他人のものを売れるのか 副題 マンションの二重売買契約

営業 秘書 田村 司

銀行勤務時代に本当に体験した事例を紹介します。これは約30年前の話しです。

読者の皆さんも惨事に遭わないよう願って,敢えて過去の経験談をお話する次第です。

 

「他人のものは売れるのか?」 実は売ることができるのです!

奇異の念を抱くかもしれないが,法律で認められていることなのです。

 

通常私たちは,小売店に行って,商品を目の前にして,その場で商品を買います。

しかし,小売店に見本商品のみで,卸問屋や工場に在庫がある場合,買えないのか。

商機を逃さないように売買契約を交わす場合もあります。

仕入れてから現物が到着してから売買契約をするときもあります。

通常,商品在庫を圧縮して,必要な時(売買契約締結時)仕入れる。

在庫は極力もたないのが上手な商売の仕方です。

契約してから仕入れて現物を引き渡す。そうすると契約のときは本人のものでなく他人のものを売ることになります。法律では許されている(民法560条)。

 

時期は忘れたが,不動産業者が売主を殺害した事件があったのを記憶している。

そしてその原因は,不動産業者が買主と売買契約を締結後に売主に売買交渉したが,売主が応諾しないうえ,買主からも契約の履行を迫られて,自暴自棄になり,殺害に及んだらしい。

 

これが原因かは定かではないが,その後の法律で,宅建業者が自己の所有に属しない物件について,自ら売主となる売買契約を締結する行為を原則として禁止しています(宅建業法33条の2柱書)。

 

私が担当していたお客様から,居住中のマンションの隣の部屋が売りに出ているので買いたいとの相談があった。そして,自己資金では足りないので住宅ローンの融資の申し出があった。

イメージ図

 

そして,仲介手数料を軽減するために不動産業者を介さず売主Aと買主Bの当事者間で,マンションの売買契約を締結した。売買契約金3000万円で,手付金300万円,違約金は手付金の倍の600万円であった。

その後,当初の契約より高く購入する者Cが現れて,売主Aはその者Cとも売買契約をしてしまったのである。別な買主Cへの売却額は,300万円多い金額3300万円での契約であったらしい。

故意?過失?無知?欲望?理解不能。信義を踏みにじる輩がいることに唖然とした。

このような状況の可能性があるとの知識はあったが,こんなことが実際に起るとは思ってもいなかった。岩手から上京した純朴な青年は,こうして渦中に巻き込まれたのである。

 

違約金600万円をとり,マンションを諦めるか,弁護士に相談するように案内した。その結果としては,買主Bと売主Aとは隣で近所付き合いもあり,泣き付かれて,当事者間で少額の違約金で合意して契約解除したようでした(詳細不明)。

銀行には,実損は無く,融資取下げで決着した。

 

渦中に巻き込まれた恐怖の経験談は沢山あります。

被害にも合わず,今日まで,よく生き延びてきたなと思います。愚直に,事務手続遵守,コンプライアンス遵守が銀行通算46年間勤務に繋がったと思います。そして,そのようなことができたのは,上司,先輩,同僚,部下,スタッフ皆さんの助けがあったからと心から感謝している次第です。

 

蛇足でありますが,最近「振り込め詐欺」に警察を名乗り騙すケースが発生しています。

次に社会的地位を悪用して弁護士を名乗り,信用させることもあり得ます。

騙されないためにも,面識のない弁護士への相談のときは,法律事務所で法律相談をお勧めいたします。

 

今回の経験談の教訓としていえることは,日常の売買契約においても,起こり得ることであり,そして,色々な被害にあわないためにも,費用は惜しまず,自分だけで判断しないで,専門家,弁護士に相談することをお勧めします。

 

今般のブログの執筆に当たり,当事務所の片山弁護士に法律条文の加筆などの指導を頂きました。片山弁護士は特許庁における審査経験を持ち,知的財産,企業法務,不動産関連事件等を手掛けています。

このブログの経験談が,読者の皆さんに少しでも役立ち,社会貢献に繋がるなら,それが私にとって喜びです。