大阪地方裁判所 平成27年6月24日判決
【主債務者である会社代表者の弁済が,主債務の承認と評価されるか】



【オレンジ法律事務所の私見・注釈】


第1 事案の概要
   信用保証協会Xは,Y1株式会社の銀行に対する債務を代位弁済したとして,Y1 に対してのその求償(以下,「本件求償債務」という。)を求めると共に,Y1 の本件求償債務を連帯保証したとして,Y1の代表取締役Y2と,Y3 に対し,連帯保証債務の履行を請求した。
   そうしたところ,Y3は,本件求償債務についての最終弁済日は平成20年11月28日であり,平成25年11月28日の経過によって消滅時効が完成しているため,これによって自身の連帯保証債務も消滅したとして,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
   これに対し,Xは,平成20年11月28日以降にY2の行った弁済が,主債務者Y1の代表者として行ったものとして主債務の承認にあたり,未だ消滅時効は完成していないと主張した。
第2 裁判所の判断
 1 判断要素
   裁判所は,主債務の承認を行うことが出来るのは主債務者Y1のみであるところ,平成20年11月28日以降にY2の行った弁済はY2個人として行ったものというべきであるとした。そのうえで,Y2個人の弁済に主債務者Y1による本件求償債務の承認が包含されていると言えるためには,その弁済がY2個人としての行為であるにとどまらず,Y1の代表取締役として行った行為としての性格を有することが必要であるとして,(ア)当該行為の内容,(イ)相手方から見て誰の行為であると理解しうるか,(ウ)当該行為に至る経緯,(エ)Y1の活動状況等を勘案しつつ,Y2の意思を合理的に解釈することによって判断すべきであると述べた。
 2 事実認定及び判断
   本件では,(ア)平成20年11月28日までの間,Y2は,Y1の本店所在地及び名称があらかじめ印字された払込取扱票を用いて支払いを行っていたが,同年12月以降は上記払込取扱票のY1の住所及び名称の印字を二重線で削除し,Y2個人の住所及び氏名を記載して振込みを行っていたことから,Y2はY1代表者としての行為という性格をあえて排斥しようとする意図を有していたと認められること,(イ)Xもこのことを認識できたというべきであること,(エ)Y1が平成18年には事実上活動を停止していたことから,Y2はY1代表取締役としてY1の行為を行う意思を有していなかったと認められること等を指摘し,Y2の平成20年12月以降の振込みは,Y2個人の振込みとしての性格を有するに過ぎず,Y1の代表者としての性質を併せ持ったものであると評価することはできないと判示した。
第3 Xの反論及びこれに対する判断
   本件において,Xは,連帯保証人が主債務者を相続したことを知りながら保証債務の弁済を行った場合に,当該弁済が主債務の承認にあたると判断した判決(最二判平25年9月13日)を引用し,連帯保証債務の弁済によって主債務の時効が中断すると主張した。
   裁判所は,この点につき法人格の同一性の問題であるとし,前記最判の事案においては,同一の法人格が主債務者と連帯保証人を兼ねているため,主債務の存在を前提とする連帯保証債務の弁済が主債務者の債務の承認を包含するものと解釈できるが,本件においては,Y2はY1と法人格を異にする個人として行動しており,Y2が個人としてY1の主債務を承認することはできないから,Y2の弁済はY1の主債務の承認と評価することはできないと判示した。
第4 小括
   本件は,主債務者の代表取締役でもある連帯保証人がした連帯保証債務の一部弁済が,主債務の承認とはされないと評価された事案である。連帯保証人がした弁済が主債務の承認にあたる例の射程についても,本件におけるXの反論として上がったことから詳論がなされており,連帯債務者の弁済の法的な評価につき,参考になる裁判例である。


(2017・7・5 弁護士 脇 由有)