と言い出した。
そう,確かに,異常に寒いのだ。
暖房はガンガンについている。
何故だ。何故なのだ。
わたくしは,ひんやりとした風が吹いてきた方角を振り返り,衝撃を受けた。
なんと,窓がほんの少し開いたのである。
それも,閉め忘れたのではなく,完全閉まらない形に木の窓が少し変形している感じなのだ。
「おい,これ閉まんねーぞ!!」とうろたえる友人B。
たしかに,頑張って閉めても,一定程度の隙間ができてしまう。
厳寒期のスキー場でなければたいして気にならないような隙間だが,厳寒期のわたくしたちにとっては死活問題だ。
わたくしたちは,死力を尽くした。部活でもこんなに頑張ったことはない。
だが,勝利の女神は,高校最後の部活の試合(PK負け)のときと同じく,わたくしたちには微笑まなかった。
わたくしたちは,腹を据えた。
ありのままの自分,吹雪が吹き込んでくるというありのままの部屋を受け入れて生きていくしかないのだ。
しかし,捨てる神あれば,拾う神ありだ。
その部屋には,それなりの強さの暖房がついていた。
苦しい局面を乗り越えるには,信念と合い言葉が必要だ。
わたくしたちは,
「大丈夫,俺たちには,暖房がある!!」
を合い言葉に,この苦境を乗り切るため,就寝することにした。
いざ,就寝しようとしたとき,暗闇の中で,誰だか分からない(仮に,その者を友人Xとしよう)が,悪魔の囁きといえる言葉が響いた。
「これで,寝ている間に暖房が切れていたらウケるよな。」
おい。
やめろ。
やめろやめろやめろ。やめれ。
わたくしたちは,高校生だぞ。ウケ狙いとか,ネタになるとかが一番の大好物である年代ではないか。
しかし,自分の身を削ってまでウケ狙いをすることはないだろうと思い,わたくしは眠りについた。
流れ的にお分かりだろうが,やはり事件は現場で起こったのである。
朝5時に異常な寒さで目が覚めたわたくしが,暖房を確認すると,電源はOFFになっていた・・・。
廊下に出てみると,部屋より廊下の方が暖かいような状態であった。
わたくしは,犯人の特定を試みたが,何しろここは日本だ。
疑わしきは罰せず,無罪推定の原則が働くのだ。
異常な寒さに見舞われ体調を崩したわたくしは,
翌日のスキーで下手くそであるがゆえによく転び,さらに手先,足先を冷やす結果となり,
何でこんな寒い思いをしてまでスキーにしなければならないのかと思うようになり,
あんなに楽しかったスキーを,そこから先は全然楽しめなくなってしまった。
わたくしの中で,
スキーといえば,とにかく寒い!
部屋も寒い!
という,悪い印象が植え付けられてしまったのである。
それゆえ,わたくしは,そのときから,一度もスキーに行っていない。
そんなわたくしだが,近時,苗場スキー場に降り立った。
といっても,スキーではない。
同じく高校時代から,いつかは行きたいと思っていた,フジロックフェスティバルの20周年に参加するためである。
勘のいい読者の方々はもうお分かりだろうが,本来,このブログはここからがメインとするつもりであった。スキーから苗場につなぎ,苗場スキー場で行われるフジロックが如何に楽しかったかを書くつもりであった。
しかし,文章が冗長であることと,ペース配分を間違ったことで,ここで力尽きる結果となった。
ブログは,知力・体力・時の運であることを痛感した結果となった。
そこで,フジロックフェスティバルについての詳細は,一緒に行った同僚の辻本弁護士のブログに譲りたい。
と,辻本弁護士本人に無断で,ブログ上で,いきなり無茶ぶりをしてみることを許してほしい。
わたくしだって,20年経った今は,暖房を消し闇夜に消えた真犯人,謎の友人Xを許しているのだから。
結論: 窓が閉まらない部屋に泊まるハメになった場合,真っ先にフロントに電話をすべきである。いくら高校生でも,そのくらいは思いついて然るべきである。
合掌。
弁護士 中野 仁
さて,
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