知財高裁平成 28 年6月1日判決
〔特許法102条1項ただし「販売することができないとする事情」の解釈とその立証責任〕


(原審)大阪地裁平成 27年6月 28日判決〔破袋機とその駆動方法に関する特許権侵害差止等請求事件〕



2 争点(1)(被告製品1は,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するか否か)について

   (1) 当裁判所も,被告製品1は,構成要件C,D及びEを充足し,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するものと判断する。その理由は,次のとおりである。
  (2) 構成要件Cの充足性
   ア 「平行な対向壁面」の意義について
 (ア) 構成要件C(「破袋室の他方の平行な対向壁面より板厚みを水平に凸設配置された垂直板からなる複数の板状刃物を,前記回転体の軸方向に配列した固定側刃物と,」)は,特許請求の範囲の記載によれば,破袋室,可動側刃物,固定側刃物及び駆動制御手段を有する破袋機の構成のうち,固定側刃物の配置を規定したものであること,本件特許発明1の破袋機において,可動側刃物と固定側刃物は所定間隔で噛合するように設けられ,回転体の正・逆転パターンの繰り返し駆動に伴って固定側の垂直板からなる板状刃物間を可動側の垂直板からなる板状刃物が通過し(構成要件E),所定間隔で噛合する可動側と固定側の複数の板状刃物間で袋体を破袋する(構成要件F)ものであることは明らかであるが,「平行な対向壁面」の意義については,特許請求の範囲(請求項1)の記載から,一義的に明らかであるとはいえない。
 (イ) ところで,本件明細書には,①本件特許発明における課題解決手段が,回転軸に対して直径方向に一対の刃物(直線状刃物)を配置し,かつ回転軸方向に前記可動側刃物を例えば90度ずらして複数配置するとともに,これら可動側刃物に水平方向から対向する固定側刃物を所定間隔で配置し,前記可動側刃物に対して,正・逆転パターンの繰り返し駆動を行うというものであること(【0011】,【0012】),②本件特許発明による破袋機は,矩形枠体からなる破袋室内に,回転体表面より放射方向に凸設かつ該放射方向が軸方向に所要角度ずれるよう配置した複数の板状刃物を有する可動側刃物を水平に軸支し,これを種々の正・逆転パターンの繰り返し駆動して,破袋室の壁面より水平配置される鋭角な刃先部を有する板状刃物からなる固定側刃物との間に袋体を捕捉してこれを破袋することを特徴とするものであること(【0020】),③本件特許発明の破袋機によれば,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,破袋機の機構を簡素化することができ,かつ,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができること(【0016】),④実施例における固定側刃物20は,板厚みを水平にした垂直板である板状刃物24を,鋭角な刃先先端を破袋室2内に侵入させるように,破袋室2の外壁上端に軸支するシャフト9に上端部を固着して垂下した短冊状のブラケット8に止着した構成であり(【0033】),可動側刃物10の正・逆転パターンの繰り返し駆動により,回転体11の軸方向に所定間隔で,かつ回転方向に90度ずつずれて配列された複数の垂直板からなる可動側の板状刃物12と,同じくその両側で回転体11の軸方向に所定間隔で配列され各々の板厚みを水平にすると共に各々の鋭角な刃先先端を破袋室2内に侵入させた複数の垂直板からなる固定側の板状刃物24とが噛み合う結果,破袋機1の破袋作用は,図6B,Cに示すように,基本的に袋体は可動側刃物10に押されて複数の板状刃物24に捕られ引き裂き破壊されるものとなること(【0035】)が記載されている。
 (ウ) 本件明細書の前記記載を考慮すれば,固定側刃物の配置における「平行」とは,回転体の回転軸に平行であることを意味し,固定側刃物が配置される「壁面」とは,固定側刃物を回転体の回転軸に平行に凸設配置され得る程度の広さと形状を有し,破袋空間を仕切る作用を有する面であることを意味するものと解される。
 したがって,構成要件Cの「平行な対向壁面」とは,回転体の回転軸に平行であり,固定側刃物が配置され得る程度の広さと形状を有し,破袋空間を仕切る作用を有する面であって,互いに回転軸を挟んで対向する二つの面を意味するものと解される。
   イ 被告製品1の構成要件Cの充足性
 被告製品1の具体的構成は,原判決「事実及び理由」の第2の1(6)アのとおりであり,構成1-cは,「破袋室(2)は,直方体状の枠体①の左右側面(回転体(11)の回転軸と直交する方の面)を適宜の板材で塞ぎ,底面,天井面及び前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)は,開口をそのままに開放されており,開放されている前後面の上側にはそれぞれ横材②が架設され,横材②の下方側は依然開放されており,横材②には複数の窓口が形成され,各窓口には固定側刃物(20)を突設した板体が着脱自在に設けられており,また,この前後面には,下方から可動側刃物(10)を保守するために開閉可能な開閉扉③が設けられ」ているものである。
 このうち,前後面(回転体(11)の回転軸と平行な方の面)の両上側にそれぞれ横材②が架設され,横材②には複数の窓口が形成され,各窓口には固定側刃物を突設した板体が設けられているのであるから,かかる構成は,回転体の回転軸に平行であり,固定側刃物が配置され得る程度の広さと形状を有し,破袋空間を仕切る作用を有する面であって,互いに回転軸を挟んで対向する二つの面であるということができ,構成要件Cの「平行な対向壁面」に相当する。
 したがって,被告製品1は構成要件Cを充足する。
  (3) 構成要件D,Eの充足性
   ア 「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意義について
 (ア) 本件特許発明1は,「回転体に対して正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」を有するが,この「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が具体的にどのような回転体の駆動を意味するものかについては,特許請求の範囲(請求項1)の記載からは明確ではない。
 (イ) そこで本件明細書の記載を考慮すると,本件明細書には,本件特許発明1は,可動側刃物に対して「回転でなく正・逆転パターンの繰り返し駆動」を行うことにより,袋体を効率よく破袋し袋破片が回転軸に絡みつくことなく,袋破片と缶や瓶等とを分離できることを見いだしたものであることが記載されている(【0011】)。
 また,本件特許発明1は,破袋室の中央に1つの刃物回転体とその回転軸方向の両側に設けた固定刃物群とから構成され,かつ前記回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,①破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができ,②袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,③破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の効果を奏するものであるところ(【0016】,【0017】,【0049】,【0050】),本件明細書には,その作用について,「正・逆転パターンの繰り返し駆動される可動側刃物10によりワークたる袋体を上方向に押し上げる作用が働き,該ホッパー3内で袋体のブリッジを防止することができる。」(【0034】),「可動側刃物10の正・逆転パターンの繰り返し駆動により,複数の可動側の垂直板からなる板状刃物12が複数の固定側の板厚みを水平にした垂直板からなる板状刃物24の間,特に隣接する板状刃物24,24間の中央部を上に下に通過する。この噛み合いの結果,破袋機1の破袋作用は,...基本的に袋体は可動側刃物10に押されて複数の板状刃物24に捕られ引き裂き破壊されるものとなる。例えば可動側刃物10は,右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返すとすると,パターン1では右回転で袋を捕捉し,左回転で引き裂くことができ,またパターン2では左右とも回転することにより,袋を押し切り破壊することができ,連続運転される際,かかる引き裂き,押し切りによる破袋が交互にあるいは同時に進行する。」(【0035】)との記載がある。
 さらに,実施例としては,可動側刃物の正・逆転パターンの繰り返し駆動パターンとして,①右に90度,左に90度のパターン1と右に180度,左に180度のパターン2を交互に繰り返す駆動の例(【0043】)及び②右に180度,左に180度のパターン1と右に360度,左に360度のパターン2を交互に繰り返す駆動の例(【0048】)が記載されている。
 (ウ) 上記のとおり,本件明細書には,本件特許発明1の可動側刃物に対する駆動は,回転ではなく,正・逆転パターンの繰り返し駆動であることが記載されているが,「パターン」の用語は一般に「型」といった意味であることに照らすと,これは,単なる右回転又は左回転の駆動ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとした,当該パターンの繰り返し駆動であることを意味するものと解される。そして,本件明細書中には,正・逆転パターン中の右及び左の回転角度が一定の角度以下であることを示す記載は存しないから,本件特許発明1における正・逆転パターン中の右及び左の回転角度は一定の角度以下のものに限られないものと解される。
 他方で,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」という発明特定事項は,原出願の願書に最初に添付した明細書等に記載されていた「揺動回転駆動」を補正することにより加えられたものであることや,「パターン」は「型。類型。様式。」といった意味を有する用語であること(岩波書店「広辞苑」第6版)に加え,本件特許発明1は,回転体を正・逆転パターンの繰り返し駆動とすることにより,①破袋室へ投下される袋体を確実に捕捉し,可動側刃物の両側に形成した各破袋空間で交互にかつ連続して効率よく破袋することができ,②袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ,③破袋後の袋破片が回転体,固定側刃物に絡みつくことがない等の効果を奏するものであること及び本件明細書には,1パターン中の右と左の回転角度が同じ角度とされた駆動についての記載しかないことに照らすと,「正・逆転パターン」は,1パターン中の右回転と左回転がどちらか一方に偏った駆動を意味するものではなく,1パターン中の右回転と左回転が均衡した駆動を意味するものと解される。
 (エ) ところで,本件明細書の【0013】及び【0015】には,可動側刃物を水平基準点から一方向に所要角度回転した後,反対方向に前記所要角度回転させる正・逆転パターンを1単位とし,正・逆転の回転角度を該単位ごとに変化させた複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動に関する記載があるが,これらの記載は,特許請求の範囲の請求項5ないし7に記載された破袋機の駆動方法の発明に係る記載であって,これらの記載から,本件特許発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が,上記のように複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動に限られるものであると解することはできない。また,【0043】及び【0048】の記載も,そこに開示された実施例は,本件特許発明1のみならず,請求項5ないし7に記載された発明にも対応するものであると解されるから,上記記載から,本件特許発明1における「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が,上記のように複数の正・逆転パターンを繰り返す駆動に限られるものであると解することもできない。
 (オ) 以上のとおり,本件明細書の記載を参酌すれば,本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,1種ないし複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と左回転は均衡した回転角度とされているものを意味するものと解される。
   イ 被告製品1の構成要件D,Eの充足性
 被告製品1の具体的構成は,原判決「事実及び理由」の第2の1(6)アのとおりであり,構成1-dは,「正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体11を正逆駆動回転させる手段」であるところ,この具体的構成は,証拠(乙1)によると,被告製品1の回転体の制御にあっては,手動運転のほか,自動運転モードが備えられ,自動運転では,破袋機が自動運転し,設定値に従い,自動で正転・逆転が切り替わるものであり,その設定に関し,タイマ・カウンタの設定項目には,「D142 定期正転時間(定期の正転時間)」,「D143定期正転後停止時間(定期正転時間(D142)に達すると設定時間停止し,定期逆転に移る。)」,「D144 正-逆切換時間(正転→逆転,逆転→正転に切り替える際のインターバル時間)」,「D149 定期逆転時間(定期正転時間(D142)に達すると設定時間で逆転動作を行う。)」,「D150 定期逆転後停止時間(定期逆転時間(D149)に達すると設定時間停止し,定期正転に移る。)」との項目があり,「定期正転時間」及び「定期逆転時間」は0から3000秒の範囲で10分の1秒単位で,「定期正転後停止時間」は1から3000秒の範囲で10分の1秒単位で,「定期逆転後停止時間」は0から3000秒の範囲で10分の1秒単位で,「正-逆切換時間」は2から3000秒の範囲で10分の1秒単位で,数値により設定することができるものであることが認められる。
 そうすると,被告製品1は,定期正転時間と定期逆転時間にそれぞれ同程度の数値を設定することにより,1組の正転(右回転)と逆転(左回転)の組合せであって,その組合せにおける正転(右回転)と逆転(左回転)を均衡した回転角度とし,この1組の組合せ(パターン)を規則的に繰り返す駆動を実現する構成を有しているものと認めることができる。
 したがって,被告製品1の構成1-dの「回転体11を正逆駆動回転させる手段」は,構成要件Dの「正・逆転パターンの繰り返し駆動を行う駆動制御手段」に相当し,1-eの「正逆駆動回転」は,構成要件Eの「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に相当するから,被告製品1は,構成要件D,Eを充足する。
  (4) 小括
 被告製品1が,構成要件A,B,F及びGを充足することは,当事者間に争いがなく,前記(2)及び(3)のとおり,被告製品1は,構成要件CないしEを充足する。したがって,被告製品1は,本件特許発明1の技術的範囲に属するものと認められる。
 また,被告製品1が構成要件Hを充足することは,当事者間に争いがないから,被告製品1は,本件特許発明2の技術的範囲にも属するものと認められる。