営業秘密の不正取得等の侵害立証に関する文書提出命令(積極)

裁判年月日 平成 27 年 7 月 27 日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 決定
事件番号 平27(モ)273号
事件名 文書提出命令申立事件

第 3 当裁判所の判断 ― 1 認定事実

 当事者間に争いのない事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる(以下,証拠により認定した事実については括弧内に証拠を記載する。証拠の掲記には,特に摘示したもののほか,枝番を含む。以下同じ。)。

 (1)HI-Bプロセス等に係る認定事実

 ア 申立人は,昭和43年(1968年),●●●を特徴とする方向性電磁鋼板を製造する方法として開発されたHI-Bプロセス(高温法プロセス)(訂正後の基本事件訴状別紙営業秘密目録1及び3記載のもの)によるHGOの工業生産を開始した。(甲22)

 イ 相手方は,●●●年(●●●年)●●●月●●●日,申立人のもと従業員である●●●が代表取締役を務める●●●との間で,「●●●」(以下「本件●●●契約」という。)を締結した。本件●●●契約において,相手方から●●●に支払われる対価の総額は,●●●円とされていたが,●●●年(●●●年)●●●月●●●日付け延長契約により●●●円と変更され,相手方は同対価全てを●●●に支払った。本件●●●契約において,●●●は,相手方に対し,●●●を提出することとされており(1.1.1条),●●●(1.1.2条)。(甲40,42)

 ウ 相手方及び●●●は,●●●年(●●●年)●●●月,本件●●●契約に基づき,「●●●」(以下「HGO業務標準」という。)を策定した。HGO業務標準では,相手方が「NSC」(当時の申立人の略称)の「Hi-B級」の水準に達することを目標とし,その目標を達成するため,●●●,これに基づきHGOの試験・生産を行うこととされていた。Aは,●●●を務めていた。(甲51)

 エ 相手方は,●●●年(●●●年)ころ以降,●●●を通じて,少なくとも,本件技術情報のうち,HI-Bプロセスに関する技術情報の一部を含む資料である,甲第32号証,甲第65号証,甲第67号証及び甲第76号証を取得した。また,相手方が策定した●●●年(●●●年)●●●月付け「●●●」(甲63)には,本件技術情報の一部が記載されている。(甲55,64,66,68,75,96)

 オ 相手方は,●●●年(●●●年)●●●月ころまでに,●●●,●●●年(●●●年)ころHGOの工業生産を開始した。(甲77,乙82)

 (2)SLプロセス等に係る認定事実

 ア 申立人は,●●●年(●●●年)から,●●●を特徴とする方向性電磁鋼板を製造する方法であるSLプロセス(低温法プロセス)(訂正後の基本事件訴状別紙営業秘密目録2及び3記載のもの)の研究開発を開始し,●●●年(●●●年)にHGOの工業生産を開始した。(甲22)

 イ 相手方ないし相手方の設置したPOSCO東京研究所は,●●●年(●●●年)から●●●年(●●●年)に,●●●との間において対価を総額●●●円とする●●●本の●●●契約ないし●●●契約を締結し,●●●年(●●●年)ころから●●●年(●●●年)ころにかけて,●●●に関する報告書を受領したが,これらの報告書には,本件技術情報のうちHI-Bプロセス及びSLプロセスに関する技術情報の一部が含まれていた。(甲100,106,107,109,111,113,114,128ないし132,134)

 ウ 基本事件被告Bは,申立人のもと従業員としてHGOの技術開発に従事し,平成7年(1995年)3月に申立人を退職した後もSLプロセスに関する本件技術情報である甲第115号証ないし甲第118号証,甲第121号証及び甲第209号証を所持していた者であり,同年9月ころから平成13年(2001年)9月ころまでの間,韓国のC工科大学校において,客員教授として●●●を行った。(弁論の全趣旨)

 エ 相手方は,それまでの高温法プロセスによるHGOの工業生産から,低温法プロセスによるHGOの工業生産に切り替えた。なお,相手方が低温法プロセスによるHGOの工業生産を開始した時期については,現時点における証拠関係上は明らかでない。この点,相手方は,●●●年(●●●年)ころから低温法プロセスに関する研究開発をし,●●●年(●●●年)●●●月に低温法プロセスによる現場試験を開始し,●●●年(●●●年)●●●月ころには低温法プロセスによるHGOの量産を開始し,●●●年(●●●年)にはそれまでの高温法プロセスによるHGOの工業生産から低温法プロセスによるHGOの工業生産に切り替えた旨主張するが,現時点では,乙第19号証,乙第82号証の内容等を考慮してもこれを認めるに足りない。

 (3)ROF等に係る認定事実

 ア D(以下「D」という。)は,申立人のもと従業員として電磁鋼板設備の開発・改良に従事していた者であるが,平成4年(1992年)3月に申立人を退職した後,平成5年(1993年)4月に株式会社E(以下「E社」という。)を設立した。Dは,本件技術情報のうちROFに関する申立人の資料の一部を,申立人に無断で自宅に送付し保管していた。(甲A3)

 イ 相手方は,●●●年(●●●年)●●●月,申立人に対し,ROFの技術供与の要請をしたが,申立人からは技術供与を断られた。(甲A52)

 ウ 相手方は,●●●年(●●●年)●●●月●●●日付けで,E社と●●●契約を開発費●●●円で,また,D個人と●●●契約を報酬月額合計●●●円で,それぞれ締結し,相手方におけるHGOの仕上焼鈍設備である回転型連続焼鈍炉(以下「COF」という。)の●●●にDを起用した。(甲A7,8)

 エ 相手方は,●●●年(●●●年)ころ以降,DないしCOFの工業炉メーカーとして選定された●●●を通じて,本件技術情報のうち,ROFに関する技術情報の一部を含む甲A第12号証ないし甲A第14号証,甲A第25号証及び甲A第71号証を取得した。なお,甲A第12号証ないし甲A第14号証及び甲A第25号証には申立人のROFに係る情報であることを示す記載がある。(甲A12ないし25,29,30,32,50,72ないし75)

 オ 相手方は,COF3機を建設し,現在に至るまでこれらのCOFを稼働させてHGOを製造している。相手方のCOF一号機は,少なくとも一部の設計図面が申立人の広畑製鐵所のROFと極めて類似する。(甲A3,66,79,92)

 カ 相手方は,連結子会社を通じて,●●●年(●●●年)●●●月●●●日付けで,E社との間で,総額●●●円で●●●契約を締結し,これに基づき,申立人のもと従業員である●●●及び●●●から●●●を受けた。(甲A3,47)

 (4)Aに係る認定事実

 ア Aは,本件刑事事件において,相手方はHGOの製造方法に係る営業秘密を申立人のもと従業員を通じて不正に取得し使用していたなどと主張し本件文書等を証拠提出したところ,韓国の大邱高等法院は,「(相手方)が低温加熱方向性電気鋼板の製造技術を開発する当時(申立人)の退役技術者または日本の技術諮問会社と役務契約を締結し,これらから(申立人)の各種資料と情報の提供を受けたと見られる事情,(相手方)と(申立人)の低温加熱方向性電気鋼板の製造技術は低温加熱法でその基本原理や成分系等に類似する点が多く,製造工程中に脱炭窒化工程でのみ差がある点等の事情が一部窺える」,「被告人らが提出した資料(中略)によると,(相手方)が本件資料の一部を正当でない方法で取得,保有しているような事情が一部窺える」などとしたが,「(相手方)の職員であった被告人らとしては依然として(相手方)の営業秘密を侵害しない義務を負っている」こと,Aが漏洩した資料は,相手方が「(申立人)の一部技術を応用したり上記技術に追加し,(申立人)とは別個の独自の低温加熱方式の方向性電気鋼板製造技術を開発し」たものであり,「いずれも(相手方)で各種実験や繰り返された操業結果に基づいて作成した操業ノウハウ,設備等に関するもので特許として公開されない資料である」などとして,Aが相手方の営業秘密を漏洩したなどと認定した判決を言い渡した。(甲11)

 イ 本件刑事事件においてAが提出した証拠のなかに,「●●●」,「●●●」,「●●●」,「●●●」,「●●●」という題目のものがあるが,これらの題目は,申立人保有の本件技術情報に係る資料の題目とほぼ同一であるところ,韓国の大邱地方法院は,申立人が準抗告人である準抗告事件決定において,これらの資料につき,「いずれもその作成言語,題目,文書に記載された帰属主体,文書形式,内容,日本の年号の使用などを考慮すれば,原作成者または原所有者は準抗告人であると推定される」旨認定した。(甲13,116ないし118,121,240,甲A50)

 ウ Aは,平成23年(2011年)1月,申立人従業員及び申立人代理人と香港にて面談し,本件技術情報に係る技術資料の表紙等(日本語ないし英語で記載されたものを含む。)を持参して示し,相手方が組織的に申立人の本件技術情報を不正取得・使用した旨供述した。(甲A62,63)

 エ Aは,平成24年(2012年)11月の本件パリ面談の際,持参したパソコンに保存された本件文書等の電子データを液晶画面上に表示させた上で,当該文書のタイトル,内容等を読み上げる等して説明を行い,これに基づいて相手方が組織的に申立人の本件技術情報を不正に取得し使用した旨具体的に供述した。(甲A64)