大阪地裁平成 27年6月 28日判決〔破袋機とその駆動方法に関する特許権侵害差止等請求事件〕

控訴審 知財高裁平成 28 年6月1日判決 〔特許法102条1項ただし「販売すること ができないとする事情」の解釈とその立証責任〕

5 原告の被った損害(争点5)について

  (1) 被告製品の譲渡数量について
   ア 被告は,本件特許が登録された後,5台の被告製品(被告製品1を4台,被告製品2を1台。)を販売したことを自認している(前記第2の6【被告の主張】(1))。
   イ 原告は,契約後,未納となっている被告製品の譲渡が少なくとも3台あることを主張する。
 一般論として,侵害品の譲渡契約がされた場合には,それが未納であったとしても,特許法102条1項にいう「譲渡数量」に加算できる場合はあるものというべきであるが,本件においては,上記譲渡契約に基づいて,被告製品として特定された本件特許発明の技術的範囲に属する製品が納入されることについて,的確に認定し得る証拠は提出されていないから,上記3台が特許法102条1項にいう「譲渡数量」に含まれるものと認めることはできない。
 したがって,被告製品の譲渡数量は,5台と認めるのが相当である。
  (2) 被告の侵害行為がなければ原告が販売することができた物について証拠(甲12,13)によると,原告が販売する型番HTP-3,6,10,15,20ないしHT-3,6,10,15,20の製品は,本件特許発明の実施品と認められるし,仮にそうでなかったとしても,自治体の廃棄物処理場等に納入される破袋機であって,被告製品と競合する関係にあることは明らかである。
 したがって,原告は,販売可能な製品を有していたものといえる。
  (3) 単位数量当たりの利益の額
 証拠(甲19)及び弁論の全趣旨によると,原告は,次のとおり,上記(2)の原告実施品を製造,販売したこと,原告製品の実際の製造は外注によって行われ,下記の粗利において直接労務費は既に控除されているものと認められる。
 そうすると,原告製品の販売台数は14台,売上合計は9039万円,粗利合計は4917万8369円,1台当たりの粗利は,351万2740円(1円未満切り捨て)となる。
図略
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 なお,前記のとおり,原告が現実の製造を外注して行っているのであれば,いわゆる限界利益を考慮するとしても,製造人件費,変動経費は外注費として控除されていると考えられるから,本件において,上記からさらに控除すべき経費は想定されない。
 被告は,そのような利益率は常識はずれであって合理性がないと主張するが,何ら具体的根拠,証拠を提示しないし,控除すべき費目を具体的に特定するものでもないから,上記判断を左右しない。
 したがって,単位数量当たりの利益の額は,351万2740円と認められる。
  (4) 原告の実施能力
 上記認定にかかる原告の販売実績及び被告の譲渡数量を比較すると,原告の実施の能力から,被告の販売台数5台全てを原告が販売できたものと認められる。
  (5) 販売することができないとする事情(特許法102条1項ただし書)
   ア 競合品の存在,破袋機の流通形態について
 被告は,破袋機を製造する第三者が多数存在することを指摘し,その旨の証拠(乙55から71まで)を提出するが,単に破袋機を製造販売するメーカーが存在することを挙げるにすぎず,本件特許発明を回避しつつ,同様の作用効果を発揮する競合品の存在や具体的なシェアが明らかとなっているものではないから,上記証拠によって本項ただし書の事情を認めることはできない。
 また,破袋機が,常時市場に存在するものでないことは,そもそも本項ただし書に該当する事情に当たらない。
   イ 原告製品と被告製品の価格差について
 上記のとおり,原告製品の販売価格は,418万円から950万円であるのに対し,被告製品の販売価格(定価)は,証拠(乙41ないし45)及び弁論の全趣旨によると,350万円であることが認められる。もっとも,原告製品のうち高価格のものは,容量ないし処理量の大きいものと認められるから,この点も考慮に入れると,原告製品の価格帯と,被告製品の価格帯の差はさほど大きなものとは評価できず,本項ただし書にいう事情に当たるとはいえない。
   ウ 寄与度について
 本件特許発明は,破袋機の構造の中心的部分に関するものである上,原告は,一定のブランド力も有するものであるから,上記のとおり,多様な破袋機を製造販売するメーカーが,原告,被告のほか多数あること等の被告の主張を考慮に入れたとしても,本件特許発明が被告製品や原告製品に寄与する割合を減ずることはできない。
 また,被告が日本唯一の雪上車メーカーであることは,本件と何ら関係のない事情である。
  (6) まとめ(特許法102条1項による金額)
 以上によると,特許法102条1項により,原告の損害は,単位数量当たりの利益額351万2740円に,被告の譲渡数量5台を乗じた,1756万3700円と推定され,この推定を覆す事情は認められない。
 なお,特許法102条2項により推定される金額は,被告の売上額の合計が上記金額に満たないものと認められる(乙41ないし44)から,本件においてはこれを採用しない。
  (7) 保守費用について
   ア 特許権者は,物の発明にあっては,特許発明を使用した製品(以下「特許製品」という。)の「使用」についてもその権利を専有するものであるから(特許法68条,2条3項1号),侵害品の譲受人が侵害品を使用することもまた,特許権侵害となり,不法行為を構成することになる。
 そうすると,侵害品を保守,修理することで,譲受人の侵害品の使用を継続させたり,容易させたりなどした場合は,上記使用による不法行為を幇助するものとして,共同不法行為(民法709条,719条2項)を構成する余地があるが,侵害品の保守,修理それ自体は,間接侵害(特許法101条)の規定に抵触しない限り,独立の不法行為となるものではない。
   イ 原告は,被告の使用者に対する保守行為を不法行為の幇助と構成し,前記検討した被告製品の譲渡による損害とは別に,保守行為によって被告が得た利益相当額を原告の単価等により計算した上,これを原告の逸失利益として,被告に対する損害賠償として請求するものであるが,本件においては,被告の保守行為それ自体が独立の不法行為に当たることを認めるに足りる証拠はないし,原告もそのような主張はしていない。
   ウ また,本件においては,既に検討したとおり,侵害品の製造,譲渡を理由とする損害賠償請求が認容され,これによって,原告の販売機会喪失等による損害は全て填補されるところ,これとは別に,譲受人が侵害品を使用することによって,原告にどのような損害が生じるかは明らかにされておらず,これに対する幇助として,被告がさらに損害賠償義務を負担すると認めるべき理由はない。
   エ そうすると,原告の,保守費用相当額の損害賠償請求は,理由がないものというべきである。
  (8) 損害合計
 以上によると,被告が原告に賠償すべき損害は,(6)の合計1756万3700円となり,被告は原告に対し,同金員及び不法行為の後である平成26年10月23日(最終の訴え変更申立書提出日の前日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払う義務を負う。