元銀行員の田村が話す「融資の相続」副題「免責的債務引受と重畳的債務引受」

広報担当 秘書 田村 司

いつもご愛読頂き誠に有難うございます。

銀行を退職する数年前に家内が、「もう融資関係の仕事をすることもないだろうから、過去、未練、思いを断ち切って捨てた方がよい。断捨離だ!」と背中を押してくれましたので、思い出の本(銀行法務10巻、他46年間の書籍諸々)を捨てました。

その後、断捨離した融資の相続の知識が必要になりました。

そして、折角、断捨離した知識を拾い集めることになりました(笑)。

 

当初のブログは相続関係を掲載してまいりましたが、皆様が一番頭を痛めることは,融資(借入金)の相続と思われます。

そこで、断舎利をした記憶をまた拾い集めパズルのように組み立てました。

そこで、断片的な記憶を簡単なイメージ図にいたしましたのでご参考にして下さい。ピースの欠落がありましたらご容赦下さい。

 

今回は、3通りの事例をご説明いたします。(不動産担保)。

1,住宅ローン,2,アパートローン,3,事業資金

1,住宅ローンの場合

通常,住宅ローンには,団体信用生命保険(以後団信といいます。)が付保されています。そして、死亡の証明書類提出で,借入金は保険金で精算されるのです。

どのような特約がついているかによって,対応が変わりますので,生前にその特約などの確認をお勧めします。そのとき保証会社に保証料一括支払いしている場合に限り,保証料が返却されます。

次に,住宅ローン契約書(金銭消費貸借契約書),(根)抵当権設定契約書,保証委託契約書などの書類が返却されますので確認の上,抹消手続と相続の所有権移転手続などと一緒に司法書士に依頼して下さい。委任状や印鑑登録証明書,必要費用については司法書士にご相談ください。

 

2,アパートローンに団信が付保されていない借入金や個人事業資金の借入金はどうなるのか。

アパートローンは、提携保証会社と「保証委託に基づく求償権」を被担保債権として(根)抵当権設定契約を締結して登記しています。

事業資金などは、直接銀行と(根)抵当権設定契約を結びます。

当然提出書類も違ってきます。今回は保証会社が無い場合でご説明いたします。

その被相続人の債務は,相続開始時には「相続人全員が債務者」になっています(注1)。法定相続人に対して,法定割合で当然に分割継承されます(判例・分割債務説)。

連帯債務ではなく個々の相続人が法定割合の別々の債務者という関係になるのです。

 

その後の遺産分割のときは相続人全員の協議に債務引受(債務承継人)をどうするかも含めて協議して,債権者(銀行)との交渉が必要になります。

債権者(銀行)と相続人全員の協議がまとまったならば,次は具体的手続きに入ります。

 

その協議内容にもよりますが,債務引受には、大別すると、免責的債務引受や重畳的債務引受(併存的債務引受)などがあります。

 

まず最初に,免責的債務引受の場合をご説明します。

概略をイメージ図にしましたので合わせてご覧下さい。

相続人の一人が全債務を引受けて他の相続人が債務を負わない契約を「免責的債務引受契約(注2)」といいます。これは,債権者(銀行),債務者(相続人全員+包括受遺者),債務引受人の三者契約(三面契約)と言われています(注3)

従来からの連帯保証人F、担保提供者(第三者)(物上保証人)G、は契約に同意が無い限り消滅すると解されています。

債権者にとっては相続人を免責した分だけ,保全面上不利になりますので,他の免責した相続人を別途、連帯保証人として,署名を求めます。

確認すべきことに,遺言書の包括受遺者の存在です。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するとの規定があります。

もうひとつ、根抵当権設定登記がある場合,「指定債務者の合意の登記」を相続開始後6か月以内に登記しないと元本確定したものとみなされます

今後、根抵当権の極度枠を活用する事業構想をお持ちでしたら,元本確定しないようにして下さい。銀行担当者と早めの相談をお勧めします。

 

不動産担保の登記として,①所有権移転登記,②相続により債務者を被相続人から相続人全員に変更する登記,③指定債務者の合意の登記,④免責的債務引受により債務者を相続人全員から債務承継人に変更する登記,などがあります。

上記の段取りは司法書士と相談しながら,進めて下さい。

 

次に,重畳的債務引受についてご説明します。

概略をイメージ図にしましたので合わせてご覧下さい。

 

重畳的債務引受契約には,法定相続人と包括受遺者に引受人を加えた連帯債務の形になります。連帯保証人F、担保提供者(第三者)(物上保証人)G、は消滅しない。

不動産担保の登記,などは司法書士などに相談しながらお勧め下さい。

 

免責的債務引受と重畳的債務引受の違いは、図以外に別な見方から説明すると,連帯保証と連帯債務の違いでもあります。

連帯債務者と連帯保証人を比べると債権者にとって,どちらが有利か。

全員を直接債務者にとる重畳的債務引受の方が,有利に見えます。

実は取引の上での債権者に有利なのは,連帯保証です。実務上、免責的債務引受で,免責した相続人を連帯保証人としている理由は維持・管理のためです。

なぜなら,債権の効果としては,両者はほとんど変わりませんが,債権の維持・管理が連帯保証の方が容易であるためです。

債権者としては,連帯債務の場合は常に全員の債務者を相手にしていなければならないが,連帯保証なら(契約時に連帯保証人の保証意思を十分確認した上で,)主債務者だけを相手にして,債権を維持・管理していけばよいのです。

このような債権管理が,企業法務や金融法務では大変重要なので,実務では連帯債務より,連帯保証が多用される理由なのです。

一般的には,連帯債務となることは拒んでも,連帯保証人ならば一歩下がった感じなので

比較的容易に契約する人も多いのも原因です。

実際には,「連帯保証人になる」ことは,連帯債務者と同様の「直接の債務者並の負担を負う」ことになる理解を連帯保証人には得ておく必要があります。

 

相続の実務から申上げると,被相続人の死亡により,銀行にとって予期していない者,成年被後見人,未成年者,破産者,返済能力に乏しい者,外国籍,行方不明者などが,債務者として参入してきます。

そして,相続人全員を保証人にすると,その後の保証債務の相続にも直面することになります。保全面,返済面から検討して,その者を免除して,返済財源のある者に引受けて頂く方法が,管理上現実的です。担保の保全面上や返済に問題がなければ,保証人は最小限にして,免責的債務引受をする者の推定相続人を連帯保証人するなどの将来の相続対策も選択肢となります。これらのことは,銀行としての債権者判断もありますから事前にご相談をお勧めします。

 

では、重畳的債務引受の現実問題は、債務者になった者の相続(2次相続)により,債務者が増加して,複雑になる可能性もあります。銀行の管理以外にも,債務者の負担も増加してきます。そのよう観点から,個人的見解としては,選択肢は免責的債務引受で対応が賢明と思われます。

もうひとつ,なぜ免責的債務引受や重畳的債務引受という手続きをするかというと,債務の同一性を保ち,不動産担保に効力を持たせ,再度の(根)抵当権設定の登記費用を掛けず,債務を相続人に引受けて頂く方法として活用されているのです。

 

今回は相続に限定して説明いたしましたが,一般の企業法務,金融法務にも免責的債務引受や重畳的債務引受が関係することがあります。

具体的には,保証協会の保証付きの融資の債務引受(個人事業を法人成り)の場合には,重畳的債務引受の条件が付くときもあります。

 

最後にもう一つ留意すべきこととして、相続人の中で金持ちがいて、他の相続人に代わって、全額返済したいとの申し出があるときは安易に応じても問題はないだろうか。

相続人間でもめている場合などは慎重な対応が望まれます。

各々の相続人は個別にその割合を承継している(判例:分割債務説)。他の相続人の債務まで含めた全額返済をすると、その者が、被相続人の連帯保証人・物上保証人などでなければ、第三者による弁済になるとの見解もあります(民法474条2項)。

学説には可分債権を共同相続した場合は不可分債務となるとする説もあります。

相続人間でもめている場合は、弁護士などに相談することをお勧めします。

 

そして相談するならば、オレンジ法律事務所にお越し下さい。

埼玉県では,知的財産,に強みを持っております。そして、企業法務,相続,交通事故,など幅広く手掛けております。

特に,顧問先を重視し,法リスクに備える(予防法務)を含めた万全の対応で臨んでいます。

 

このブログが少しでも、経営の羅針盤になり得たら、それが私の喜びです。

今度こそ断行・捨行・離行しよう。辛抱強くお読みいただき有難うございます。

 

 

参考文献

内田 貴著『民法Ⅲ 第3版 債権総論・担保物権』財団法人 東京大学出版社 2010,2,26第3版第9刷P479~481

 

池田真朗著『債権総論』慶應義塾大学通信教育部 2001,9 初版第2刷発行 P161~164

 

水辺芳郎著『債権法総論 民法Ⅲ』日本大学通信教育部 平成12年3月10日初版発行

P297~303

 

前田陽一・本山敦・浦野由紀子著『民法Ⅵ 親族・相続』有斐閣 2013,2,15第2版第2刷発行 P301