大阪地裁平成 27年6月 28日判決〔破袋機とその駆動方法に関する特許権侵害差止等請求事件〕

控訴審 知財高裁平成 28 年6月1日判決 〔特許法102条1項ただし「販売すること ができないとする事情」の解釈とその立証責任〕

第2 事案の概要

 本件は,後記特許権の特許権者である原告が,被告の製造販売する別紙被告製品目録記載1,2の破袋機(以下「被告製品1」「被告製品2」と称し,総称して「被告製品」という。)が原告の特許権を侵害するものであると主張して,特許法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,不法行為(民法709条,719条2項)に基づき,原告の被った損害の賠償及び不法行為の後日である平成26年10月23日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案である。
 1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
  (1) 当事者
 原告は,廃棄物処理機械等の機械の設計,製造,販売及び修理等を目的とする株式会社である。
 被告は,雪上車の製造販売のほか,ごみ廃棄物処理機械設備の製造販売等を目的とする株式会社である。
  (2) 原告の特許権
 原告は,次の特許(以下請求項1,2及び4の特許を順に「本件特許1」「本件特許2」「本件特許3」といい,「本件特許」と総称する。本件特許にかかる発明を「本件特許発明」と総称し,個別には「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。本件特許についての明細書及び図面を「本件明細書」といい,登録に係る権利を「本件特許権」と総称する。)の特許権者である。
 特許番号   第4365885号
 発明の名称  破袋機とその駆動方法
 出願日    平成21年2月13日(特願2009-031663)
 分割の表示  特願2004-243744(P2004-243744)の分割
 原出願日  平成16年8月24日
 登録日   平成21年8月28日
 特許請求の範囲
 【請求項1】
 矩形枠体からなる破袋室と,破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と,破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と,回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し,可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し,所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する破袋機。
 【請求項2】
 固定側刃物の板状刃物は,鋭角な刃先部を有する請求項1に記載の破袋機。
 【請求項4】
 固定側刃物は,その全部又は一部を当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと破袋室外へ待避可能にした請求項1に記載の破袋機。
  (3) 本件明細書における作用効果の記載
 本件明細書には,本件特許発明の作用効果として,次の記載がある(【0016】ないし【0018】)
   ア この発明によると,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,機構が簡素化され,かつ前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができる。
   イ また,この発明によると,破袋室上方のホッパー内に積み上げられた袋体は回転体が正・逆転パターンの繰り返し駆動する際に可動側刃物により押し上げられるため,袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,1つの回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動させる構成によって,破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない。
   ウ さらに,この発明によると,正・逆転パターンの繰り返し駆動される可動側刃物と固定刃物を組み合せた構成により,廃プラスチック材を収納した柔軟な袋体を可動側と固定側の刃物の協同により効率良く破袋できる。
  (4) 本件特許発明の構成要件の分説
 本件特許発明は,次のとおり構成要件に分説できる(以下,各構成要件を「構成要件A」等という。)。
   ア 本件特許発明1
 A 矩形枠体からなる破袋室と,
 B 破袋室の一方の対向壁面間に水平に軸支された回転体の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物と,
 C 破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と,
 D 回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段とを有し,
 E 可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し,
 F 所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する
 G 破袋機。
   イ 本件特許発明2
 AないしGの構成要件を備える破袋機であって,
 H 固定側刃物の板状刃物は,鋭角な刃先部を有する。
   ウ 本件特許発明3
 AないしGの構成要件を備える破袋機であって,
 I 固定側刃物は,その全部又は一部を当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと破袋室外へ待避可能にした。
  (5) 被告による被告製品1,同2の製造,販売
 被告は,少なくとも平成19年6月頃から平成22年5月頃にかけて,被告製品1を業として生産,販売し,平成23年6月頃から,被告製品2を業として,生産,譲渡,譲渡の申し出をしている(原告は,被告製品1,2が別紙被告製品目録記載1,2の各(2)の構成欄記載の構成を備えていると主張し,被告は,構成c,d,e及びiについて争うところ,乙1及び弁論の全趣旨によれば,被告製品1の具体的構成は後記(6)アのとおりと認められ,乙38及び弁論の全趣旨によれば,被告製品2の具体的構成は同イのとおりと認められる。)。
  (6) 被告製品の具体的構成
   ア 被告製品1は,次の構成を備えている(乙1及び弁論の全趣旨。符号のうち丸数字のものは,別紙被告製品参考図の図1記載のもの。)
 1-a 矩形枠体からなる破袋室(2)と,
 1-b 破袋室(2)の一方の対向壁面(2a,2a)間に水平に軸支された回転体(11)の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物(12a,12b)を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物(10)と,
 1-c 破袋室(2)は,直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直通する方の面)を適宜の板材で塞ぎ,底面,天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は,開口をそのままに開放されており,開放されている前後面の上側にはそれぞれ横材②が架設され,横材②の下方側は依然開放されており,横材②には複数の窓口が形成され,各窓口には固定側刃物(20)を突設した板体が着脱自在に設けられており,また,この前後面には,下方から可動側刃物(10)を保守するために開閉可能な開閉扉③が設けられており,
 1-d 制御ユニットに内装されるそれぞれ独立した正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体(11)を正逆駆動回転させる手段を有し,
 1-e 可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a,12bと24)が所定間隔で噛合するように,回転体(11)の上記dの正逆駆動回転に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物(24)間を可動側の垂直板からなる板状刃物(12a,12b)が通過し,
 1-f 所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a,12bと24)間で袋体を破袋する
 1-g 破袋機(1)。
 1-h 固定側刃物(20)の板状刃物(24)は,鋭角な刃先部を有する。
 1-i 固定側刃物(20)は,横材②に対し取り外し自在に設けられている。
   イ 被告製品2は,次の構成を備えている(乙38及び弁論の全趣旨。符号のうち丸数字のものは,別紙被告製品参考図の図2記載のもの。)
 2-a 矩形枠体からなる破袋室(2)と,
 2-b 破袋室(2)の一方の対向壁面(2a,2a)間に水平に軸支された回転体(11)の表面に,回転軸に直角な垂直板からなる複数の板状刃物(12a,12b)を,該回転軸から放射方向に且つ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるように凸設した可動側刃物(10)と,
 2-c 破袋室(2)は,直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直交する方の面)は適宜な板材で塞がれ,底面,天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は,開口をそのままにして開放されており,この開放されている前後面の上側にして枠体①の左右側面同士間にはパイプ部材(25)が架設され,またこのパイプ部材(25)の下方側は依然開口しており,このパイプ部材(25)には,複数の固定側刃物(20)が突出状態に並設されており,この前後面には開閉扉③が設けられ,開閉扉③を開けて,前記パイプ材(25)の下方から可動側刃物(10)を保守し,
 2-d 制御ユニットに内装されるそれぞれ独立した正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体 (11)を正逆駆動回転させる手段を有し,
 2-e 可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a,12bと24)が所定間隔で噛合するように,回転体(11)の上記dの正逆駆動回転に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物(24)間を可動側の垂直板からなる板状刃物(12a,12b)が通過し,
 2-f 所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物(12a,12bと24)間で袋体を破袋する
 2-g 破袋機(1)。
 2-h 固定側刃物(20)の板状刃物(24)は,鋭角な刃先部を有する。
 2-i 固定側刃物(20)は,パイプ部材(25)に設けられている。
  (7) 争いのない構成要件の充足部分
 被告製品1の構成1-a,1-b,1-f,1-g及び1-h,被告製品2の構成2-a,2-b,2-f,2-g及び2-hが,それぞれ構成要件A,B,F,G及びHを充足することにつき,争いがない。
 2 争点
  (1) 被告製品1は,本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点1)
   ア 構成要件Cの充足の有無(争点1-(1))
   イ 構成要件D,Eの充足の有無(争点1-(2))
   ウ 構成要件Iの充足の有無(争点1-(3))
  (2) 被告製品2は,本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点2)
   ア 構成要件Cの充足の有無(争点2-(1))
   イ 構成要件D,Eの充足の有無(争点2-(2))
   ウ 構成要件Iの充足の有無(争点2-(3))
  (3) 構成要件Cに関し,被告製品1,2は,本件特許発明1ないし3と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争点3)
  (4) 特許法104条の3第1項に基づく本件特許権の権利行使制限の成否(争点4)
   ア 本件特許出願の原出願日前に公知となっていた破袋機にかかる発明(本件公知発明)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(1))
   イ 本件特許出願の原出願日前に頒布された刊行物である乙33(特開平7-1388号公報)に記載の発明(以下「乙33発明」という。)を主引例とする進歩性欠如の無効理由の有無(争点4-(2))
  (5) 原告の被った損害(争点5)