知財高裁平成 28 年6月1日判決
〔特許法102条1項ただし「販売することができないとする事情」の解釈とその立証責任〕


(原審)大阪地裁平成 27年6月 28日判決〔破袋機とその駆動方法に関する特許権侵害差止等請求事件〕



第3 争点に関する当事者の主張

第3 争点に関する当事者の主張
 後記1のとおり原判決を付加訂正し,後記2のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3(ただし,原判決における争点1-(3),2-(3),3のうち本件特許発明3に係る部分,4-(1)及び4-(2)を除く。)記載のとおりであるから,これを引用する。
 1 原判決の訂正
  (1) 原判決14頁18行目の「被告物件1」を「被告製品1」と改める。
  (2) 原判決15頁2行目の「構成要件D,Eを備えない。」を「構成要件D,Eを充足しない。」と改める。
  (3) 原判決21頁21行目から22行目の「それらを繰り返した回転体」を「それらを繰り返して回転体」と改める。
  (4) 原判決35頁2行目,同頁10行目及び36頁4行目の「被告製品1」を,いずれも「被告製品」と改める。
  (5) 原判決36頁25行目冒頭から37頁1行目末尾までを,次のとおり改める。
 「一審原告は,一審被告に対し,特許法102条1項に基づき,3168万1757円(ウ及びオの合計額)の損害賠償請求権を有する。
 よって,一審原告は,一審被告に対し,3168万1757円の一部である2816万9021円及びこれに対する平成26年10月23日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
 2 当審における当事者の主張
  (1) 争点(1)(被告製品1は,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するか否か)について
 〔一審原告の主張〕
   ア 構成要件D,Eの「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意義
 (ア) 原判決における認定判断は,正当であって,誤りはない。
 (イ) 一審被告の主張について
 一審被告は,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を,「正転・逆転を小刻みに繰り返す(揺動する)ことで,ブリッジ現象を防止し,更に絡みつきを防止する駆動」と解釈すべきである旨主張する。
 しかし,「小刻み」というのは,揺動回転の角度なのか,揺動回転の時間なのかさえ不明であって,その意義が特定されていない。
 また,「ブリッジ現象の防止」及び「(袋体の)絡みつき防止」は,いずれも本件特許発明1の作用効果であって,本件特許発明1の回転体の駆動制御の構成を機能的に特定するものではない(本件明細書【0017】)。
 本件特許発明1の特許請求の範囲にも,本件明細書にも,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の構成自体を機能的に特定する記載や,回転体の回転角度や回転時間に何らかの限定を付す記載は,一切存在しない。
 したがって,一審被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載に基づかないものであり,失当である。
   イ 被告製品1の充足性
 被告製品は,回転体について0から3000秒の範囲で設定された回転時間の正転及び逆転を繰り返す駆動制御の構成を有し,被告製品の駆動制御には,回転角度が小さく,あるいは,回転時間が短い駆動制御が含まれるから,仮に一審被告の上記解釈を前提としても,被告製品1は構成要件D及びEを充足する。
 〔一審被告の主張〕
   ア 構成要件D,Eの「正・逆転パターンの繰り返し駆動」の意義
 (ア) 本件明細書には,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」により,袋体のブリッジ現象が防止され,破袋後の袋破片の絡みつきが防止されることが記載されているから(【0017】,【0034】),上記記載を参酌すると,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,ホッパー3内で袋体のブリッジを防止するような「正・逆転パターン」の繰り返し駆動を意味することが明らかである。
 元々,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,原出願の当初明細書(乙3)では「揺動回転駆動」と記載されていたのであり,そこでは,回転体が一方向のみ回転を続け,その後に反対方向にのみ回転し続けるような制御は予定されていなかった。
 そして,本件特許発明1においては,回転体があらかじめ定まったパターンに従い,揺動(小刻みに正転,逆転)を繰り返すため,回転体の回転方向が頻繁に変わり,この回転方向が変わるたびに可動側刃物により袋体は頻繁に押し上げられ,この頻繁な押し上げにより,ブリッジ現象が防止され,かつ,袋破片の絡みつきが防止されるという作用効果が生じる(乙3【0010】)。単に所定時間正転のみを繰り返し,その後所定時間逆転のみを繰り返し,これを繰り返すような駆動では,袋体のブリッジ現象が生じるのを防ぐことはできない。
 (イ) 次に,本件特許発明1は,破袋の最中にブリッジ現象が生じないようにし,良好な破袋を達成するという発明であるから,破袋が行われることが大前提である。
 したがって,極めて短い時間の正転及び逆転のみを繰り返すだけの場合(1組の正逆転の繰り返しで回転角度が小さい場合)は,本件特許発明1の技術的範囲に含まれない。
 (ウ) 以上のとおり,「単なる正転,逆転駆動」と本件特許発明1の「正・逆転パターンの繰り返し駆動」は,明らかにその作用効果が異なり,技術的意義が全く異なる。
 このことは,本件明細書には,本件特許発明1の実施例として,右(正)に180度,左(逆)に180度のパターン1と,右(正)に360度,左(逆)に360度のパターン2を交互に繰り返す例(【0035】,【0048】),正逆90度と正逆180度の組合せの例(【0043】)が記載されているが,「単なる正転,逆転駆動」,すなわち,単に所定時間正転のみを継続して繰り返し,その後所定時間逆転のみを継続して,これを繰り返す駆動の実施例は全く記載されていないことからも裏付けられる。
 (エ) そもそも,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」が「単なる正転,逆転駆動」を意味するとすれば,本件特許発明1は,廃材などを破砕する公知の破砕機(甲10,12,乙35,46,48)を,袋体の破袋に転用したものにすぎないことになり,特許性が認められないことになる。
 本件特許発明1は,その出願経過に照らせば,可動側刃物が揺動(小刻みに正逆転)するから,ブリッジ現象を防止することができ,更に絡みつきも防止することができ,かかる点に特許性が認められ,特許されたと考えられるものである。
 (オ) 原判決は,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」を「正転,逆転を規則的に繰り返す駆動」を意味するものと判断したが,かかる解釈は,特許請求の範囲に規定された「正・逆転パターン」との文言を無視するものであり,不当である。原判決は,「パターン」という文言を「規則性」と解釈したようであるが,少なくとも広辞苑(乙75)には「パターン」の意味として「規則性」は挙げられていない。
 (カ) 以上によれば,「正・逆転パターンの繰り返し駆動」とは,その文言から逸脱することなく,また,本件明細書に記載された本件特許発明1の作用効果や実施例の記載を参酌して解釈すれば,「正転・逆転を小刻みに繰り返す(揺動する)ことで,ブリッジ現象を防止し,更に絡みつきを防止する駆動」,言い換えれば,「回転体の回転方向が,袋体に押し上げ力が良好に作用するように頻繁に切り替わる小刻みな正転及び逆転を繰り返す駆動」,さらに言い換えれば,「単なる右回転又は左回転ではなく,右回転と左回転の組合せを1パターンとして,複数種類のパターンを繰り返す駆動であって,1パターン内の右回転と左回転は均衡した回転角度とされているもの」ということになる。
 「正・逆転パターンの繰り返し駆動」には,1種類の正転と逆転の組合せから成る「単なる正転・逆転駆動」は含まれない。
   イ 被告製品1の充足性
 被告製品1は,「正転タイマと逆転タイマの設定により,正転時間と逆転時間を決めて回転体11を正逆駆動回転させる制御」,すなわち,正転タイマにより正転時間,逆転タイマにより逆転時間をそれぞれ決め,スタートボタンを押すと,正転タイマによって定めた時間正転のみを継続して繰り返し,その後,逆転に切り替わり,逆転タイマによって定めた時間逆転のみを継続して繰り返し,これらを繰り返す作動(例えば,タイマによって,正転5分,逆転5分と設定したら,5分間正転のみを継続し,その後5分間逆転のみを継続し,この正逆5分を繰り返す作動)を行うものである。被告製品1は,現実には,正転及び逆転について,タイマを1秒にセットしても,少なくとも約1回転はしてしまい,さらに,回転方向は瞬時に切り替わらないし,0.1秒にタイマをセットしたら,誤作動を起こしてしまう。すなわち,被告製品1では,瞬時に回転方向が切り替わらないことともあいまって,1回転以下では破袋が行われず,単に所定時間正転し,所定時間逆転することを繰り返すことができるにすぎない。
 また,被告製品1は,納品時には正転60秒,逆転60秒にセット(初期設定)して納品される。購入者は,この正転60秒,逆転60秒を調整することはあるかもしれないが,回転時間ではなく,回転角度で調整するような微調整はするはずがない。被告製品1は,この正転60秒,逆転60秒で正逆転する制御,すなわち,回転体の回転速度から算出すると,およそ正転24回転,逆転24回転するという制御に初期セットされているものである。
 以上によれば,被告製品1の作動は,構成要件D,Eの「正・逆転パターンの繰り返し駆動」に含まれない。
 したがって,被告製品1は,構成要件D及びEを充足しない。
  (2) 争点(2)(被告製品2は,本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するか否か)について
 〔一審原告の主張〕
   ア 構成要件C(「平行な対向壁面」)の充足性
 (ア) 原判決における認定判断は,正当であって,誤りはない。
 (イ) 一審被告の主張について
 本件明細書の【0007】は,壁面である傾斜側板(傾斜押さえ板)をばねにより回転体側へ付勢する構成の従来技術について,ばね力の設定に手間がかかることを記載したものである。
 ここには,対向壁面が傾斜しているものは好ましくない旨は記載されておらず,一審被告の主張は,本件明細書の記載を誤解ないし曲解するものであって,失当である。
   イ 構成要件D,E(「正・逆転パターンの繰り返し駆動」)の充足性
 前記(1)〔一審原告の主張〕のとおり,被告製品2は,構成要件D及びEを充足する。
 〔一審被告の主張〕
   ア 構成要件C(「平行な対向壁面」)の充足性
 (ア) 「平行な対向壁面」の意義
  a 「平行な対向壁面」は,その文言の字義に従い,「互いに平行な対向する壁面」を意味するものと解釈すべきであり,このように解釈しても,本件明細書の記載と何ら矛盾しない。むしろ,本件明細書に,対向壁面が傾斜しているものは好ましくないことが記載されていることからすれば(【0007】),構成要件Cの「平行」は,回転軸が水平な回転体に設けられている可動側刃物と,対向する壁面に設けられた固定側刃物とによる破袋作用を奏させるため,固定側刃物が設けられる壁面は互いに平行であることを限定するものであり,「平行な対向壁面」は上記のとおり解釈せざるを得ないはずである。
  b 原判決は,「平行な対向壁面」を「回転体の回転軸に平行な対向壁面」を意味するものと判断したが,かかる解釈は,明らかに特許請求の範囲の記載を逸脱する拡大解釈である。構成要件Bの「一方の対向壁面」は,回転軸との関係は考慮せずに特定される「対向する壁面」であり,この「一方の対向壁面」を受けて構成要件Cが,破袋室の他方の「平行な対向壁面」と規定しているのであるから,回転軸との関係が考慮されるはずがない。
  c 仮に「平行な対向壁面」が「回転体の回転軸に平行な対向壁面」を意味するとしても,一審原告は,本件訴訟の提起前の和解交渉において,一審被告に対し,「固定刃が壁面に設けられていないもの(固定刃が被告製品2と同様,ドラムに設けられているもの)は本件特許発明1に非抵触である」旨主張していたのであり,一審被告は,一審原告の上記主張に基づき,被告製品2の構成へと改造したのであるから,かかる経緯に照らせば,一審原告が,被告製品2について本件特許権の侵害を主張することは,信義則に反する。
 (イ) 被告製品2の充足性
 被告製品2の固定側刃物は,固定パイプ(25)に突設状態に並設されている。このパイプ部材に「壁面」はなく,また,パイプ部材が「一定程度の空間を仕切る作用を有するもの」であるということもできないから,被告製品2は構成要件Cを充足しない。
   イ 構成要件D,E(「正・逆転パターンの繰り返し駆動」)の充足性
 前記(1)〔一審被告の主張〕のとおり,被告製品2は,構成要件D及びEを充足しない。
  (3) 争点(4)(損害額)について
 〔一審原告の主張〕
   ア 特許法102条1項の損害額
 (ア) 単位数量当たりの利益額
  a 原告製品の1台当たりの限界利益額は,351万2740円である。
  b 一審原告は,破袋機専門の営業担当者を雇用していないから,変動経費として控除すべき営業経費は存在しない。また,一審原告は,破袋機の在庫を有さず,注文を請ける都度,個々に破袋機の製造が外注先において行われ,完成した破袋機は,外注先から注文者(顧客)に直接納品されるから,外注費を除く変動費として,製品を納品するための諸費用や製品保管費用は発生しない。さらに,一審原告は原告製品について保険を付していないから,製品保険費用も発生しない。
  c 原材料費,消耗材料費,外注加工費及び外注先から注文者へ納品する際の輸送費(原告破袋機の物流関係変動費)は,全て甲23(甲19)に集計されている(甲26)。他方,原告破袋機の製造販売に関し,一審被告が指摘する,製品を納品するための諸費用,営業担当の経費,製品保管費用,製品保険費用は,いずれも発生していない。
  d 一審被告が指摘する「コンベヤ据付工事費一式」は,原告製品を納入する際にコンベヤに設置する場合の工事費であり,「工事用黒板」は原告製品を納入する際の設置工事で使用するものであるから,いずれも原告製品の利益に関するものである(なお,これらは費用として控除されている。)。
 (イ) 被告製品の譲渡数量
 平成21年8月28日から平成28年4月27日(本件口頭弁論終結日)までの間に,一審被告は,被告製品を合計8台(一審被告が自認する7台及びシリアルナンバー「15094」の製品)販売した。
 なお,シリアルナンバー「15094」の製品は,制御盤以外の部分が平成21年8月21日に顧客先に搬入されているが,制御盤が同年10月14日に搬入されたことにより,納品が完了したものであるから,本件特許の登録日以降の譲渡数量に含まれるべきものである。
   イ 一審被告が保守作業を行ったことによる損害
 (ア) 譲受人が被告製品を使用することによる損害
 被告製品(一軸破袋機)は,回転体を揺動回転させ,回転体に配置された回転側刃物及び固定配置された固定側刃物により,金属,木材,セラミック等を内容物とする袋体を破袋する機器である。そのため,使用の継続には,回転体の揺動回転の制御機構を構成する減速機の潤滑油,摩耗する刃物の交換等の保守が必要となる。そして,一軸破袋機に使用される刃物の形状・材質等は,製品ごとに異なるため,上記保守は,一軸破袋機の販売者が行うことになる。
 被告製品が販売されたとしても,その譲受人が被告製品の使用を継続しない場合,当該譲受人は,原告製品を購入し,使用することになるから,一審原告は,当該原告製品の保守を行い,保守費用を得ることができる。
 これに対し,被告製品の譲受人が被告製品の使用を継続する場合,一審原告は,保守の機会を失い,保守費用相当額の損害を被る。
 そして,一審被告は,被告製品を保守することで,譲受人による被告製品の使用を継続させ,又はこれを容易にさせているということができるから,譲受人による不法行為(被告製品の使用)を幇助したものとして,共同不法行為責任を負う。
 (イ) 原判決について
  a 被告製品の譲渡に係る損害と被告製品の保守(譲受人による被告製品の使用)に係る損害とは,別個の損害であるから,被告製品の譲渡に係る損害が填補されることにより,被告製品の保守に係る損害が填補されることはない。
  b 請求を認容する判決がされただけでは損害は填補されないから,被告製品の譲渡に係る損害と被告製品の保守に係る損害との異同にかかわらず,判決により被告製品の譲渡に係る損害が填補されたことを理由に被告製品の保守に係る損害を否定することはできない。
  c 原判決は,被告製品の譲渡に係る損害と被告製品の保守に係る損害が同質であると判断しているが,上記判断を前提とすれば,被告製品の譲渡に係る損害について損害の填補が認められた場合,当該侵害品の譲受人による侵害品の使用や転売等を差し止めることができないことになり,不当である。
 〔一審被告の主張〕
   ア 特許法102条1項に基づく損害額について
 (ア) 単位数量当たりの利益額
  a 一審原告の主張する,1台当たり351万2740円の利益は,粗利益である。
 特許法102条1項の「単位数量当たりの利益額」は,限界利益を指すものと解すべきところ,たとえ外注品であったとしても,粗利益から控除すべき変動経費がゼロということはあり得ず,例えば,製品を納品するための諸費用(納品立会費用を含む),外注先の管理(工程管理,納期管理,品質管理)のための費用,技術担当者や営業担当者の経費,製品保管費用,製品保険費用,製品や部品の運送費,メンテナンス費用などが,変動経費として控除されなければならない。
 また,一審原告の破袋機の価格には,「コンベア据付工事費一式」,「機器据付工事一式」,「破袋機HTP-6現地調整作業費」,「工事用黒板」など,破袋機とは関係のないものが含まれているが(甲23),破袋機と関係のない費目は,控除されなければならない。
  b 一審原告は,甲23に記載の14台の製品の粗利益をもって,1台当たりの利益額である旨主張する。
 しかし,1台当たりの利益額を算定するに当たっては,被告製品と同種同等同額の製品のみを基礎とすべきである。甲23に記載の製品価格は,被告製品の価格(1台当たり約350万円)に比べ,高額であり,そもそも,被告製品と競合関係にある製品ではない。
 (イ) 譲渡数量
 平成21年8月28日以降に一審被告が販売し,納品した被告製品の数量は,合計7台である。
 (ウ) 特許法102条1項ただし書の事情
 市場には,原告製品及び被告製品以外にも,第三者が製造販売する同種の破袋機が存在する。被告製品の販売数量は,平均すれば,年間1台か2台程度であるところ,第三者が製造販売する同種の破袋機についても,被告製品と同程度の販売数量であったと推認することができる。そうすると,被告製品が市場に存在しなかったとしても,その譲渡数量に相当する全ての需要が原告製品に向かったであろうなどということはできない。
 被告製品の譲渡数量7台のうち,一審原告が販売することのできた数量は,その約7割に相当する5台とみるべきであり,これを超える数量については,一審原告が販売することができないとする事情がある。
 (エ) 寄与率
 以下の事情に照らせば,被告製品において,侵害部分が購買者の需要を喚起することはあり得ないから,本件特許の寄与率が30%を超えることはないというべきであり,かかる寄与率を考慮して,一審原告の損害を算出すべきである。
  a 被告製品は,1種類の正・逆転パターンの制御しかできず,極めて限定的である上,正転角度と逆転角度を均衡にしたときのみが本件特許権の侵害となるにすぎない。
  b 被告製品は,納品時はブリッジ現象が生じることが明らかな,正転60秒,逆転60秒にセットされており,このセットの状態では本件特許発明の作用効果を充足しない。
  c 被告製品の制御である正転タイマ及び逆転タイマによる正逆転制御(1種類のパターンでの制御)自体は,進歩性を欠く。
  d 被告製品の制御は,本件特許発明1及び2の作用効果を考慮したとき,本件特許発明1及び2とは全く別異であり,実施は不可能であるものの形式的には本件特許の請求項の制御を実施し得る場合が考えられるというにすぎない。
   イ 一審被告が保守作業を行ったことによる損害について
 (ア) 一審被告は,販売先と保守契約なるものは締結していないものの,販売した被告製品について補修や部品交換の依頼があれば,当然にこれを行う。
 しかし,被告製品の補修や部品交換自体は,侵害行為ではない。すなわち,侵害品の補修や部品交換は,新たな侵害品の製造行為と評価されるような場合や間接侵害に該当する場合でない限り,独立の不法行為とはならない。
 したがって,侵害品の補修や部品交換は,違法な行為ではないのであって,一審被告が,被告製品の使用の継続を容易にさせているとはいえない。
 (イ) また,一審被告が被告製品を販売したことによる一審原告の販売機会の喪失による損害は,被告製品の販売を特許権侵害と評価することで全て補填されるから,一審原告には,譲受人による被告製品の使用,転売等による損害は認められない。