大阪地裁平成 27年6月 28日判決〔破袋機とその駆動方法に関する特許権侵害差止等請求事件〕

控訴審 知財高裁平成 28 年6月1日判決 〔特許法102条1項ただし「販売すること ができないとする事情」の解釈とその立証責任〕

第3 争点に関する当事者の主張

 1 被告製品1は,本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点1)
 【原告の主張】
  (1) 構成要件Cの充足の有無(争点1-(1))について
 被告製品1の構成1-cのうち,「回転体(11)の回転軸と平行な方の面(前後面)の各上側に横材②が架設され」「横材②には複数の窓口が形成され,各窓口には固定側刃物(20)を突設した板体が着脱自在に設けられており,また,この前後面には,下方から可動側刃物(10)を保守するために開閉可能な開閉扉③が設けられている」との構成は,上記開閉扉③を閉めている状態(通常時)においては,横材②と閉められた扉との組み合わせにおいて「壁」を構成することになるし,開けている状態(停止し,かつメンテナンス等のために扉を開いている限定された場面)であっても,単に面を塞ぐ部材である壁に窓が設けられた構成にすぎない。
 したがって,上記構成は,構成要件Cの「破袋室の他方の平行な対向壁面」に相当し,構成1-cは,構成要件Cを充足する。
  (2) 構成要件D,Eの充足の有無(争点1-(2))について
   ア 意義
 構成要件D,Eにある,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,正・逆方向(双方向)に,回転角度を問わず回る動作が行われる駆動を意味し,回転体が何回転もする制御を含み,また,複数組の正・逆パターンの繰り返し駆動だけではなく,1組の正・逆パターンの繰り返し駆動を含むものである。
 そして,構成1-d,1-eにおける「正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体(11)を正逆駆動回転させる手段」は,上記の意味における「正・逆転パターンの繰り返し駆動(を行う駆動制御)」に相当し,構成1-d,1-eはそれぞれ構成要件D,Eを充足する。
   イ 請求項5及び同7に係る発明との関係
 特許の各請求項の発明はそれぞれ別個の発明であり,本件特許の各請求項の発明もそれぞれ構成が異なるものである。被告が問題とする回転体の駆動制御手段については,本件特許発明と,請求項5及び同7にかかる発明とでは異なるものであるから,請求項5及び同7にかかる発明の駆動制御手段を被告製品が備えないことを論じても意味はない。
 また,請求項5及び同7にかかる発明の駆動制御手段は,本件特許発明の構成要件Dに一定の条件(請求項5については,正・逆転パターンの繰り返し駆動が回転角度を変化させた複数の正・逆転パターンで構成されている点,請求項7については,センサー等により変更される複数の回転角度の正・逆転パターンで構成される点)を付加したものであるが,本件特許発明の構成要件Dにはそのような条件は一切付加されておらず,この点からもアの解釈が相当である。
 また,本件明細書の段落【0013】の記載は,請求項5の発明に対応する記載にすぎず,本件特許発明に対応した記載ではなく,構成要件Dの解釈に何ら影響を及ぼさない。
   ウ 実施例について
 実施例(本件明細書においては,参考例を含む。)は,請求項に記載の発明について,その実施の一例を示すものにすぎず,発明の範囲を限定するものではないし,そもそも,本件明細書に記載の実施例は,1組の正・逆転パターンの組み合わせを排除していない。
   エ 原出願の文言について
 本件特許の原出願(特願2004-243744)の特許請求の範囲の請求項1ないし3には,「揺動回転駆動」という記載があるところ,この表現から回転体が揺動することのみを規定しているとみることはできない(「回転」の文言も含まれている。)し,回転とは,「くるくるまわること」とされ,回転角度について何ら制限なく,まわる動作を意味する用語であるから,原出願の「揺動回転駆動」は,その趣旨を明確化した構成要件Dの「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御」と同義である。
  (3) 構成要件Iの充足の有無(争点1-(3))について
 本件特許発明3の構成要件Iは,「固定側刃物の全部又は一部」を「固定側刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと」待避可能にするものであるところ,被告物件1の構成1-iは,固定側刃物を1個ずつ個別に,ボルト穴が開いている保持部ごと,取り外すことにより待避可能な構造を有する。
 したがって,被告物件1の構成1-iは,本件特許発明3の構成要件Iを充足する。
  (4) まとめ
 以上より,被告製品1は,本件特許発明の構成要件を全て充足する。
 【被告の主張】
  (1) 構成要件Cの充足の有無(争点1-(1))について
 被告製品1の構成1-c(前提事実(6)ア参照)によると,被告製品1の破袋室(2)は,回転体(11)の回転軸と直交する方の面には壁があるが,回転体(11)の回転軸と平行な方の面には壁がない。なお,「壁」とは基本的には開口部がないものを指すという解釈が通常の解釈であり,回転体(11)の回転軸と直交する面は,枠体①に横材②が架設されている構造であって,横材②の大きさ,横材②の下方側が開口し開放されていることから,当業者が通常有する概念としての「壁」に該当しない。
 したがって,構成1-cは,構成要件Cの「破袋室の他方の平行な対向壁面」との構成を有さず,構成要件Cを充足しない。
  (2) 構成要件D,Eの充足の有無(争点1-(2))について
   ア 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書の記載
 本件特許の特許請求の範囲中,請求項5には,「通常操業時,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動を行い袋体を破袋する」との構成を有する破袋機の発明が,請求項7には,「駆動制御手段への指示又は負荷センサが感知する負荷量に応じて,正・逆転パターンの回転角度を予め設定された角度に変更し,回転角度が異なる正・逆転パターンの組合せを繰り返す駆動を行う」との構成を有する破袋機の発明が示されている。
 また,本件明細書には,「基本的な動作は右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動をし,袋体に収容された缶や瓶,プラスチック材などに応じてその回転角度を換えることで,袋体を効率よく破袋し,かつ袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片とごみとを分離できることを知見し,この発明を完成した。」【0013】との記載があるほか,実施例において,正逆180度と正逆360度の組み合わせ(【0035】,【0048】),正逆90度と正逆180度の組み合わせ(【0026】,【0043】)を例示している。
   イ 分割及び補正の経緯
 本件特許の原出願(特願2004-243744)の出願当初において,構成要件Dの「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に相当する構成は,「回転体を揺動回転駆動する駆動制御手段とを有し」とされていたところ,審査過程において,構成要件Dのとおり補正されたものであるが,この補正の際,原告は,次のとおり説明した。
 「出願人は,同時提出の手続補正書(自発)により,【請求項1】~【請求項3】における「駆動制御手段」の構成を「回転体を揺動回転駆動する駆動制御手段」から「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に訂正した。これは「揺動回転駆動」という表現が曖昧であり,これを「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と定義したことによる。すなわち,「揺動回転駆動」という表現だけであると,回転体が正・逆両方向に揺り籠のように微小角度回転するイメージしか与えない。しかし,実体は,【0033】に記載されているように,正方向に360度,逆方向に360度,すなわち正・逆方向に完全に1回転するパターンも含んでおり,揺り籠のように両方向に揺れ動く動作だけではない。正・逆両方向に完全に1回転するような回転動作は,もはや揺動とは言えないのである。このような現実を明確にするために,【請求項1】~【請求項3】において「揺動回転駆動」を「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と定義した。また,この定義に伴って【請求項8】~【請求項10】に一部補正を加え,【請求項1】~【請求項3】との整合を図った。ここで,「揺動回転駆動」が「正・逆転パターンの繰り返し駆動」であることは,【請求項8】における,「可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の揺動角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動」との記載,【請求項10】における「揺動角度が異なる正・逆転パターンの組合せを繰り返す駆動」との記載等から明らかである。すなわち,この補正は出願当初に記載された技術範囲を逸脱するものでもない。
   ウ 構成要件D,Eの解釈
 構成要件D,Eの「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動」という文言は,「正・逆転パターン」とは何か,「繰り返し」とは何か,などの疑義があり,明確にその技術的意義を特定することができないから,本件明細書の記載等を参照してその意義を決することになる。
 前記ア,イからすると,構成要件Dの「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御」の意義は,正・逆転パターンがいくつかあり,それらを繰り返して回転体を駆動制御するものといえ,このような制御により,本件特許発明はその作用効果(「破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,機構が簡素化され,かつ前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる。」【0016】等)を発揮するものである。
 前記イの補正の経過をみると,原告は,「揺動回転駆動」を「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と補正することが要旨変更でないことを主張する根拠として「複数組の正・逆転パターンを組み合わせた駆動制御」が記載されている請求項8及び10を根拠としている。このことから,原告自ら,「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」とは,「複数組の正・逆転パターンを組み合わせた駆動制御」であると主張していることになり,1組の正・逆転パターンの繰り返し駆動制御は排除されていることになる。
 仮に1組の正・逆転パターンの繰り返し駆動制御や,正転と逆転の角度が異なるもの(例えば正転は180度,逆転は90度となるもの)も,構成要件Dに含まれるのだとすると,とりわけ1組の回転角度が同じパターンの制御は,最も単純なものなのであるから,本件明細書の実施例には,当然にその実施例が記載されるはずである。
 また,前記イの補正の際の説明によれば,構成要件Dに,「回転体が1回転(360度)する制御」までは含まれると解釈できても,「回転体が何回転もする制御」は含まれないと解される。
   エ 被告製品1の構成1-d,1-e
 被告製品1の回転体の制御は,「タイマにより行う正・逆転を任意・自由に設定する制御(規則性のない制御)」であり,本件特許発明からは明らかに除外されている正転のみの制御をも行うものである。被告物件1は,巻き付き防止のために回転体を正・逆転制御しているものであり,本件特許発明の回転体の制御とは異なるものである。
 また,被告製品1に付設された制御機構(シーケンサー)は,購入品であり,そのシーケンサー自体は零秒から3000秒までの設定有効範囲内で10分の1秒単位で設定可能であるが,破袋機と連結すると,回転体の重量等の慣性力により,1秒に設定しても1回転はしてしまうし,0.1秒等のごく短い時間に設定すると,破袋機が誤作動してしまうし,1回転以下では袋が破れないから,被告製品1では,回転体が何回転もする制御が通常想定されている。
 よって,構成1-d,1-eは,本件構成要件D,Eに相当するものではなく,被告製品1は構成要件D,Eを備えない。
  (3) 構成要件Iの充足の有無(争点1-(3))について
 「待避」と「取り外し」とは異なる概念であるし,本件明細書(段落【0037】)を参照すると,「待避」とは作動中における固定側刃物への負荷を逃がすためのものと解釈すべきである。
 構成1-iの固定側刃物(20)は,横材②に交換のために「取り外し」自在に設けられたもので,上記の意味における「待避」可能なものではない。
 2 被告製品2は,本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点2)
 【原告の主張】
  (1) 構成要件Cの充足の有無(争点2-(1))について
   ア 構成要件Cの「破袋室の・・対向壁面より」の意義
 本件特許発明における「破袋室」とは,他の空間と区切られた破袋が行われる空間(破袋空間)をいう。そして,その「対向壁面」とは,当該空間(破袋空間)と他の空間を画す壁の破袋空間側の面(内壁面)をいう。
 そして「対向壁面より」とは,「対向壁面の側から」という意味である。すなわち,構成要件Cは,固定側刃物の取付位置を規定しており,取付部材を規定するものではなく,固定側刃物が,例えば破袋室の上部からではなく,対向壁面の側に配置されることを要求しているが,対向壁面に接着されることまでは必ずしも要求していない。
 このことは,本件明細書の記載からも明らかである。本件明細書中の図面である図4においては,固定側刃物20は「破袋室2の外壁上端に軸支するシャフト9に上端部を固着して垂下した短冊状のブラケット8」に止着され(【0033】),破袋室の対向壁面に接着されていない。また,図1及び【0024】をみても,固定側刃物20(棒状キャッチャー21)は,ホッパー3の傾斜面から垂下するブラケット6と破袋室2の外壁に設けるブラケット7」に支持される箱体23により保持され,破袋室2内に水平に「侵入」配置されており,破袋室の対向壁面(内壁面)に接着されていない。このように,本件明細書上,本件特許発明において,固定側刃物について,「破袋室の・・対向壁面」に接着することは必ずしも要求されない。
   イ 被告製品2の構成2-cについて
 上記のとおり,本件特許発明における「破袋室」とは,他の空間と区切られて破袋が行われる空間(破袋空間)をいうところ,被告製品2において,閉塞板(26)と固定パイプ(25)及び一方の対向壁面(2a,2a)で区切られた空間はまさに破袋が行われる空間(破袋空間)である。そのため,かかる空間と他の空間を画す壁の破袋空間側の面(内壁面)である閉塞板(26)と固定パイプ(25)で構成される内壁面は,「破袋室の対向壁面」であるから,構成2-cは,構成要件Cを充足する。
 仮にそうでないとしても,構成要件Cにおける「対向壁面より」とは,「対向壁面の側から」という意味であるから,被告製品2において,対向壁面(2b)の側に設置された固定パイプ(25)に設置された固定側刃物(20)は,対向壁面(2b)より配列,設置されている。したがって,構成2-cは,構成要件Cに相当するものであり,被告製品2は,本件特許発明の構成要件Cを充足する。
  (2) 構成要件D,Eの充足の有無(争点2-(2))及び構成要件Iの充足の有無(争点2-(3))について
 前記1の【原告の主張】(2)(3)で述べたとおりである(構成1-d,1-eを,構成2-d,2-eと読み替える。)。
 【被告の主張】
  (1) 構成要件Cの充足の有無(争点2-(1))について
   ア 構成要件Cの解釈
 構成要件Cは,「固定側刃物は,破袋室の他方の平行な対向壁面より凸設配置された」という文言であるから,この文言からは,「固定側刃物は,対向壁面に取り付けられる」ものと解すべきである。
 すなわち,「対向壁面より」の「より」という助詞は,「動作の起点となる地点,時,事物,人物を表す」とされ,「起点」とは,「物事の始まるところ」とされるから,これを前提に構成要件Cを理解すれば,「複数の板状刃物」が「対向壁面を起点として」「水平に凸設配置されている」ことであり,これはとりも直さず,板状刃物が対向壁面から出ている,すなわち,「対向壁面に取り付けられている」ことを意味し,固定側刃物の取付部材を明らかにするものである。
   イ 構成2-cの構成が,構成要件Cに相当しないこと
 被告製品2の破袋室(2)は,回転体(11)の回転軸と直交する方の面には壁があるが,回転体(11)の回転軸と平行な方の面には壁がない。すなわち,「破袋室の他方の平行な対向壁面」という構成要件Cを備えないものである。閉塞板及び固定パイプは,文言の通常の用法及び技術常識から,破袋室の他方の平行な「対向壁面」とは到底いえない。
 また,固定側刃物は,固定パイプ(25)に取り付けられているのであるから,対向壁面に取り付けられているものでもない。
  (2) 構成要件D,Eの充足の有無(争点2-(2))及び構成要件Iの充足の有無(争点2-(3))について
 前記1の【被告の主張】(2)(3)で述べたとおりである(構成1-d,1-eを,構成2-d,2-eと読み替える。)
 3 構成要件Cに関し,被告製品1,2は,本件特許発明1ないし3と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争点3)
 【原告の主張】
  (1) 総論
 仮に,被告製品1の「回転体の回転軸に平行する面の構造(枠体①に横材②が架設された構造)」や,被告製品2の「閉塞板(26)と固定パイプ(25)で構成される内壁面」が構成要件Cの「破袋室の・・対向壁面」に該当せず,閉塞板(26)と固定パイプ(25)が存在する部分についても対向壁面(2b)のみが「破袋室の・・対向壁面」に該当するとし,かつ「対向壁面より」が「対向壁面に接着して(取り付けられて)」を意味すると解したとしても,以下のとおり,被告製品1,2は,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件特許発明の技術的範囲に属する。
  (2) 差異が発明の非本質部分であること
 本件特許発明特有の作用効果を生じさせる技術的思想の中核をなす特徴的部分は,一軸破袋機について,①固定側刃物を回転体の左右の位置に対向配置し,②回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動をさせることにより,効率的な破袋,ブリッジ現象の防止,破袋後の袋破片の絡みつき防止等を可能にした点にある。
 しかるところ,本件特許発明において,固定側刃物を壁面に接着するか否か自体は,上記の本件特許発明特有の作用効果と関連性がなく,これが本件特許発明の技術的思想の中核をなす特徴的部分(本質的部分)でないことは明らかである。
  (3) 置換しても同一の作用効果を有すること
 上記のとおり,固定側刃物を壁面に接着するか否か自体は,本件特許発明特有の作用効果と関連性を有しないから,固定側刃物の設置部材を「破袋室の・・対向壁面」から「枠体①に横材②が架設された構造」(被告製品1)や「破袋室の対向壁面側に設置された固定パイプ(25)」(被告製品2)に置き換えたとしても,本件特許発明特有の作用効果の発生に何ら影響を与えることはなく,全体として本件特許発明の技術的思想とは別個のものと評価される余地はない。
  (4) 置換が,被告製品1,2の製造当時,容易であったこと
 被告製品1,2の製造販売開始以前から,回転大ドラム体と回転小ドラム体のそれぞれに破袋刃を取り付けた破袋機(二軸破袋機)が公知となっており(乙9参照),また,被告によれば,非回転体ドラムに破袋刃(固定側刃物)を取り付けた一軸破袋機も製造販売されていたと主張するから,固定側刃物を「破袋室の・・対向壁面」ではなく,「枠体①に架設された横材②」や,「破袋室の・・対向壁面側に設置された固定パイプ」に設置することが容易想到であることは明らかである。
  (5) 均等侵害阻害理由がないこと
 その他,被告製品1,2が本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から容易に推考できたものであると認められる事情,被告製品1,2の構成が,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに該当する事情はない。
 【被告の主張】
  (1) 対向壁面の存在は本質的要素であること
 壁が存在せず,開口部となっている構成は,回転体や固定側刃物を固定できないのであるから,4面を有する破袋室の,一方の対向壁面間に回転体が軸支され,他方の対向壁面間に固定側刃物が設けられている構成は,本件特許発明の本質的部分である。また,原告主張の「①固定側刃物を回転体の左右の位置に対向配置した」との構成は,本件特許発明の構成要件になっておらず,これが発明の本質的部分を構成するはずがない。
  (2) したがって,均等論適用のその余の点を論ずるまでもなく,被告製品は,本件特許発明と均等なものということはできない。
 4 本件特許出願の原出願日前に公知となっていた破袋機にかかる発明(本件公知発明)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(1))について
 【被告の主張】
  (1) 本件公知発明(乙14)
 被告は,乙14号証に記載の一軸破袋機を,本件特許の原出願日に先立つ平成15年10月29日,株式会社プリテックに販売し,平成16年4月2日に納品した(乙11,13,14。以下この販売にかかる破袋機を,「公知破袋機」といい,その公知破袋機が備える構成に係る発明を「本件公知発明」という。)。
 本件公知発明は,次の構成を有する。
 m 直方体状の枠体Aからなる破袋室Bを有する。
 n 破袋室Bの一方の対向壁面間に水平に軸支された1本の回転体Cを有する。
 o この回転体Cの表面には,回転体Cの回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物が設けられ,この板状刃物が回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物Dである。
 p この回転体Cと平行にして破袋室Bの一方の対向壁面間には1本の非回転体Eが設けられ,この非回転体Eには板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が凸設され,更に,回転体Cの非回転体E側と反対側斜め上方から板厚みを水平に垂直板からなる複数の板状刃物が下方に向けて凸設され,これら両方の板状刃物が固定側刃物Fである。
 q 夫々独立した正転タイマ及び逆転タイマにより,回転体Cが正逆転駆動を行なう駆動制御手段を有する。
 r 可動側と固定側の複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体Cの正逆転駆動に伴って固定側刃物F間を可動刃物Dが通過し,所定間隔で噛合する固定側刃物Fと可動側刃物D間で袋体を破袋する。
 s 以上の構造を有する破袋機。
  (2) 本件公知発明と,本件特許発明1の相違点
 本件公知発明と,本件特許発明1とを対比すると,相違点は次の2点である。
   ア 本件特許発明1の固定側刃物は,破袋室の対向壁面に設けられているのに対し,本件公知発明の固定側刃物Fは,片側は非回転体Eに設けられ,もう一方の側は枠体Aに付設した取付板Gから斜め下方に向けて凸設されている点(相違点1)
   イ 本件特許発明1の回転体の回転制御は「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行なう駆動制御」であるのに対し,本件公知発明の回転体Cの回転制御は「単なる正逆転駆動を行なう駆動制御」である点(相違点2)
  (3) 相違点の検討
   ア 相違点1について
 相違点1は,可動側刃物とペアとなって破袋作用を果たす固定側刃物を,破袋室の対向壁面に設けるか,非回転体及び取付板(枠体に付設した取付板)に設けるかの相違である。
 この点,固定側刃物を対向壁面に設けても,また,非回転体及び取付板(枠体に付設した取付板)に設けても,両者の作用効果に差はない(非回転体及び取付板についている固定側刃物を,対向壁面に付け替えても,予期し得ない新しい効果は生じない。)
 すなわち,本件公知発明も本件特許発明1も,ともに同じ破袋機であり,可動側刃物と固定側刃物とで,破袋作用を果たすという技術であるから,固定側刃物を壁に取り付けるか非回転体(パイプ)につけるか,また壁に付けるか枠体に付設した取付板に付けるかは,固定側刃物の技術的意義が「可動している刃物と噛合して破袋作用を果たすための固定している刃物の存在」であることにかんがみれば同等であり,いずれの手段を採用するかは,当業者にとっての設計事項にすぎない。
   イ 相違点2について
 本件特許発明の構成要件D,Eにおける「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動(を行う駆動制御手段)」の意義は,前記1の【被告の主張】(2)において主張したとおり,正・逆転パターンがいくつかあり,それらを繰り返した回転体を駆動制御するものと理解され,それらによって,本件明細書記載の作用効果が発揮されるものである。
 一方,本件公知発明の回転体の制御は,制御ユニットに内装されるそれぞれ独立した正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体を正逆駆動回転させるものである(乙2)。すなわち,本件公知発明の制御は,通常一般的に行われる「単なる正逆転を任意自由に設定する制御」である。
 よって,本件特許発明1の構成要件D,Eの制御と,本件公知発明の制御は同一とはいえないが,本件特許発明の構成要件Dの「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御」は,回転体を正逆転させるという制御を知る当業者であれば容易に導けるものに過ぎない。
   ウ まとめ
 したがって,本件特許発明1は,本件公知発明から容易に推考できるものといえ,進歩性を有しない。
  (4) 本件公知発明と,本件特許発明2,3の相違点の検討
 本件公知発明の固定側刃物は,鋭角な刃先部を有しているから,本件特許発明2も,本件公知発明から容易に推考できるものである。
 また,本件公知発明の固定側刃物は固定されているものであるが,設置した固定側刃物をメンテナンス等のために待避(退避)可能に構成することは当業者にとって自明の設計事項である。
  (5) まとめ
 以上のとおり,本件特許発明は,本件公知発明に基づいて,当業者が容易に発明することができるものであり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。
 【原告の主張】
  (1) 被告の主張する事実関係を否認する。
 公知破袋機の販売時期や,本件公知発明の構成を示す客観的な証拠はなく,提出にかかる証拠は信用性がないから,被告主張の事実は認められない。
  (2) 本件公知発明と本件特許発明の相違点の認定
 仮に被告主張のとおり,本件公知発明が,乙14号証に記載のとおりの構成を有していた場合,本件特許発明との相違点は次のとおりとなる。
   ア 本件特許発明の構成要件Cに関し,本件特許発明においては,固定側刃物が破袋室の「対向壁面」より板状刃物を凸設配置したものであるのに対し,本件公知発明においては,一方の固定側刃物が破袋室の「天井」より板状刃物を凸設配置したものである点で異なる(相違点3)。
   イ 本件特許発明3の構成要件Iに関し,本件特許発明3においては,固定側刃物が待避可能であるのに対し,本件公知発明においては,固定側刃物が固定されている点で異なる(相違点4)。
 なお,アに関し,被告は,本件公知発明と本件特許発明1の相違点として,「固定側刃物の取付部材が異なる」点を指摘しているが,本件特許発明の構成要件Cは,固定側刃物を取り付ける対象である取付部材について何ら規定していないから,被告主張の点は,相違点を構成しない。
  (3) 相違点3について
   ア 本件特許発明においては,回転体を正・逆転パターンで繰り返し駆動させるとともに,固定側刃物を破袋室の対向壁面より板状刃物を凸設配置したものとすることにより,前提事実(3)記載の本件特許発明の作用効果を発揮させることができるものである。具体的には,固定側刃物である板状刃物が,破袋室の対向壁面より凸設配置されることは,次の技術的意義を有する。
 (ア) 破袋室の上方開口部を広くとることが可能となり,これにより一度に大量の袋体を投入して効率よく破袋できる。
 (イ) 可動側刃物の両側に破袋空間が形成され,破袋室に投下された袋体を可動側刃物のないし回転体の両側で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる。
 (ウ) 破袋後の内容物及び袋破片が回転体の上でなく回転体の両端の空間に落下することになり,効率よく破袋することができるとともに袋破片の回転体への絡みつきを防止することができる。
 (エ) 固定側刃物の上部空間が確保され,可動側刃物が固定側刃物の下方から上方へ通過することとなり,これにより回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動の際に,破袋室上方のホッパー内に積み上げられた袋体を十分に上下動させ,ブリッジ現象の発生を予防することができる。
   イ 本件公知発明における固定側刃物の取付位置は,板状刃物が破袋室の天井より凸設配置されるものであり,これによっては前記アのいずれの作用効果も生じない。
   ウ まとめ
 本件特許発明における固定側刃物の取付位置は,本件公知発明の固定側刃物の取付位置にはない技術的意義が多くあり,相違点3が単なる設計事項であるということはできない。
  (4) 相違点4について
 本件特許発明3は,固定側刃物の全部又は一部を,当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと,破袋室外へ待避可能にすることにより,メンテナンス等を容易にするという本件公知発明が有しない作用効果を有している。
 被告は,相違点4につき,本件公知発明の固定側刃物は固定されているものであるが,セットした固定側刃物をメンテナンス等のために待避可能に構成することは当業者にとって自明の設計事項であると主張するが,独自の主張であって,作用効果の相違を生じさせる相違点を単なる設計事項ということはできない。
  (5) まとめ
 以上のとおり,本件特許発明は,本件公知発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,無効理由を有さない。
 5 本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である乙33(特開平7-1388号公報)に記載の発明(乙33発明)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(2))について
 【被告の主張】
  (1) 乙33文献の記載
   ア 本件特許出願の原出願日前である平成7年1月6日に公開された特開平7-1388号文献(乙33文献)の図面中の図1(下図)には,次の構造の破袋機が開示されている(符号及びアルファベットは,乙33文献において用いられるものである。)。
図略
   イ 上記図面には,次の構成の破袋機にかかる発明(乙33発明)が開示されているといえる。
 a 上部開口をホッパー11で形成し且つ下方向にテーパをなした処理空間を形成する方形状のケーシング10が設けられている。
 b ケーシング10の下方部には,両端板16,17と傾斜側板12,15が設けられている。
 c 両端板16,17間には長手方向に水平に横架された回転可能な円筒ロータ20が設けられている。
 d 円筒ロータ20の周面上に周方向に1つ,軸方向に順次90度ずつずらして一定間隔で複数組配列したなぎなた状破袋刃30が設けられている。
 e 円筒ローラ20を回動する可逆転ギアードモータ41とチェーン等の回転力伝達機構42とから成る回転駆動装置40が設けられている。
 f 一方の傾斜側板12の下部13は,長手方向に6つに区分され,各々が独立して円筒ロータ20に対して接離方向に揺動するように構成されている。
 g この揺動する6つの下部(区分側板)13a~13fは,スプリングSによって弾性付勢されている。
 h 一方の傾斜側板12の下部13と他方の傾斜側板15の下部には,ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡T内に寄せる逆V断面の三角形リブ18,19が突設されている。
   ウ 乙33文献の段落【0011】には,次の記載がある。
 「可逆転ギアードモータ41によって矢印Aの方向に例えば毎分30~60回転のスピードで円筒ロータ20を回動し,ホッパー11から連続して大量のごみ袋Wをケーシング内に投入して行くと,ごみ袋Wは傾斜側板12,15の相互に隣接した三角形リブ18,19の谷部の破袋刃30が通過する箇所で次々となぎなた(長刃)状の破袋刃30の鋸歯によって切り裂かれる。この際,仮に,比較的硬いプラスチック製品や木製品等が投入された場合に破袋刃30を傷めないように,それら硬い廃棄物に破袋刃30が当たると,その部分の区分側板13a~13fはスプリングSに抗して押し開かれ,硬い廃棄物を下方に落下させることになる。
 その後,内部のごみはケーシング底開口10aから下方のベルトコンベアC上に落下する。」
   エ 乙33文献から読み取れる三角形リブの形状は,次の図Y,図Zのようなものである。
 図Y
図略
 図Z
図略
  (2) 本件特許発明1と乙33発明の一致点
   ア 構成要件A(矩形枠体からなる破袋室)について
 乙33発明の構成aにおいて,破袋室に相当する処理空間はケーシングであり且つ方形状であるから,これは構成要件Aに相当する。
   イ 構成要件B(破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物)について
 乙33発明の構成b,cは,ケーシングの下方部において両端板16,17間にして長手方向に水平に横架された回転可能な円筒ロータ20が設けられ,かつ,円筒ロータ20の周面上に,破袋刃30が,周方向に1つ,軸方向に順次90度ずつずれて一定間隔で複数組配列された構造を有するから,これは構成要件Bに相当する。
   ウ 構成要件C(破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物)について
 乙33発明においては,両傾斜側板12,15の下部に板厚みを水平な垂直板からなる複数の三角形リブ18,19が,円筒ロータ20の軸方向に配列された構造であり,この三角形リブ18,19は,エッジE(下記図Y,Zに図示)を有していることは明らかであり,破袋刃30は各三角形リブ18,19間を通過してごみ袋の切り裂き作用を奏する訳であるから(前記(1)ウ参照),三角形リブ18,19が硬質部材で形成されているという技術常識を考慮すれば,三角形リブ18,19のエッジEがごみ袋に対して切り裂き作用を奏することになる。
 したがって,乙33発明の構成hは,本件特許発明の構成要件Cのうち,「板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」に相当する。
   エ 構成要件D(回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し)について
 乙33発明の駆動制御手段は,可逆転ギアードモータ41が,円筒ローラ20に対して正逆転及び逆回転を行う構造であり,充足論に関する原告の主張を前提とすると,構成要件Dに相当する。
   オ 構成要件E(可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し,)及び構成要件F(所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する)について
 乙33発明は,前記エで述べたとおり,傾斜側板12,15に突設された三角形リブ18,19間を破袋刃30が通過することでごみ袋Wを切り裂く構造である。したがって,乙33発明は,構成要件E,同Fの構成を備えている。
  (3) 本件特許発明1と乙33発明の相違点
 上記によると,本件特許発明1と乙33発明の相違点は,構成要件Cに関する次の点のみである。
 本件特許発明1の固定側刃物は,破袋室の平行な対向壁面に設けられているのに対し,乙33発明における三角形リブ18,19(固定側刃物)は,下方向にテーパをなす対向壁面(一方の傾斜側板12の下部13と他方の傾斜側板15の下部)に凸設されている点。
  (4) 相違点の検討
 上記相違点につき,固定側刃物を平行な対向壁面に設けても,下方にテーパをなす対向壁面に設けても,両者の作用効果に差はなく,三角形リブ18,19が凸設される傾斜側板12,15を互いに垂直状態としても,予期し得ない新しい効果は生じない。
 すなわち,本件特許発明1も,乙33発明も,共に破袋機にかかる発明であり,可動側刃物と固定側刃物とで破袋作用を果たすという技術であるから,固定側刃物を平行な対向壁面に設けるか,下方にテーパをなす対向壁面に設けるかは,固定側刃物の技術的意義が稼動している刃物と噛合して破袋作用を果たすためのものであることに照らすと差異はなく,いずれの構造を採用するかは当業者にとっては設計事項であるし,特開平9-309519号公報(乙34),実開平7-7742号公報(乙35)及び特開平9-253614号公報(乙36)には,可動側刃物と噛合する固定場刃物を平行な対向壁面に凸設した構成が開示されており,これらの先行技術の存在からして,周知技術にすぎないともいえる。
 いずれにしても上記相違点は,実質的なものとはいえない。
  (5) 本件特許発明1に進歩性がないこと
 以上のとおり,本件特許発明1の発明は,乙33発明から,又は乙33発明と周知技術から容易に考えられるものといえ,進歩性を有しない。
  (6) 本件特許発明2,3に進歩性がないこと
 乙33発明の三角形リブ18,19は,鋭角な刃先部(三角形の頂点)を有し,かつ,これを保持する傾斜側板12の側板下部13が待避するものであるから,本件特許発明2の構成要件H,本件特許発明3の構成要件Iに相当する構成が開示されている。
 したがって,本件特許発明2,3についても,乙33発明と周知技術から容易に推考できるものであり,進歩性を有しない。
 【原告の主張】
  (1) 相違点について
 乙33発明と,本件特許発明とでは,被告指摘の点以外にも,次のような相違点がある。
   ア 乙33発明の破袋室は,回転体を軸支する対向壁面ではない方の対向壁面が下方に向けて大きく内側に傾斜しており,平行ではないのに対し,本件特許発明の破袋室は,回転体を軸支する対向壁面ではない方の対向壁面が平行となっている点で異なる。この相違点は単なる設計事項ではない。
   イ 乙33発明の三角形リブは,ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡T内に寄せる横断面逆V形のブロック体であり(なお,三角形リブは,ごみ袋を破袋刃か30の回転軌跡T内に寄せる大きな横断面逆V形のブロック体であるから,図Yや図Zのような構造ではない。),板厚みを水平に凸設配置された垂直板ではない。
 そもそも本件公知文献から当該三角形リブが「エッジE」を有することは全く読み取れない。加えて,エッジEの有無にかかわらず,後記のとおり,三角形リブは「板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」に相当するものではない。破袋の作用(乙33発明においては,破袋刃30のみにより破袋が行われるのであって,三角形リブは破袋作用に寄与しない。)も異なっている。
   ウ 後記のとおり,本件特許発明1の回転体の駆動制御手段と,乙33発明の回転体の駆動制御手段は異なる。
  (2) 乙33発明の三角形リブについて
   ア 乙33発明の三角形リブは,ごみ袋を破袋刃30の回転軌跡T内に寄せる作用を有する(それゆえに大きく開いた)横断面逆V形のブロック体(乙33文献の【請求項3】【0005】【0008】)であり,板厚みを水平に凸設配置された垂直板ではない。
 なお,乙33発明の三角形リブの形状(横断面逆V形)は,袋体を破袋刃30のみにより効率的に破袋するために設けられたものである。すなわち,乙33発明は,可動側刃物と固定側刃物の噛合による引き裂き,押切により袋体を破袋するのではなく,破袋刃30の鋸歯により切り裂くことにより袋体を破袋するものである。横断面逆V型のブロック体である三角形リブを破袋刃間に対応して設置すると,袋体は隣接リブ間のV状底に寄って,破袋刃によって効率的に切られる(乙33文献【0005】)。このように,可動側刃物と固定が刃物の噛合ではなく,破袋刃のみにより破袋を行う乙33発明と,可動側刃物と固定側刃物の噛合により破袋を行う本件特許発明とは,破袋方法が全く異なる。
 このことからも,乙33発明の三角形リブから本件特許発明の「板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物」に対して進歩性を否定する論理づけができないことは明らかである。
   イ 三角形リブは,ごみ袋の切り裂き・押切作用(破袋作用)に寄与しない。すなわち,乙33文献の記載からは,被告が破袋作用を奏すると主張するエッジEは全く読み取れない。したがって,乙33発明は,エッジEを有しない。
 また,「ごみ袋は隣接リブ間のV状底に寄って破袋刃によって効率的に切られる(乙33文献【0005】),「破袋刃30は,矢印Aの正転方向において後進上反りのなぎなた(表刃)形状を成しており,歯を鋸歯状にしてゴミ袋に対する食い込みを良くして確実に破袋できるようにしている(同【0010】),「なぎなた状の刃30は,ごみ袋やごみに対してあまり攪拌せずに接線タッチで静粛に切込みを行う」(同【0011】),「なぎなた状破袋刃によってほとんど攪拌すること無くほこりを舞い上げること無く効率的に静粛にスピーディーにごみ袋を切り開いてケーシング底開口から落として行く」(同【0012】)の各記載から,乙33発明は,可動側刃物と固定側刃物の噛合による切り裂き,押切ではなく,専ら回転体に配列された破袋刃のみによる切り裂きにより袋体を破袋するものである。
 したがって,三角形リブは(エッジEの有無に関わらず)ごみ袋の引き裂き,押し切り作用(破袋作用)に寄与しない。
   ウ したがって,乙33発明の三角形リブは,本件特許発明の固定側刃物に相当しないし,可動側刃物と固定側刃物の噛合による引き裂き,押し切りにより破袋を行う本件特許発明と,破袋刃のみの切り裂きにより破袋を行う乙33発明とは破袋方法が全く異なることからも,乙33発明の三角形リブから,本件特許発明の「(破袋作用に寄与する)固定側刃物」に対して,進歩性を否定する論理づけはできない。
  (3) 破袋室の回転体を軸支する対向壁面ではない方の対向壁面のテーパの有無について
 一軸破袋機において,下方に向けて大きく内側に傾斜した対向壁面は,投入された袋体を一軸の回転体の上部に集中,集積させることによりブリッジ現象を発生させやすくする(出口が狭いために,積み上げられた袋体の上下動が阻害され,詰まる)ことになる。
 また,対向壁面が下方に向けて大きく内側に傾斜すると,出口が狭まり袋体やその中身の排出が抑制されることになり,回転体に配列された破袋刃(回転側刃物)が袋体だけでなく袋体内の中身(ポリ容器等)をも破壊(破砕)する作用が強くなるほか,切り裂かれた袋が回転軸の両側空間を落下せずに回転軸上に落下する結果,回転軸に巻き付きやすくなる。そして,本件明細書の段落【0009】ないし【0012】及び【0013】に記載のとおり,乙33発明のこの欠点(2つの回転軸からなる2軸の破袋機に比べ機構は簡素であるが,切り裂かれた袋破片が切り刃に絡みつくのを防止できない欠点)の解消を目的として,正・逆回転パターンの繰り返し駆動を行う一軸の回転体に配置された可動側刃物と平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる板状刃物を配列した固定側刃物により袋体を破袋する等の特徴を有する本件特許発明がされたものである。
 したがって,一軸破袋機において,破袋室の回転体を軸支する対向壁面ではない方の対向壁面が「平行」か「大きく内に傾斜している」かは,実質的な相違点である。
 なお,乙33発明は,「連続的に投入される大量のごみ袋を投入箇所においてすぐになぎなた状破袋刃によってほとんど攪拌すること無くほこりを舞い上げること無く効率的に静粛にスピーディーにごみ袋を切り開いてケーシング底開口から落として行くことができ,また硬い物が混入して投入されても弾支された区分側板が逃げて破袋刃に無理な力がかからず,使用寿命が長く故障も少ない。」ことを発明の作用効果としている(乙33文献【0012】)。攪拌作用を抑えつつ回転体に配列された破袋刃により効率的な破袋を行うためには,下方に向けて大きく内側に傾斜した対向壁面(と横断面V形のブロック体である三角形リブ)により袋体を効率的に破袋刃の回転軌跡内に寄せることが必要であり,対向壁面を平行にすることは効率的な「寄せ」を阻害する。したがって,乙33発明の「下方に向けて大きく内側に傾斜した対向壁面」から本件特許発明の「平行な対向壁面」に対して進歩性を否定する論理づけはできない。
 さらに,乙34ないし36記載の発明は,一軸破袋機に関するものではないから,組み合わせることについての動機づけを欠くものである。
  (4) 乙33発明が「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行う駆動制御手段を有していないこと
 乙33発明は,可逆転ギアードモータを有し,また,乙33文献の段落【0010】には,「ロータ20の逆回転時にも破袋できるように,刃30の後端部にも切り裂きエッジを形成してもよい。この場合,他方の側板15の下方部を,区分して弾支する構造にしてもよい。」との記載が存する。
 しかし,乙33文献には,乙33発明について,回転体の正転と逆転を「組合せ(回転体を一定時間又は一定角度正回転させた後に一定時間又は一定角度逆回転させること)」て,「繰り返す」旨の記載(例えば,タイマによる切り替え等)は一切存在しない。かえって,乙33文献の前記指摘箇所以外の記載は,全て一方向(正転方向)への回転を前提としたものとなっている。また,乙33発明の作用効果は,「攪拌すること無くほこりを舞い上げること無く」破袋するものであるところ,回転体の正転・逆転を組み合わせて繰り返した場合には攪拌が起こりほこりを舞い上げることになり,乙33発明がその作用効果を十分に奏することはできなくなる。したがって,乙33文献における逆回転の記載は,回転体を一定時間,又は一定角度正回転させた後に一定時間又は一定角度逆回転させることを繰り返すという技術思想を開示するものではなく,単に回転体を時計回り方向へ一方的に回転(逆回転)させることにより破袋する技術思想を開示しているに過ぎないことが明らかである。
 したがって,乙33発明は,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行う駆動制御手段を備えていない。
  (5) まとめ
 以上のとおり,本件特許発明は,乙33発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
 6 原告の被った損害(争点5)について
 【原告の主張】
  (1) 被告製品1の生産等により原告が被った損害
   ア 原告による本件特許の実施
 原告は,本件特許発明の実施品として,原告破袋機を製造販売している。
 平成25年4月から平成26年3月までに原告が販売した原告破袋機は合計14台であり,その総売上げは9039万円,総仕入金額(材料費,外注費,運送費等が含まれる)は,4121万1631円であるから(なお,これらの原告破袋機は全て外注(製造委託)により製造されている。),原告破袋機の1台当たりの利益額は351万2740円となる。
   イ 被告製品1の譲渡数量
 被告は,本件特許権設定登録の日である平成21年8月28日以降,少なくとも5台の被告製品(被告製品1及び2)を販売,納品している。
 また,被告は,この5台とは別に,平成21年8月28日以降,少なくとも3台の被告製品を販売している。これらについては納品されていないが,被告の販売(受注)により,原告は,すでに本件特許実施品の販売機会を喪失している(例えば,被告は北丹行政事務組合の案件に関し3台の被告製品を販売(現時点で未納)しているところ,同案件には原告も応札していたが,最終的に被告が受注し,原告は失注している。)。なお,被告は,販売済未納品である被告製品の台数,販売時期等の開示を拒否している。
   ウ 特許法102条1項による損害
 特許法102条1項による損害は,原告破袋機の単位数量当たりの利益額である351万2740円に,被告の販売台数である8台を乗じた2810万1920円となる。
   エ 特許法102条2項による損害
 被告は,被告製品の1台当たりの販売額は334万円であることを自認し,かつ,控除すべき経費について何らの立証をしないから,売上から控除すべき費用はない(売上げと利益額が等しいものである)ものとして特許法102条2項に基づき推定される損害額は,前記334万円に8台を乗じた2672万円となる。
   オ 被告による,第三者が使用する被告製品1の保守作業により原告が被った損害
 被告製品の使用継続のためには,毎年の保守作業や所定年数ごとの部品の交換が必要不可欠であり,被告も,被告製品を補修(修理)していることを認めている(もっとも,被告は,被告製品の保守に関する資料の開示を拒否している。)。
 被告による販売・納入済の5台の被告製品の納入時期及び台数,これらが原告の実施品であったとした場合の必要な保守によって得ることのできる売上の積算並びにこれによる得べかりし利益は次のとおりである(本来,保守に係る損害については本件特許の成立前に販売された製品に関しても成立するべきものであるから,これは控えめな算定である。)から,被告の保守行為により,原告は次の逸失利益相当の損害(357万9837円)を被っている。
図略
   カ まとめ
 原告は,被告に対し,上記の損害額(ウまたはエとオの合計)の一部である2816万9021円及びこれに対する平成26年10月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
  (2) 特許法102条1項ただし書該当の事情等について
 被告の主張を否認し,争う。
 【被告の主張】
  (1) 損害に関する原告の主張を否認し,争う。
   ア 本件特許の登録の日(平成21年8月28日)以降に販売された被告製品の台数は,次の表のとおりであり,被告製品の販売価格は,定価で350万円,実際の販売価格は334万円であり,一台の当たりの純利益は約30万円であるから,合計の純利益は約150万円である。
図略
   イ 保守費用に関する原告の主張も争う。
 被告は,原告が主張するような定額の保守料を徴収する保守契約は締結しておらず,修理の内容,程度,費用に応じた販売先の判断により,被告に依頼があればその都度対応しているのが現状である。客先自身で修理することもあれば,被告以外に修理を依頼することもあるはずである。
 また,被告が修理の依頼を受けたものがあったとしても,その内容,程度によって金額はさまざまであるから,原告主張のような金額にはならない。
 そもそも,保守料は,第三者の侵害行為から発生する損害とは言えず,第三者の侵害行為から生じた損害に当たらず,相当因果関係がないし,保守行為は本件特許権を侵害する行為ではない。
  (2) 特許法102条1,2項に基づく推定について
   ア 原告が実施品を販売していると認められないことについて
 特許法102条1,2項が適用されるためには,権利者製品が当該特許発明の実施品でなければならないところ,原告製品が本件特許の実施品にあたるとの証拠はないから,適用が否定されるべきである。
   イ 特許法102条1項ただし書の事情
 破袋機に関し,原告製品及び被告製品以外にも,第三者の製造販売する破袋機が存在するから,被告製品が存在しなかったとしても,全ての需要者が原告製品の購入に向かうことはない。
 被告製品の売り上げは,せいぜい1年に1,2台であり,原告製品の有無にかかわらず一定である。そして,製品の性格上,常時市場に流通しているような製品ではないから,侵害品の出現がそのまま権利者製品の売り上げに影響するものではないし,各メーカーのシェアが大幅に変動することはない製品であるから,侵害品の出現は権利者製品の売り上げには影響しない。
 したがって,原告製品と被告製品が仮に競合品の関係にあるとしても,被告が販売した被告製品の全部の数量について,原告が販売することができなかったものである。
   ウ 寄与率について
 特許法102条1,2項に基づいた損害額を算定するに際しては,損害額を妥当な額に調整するため,寄与率が考慮されるべきであり,寄与率の算定に関しては,製造原価割合,販売価額等割合のみならず,特許発明による商品又は役務の価値ないし需要者の購入動機への寄与に影響しうる各種の事情が考慮されるべきである。
 被告製品の回転体は,分単位の正転,逆転を繰り返す作動をするのに対し,原告製品の回転体は,角度単位の正転・逆転を繰り返す作動をする。原告製品のような動作をするには,インバータやサーボモータが必要となり,コストが高くなり製品の価格は高くなる。すなわち,原告製品は高価であって,小さな回転角度で正逆転させることでブリッジ現象の発生を防止するものということになり,被告製品は,安価であり,作業者が袋の投入量を加減することで絡まりを防止しようとするものであって,需要者は,ブリッジ現象発生の有無及び価格差(原告製品の1台当たりの価格約646万円に対し,被告製品は約300万円)により購入を決定するから,両者はそもそも競合品となりえないものである。
 また,被告は,国内初の雪上車メーカーで(南極探検用,自衛隊用),現在,唯一の雪上車メーカーである(乙49,50)。被告ブランドの知名度,周知度は相当高く,被告製品に対する需要者の購入動機にこの被告の,雪上車メーカー故に信頼できる機械を提供しているというブランドイメージが相当程度寄与している。
 以上から,被告製品に対する本件特許の寄与率は相当低いといえ,せいぜい30パーセントを超えない。
   エ 侵害者の受けた「利益」の意味
 特許法102条2項にいう利益の意味は,純利益に解すべきであるし,限界利益と考えた場合であっても,被告のような小規模会社がこの種の大型機械を製造する場合,本来の業務のほかに追加的に侵害品を製造する際には別途製造人件費が追加して必要となる。したがって,製造人件費は,侵害品の製造販売に相当因果関係のある直接固定費として控除されるべきである。