大阪地裁平成 27年6月 28日判決〔破袋機とその駆動方法に関する特許権侵害差止等請求事件〕

控訴審 知財高裁平成 28 年6月1日判決 〔特許法102条1項ただし「販売すること ができないとする事情」の解釈とその立証責任〕

第4 当裁判所の判断

 1 被告製品1は,本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属するか(争点1)について
  (1) 当裁判所は,被告製品1は,構成要件C,D,Eを充足し,本件特許発明1,2の技術的範囲に属すると判断し,構成要件Iを充足せず,本件特許発明3の技術的範囲に属しないものと判断する。その理由は次のとおりである。
  (2) 本件特許発明の技術分野,背景技術及び解決しようとする課題
   ア 本件明細書(甲2)には,本件特許発明の技術的分野について,次の記載がある。
 「この発明は,例えば家庭ごみや産業廃棄物として各種袋体に詰められて,廃棄物処理場に収集される混合ごみを,可燃性ごみと資源ごみの種類別に分別回収,あるいは袋詰めの瓶,アルミ缶,スチール缶,プラスチック容器などを材料種別で分別回収する際,これらの分離作業の前処理として行われる袋体を破砕して(以下破袋という)収容物を取出し,破砕された袋破片と袋体収容物との分離除去作業を容易にする破袋機とその駆動方法に関する。」(【0001】)
   イ 本件明細書には,本件特許発明の背景技術について,次の記載がある。
 「・・袋体を破袋するための破袋機としては,従来,平行に架設され互いに内向きに回転する2つの回転軸の周囲に設けた多数の切り刃で袋を引き裂くものが提案(特許文献1)されていた。」(【0002】)
 「前記従来の破袋機は,切り刃に引き裂かれた袋片が絡みつく欠点があった。この欠点を除くため破袋機の改良が試みられた。その1つとして,平行に架設した2軸の回転軸にそれぞれ複数の円板を対向させ,(中略)回転数を違えて互いに逆向きに内向きに回転させるものが提案(特許文献2)された。」(【0003】)
 「この破袋機は,(中略)固形物が両側円板の刃先間に挟まって故障する恐れがある。しかも,回転軸が2軸必要な上,互いに回転速度を違える必要があり,装置が複雑となる欠点がある。」(【0004】)
 「また,ロータの周面に多数のなぎなた状破袋刃を配置し,該ロータに対向して処理空間を形成する傾斜側板をロータに対設し,かつ該傾斜側板の下部をばねによりロータ側へ付勢した破袋機(特許文献3),及び支持円筒に多数の切り刃を放射状に配設した円板の複数枚を1つの回転軸に一定間隔で取付けた回転体に傾斜押さえ板を対設し,傾斜押さえ板の下部をばねにより円板側へ付勢した破袋機が提案されている。」(【0005】)
   ウ 本件明細書には,本件特許発明が解決しようとする課題について,次の記載がある。
 「・・従来の破袋機は,(中略)切り刃に引き裂かれた袋片が絡みつき易く,処理能力の低下や停止などを誘発し易い欠点がある。」(【0007】)
 「・・従来の2軸の回転軸からなる破袋機は,左右回転軸の回転速度を変えるため装置が複雑でかつコンパクトにできない欠点がある。」(【0008】)
 「・・1つの回転軸と,これに対設した押さえ板からなる1軸の回転軸からなる破袋機は,(中略)機構は簡素化できるが,引き裂かれた袋破片が切り刃に絡みつくのを防止できない欠点がある。」(【0009】)
 「この発明は,上述の現状に鑑み,破袋機の構成を簡素化して1つの回転軸から構成され,破袋後の引き裂かれた袋破片が絡みつく欠点を解消した構成からなる破袋機とその駆動方法を提供することを目的としている。」(【0010】)
   エ 以上によれば,本件特許発明は,袋詰めのごみを分別回収する前処理として,袋体を破砕し,袋破片と袋体収容物とを分離し得るようにする破袋機とその駆動方法に関するものであり,従来技術においてみられる,2軸の回転軸からなる,左右回転軸の回転速度を変えるといった複雑な構成によらず,1つの回転軸からなる簡素な構成(一軸破袋機)を採用しつつ,破袋後の破袋片が回転軸等に絡みつくことを防止することを課題としている。
  (3) 本件特許発明における課題解決手段
   ア 本件明細書(甲2)には,上記課題の解決手段について,次の記載がある。「発明者らは,1軸の回転軸を有した構成において,(中略)回転軸に対して直径方向に一対の刃物(直線状刃物)を配置しかつ回転軸方向に前記可動側刃物を例えば90度ずらして複数配置するとともに,これら可動側刃物に水平方向から対向する棒材でばね作用を有する棒状キャッチャーを所定間隔で配置し,前記刃物に対して回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うことにより,(中略)袋体を効率よく破袋し袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片と缶や瓶等とを分離できることを知見した。」(【0011】)
 「また,発明者らは,前記構成の破袋機において,棒状キャッチャーに換えて水平方向に固定配置される固定側刃物とすることにより,プラスチック材を詰めた袋体の破袋並びに袋破片とプラスチックとの分離を効率よく実施できることを知見した。」(【0012】)
 「さらに,発明者らは,前記構成の破袋機において,可動側刃物の駆動方法を検討した結果,基本的な動作は右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動をし,袋体に収容された缶や瓶,プラスチック材などに応じてその回転角度を換えることで,袋体を効率よく破袋し,かつ袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片とごみとを分離できることを知見し,この発明を完成した。」(【0013】)
   イ 以上によれば,発明者らは,前記(2)記載の課題解決のために,まず,1軸の回転軸に可動側刃物を複数配置して,可動側刃物に水平方向から対向する棒状キャッチャーを所定間隔で配置し,前記刃物に対して回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う構成についての知見を得【0011】,次に前記構成を前提に,棒状キャッチャーに換えて,固定側刃物を水平方向に固定配置する構成についての知見を得【0012】,さらに前記構成を前提に,右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う構成についての知見を得た【0013】とされている。
 【0011】では,棒状キャッチャーを有する構成が示されているが,これは,本件特許権の特許請求の範囲の請求項1ないし7のいずれにも採用されていない。他方,【0012】では,1軸の回転軸に可動側刃物を複数配置し,水平方向から対向する固定側刃物を配置し,回転側刃物を回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う構成が示され,【0013】では,1軸の回転軸に可動側刃物を複数配置し,水平方向から対向する固定側刃物を配置し,回転側刃物を,右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動する構成が示されているが,そのいずれも,袋破片が回転軸に絡みつくことなく,破袋及び分離を効率よく行うことができるとされ,本件特許発明に対応する内容と解される。
  (4) 本件特許発明の作用効果
 前提事実(3)記載のとおり,本件特許発明は,袋体を破砕する破袋機とその駆動方法に関するものであり,本件明細書の記載によれば,その作用効果は,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に固定刃物群を配置するという簡素な構成を採用し,かつ,前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に補足し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができること【0016】,破袋室上方のホッパー内に積み上げられた袋体は回転体が正・逆転パターンの繰り返し運動をする際に可動側刃物に押し上げられるため,袋体のブリッジ現象の発生が防止され,破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがないこと【0017】,廃プラスチック材を収納した柔軟な袋体を可動側と固定側の刃物の協同により効率よく破袋できる【0018】ことにあるとされる。
  (5) 構成要件Cについて(争点1-(1))
   ア 「平行な対向壁面」の意義
 構成要件Cは,「破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物」である。
 本件特許発明1において,固定側の板状刃物の機能を検討するに,同刃物は,構成要件Eにおいて,「可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物が所定間隔で噛合するように,・・固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の板状刃物が通過」する構成とされ,構成要件Fにおいて「所定間隔で噛合する可動側と固定側の垂直板からなる複数の板状刃物間で袋体を破袋する」構成とされるものである。
 そうすると,固定側の板状刃物が可動側の板状刃物と協働して袋体を破袋するために,固定側の板状刃物は,他方の平行な対向壁面,すなわち,回転体の回転軸に平行な対向壁面より凸設配置されるものであるから,本件特許発明1における「対向壁面」とは,回転体の回転軸に平行であって,固定側刃物が配置されうる程度の広さ,形状を有し,一定程度の空間を仕切る作用を有するものであれば足り,矩形枠体からなる破袋室の全体を覆っていることや,平面であることを要するものではないと解することができる。
 このように,「平行な対向壁面」の「平行」を回転体の回転軸に対して平行と解することは,前記(3)に記載の本件特許発明の課題解決手段として掲げられた,「固定側刃物を水平方向に固定配置する構成」と整合する一方,本件明細書において,上記以上に「平行な対向壁面」を限定して解釈すべきことを示唆する記載は認められない。この点に関する被告の主張は採用の限りでない。
   イ 構成1-cの構成要件Cの充足の検討
 前提事実(6)アによると,被告製品1の構成1-cは,「破袋室(2)は,直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直通する方の面)を適宜の板材で塞ぎ,底面,天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は,開口をそのままに開放されており,開放されている前後面の上側にはそれぞれ横材②が架設され,横材②の下方側は依然開放されており,横材②には複数の窓口が形成され,各窓口には固定側刃物(20)を突設した板体が着脱自在に設けられており,また,この前後面には,下方から可動側刃物(10)を保守するために開閉可能な開閉扉③が設けられ」ているものであるが,このうち,前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)の両上側にそれぞれ横材②が架設され,横材②には複数の窓口が形成され,各窓口には固定側刃物を突設した板体が設けられているのであるから,かかる構成は,前記アの意味における「平行な対向壁面」に相当するものと認められる。
 また,対向壁面がこのように解せられる以上,固定側刃物が対向壁面「より」配置されていることは,これを設置する位置とみるか,起点とみるかにかかわらず,これを充足することになる。
   ウ まとめ
 以上によれば,構成1-cは,本件特許発明1の構成要件Cを充足する。
  (6) 構成要件D,Eについて(争点1-(2))
   ア 「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意義
 構成要件Dは「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」を,構成要件Eは「回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動」を構成に含み,共通する「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は同義と解されるところ,前記第3の1【被告の主張】(2)のとおり,上記文言について,被告は,正・逆転パターンがいくつかあり,それらを繰り返して回転体を駆動制御するとの意味であって,1組の正・逆パターンの繰り返し駆動を含まないこと,回転体が1回転する制御までに限定され,回転体が何回転もする制御は含まれないことを主張して,被告製品の構成はこれに該当しないとするのに対し,原告は,1組の正・逆パターンの繰り返し駆動も含まれ,回転体が何回転もする制御も含まれる旨主張する。
   イ 検討
 (ア) 明細書の記載
 本件明細書(甲2)によると,課題解決手段に関する前記(3)アの記載(段落【0011】,【0013】),作用効果に関する前記(4)の記載(段落【0016】ないし【0018】)の記載のほか,【発明の詳細な説明】において,次の記載がされていると認められる。
 「また,この発明は,上述の構成を有する破袋機において,駆動制御手段は,回転駆動源に負荷センサを有し,過大負荷時に回転体の駆動を停止させ,通常操業時,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動を行い袋体を破袋することを特徴とする破袋機の駆動方法である。」(【0015】)。
 「・・例えば可動側刃物10は,右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返すとすると,パターン1では右回転で袋を捕捉し,左回転で引き裂くことができ,またパターン2では左右とも回転することにより,袋を押し切り破壊することができ,連続運転される際,かかる引き裂き,押し切りによる破袋が交互にあるいは同時に進行する。」(【0035】)
 「・・通常操業時には,前述のように,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す制御,あるいは複数パターンの組合せを繰り返す制御を行うことができる。」(【0038】)
 「駆動制御手段に,負荷センサが感知する負荷量に応じて,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動する速度(可動側刃物の周速度)を変化させて,袋体の破袋処理量を増減させたり,負荷センサが感知する負荷量に応じて,正・逆転パターンの回転角度を予め設定された角度に変更し,回転角度が異なる正・逆転パターンの組合せを繰り返す駆動を行うなど,想定されるごみ種類と袋体の大きさ並びに処理量などの条件変化の範囲等を想定して,装置の停止や破袋不足が生じることのないようプログラミングすることができる。」(【0040】)
 (イ) 出願,補正の経緯(乙3ないし5)
 本件特許の原出願の審査経過において,出願人(原告)は,本件特許発明の構成要件Dに相当する,原出願の特許請求の範囲請求項1の構成に関し,「回転揺動駆動」との文言を,本件特許発明の構成要件Dにおける「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」と補正し,平成20年10月31日付けの早期審査に関する事情説明書(乙5)において,次のとおり説明した。
 「出願人は,同時提出の手続補正書(自発)により【請求項1】~【請求項3】における「駆動制御手段」の構成を「回転体を揺動回転駆動する駆動制御手段」から「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に訂正した。これは,「揺動回転駆動」という表現が曖昧であり,これを「正・逆転パターンの繰り返し駆動」と定義したことによる。
 すなわち,「揺動回転駆動」という表現だけであると,回転体が正・逆方向に揺り籠のように微小角度回転するイメージしか与えない。しかし,実体は,【0033】に記載されているように正方向に360度,逆方向に360度,すなわち正・逆両方向に完全に1回転するパターンも含んでおり,揺り籠のように両方向に揺れ動く動作だけではない。正・逆両方向に完全に1回転するような回転動作は,もはや揺動とは言えないのである。」
 (ウ) 当裁判所の判断
 「パターン」という言葉は一般には「型」,「規則性」といった意味を有するのであり,これを適用すると,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,「正転,逆転を規則的に繰り返す駆動」と理解することができるのであり,その文言から,複数の正・逆転パターンがあって,これらを繰り返す駆動を意味するものと,直ちに理解し得るものではない。
 被告は,発明の詳細な説明に,「正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す制御,あるいは複数パターンの組合せを繰り返す制御」といった記載があることから,上記のとおり解すべき旨を主張する。しかしながら,前記(3)で述べたとおり,発明の詳細な説明によれば,「回転側刃物を回転でなく(「単純な一方向の回転ではなく」との意味に解される。)正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行う構成と,「右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行う構成が,いずれも本件特許発明の作用効果を有するとされているところ,本件特許発明では,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を構成に含む請求項1ないし4記載の発明と,「可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動」を構成に含む請求項5の発明及び「正・逆転パターンの回転角度を予め設定された角度に変更し,回転角度が異なる正・逆転パターンの組合せを繰り返す駆動」を構成に含む請求項7記載の発明が区別されており,これによると,請求項1ないし4記載の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,段落【0013】の「右回転と左回転を1パターンとして種々パターンで正・逆転パターンの繰り返し駆動」や,請求項5又は同7記載の「複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動」とは異なるものといわざるを得ない。
 「可動側刃物10は,右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返す」との本件明細書の前記記載も,請求項5又は同7記載の発明の説明またはその実施例を示すものと解され,この記載を根拠に,請求項1ないし4記載の発明の構成である「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意味内容が,被告主張のとおりであると認めることはできない。
 また,前記(イ)によれば,原告は,本件特許発明の請求項1について,「回転体を揺動回転駆動する駆動制御手段」から「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に訂正し,その際,「正・逆両方向に完全に1回転するパターンも含んでおり,揺り籠のように両方向に揺れ動く動作だけではない。正・逆両方向に完全に1回転するような回転動作は,もはや揺動とは言えない。」と説明しているが,原出願時においても,「回転体」,「揺動回転駆動」といった言葉が使用されており,一般的意味における「回転」を前提とするものであると解されるし,1回転以上の回転を排除する趣旨も読み取り得ない。
 以上検討したところによれば,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」については,字義通り,「正転,逆転を規則的に繰り返す駆動」と解すべきものであって,前記明細書の記載及び出願の経緯から,複数の正・逆パターンを繰り返すものでなければならない,あるいは,回転体が何回転もする制御は含まないといった限定を付すべき理由はない。
   ウ 構成1-d,1-eについて
 前提事実(6)アによると,被告製品1の構成1-dは,「正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体11を正逆駆動回転させる手段」であるところ,この具体的構成は,証拠(乙1)によると,被告製品1の回転体の制御にあっては,手動運転のほか,自動運転モードが備えられ,自動運転では,破袋機が自動運転し,設定値に従い,自動で正転・逆転が切り替わるものであり,その設定に関し,タイマ・カウンタの設定項目には,「D142 定期正転時間(定期の正転時間)」,「D143 定期正転後停止時間(定期の正転時間(D142)に達すると設定時間停止し,定期逆転に移る。)」,「D144 正-逆切替時間(正転→逆転,逆転→正転に切り替える際のインターバル時間)」,「D149 定期逆転時間(定期正転時間(D142)に達すると設定時間で逆転動作を行う。)」,「D150 停止逆転後停止時間(定期逆転時間(D149)に達すると設定時間停止し,定期正転に移る。)」との項目があり,定期正転時間,定期逆転時間は,それぞれ,0から3000秒の範囲で,10分の1秒単位で数値により設定することができるものであることが認められる。
 そうであるとすると,被告製品1は,定期正転時間と定期逆転時間にそれぞれ一意の数値が設定されることにより(正転時間と逆転時間が異なってもよい),1組の正・逆転パターンの組合せができ,これを規則的に繰り返す駆動を実現する構成を有しているものと認めることができる。
   エ まとめ
 以上によると,被告製品1の構成1-dの「回転体11を正逆駆動回転させる手段」は,構成要件Dの「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に相当し,同様1-eの「正逆駆動回転」は,構成要件Eの「正・逆転パターンの繰り返し駆動」にするから,被告製品1は,構成要件D,Eを充足する。
  (7) 構成要件Iについて(争点1-(3))
   ア 構成要件Iの文言
 構成要件Iは,「固定側刃物は,その全部又は一部を当該刃物を保持する壁面ごとあるいは刃物の保持部ごと破袋室外へ待避可能にした」との構成である。
 前記(1)から(5)までの検討によると,「破袋室」とは,破袋が行われる空間であって,対向壁面(等)で仕切られる空間を指すものと解される。したがって,「破袋室外」とは,破袋が行われるその仕切られた空間の外側を意味するものと考えられる。
 もっとも「待避」とは,その辞書的意味は,「わきにさけて事の過ぎるのを待つこと」であるところ(広辞苑(第6版)),本件特許3の特許請求の範囲の記載からは,何を避けるのかは一義的に明確ではなく,その記載から意義を明らかにすることはできない。
   イ 本件明細書の記載
 本件明細書の【発明を実施するための形態】には,構成要件Iの構成に関し,次のとおり記載されていると認められる。
 「板状刃物24を採用した固定側刃物20は,複数の板状刃物24を格子状のブラケット8に止着しており,破袋室2の外壁上端に軸支するシャフト9をダンパーユニット30で大きな荷重がかかった際に回動可能にすることで,板状刃物24群を破袋室2より待避させることができる。すなわち,廃プラスチックなどが収容された袋体では,処理ワークが不燃物なので大きな異物が投入されることが予想され,これらによって装置の停止が頻発することがないようにメンテナンスが容易になる。」(【0037】)
   ウ 構成要件Iの「待避可能」の意義
 前記明細書の記載及び文言の一般的意味からすると,「破袋室外へ待避可能」とは,作動中に大きな負荷がかかった際に,固定側刃物を破袋室外へ待避,すなわち,大きな負荷を避けて負荷が除去されるまで破袋室外に留め置く構成をいうものと解され,単に固定側刃物が修繕の際に取り外し可能なようになっているようなものは含まないと解される(上記イの記述における「メンテナンス」も,運転の中で発生するごみの詰まりなどによる停止に対応する趣旨で用いられるものと解され,刃物の交換といった修繕を指す意味で用いられるものとは解されない。)。
   エ 構成1-iは,構成要件Iを充足するか
 構成1-iは,「固定側刃物(20)は,横材②に対し取り外し自在に設けられている。」とするものであり,固定側刃物を横材から取り外すことができることができるにすぎず,上記のような大きな負荷を避け,負荷が除去されるまで,固定側刃物を破袋室外に留め置くような構成を有するものとは認められない。
 したがって,構成1-iは,構成要件Iを充足しない。