大阪高裁平成26年2月27日判決〔外国語会話教室を経営していた株式会社が破産した場合に、代表取締役の遵法経営義務違反及び取締役の監視義務違反が認められた例〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は、経営が破綻した外国語会話教室(Z)の元受講生Xらが、Zの当時の代表取締役Y1、取締役のY2ないしY5、監査役のY6ないしY10(以下、「監査役ら」という。)、会計監査人であったY11及びY12(以下、「会計監査人ら」という。)に対して未受講の受講料相当額の損害賠償とこれに対する遅延損害金を求めたものである。

以下、主要な争点であるY1に対する遵法経営義務違反、Y3ないしY5に対する監視義務違反についてのみ取り上げる。

2 Xらは、Y1ないしY5(以下、「取締役ら」という。)に対して、主位的に、①取締役らが企業会計原則に反する会計処理を行うことでZの財政破綻状態を隠してXらと受講契約を締結したことや、取締役らがXらの受講契約に基づく債権侵害をしたことについて不法行為責任(民法709条)を主張し、予備的に、②会計書類の虚偽記載を理由として取締役の第三者に対する責任(旧商法266条の3第2項、会社法429条2項1号ロ)、③資金流出回避義務違反や遵法経営義務違反を理由として取締役の第三者に対する責任(旧商法266条の3第1項、会社法429条1項)を主張した。

3 これに対し、Y1ないしY5は、遵法経営義務違反について、本件解約清算方法は、経産省及び東京都の了承を得ており、経産省の通達に反しておらず、法的にも経済的にも合理性を有していたこと、語学教室の受講契約条項は、経産省及び東京都生活文化局の行政指導によりがんじがらめに規定されており、通達の改正がない限り、これを変更することはできなかったこと、本件解約清算方法の可否につき、経産省の通達を尊重した最高裁判決が出ることを期待して待つことに非難されるべき点はないと主張した。

また、Y3ないしY5は、名目的、形式的に取締役に就任していたに過ぎず取締役として業務執行に関する権限を有していなかったと主張した。

4 本件の第一審は、取締役らは財政破綻状態隠匿行為を行っておらず、資金流出回避義務違反や遵法経営義務違反もないなどと認定し、Y1ないしY12の全員の責任を否定し、Xらの請求をいずれも棄却した。

一方、本件裁判所は、Y1、Y3ないしY5に対して、Y1には遵法経営義務違反による任務懈怠責任を認め、Y3ないしY5には、監視義務違反による任務懈怠責任を認め、その余の者に対しては責任を否定している。

本件裁判所は、Y1について、取締役は、職務を執行するにあたり、法令を遵守する義務を負っており、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定について、会社が法令に違反することのないよう、当該規定を遵守することも取締役の義務に属するという最高裁判決を引用した(最高裁平成12年7月7日判決)。その上で、Zは特定商取引法を遵守する義務を負っており、Y1はZの代表取締役としてZが同法の各規定に違反することのないよう法令遵守体制を構築し、必要な指示を行うべき義務を負っていたと認定した。その上で、本件解約清算方法を変更することに通達が制約になることはないと判示し、Y1は、本件解約清算方法という特殊な清算方法について、東京都消費生活部から改善指導を受け、全国消費生活情報ネットワーク・システムに寄せられた苦情件数が増加し、本件解約清算方法を有効とする下級審判決が一切なかったという状況下で、最高裁判決によって無効と判断されるまで、東京都から指導を受けても何ら改善策を講じることをせず、むしろマニュアルや通達、指導により違法行為を指示して全社的に行わせていたとして任務懈怠責任を認めた。

Y3ないしY5については、 Y1の上記任務懈怠について監視義務違反の存否が問題となるところ、名目的取締役においても監視義務を負う旨判示し、Zの取締役会で本件解約清算方法の採用・維持や特定商取引法への対応が議題になったことはないが、取締役の監視義務は、取締役会の上程事項に限らず、代表取締役の業務執行全般に及ぶものであり、受講契約が特定商取引法等の法令を遵守しているのかは外国語会話教室を営む上で重要な事項であるから、Y3ないしY5は取締役としてY1の業務執行を監視すべきであったと認定した。その上で、Y3ないしY5は、それぞれ、Zの幹部従業員として外国語会話教室の運営にかかわる業務に従事し、受講生からのトラブル等Zの特定商取引法違反行為や法令遵守体制の問題点に関する事実を認識し得たにもかかわらず、Y1の行為を放置し、何らの是正措置もとらなかったとして、任務懈怠責任を認めた。

5 本判決は、本件解約清算方法を経産省が容認する姿勢を示していたにもかかわらず、本件解約清算方法を維持し続けた点等について、本件事実関係から遵法経営義務違反を認めており、平成12年最高裁判決(最高裁平成12年7月7日判決)の判断基準を具体的な事案に当てはめた事例判決として実務上参考になるだけでなく、取締役に課せられる監視義務のなかでも、取締役会非上程事項の監視義務についての事例判決としても実務上参考になろう。


■参考判例 最高裁第二小法廷平成12年7月7日判決〔会社法355条における取締役が遵守すべき「法令」の意義〕

審級関係

大阪地裁平成24年 6月 7日判決(第一審)

主文

 1 原判決中、控訴人らの被控訴人Y1、同Y3、同Y4、同Y5に対する第2次的予備的請求に関する部分を次のとおり変更する。

  (1) 被控訴人Y1、同Y3、同Y4、同Y5は、別表「控訴人」欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表「損害額」欄記載の各金員及びこれに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (2) 控訴人らの被控訴人Y1、同Y3、同Y4、同Y5に対するその余の第2次的予備的請求をいずれも棄却する。

 2 控訴人らのその余の控訴をいずれも棄却する。

 3 訴訟費用は、第1、2審を通じて、控訴人らに生じた費用の3分の1と被控訴人Y1、同Y3、同Y4、同Y5に生じた費用を同被控訴人らの負担とし、控訴人らに生じたその余の費用とその余の被控訴人らに生じた費用を控訴人らの負担とする。

 4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

 1 原判決を取り消す。

 2 主位的請求

  (1) 被控訴人らは、原判決別表1の1控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成19年10月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (2) 被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y9、同Y10、同Y7、同Y8及び同Y11監査法人は、原判決別表1の2控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成19年10月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3) 被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8及び同Y11監査法人は、原判決別表1の3控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成19年10月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 3 予備的請求

  (1) 第1次的予備的請求

   ア 被控訴人らは、控訴人X22に対し、連帯して4万6200円及びこれに対する平成21年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   イ 被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8及び同Y11監査法人は、原判決別表2控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (2) 第2次的予備的請求

   ア 被控訴人らは、原判決別表3の1控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   イ 被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8、同Y9、同Y10及び同Y11監査法人は、原判決別表3の2控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   ウ 被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8及び同Y11監査法人は、原判決別表3の3控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   エ 被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7及び同Y8は、原判決別表3の4控訴人欄記載の各控訴人に対し、連帯して同表損害額欄記載の各金員(ただし、「27 X27 損害額2、255、579」を「27 X27 損害額1、486、349」と訂正する。)及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 事案の要旨

  (1) 本件は、平成19年11月に破産した株式会社a(以下「a社」という。)が経営していた外国語会話教室の受講生であった控訴人らが、a社の役員等(代表取締役、取締役、監査役及び会計監査人)であった被控訴人らに対し、①控訴人らとa社との各受講契約締結時において、a社の財政状態は授業を継続して提供できるようなものではなく、契約を解除しても未受講分の受講料を返還できない状態であるのに、被控訴人らは、企業会計原則に反する会計処理を行うことによりこれを隠匿し、あるいはその幇助をして、控訴人らに受講契約を締結させた、②仮に、a社の財政状態が上記のような状態でなかったとしても、その後、被控訴人らは、資金流出回避義務違反行為、遵法経営義務違反行為あるいはこれらの幇助行為により、a社の経営を破綻させ、控訴人らの受講契約に基づく債権を侵害した等と主張し、被控訴人らについて、下記の各責任原因(主位的に不法行為責任、予備的に役員等の第三者に対する責任)に基づき、未受講分の受講料等相当額の損害金と、これに対する主位的請求については不法行為の日の後である平成19年10月26日以降の、予備的請求については訴状送達日の後である平成21年6月10日以降の、年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

   ア 代表取締役であった被控訴人Y1について

 (ア) 主位的請求 不法行為(民法709条、719条1項)

 (イ) 第1次的予備的請求

 書類の虚偽記載に基づく取締役の第三者に対する責任(平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)266条ノ3第2項、会社法429条2項1号ロ)

 (ウ) 第2次的予備的請求

 悪意重過失による任務懈怠に基づく取締役の第三者に対する責任(旧商法266条ノ3第1項、会社法429条1項)

   イ 取締役であった被控訴人Y2、同Y3、同Y4、同Y5について

 (ア) 主位的請求

 不法行為(民法709条、719条(主位的に1項、予備的に2項))

 (イ) 第1次的予備的請求

 書類の虚偽記載に基づく取締役の第三者に対する責任(旧商法266条ノ3第2項、会社法429条2項1号ロ)

 (ウ) 第2次的予備的請求

 悪意重過失による任務懈怠に基づく取締役の第三者に対する責任(旧商法266条ノ3第1項、会社法429条1項)

   ウ 監査役であった被控訴人Y6、同Y7、同Y8、同Y9、同Y10について

 (ア) 主位的請求

 不法行為(民法709条、719条(主位的に1項、予備的に2項))

 (イ) 第1次的予備的請求

 書類の虚偽記載に基づく監査役の第三者に対する責任(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(昭和49年法律第2号。以下「旧商法特例法」という。)18条の4第2項、旧商法266条ノ3第2項、会社法429条2項3号)

 (ウ) 第2次的予備的請求

 悪意重過失による任務懈怠に基づく監査役の第三者に対する責任(旧商法280条1項、266条ノ3第1項、会社法429条1項)

   エ 会計監査人であった被控訴人Y11監査法人、同Y12監査法人について

 (ア) 主位的請求

 不法行為(民法709条、719条(主位的に1項、予備的に2項))

 (イ) 第1次的予備的請求

 書類の虚偽記載に基づく会計監査人の第三者に対する責任(旧商法特例法10条、会社法429条2項4号)

 (ウ) 第2次的予備的請求

 悪意重過失による任務懈怠に基づく会計監査人の第三者に対する責任(会社法429条1項)

  (2) 原審は、控訴人らの上記各請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。控訴人らは、これを不服として控訴した。

 2 前提事実

 当事者間に争いがないか、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、下記のとおり原判決を補正するほか、原判決10頁1行目から同13頁12行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

  (1) 原判決11頁5行目の「監査役」の次に「(社外監査役)」を加える。

  (2) 原判決11頁6行目の「監査役及び監査役(社外監査役)」を「監査役(社外監査役)」に改める。

  (3) 原判決11頁12行目の「平成18年11月3日に」から、同14行目末尾までを次のとおり改める。

 「平成18年11月2日に一時会計監査人となり、平成19年6月28日の株主総会により会計監査人に選任された者である(以下、「被控訴人Y11監査法人及び被控訴人Y12監査法人を併せて「被控訴人会計監査人ら」ということがある。)。(甲1、甲A15)」

  (4) 原判決11頁16行目の「別紙損害明細一覧表1及び2」の次に、「(ただし、「8 X8」を「8 X8」と、「23 X23」を「23 X23」と訂正する。)を、同「「契約年月日」欄記載の日」の次に、「(ただし、「25 X25 千里中央校 H14.1.25」を「25 X25 千里中央校 H14.11.25」と訂正する。)を、それぞれ加える。

  (5) 原判決11頁22行目の「成り立っており、」の次に、「これらは全額前払いとされていたところ、」を加える。

  (6) 原判決12頁17行目の「立入検査」の次に、「(以下「本件立入検査」という。)」を加える。

  (7) 原判決12頁24行目の「判決」の次に、「(以下「本件最高裁判決」という。)」を加える。

  (8) 原判決13頁5行目の「業務停止を命じ」の次に、「(以下「本件業務停止処分」という。)を加える。

 3 争点及びこれに関する当事者の主張

 本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次の4のとおり、原判決を補正するほか、原判決13頁14行目から同57頁12行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

 4 原判決の補正

  (1) 原判決13頁17行目から同20頁5行目までを、下記のとおり改める。

 「ア 財政状態隠匿による受講契約の締結

 下記(ア)のとおり、控訴人らの各受講契約時において、a社は財政破綻状態(近い将来経営が破綻して、前受受講料に相当する授業が提供できない状態、又は、解約清算金を返還できない状態)であったにもかかわらず、下記(イ)のとおり、被控訴人取締役らは、企業会計原則に反する会計処理(売上計上時期に関する本件会計処理方式の採用、売上返戻引当金の不計上ないし過少計上)を行うことにより、これを隠匿して控訴人らに各受講契約を締結させ、下記(ウ)のとおり、控訴人らに損害を被らせたものである。

 (ア) a社の財政破綻状態

 a社が公表した決算書では、a社は前記前提事実(4)のとおり、平成17年3月期まで営業利益、経常利益を計上しているが、これらは見せかけにすぎず、企業会計原則に適合した会計処理を行うと、a社は、平成11年3月期には13億円程度の債務超過であり、平成12年3月期は26億円程度の債務超過、平成13年3月期には46億円程度の債務超過と3期連続の債務超過であった。

 a社は、平成8年から日本証券業協会に株式を店頭登録していたため、有価証券報告書を内閣総理大臣に提出することを義務づけられていたし、また、a社は新聞紙上等に財務諸表を公表していた。したがって、a社が平成11年6月に債務超過の有価証券報告書を金融庁に提出し、財務諸表を新聞紙上に公表していれば、a社が債務超過に陥ったことは、瞬時かつセンセーショナルに報道され、受講生が中途解約の申出に殺到し、a社は中途解約の返金による現金預金の流出を避けることはできなかったし、長期かつ多額の前払式チケットの販売が事実上不可能となって、現金収入が激減することも必至であった。

 平成11年3月期においては、a社には未使用チケットが354億円規模で存在したのに対し、現金預金は86億円弱しかなかったから、受講生が中途解約に殺到すれば、a社は資金ショートに陥り、倒産に至る可能性が極めて高かった。そして、多額の未使用チケットを抱えたまま、現金収入が激減するため、a社において経営を改善し、平成13年3月期までに債務超過を回避することは不可能であった。

 仮に、a社が平成13年3月期まで生き延びることがあったとしても、3期連続して債務超過となるa社は平成13年6月に店頭登録が取り消されることになり、平成11年3月期以降の3期連続の債務超過、信用状態の悪化の露呈により、平成13年3月期における442億円規模の未使用チケットについて中途解約申出が殺到し、長期大量の前払い式チケットの販売が極端な不振に陥ることは明らかであるから、a社は遅くとも平成13年6月には倒産していたといえる。

 さらに、平成14年3月期には、受講者らの中途解約による返金額が増加し、被控訴人Y11監査法人においても、負債性引当金の計上を指摘・勧告するのやむなきに至ったものであり、この時点においては、もはやどんな策を講じても、遠からずa社が経営破綻して前受受講料分の授業が提供できない状態、又は解約清算金を返還できない状態が到来することが避けられない財政破綻状態にあったのである。

 そして、被控訴人取締役らが、資金繰りの計画立案とその管理を放棄した平成16年1月1日以降の時期においては、明らかに財政破綻状態に至っていたというべきであるし、a社の営業活動によるキャッシュフローがマイナスになった平成17年3月末には、もはやどのような評価基準をもってしても、財政破綻状態に至っていたことは明白である。

 (イ) 企業会計原則に反する会計処理

 a 売上計上時期に関する本件会計処理方式の採用

 会社法431条は、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」と定められているところ、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」として企業会計原則が存在する。

 企業会計原則によれば、売上高は、実現主義の原則に従い、商品の販売又は役務の提供によって実現したものに限るとされているところ(企業会計原則第2、3B)、全額一括で前払いされる授業料については、個々の授業毎に売上計上する方法が企業会計原則の常識的な解釈であり、全カリキュラムの実施が授業料に対する役務の内容であるときは、役務提供完了時に一括して売上計上し、カリキュラムの実施が契約期間を通じて平均的である場合などは期間按分も許されるとされている。本件会計処理方式、すなわち、a社が受領した受講料の45%をシステム登録料として直ちに売上計上し、残りの55%の部分についても授業消化とは無関係に期間配分するとの方式が、企業会計原則に反するものであることは明白である。

 a社は、システム登録料について、「インストラクターの手配、生徒一人一人の受入環境の維持、レッスンやテストのクオリティー・コントロール等々、一回一回のレッスンの実施以外にかかる費用のこと」(甲A32)であると説明しているが、これらの費用項目は、経常的継続的に発生する営業費用であって、いわゆる初期費用にあたらないし、また、受講生が、レッスンを消化する前の段階で、システムを利用できる環境だけを享受することはできないのであるから、本件会計処理方式を正当とする根拠は存しない。

 b 売上返戻引当金の不計上・過少計上

 企業会計原則によれば、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れるものとされている(企業会計原則注解18)。

 a社は、平成17年3月期以前は、売上返戻引当金を計上していないが、被控訴人Y11監査法人の平成14年5月付け「第12期監査概要報告書」(甲A25)により、売上返戻引当金の計上を指摘・勧告されているのであるから、勧告に従い、解約に関する詳細なデータの整備を行い、遅くとも平成15年3月期には相当の売上返戻引当金を計上すべきであったものであり、平成17年3月期以前に売上返戻引当金を計上しなかったのは、企業会計原則に反する。

 また、a社は、平成18年3月期以降、繰延駅前留学サービス収入残高に45/55及び過去5年間の平均解約率を乗じた金額を売上返戻引当金として計上しているが、その額は、現実の解約率や解約清算額と乖離した過少な金額であるし、平成17年以降、解約清算金の計算方法に関する多数の訴訟において敗訴が続いていることや、解約率が急上昇していることが考慮されていないものであり、不適切である。

 (ウ) 受講契約の締結と控訴人らの損害発生

 被控訴人取締役らは、前記(ア)のa社の財政破綻状態を、前記(イ)a、bの方法で隠匿し、a社が授業を継続して提供できず、解約の際に解約清算金を返還できない状態であることを隠して、控訴人らに対して受講契約を締結させ、受講料等相当額の損害を被らせた。

 控訴人らは、a社が倒産必至の状態にあることを知っていれば受講契約を締結することはなかったから、被控訴人らの企業会計原則に反する会計処理と控訴人らの損害との間には、相当因果関係がある。

 イ 控訴人らの受講契約締結後の債権侵害(前記アの予備的主張)

 仮に、控訴人らの各受講契約時において、a社が財政破綻状態にあったことが認められないとしても、控訴人らとa社との各受講契約締結後、被控訴人取締役らの下記(ア)の資金流出回避義務違反行為、下記(イ)の遵法経営義務違反行為により、a社が財政破綻状態に至り、a社の会社更生手続申立時において、控訴人らに授業を提供することができず、解約の際には解約清算金を返還できない状態となったものであり、これにより、控訴人らに未受講の受講料等相当額の損害を生じさせ、控訴人らの各受講契約に基づく債権を侵害した。

 (ア) 資金流出回避義務違反

 a 取締役は、会社に対して忠実義務及び法令遵守義務を負っているところ、会社の営業活動は、取引相手の存在を当然の前提としているから、会社が取引相手に対して負担した義務を履行できるように会社経営を行うことは、取締役の最低限の義務であり、経営に関する取締役の決定等が明白に違法であって、その結果、取引相手の会社に対する権利が侵害された場合には、取締役は、故意又は過失がある限り、取引相手に対する権利侵害について一般不法行為責任を負う。

 会社が取引相手に対し、その履行期に契約上の義務を履行するためには、義務を履行するのに必要な資金を確保しなければならない。また、会社が法律上の制度である以上、法令及び企業会計原則を遵守した計算を行い、これに基づく決算書類を作成することが当然の前提となる。これら法令・企業会計原則に違反した会計処理と、かかる会計処理を前提として経営を行った結果、必要資金に不足を来たし、取引相手への義務の履行が不可能となった場合には、それを来たした取締役の行為は、第三者(取引相手)との関係でも違法と評価すべきである。

 b a社は、契約期間が長期になればなるほど、1授業当たりの単価が安くなるという方式を採用して、受講生をできる限り長期の契約締結に誘導し、多額の受講料を前払いで受領するという経営方針をとっていた。こうした経営方針の下で、a社は、受講生に対し、長期間にわたって授業の役務を提供する債務を負うことになる。そして、a社と受講生との契約は、特定商取引法上の特定継続的役務提供契約であり、契約の性質上当然に中途解約が予定されるから、a社は、中途解約をした受講生に対する前受受講料の清算を予定した資金計画を講ずる必要があったのであり、経営方針を決定する被控訴人取締役らは、前受受講料の流出を回避し、受講生の解約率等に即して、授業のための経費や解約清算金のための資金を適切に社内に留保すべき資金流出回避義務を負っていたというべきである。加えて、a社と取引関係に立つのは一般消費者であるから、資金確保について配慮する高度の注意義務を負うというべきである。

 c しかるに、被控訴人取締役らは、前記ア(イ)a、b記載の企業会計原則に反する会計処理によって多額の負債を隠匿し、利益の水増しを行いながら、必要な資金を留保することなく、莫大な宣伝広告費をかけたり、無謀に新規教室を開設するなど、実収入に到底見合わない経費を支出し、資金を流出させた。

 d したがって、仮に、控訴人らがa社との間で各受講契約を締結した時点において、a社が財政破綻状態にあったことが認められないとしても、控訴人らの各受講契約時から、遅くともa社の会社更生手続申立時点までの間の被控訴人取締役らの前記資金流出回避義務違反行為により、a社は、遅くとも会社更生手続申立時には、授業を継続して提供することができず、解約の際には解約清算金を返還できない状態となり、控訴人らは、同時点において、未受講の受講料等相当額の損害を被った。

 (イ) 遵法経営義務違反

 a 上記(ア)aのとおり、取締役は、会社が取引相手に対する契約上の義務を履行できるように、法令を遵守して経営を行う義務を負っており、法令に違反する経営を行った結果、会社の信用が毀損される等して倒産に至り、その結果、会社の取引相手が損害を被った場合には、会社の取引相手に対し、一般不法行為責任を負う。

 b a社が大半の受講生と締結していた長期間の受講契約は、もとより受講契約期間中に倒産しないことが当然の前提となるものであるところ、a社は、新規の申込者がいなければ、たちまちキャッシュ・フローが回らなくなる財務状態にあったのであるから、被控訴人取締役らは、監督官庁から業務停止命令や行政指導を受けるなどして、信用を損ない、新規契約申込者が途絶えたり、減少することによって倒産に至ることのないよう、法令を遵守した経営を行う義務を負っていた。また、中途解約時における解約清算方法が違法とされた場合、予測していない巨額の解約清算金債務が発生し、直ちに経営が立ちゆかなくなることが確実であったから、かかる事態が生じないよう、解約清算方法について法令を遵守する義務を負っていた。

 c しかるに、被控訴人取締役らは、下記①~③のとおり、遵法経営義務に違反する行為を行った。

 ① 違法な解約清算方法の採用及び維持

 被控訴人取締役らは、a社における解約清算方法が違法であることを認識し、これが報道等で顕在化すれば、受講生から一斉に返還請求を受けるなどして経営が破綻することを知悉しており、現に消費者センターや消費者団体からa社の解約清算方法が法令に違反するとの指摘を繰り返し受け、受講生から訴訟提起され、度重なる敗訴判決を受ける等していたにもかかわらず、何ら是正することなくこれを放置し、平成19年4月3日、本件最高裁判決を受けるに至った。

 ② その他の特定商取引法違反

 控訴人取締役らは、a社が勧誘時の説明に反して希望の時間にレッスンの予約がとれない事態となる等の不実告知、重要事項の不告知、法定書面の記載の不備、法令に従った中途解約に応じず、履行を遅延するといった特定商取引法に反する状況があったにもかかわらず、これらを放置し、経営を適正化するための措置を講じなかった。これにより、a社は、平成19年6月13日、特定商取引法違反により本件業務停止処分を受けた。

 ③ 違法な資金調達と発生した損失の穴埋め

 被控訴人Y1が支配するa社の関連会社(株式会社ギンガネット等)は、平成12年から平成13年にかけて、破綻の懸念のあった石川銀行から、関連会社名義で合計50億円の株式を引き受けたが、同銀行の破綻(平成13年12月28日)により同株式は無価値となった。また、a社の関連会社は、上記株式引受に伴い、石川銀行から、上記株式引受のための資金を含む合計154億5000万円の融資を受けた。上記融資について保証や物上保証をしていた被控訴人Y1や同Y2は、同人らの利益のために、関連会社を救済するべく、a社の関連会社に対する融資や保証、a社と関連会社との取引(ワープゲート取引、MCU取引等)を計画・実行した。これらの一連の取引によりa社に発生した損害は、a社の破産管財人が訴訟提起しているだけで、21億3000万円超である。

 d したがって、仮に、控訴人らがa社との間で各受講契約を締結した時点において、a社が財政破綻状態にあったことが認められないとしても、控訴人らの各受講契約時からa社の会社更生手続申立時点までの間の被控訴人取締役らの遵法経営義務違反行為により、a社の信用が失墜し、a社は、会社更生手続申立時には、授業を継続して提供することができず、解約の際には解約清算金を返還できない状態となり、控訴人らは、同時点において、未受講の受講料等相当額の損害を被った。

 (ウ) 上記(ア)の資金流出回避義務違反と上記(イ)の遵法経営義務違反とは相互に関連しており、これらの行為が複合的な原因となって、a社の倒産、すなわち契約締結後の債権侵害による損害発生に至っている。よって、これらの個々の行為を個別に切り離すのではなく、一連一体の行為として評価すべきである。」

  (2) 原判決23頁13行目の次に改行の上、次のとおり加え、同14行目の「カ」を「キ」と改める。

 「カ 中途解約の場合の清算方法について

 a社が中途解約の場合の前受受講料の清算についてとっていた方法は、経産省及び東京都の了承を得ており、経産省の通達に反しておらず、法的にも経済的にも合理性を有するものであった。

 語学教室の受講契約の条項は、経産省及び東京都生活文化局の行政指導によりがんじがらめに規定されており、通達の改正がない限り、これを変更することはできない。

 被控訴人Y1が前記清算方法の可否につき、経産省の通達を尊重した最高裁判決が出ることを期待して待つことについて、何の非難されるべき点もない。」

  (3) 原判決25頁23行目の「業務執行を」を「業務執行の」に改める。

  (4) 原判決26頁26行目の「最高裁判所で敗訴判決が出されたことを」を、「地方裁判所や高等裁判所において敗訴判決を受ける等していたことを」に改める。

  (5) 原判決47頁11行目の「不計上」の次に「ないし過少計上」を加える。

  (6) 原判決48頁2行目の「引当金を不計上」を「引当金を過少な額しか計上しない」に改め、同3行目の「しない」を削る。

  (7) 原判決52頁14行目の「不計上」を「過少計上」に改める。

  (8) 原判決56頁14行目の「損害」の次に「(被控訴人Y12監査法人が一時会計監査人に就任した後に生じた損害)」を加える。

  (9) 原判決56頁16行目の「損害」の次に「(被控訴人Y9、同Y10が監査役に就任してから被控訴人Y12監査法人が一時会計監査人に就任するまでの間に生じた損害)」を加える。

  (10) 原判決56頁18行目の「損害」の次に「(被控訴人Y9、同Y10が監査役に就任するまでに生じた損害)」を加える。

  (11) 原判決56頁22行目の「損害」の次に「(平成19年3月期株主総会の招集通知があった後に生じた損害)」を加える。

  (12) 原判決56頁24行目の「損害」の次に「(平成19年3月期株主総会の招集通知の前に生じた損害)」を加える。

  (13) 原判決57頁1行目の「損害」の次に「(被控訴人Y12監査法人が一時会計監査人に就任した後に生じた損害)」を加える。

  (14) 原判決57頁3行目の「損害」の次に「(被控訴人Y9、同Y10が監査役に就任してから被控訴人Y12監査法人が一時会計監査人に就任するまでの間に生じた損害)」を加える。

  (15) 原判決57頁5行目の「損害」の次に「(会社法が施行された平成18年5月1日から被控訴人Y9、同Y10が監査役に就任するまでの間に生じた損害)」を加える。

  (16) 原判決57頁8行目の「損害」の次に「(会社法が施行された平成18年5月1日より前に生じた損害)」を加える。

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

 前記前提事実、証拠(甲A1、2、5~15、24~33、36~38、40~53、58~61、69、70、93~121、123、134、140~168、177~179、182、186~246、250、乙ア1~4、7~11、15~22、41~43、52~61、63、64、66、乙イ1、乙ウ1~11、17~22、26、27、乙エ1~7、乙オ1、乙カ1、乙キ1、2、乙ク1、乙ケ1~6、8~13、証人F、同G、被控訴人Y1、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8、同Y9、同Y10、調査嘱託。ただし、書証中枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

  (1) a社の概要

 a社は、昭和56年に被控訴人Y1が設立した有限会社bを前身として、「駅前留学」(教室でのレッスン等)、「お茶の間留学」(テレビ電話システムを利用したレッスン)、「○○スクール」(幼児児童を対象としたレッスン)と称する外国語会話学校の経営や、海外留学サービスと称する海外留学のコンサルテーション事業、外国語教育の教材等の商品の販売等の事業を行っていた株式会社である。

 a社は、その前身会社が昭和56年に教室1号店を開設した後、事業規模を拡大させて、平成8年11月には株式を日本証券業協会に店頭登録し、その後も積極的に拠店数を拡大させる方針を採り、また、広告宣伝活動を重要視した営業を行い、拠店数・生徒数・売上高を急増させて、外国語会話教室として国内トップ企業となり、平成19年3月期(第17期)には、資本金50億円、売上高約560億円、生徒数約42万人、従業員数8000人弱(外国人講師や臨時従業員を含む)の規模を有していたが、平成19年10月26日、会社更生手続開始の申立てをし、同年11月26日、破産手続開始決定を受けたものである。

  (2) 経営体制・役員等

   ア 株主

 a社の株主構成は、平成19年3月末時点において、b社(被控訴人Y1及びその近親者が全株式を保有する。)が36.02%、被控訴人Y1個人が35.55%を保有するなど、被控訴人Y1が実質的に77.34%の株式を保有しており、同年9月に、被控訴人Y1及びb社が株式を譲渡するまで、その割合にほとんど変化はなかった。

   イ 代表取締役

 被控訴人Y1は、a社の創業者であり、創業以来、平成19年10月25日に解任されるまでa社の代表取締役であった。被控訴人Y1は、a社及びその関連会社(a社グループ)の業務全般を把握する唯一の人物であり(a社の平成18、9年有価証券報告書(乙ア9、10)は、「事業等のリスク」のひとつとして、「代表者への依存」とする項目を設け、被控訴人Y1につき、「当グループの創業者であり、事業運営上重要な役割を果たしております。今後、Y1が何らかの理由により、当グループの事業を運営出来なくなった場合には、当グループの経営成績に影響を与える可能性があります。」と記載している。)、a社の取締役らに対する報酬総額の大半(平成11年には取締役全体の報酬総額1億1742万円のうち9600万円、平成18年には取締役全体の報酬額1億6104万円のうち1億5600万円)を受領していた。

   ウ 取締役

 (ア) 被控訴人Y2

 被控訴人Y2は、野村證券株式会社に勤務していたが、平成8年6月、被控訴人Y1から要請されてa社の取締役に就任した。その後再任されてきたが、平成15年3月ころ、単身赴任生活が長期間に及んだことを理由に被控訴人Y1に辞任を申し出、同年8月1日付けで辞任(同月4日登記)した。

 (イ) 被控訴人Y3

 被控訴人Y3は、昭和60年11月ころ、有限会社bに入社し、教室スタッフとして勤務していたが、被控訴人Y1の指示により、昭和62年4月に関連会社である株式会社コスモ・プロジェクト(平成3年2月に大阪市北区のa1社に合併された会社)の代表取締役に就任し、平成2年8月に大阪市北区のa1社が設立されると、その取締役に就任し、平成5年2月に被控訴人Y1が買収した株式会社cの商号がa社に変更された際にa社の取締役に就任し、以後、再任されて会社更生手続開始申立時まで取締役の地位にあった。

 被控訴人Y3は、前記各取締役に就任した後も、従業員としての勤務実態に変化はなく、教室のスタッフ、マネージャー、エリアマネージャーとして稼働し、平成8年4月頃、東京本部業務推進部の責任者となって日本人スタッフの採用業務等に従事し、平成16年7月頃から生徒相談室の室長も兼務した。

 被控訴人Y3は、前記各取締役就任当初は、従業員給与のみを支給されており、平成11年頃から、役員報酬も支給されるようになったが、役員報酬が支給されるようになった前後で支給額総額が増加することはなかった。

 (ウ) 被控訴人Y4

 被控訴人Y4は、昭和56年8月頃、有限会社bに入社し、英語教師として稼働し、その後、教務部に所属して稼働していたが、平成8年6月、取締役就任の辞令を受けて、a社の取締役に就任し、以後、再任されて会社更生手続開始申立時まで取締役の地位にあった。

 被控訴人Y4は、取締役に就任した後も、従業員としての勤務実態に変化はなく、教務部に所属し、教材開発、レッスンの品質管理、外国人講師に関する人事等を担当した。

 被控訴人Y4は、取締役就任後、従業員給与とともに役員報酬も支給されていたが、就任前後で支給額総額が増加することはなかった。

 (エ) 被控訴人Y5

 被控訴人Y5は、平成10年8月にa社の関連会社であるインタービジョン株式会社に入社し、店舗開発業務、賃借不動産の管理業務、社宅管理業務に従事していたが、被控訴人Y1の指示により、平成17年11月、同社代表取締役に就任し、さらに、平成18年6月、a社の取締役に就任し、会社更生手続開始申立時まで取締役の地位にあった。

 被控訴人Y5は、前記各取締役就任後も、従業員としての勤務実態に変化はなく、給与ないし報酬はインタービジョン株式会社から支給され、a社から従業員給与ないし役員報酬が支給されることはなかった。

   エ 取締役会

 a社の取締役会は、被控訴人Y2が取締役に在任中は、比較的定期的に開催されていたが、同被控訴人退任後は開催回数が減少し、平成17年頃から年に1、2度開催される程度になった。この点につき、被控訴人Y1は、従業員取締役である被控訴人Y3、同Y4、同Y5(以下「被控訴人Y3ら3名」ということがある。)は、それぞれ担当する業務については専門家であるが、それ以外の分野については知識がなく、会社の経営全般を検討するには不十分であったので、取締役全員、部門長全員の参加する推進会議を、いわば拡大取締役会として開催し、推進会議で経営方針を決定していたと述べている。しかし、取締役会、推進会議のいずれにおいても、被控訴人Y1が専ら発言することが多く、a社の経営に関する重要な事項は、同被控訴人が自らの判断で決定しており、これらの会議で経営方針について議論が行われることはあまりなかった。

 a社の取締役会議事録として、平成11年4月以降、毎期十数回から三十数回分の議事録が作成されているが、平成17年暮れころまでの議事録は、実際の開催の有無にかかわらず、a社の本部に保管されていた取締役らの印鑑を社長室の事務担当者が押印する方法で作成されたものであり、平成17年暮れころ、被控訴人Y3及び同Y4が、それぞれの印鑑を自分で管理するようになった後は、実際の開催の有無にかかわらず、事務担当者が作成した議事録が回覧され、各取締役がこれに押印する形で作成されていた。

   オ 監査役

 (ア) 被控訴人Y6

 被控訴人Y6は、平成3年1月にそれまで勤めていた総合商社を定年退職した後にa社に入社し、総務課に配属されて総務課長として勤務していたが、平成7年10月に辞令により監査役への就任を命じられ、さらに、平成9年6月にa社の常勤監査役に就任し、以後、再任されてきた。

 (イ) 被控訴人Y7

 被控訴人Y7は、勤務していた国税庁を退職後、税理士として稼働していたが、平成9年6月にa社の監査役(社外監査役)に就任した。以後再任されてきたが、業務多忙を理由に辞任を申し出、平成18年6月の株主総会において辞任した。

 (ウ) 被控訴人Y8

 被控訴人Y8は、公認会計士として稼働していたが、平成10年6月にa社の監査役(社外監査役)に就任した。以後再任されてきたが、平成18年4月ころ、被控訴人Y1に経営改善を申し出ても聞き入れられず、社外監査役にとどまる意味がない等として辞任を申し出、平成18年6月の株主総会において辞任した。

 (エ) 被控訴人Y9

 被控訴人Y9は、勤務していた大阪国税局を退職後、税理士として稼働していたが、平成18年6月の株主総会において監査役(社外監査役)に就任した。

 (オ) 被控訴人Y10

 被控訴人Y10は、勤務していた国税庁を退職後、税理士として稼働していたが、平成18年6月の株主総会においで監査役(社外監査役)に就任した。

   カ 会計監査人

 被控訴人Y11監査法人は、a社の平成8年の株式店頭登録前から、会計監査人となり、その任を担っていたが、平成18年11月2日、辞任した。

 被控訴人Y12監査法人は、同日、a社の一時会計監査人(会社法346条4項)に就任し、平成19年6月の株主総会において会計監査人に選任された。

  (3) 語学教室に関する特定商取引法による規制

   ア 法改正

 a社の創業当時、語学教室について、消費者保護のための法規制は存しなかったが、平成11年法律第34号による訪問販売等に関する法律(なお、同法律の名称は、平成12年法律第120号による改正で「特定商取引に関する法律」に改められており、以下、時期を問わず、「特定商取引法」という。)の改正(平成11年10月22日施行)により、新たに特定継続的役務提供取引に対する規制が加えられ、語学教室は、エステティックサロン、学習塾、家庭教師派遣とともに特定継続的役務提供取引として同法の規制を受けることなった。

 上記のように特定商取引法の改正による規制が加えられた背景については、契約に基づいてサービス提供を長期にわたり行うエステティックサロン、語学教室、学習塾、家庭教師派遣等の継続的役務取引事業が進展してきたところ、これらの取引に共通する問題点として、①役務の内容、質の客観的判断が困難なこと、②役務の効果に対する客観的判断が困難なこと、③悪質事業者は前記2点に乗じて誇大広告や虚偽説明、過量販売等を行いやすいし、消費者はそれを見破りにくいこと、④長期継続的な契約であり事情変更が生じやすいのに、消費者が契約から離脱することが困難であること等があるので、これらの問題点に対処しようとしたものである等と説明されている(甲A16、54)。

 なお、特定商取引法の改正が行われる前である平成5、6年ころ、通商産業省(以下、通商産業省、経済産業省を区別せず「経産省」という。)が、エステティックサロン、語学教室、学習塾、家庭教師派遣の4業種の業界団体に対して、自主ルールの策定を求め、これに応じて、全国外国語教育振興協会は、平成6年3月、「民間外国語教育施設の運営に関するガイドライン」を作成し、契約期間を1年以内とすること、前払金は1年分を限度とすること等の自主ルールを定めた(甲A37)が、a社は同協会に所属せず、上記ガイドラインに従うことはなかった。同協会の代表理事は、平成10年8月に行われた国民生活審議会消費者政策部会消費者契約適正化委員会において、語学教室に対する苦情のほとんどは、同協会に加入しておらず、自由予約制を採用している学校が占めている、自由予約制を採用している学校では、生徒の中には必ず脱落していく人がおり、3年間でチケットを使い切る人は3割にも満たないだろうという予測で経営を行っている、このスタイルは、消費者が最初に大きな金を払うということと、ゴールデンタイムには予約が殺到するので予約ができず、結局チケットを消化できない事態が生ずる等の問題がある、契約期間を1年以内とする等の同協会の定めたガイドラインを守ることで問題は解決するのではないかと考えている、等と発言している(甲A24)。

   イ 法規制の概要

 前記改正された特定商取引法による語学教室に関する法規制の概要は、2月を超える期間にわたる役務提供を行い、5万円を超える金額を支払うことを約する契約を規制対象とし、①事業者に対する行為規制として、概要書面・契約書面の交付義務(42条)、不実告知の禁止(44条1項)、前払取引を行う場合の財産内容の開示義務(45条)等を定め、②消費者がクーリングオフすることを可能とし(48条)、③クーリングオフ期間経過後も、消費者が将来に向かって契約を解除すること(中途解約)ができるものとし(49条1項)、中途解約の場合に事業者が消費者に請求できる金額の上限を定める(49条2項)等というものである。

 このうち、中途解約時の清算については、語学教室の事業者が役務提供開始後に中途解約した消費者に請求できる金額の上限を、「提供された役務の対価」相当額と「通常生ずる損害額(契約残額の20%又は5万円のいずれか低い額)」の合算額と定めている(49条2項)。

  (4) a社の受講料・中途解約に関する取扱い

   ア 受講料の定め

 a社の駅前留学サービスの受講料については、時期等による変遷はあるが、基本的に、①レッスン料は、a社の設定した料金規定(下記はその一例)に従い、あらかじめポイントを全額前払いで購入し(下記例のように、購入するポイントが多いほど、単価が安くなる数量割引制度が採用されている。また、下記例において登録ポイントが80ポイント以下の場合は有効期間が1年、110ポイント以上の場合は有効期間が3年とされている。)、グループレッスン(1人の講師に3、4人程度の受講生がついたレッスン)の場合には、1回受講する毎に1ポイントを消費し、個人レッスンの場合は、1回受講する毎に3~4ポイントを消費するものとされ、②a社のVOICEルーム(会話力を上達させるため講師が待機した部屋で自由に会話を行うもの)の利用料は、a社の設定した料金規定に従って、あらかじめチケットを全額前払いで購入する(購入するチケットが多いほど、単価が安くなる数量割引制度が採用されている。)ものとされていた。

   記

〔登録ポイント〕 〔価格〕 〔ポイント単価〕

600ポイント 72万0000円 1200円

500ポイント 67万5000円 1350円

400ポイント 62万0000円 1550円

300ポイント 52万5000円 1750円

250ポイント 46万2500円 1850円

200ポイント 39万0000円 1950円

150ポイント 30万7500円 2050円

110ポイント 23万1000円 2100円

80ポイント 18万4000円 2300円

50ポイント 15万0000円 3000円

25ポイント 9万5000円 3800円

 なお、a社は、受講料について説明した「Price List」(甲A33)に「どんなに効果的なレッスンでも、どんなやり方をしても、たった20~30回では何の効果もありません。」「せっかく□□教室に入学されるからには、何としても話せるようになっていただきたい。それには、150ないし210ポイント以上のコース登録をお勧めします。」と記載し、また、受講契約を勧誘するに際して、数量割引制度であることを強調する等して、より多くのポイントの購入をするよう勧めていた。

   イ 中途解約に関する扱い

 a社は、当初、中途解約には原則として応じない方針であったが、平成9年4月頃から、中途解約に応ずる方針に改め、清算金の算定に関する規定を設け、解約に伴う清算金(未受講の受講料相当額等)を受講生に払い戻すようになった(甲A147)。

 a社の清算金算定に関する規定についても、時期等によりその内容に変遷はあるが、基本的に、前受受講料から、解約までに使用したポイントの対価額及び解約手数料を控除した金額を払い戻すものであるところ、使用済みポイントの対価額を算定するにあたり、契約時のポイント単価(以下「契約時単価」という。)ではなく、a社が解約清算規定により定めた単価(以下「規定単価」という。)を用いるものとしており(以下、使用済みのポイントの対価額を規定単価を用いて算定するa社の解約清算方法を「本件解約清算方法」といい、本件解約清算方法を定めた規定を「本件解約清算規定」という。)、規定単価は、原則として、使用済みポイントの数以下でそれに最も近い登録ポイント単価としていた(例えば、前記アの料金例において、600ポイント購入した消費者が320ポイント使用した後に解約する場合には、契約した600ポイントの単価1200円に使用済みポイントを乗ずるのではなく、使用済みの320ポイント以下で最も近い登録ポイントである300ポイントの単価1750円を規定単価として、これに使用済みポイントを乗ずるものとされていた。)。規定単価は、契約時単価よりも常に高額となる。

   ウ 経産省の通達等

 前記(3)イのとおり、特定商取引法は、語学教室の事業者が役務提供開始後に中途解約した消費者に請求できる金額の上限を「提供された役務の対価」相当額と「通常生ずる損額額」の合算額と定めているところ、経産省は、通達において、「提供された役務の対価」の解釈について、「契約締結時の書面に記載された方法に基づき算出することになるが、その際用いる方法、単価については合理的なものでなければならない。すなわち、単価について、契約締結の際の単価を用いることが原則であり、合理的な理由なくこれと異なる単価を用いることはできない。例えば、通常価格1回1万円のエステティックサロンを期間限定特別価格3千円で契約を締結した場合には、後者の単価を用いて精算することになる。」としていた。

 経産省は、解約時と異なる単価を用いても合理的理由があると認められる場合としては、同じ商品につき契約数量に応じた異なる単価を通常価格として設け、かつ、実際に取引している場合があるとの解釈に基づき、契約時の料金規定に基づいて規定単価を用いるa社の本件解約清算方法について、特定商取引法に違反するとの指摘はせず、これを容認する姿勢を示していた。

   エ 解約清算金に関する訴訟

 (ア) 平成15年頃から、a社との受講契約を中途解約した元受講生が、a社に対し、本件解約清算方法が違法であると主張して、契約時単価により算定した清算金を支払うよう求める訴訟が各地で提起された。

 これらに対し、a社は、平成15年11月、京都簡易裁判所において、元受講生からの請求額の全額を支払うとの内容で和解し(甲A43)、平成16年7月、東京地方裁判所において、a社が元受講生の請求額全額を弁済供託したことを理由とする請求棄却判決(甲A8)を受けたことがあったが、その余の訴訟においては、本件解約清算規定の有効性を主張して、元受講生らの請求を争った。

 (イ) 下級審判決

 これらの訴訟における下級審判決(東京地裁平成17年2月16日、東京高裁平成17年7月20日、東京地裁平成17年9月26日、京都地裁平成18年1月30日、東京高裁平成18年2月28日、岡山地裁津山支部平成18年3月15日、大阪高裁平成18年9月8日、名古屋地裁平成19年2月15日各判決)は、いずれもa社の本件解約清算規定は特定商取引法49条2項1号に反するもので無効であると判断し、これを有効とする判決は存しなかった。

 (ウ) 本件最高裁判決

 最高裁判所は、平成19年4月3日、a社の本件解約清算規定について、①a社の料金規定においては、登録ポイント数に応じて一つのポイント単価が定められており、受講者が提供を受ける各個別役務について異なった対価額が定められているわけではないこと、②a社の解約清算規定に従って算定される使用済ポイントの対価額は、契約の締結に当たって登録されたポイント数に対応するポイント単価によって算定される使用済ポイントの対価額よりも常に高額となることなどの事情の下では、特定商取引法49条2項1号に定める額を超える額の金銭の支払を求めるものとして無効である旨判示した。

 (エ) 本件最高裁判決後の対応

 a社は、本件最高裁判決を受けて、解約清算に関する規定を改め、使用済みポイントの単価は契約時単価により計算するものとした。

 なお、経産省は、本件最高裁判決を受けて、平成19年4月12日、前記ウの通達を変更し、「提供された役務の対価」について、「契約締結時の書面に記載された方法に基づき算出することになるが、その際用いる方法については合理的なものでなければならない。ただし、対価の計算に用いる単価については、契約締結の際の単価を上限とする。・・・解除があった場合にのみ適用される高額の対価を定める特約は、実質的に損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するものであって、無効である。よって、そのような特約がある場合であっても、「提供される役務の対価」の計算に用いる単価は、契約締結の際の単価である。」と改めた(乙ア64)。

  (5) 売上金に関するa社の会計処理

   ア 売上計上時期について

 (ア) 平成6年3月期まで

 a社は、平成6年3月期までは、駅前留学サービス収入のうち入学金収入並びに1年契約コース及び3年契約コースの中の最小受講数のコースに係わる受講料収入については、現金基準により契約時に収益として計上し(ただし、平成5年3月期までは100回以下のコースについてのみ現金基準を適用し、平成6年3月期には150回のコースについても現金基準を適用していたとみられる。甲A145)、それ以外のコースに係わる受講料収入については、レッスンの受講に応じて収益として計上していた(甲A140~142。)。

 被控訴人Y11監査法人は、平成6年3月期の監査実施報告書(甲A145)において、「前回から指摘しておりますとおり、Lesson、VOICE、□□教室の各売上高についてはレッスン消化に応じた売上計上を行うのが望ましく、消化高の把握が困難であれば、レッスンの有効期限にわたって均等計上する方法等によるべきであります。」と記載した。

 (イ) 本件会計処理方式の採用

 a社は、平成5年頃から、株式の店頭登録を目指した準備を行っていたところ、上記(ア)の会計処理方式では、受講料収入の多くは、受講生がレッスンを受講しない限り売上に算入されず、当初資金を投入した費用の赤字を後々まで引きずることになり、a社の事業の実態とかけ離れているとして、本件会計処理方式(受講料の45%をシステム登録料、55%をシステム利用料として、入学金とシステム登録料とを契約時に売上計上し、システム利用料を契約期間を通じて均等に売上計上する方式。システム利用料のうち、当期中に経過した契約期間に対応する部分が当期の売上として計上され、残存契約期間に対応する部分は貸借対照表の負債の部に繰延駅前留学サービス収入として計上される。)を考案し、平成7年3月期から、これを採用した。なお、システム登録料とシステム利用料の割合は、レッスンを行うために毎月かかる費用(教室の賃料・講師や職員の給料等)を集計し、収入全体に占める割合を算出したところ約55%となったので、これをシステム利用料とし、残る45%をシステム登録料とした旨説明されている(乙ア66)。

 a社は、当時、被控訴人Y11監査法人及び監査法人三優会計社と会計監査契約を締結していたが、両監査法人は、平成7年3月期の監査概要報告書において、前記会計方針の変更について、より適正な期間損益を算出するためのものであり、監査上妥当な処置と認めるとする意見(ただし、①税務当局の了解、②会計処理の変更による影響額の把握、③契約書等へのシステム登録料の比率の記載の3点につき、早急な対処が必要であるとした。)を提出した(甲A146)。

 a社は、平成7年3月期以降の計算書類において、会計指針として、収益の計上基準につき、本件会計処理方式を採用していることを注記しており、また、受講契約締結の際に受講生に交付するレッスンの手引きにおいて、「レッスン料にはシステム登録料が含まれています。システム登録料とは、インストラクターの手配、生徒一人一人の受入環境の維持、レッスンやクオリティー・コントロール等々、一回一回のレッスンの実施以外にかかる費用のことです。システム登録料はレッスン料の内の45%です」と記載している(甲A32)。なお、a社は、特定商取引法の改正前には、中途解約の場合の清算金算定の際に、消化ポイントの清算とは別途、システム登録料分についてのみ経過月数による期間清算をするものとして、システム登録料とシステム利用料とを区別する扱いをしていた時期があったが、改正特定商取引法施行後は、システム登録料とシステム利用料とを区別することなく、ポイント単価全額を「提供された役務の対価」として計算した清算金を返金する扱いに改めている(甲A147)。

   イ 売上返戻金に関する引当金の計上について

 (ア) a社が、受講契約の解約清算金として支払った金額は、平成12年3月期には20億6600万円(百万円未満切捨。以下同じ。収入金額に占める割合は4.5%)、平成13年3月期には29億6400万円(同6.4%)、平成14年3月期には29億5900万円(同6.2%)、平成15年3月期には28億4500万円(同5.3%)、平成16年3月期には40億9400万円(同7.3%)とおおむね増加傾向にあり、平成17年3月期には53億5000万円(同9.7%)に及んだが、a社は、平成17年3月期以前の決算において、解約清算金を支払時期の属する期の損金として処理しており、売上返戻金に関する引当金を計上することはなかった。

 会計監査人である被控訴人Y11監査法人は、①平成14年3月期の監査概要報告書(甲A25)において、「収入金額に対する返金額の割合は近年増加傾向にあり、相当程度の重要性が認められる比率となってきた。」と、②平成15年9月中間期の監査概要報告書(甲A26)において、「収入金額に対する返金額の割合は近年増加傾向にあり、相当程度の重要性が認められる比率となっている。」と、③平成16年9月中間期の監査概要報告書(甲A27)において、「収入金額に対する返金額の割合は平成12年度以降連続に5%を超過しており、近年増加傾向にあり、相当程度の重要性が認められる比率となっている。」と、④平成17年3月期の監査概要報告書(甲A28)において、「収入金額に対する返金額の割合は3年連続5%超過しており、相当程度の重要性が認められる比率となっている。」と、⑤平成17年9月中間期の監査概要報告書(甲A29)において、「収入金額に対する解約額は近年増加傾向にあり、相当程度の重要性が認められる比率となっている。」と、それぞれ指摘した上で、「解約返金による損失の発生は、本来、対応する収入金が収益計上された期間に負担させるべき性質のものである。解約に関する詳細なデータの整備を行い、会計慣行として定着している「返品調整引当金」に相当する合理的な会計手当を検討する必要がある。」と指摘していた。

 (イ) a社は、平成18年3月期において、売上返戻引当金11億8300万円を計上した。前記引当金額は、繰延駅前留学サービス収入残高に、売上認識済収入金算出係数(45%/55%)を乗じ、平均解約率4.6%(期首時点における過去5年の平均解約率)を乗じて算出したものである。

 被控訴人Y11監査法人は、平成18年3月期の監査概要報告書(甲A30)において、「会社は当期より、解約による返金に関する会計方針を解約時に処理する方法から、将来の返金見込額に基づいて引当金を計上する方法に変更している。この変更は解約件数の増加に伴い、解約による返金額の金額的重要性が増加してきたこと、また、解約率算定のためのデータ整備体制が整い、返金見込額を合理的に見積もることが可能となったことから、返金見込額に基づいて引当金を計上することにより、期間損益の適正化を図ることを目的として行うものであり、監査上当該会計方針の変更を相当と認めた。」、「なお、解約率は期首時点における過去の5年平均値を採用している。最近年度において解約率が上昇傾向にあるため、今後継続して平均解約率の動向について留意する必要がある。」と記載した。

 被控訴人Y11監査法人に所属する公認会計士である証人F(以下「証人F」という。)は、前記監査概要報告書に記載した解約率算定のためのデータ整備体制とは、具体的には年間の返金データからクーリングオフによる返金を除いたデータのことであり、繰延駅前留学サービス収入残高を基にして、将来の返金額を合理的に見積もるためには、クーリングオフによる解約金を除いた返金解約率を算定する必要があり、そのためのデータ管理体制を構築し、整備する必要があったものであると説明している(乙ク1、証人F)。

 (ウ) a社は、平成18年9月期の中間決算において、売上返戻引当金12億4500万円を計上した。前記引当金額は、繰延駅前留学サービス収入残高に、売上認識済収入金算出係数(45%/55%)を乗じ、平均解約率5.5%(期首時点における過去5年の平均解約率)を乗じて算出したものである。

 (エ) a社は、平成19年3月期において、売上返戻引当金18億8000万円を計上した。同期のa社の有価証券報告書(乙ア10)には、本件最高裁判決を受けて、平成19年5月10日までに問い合わせのあった生徒に対する要返金金額を見積もった上で売上返戻引当金を計上した旨の注記が存する。この点に関して、被控訴人Y12監査法人に所属する公認会計士である証人Gは、同期の売上返戻引当金の算定にあたり、①本件最高裁判決を受けて、契約時単価で算定する方式に変更したことにより平均でどのくらい返金額が増えるのか試算したところ、従来の方式に比較して解約返金額が約11.4%上昇することが判明したことから、売上返戻引当金額を1.114倍した、②本件最高裁判決以前に解約手続を済ませている生徒についても申出があった生徒には、遡って修正して返金する方針が固まっていたので、本件最高裁判決後同年5月10日までに問い合わせのあった774件について、上乗せして返金すべき額を試算したところ、既に返金した金額に平均で32.1%上乗せして返金する必要があることが判明したので、1件当たりの平均返金額22万1000円に32.1%を乗じ、それを774倍した5492万9000円を引当金額に上乗せした、③現在訴訟中の事案についても返金の可能性が高いと判断し、657万円を上乗せした、と説明している(乙ケ8)。

  (6) 受講契約に関するトラブル、行政指導等

   ア 東京都消費者被害者救済委員会による斡旋事案

 特定商取引法による法規制の適用前である平成8年頃、a社の受講生らが、a社に解約を申し出たところ、a社が解約に応じないか、あるいは高額な解約料を請求したとして紛争となり、東京都消費者被害救済委員会が斡旋案を提示し、これを双方が受諾して解決した事案が報告されている(甲A182)。

 前記委員会は、斡旋案の提示にあたり、a社の受講生らとa社の双方から事情を聴取したところ、①自由な時間に予約できることを条件にして受講契約が締結されていたにもかかわらず、予約を取ることが極めて困難であったという事実がかなり広範囲に認められた、②契約締結前の勧誘行動において、事実に反するセールストーク(特別契約期間を過ぎると料金が高くなる、自由に予約ができるなど)が行われたり、契約締結を誘因するための言動に行き過ぎがあると認められる場合があった、と報告している。

   イ 平成14年2月の東京都による事業者調査等

 東京都消費生活部は、平成14年2月19日、a社に東京都消費者生活条例違反(不当勧誘行為、不当な取引内容を定める行為、不当な終了拒否行為)、特定商取引法違反(不実告知、迷惑な解除妨害、重要事項不告知、概要書面不備、契約書面不備、無効な違約金の定め)の不適正取引行為の疑いがあるとして、a社に対する事業者調査を実施し、営業活動に関する改善指導を行った。なお、同改善指導に対しては、被控訴人Y3がa社の担当取締役として対応した(甲A41)。

 東京都消費生活部の前記調査・指導は、a社に関する相談件数が平成11年度に111件、平成12年度に125件、平成13年度(平成14年1月18日現在)に84件存したこと、苦情の概要として、①勧誘時に「厚生労働省の給付金がおりる」と説明して勧誘したが実際には給付金の対象に該当しない、クーリングオフの申し出に対し来校を求める等の不適正行為があること、②概要書面・契約書面における中途解約の定めが特定商取引法49条の規定に反した不当なものとなっていること(ポイントの使用の有無にかかわらず、解約料を経過週数で計算するためほとんど受講してなくても高額な解約料となったり、解約時の単価が契約時と違って高額であったり、VOICEのチケットが解約できないとされたりした。)を前提とするものであった。

 a社は、上記指導を受け、業務改善計画書の提出及び今後の法令遵守を約束し、同年3月5日に業務改善計画書(甲A42。ただし、改善計画の具体的内容を明らかにする証拠資料はない。)を提出した。

   ウ 消費者団体からの申し入れ

 (ア) 特定非営利活動法人京都消費者契約ネットワークは、平成16年12月15日、a社に対し、本件解約清算規定について、契約時単価を乗じて算出した額とすること等を求める申し入れを行った(甲A45)。

 (イ) 特定非営利活動法人消費者機構日本は、平成17年9月28日、a社に対し、本件解約清算規定について、実際に役務提供を受けたレッスンポイント数、VOICEチケット枚数に契約時単価を乗じて算出した額とするよう改めること等を求める申し入れを行った(甲A49)。同法人は、同年11月15日、東京都に対し、a社から改正改善する考えはないとの回答があり、特定商取引法の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあるので、適当な措置をとるよう、申し出た(甲A250)。

   エ 本件立入検査及び本件業務停止処分

 経産省及び東京都は、平成19年2月14日、a社に対し、特定商取引法違反等の疑いにより、本件立入検査を実施した(前記前提事実(5))。そして、経産省は、同年6月13日、a社に対し、本件業務停止処分を行った(前記前提事実(7))。

 経産省は、本件業務停止処分を行うに当たり、a社の特定商取引法違反行為として、次の(ア)~(キ)の行為を認定し、a社は、各教室において本社が作成したマニュアルや本社からの業務通達・指導に基づき消費者との契約等の業務を行っていたものであり、これらの違反行為は全社的に行っていたものと認められるとした。なお、上記認定にあたり、斟酌された具体事例として示された事案をみると、各受講生らが中途解約を申し出るに至った事情として、a社の提供する授業の内容に関して、グループレッスンでは毎回常に初心者にあわせた同じような内容のレッスンが繰り返されたことを理由とする例、契約の際に希望した日本語のわかる講師があまりおらず、予約自体がなかなか取れないことを理由とする例、アメリカ英語を学びたいと契約したが、講師の出身地がばらばらで発音や教え方も違っており、予約の度に講師が違っていたことを理由とする例等があり、a社が提供した授業内容に関する不満が少なからず存したことが認められる。

 (ア) 重要事項の不告知(特定商取引法44条2項)

 多くの教室において時間帯によってはレッスンの予約がとりにくい状況があり、同社としてその状況を把握していたにもかかわらず、勧誘時にその事実を消費者に告げていなかった。

 (イ) 不実告知(同法44条1項)

  a 実際には、時間帯等によってはレッスンの予約がとりにくい状況であったにもかかわらず、勧誘の際、「レッスンの予約は好きなときに入れればいい」等と不実のことを告げていた。

  b 契約内容を決めず住所・氏名等のみ登録した日から8日以上経過すると、実際の契約締結後に契約書面を交付された日から8日を経過していなくても、「もうクーリング・オフできません」と告げていた。この点について、経産省が許可した事実がないにもかかわらず、「この考え方で経産省の許可を得ている。」等と告げていた。

  c 入学金が無料になるとして契約したにもかかわらず、消費者が契約解除を申し出ると「入学金の分は授業料から差し引いており、契約書には入学金が記載されているので、解約時に入学金の一部を初期費用としていただいております。」と説明していた。

 (ウ) 誇大広告(同法43条)

 年間を通じて恒常的に入学金全額免除を実施していたにもかかわらず、期間中に入学すれば入学金を全額免除する旨のキャンペーンを行い、実際のものより著しく有利であると消費者に誤認させるような表示を行っていた。

 (エ) 書面記載不備(同法42条1項、2項)

 概要書面及び契約書面において、関連商品についてクーリング・オフできる旨の記載や中途解約事項についての記載などに不備があったほか、役務提供期間について、役務提供開始日を契約の確定していない生徒登録日とする旨の記載があった。

 (オ) 契約の解除によって生ずる債務の一部の履行拒否又は不当遅延(同法46条1項)

  a 入学金は無料であると言われて契約した消費者が中途解約した場合、清算金額に入学金を含めて計算し、本来中途解約によって消費者に返還すべき入学金相当額の一部の返還を拒否した。

  b a社では、ポイントの一定割合を一定の期間ごとに失効させる制度としていたが、その際、予約が取れないなどの同社側の責めに帰すべき事由による中途解約に至った場合についても当該ポイントを失効したものとして清算し、消費者に返還すべき金銭を返還していなかった。なお、a社は、消費者が契約を解除する時にのみ同制度を適用していた。

 また、予約が取れないなどの同社側の責めに帰すべき事由により中途解約に至った場合について、契約時単価よりも高い単価を用いて清算する合理的理由がないにもかかわらず、契約時単価を用いて計算していれば消費者に返還すべき金銭を返還していなかった。

  c a社への支払にクレジットを利用した消費者が中途解約した場合、同社と信販会社との加盟店契約に基づき、いわゆるキャンセル処理方式で清算が行われる場合において、本来a社が負担すべき費用までも消費者に請求しており、消費者に返還すべき金銭を返還していなかった。

 (カ) 関連商品販売契約の解除によって生ずる債務の履行拒否(同法46条3号、同法施行規則39条6号)

  a 契約時に、a社からレッスンを受けるに際して購入する必要があると告げられて消費者が購入したテレビ電話装置について、中途解約時には、必ずしも購入する必要はなく関連商品には該当しないとして解除に応じていなかった。

  b 消費者が購入した教材について消費者がその中途解約を申し出た場合に、消費者がその教材のパッケージの一部を開封していたのみの場合や未使用の状態で返品が可能である場合にも、a社は返金に応じていなかった。

 (キ) こども英会話「○○スクール」は月謝制ながら、契約時に入学金・月謝3か月分等の合計5万円超を請求していたため、特定商取引法上の特定継続的役務提供取引に該当していたにもかかわらず、a社は、同法の適用外であるとして、クーリングオフに応じなかったほか、法定書面も交付していなかった。

   オ a社に対する苦情件数

 全国消費生活情報ネットワーク・システムに入力されたa社に関する相談件数は、平成9年度から平成13年度までは年間600件未満であったが、平成14年度は832件、平成15年度は862件、平成16年度は951件、平成17年度は1060件、平成18年度は1949件、平成19年度は同年9月28日現在で3019件であった(甲A40)。

  (7) a社の事業状況の推移等

   ア 株式の店頭登録(平成8年11月)以前

 a社は、昭和56年にその前身会社が教室1号店を開設した後、事業規模を拡大していき、平成5年には拠店数を100拠店とし、同年頃から株式上場に向けた準備作業を行い、平成8年3月には拠店数を200拠店とし、同年11月に株式を日本証券業協会に店頭登録した。

 この頃のa社の財務状況は、平成4年3月期においては、売上高73億1700万円、営業損失5億0500万円、当期損失8億7800万円であり、その前期(平成3年3月期)の繰越損失4億5500万円とあわせ、当期未処理損失が13億3300万円であったが、平成5年3月期は、売上高127億5500万円、営業利益14億3900万円、当期利益9億5000万円となって当期未処理損失は3億8200万円に減少し、さらに、平成6年3月期は、売上高176億0900万円、営業利益12億9100万円、当期未処分利益4600万円となった。本件会計処理方式を採用した平成7年3月期は、売上高209億8800万円、営業利益10億7700万円、当期未処分利益2億4500万円であった。

   イ 平成11年3月期まで

 a社は、株式の店頭登録後も拠店数を増加させ、平成11年3月期には拠店数が300店に達し、売上高は378億2000万円と増加し、営業利益は11億1300万円、当期利益は2億2200万円であった。

   ウ 平成12年3月期

 平成12年3月期には、a社の拠店数は400店に達し、売上高は456億0100万円に増加し、経常利益は8億7700万円であった。

 平成12年3月期の連結キャッシュフロー(以下、キャッシュフローに関する数字はすべて連結会計による。)は、営業活動によるキャッシュフローは60億9100万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローは19億8300万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローは44億1400万円のプラス、現金及び現金同等物の期末残高は182億9300万円であった。

   エ 平成13年3月期

 平成13年3月期には、売上高は519億2300万円で、3年連続の2桁成長となり、営業利益6億0100万円、経常利益6億3700万円を計上したが、当期純損益は2億9500万円の損失となった。駅前留学の拠店数は468店となり、生徒数は約29万3000人となった。

 平成13年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが29億2400万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローが40億7600万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが4億1700万円のプラスであり、現金及び現金同等物の期末残高は176億1800万円であった。

   オ 平成14年3月期

 平成14年3月期には、売上高は561億3700万円となり、営業利益は9000万円、経常利益は4億1300万円を計上したが、当期純損益は2億6600万円の損失となった。駅前留学の拠店数は516拠店となり、生徒数は約32万人となった。

 平成14年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが42億6000万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローが31億9700万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが21億3300万円のマイナスであり、現金及び現金同等物の期末残高は166億5000万円であった。

   カ 平成15年3月期

 平成15年3月期には、売上高は615億3400万円で、営業利益は10億1300万円、経常利益は10億2000万円と大幅な増益となり、当期純利益は1億0900万円となった。駅前留学の拠店数は561拠店となり、生徒数は約38万7000人となった。

 平成15年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが37億9100万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローが37億7200万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが13億9200万円のマイナスであり、現金及び現金同等物の期末残高は152億7800万円であった。

   キ 平成16年3月期

 平成16年3月期には、売上高は666億1700万円、営業利益は17億0300万円、経常利益は14億5100万円となり、当期純利益は4億6400万円となった。駅前留学の拠店数は618拠店、生徒数は約43万4000人となった。

 平成16年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが26億0300万円のプラス、投資活動によるキャッシュフローが21億1300万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが10億7600万円のプラスであり、現金及び現金同等物の期末残高は166億8200万円であった。

   ク 平成17年3月期

 平成17年3月期には、売上高は701億3900万円、営業利益は5億9000万円、経常利益は8億7300万円、当期純利益は2億5100万円となった。駅前留学の拠店数は新たに208拠店を開設し、829拠店となり、生徒数は約47万4000人となった。

 平成17年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが10億3300万円のマイナス、投資活動によるキャッシュフローが30億0600万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが24億1200万円のプラスであり、現金及び現金同等物の期末残高は151億8600万円であった。

   ケ 平成18年3月期

 (ア) a社は、平成16年10月に出店計画を大幅に見直し、年間400の新店開発を行うという意思決定をして、その後、積極的に新規出店を行い、平成18年3月末までに駅前留学の拠店数を994校にまで増加させたが、平成17年1月以降、拠店数の増加と逆行する形で売上が前年同月比で減少する状況が続き、平成18年3月期には、売上高は669億6900万円と減少に転じ、営業損益は19億5400万円の損失を、当期純損益は30億9200万円の損失を計上した。生徒数も約47万5000人と微増(前記比+0.2%)にとどまった。この時期、業界全体としては、平成15年以後の売上減少傾向が下げ止まりを見せる中、a社のみがこれに逆行する形で前年割れとなった。

 a社は、売上減少の原因について分析を行った結果、業績のマイナス要素は、外部の環境変化によるものではなく、短期間に拠店数が急増したというa社固有のもの(①短期間に三百数十人の新任拠店マネージャーを輩出したため、全社的にマネージメント力が希薄化し、営業力が低下した、②地区マネージャーの管轄する拠店数が増加し、今までとは違うマネージメントのスキルが必要となった、③自社拠店間の競合が発生した、④販売管理費の削減が遅れ、利益計画の対応が遅れた)であると判断した。

 同期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが41億4900万円のマイナス、投資活動によるキャッシュフローが31億3300万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが63億4700万円のプラス、現金及び現金同等物の期末残高が143億7300万円であり、営業活動によるキャッシュフローは2期連続のマイナスとなった。

 a社は、営業活動によるキャッシュフローが2期連続のマイナスを計上したことから、「2006年度年間計画」(乙ケ9)を策定し、会計監査人である被控訴人Y11監査法人に対し、同計画が合理的かつ達成可能性があり、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事情は存しないとの判断を示した。

 (イ) 被控訴人Y11監査法人は、同期の監査概要報告書(甲A30)において、監査手続を実施した結果、当期末時点では、前記「2006年度年間計画」が合理的かつ達成可能性があり、当期末において継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事情は存在しないとするa社の経営者の評価について、重要な問題はないと判断したが、平成18年9月中間期において、前記の経営計画が未達の場合には、継続企業の前提に基づいて財務諸表を作成することが適切であるという経営者の判断及び継続企業の前提に関する所要の注記について、再度検討が必要となることに十分留意する必要がある、と報告した。

   コ 平成18年9月中間期

 (ア) 被控訴人Y11監査法人は、平成18年9月19日付けで「平成18年9月中間期検討事項について」と題する書面(甲A131)を作成し、同中間期におけるa社の業績が前記「2006年度年間計画」を大幅に下回ることが予想され、監査上達成可能な合理的計画とは判断できず、種々の監査上の判断に影響を及ぼす可能性があるとして、経営者の現状認識を確認し、被控訴人Y11監査法人の現状での監査方針を伝えることを目的として、被控訴人Y1らと打ち合わせを行った。

 前記「平成18年9月中間期検討事項について」と題する書面には、検討項目として、①固定資産減損会計の適用、②繰延税金資産の回収可能性、③棚卸資産の資産性及び評価、④関係会社投資の回収可能性、⑤継続企業の前提に関する注記、⑥収益認識基準があげられており、うち、⑤継続企業の前提に関する注記とする項目に関して、a社の平成18年9月中間期における状況は、(a)当中間期において債務超過となること、(b)新たな資金調達が困難な状況であり、今後1年内に資金不足となる可能性があること、(c)当中間期において「経営計画」が達成できず、かつ通期を通じて営業赤字となる見込みであること、のいずれかに該当する可能性があり、そのいずれか1つの項目に該当する場合には、継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象が存在し、その解消に重要な不確実性が残ると認識されるため、継続企業の前提が適切であるかどうかについて経営者は評価を行い、中間財務諸表において、ⅰ当該事象又はその状況が存在する旨及びその内容、ⅱ継続企業の前提に関する重要な疑義が存在する旨、ⅲ当該事象又は状況を解消又は大幅に改善するための経営者の対応及び経営計画の内容、ⅳ財務諸表は継続企業を前提として作成されており、当該重要な疑義の影響を財務諸表に反映していない旨の注記を記載する必要がある、と記載されている。

 (イ) 被控訴人Y11監査法人は、a社との合意に基づき、同年11月2日付けで会計監査人を辞任し、被控訴人Y12監査法人が一時会計監査人に就任した。

 a社は、会計監査人が変更した事情について、a社と被控訴人Y11監査法人との協議の結果、a社の経営基盤の再構築の推進に伴い、これまで以上の業務量及び迅速性が求められる監査対応は困難であるとの結論から監査契約の解除について合意に至り、より迅速かつ機動的な監査対応が可能である被控訴人Y12監査法人を一時会計監査人として選任することを監査役会において決議した旨説明している(甲A15)。

 (ウ) a社は、同年11月17日付けで、「2006年度年間計画」(乙ケ9)についてその下期を修正した計画(乙ケ10)を策定した。

 被控訴人Y12監査法人は、第17期監査概要報告書(中間)(甲A31)の「継続企業の前提について」の項目において、監査手続を実施した結果、a社は、3期連続のキャッシュフローのマイナスを計上しているものの、当中間末時点では、当該事象が存在するのみで継続企業の前提について重要な疑義を抱かせる事象は存在しないとする経営者の評価について、重要な問題はないと判断したが、平成19年3月期末において、前記の経営計画が未達の場合には、継続企業の前提に重要な不確実性が残ると認識することにより、継続企業の前提に基づいて財務諸表を作成することが適切であるという経営者の判断及び継続企業の前提に関する所要の注記について、再度検討が必要になることに十分留意する必要がある旨記載した。

   サ 平成19年3月期

 a社は、それまでの「売上成長」という経営の基本方針を転換し、総拠店数を前期末の994拠店から925拠店に圧縮し、マネージメントの再構築とコスト構造の見直し等に取り組んだが、平成19年2月の本件立入検査の報道の影響により、2~3月の新規入学者数が計画より大幅に落ち込み、同年3月期の売上高は前期比16.6%減の558億5500万円となり、営業損益は21億6400万円の損失、経常損益は12億6700万円の損失、当期純損益は28億9000万円の損失となった。

 平成19年3月期のキャッシュフローは、営業活動によるキャッシュフローが57億6400万円のマイナス、投資活動によるキャッシュフローが5億4900万円のマイナス、財務活動によるキャッシュフローが43億9900万円のマイナスで、現金及び現金同等物の期末残高は40億9500万円であった。

 なお、平成18年4月から平成19年3月までの間の、a社の月毎の総収入金(中途解約による返金分を控除した金額。以下同じ。)は、ほぼ毎月、前年同月を下回るものであり、うち、新規収入金(中途解約による返金分を控除した金額。以下同じ。)は、毎月、前年同月を下回っていた。特に、平成19年2月の新規収入金は16億3700万円(前年同月44億5000万円)、同年3月の新規収入金は21億8600万円(前年同月44億5900万円)と前年同月の半額以下であった。

 a社は、2期連続で大幅な赤字を計上したことや、例年売上が集中する1月から3月の売上が減少したこと等により、新たな資金調達方法の検討を行うようになった。

   シ 各期における宣伝広告費の支出

 a社は、顧客動員力の向上、a社のサービスの認知度の向上及び販売促進等の手段として宣伝広告活動を重要視し、平成15年3月期の宣伝広告費は88億8300万円(対売上高比率は14.4%)、平成16年3月期の宣伝広告費は99億3000万円(同14.9%)、平成17年3月期の宣伝広告費は108億6800万円(同15.5%)、平成18年3月期の宣伝広告費は110億6700万円(同16.5%)であったが、平成19年3月期の宣伝広告費は70億1700万円(同12.6%)に圧縮された。

  (8) 本件立入検査・最高裁判決・業務停止処分とその影響

   ア 本件立入検査後の状況

 経産省と東京都は、平成19年2月14日、a社について、特定商取引法違反及び東京都消費生活条例違反の疑いがあるとして、本件立入検査を行ったが、これが大きく報道されると、外国語会話教室として国内トップ企業であり、また、広告宣伝活動により一般に広く知られる存在であったa社の企業イメージが大きく損われ、平成19年2月、3月のa社の新規収入金は、前記(7)サで認定のとおり、前年同月の半額以下となる等、収入が大きく下落する結果を招いた。

 a社は、上記立入検査後、内部調査委員会を発足させ、被控訴人Y1が同年5月7日付けで業務改善計画書(乙ア58)を作成する等したが、本件立入検査後の対応や立入検査後の減収等に伴う資金繰り等について、取締役会で議論されることはなかった。

   イ 本件最高裁判決後の状況

 平成19年4月3日、本件最高裁判決がa社の本件解約清算規定を無効としたことについても、大きく報道され、これをきっかけとして、受講生からの多数の解約清算金の支払請求を受け、また、a社の企業イメージの悪化に拍車をかけるものとなったことから、a社の収入は急落し、同年4月の総収入金は9億8200万円(前年同月38億6900万円)、同年5月の総収入金は13億7600万円(前年同月30億2100万円)となり、新規収入金は、同年4月が4億6000万円(前年同月27億5900万円)、同年5月が5億1600万円(前年同月19億1200万円)となった。

 a社は、本件最高裁判決を受けて、契約時単価により解約清算金を算定する旨の変更を行ったが、本件最高裁判決への対応についても、取締役会において議論されることはなかった。

   ウ 本件業務停止処分後の状況

 経産省が平成19年6月13日に行った本件業務停止処分は、1年を超えるコース及び授業時間数が70時間を超えるコースの新規契約に関する勧誘、申込受付及び契約締結の各業務について6か月間停止するよう命ずるものであり、1年以内のコースや授業時間70時間以内のコースは業務停止の対象とされなかったが、本件業務停止処分が公表された後、a社は、実質的には新規契約が全くできないばかりか、受講契約の解約申し出が殺到する状況となり、a社の総収入金は、同年6月が11億9900万円(前年同月26億6500万円)、同年7月がマイナス3億9000万円(前年同月27億8400万円)、同年8月が7億9800万円(前年同月40億円)、同年9月が2億7900万円(前年同月66億3700万円)であり、a社の新規収入金は、同年6月がマイナス2億7600万円、同年7月がマイナス9億1200万円、同年8月がマイナス2億0700万円、同年9月がマイナス1億9000万円であって、同年6月以降、解約払戻金が新規収入金を上回る状態となった。

 このため、a社の資金繰りは極端に逼迫し、a社は教室や社宅の家賃、従業員や外国人講師に対する給与等の固定費の支払や解約清算金の支払が困難となり、同年6月末には拠店賃借料の支払原資約8億円を調達できずに、その支払が滞り、受講者に対する解約清算金の支払も遅れ始めた。同年7月以降、従業員や外国人講師に対する給与の支払を遅滞するようになり、a社の事業自体は継続されていたが、同年9月ころからは社員や外国人講師に対する給与を全く支払えない状態となった。

   エ 取締役ら、監査役らの動き

 監査役である被控訴人Y6、同Y9、同Y10は、a社の経営が前記のとおり危機的状況に陥ったことから、被控訴人Y1に対して面会を申し入れたり、平成19年9月21日付け書面(甲A120)等により取締役会の開催を求めたが、いずれも実現せず、前記被控訴人ら3名は、監査役としての職務遂行は不可能であるとして、同年10月5日付けで監査役の辞任届(甲A121)を提出した。

 取締役である被控訴人Y3ら3名もまた、a社が経営破綻することを強く懸念し、取締役を辞任することやa社を存続させるために会社更生、民事再生等の法的手続をとること等を考えるようになり、また、被控訴人Y1に対し、度々取締役会の開催を求め、同年8月29日頃には、書面(乙ウ24)により取締役会の開催を求めたが、同年10月23日まで取締役会が開催されることはなかった。

 この間、被控訴人Y1は、a社の増資や業務提携等による資金調達手段を種々模索し、同年10月9日、外資系投資会社2社に対し、2億株の新株予約権を発行する(予約権の行使価格1株35円、a社の調達資金の手取概算額64億円)ことを決め、財務局への届出、報道発表等を行った。同月24日には、前記外資系投資会社2社から申込証拠金7000万円が振り込まれた(乙ア43の3)。

 なお、a社の株価は終値において、同月10日が1株38円であったが、同月15日に1株34円となり、以後1株35円以上となることはなく、同月25日は1株29円であった(甲A179)。

  (9) 会社更生手続開始申立てとその後の状況等

 被控訴人Y3ら3名は、平成19年10月25日、臨時取締役会を開催して、被控訴人Y1を代表取締役から解任し、被控訴人Y3ら3名を代表取締役に選任すること、大阪地方裁判所に対し、会社更生手続開始の申立てを行うことを決議した(乙ア4)。被控訴人Y3ら3名は、同月26日、大阪地方裁判所に対して、会社更生手続開始の申立てを行い、同日、保全管理人が選任された。

 大阪地方裁判所は、同年11月15日、会社更生手続開始の申立てを棄却する旨決定し、同月26日、a社について破産手続を開始する旨の決定をした。

 a社の破産管財人は、平成20年4月18日付け財産状況報告書(甲A5)を破産裁判所に提出し、a社の負債の状況は、公租公課が約25億円、労働債権が約60億円、一般債権が約764億円(うち受講生の債権は合計約564億円)であるのに対し、a社の財産状況は、その資産性の有無、相殺予定や現実の回収可能性、売却可能性等を考慮し、清算価格で評価し直すと、相殺及び担保権実行後の残資産合計は約30億円程度と見込まれ、一般債権への配当見込みは全くない旨報告した。

 2 被控訴人取締役らに対する主位的請求(不法行為責任)について

  (1) 財政破綻状態隠匿による受講契約締結の主張について

   ア 控訴人らの主張

 控訴人らは、a社は平成13年3月期あるいは遅くとも平成17年3月期までには財政破綻状態(近い将来経営が破綻して前受受講料に相当する授業が提供できない状態、又は、解約清算金を返還できない状態)であったにもかかわらず、被控訴人取締役らが、企業会計原則に反する会計処理(本件会計処理方式の採用、売上返戻引当金の不計上ないし過少計上)を行うことにより、これを隠匿して控訴人らに各受講契約を締結させた旨主張する。

 よって、控訴人らがa社との間で本件各受講契約を締結した平成14年6月から平成19年3月下旬の各時期において(なお、控訴人X22は、平成19年1月から3月下旬までの間に、レッスン/レギュラーコースやVOICEの受講契約を締結した後、同年8月10日に登録手数料として4万2000円を支払っているが、登録手数料の支払の時点で新たな受講契約の締結があったものとは解しがたい。)、a社が財政破綻状態にあったといえるかにつき下記イで、本件会計処理方式が企業会計原則に反した違法なものかにつき下記ウで、売上返戻引当金の不計上・過少計上が企業会計原則に反した違法なものかにつき下記エで、それぞれ検討する。

   イ 受講契約時におけるa社の財政状態

 (ア) a社の事業状況・財務状況の概況は、前記1(7)に認定のとおりであり、a社は、平成16年3月期まで毎期拠店数や売上高を増加させ、平成16年3月期の損益計算書において営業利益、経常利益を計上し、営業活動によるキャッシュフローもプラスであって、現金及び現金同等物の期末残高は約167億円であり、a社において債務の支払に懸念が生じた形跡はない(なお、控訴人らはa社が慢性的に資金不足の状態にあったと主張するが、当時a社が債務の支払に懸念が生ずる状態であったことを具体的に示す証拠資料はない。)。平成17年3月期には売上高は増加したものの、営業活動によるキャッシュフローがマイナスになり、平成18年3月期には、売上高が前年割れとなって、損益計算書において営業損失、経常損失、当期損失を計上する等、業績が悪化したが、同期の現金及び現金同等物の期末残高は約143億円であり、債務の支払に懸念が生じた形跡はない。

 平成19年3月期には、売上高はほぼ毎月前年割れとなり、作成した年間経営計画を下半期には修正を余儀なくされる等、業績はさらに悪化していたところ、本件立入検査が行われた同年2月以降、a社の収入(特に新規収入金)が大きく減少し、同年3月期の決算において、営業損益、経常損益、当期損益は2期連続で損失を計上し、平成19年3月期末の現金及び現金同等物の残高は約40億円にまで減少し、このため、a社は新たな資金調達方法の検討を迫られるようになった。もっとも、この時点では、支払の遅滞は生じておらず、直ちに債務の支払に懸念が生じるような状態となったとは認められない。しかし、その後、同年4月の本件最高裁判決、同年6月の本件業務停止処分により、a社の収入は激減して、資金繰りは極端に逼迫し、同年6月末には店舗賃借料の支払を、同年7月には従業員・外国人講師の給与の支払を、遅滞するようになり、同年9月以降は、従業員や講師に対する給与を全く支払えない状態となり、同年10月26日に会社更生手続開始の申立てに至ったことが認められる。

 以上の経緯に照らすと、受講契約に基づく債務履行の見込みが懸念されるほどにa社の財政状態が悪化したのは、本件業務停止処分によりa社の収入が激減した後であり、控訴人らがa社との間で各受講契約を締結した平成14年6月から平成19年3月下旬までの各時期において、a社が、受講契約に基づく債務を履行する見込みがないままに受講契約を締結したと評価されるような財政破綻状態にあったということはできない。

 (イ) この点、控訴人らは、企業会計原則に適合した会計処理を行うとa社は平成11年3月期から平成13年3月期まで3期連続の債務超過であったものであり、これが公表されると、中途解約の申し出が殺到したり、店頭登録が取り消される等して、a社は平成13年6月には倒産していたといえる等と主張する。

 前記主張は、a社の前払受講料の会計処理に関する取り扱い(本件会計処理方式)及び引当金計上に関する取り扱いが企業会計原則に違反する違法な会計処理であることを前提とするものであるから、これらの点については、後記ウ及びエにおいて判断する。

 (ウ) なお、控訴人らは、①被控訴人Y11監査法人が中途解約に基づく負債性引当金の引当金計上を勧告した時期(平成14年3月)、②a社の取締役会議事録に資金繰り計画に関する資料が添付されなくなった時期(平成16年1月)、③a社の営業活動に基づくキャッシュフローがマイナスになった時期(平成17年3月)において、a社が財政破綻状態にあった旨主張するが、前記各事象は、いずれも、a社が近い将来経営が破綻して、受講契約に基づく債務の履行ができない財政破綻状態にあることを裏付けるものとはいえない。

   ウ 本件会計処理方式の違法性

 (ア) 収益認識に関する企業会計原則

 会社法431条(旧商法32条2項)は、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」と定めているところ、企業会計原則は、企業会計の実務の中で慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められるものを要約したものであり、上記「公正な会計慣行」に該当するものといえる。

 そして、企業会計原則は、第二損益計算書原則3Bにおいて、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」と定めて、収益の認識は実現主義によるものとし、同1Aにおいて、「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。前払費用及び前受収益は、これを当期の損益計算から除去し、未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に計上しなければならない。」と定め、注解注5(2)において、「前受収益は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を行う場合、いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の収益となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の負債の部に計上しなければならない。」と定めているのであるから、a社の前受受講料に関する収益認識についても、企業会計原則の定める実現主義に沿うものであることが求められる。

 もっとも、上記企業会計原則は、基本原則として実現主義に基づく収益認識の考え方を示すものであるが、多様化・複雑化した取引形態において、何をもって実現と考えるかは容易に判断し難い場合もあり、個別の会計基準等が別途設定されている場合以外の一般的な取引においては、実現主義の原則を斟酌し、取引の実態に応じて同原則の適用を行うべきものであり(甲A172)、取引によっては、実現主義に適合する会計処理方式が複数考えられ、必ずしも一義的でない場合もあり得る。

 (イ) 本件会計処理方式について

  a 企業会計原則は、前記のとおり、役務の提供に係る収益の認識基準を、役務の給付によって実現したものに限るとするものであるところ、契約に基づく役務の提供が完了したといえるかについては、基本的には当該契約の内容等を勘案して判断すべきものである。

 この点、a社の受講契約においては、契約締結の際に受講生に交付するレッスンの手引きに、レッスン料にはうち45%のシステム登録料が含まれていること、システム登録料とは、インストラクターの手配、生徒一人一人の受入環境の維持、レッスンやクオリティー・コントロール等々、一回一回のレッスンの実施以外にかかる費用であることが記載されている。一般に、教育関係事業における実務慣行として、受講契約時に授業環境の整備のための一時金(設備費収入、校納金収入等)の収受が行われる例があり、これらの一時金については契約と同時に役務の提供があったものとされているところ、a社において、自由予約制を採用し、受講生の希望の時間にレッスンを受けることができるようにする等受講生の受入環境を維持するためには、一定の設備投資、環境整備をあらかじめ行う必要があり、a社の受講生は、受講契約を締結した時点でかかる設備を用いた便益を受ける地位を取得すると解し得るから、その対価として、システム登録料を支払うものとする料金設定の基本的枠組みは、直ちに不当と評価されるものとはいえない。また、a社は、本件会計処理方式を採用するにあたり、レッスンを行うために毎月かかる費用を集計し、これが総収入に占める割合が約55%となったので、システム利用料を55%、システム登録料を45%と設定した旨説明しており、会計監査人である被控訴人Y11監査法人と同Y12監査法人は、それぞれ、各期の会計監査にあたって、受講料の55%の金額をもって、生徒に継続してサービスを提供することができるかを検証し、確認していた旨説明しており、これらの説明内容に格別不合理なところは見当たらないことに照らすと、上記のシステム登録料とシステム利用料の設定割合についても直ちに不当との評価を受けるものではない。

 そうしてみると、a社が、受講料の45%をシステム登録料として設定して、これを契約締結により受講生がa社のシステムによる便益を受けられることの対価とし、受講料の55%をシステム利用料として設定して、これを各レッスン実施の対価とする料金設定とし、こうした料金設定であることを前提として、システム登録料に相当する役務の提供については、受講契約締結時に完了しているものとして、売上金に計上する本件会計処理方式を採用したことは、企業会計原則の定める実現主義の原則に反する違法なものとは評価し難い。

 もっとも、a社は、本件会計処理方式を採用した平成7年3月期において、中途解約に原則として応じていなかったが、その後、中途解約に応じて未受講の受講料相当額を受講生に払い戻す扱いに改め、平成11年に特定商取引法が改正された後は、システム登録料とシステム利用料を区別することなく、未消化ポイントの対価を返金する扱いとしている。このことは、本件会計処理において、システム登録料を受講契約時に収益が実現したものとしていることと矛盾するのではないかとも考えられる。しかし、企業会計において、一括前払いで受領した受講料をどの時点で収益として認識して計上するかという問題と、受講契約が中途解約された場合に受領済みの受講料についてどのように清算を行うかという問題とは、時点及び場面を異にするものであり、一方における処理方法が他方における処理方法を論理必然的に決定する性質のものではない。中途解約の場合の清算については、特定商取引法の規制を受けるところ、a社は、システム登録料とシステム利用料との区別を契約書面において明示しているものの、両者を一括して受講料(レッスン料)として徴収し、しかも、ポイント制をとり、1レッスン当たりの単価にポイント数を乗じた料金体系をとっているのであるから、特定商取引法の適用の上では、システム登録料も含めた受講料について、ポイント単価に使用済みのポイント数を乗じて清算を行わざるを得ないと解される。また、中途解約の場合の清算方法は、特定商取引法の規制に反しない範囲で契約により自由に決められるところであり、「提供された役務の対価」に相当する部分を清算の対象とすることも可能である。したがって、a社において中途解約の場合に前記のような清算方法が取られているからといって、本件会計方式が企業会計原則に違反するとはいえない。

  b 控訴人らは、全額一括で前払いされる授業料については、個々の授業毎に売上計上する方法が企業会計原則の常識的な解釈であり、全カリキュラムの実施が授業料に対する役務の内容であるときは、役務提供完了時に一括して売上計上し、カリキュラムの実施が契約期間を通じて平均的である場合などは期間按分も許されるとされているものであって、受講料の45%を契約締結と同時に売上計上する本件会計処理方式が企業会計原則に反することは明らかである旨主張する。そして、収益認識に関する文献(甲A172)には、授業が集団指導形式で、定められたカリキュラム通り行われ、授業料が全額一括で前払いされる学習塾の収益認識に関して、控訴人らの前記主張に沿う記載がある。しかし、前記文献は、学習塾が提供する役務の内容により、相当する収益認識の時期が、全カリキュラム完了時に一括計上する方式、授業数で按分する方式、期間で按分する方式等異なり得ることを示すものであって、レッスンポイントを全額前払いとし、自由予約制により授業が提供されるa社の方式は、前記のいずれの方式とも異なるものであるから、前記記載をもって、本件会計処理方式が企業会計原則に違反するとはいえない。

   エ 売上返戻引当金の不計上・過少計上

 (ア) 引当金計上に関する企業会計原則

 企業会計原則注解・注18は、将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰り入れるものとしているところ、引当金の計上について、発生の可能性が高いことや、金額を合理的に見積もることができることを要件としているのは、この要件を欠くと、経営者が恣意的な見積計算によって当期の利益を操作することを可能にし、適正な期間損益計算を歪めることになるからであると説明されている。

 (イ) 平成17年3月期以前の売上返戻引当金の不計上について

 控訴人らは、被控訴人Y11監査法人から、平成14年3月期以降、売上返戻引当金の計上を指摘・勧告されていながら、a社が売上返戻引当金を計上しなかったのは、企業会計原則に反する旨主張する。

 前記認定のとおり、a社は、本件会計処理方式を採用して受講料の45%をシステム登録料として契約締結と同時に直ちに売上計上し、システム利用料55%については契約期間を通じて均等に売上計上しているところ、a社は平成9年4月頃から中途解約に応じて解約清算金を支払うものとし、その金額が収入金額に占める割合は、平成12年3月期には4.5%、平成17年3月期には9.7%に及ぶものであった。そして、被控訴人Y11監査法人は、平成14年3月期以降、収入金額に対する返金額の割合が増加傾向にあり、相当程度の重要性が認められる比率になっていることを指摘し、解約返金による損失の発生は、本来、対応する収入金が収益計上された期間に負担させるべき性質のものであるとして、解約に関する詳細なデータの整備を行い、合理的な会計手当を検討する必要がある旨繰り返し指摘していた。以上の点からすれば、a社において、被控訴人Y11監査法人の指摘に従い、必要なデータの整備を行って、より早期に引当金の額を合理的に見積もり、これを計上することが相当であったとも考えられる。

 しかしながら、被控訴人Y11監査法人の監査概要報告書における引当金計上に関する上記指摘は、解約清算金について、支払った期の損金として処理するよりも、売上返戻引当金を計上する方が期間損益をより正確に示すために会計処理上望ましいとするものであって、引当金計上によらないそれまでの会計処理方法が企業会計原則に反すると指摘する趣旨とは認められないから、a社が平成17年3月期以前に引当金を計上しなかったことを違法とまで評価することはできない。

 (ウ) 平成18年3月期以降の売上返戻引当金の計上金額について

 控訴人らは、a社が平成18年3月期以降に計上した引当金額について、計上額が過少である旨主張する。

 前記認定のとおり、a社は、平成18年3月期以降、売上返戻引当金を計上しているが、その額を算出するにあたり、基本的に、繰延駅前留学サービス収入残高に、売上認識済収入金算出係数(45%/55%)を乗じ、期首時点における過去5年の平均解約率を乗ずる方法によっているものであるところ、上記算出方法が格別不合理なものとは認められない。

 この点、控訴人らは、a社が過去5年の平均解約率を乗じて算出していることについて、現実の解約率や、平成17年以降、解約清算金の清算方法に関する多数の訴訟において敗訴が続いていること、解約率が急上昇していることが考慮されておらず、不適切である旨主張する。

 控訴人らの主張するように、a社が解約清算金として支払った金額は、平成12年3月期から平成16年3月期まで、収入金額に占める割合で4.5%、6.4%、6.2%、5.3%、7.3%とおおむね増加傾向にあり、平成17年3月期には9.7%と急増していること、解約清算金に関する訴訟は、平成17、8年頃下級審においてa社の敗訴判決が続き、本件最高裁判決に至っていることが認められる。しかしながら、解約率は、語学教室への需要の動向や、a社の提供する授業やサービスの内容等、種々の要因により変動するものと考えられ、過去の傾向から今後も直ちに同様の増加傾向が続くことが予測されるものとはいえないから、過去5年間の平均解約率を採用することが直ちに不当不合理とは言い難い。

   オ 結論

 以上のとおりであるから、控訴人らがa社と受講契約を締結した当時、a社が財政破綻状態にあったと認めることはできないし、被控訴人取締役らが、企業会計原則に反した会計処理を行うことにより、a社の財政状態を隠匿したものと認めることもできないから、被控訴人取締役らがa社の財産破綻状態を隠匿して控訴人らに受講契約を締結させ、損害を与えたとする不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないものというべきである。

  (2) 受講契約締結後の債権侵害の主張について

 控訴人らは、会社の取締役は会社が取引相手に対する契約上の義務を履行できるよう会社経営を行うべき義務や、法令を遵守して経営を行う義務を負っており、これらに反する経営を行った結果、会社の取引相手が損害を被った場合、会社の取締役は、会社の取引相手に対して一般不法行為責任を負うものであり、被控訴人取締役らが、上記各義務に反した経営を行った結果、a社が控訴人らに授業を提供することができず、解約の際に解約清算金を返還できない状態になって、控訴人らに未受講の受講料等相当額の損害が生じたことについて、控訴人らの受講契約に基づく債権を侵害したものとして、被控訴人取締役らは不法行為責任を負う旨主張する。

 しかしながら、会社の取締役は、取締役としての業務を行うに当たり、会社に対して善管注意義務を負っているものの、会社の取引相手である第三者に対する関係で直接に何らかの注意義務を負うものではない。したがって、取締役に善管注意義務違反行為があり、その結果、第三者に損害が生じた場合、会社法429条(旧商法266条ノ3)の要件を満たす限りにおいて第三者に対して損害賠償責任を負うにとどまり、第三者に対して直接に不法行為責任を負うものではないと解するのが相当である。したがって、控訴人らの前記主張は、主張自体失当である。

 なお、控訴人らは、a社が倒産したことにより受講契約に基づく債権が侵害されたとして、損害賠償を請求するものであるが、一般に債権侵害による不法行為が成立するためには、加害行為の強度の違法性が要件として求められているところ、控訴人らは、被控訴人取締役らが殊更に会社を倒産させて会社の取引相手の債権を侵害しようとした等の強度の違法性を有する加害行為を主張するものではない。

 したがって、控訴人らとの受講契約を締結した後、被控訴人取締役らが、a社が受講契約に基づく債務を履行できない状態とさせて、控訴人らの債権を侵害したとする控訴人らの不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないというべきである。

  (3) 以上によれば、控訴人らの被控訴人取締役らに対する主位的請求は理由がない。

 3 被控訴人取締役らに対する第1次的予備的請求(虚偽記載)について

 控訴人らは、a社の計算書類において、①企業会計原則に反する本件会計処理方式に基づき、売上額、利益額及び負債額において虚偽の記載をしたものであり、また、②計上すべき引当金を的確に計上しなかったのは、虚偽の記載をしたものであるところ、これらがなければ控訴人らはa社と受講契約を締結することがなかったのであるから、未受講の受講料等相当額の損害を被ったとして、会社法429条2項1号ロ、旧商法266条ノ3第2項の規定に基づき、被控訴人取締役らに対して損害賠償を請求する。

 しかしながら、本件会計処理方式が企業会計原則に反し違法であるとまでいえず、また、売上返戻引当金の計上についても企業会計原則に反して違法な不計上、過少計上があったとまでいえないことは、前記2(1)ウ、エで検討したとおりであり、被控訴人取締役らに対する第1次的予備的請求は理由がないというべきである。

 4 被控訴人Y1に対する第2次的予備的請求(悪意重過失による任務懈怠)について

  (1) 受講契約締結による損害に関する主張について

 控訴人らは、a社の財政状態を隠匿して控訴人らに受講契約を締結させたことは、代表取締役である被控訴人Y1の少なくとも重過失のある職務執行であり、これにより控訴人らに損害を与えたのであるから、同被控訴人は第三者に対する責任を免れない旨主張する。

 しかしながら、控訴人らがa社と受講契約を締結した当時、a社が財政破綻状態にあったと認めることはできず、また、企業会計原則に反した会計処理を行うことによりa社の財政状態を隠匿したものと認めることもできないことは前記2(1)で検討したとおりであるから、この点について、被控訴人Y1に任務懈怠が存するということはできない。

  (2) 受講契約締結後の債権侵害に関する主張について

   ア a社の経営破綻の経緯について

 控訴人らは、a社の代表取締役である被控訴人Y1の資金流出回避義務違反行為、遵法経営義務違反行為により、a社が財政破綻状態に至り、a社と受講契約を締結した控訴人らに未受講の受講料等相当額の損害を生じさせた旨主張する。

 a社が経営破綻するに至る経緯については、前記2(1)イにおいて検討したとおりであり、a社は、平成18年3月期において決算上業績悪化が認められ、その後も業績悪化の傾向が続いていたところ、平成19年2月の本件立入検査、同年4月の本件最高裁判決の影響により、収入が急落し、さらに、同年6月の本件業務停止処分により、実質的に新規契約が全くできない状態になって収入が激減し、固定費の支払ができなくなるまで資金繰りが逼迫して会社更生手続開始申立てに至ったと認められるところであり、これを前提に被控訴人Y1の任務懈怠の有無を検討する。

 なお、この点に関し、控訴人らは、a社が平成13年3月期ないし遅くとも平成17年3月期には経営破綻状態にあったと主張するが、同主張が採用できないことについても、前記2(1)イにおいて検討したとおりである。

 他方、被控訴人Y1は、a社は被控訴人Y3ら3名が起こしたクーデターにより倒産したものであり、平成19年10月24日にはa社に対して70億円の出資を合意した投資会社から申込証拠金7000万円が入金され、a社は50億円から100億円規模で増資が着々と進められていたのであるから、当時、a社は倒産必至の状態ではなかった旨主張する。しかしながら、当時のa社の株価等に照らし、被控訴人Y1の主張する増資の実現可能性には多大な疑問があることに加え、当時、a社は、同年6月以降拠店賃貸料の支払を滞らせ、同年9月頃から従業員の給与を全く支払っていない状態であって(前記のとおり、破産手続開始時において未払公租公課が約25億円、労働債権が約60億円であった。)、経営改善のための取締役会すら開催されず、被控訴人監査役らが辞任を申し出る等、経営体制が機能していない状態であったこと等に照らすと、50億円から100億円規模の増資が実現したとしてもa社の事業継続が可能であったとみる余地はないというべきである。

   イ 資金流出回避義務違反の主張について

 (ア) 控訴人らは、被控訴人Y1が、企業会計原則に反する会計処理によって多額の負債を隠匿し、利益の水増しを行いながら、必要な資金を留保することなく、莫大な宣伝広告費をかけたり、無謀に新規教室を開設するなど、実収入に到底見合わない経費を支出し、資金を流出させたことは取締役としての善管注意義務に反するものである旨主張する。

 しかしながら、a社における会計処理が企業会計原則に反する違法なものとまでいえないことは前記2(1)ウ、エにおいて検討したとおりであり、a社が違法に多額の負債を隠匿し、利益を水増したものとは認められず、a社が自ら作成した計算書類に表れた財務状況に基づいて経営計画等を策定し、これに従って経費を支出したことについて、取締役としての善管注意義務に反していたものとはいえない。

 (イ) 控訴人らは、a社が無謀な新規教室の開設を行い、それに伴う経費を支出したことについて、被控訴人Y1に取締役としての善管注意義務違反があると主張する。

 前記認定事実によれば、a社は、創業以来、積極的に事業の拡大を図り、駅前留学の拠店数を増加させてきたところ、特に平成16年10月以降、出店のペースを加速させ、平成16年3月末から平成18年3月末までの2年間に拠店数を618店から994店に大幅に増加させた。ところが、拠店数の大幅な増加とは裏腹に生徒数の伸びは鈍化し(平成16年3月期までは前年比10%以上の増加であったが、平成17年3月期は9.1%の増加、平成18年3月期は0.2%の微増にとどまった。)、平成17年1月以降は毎月の売上高が前年同月を下回る状況が続いた。このため、平成17年3月期には、営業利益、経常利益は大幅に減少し、営業活動によるキャッシュフローはマイナスに転じた。平成18年3月期には、業績は更に悪化し、売上高は減少に転じ、営業損益、経常損益とも多額の損失を計上し、営業キャッシュフローも前記を大幅に上回るマイナスとなった。a社は、このような業績の落ち込みの原因が短期間に拠店数を急激に増加させたことによるマネージメント力の低下等にあると自ら分析し、新たな経営計画を策定して、それまでの経営方針を転換し、拠点数の圧縮、マネージメントの再構築、コスト構造の見直し等に取り組んだものの、売上の減少に歯止めがかからず、業績を挽回できない状況が続き、その上、本件立入検査や本件最高裁判決によって企業イメージが一気に損なわれ、経営破綻に至ったものということができる。

 以上の事実経過を現時点から振り返れば、平成16年以降、それまでのペースを大きく上回る新規拠店の開設を行ったことが業績不振の大きな要因であり、その経営判断に問題があったのではないかとも考えられる。

 しかしながら、新規店舗の開設による事業の拡大というような経営計画の基本方針の策定については、将来予測にわたる取締役の経営上の専門的判断にゆだねられているというべきであり、その判断の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解される。したがって、結果的に事業の拡大が逆効果となり、業績悪化を招くことになったとしても、そのような経営判断をしたことが直ちに取締役としての善管注意義務違反に当たると評価することはできない。a社が平成16年3月期まで順調に拠店数及び生徒数を増加させ、これに伴って売上も増加し、営業損益、経常損益ベースで利益を計上し続けており、営業キャッシュフローもプラスを続け、財務的にも問題がなかったことを考慮すると、被控訴人Y1が平成16年以降事業の拡大を加速させようとした経営判断については、その過程や内容に著しく不合理な点があるとはいえず、そのような経営判断をしたことにつき取締役としての善管注意義務違反があるとはいえない。

 (ウ) 控訴人らは、a社が莫大な宣伝広告費を支出したことについて、取締役としての善管注意義務違反がある旨主張するところ、前記認定事実によると、a社は、宣伝広告活動を重視する方針に基づき、売上高に対して15%程度の宣伝広告費を支出してきたことが認められる。しかし、a社が宣伝広告活動によって国民に広く知られる存在となり、企業イメージを高めて急激に事業を拡大することができたことも否定できないところであり、宣伝広告費の支出額や売上高に占める割合のみから、直ちに当該支出が不相当に多額なものと評価することはできない。また、宣伝広告費の支出がa社の経営、財務状況に悪影響を及ぼしたことを裏付ける的確な証拠もない。控訴人らは、a社の宣伝広告費が莫大であると主張するものであるが、a社の宣伝広告費の支出が著しく不合理であるとする具体的な根拠を示すものではなく、控訴人らの主張は採用し難い。

 (エ) 以上のとおりであるから、被控訴人Y1に資金流出回避義務違反があったとする控訴人らの主張は採用できない。

   ウ 遵法経営義務違反の主張について

 (ア) 取締役は、その職務を執行するに当たり、法令を遵守すべき義務を負っており(会社法355条、旧商法254条ノ3)、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定について、会社が法令に違反することのないよう、当該規定を遵守することも取締役の義務に属すると解される(最高裁平成8年(オ)第270号同12年7月7日第二小法廷判決・民集54巻6号1767頁参照)。

 a社は、平成11年10月以降、特定継続的役務提供取引を行う事業者として、特定商取引法を遵守する義務を負うから、被控訴人Y1は、a社の代表取締役として、a社が同法の各規定に違反することのないよう、法令遵守体制を構築し、必要な指示を行うべき義務を負っていたというべきである。

 (イ) 前記認定のとおり、a社は、平成14年2月に東京都消費生活部の調査を受け、特定商取引法違反行為等の指摘に基づく改善指導を受け、業務改善計画書を提出し、今後の法令遵守を約束している。しかし、その後も全国消費生活情報ネットワーク・システムに寄せられた苦情相談件数が増加を続けていたことからすると、a社は、前記業務改善計画書の提出にもかかわらず、必要な是正措置を怠り、違法行為を継続していたものと推認される。そのため、ついには、平成19年2月に経産省及び東京都の本件立入検査を受け、同年6月13日、本件業務停止処分を受けるに至ったものであり、同処分に当たり、数多くの特定商取引法違反行為を指摘され、これらの違反行為は本社の作成したマニュアルや本社からの通達・指導に基づいて全社的に行っていたものと指摘された。

 また、上記の調査、処分における指摘事項の中には、中途解約の取扱いに関するものも含まれているところ、中途解約に際してa社がとっていた本件解約清算方法については、消費者団体からも是正の申し入れを受け、元受講生が提起した訴訟において特定商取引法49条2項1号に違反し無効であると判断する下級審判決が相次ぎ、ついには平成19年4月3日、本件最高裁判決によって本件解約清算規定が無効である旨の判断が示された。

 被控訴人Y1は、a社の代表取締役として、業務全般を掌握しており、契約締結をめぐる顧客とのトラブルの実情や、東京都による調査及び改善指導、本件解約清算方式の有効性に関する下級審判決の動向等についても当然認識していたと認められる。したがって、同被控訴人は、a社が外国語会話教室を開設して受講希望者と契約を締結するに当たり、特定商取引法を遵守するよう指示、指導を行うとともに、違法な行為が行われないよう社内の法令遵守体制を構築すべき注意義務を負っていたところ、上記事実経過からすると、同被控訴人は、東京都の指導を受けても何らの改善策も講じないところが、むしろマニュアルや通達、指導により違法行為を指示して全社的に行わせていたと認められ、また、本件最高裁判決によって無効の判断が示されるまで本件解約清算方法を改めなかったのであり、したがって、同被控訴人は、故意又は重過失により上記注意義務を怠ったものといわざるを得ない。

 (ウ) この点、被控訴人Y1は、本件解約清算方法に関し、語学教室の入学契約の条項は、経産省と東京都生活文化局の行政指導によりがんじがらめに規定されており、本件解約清算規定についても、経産省の通達が改正されない限り変更することはできないと主張する。前記認定のとおり、経産省は、規定時単価を用いるa社の本件解約清算方法について、これを違法であるとの指摘をせず、容認する態度を示していたと認められる。しかし、同省の通達においては、事業者が消費者に請求しうる金額の算定について、原則として契約時単価を用いることとし、合理的理由のある場合にのみこれと異なる単価を用いることができる旨定めていたところであって、a社が本件解約清算方法を契約時単価を用いる方式に改めるにつき上記通達が制約になるものではないと解されるから、被控訴人Y1の上記主張は採用できない。

 また、被控訴人Y1は、本件解約清算方法につき、経産省の通達を尊重した最高裁判決が出ることを期待して待つことに何の非難されるべき点もないと主張する。しかしながら、本件解約清算方法については、平成14年の東京都の指導においても、特定商取引法違反との指摘を受けており、平成16年以降下級審において、いずれもこれを無効とする判決を受け、これを有効としたものはなく、消費者団体からも本件解約清算方法を改めるよう申し入れを受けていたことに照らせば、経産省が本件清算方式を容認する態度を示していたことを考慮しても、本件最高裁判決によって無効の判断が示されるまで本件解約清算方法を改めなかったことにつき被控訴人Y1に重大な過失がなかったということはできない。

 (エ) なお、控訴人らは、被控訴人Y1の支配するa社の関連会社が、平成12、3年頃、破綻の懸念のあった石川銀行から合計50億円の株式を引き受け、同銀行から合計154億5000万円の融資を受けたこと、そして、関連会社の保証や物上保証をしていた被控訴人Y1や同Y2の利益のために、関連会社を救済するべく、関連会社に対する融資や保証、ワープゲート取引、MCU取引等を計画・実行したことにより、a社に損害を与えた旨主張する。しかしながら、前記主張事実がa社の経営破綻とどのように結びついているのかにつき、具体的な主張立証はなく、この点に関する控訴人らの主張を採用することはできない。

 (オ) a社の経営破綻に至る経緯は、前記(2)アのとおりであり、平成19年2月の本件立入検査及び同年4月の本件最高裁判決が報道されることにより企業イメージが大きく損なわれて、新規契約による収入が激減するとともに中途解約による清算金請求が急増し、同年6月の本件業務停止処分により実質的に新規契約が全くできなくなったことで業績の悪化、資金の枯渇が決定的となって、経営破綻したものと認められる。

 被控訴人Y1が外国語会話教室の運営に当たり、受講契約の内容やその勧誘等について特定商取引法を遵守するよう指導すべき義務を怠り、むしろ違法行為を指示して全社的に行わせてきたことが本件立入検査及び本件業務停止処分を受ける結果を招いたものであり、また、違法性が指摘されていた本件解約清算方法を是正することなく維持したことが本件最高裁判決後の中途解約事案の急増の事態をもたらしたものであるから、同被控訴人の前記注意義務違反行為とa社の経営破綻との間には相当因果関係があると認められる。

 したがって、被控訴人Y1は、会社法429条1項、旧商法266条ノ3第1項により、控訴人らがa社の経営破綻によって被った損害を賠償すべき責任がある。

  (3) 控訴人らの損害

   ア 控訴人らが第2次的予備的請求において主張する損害は、a社が経営破綻したことによる損害である。

 控訴人らの中には、a社との受講契約を締結した後、同契約継続中にa社が経営破綻し、その後の授業を受けられなくなった者と、受講契約を中途解約した後にa社が経営破綻し、解約清算金の支払を受けられなくなった者とがある。

 前者の場合、その後の授業が受けられなくなったことによる損害、すなわち、前払受講料(レッスン料)のうち役務未提供部分(未消化ポイント分)の対価相当額が損害になると解される。控訴人らの請求の中には、入学金、テキスト代、TV電話購入代金、マルチメディア施設利用代金、信販手数料の各相当額を含むものがあるが、これらの代金、手数料等は、a社の経営破綻による損害に含まれるものとはいえない。

 後者については、解約清算金相当額が損害となる。解約清算金の計算については、特定商取引法49条2項の適用を受けるから、前払受講料から役務提供分(消化ポイント分)について契約時単価に基づいて計算された対価相当額(同項1号)が控除される。事業者は、提供された役務の対価相当額に加え、通常生ずる損害額として、契約残額の20%又は5万円のいずれか低い額を請求することができる(同項2号)から、a社が解約清算金の計算において、中途解約手数料として同号の制限内の額を控除していた場合には、前払受講料から役務提供分の対価相当額及び中途解約手数料を控除した額が損害となる。

 中途解約をした控訴人らの請求の中には、中途解約手数料のほか、入学金、教材費、マルチメディア施設利用代金、信販手数料の各相当額を含むものがある。しかし、これらの代金、手数料等は、受講契約の中途解約に基づいて当然にa社に返還を請求できるものではない(なお、受講契約とともに関連商品の売買契約を解除することはできるが、売買契約の目的物を返還しない場合は、事業者は売買代金相当額を請求できる(特定商取引法49条5項、6項)。)から、これらの請求に関する控訴人らの主張は失当である。

 なお、弁護士費用については、各控訴人につき、上記に従って認められる解約清算金相当額等の損害の10%の金額(1、000円未満を切り捨てた額)をもって、損害と認めるのが相当である。

   イ 各控訴人の損害

 以上に基づき各控訴人の損害額を検討する。

 (ア) 控訴人X1

 証拠(甲B1)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X1は、平成18年9月11日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース420ポイント分71万4672円、入学金3万1500円、10ポイントプラス分1万2800円として、合計75万8972円を支払ったが、その後、レッスンポイントは消化しなかったこと、同控訴人は、平成19年7月4日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額75万8972円から中途解約手数料1万5000円を控除した74万3972円の解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額74万3972円に弁護士費用相当額7万4000円を加えた81万7972円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (イ) 控訴人X2

 証拠(甲B2)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X2は、平成18年1月23日にa社と受講契約を締結し、同年3月31日までにレギュラーコース330ポイント分52万7195円、入学金3万円、教材費1万7800円、その他発生金額1500円、10ポイントプラス分1万2800円として、合計58万9295円を支払い、その後、レッスンポイント109ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年9月26日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額58万9295円から、消化済みの109ポイント分のレッスン料17万4073円、教材費1万3533円、その他発生金額1500円を控除した40万0189円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額40万0189円に弁護士費用相当額4万円を加えた44万0189円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が教材費を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ウ) 控訴人X3

 証拠(甲B3)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X3は、①平成17年10月6日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分71万9600円、VOICEチケット100枚分16万9000円、入学金3万円、教材費1万2800円として、合計93万1400円を支払い、その後、レッスンポイント254ポイント、VOICEチケット11枚を消化したこと、②平成19年3月31日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース150ポイント分31万8622円、入学金3万1500円として、合計35万0122円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、同控訴人は、平成19年10月15日までにa社に上記①②の各契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、上記①の契約につき受領した契約総額93万1400円から、消化済みの254ポイント分のレッスン料30万4546円、消化済みの11枚分のVOICE料1万8590円、教材費1万2800円を控除した59万5464円を解約清算金として返金すること、上記②の契約につき受領した契約総額35万0122円全額を解約清算金として返金することをそれぞれ申し出たこと(上記①②の解約清算金合計額94万5586円)、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人の損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額合計94万5586円に弁護士費用相当額9万4000円を加えた103万9586円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が教材費を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (エ) 控訴人X4

 証拠(甲B4)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X4は、平成18年11月12日にa社と受講契約を締結し、その頃、契約総額93万7016円(内訳不明)を支払ったこと、同控訴人は、平成19年10月12日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額93万7016円から、消化済みのレッスン料34万3227円、消化済みのVOICE料2万5935円、マルチメディア施設利用料9700円、教材費1万2800円、その他発生金額2万6040円を控除した51万9314円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額51万9314円に弁護士費用相当額5万1000円を加えた57万0314円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が教材費を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (オ) 控訴人X5

 証拠(甲B5)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X5は、平成19年2月26日にa社と受講契約を締結し、レギュラーコース150ポイント分31万8622円、入学金3万1500円として、合計35万0122円を支払い、その後、レッスンポイント8ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年10月3日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額35万0122円から、消化済みの8ポイント分のレッスン料1万8673円、中途解約手数料5万円を控除した28万1449円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額28万1449円に弁護士費用相当額2万8000円を加えた30万9449円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 同控訴人は、さらに、a社が入学金3万1500円、教材費3万1500円を控除したとして、同金額についても損害として加算すべきである旨主張するが、同控訴人に対する解約清算金額を算定するにあたり、a社が入学金3万1500円、教材費3万1500円を控除したことを示す証拠はない。

 (カ) 控訴人X6

 証拠(甲B6)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X6は、平成18年9月16日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分80万6660円、VOICEチケット30枚分5万9850円、入学金3万1500円、教材費1万2800円、その他発生金額8800円として、合計91万9610円を支払ったこと、その後、レッスンポイント217ポイント、VOICEチケット1枚を消化したこと、同控訴人は、平成19年10月24日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額91万9610円から、消化済みの217ポイント分のレッスン料29万1648円、消化済みの1枚分のVOICE料1995円、中途解約手数料5万円、教材費1万2800円、その他発生金額8800円を控除した55万4367円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額55万4367円に弁護士費用相当額5万5000円を加えた60万9367円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料、教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料、教材費を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (キ) 控訴人X7

 証拠(甲B7)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X7は、平成18年10月22日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース420ポイント分75万5126円、VOICE50枚分9万0300円、入学金3万1500円、教材費1万2800円として、合計88万9726円を支払ったこと、その後、レッスンポイント136ポイント、VOICEチケット1枚を消化したこと、同控訴人は、平成19年8月17日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額88万9726円から、消化済みの136ポイント分のレッスン料24万4392円、消化済みの1枚分のVOICE料1806円、中途解約手数料5万円、教材費1万2800円を控除した58万0728円を返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額58万0728円に弁護士費用相当額5万8000円を加えた63万8728円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料、教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料、教材費を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 同控訴人は、さらに、同人が信販会社とクレジットを組んで支払った際の信販手数料8万9016円についても損害として加算すべきである旨主張するが、同手数料について、a社の経営破綻により生じた損害に含まれるものとは認められない。

 (ク) 控訴人X8

 証拠(甲B8、控訴人X8本人)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X8は、平成18年11月29日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース150ポイント分33万8070円、入学金3万1500円として、合計36万9570円を支払い、その後、レッスンポイント6ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年10月13日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額36万9570円から、消化済みの6ポイント分のレッスン料1万3518円、中途解約手数料5万円を控除した30万6052円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額30万6052円に弁護士費用相当額3万円を加えた33万6052円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ケ) 控訴人X9

 証拠(甲B9)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X9は、平成18年2月16日頃、a社と受講契約を締結し、契約総額58万6595円(内訳不明)を支払ったこと、同控訴人は、平成19年5月頃、a社に上記契約の解約を申し入れ、a社は、同年8月31日までに48万3750円を解約清算金として返金する旨申し出、同控訴人はこれに同意したこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額48万3750円に弁護士費用相当額4万8000円を加えた53万1750円となる。

 なお、同控訴人は、a社が入学金3万円、教材費1万2800円を控除したとして、同金額についても損害として加算すべきである旨主張するが、同控訴人に対する解約清算金を算定するにあたり、a社が入学金3万円、教材費1万2800円を控除したことを示す証拠はない。

 (コ) 控訴人X10

 証拠(甲B10)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X10は、平成17年2月8日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分76万1300円、マルチメディア施設利用料4900円、入学金3万円として、合計79万6200円を支払い、その後、レッスンポイント21ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年7月3日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額79万6200円から、消化済みの21ポイント分のレッスン料2万7733円、マルチメディア施設利用料4895円、中途解約手数料5万円を控除した71万3572円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額71万3572円に弁護士費用相当額7万1000円を加えた78万4572円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料、マルチメディア施設利用料を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料、マルチメディア施設利用料を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (サ) 控訴人X11

 証拠(甲B11)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X11は、平成18年2月28日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース540ポイント分61万3680円、入学金3万円として、合計64万3680円を支払ったが、レッスンポイントは消化していないこと、同控訴人は、平成19年6月18日までにa社に上記契約の解約を申し入れ、a社は、同日、受領した契約総額64万3680円から、中途解約手数料1万5000円を控除した62万8680円を返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額62万8680円に弁護士費用相当額6万2000円を加えた69万0680円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (シ) 控訴人X12

 証拠(甲B12)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X12は、平成18年2月13日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース150ポイント分32万4825円、入学金3万円として、合計35万4825円を支払い、その後、レッスンポイント14ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年5月28日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額35万4825円から、消化済みの14ポイントのレッスン料3万3124円、中途解約手数料5万円を控除した27万1701円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額27万1701円に弁護士費用相当額2万7000円を加えた29万8701円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ス) 控訴人X13

 証拠(甲B13)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X13は、平成17年9月11日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース420ポイント分57万0440円、VOICEチケット30枚分5万9400円、マルチメディア施設利用料9700円、入学金3万円、教材費1万2800円、その他発生金額6600円として、合計68万8940円を支払い、その後、レッスンポイント188ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年10月8日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額68万8940円から、消化済みの188ポイントのレッスン料25万5304円、マルチメディア施設利用料970円、中途解約手数料5万円、教材費1万2800円、その他発生金額6600円を控除した36万3266円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額36万3266円に弁護士費用相当額3万6000円を加えた39万9266円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料、教材費、その他発生金額を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料、教材費、その他発生金額を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (セ) 控訴人X14

 証拠(甲B14)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X14は、平成18年5月15日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分61万6148円、VOICEチケット10枚分2万6880円、入学金3万1500円、教材費1万2800円として、合計68万7328円を支払い、その後、レッスンポイント17ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年8月17日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額68万7328円から、消化済みの17ポイントのレッスン料3万1739円、中途解約手数料5万円、教材費1万2800円を控除した59万2789円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額59万2789円に弁護士費用相当額5万9000円を加えた65万1789円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した中途解約手数料、教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が中途解約手数料、教材費を控除したことは当然に特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ソ) 控訴人X15

 証拠(甲B25)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X15は、平成17年4月27日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース150ポイント分32万2400円、VOICEチケット50枚分8万9500円、入学金3万円、教材費1万2800円として、合計45万4700円を支払い、その後、レッスンポイント30ポイントを消化したこと、同控訴人は、平成19年9月27日までにa社に上記契約の解約を申し入れたこと、a社は、同日、受領した契約総額45万4700円から、消化済みの30ポイントのレッスン料6万4470円、教材費4266円を控除した38万5964円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった解約清算金相当額38万5964円に弁護士費用相当額3万8000円を加えた42万3964円となる。

 なお、同控訴人は、a社が控除した教材費を損害として加算すべきである旨主張するが、上記アのとおり、a社が教材費を控除したことは特定商取引法に反するものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (タ) 控訴人X16

 証拠(甲B15)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X16は、①平成17年2月12日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分59万2865円、VOICEチケット30枚分5万8200円を支払い、その後、レッスンポイント286ポイント、VOICEチケット23枚を消化したこと、その後さらに、②同月19日頃、レギュラーコース(ポイント数不明)1000円、③同年8月5日頃、同20ポイント分2万1000円、④平成18年1月7日頃、同10ポイント分1万2800円、⑤同年3月20日頃、同(ポイント数不明)1万2800円、⑥同年7月27日頃、同210ポイント分49万3290円、VOICEチケット10枚分2万6880円、⑦平成18年8月17日頃、レギュラーコース10ポイント分1万2800円を、それぞれ支払ったが、上記②~⑦のレッスンポイントとVOICEチケットはいずれも消化しなかったこと、上記①の未消化の44ポイント分のレッスン料は7万9024円(59万2865円を330ポイントで除した契約時単価1796円(円未満切捨。以下の計算において同じ)に44ポイントを乗じた金額)であり、上記①の未消化の7枚分のVOICE料は1万3580円(5万8200円を30枚で除した契約時単価1940円に7枚を乗じた額)であること、従って、上記②~⑦の全部未消化のレッスン料合計55万3690円(②1000円、③2万1000円、④1万2800円、⑤1万2800円、⑥49万3290円、⑦1万2800円)、上記⑥の全部未消化のVOICE料2万6880円とあわせて、上記①~⑦につき支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計67万3174円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務を提供できなくなった部分の対価相当額67万3174円に弁護士費用相当額6万7000円を加えた74万0174円となる。

 なお、同控訴人は、他にTV電話機器購入代金、テキスト代金、入学金、分割手数料等について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (チ) 控訴人X17

 証拠(甲B16)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X17は、平成18年12月27日にa社と受講契約を締結し、レギュラーコース150ポイント分35万7525円、入学金3万1500円として、合計38万9025円を支払うこととし、うち5250円を現金で、残金を信販会社とのクレジット契約により支払ったが、その後、レッスンポイントは消化しなかったこと、同控訴人は、a社の経営破綻後、信販会社への支払を停止し、結局、信販会社へは11万7349円を支払ったこと、従って、現金支払分をあわせ、同控訴人の支払総額は12万2599円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、同控訴人の前払受講料12万2599円(その全額がa社の経営破綻により役務を提供できなくなった)に弁護士費用相当額1万2000円を加えた13万4599円となる。

 なお、同控訴人は、他にテキスト代金について損害が発生した旨主張するが、同控訴人がテキスト代金を支出したことを示す証拠はない。

 (ツ) 控訴人X18

 証拠(甲B17)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X18は、①平成16年5月18日にa社と受講契約を締結し、その頃、VOICEチケット30枚分5万8200円を支払い、その後、VOICEチケット1枚を消化したこと、②平成18年2月18日にa社と受講契約を締結し、レギュラーコース540ポイント分63万9600円、入学金3万円として、合計66万9600円を支払い、その後、レッスンポイント43ポイントを消化したこと、上記①の未消化の29枚分のVOICE料は5万6260円(5万8200円を30枚で除した契約時単価1940円に未消化の29枚を乗じた額)であること、同控訴人は、上記②の契約につき、平成19年6月22日までにa社に解約を申し入れ、a社は同日、上記②の契約につき受領した契約総額66万9600円から、消化済みの43ポイント分のレッスン料5万3348円、中途解約手数料5万円を控除した56万6252円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、上記①の契約に関する前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務を提供できなくなった部分の対価相当額5万6260円と、a社の経営破綻により受領できなくなった上記②の契約に関する解約清算金相当額56万6252円の合計62万2512円に、弁護士費用相当額6万2000円を加えた68万4512円となる。

 なお、同控訴人は、他にTV電話機器購入代金について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (テ) 控訴人X19

 証拠(甲B18)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X19は、①平成15年9月19日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分46万3050円を支払い、その後、レッスンポイント216ポイントを消化したこと、②平成18年2月10日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース210ポイント分42万5855円を支払い、その後、レッスンポイント57ポイントを消化したこと、上記①の未消化の114ポイント分のレッスン料は15万9942円(46万3050円を330ポイントで除した契約時単価1403円に未消化の114ポイントを乗じた額)であること、上記②の未消化の153ポイント分のレッスン料は31万0131円(42万5855円を210ポイントで除した契約時単価2027円に未消化の153ポイントを乗じた額)であること、従って、上記①②につき支払ったレッスン料のうち未消化部分の対価相当額は合計47万0073円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務を提供できなくなった部分の対価相当額47万0073円に弁護士費用相当額4万7000円を加えた51万7073円となる。

 なお、同控訴人は、他にTV電話機器購入代金、入学金、マルチメディア施設利用料、登録手数料、テキスト代金について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ト) 控訴人X20

 証拠(甲B19)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X20は、①平成16年3月16日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース270ポイント分48万0300円、VOICEチケット30枚分5万8275円を支払い、その後、レッスンポイント266ポイント、VOICEチケット29枚を消化したこと、②平成19年2月23日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース150ポイント分31万8622円、VOICEチケット30枚分5万9850円を支払い、その後、レッスンポイント20ポイントを消化し、VOICEチケットは消化しなかったこと、上記①の未消化の4ポイント分のレッスン料は7112円(48万0300円を270ポイントで除した契約時単価1778円に未消化の4ポイントを乗じた額)、未消化のVOICE料は1942円(5万8275円を30枚で除した契約時単価1942円)であること、上記②の未消化の130ポイント分のレッスン料は27万6120円(31万8622円を150ポイントで除した契約時単価2124円に未消化の130ポイントを乗じた額)であること、従って、上記②の全部未消化のVOICE料5万9850円をあわせ、上記①②につき支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計34万5024円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務が提供されなくなった部分の対価相当額34万5024円に弁護士費用相当額3万4000円を加えた37万9024円となる。

 なお、同控訴人は、他に入学金、テキスト代金について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ナ) 控訴人X21

 証拠(甲B20)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X21は、①平成17年11月29日に受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分56万0030円、VOICEチケット30枚分5分万9400円を支払い、その後、レッスンポイント240ポイント、VOICEチケット16枚を消化したこと、②平成19年3月30日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース110ポイント分16万5000円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、③同年1月17日、a社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分66万7800円、入学金3万1500円として、合計69万9300円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、上記①の未消化の90ポイント分のレッスン料は15万2730円(56万0030円を330ポイントで除した契約時単価1697円に未消化の90ポイントを乗じた額)であり、未消化の14枚分のVOICE料は2万7720円(5万9400円を30枚で除した契約時単価1980円に未消化の14枚を乗じた額)であること、従って、上記②の全部未消化のレッスン料16万5000円とあわせ、上記①②につき支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計34万5450円となること、上記③の契約について、同控訴人は、平成19年10月4日までにa社に解約を申し入れ、a社は、同日、同契約について受領した契約総額69万9300円から、中途解約手数料1万5000円を控除した68万4300円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、上記①②の契約に関する前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務を提供できなくなった部分の対価相当額34万5450円と、a社の経営破綻により受領できなくなった上記③の契約に関する解約清算金相当額68万4300円の合計102万9750円に、弁護士費用相当額10万2000円を加えた113万1750円となる。

 なお、同控訴人は、他にTV電話機器購入代金、上記①の契約の入学金、テキスト代金について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ニ) 控訴人X22

 証拠(甲B21)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X22は、①平成19年1月14日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース160ポイント分28万2250円、VOICEチケット料30枚分5万4000円を支払い、その後、レッスンポイント9ポイント、VOICEチケット19枚を消化したこと、②同年3月8日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース(ポイント数不明)1万9800円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、③同年3月29日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース190ポイント分36万0622円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、上記①の未消化の151ポイント分のレッスン料は26万6364円(28万2250円を160ポイントで除した契約時単価1764円に未消化の151ポイントを乗じた額)であり、未消化の11枚分のVOICE料は1万9800円(5万4000円を30枚で除した契約時単価1800円に未消化の11枚を乗じた額)であること、上記②の全部未消化のレッスン料1万9800円、上記③の全部未消化のレッスン料36万0622円とあわせて、上記①~③につき支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計66万6586円となること、の各事実が認められる。

 よって、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務が提供できなくなった部分の対価相当額66万6586円に弁護士費用相当額6万6000円を加えた73万2586円となる。

 なお、同控訴人は、他に登録手数料について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ヌ) 控訴人X23

 証拠(甲B22)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X23は、平成16年11月28日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分53万2195円、VOICEチケット30枚分5万8200円を支払ったこと、その後、レッスンポイント61ポイントを消化し、VOICEチケットは消化しなかったこと、未消化の269ポイント分のレッスン料は43万3628円(53万2195円を330ポイントで除した契約時単価1612円に未消化の269ポイントを乗じた額)であり、全部未消化のVOICE料5万8200円とあわせ、支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計49万1828円になること、の各事実が認められる。

 よって、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務が提供できなくなった部分の対価相当額49万1828円に弁護士費用相当額4万9000円を加えた54万0828円となる。

 なお、同控訴人は、他にTV電話機器購入代金、入学金について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ネ) 控訴人X24

 証拠(甲B23)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X24は、平成19年2月3日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分54万4076円、VOICEチケット30枚分5万9850円を支払ったこと、その後、レッスンポイント10ポイントを消化し、VOICEチケットは消化しなかったこと、未消化の320ポイント分のレッスン料は52万7360円(54万4076円を330ポイントで除した契約時単価1648円に未消化の320ポイントを乗じた額)となり、全部未消化のVOICE料5万9850円とあわせ、支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計58万7210円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務が提供できなくなった部分の対価相当額58万7210円に弁護士費用相当額5万8000円を加えた64万5210円となる。

 なお、同控訴人は、他に入学金、テキスト代金について損害が発生した旨主張するが、同金員については、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ノ) 控訴人X25

 証拠(甲B24)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X25は、①平成14年11月25日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分60万4005円、VOICEチケット30枚分5万8275円を支払い、その後、レッスンポイント176ポイント、VOICEチケット11枚を消化したこと、②平成17年3月27日、a社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース210ポイント分40万2810円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、上記①の未消化の154ポイント分のレッスン料は28万1820円(60万4005円を330ポイントで除した契約時単価1830円に未消化の154ポイントを乗じた額)であり、未消化の19枚分のVOICE料は3万6898円(5万8275円を30枚で除した契約時単価1942円に未消化の19枚を乗じた額)であること、上記②の全部未消化のレッスン料40万2810円とあわせ、①②につき支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計72万1528円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務が提供できなくなった部分の対価相当額合計72万1528円に弁護士費用相当額7万2000円を加えた79万3528円となる。

 なお、同控訴人は、他に入学金について損害が発生した旨主張するが、同金員について、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 (ハ) 控訴人X26

 証拠(甲B26)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X26は、①平成14年6月17日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分71万8200円、VOICEチケット10枚分2万6250円、VOICEチケット買足10枚分2万6300円、マルチメディア施設利用料4万9875円、10ポイントプラス3万1500円として、合計85万2125円を支払ったこと、その後、レッスンポイント9ポイントとVOICEチケット20枚を消化したこと、②同年9月12日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分68万0400円、10ポイントプラス3万1500円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、③平成15年2月24日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース330ポイント分42万4460円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、同控訴人は、平成19年7月8日までにa社に上記①~③の契約の解約を申し入れたこと、同日、a社は、上記①の契約につき、受領した契約総額85万2125円から、消化済みの9ポイント分のレッスン料1万0773円、VOICE料2万1000円、VOICE買足料2万6300円、中途解約手数料5万円を控除した74万4052円を解約清算金として返金する旨申し出、上記②の契約につき、受領した契約総額71万1900円から、中途解約手数料1万5000円を控除した69万6900円を解約清算金として返金する旨申し出、上記③の契約につき、受領した契約総額42万4460円から中途解約手数料1万5000円を控除した40万9460円を解約清算金として返金する旨申し出たこと、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害額は、a社が経営破綻したことにより受領できなくなった上記①~③の解約清算金合計185万0412円に弁護士費用相当額18万5000円を加えた203万5412円となる。

 (ヒ) 控訴人X27

 証拠(甲B27)及び弁論の全趣旨によると、控訴人X27は、①平成16年3月30日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分70万8900円、VOICEチケット8万0325円(枚数不明)を支払ったこと、その後、レッスンポイント89ポイントを消化したこと(VOICEチケットについては消化の有無を明らかにする証拠はない。)、②平成17年9月30日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分63万7200円を支払ったが、レッスンポイントは消化しなかったこと、③平成19年3月19日にa社と受講契約を締結し、その頃、レギュラーコース600ポイント分66万7800円を支払ったが、レッスンポイントは使用しなかったこと、上記①の未消化の511ポイント分のレッスン料は60万3491円(70万8900円を600ポイントで除した契約時単価1181円に未消化の511ポイントを乗じた額)であり、上記①の未消化のVOICE料8万0325円、上記②の全部未消化のレッスン料63万7200円、上記③の全部未消化のレッスン料66万7800円とあわせ、上記①~③につき支払ったレッスン料、VOICE料のうち未消化分の対価相当額は合計198万8816円となること、の各事実が認められる。

 以上によると、同控訴人に生じた損害は、前払受講料のうち、a社の経営破綻により役務が提供できなくなった部分の対価相当額198万8816円に弁護士費用相当額19万8000円を加えた218万6816円となる。

 なお、同控訴人は、他に入学金について損害が発生した旨主張するが、同金員について、上記アのとおり、a社の経営破綻により生じた損害に当然に含まれるものではないから、同控訴人の主張は失当である。

 5 被控訴人Y3ら3名に対する第2次的予備的請求について

  (1) 取締役としての監視義務

 株式会社の取締役は、代表取締役の業務執行についてこれを監視し、業務の執行を適正に行わせるようにするべき職責を有するものであるから、取締役であった被控訴人Y3ら3名は、被控訴人Y1の業務執行につき監視義務を負い、故意又は重過失により監視義務を怠ったことにより控訴人らに損害が生じた場合には、会社法429条1項、旧商法266条ノ3第1項の規定により、その損害を賠償すべき責任を負う。

 この点について、被控訴人Y3ら3名は、同被控訴人らは名目的、形式的に取締役に就任していたにすぎず、取締役として業務執行に関する権限を有していなかったのであるから、被控訴人Y1の業務執行の監視を行う前提を欠いた立場にあったし、役員としての待遇を受けていなかったと主張する。そして、前記認定事実によると、被控訴人Y3ら3名は、それぞれa社ないしその関連会社において従業員として稼働していたところ、a社の代表取締役であり、実質的に過半数株主であった被控訴人Y1の指示によりa社の取締役に就任したが、取締役としての実質的な権限を与えられておらず、取締役就任後も従業員としての職務を継続しており、報酬額も取締役就任前と変わらなかったことが認められる。

 しかしながら、株式会社の取締役は、前記のとおり、法令上、代表取締役の業務執行を監視すべき義務を当然に負うものであり、このことはいわゆる名目的取締役についても変わるところはない。したがって、被控訴人Y3ら3名は、a社の取締役の地位にあった以上、代表取締役の業務執行全般についてこれを監視し、取締役会の招集を求め、又は自らこれを招集して、取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有していたのであって、取締役としての実質的な権限を与えられていなかった等の前記認定の事情は、同被控訴人らの取締役としての職責を免れさせる理由となるものではない。加えて、a社は、株式を上場し、多数の外国語会話教室を全国に展開する大規模な株式会社であって、会社法等の諸法令を遵守することが当然に期待され、強く求められるところであるから、被控訴人Y3ら3名は、たとえ内部的には代表取締役から取締役にふさわしい権限や待遇を与えられていなかったとしても、a社と取引関係にある第三者からは、取締役としての役割を果たすことが期待され、求められていたというべきであって、前記のいわば内部事情をもって、取締役としての第三者に対する責任を軽減する根拠とすることはできない。

 したがって、被控訴人Y3ら3名の上記主張は採用することができない。

  (2) 監視義務違反の存否

 控訴人らは、被控訴人Y1の任務懈怠行為として、a社の財政状態を隠匿して控訴人らに受講契約を締結させたことや、実収入に見合わない経費を支出して資金を流出させたこと、違法な資金調達と発生した損失の穴埋めをしたことを主張するが、上記各主張が採用できないことは、前記4において検討したとおりである。

 他方、a社が本件解約清算方法を採用・維持するなど、特定商取引法に反する業務運営を全社的に行い、その結果、本件最高裁判決や本件業務停止処分を受けて、経営破綻に至り、控訴人らに損害を生じさせたことについては、被控訴人Y1の重大な任務懈怠が認められるところであるから、この点について、取締役である被控訴人Y3ら3名に監視義務違反が存するかが問題となる。

 この点についてみると、a社の取締役会において、本件解約清算方法の採用・維持や、その他の特定商取引法への対応が議題として取り上げられた形跡はない。しかし、取締役の監視義務は取締役会に上程された事項に限らず、代表取締役の業務執行の全般に及ぶものであり、多数の受講者との間で締結する受講契約の内容や新規受講者の勧誘、契約締結時の説明等が特定商取引法等の法令を遵守しているかどうかは、a社が外国語会話教室の事業を営む上で重要な事項であるから、これらの事項については、取締役として当然関心を持って調査を行い、被控訴人Y1の業務執行を監視すべきであったということができる。また、被控訴人Y3ら3名は、a社の幹部従業員として、外国語会話教室の運営に関わる業務に従事していたのであるから、日頃の業務を通じて、新規受講者の勧誘や契約締結の実情、受講生からの苦情やトラブルの発生等、a社の特定商取引法違反行為や法令遵守体制の問題点に関する事実を当然認識し得たものと考えられる。特に、被控訴人Y3は、平成14年に実施された東京都の事業者調査・指導に際し、a社の担当者としてこれに対応し、平成16年7月頃から生徒相談室長として受講生からの苦情に対応していたのであるから、a社の営業活動が特定商取引法に反する疑いがあるとして、その改善を求められていたことや受講生との間で多数のトラブルが発生していたことを認識していたと認められる。また、被控訴人Y4は、平成18年頃、外国人エリアマネージャーから、レッスンの予約が取りにくいという受講生からのクレームがあることを聞いた旨供述し(同被控訴人本人・152項)、被控訴人Y5も、平成18年半ば頃、インタービジョンの従業員から、レッスンの予約が取りにくいという理由で受講生からの解約が増えていると聞き、これを被控訴人Y1に伝えた旨陳述している(乙ウ21・3頁)のであるから、前記被控訴人両名も、受講契約をめぐるトラブルや問題点について認識し得たと認められる。

 しかるに、被控訴人Y3ら3名は、代表取締役である被控訴人Y1が特定商取引法違反の行為を全社的に行わせているのを放置し、何らの是正措置もとらなかったのであるから、重大な過失による監視義務の懈怠があったといわざるを得ない。

 被控訴人Y3ら3名は、同被控訴人らは名目的、形式的に取締役に就任していたにすぎず、取締役として業務執行に関する権限を有していなかったと主張するが、同主張が採用できないことは前記(1)のとおりである。また、前記認定のとおり、a社においては取締役会が開催されること自体が少なく、取締役間において経営に関する実質的な議論が行われることもなかったと認められるところであるが、これらの事実は、被控訴人Y3ら3名の職責を免れさせる事情となるものではなく、むしろ、同被控訴人らが、取締役に就任していながら、本件業務停止処分以前においては、取締役会の開催を求めたり、被控訴人Y1の業務執行に関する情報を求めたりすることがなかったという点において、任務懈怠を示す事情というべきである。

 また、被控訴人Y3ら3名は、同被控訴人らが被控訴人Y1の業務執行に異を唱えたとしても、被控訴人Y1がこれを聞き入れる可能性はなく、実質的に過半数株主である被控訴人Y1が、被控訴人Y3ら3名を取締役から解任する結果となるのみであると主張する。しかしながら、同被控訴人らが、a社が経営破綻の危機に瀕した段階に至って、取締役としての権限を行使し、被控訴人Y1に対して取締役会の開催を度々要求し、最終的には臨時取締役会を開催して、被控訴人Y1の代表取締役解任等を決議したことは、前記認定のとおり(認定事実(8)、(9))である。このことに照らせば、被控訴人Y3ら3名が、取締役会の開催を要求し、取締役会において、語学教室の運営における特定商取引法等の法令の遵守や社内の法令遵守体制の整備を求めるなど、取締役としての権限を行使することにより、被控訴人Y1の業務執行を改めさせることは可能であったというべきであるから、被控訴人Y3ら3名の前記主張を採用することはできない。

 以上によれば、被控訴人Y3ら3名は、重過失により、被控訴人Y1の業務執行を監視すべき義務を怠り、a社の経営破綻を招いたと認められるから、会社法429条1項、旧商法266条ノ3第1項に基づき、被控訴人Y1と共に、控訴人らがa社の経営破綻によって被った前記4(3)イのとおりの損害を賠償すべき責任がある。

 6 被控訴人Y2に対する第2次的予備的請求について

 前記5(1)のとおり、株式会社の取締役は、代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し、業務の執行を適正に行わせるようにするべき職責を有するものであるから、被控訴人Y2は、被控訴人Y1の任務懈怠につき監視義務を負い、故意又は重過失により監視義務を怠ったことにより控訴人らに損害が生じた場合には、旧商法266条ノ3第1項の規定により、その損害を賠償すべき責任を負う。

 控訴人らは、a社の代表取締役である被控訴人Y1の任務懈怠行為として、a社の財政状態を隠匿して控訴人らに受講契約を締結させたことや、実収入に見合わない経費を支出して資金を流出させたこと、違法な資金調達と発生した損失の穴埋めをしたことを主張するが、前記各主張が採用できないことは、前記4において検討したとおりである。

 他方、a社が本件解約清算方法を採用・維持するなど、特定商取引法に反する業務運営を全社的に行い、その結果、本件最高裁判決や本件業務停止処分を受けて、経営破綻に至り、控訴人らに損害を生じさせたことについては、被控訴人Y1の重大な任務懈怠が認められるところであり、被控訴人Y2の在任中、特定商取引法に反する業務経営が行われたことについては、被控訴人Y2の監視義務違反が問題となり得る。

 しかしながら、被控訴人Y2は、平成15年8月に取締役を退任しているところ、控訴人X25、同X26を除く各控訴人は、被控訴人Y2が取締役を退任した後にa社との間で受講契約を締結しているから、仮に同被控訴人に監視義務違反が認められるとしても、受講契約締結後のa社の経営破綻による上記各控訴人の損害と同被控訴人の監視義務違反との間に相当因果関係を認める余地はない。

 また、控訴人X25は、平成14年11月25日にa社との間で受講契約(330ポイント)を締結し、その後、176ポイントを消化してレッスンを受け、平成17年3月27日に新たに210ポイントを購入する契約を締結しているところ、平成17年11月頃からレッスンの予約が取りづらくなったと述べている(甲B24の3)。控訴人X26は、平成14年6月17日にa社との間で受講契約(600ポイント)を締結し、その後、平成14年9月12日及び平成15年2月24日に新たにポイントを購入する契約を締結し、合計9ポイントを消化して中国語のレッスンを受けているところ、希望どおりのレッスンを受けることができ、授業内容も満足のいくものであったが、仕事が忙しくなったことと持病のためにポイントを消化することができなくなった旨述べている(甲B26の4)。そうすると、上記控訴人両名についても、被控訴人Y2の取締役在任期間中には、a社との受講契約に基づいて問題なくレッスンを受けているのであるから、その後のa社の経営破綻による上記控訴人両名の損害と同被控訴人の監視義務違反との間に相当因果関係を認める余地はないものというべきである。

 したがって、控訴人らの被控訴人Y2に対する第2次的予備的請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

 7 被控訴人監査役らに対する請求について

  (1) 主位的請求について

 控訴人らの被控訴人監査役らに対する主位的請求は、被控訴人取締役らに財政破綻状態を隠匿して受講契約を締結させたなどの違法行為があることを前提として、被控訴人監査役らが被控訴人取締役らの違法行為に加担したことが控訴人らに対する不法行為に当たるとして損害賠償を求めるものである。

 しかし、被控訴人取締役らに控訴人ら主張の違法行為があったと認められないことは、前記2のとおりである。

 したがって、控訴人らの被控訴人監査役らに対する主位的請求は、その前提を欠き、理由がない。

  (2) 第1次的予備的請求について

 控訴人らは、被控訴人監査役らに対する第1次的予備的請求として、①被控訴人取締役らの職務執行に違法性が認められるにもかかわらず、監査役会監査報告書に適法意見を付したこと、②被控訴人会計監査人らの監査の方法及び結果について相当意見を付したことについて、虚偽記載であり、これらにより、控訴人らが損害を被ったものであるとして、その賠償を請求する。

 しかしながら、①については、被控訴人監査役らが、被控訴人取締役らの違法な職務執行を認識しながら、ことさら適法意見を付したとは認められない。また、②についても、a社の本件会計処理方式や売上返戻引当金の計上の取扱いについて企業会計原則に反し違法とまでいえないことは前記2(1)ウ、エで検討のとおりであり、被控訴人会計監査人らの監査の方法及び結果について相当意見を付したことが虚偽記載と認めることもできない。

 したがって、被控訴人監査役らに対する第1次的予備的請求は理由がない。

  (3) 第2次的予備的請求について

 監査役は、取締役の業務執行が適法に行われているか否かを監査すべき職責を有し、監査のために取締役等に対して事業の報告を求めたり、会社の業務及び財産の状況を自ら調査する権限を有する。被控訴人監査役らが故意又は重大な過失によりその職務を怠り、それによって控訴人らに損害が生じた場合には、会社法429条1項、旧商法280条1項、266条ノ3第1項の規定により、その損害を賠償すべき責任を負う。

 控訴人らは、被控訴人Y1の違法な業務執行として、a社の財政状態を隠匿して控訴人らに受講契約を締結させたことや、資金流出回避義務違反行為、違法な資金調達を発生した損失の穴埋めを主張するが、前記各主張が採用できないことは前記4において検討したとおりである。

 他方、a社が本件解約清算方法を採用・維持するなど特定商取引法に反する業務運営を全社的に行い、その結果、本件最高裁判決や本件業務停止処分を受けて経営破綻に至り、控訴人らに損害を生じさせたことについては、被控訴人Y1の任務懈怠が認められるところであるから、この点について、被控訴人監査役らにおいて、監査役としての任務懈怠が存するかが問題となる。

 この点についてみると、監査役は、取締役が違法な業務執行を行っていることに疑いを抱かせる事実を知った場合には、調査権限を行使して違法な業務執行行為の存否につき積極的に調査すべき義務があると解されるが、そのような事実、すなわち調査の端緒となるべき事実もないのに、違法な業務執行の存否について積極的に調査すべき義務があるものとは認めがたい。a社の取締役会において、本件解約清算方法の採用・維持や、その他の特定商取引法への対応が議題として取り上げられた形跡はなく、a社の営業活動が特定商取引法の規定に種々反する形で行われ、受講者との間でトラブルが発生していること等を被控訴人監査役らが知り得たと認めるに足りる証拠も存しないことに照らすと、被控訴人監査役らにおいて、被控訴人Y1が特定商取引法違反行為を全社的に行わせていたことにつき調査権限を行使せず、これを結果的に放置する形になったことについて、重大な過失による任務懈怠があるとまでは認められない。

 したがって、控訴人らの被控訴人監査役らに対する第2次的予備的請求も理由がない。

 8 被控訴人会計監査人らに対する請求について

 控訴人らの被控訴人会計監査人らに対する各請求は、被控訴人取締役らが受講料につき本件会計処理方式を採用したこと及び売上返戻引当金を計上せず又は過少に計上したことが企業会計原則に反する違法な行為であることを前提として、被控訴人会計監査人らが前記の会計処理につき監査報告書で適法意見を付したことが被控訴人取締役らの違法行為(財政状態隠匿行為、資金流失回避義務違反行為)への加担又は監査報告書の虚偽記載に当たるとして、損害賠償を求めるものである。

 しかし、被控訴人取締役らの前記会計処理が企業会計原則に反する違法なものとは認められないこと、被控訴人取締役らに財政状態隠匿行為や資金流失回避義務違反行為が認められないことは、前記2~4において検討したとおりである。したがって、控訴人らの被控訴人会計監査人らに対する各請求は、いずれもその前提を欠き、理由がないものというべきである。

第4 結論

 以上のとおりであるから、①控訴人らの被控訴人らに対する主位的請求、第1次的予備的請求はいずれも理由がないが、②控訴人らの第2次的予備的請求のうち、被控訴人Y1、同Y3、同Y4、同Y5に対する請求は主文第1項(1)記載の限度で理由があり、その余の被控訴人らに対する請求は理由がない。したがって、原判決中、被控訴人Y1、同Y3、同Y4、同Y5に対する第2次的予備的請求に関する部分を前記の限度で変更し、控訴人らのその余の控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。