弁護士 中野 仁
わたくしは，視力が悪い。
しかも幼い頃から，寝転がって本や漫画を読んでいたこともあり，右目と左目の視力が異なるいわゆるガチャ目である。
にもかかわらず，わたくしは，普段は裸眼で生活している。
近時，ますます眼が悪くなってきたので，これはマズいと思い，わたくしはメガネを購入してみた。
スティーブジョブズの丸メガネに憧れ，スティーブジョブズがかけているのと同じメガネを購入しようとしたが，メガネ屋で実際にかけてみると，自分はスティーブジョブズにはなれないことに絶望し，同じような雰囲気の丸メガネを購入した。
実は，わたくしにはメガネに対する憧れのようなものもあった。メガネ男子的なものが流行っていることや，頭が良さそうに見えるのではないかという幻想，実はメガネがそこそこ似合うのではないかという淡い期待などが頭をうずまき，最終的に購入に踏み切った。
さて，ここでわたくしに直面した大きな問題がある。メガネをかけ始めた際の周囲の反応である。
誰しも経験したことがあると思う（とわたくしは思っている）が，例えば，イメチェンのために髪型をかえたり，新しい服や鞄，靴を買ったり，男であればヒゲを伸ばしてみたときの，周囲の反応。
「似合ってるね」，と褒められても，「似合ってないよ」，とイジられても，いずれにせよ恥ずかしい。何でやってしまったんだろうと気恥ずかしい気持ちになる。
中でも一番困るのは，「あれ？メガネ買ったの？」「あれ？そんなの持ってたっけ？」や「あれ？前からヒゲ伸ばしてたっけ？」という疑問形である。
「新しい俺ってどう？」というボールを投げているはずなのに，肯定するでも否定するでもない，ボールを投げ返してくる，その感じ。
そんなとき，「ん･･･。いや，前から持ってたよ。」的な回答や，むしろ，「前からだけど，逆に，見たことなかった？」的な回答をし，気恥ずかしさから自分をディフェンスするというイケてないやり口をとっていた青春時代のわたくし。
同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。わたくしは馬鹿ではないのだ。
わたくしは，自分の中で綿密に想定問答集を反芻した結果，１つの回答にたどり着いた。
「似合ってるね」「似合ってないよ」「あれ？何で突然メガネなの？」「あれ？何おしゃれ意識してんの？」などの様々な種類の反応に対し，何を言われても全て，
「俺，ジョンレノン意識している」（丸メガネのため）
の一言で対応することを心に決めた。
これなら，言われた方もギャグなのか本気なのか分からず，「あ，あぁ･･･」という微妙な反応をせざるをえず，どのような反応も撃退できるだろう。
若干ディフェンシブであり，過ちを繰り返している感もあるが，自己防衛のためにはやむをえない面もある。身体とメンタルが資本の商売だ。
いざ，意気込んでメガネをかけて出勤したところ，いつまでたっても，事務所内で誰もメガネにふれてこない。
その日，裁判所に行く途中，埼玉弁護士会の知り合いの親しい弁護士数人と会ったが特に突っ込みはなし。
予想だにしなかった事態に衝撃を受けたわたくしは，その日の最後の方は，もはや自分から，「このメガネどうよ？」的なことを言ってしまっていた。
後日，埼玉弁護士会の親しい弁護士から聞いたところによれば，そこまで似合っていないが，わたくしがオシャレを意識してやっているような雰囲気があり，中途半端でいじりにくいとの苦情が後輩弁護士から寄せられていたそうだ。また，ジョンレノンではなく，滝廉太郎みたいとの意見も寄せられていたそうだ。
結論：自意識過剰は，周囲に迷惑をかける。
合掌。
弁護士 中野 仁 
さて，
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