田村が未経験の「裁判員」と「昔話法廷」

広報担当 秘書 田村 司

いつもお読み頂き誠にありがとうございます。
結論「カチカチ山の被告人うさぎは無罪」。
倒置法で表現しましたが,何のことか分からないでしょう。
しばらくご辛抱ください。

 さて,裁判員制度の導入により,国民には裁判が身近になってきたように思います。
皆さんのまわりに裁判員を経験した方はおられますか。

実は,前の職場の同僚が「裁判員候補者名簿」に登録された通知をうけたと教えてくれました。ちょっと悩んでいるようでした。「裁判員の勤めは国民の義務だ」と冷たい言い方をして激励しました。しかし,私は,内心,経験したく羨ましく思っておりました。
そして,「特別な基準(知識,経験,能力,人格,思想)で厳選される」と思っておりました。ところが,私の予想は外れました。それの私の予想は「スカ(はずれ)」でした。
本当の手続は,裁判員は「くじ」で選ばれるようです(裁判員制度の概略,詳細は後述します)。
私はくじ運が悪いので,永遠に選ばれることはまずないでしょう。そして,未だ「裁判員候補者名簿」に登録されたとの通知はきていません。
でも,幸運にも選ばれたときのため今から,学んで,おかなければならないと考えておりました。

場面が変わります(ここから副題「昔話法廷」と結論への話になります)。
これは,昔話の主人公を被告人にした裁判員の模擬裁判です。

先日,一日中,我が家で孫の子守をしました。
2歳10か月になる子が「カチカチ山」の絵本を持参してきました。
それで,読んでくれとせがむので,久しぶりに朗読をしました。
いつもの私の読書は黙読です(笑い,呵呵)。

その絵本の筋書きでは「おばあさんは狸に杵で殴られました。そこで,うさぎが,たぬきの背負った薪に火を付け,泥船で水に沈めて,たぬきを懲らしめました。最後には,たぬきは改心して,おじいさんとおばあさんに謝ったという筋書きでした。

ところが,室町時代からの実際の昔話では,たぬきにおばあさんが殺され,しかも,たぬきはおばあさんを肉汁にしたその肉汁をおじいさんがたぬきに騙されて食べてしまった。
怖い話ですね。
そこで,おばあさんの仇討ちとして,うさぎがたぬきの背負った薪に火をつけた後に,次はたぬきを泥の船で沈めて殺したという別な筋書きが有るようです。

子守のお礼として,私の娘(子の母親)が,「うさぎが悪者扱いで,裁かれるバージョンのストーリー展開のものがあるよ!」と教えてくれました。
それは,ウサギが被告人になり裁判が始まる「昔話法廷」というものです。
「昔話法廷」をご存じでしたか? 私は,今まで知りませんでした。

「昔話法廷」の検索ですぐ出てきます。これ以降は一度「昔話法廷」を視聴の上,お読み頂ければ,私も解説し易くなります。これらは2015 NHK中高生向きの裁判員制度の説明のため作られ放映されているものです。以下7件が放映されています。
「カチカチ山」裁判,被告人はうさぎ。
「三匹のこぶた」裁判,被告人は末っ子のこぶた。
「白雪姫」裁判,被告人は王妃。
「舌切りすずめ」裁判,被告人はすずめ。
「浦島太郎」裁判,被告人は乙姫。
「ヘンゼルとグレーテル」裁判,被告人はヘンゼルとグレーテル。
「さるかに合戦」裁判,被告人は猿。

そして,私も視聴しました。今から学んで裁判員に選任されても良いように理解しておくには良い題材とおもいました。

これで,ブログを終わらせるのは,「田村らしさ」が無いと言われるので,問題提起も踏まえ,「カチカチ山」裁判の裁判員になったつもりで,私見を述べます。
ただし,フィクションの法廷だから「人」ではない「うさぎ」と「たぬき」を刑法第199条で裁こうとするところに無理がありますが,擬人化して,真面目に考えました。
(田村のたわごととしてスルー(無視)しても結構です。)
今の日本の法律で過去の事件を裁けるのか。
そして,昔話の時代背景の裁判(古代,中世)は,どのようなものだったのか。
私は,図書館に行き,真剣に,調査,検討,判断しました。
決闘裁判や神明裁判というものが,中世の欧州ではあったらしい。
魔女裁判のようなものもあったらしい。
そして,判事が判断出来かねるときは,「神」に裁きをお願いするようです。
「神は正しい者に勝利を授ける」との考えのようです。
言い換えると「腕力の強い(剣の強い,銃が上手い)ものが正しい」ことになります。
当時の中世は自力救済の精神が強かったようです。

「では,日本ではどうか」というと,日本書紀「くがたち」をおこなったと言う記事があります。
「盟神探湯(くがたち)」というのは,泥を釜にいれて煮沸し,その泥を手でとる,あるいは斧を焼いて掌中におくというものである。真実を述べているものの手はただれないがそうでないものは手がただれるという。
日本書紀・応神天皇九年四月条には謀反の密告によって審理を行ったときに,事の実否を決しがたく,磯城川のほとりで探湯を行った記事があるようです。
日本書紀・允恭天皇四年の条に,氏姓の混乱を正すために,味橿丘(甘樫丘)に「くかへ」という釜をすえて,「くがたち」をおこなったという記事があります。
神判の一種であると理解されてきました。しかし制度化されたものではなく,例外的な事例との意見もあるようであります。

現在のうさぎの位置づけとしては,神社に祭られていることに気づかされます。
うさぎの話題として,浦和には,調神社,狛兎があります。毎年初詣に行っています。
八頭町には白兎神社にはうさぎが登場します。出雲大社の因幡の白兎(古事記)もうさぎが主役です。
インドのジャータカ神話に登場する「帝釈天とうさぎ」の話があります。
(老人に扮した帝釈天様はうさぎ(お釈迦様)を試されたという筋書きのようです。)
「カチカチ山」のお話はいつ頃起こったか,昔とはいつのことか。多分日本書紀以前と思われます。
カチカチ山のうさぎの行為は,日本書紀が記された盟神探湯(くがたち)」に似ていませんか?「火」「泥」のキーワードが出てきます。うさぎは古代,神の使い,神の代理人的立場で,神判の執行役でもあったと考えられているようです。
うさぎの行為は当時,神判としての合法な行為又は,刑執行者であったと考えられます。

すると現在の法律で違法であったとして,当時合法な行為を現在の法律で裁けるかという問題が出てきます。
結論としては,日本では,近代法の原則,罪刑法定主義でできていますので,裁けません。
過去に合法とされた行為が,後で違反行為として処罰されたら,私達は安心して生活出来ません。日本国憲法第31条,第39条で罪刑法定主義が規定され,我々を守っています。
憲法第31条(法定手続の保障)「何人も法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪われ,又はその他の刑罰を科せられない。」
憲法第39条(刑罰法規の不遡及,二重処罰の禁止)「何人も,実行の時に適法であった行為又は無罪とされた行為については,刑事上の責任は問われない。又,同一の犯罪について重ねて刑事上の責任を問われない。」
以上から「被告人うさぎは無罪」を主張します。
並びに「服役中のたぬきも無罪」を主張します。(理由)たぬきは神判の「火」責め,「泥」責めの刑を受け,運良く通行人(神の慈悲)により助かったという経緯から,今まさに二重処罰の状況は憲法第39条に違反すると考えられます。
模擬裁判員として,予断を持たず,個人的判断に基づく主張をしてみました。
孫の絵本から「裁判員制度,昔話法廷,日本書記,憲法,」と話は広範囲となりました。
皆様,このような考え方もあるんだな!このような思考をすると(プラス思考),絵本も学問的追求ができますね!(笑い,呵呵)

オレンジ法律事務所は,新たに,尾形弁護士根本弁護士を迎えて,弁護士7名体制となりました。そして,埼玉では知的財産関係に強みを発揮して参りましたが,さらに幅広く最高品質のサービスの提供の体制が強固なものとなりました。なお,刑事事件は弁護士全員が取り扱っております。お知り合いでお困りの方には,ぜひ,オレンジ法律事務所に相談することをお勧め頂ければ嬉しい限りです。
そのときはホームページをご覧になった旨をお知らせください。

最後までお読み頂き誠に有難うございます。皆様の「お気に入り」に追加登録していただけましたら,それが私の喜びです。

ここからは興味のある方は読み進めて下さい。

私が調べた裁判員制度概略を記します(裁判員制度で検索可)。
1,選任の具体的な流れは次の通りです。
⑴管轄・・・地方裁判所ごと,
⑵誰が・・・管内の市町村の選挙管理委員会が,
⑶どのように・・・くじで選んで翌年の裁判員候補者名簿を作成します。
⑷作成後は・・・調査票とともに候補者に通知します。
⑸事件対応・・・事件ごとに名簿の中からくじで候補者が選ばれます。
⑹選任後・・・質問票とともに選任手続期日のお知らせが送られます。
⑺具体的には・・・選任手続期日に事件ごとに裁判員6名が選ばれます。
2,役割
⑴公判に立ち会う
⑵評議,評決
⑶判決宣言  役割終了
3,対象事件(代表的なもの)
⑴人を殺した場合(殺人)
⑵強盗が,人にけがをさせ,あるいは,死亡させてしまった場合(強盗致死傷)
⑶人にけがをさせて,死亡させてしまった場合(傷害致死)
⑷泥酔した状態で自動車を運転して人をひき死亡させてしまった場合(危険運転致死)
⑸人の住む家に放火した場合(現住建造物等放火)
⑹身の代金を取る目的で,人を誘拐した場合(身の代金目的誘拐)
⑺子供に食事を与えず,放置したため死亡してしまった場合(保護責任者遺棄致死)
⑻財産上の利益を得る目的で覚せい剤を密輸入した場合(覚せい剤取締法違反)
なお,裁判員制度広報用ビデオ,DVD,が貸出されているようです(有名俳優出演)。

「くがたち」の参考文献
斎川 眞,佐藤邦典 著「日本法制史,法史学」日本大学通信教育部2001,5,25 P27 ~30

(蛇足)「公訴時効の廃止」と「憲法第39条,第31条」については,「合憲」と判決。
最高裁判例(H26(あ)749。H27,12,3刑集第69巻8号815項)