営業 秘書 田村 司
いつもご愛読頂き有難うございます。
経験談をブログ掲載するにあたり,文才がないので,ご容赦ください。
銀行勤務時代に本当に体験した印象深い事例を2つほど説明します。
一つ目は,金庫破りによる盗難手形の呈示の話しです。これは約23年前の話です。
二つ目は,手形偽造事件です。これは約10年前の話です。
推理小説には題材にされているが,現実に起こるとは予想もしなかった。
まさに,事実は小説より奇なり(イギリスの詩人バイロン)を痛感した出来事でした。
約43年前のことです。先輩が「高木彬光著の推理小説白昼の死角」は面白いから読んでみなさいと紹介してくれました。実に面白く書かれていました。社会を生き抜くには法律の知識が必要であると衝撃を私に与えた小説の一つであります。
小説の内容については今後の読者と著作者のために,お話しできませんが,この本を読んで,手形・小切手法に興味をもち,その後の銀行業務の理解にも大変役に立ちました。先輩と著者に感謝しています。
それから約20年後この小説を模倣するような事件が多発しました。
「白昼の死角」ではパクリ屋の暗躍があり,詐欺みたいなスマートなやり口が主流だったと記憶しています。
現実の模倣犯は非常に乱暴な窃盗事件でした。
具体的には会社の事務所の金庫をバールで開けて,手形を盗む事件が多発しました。
重たい金庫ごと盗み出した事件もありました。
通常の窃盗犯は金庫の現金は盗むけれど,手形は犯罪の足がつくから敬遠するが,堂々と盗んで交換請求してきたから驚きであります。
日本の警察は優秀だから,犯人を捕まえたと思います。
ここからは推測になります。
盗んだ手形はどうするかというと,「善意取得」を装い,町の金融業者に対して,割引手形として持込んで最終的に期日に交換請求するためと思われます。
「白昼の死角」の模倣と思われます。その小説ではパクリ屋が「善意取得」を主張。
ちょっと,法律用語の解説をします。「善意」とは「(今回は盗まれた)事実を知らない」「悪意」とは「(盗まれた)事実を知っている」ことをいいます。今回は「盗まれたこと」を知らないことが「善意」となります。
当然,盗んだ者は盗んだと言わない,手形割引く金融業者も敢えて何も聞かない,事実について何も知らなかったと「善意」を主張するためです。まさに小説の模倣と思われます。
その前に,一般的銀行の手形実務の説明を若干いたします。
盗難届を振出人から,受理します。
手形が裏書により誰から呈示されるかは分かりませんので,交換呈示されるまで待ちます。盗難は交換呈示あるまで待つことになります。
交換呈示があったときには,支払決済はしません。
2号不渡(盗難手形)で不渡返却します。
持出銀行に手形の現物が届き,手形所持人(割引した金融業者)に戻ります。
銀行としての被害は発生しませんでした。
振出人のお客さまにも支払決済してませんので,被害は発生しませんでした。
それでは,「法を悪用する模倣犯」にどのように対処できたのでしょうか。
過去の盗難事件で,振出人と金融業者との争いの裁判では『金融業者が振出人に確認するなどをしなかったことは「重大な過失」である』との判決がありました(最判S52.6.20判時873-97)。
手形法16条2項の「重大な過失」を理由として「善意取得」を認めなかったのです。
これ以外にも「善意取得」を認めない判例が沢山あります。しばらくして,盗難事件の模倣犯罪は鳴りを潜めました。
高木彬光さんも将来このような判決がでることまでは想定していなかったと思います。まさに事実は小説より奇なり。
その後に発生したのは,手形偽造事件,10年前のことです。これも渦中に巻き込まれたのであります。一難去ってまた一難であります。
これも,「善意取得」を装ったと思われる犯罪グループが大量枚数の偽造手形を,交換呈示してきた事例です。盗難と違い偽造は予告無しで呈示してきますので,毎日が危険と隣合わせです。
交換手形の決済業務中に,スタッフさんが偽造手形を発見して,損害に至らなかった。それからも類似の億単位の偽造手形の呈示があったが,偽造手形すべてを発見した。
「銀行は犯罪の舞台だ!」「毎日が危険との戦いだ!」と,常々,危機感を持って,仕事をしていました。
損害防止できたことは,優秀なスタッフさんのおかげであり,いまも,心から感謝している次第であります。なお,模倣犯がでるといけないので偽造手形についての詳細は省略します。
これも日本の警察は優秀だから犯人を捕まえたと思います。
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ブログの編集に当たり,最高裁の判例については,当事務所の有馬弁護士に加筆,指導を頂きました。有馬弁護士は労働,交通事故,不動産などの一般民事事件等を手がけています。(有馬弁護士の紹介画面にリンクしています。)
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