(参考判例)平成27年11月19日知財高裁判決〔特許権侵害行為差止等請求控訴事件〕
特許法102条1項ただし書の事情および同条2項の推定覆滅事由


 4 争点(6)(本件特許権2の侵害に基づく損害額)について

  (1) 譲渡数量及び譲渡された版胴の種別について
   ア 証拠(甲22,24,乙33,44の2,55の2)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,①被告製品2(1)につき,合計48個を譲渡したこと,②被告製品2(2)につき,合計48個を加工したこと,③被告製品2(3)につき,合計48個を加工したことが認められる。
 オフセット輪転機には,「4×1」(4頁幅×1頁周長)機及び「4×2」(4頁幅×2頁周長)機があり,版胴のタイプには「一本胴」と「シェル胴」があるところ,被告製品2(1)の内訳は,「4×1」機向け「一本胴」48個であり,被告製品2(2)の内訳は,「4×2」機向け「一本胴」12個,「4×2」機向け「シェル胴」36個であり,被告製品2(3)の内訳は,「4×2」機向け「一本胴」12個,「4×2」機向け「シェル胴」36個である。
   イ 控訴人は,上記譲渡数量に加えて,被告輪転機2(1)ないし(3)につき,故障等に備えるための交換用版胴として,輪転機1セット当たり2個,合計12個を譲渡した旨主張するが,かかる事実を認めるに足りる証拠はない。
  (2) 被告製品2?及び?(「4×2」機向け「一本胴」24個,「4×2」機向け「シェル胴」72個)の加工による損害額について
   ア 被告製品2(2)及び(3)についての特許法102条1項の適用の可否
 (ア) 被告製品2(2)及び(3)に係る被控訴人の行為は,前記第2の2(5)イのとおり,顧客先の輪転機に既存の版胴に対するヘアライン加工を受注し,同工事を施工したというものであるところ,控訴人は,被告製品2(2)及び(3)が既存版胴に対する加工というより安価な侵害態様であっても,特許権者の製品の販売機会が喪失する以上,特許法102条1項が適用されるとして,被告製品2(2)及び(3)を譲渡数量に含めた損害額の算定を主張するのに対し,被控訴人は,被告製品2(2)及び(3)については,「譲渡」ではなく,「生産」の実施行為があっただけであるから,これらについて同項の適用はない旨主張する。
 (イ) 製品について加工や部材の交換をする行為であっても,当該製品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総合考慮して,その行為によって特許製品を新たに作り出すものと認められるときは,特許製品の「生産」(特許法2条3項1号)として,侵害行為に当たると解するのが相当である。
 本件訂正発明2は,前記2(1)イのとおり,オフセット輪転機の版胴に関する発明であり,版胴の表面粗さを6.0μm≦Rmax≦100μmに調整することによって,版と版胴間の摩擦係数を増加させ,これにより版ずれトラブルを防止するというものである。
 そして,被控訴人が,被告製品2(2)及び(3)に対して施工した版胴表面のヘアライン加工は,金属(版胴)の表面を一定方向に研磨することで連続的な髪の毛のように細かい線の傷をつける加工であり(乙79),表面粗さRmaxが加工前は6.0μmよりも小さい値であったのを,加工後は約10μmに調整するものであるから,上記加工は,版胴の表面粗さを6.0μm≦Rmax≦100μmに調整した本件訂正発明2に係る版胴を新たに作り出す行為であると認められる(弁論の全趣旨)。
 したがって,被控訴人の被告製品2(2)及び(3)に係る行為は,特許法2条3項1号の「生産」に当たるというべきである。
 (ウ) また,被控訴人は,顧客から被告製品2(2)及び(3)に対するヘアライン加工を有償で受注し,上記のとおり,ヘアライン加工の施工により本件訂正発明2の版胴を新たに作り出し,これを顧客に納入していること(乙72~77。枝番を含む。)により,控訴人の販売機会を喪失させたことになるから,被告製品2(2)及び(3)についても,特許法102条1項を適用することができるというべきである。
 (エ) 被控訴人の主張について
 被控訴人は,版胴に追加工する場合の顧客の負担と版胴を控訴人製品に交換する場合の顧客の負担に鑑みれば,被控訴人製の輪転機の顧客が,本件訂正発明2を実施した版胴を得たいがためだけに,既存の版胴を廃棄し,控訴人製品をあえて購入した現実的可能性はない旨主張する。
 しかし,版ずれトラブルに直面した被控訴人製の輪転機ユーザーにおいて,版ずれトラブルを回避するために,控訴人に対して,輪転機や版胴の組立図面を提供し,現地調査を依頼するなどし,これによって,控訴人において,当該輪転機用に調整された版胴を作製するために必要な情報を得て,被控訴人製の輪転機に用いる版胴を作製することがおよそできないものと認めることはできない。
 また,証拠(甲11,23,26)及び弁論の全趣旨によれば,①版ずれトラブルが生じると,輪転機ユーザーは輪転機を停止し,版交換を行わなければならず,印刷工程の遅れにつながるため,厳しい納期の下で新聞印刷を行う印刷会社にとって,版ずれトラブルは正に「頭の痛い問題」であること,②版ずれトラブルが生じた場合には,版の再製作が必要となり,その都度新しい版代(1枚1000円程度)がかかるほか,版交換のために輪転機を停止し,再開することに伴う損紙のコスト,残業代等の人件費,工場から販売店への輸送の遅れを回避するためのチャーター便の費用等がかかることがあり,経費削減の面からも,版ずれトラブルは輪転機ユーザーが避けなければならない問題であること,③版ずれトラブルは,輪転機の稼働年数とともに発生件数が増加し,多いときには月に40件以上も発生する例もあること,④他の手段を試みても解決しなかった版ずれトラブルを解決する手段として,本件訂正発明2(版胴表面粗さRmaxを調整)は,有効であることが認められる。上記のとおり,輪転機ユーザーにとって版胴トラブルを解決することが重要であること,本件訂正発明2が版胴トラブルの解決に有効な手段であることに照らせば,版ずれトラブルに直面した被控訴人製の輪転機ユーザーにおいて,版ずれトラブルを回避するために,控訴人製品を購入した可能性がないとまでいうことはできない。そして,被控訴人主張の上記事情については,特許法102条1項ただし書において考慮すべきものである。
   イ 特許法102条1項に基づく損害額について
 (ア) 特許法102条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,同項本文において,侵害者の譲渡した物の数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定し,同項ただし書において,譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定して,侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより,従前オールオアナッシング的な認定にならざるを得なかったことから,より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。
 特許法102条1項の文言及び上記趣旨に照らせば,特許権者等が「侵害行為がなければ販売することができた物」とは,侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである。また,「単位数量当たりの利益額」は,特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した額(限界利益の額)であり,その主張立証責任は,特許権者等の実施能力を含め特許権者側にあるものと解すべきである。
 さらに,特許法102条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が「販売することができないとする事情」については,侵害者が立証責任を負い,かかる事情の存在が立証されたときに,当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものであるが,「販売することができないとする事情」は,侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし,例えば,市場における競合品の存在,侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),侵害品の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴),市場の非同一性(価格,販売形態)などの事情がこれに該当するというべきである。
 (イ) 「侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額」について
  a 控訴人は,控訴人製品の限界利益について,以下の取引事例3例を挙げるが,その立証としては,わずかに後掲各証拠しか提出しない(なお,受注に至らない段階の見積書にすぎない甲47は除く。)。後掲各証拠は,取引ごとに見積書,契約金額算出書類等の体裁や費目の計上の仕方等が異なる上に,いずれも大半が黒塗りであって,費目の詳細が明らかでないものがあるところ,各証拠の記載に弁論の全趣旨を総合して認められる事実は,以下のとおりである。
   ? 取引事例1
 ⅰ 取引の内容
 控訴人は,●●●●●●●頃,本件訂正発明2の実施品であるオフセット輪転機版胴(「●●●」機向け「シェル胴」)●個及びブランケット胴の新製交換工事の発注を受け,これを契約金額●●●●●円(税抜価格)で受注した(以下「取引事例1」という。甲45の2,45の4~7)。
 ⅱ 控訴人製品の売上額
 取引事例1の上記契約金額は,「工事費」と「部品費」とから成り,部品費には,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が含まれる(甲45の1)。
 そして,契約金額全体に占める部品費の割合は,全体の約●●●●%(●●●●●●●●●円/●●●●●●●●●円。小数点第2位以下四捨五入。以下同じ。)であり,部品費全体に対する上記②の版胴の部品費の比率は●●●●%(●●●●●●●●円/●●●●●●●●●円)と認められる(甲45の1)。
 したがって,取引事例1における控訴人製品(版胴)の売上額は,契約金額のうち部品費に相当する額に,部品費全体に占める上記②の版胴部分の割合を乗じた額である●●●●●●●●●円(●●●●●円×●●●●%×●●●●%)に相当するものとして,算定することとする。
 ⅲ 経費
 取引事例1における版胴の製造原価は,●●●●●●●●円である(甲45の1)。それ以外に控除すべき変動経費についての立証はないが,取引事例1について,控訴人内部の契約金額算出書類(甲45の3)に計上された「製造原価」の額は●●●●●●●●●円であり,見積書(甲45の1)における部品費の額である●●●●●●●●●円におおむね一致することからすると,控訴人内部の契約金額算出書類(甲45の3)において,製造原価以外の経費として計上された費目は,見積書(甲45の1)においては,「工事費」に含め計上されているものと推認される。
 ⅳ 限界利益額
 取引事例1における控訴人製品(「4×2」機向け「シェル胴」)1個当たりの限界利益額は,上記ⅱの控訴人製品の売上額である●●●●●●●●●円から,上記ⅲの製造原価として●●●●●●●●円を控除した,●●●●●●●●円をもって相当と認める。
   ? 取引事例2
 ⅰ 取引の内容
 控訴人は,●●●●●●●頃,本件訂正発明2の実施品であるオフセット輪転機版胴(「●●●」機向け「一本胴」)●個の発注を受け,これを契約金額●●●●円(税抜価格)で受注した(以下「取引事例2」という。甲37の1~3,甲39,甲40の1~3)。
 ⅱ 控訴人製品の売上額
 取引事例2の上記契約金額は,顧客先版胴の●●●●●●●●●,●●●●●●●●●●)と●●●●●●●●及び●●●●●●を取り付ける工事全体の契約金額である(甲40の3)。
 取引事例2の契約金額全体に占める控訴人製品の割合は,取引事例2に係る証拠からは明らかではないが,取引事例1における契約金額全体に占める部品費の割合と同等として,取引事例2の契約金額●●●●円に占める控訴人製品の売上額に相当する額を推定すると,●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●%)となる。
 ⅲ 経費
 取引事例2に関する控訴人内部の契約金額算出書類(甲25の2)には,「製造原価」として,●●●●●●●●円が計上されている。この製造原価に含まれる費目の詳細は,取引事例2に係る証拠からは明らかではないが,費目の計上の仕方などその体裁からすると,このうちには,「工事費」に係る原価も含まれていることが窺われる。したがって,製造原価全体に占める控訴人製品に係る製造原価の割合を上記と同等として,製造原価の額を推定すると,●●●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●%)となる。
 また,控訴人は,変動経費として,「一般管理費」として計上された●●●●●●●●円(甲25の2)のうち,大半が人件費によって占められるとする●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●円(甲25の2)を控除し,その残額に,控訴人における「●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」(甲41)の一般管理費中の変動費の割合である●●●●%を乗じた額を控除することを自認しており,この額は●●●●●●●円である。
 ⅳ 限界利益額
 したがって,取引事例2における控訴人製品の限界利益額は,上記ⅱの売上額●●●●●●●●円から上記ⅲの製造原価額●●●●●●●●円及び変動経費額●●●●●●●円を控除した●●●●●●●●円をもって相当と認める。
   ? 取引事例3
 ⅰ 取引の内容
 控訴人は,平成25年3月頃,本件訂正発明2の実施品であるオフセット輪転機版胴(「●●●」機向け「シェル胴」)●個の新製交換工事の発注を受け,これを契約金額●●●●●円(税抜価格)で受注した(以下「取引事例3」という。甲46の2,46の4~7)。
 ⅱ 控訴人製品の売上額
 取引事例3の上記契約金額は,「●●●●●●●●●●●●●●」から成る。契約金額全体に占める「●●●●●●」の割合は,●●●●%(●●●●●●●●●円/●●●●●●●●●円。甲46の1)であるから,控訴人製品の売上額は,●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●%)と推定される。
 ⅲ 経費
 取引事例3に関する控訴人内部の契約金額算出書類(甲46の3)には,「●●●●●●●●●●●●●●●●●円が計上されている。この製造原価に含まれる費目の詳細は,取引事例3に係る証拠からは明らかではないが,費目の計上の仕方などその体裁からすると,このうちには,「●●●●」に係る原価も含まれていることが窺われる。したがって,製造原価全体に占める控訴人製品に係る製造原価の割合を,契約金額全体に占める控訴人製品の割合と同等として,製造原価の額を推定することとする。控訴人によれば,取引事例3の製造原価は,「●●●●」として計上された●●●●●●●●円から,大半が人件費によって占められるとする「●●●●●●●●●●●●●●●●●●円」を控除した●●●●●●●●円(甲46の3)であるから,この額に上記割合を乗じると,●●●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●%)と推定される。
 また,控訴人は,変動経費として,「一般管理費」として計上された●●●●●●●●円(甲46の3)に,控訴人における「●●●●●●●●●●●●●●」(甲46の8)における変動費の割合である●●●●%を乗じた額を控除することを自認しており,この額は●●●●●●●円である。
 ⅳ 限界利益額
 したがって,取引事例3における控訴人製品の限界利益額は,上記ⅱの売上額●●●●●●●●●円から上記ⅲの製造原価額●●●●●●●●円及び変動経費額●●●●●●●円を控除した●●●●●●●●円をもって相当と認める。
  b 前記aの取引事例1ないし3に係る控訴人製品は,いずれも被告製品2(2)及び(3)と市場において競合関係に立つ製品であるから,特許法102条1項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に当たる(甲37の1~3,45の4~7,46の4~7)。
  c そして,控訴人製品の販売による1個当たりの限界利益額は,以下のとおり認めることができる。
   ? 「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額
 「4×2」機向け「一本胴」の取引例は,取引事例2のみしか立証されていないところ,その販売による限界利益額は,●●●●●●●●円として算定することとする。
   ? 「4×2」機向け「シェル胴」の限界利益額
 「4×2」機向け「シェル胴」についての取引例としては,取引事例1及び3があるところ,取引事例1における限界利益額は,●●●●●●●●円と算定されるのに対し,取引事例3における限界利益額は,●●●●●●●●円と約2倍となっている。両取引事例において,限界利益額に大きな差が生じた事情について,控訴人は何ら説明しないこと,取引事例3が本件特許権2の存続期間中のものではないこと等を考慮して,「4×2」機向け「シェル胴」の販売による限界利益額は,少なくとも●●●●●●●●円であるとして算定することとする。
 (ウ) 実施能力について
  a 特許法102条1項は,前記(ア)のとおり,譲渡数量に特許権者等の製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,特許権者等の実施能力の限度で損害額と推定するものであるが,特許権者等の実施能力は,侵害行為の行われた期間に現実に存在していなくても,侵害行為の行われた期間又はこれに近接する時期において,侵害行為がなければ生じたであろう製品の追加需要に対応して供給し得る潜在的能力が認められれば足りると解すべきである。
  b 控訴人の実施能力
 証拠(甲23,48,49,52)及び弁論の全趣旨によれば,①控訴人は,●●●●●●●●●●●●の期間において,年間平均で約●●●個の控訴人製品を製造しており,最大で●●●個の製造実績があること,②控訴人の生産設備の稼働能力に照らせば,上記の期間において,実際に受注製造した個数に加え,少なくとも144個の控訴人製品を製造することが可能であったことが認められる。
 以上の事実に照らせば,本件侵害行為の当時,控訴人には,侵害行為がなければ生じたであろう製品の追加需要に対応して控訴人製品を供給し得る能力があったものと認められる。
 (エ) 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額は,以下の計算式のとおり,合計●●●●●●●●●●●円となる。
  a 被告製品2(2)
 「4×2」機向け「一本胴」:●●●●●●●●円×12個=●●●●●●●●●円
 「4×2」機向け「シェル胴」:●●●●●●●●円×36個=●●●●●●●●●円
 小計 ●●●●●●●●●●●円
  b 被告製品2(3)
 「4×2」機向け「一本胴」:●●●●●●●●円×12個=●●●●●●●●●円
 「4×2」機向け「シェル胴」:●●●●●●●●円×36個=●●●●●●●●●円
 小計 ●●●●●●●●●●●円
  c 合計 ●●●●●●●●●●●円
 (オ) 「販売することができないとする事情」の有無
  a 被控訴人は,「販売することができないとする事情」として,①控訴人製品は被控訴人製の輪転機に用いる版胴との代替可能性がないこと,②版胴単体での取引が想定されないこと(他社製の輪転機向けの版胴単体での取引が想定されないこと,控訴人製の版胴と被控訴人製の版胴との間には機械的互換性がないこと,顧客の負担額に鑑みれば,控訴人製品をあえて購入した現実的可能性がないこと),③競合メーカーが存在すること,④本件訂正発明2は版胴需要喚起への寄与がないか又は著しく低いこと等を主張する。
  b 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
   ? 市場における競合品の存在
 本件訂正発明2(版胴表面粗さRmaxを6.0μm≦Rmax≦100μmに調整すること)は,版ずれトラブルを解決する手段として有効である(甲11,23,26,乙79)。
 他方,証拠(乙2,13~17,19,21~23,26。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,昭和63年8月に東日印刷株式会社に被控訴人製の版胴を納入したこと,東日印刷版胴の設計図面(乙15の1)には,表面粗さRmaxを1.5μmに調整することが記載されていること,上記設計図面に基づいて製作され納入された東日印刷版胴は,平成23年1月から2月にかけて測定した結果,その表面粗さRmax=2.47~4.02μmに調整されていたことが認められる。
 以上のとおり,本件特許2の出願前に被控訴人が製造し東日印刷株式会社に納入した東日印刷版胴は,表面粗さRmaxが1.5μmに調整されるように設計され,平成23年の測定では2.47~4.02μmに調整されていたところ,本件訂正明細書2の記載に照らすと,本件訂正前の特許請求の範囲に係る「1.0μm≦Rmax<6.0μm」の数値範囲内に版胴表面粗さRmaxを調整することによっても,版ずれトラブルを解決するのに一定の効果があることが認められる(甲7,8,17)。
   ? 侵害者の営業努力等
 ⅰ 被控訴人が被告製品2(2)及び(3)を加工した時期が含まれる●●●●●●●から●●●●●●●の期間に新規稼働した輪転機のシェアは,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となっており,輪転機市場においては,控訴人と被控訴人の二社寡占状態であった(甲36,弁論の全趣旨)。
 ⅱ 株式会社高速オフセットは,控訴人,被控訴人を含めた輪転機メーカー4社の中から購入する輪転機の選定を進めた結果,「シングル版胴で5年間の海外実績があり,当社の要望に対する技術陣の真摯な対応に期待が持てた」として,被控訴人の版胴が登載された被控訴人製の輪転機を選定したものである(乙70)。
   ? 侵害品の特徴等
 版胴は,輪転機の印刷部を構成する多数の部品の一つであり,控訴人製の輪転機には控訴人製の版胴を,被控訴人製の輪転機には被控訴人製の版胴を,用いるのが通常である。
 他方,被控訴人製の輪転機の構成部品である版胴として控訴人製品を導入することは,技術的に不可能であるとまではいえないにせよ,版胴には高い機械精度が求められるところ,控訴人は,各部の寸法や製造条件等が記載された加工図面を入手することはできないから,被告輪転機2(2)及び(3)に導入する控訴人製品を作製するのは容易ではない。そして,これを製造,販売しようとすれば,顧客先において実測等の調査を行い,各部の寸法や製造条件等を検討し,版胴の設計を経て,これを生産するという過程を要することから,実際に版胴を製造し,これを顧客に引き渡すまでには長期間を要する(乙66,弁論の全趣旨)。しかるに,被控訴人が被告製品2(2)について工事の発注を受けたのは平成22年9月頃,被告製品2(3)についての工事の発注を受けたのは同年10月頃であり,本件特許2の存続期間は平成23年3月26日までであった。
   ? 市場の非同一性
 被控訴人が被告製品2(2)及び(3)に対してヘアライン加工を施したことによる顧客の負担額は,被告製品2(2)及び(3)について●●●●円合計●●●●円であった(乙74,77)。
 これに対し,被告輪転機2(2)及び(3)に,控訴人製品を導入する場合には,加工費用とは比較にならないほど高額の費用を要することになる(取引事例2及び3を参照しても,1個●●●●円から●●●●●円の契約金額で,輪転機2セット分48個の版胴となると,顧客の負担額は●●円前後となる。)。
  c 被告製品2(2)及び(3)に係る譲渡数量の控除
 控訴人において,輪転機の販売を伴わない版胴取引を行った例があること(取引事例1~3)に加え,証拠(甲32の1・2,甲33~35)及び弁論の全趣旨によれば,他社においても,インターネットホームページに,版胴単体の取引の申込みを行っている例があり,また,被控訴人においても,被告輪転機2(2)及び(3)の増設工事に伴い,輪転機の販売を伴わない版胴取引を行っていることが認められることからすれば,輪転機の販売を伴わない版胴単体での取引がおよそ想定されないものであるとは認められない。
 しかし,前記bに認定したとおり,①本件訂正発明2のほかに,版ずれトラブルを解決するのに一定の効果がある手段(版胴表面粗さRmaxを1.0μm≦Rmax<6.0μmに調整すること)が存したこと,②被控訴人は,被告製品2(2)及び(3)の加工当時,控訴人に次ぐシェアを有する輪転機メーカーであり,顧客から,技術力や営業力を評価されていたこと,③版胴は,輪転機の印刷部を構成する多数の部品の一つであり,被告輪転機2(2)及び(3)にあえて控訴人製品を導入することについては時間と費用がかかるところ,被控訴人が被告製品2(2)について工事の発注を受けたのは平成22年9月頃,被告製品2(3)についての工事の発注を受けたのは同年10月頃であり,本件特許2の存続期間は平成23年3月26日までであるにもかかわらず,控訴人が,被告輪転機2(2)及び(3)に導入する控訴人製品を製造,販売しようとすれば,実際に版胴を製造し,これを顧客に引き渡すまでには長期間を要すること,④被控訴人が被告製品2(2)及び(3)に対してヘアライン加工を施したことによる顧客の負担額は,合計で●●●●円にすぎないのに対し,被告輪転機2(2)及び(3)に,控訴人製品を導入する場合には,●●円前後の高額の費用を要することが認められる。
 これらの事実を総合考慮すれば,被告製品2(2)及び(3)について,その譲渡数量の4分の3に相当する数量については,控訴人が販売することができない事情があるというべきである。
 (カ) したがって,特許法102条1項に基づく損害額は,前記(エ)の合計●●●●●●●●●●●円から●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●●●円×●●●)を控除した額である●●●●●●●●●円と認められる。
   ウ 特許法102条2項に基づく損害額の算定について
 (ア) 控訴人は,特許法102条2項に基づく損害額として,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引し,利益率は売上額の30%であるとして,被告製品2(2)及び(3)について,被控訴人の得た利益額は3億1200万円である旨主張する。
 しかし,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引したことを認めるに足りる証拠はない。
 (イ) 他方,被控訴人が,被告製品2(2)及び(3)について,ヘアライン加工を施すことにより得た利益は●●●●●●円であると認められる(乙74,77)。
 なお,控訴人は,被控訴人が主張する加工賃が低廉であるとして,被控訴人による被告製品2(2)及び(3)に対する加工は,クレーム対応として行ったものと考えられるから,被控訴人の主張する加工賃を基に被控訴人の利益額を算定することは妥当ではない旨主張するが,被控訴人における上記加工が,クレーム対応としてのものであることを認めるに足りる証拠はない。
 (ウ) したがって,被告製品2(2)及び(3)について,被控訴人の主張する推定覆滅事由や寄与率について判断するまでもなく,特許法102条2項に基づく損害額が前記イの損害額を上回ることはない。
   エ 特許法102条3項に基づく損害額の算定について
 (ア) 控訴人は,特許法102条3項に基づく損害額として,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引したところ,実施料率は被控訴人の売上高の12%を下回ることはないとして,被告製品(2)及び(3)について,1億2480万円を主張する。
 しかし,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引したことを認めるに足りる証拠はない。
 (イ) 被控訴人は,過去に,被告輪転機2(2)及び(3)とともに版胴を販売した際の販売価格は,「4×2」機向け「一本胴」1個当たり●●●●●●●●円,「4×2」機向け「シェル胴」1個当たり●●●●●●●●円である旨主張するところ,これを前提に,仮に,控訴人の主張する実施料率を用いて,特許法102条3項に基づく損害額を算定したとしても,その額は,●●●●●●●●●円((●●●●●●●●円×●●個+●●●●●●●●円×●●個)×0.12。円未満切捨て。以下同じ。)に止まるから,前記イの損害額を上回ることはない。
   オ 以上によれば,被告製品2(2)及び(3)についての控訴人の損害額は,特許法102条1項に基づき算定された●●●●●●●●●円である。
  (3) 被告製品2(1)(「4×1」機向け「一本胴」48個)の製造,譲渡による損害額について
   ア 特許法102条1項に基づく損害額について
 (ア) 譲渡数量
 被控訴人が,被告製品2(1)について譲渡した版胴は,前記(1)のとおり,「4×1」機向け「一本胴」を48個である。
 (イ) 「4×1」機向け「一本胴」の単位数量当たりの利益額について
  a 取引事例1ないし3は,いずれも「4×1」機向け「一本胴」に関するものではないところ,控訴人は,「4×1」機向け「一本胴」単体での取引事例がないとして,これについての単位数量当たりの利益額は,控訴人の「4×2」機向け「一本胴」における限界利益額に,被控訴人における「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額の「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額に対する比率を乗じて,算定すべきである旨主張する。
  b 「4×1」機向け「一本胴」は,4頁幅×1頁周長の版胴であるのに対し,「4×2」機向け「一本胴」は,4頁幅×2頁周長の版胴であるから,「4×1」機向け「一本胴」の製造に必要な鋼材量は,「4×2」機向け「一本胴」の約4分の1程度となるが,「4×1」機向け「一本胴」は,「4×2」機向け「一本胴」に比べて,表面加工や部品の組込み等に高度な加工技術が必要となり,加工費用も高額となるから,体積(鋼材量)や表面積の比率がそのまま,「4×1」機向け「一本胴」と「4×2」機向け「一本胴」の価格比となるものではない。また,「シェル胴」は二重構造であることから,単体構造の「一本胴」に比べて,その価格は高額となる(弁論の全趣旨)。
 したがって,「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額に体積(鋼材量)や表面積の比率を乗じた額を「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額と推認し,あるいは,「4×2」機向け「シェル胴」の限界利益額から「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額を推認するのは合理的であるとはいえない。
 他方,「4×1」機向け「一本胴」と「4×2」機向け「一本胴」とは,大きさが異なるもののその構造を同じくするものであること,被控訴人が控訴人に次ぐシェアを有する輪転機メーカーであることに照らせば,控訴人における「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額の「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額に対する比率と,被控訴人における「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額の「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額に対する比率に,大きな違いはないものと推認される。
 そうすると,控訴人の主張する算定方法は,他に証拠がない本件においては,必ずしも不合理とはいえない。
  c 被控訴人における比率
   ? 被控訴人は,被告製品2(1)(「4×1」機向け「一本胴」48個)の販売による限界利益額が●●●●●●●●●円と主張するところ,輪転機全体と版胴部分のそれぞれの製造原価の割合に従って,輪転機の販売価格から版胴部分の販売価格を算出し,そこから版胴部分の製造原価を控除して限界利益を算出すると,後記イのとおり,被告製品2(1)(「4×1」機向け「一本胴」48個)の販売による限界利益額は,●●●●●●●●●円と認められる。したがって,被告製品2(1)(「4×1」機向け「一本胴」)の1個当たりの限界利益額は,●●●●●●●円(●●●●●●●●●円÷●●個)である。
   ? 被控訴人は,過去に,被告輪転機2(3)とともに,「4×2」機向け「一本胴」12個,「4×2」機向け「シェル胴」36個を販売したことがあり,そのうち「4×2」機向け「一本胴」の1個当たりの製造原価額は●●●●●●●円であり,「4×2」機向け「シェル胴」の1個当たりの製造原価額は●●●●●●●円であった(乙51,52)。輪転機全体と版胴部分のそれぞれの製造原価の割合に従って,輪転機の販売価格から版胴部分の販売価格を算出し,そこから版胴部分の製造原価を控除して限界利益を算出すると,同じ輪転機の中では限界利益額と製造原価額の割合が等しくなるはずであるところ,被控訴人の自認する上記版胴の販売による限界利益の合計は●●●●●●●●●円であるから,「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額の合計は●●●●●●●●円(●●●●●●●●●円×(●●●●●●●円×12個)/(●●●●●●●円×●●個+●●●●●●●円×36個))となる。したがって,「4×2」機向け「一本胴」の1個当たりの限界利益額は,●●●●●●●円(●●●●●●●●円÷12個)と推認できる。
   ? そうすると,被控訴人における「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額の「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額に対する比率は,●●●●%(●●●●●●●円/●●●●●●●円)となるところ,控訴人が主張する比率である●●●●%の方が控えめであるから,控訴人の主張する比率を用いて,「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額を算定することとする。
  d 限界利益額
 控訴人製品のうち「4×2」機向け「一本胴」の限界利益額は,前記のとおり,●●●●●●●●円であるから,「4×1」機向け「一本胴」の限界利益額は,●●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●)と推認することができる。
 (ウ) 実施能力について
 証拠(甲23,48,49,52)及び弁論の全趣旨によれば,前記(2)イ(ウ)bの事情に加え,控訴人は,被控訴人が被告製品2(1)を受注した平成20年12月当時,既に,海外では,「4×1」輪転機を納入した実績があり,国内においても,平成21年3月には控訴人製の「4×1」輪転機が稼働しており,同年11月の時点では,国内において複数の受注実績があったことが認められる。
 以上の事実に照らせば,本件侵害行為の当時,控訴人には,侵害行為がなければ生じたであろう製品の追加需要に対応して控訴人製品(「4×1」機向け「一本胴」)を供給し得る能力があったものと認められる。
 (エ) 譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額
 「4×1」機向け「一本胴」の譲渡数量に単位数量当たりの利益を乗じた額は,合計●●●●●●●●●円(●●●●●●●円×48個)となる。
 (オ) 「販売することができないとする事情」の有無
 前記(2)イ(オ)cのとおり,輪転機の販売を伴わない版胴単体での取引がおよそ想定されないものであるとはいえないが,①本件訂正発明2のほかに,版ずれトラブルを解決するのに一定の効果がある手段(版胴表面粗さRmaxを1.0μm≦Rmax<6.0μmに調整すること)が存したこと,②被控訴人は,被告製品2(1)の納入当時,控訴人に次ぐシェアを有する輪転機メーカーであり,顧客から,技術力や営業力を評価されていたことが認められ,また,③版胴は輪転機の印刷部を構成する多数の部品の一つであり,被告製品2(1)の顧客である株式会社高速オフセットは,控訴人,被控訴人を含めた輪転機メーカー4社に問い合わせて購入する輪転機の選定を進めた結果,「シングル版胴で5年間の海外実績があり,当社の要望に対する技術陣の真摯な対応に期待が持てた」として,被控訴人製の輪転機を選定した(乙70)ように,被控訴人の輪転機の販売に付随して被告製品2(1)の譲渡が行われたことが認められる。
 これらの事実を総合考慮すれば,被告製品2(1)について,その譲渡数量の2分の1に相当する数量については,控訴人が販売することができない事情があるというべきである。
 (カ) したがって,特許法102条1項に基づく損害額は,前記(エ)の合計●●●●●●●●●円から●●●●●●●●●円(●●●●●●●●●円×●●●)を控除した額である●●●●●●●●●円と認められる。
   イ 特許法102条2項に基づく損害額について
 (ア) 控訴人は,特許法102条2項に基づく損害額として,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引し,利益率は売上額の30%であるとして,被告製品2(1)について,被控訴人の得た利益額は1億5600万円である旨主張する。
 しかし,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引したことを認めるに足りる証拠はない。
 (イ) 被控訴人は,被告輪転機2(1)を,●●●●●●●●円で譲渡したところ(乙33,34),輪転機全体の製造原価は●●●●●●●●●●●●円であり,版胴48個の製造原価は●●●●●●●●●円である(乙35~42)。
 輪転機全体の製造原価に占める版胴48個の製造原価の割合を被告輪転機2(1)の販売価格に乗じて,版胴の販売価格を算出すると,●●●●●●●●●円(●●●●●●●●円×●●●●●●●●●円/●●●●●●●●●●●●円)となる。
 被控訴人は,本件において,製造原価以外に販売価格から控除すべき経費を特段主張立証しないから,上記により算出された販売価格である●●●●●●●●●円から版胴48個の製造原価である●●●●●●●●●円を控除すると,被控訴人が被告製品2(1)の譲渡につき得た利益額は,●●●●●●●●●円となり,被控訴人が自認する額となる。
 なお,控訴人は,輪転機全体に占める版胴の価値が高いから,輪転機全体の製造原価に占める版胴の製造原価比率をもって,版胴の販売価格を算出するのは相当でないなどと主張するが,その主張を具体的に裏付ける事情については,何ら立証しないから,本件においては,上記のとおり,輪転機全体の製造原価に占める版胴の製造原価比率をもって,版胴の販売価格を算出するほかない。
 (ウ) したがって,被控訴人の主張する推定覆滅事由や寄与率について判断するまでもなく,特許法102条2項に基づく損害額が,前記アの損害額を上回ることはない。
   ウ 特許法102条3項に基づく損害額について
 (ア) 控訴人は,特許法102条3項に基づく損害額として,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引したところ,実施料率は被控訴人の売上高の12%を下回ることはないとして,被告製品2(1)について,6240万円を主張する。
 しかし,被控訴人が版胴を1個当たり1000万円を下らない価格で取引したことを認めるに足りる証拠はない。
 (イ) 前記イ(イ)のとおり,被告製品2(1)の販売価格は●●●●●●●●●円と算定されるところ,仮に,控訴人の主張する実施料率を用いて,同項に基づく損害額を算定したとしても,その額は,●●●●●●●●円(●●●●●●●●●円×●●●●)に止まるから,前記アの損害額を上回ることはない。
   エ 以上によれば,被告製品2(1)についての控訴人の損害額は,特許法102条1項に基づき算定された●●●●●●●●●円である。
  (4) 被告製品2(1)ないし(3)の損害額について
 前記(2)及び(3)によれば,被告製品2(1)ないし(3)に係る損害額は,合計●●●●●●●●●円となる。
  (5) 弁護士・弁理士費用について
 控訴人は,本件訴訟の提起・遂行を控訴人訴訟代理人弁護士及び弁理士に委任し,その弁護士費用及び弁理士費用を支出しているものと認められる。
 そして,本件事案の内容,事案の難易,損害認定額,訴訟の経緯等,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,被控訴人の本件特許権2の侵害による不法行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用の額は,1000万円と認めるのが相当である。
  (6) 損害賠償請求権の承継
 控訴人は,三菱重工からの会社分割により,本件特許権2の侵害による損害賠償請求権(会社分割時までのもの)を承継したものと認められる(弁論の全趣旨)。
  (7) 小括
 以上によれば,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権2の侵害による損害賠償として合計8799万0088円及びこれに対する不法行為の後の日である平成23年7月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の請求権を有する。