大阪地裁平成24年6月7日判決(原審)


■判例 大阪高裁平成26年2月27日判決〔外国語会話教室を経営していた株式会社が破産した場合に,代表取締役の遵法経営義務違反及び取締役の監視義務違反が認められた例〕

審級関係

大阪高裁平成26年 2月27日判決(控訴審)

主文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。

 

 

事実及び理由

第1 請求

 1 主位的請求

  (1)被告らは,別表1の1原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成19年10月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (2)被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y9,被告Y10,被告Y7,被告Y8及び被告Y11監査法人は,別表1の2原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成19年10月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3)被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8及び被告Y11監査法人は,別表1の3原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成19年10月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 予備的請求

  (1)第1次的予備的請求

   ア 被告らは,原告X22に対し,連帯して4万6200円及びこれに対する平成21年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   イ 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8及び被告Y11監査法人は,別表2原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (2)第2次的予備的請求

   ア 被告らは,別表3の1原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   イ 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9,被告Y10及び被告Y11監査法人は,別表3の2原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   ウ 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7,被告Y8及び被告Y11監査法人は,別表3の3原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

   エ 被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y7及び被告Y8は,別表3の4原告欄記載の各原告に対し,連帯して同表損害額欄記載の各金員及びこれらに対する平成21年6月10日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

 1 事案の概要

  (1)本件は,株式会社a(以下「a社」という。)が経営していた英会話学校の元受講生が,a社の代表取締役ないし取締役,監査役及び会計監査人であった被告らに対し,原告らの各受講契約締結時に,a社の財政状態が授業を継続して提供できるようなものではなく,解約しても解約清算金を返還できない状態であるのに,被告らがこれを隠匿し,あるいは隠匿している状態を改めさせずに,原告らに受講契約を締結させ,また,仮に,上記各契約締結時において,a社が上記のような財政状態でなかったとしても,その後に被告らがa社の資金を流出させ,あるいは流失させることを防止しなかったことにより,a社の経営が破綻して受講することができず,また,受講契約の解約時に受講料等の返金を受けることができなくなったなどとして,被告らについて,以下の各責任原因に基づき,未受講の受講料等相当額の損害賠償と,これに対する,主位的請求については不法行為の日の後である平成19年10月26日から,予備的請求については,訴状送達日の後である平成21年6月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。

  (2)代表取締役ないし取締役であった被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4及び被告Y5について

   ア 主位的請求

 不法行為(民法709条,719条(主位的に1項,予備的に2項))

   イ 予備的請求

 (ア)第1次的予備的請求

 取締役の第三者に対する責任(旧商法266条ノ3第2項・会社法429条2項1号ロ)

 (イ)第2次的予備的請求

 取締役の第三者に対する責任(旧商法266条ノ3第1項・会社法429条1項)

  (3)監査役であった被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10について

   ア 主位的請求

 不法行為(民法709条,719条(主位的に1項,予備的に2項))

   イ 予備的請求

 (ア)第1次的予備的請求

 監査役の第三者に対する責任(旧商法特例法18条の4第2項,旧商法266条ノ3第2項,会社法429条2項3号)

 (イ)第2次的予備的請求

 監査役の第三者に対する責任(旧商法280条1項,266条ノ3第1項,会社法429条1項)

  (4)会計監査人であった被告Y11監査法人及び被告Y12監査法人について

   ア 主位的請求

 不法行為(民法709条,719条(主位的に1項,予備的に2項))

   イ 予備的請求

 (ア)第1次的予備的請求

 会計監査人の第三者に対する責任(旧商法特例法10条,会社法429条2項4号)

 (イ)第2次的予備的請求

 会計監査人の第三者に対する責任(会社法429条1項)

 2 本件の争点

 本件の争点は,は,①a社が粉飾決算(企業会計原則に反して,前受受講料を前受収益として計上しないことにより,債務超過状態であることを隠した。)をして原告らとの間に受講契約を締結させたか,②受講契約の締結後,無謀な事業拡大路線を取り経営を破綻させたか,③a社の代表取締役ないし取締役であった被告らは,そのような業務執行をし,あるいはそれに対する監督を怠ったことについて義務違反があるか(被告Y1以外の被告らについては,前提として,そもそも名目的取締役に過ぎないか否かも争点となる。),④a社の監査役であった被告らは,業務監査の職務を果たしたか否か,⑤会計監査人であった被告らは,監査義務を果たしたか否か,である。

 3 前提事実

  (1)当事者等

   ア a社について(甲A1,5,乙ア44,45,48の1ないし7,乙ア49の1ないし8,乙ア50の1ないし7)

 (ア)a社は,外国語会話教室の経営等を目的とする株式会社である。

 (イ)被告Y1は,昭和56年8月に有限会社bを設立した後,平成2年8月,大阪市北区に株式会社a1(以下「大阪市北区のa1社」という。)を設立し,その後,有限会社bの事業を大阪市北区のa1社に営業譲渡した。

 a社は,被告Y1が,株式会社cを買収し,平成5年2月3日,同社の商号を株式会社aに変更した上,平成8年7月1日に大阪市北区のa1社を吸収合併したものである。

   イ 原告ら

 原告らは,a社との間で受講契約を締結した者である。

   ウ 被告ら

 (ア)被告Y1は,a社の創業者であり,創業以来,a社が会社更生手続開始の申立てをした直前に解任されるまでの間,代表取締役の地位にあった者である。

 被告Y2は,商業登記簿上,平成8年6月29日から平成15年8月1日まで取締役の地位にあった者,被告Y3は,平成5年2月3日に取締役に就任し,平成19年10月25日から代表取締役の地位にあった者,被告Y4は,平成8年6月29日に取締役に就任し,平成19年10月25日から代表取締役の地位にあった者,被告Y5は,平成18年6月29日から取締役に就任し,平成19年10月25日から代表取締役にあった者である(以下,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4及び被告Y5の5名を併せて「被告取締役ら」ということがある。)。(甲A2,乙ア49の6,乙ア50の4)

 (イ)被告Y6は,平成7年10月11日にa社の監査役となり,平成9年6月から常勤監査役の地位にあった者,被告Y7は,平成9年6月27日から平成18年6月29日までに監査役(社外監査役)の地位にあった者,被告Y8は,平成10年6月26日から平成18年6月29日まで監査役の地位にあった者,被告Y9及び被告Y10は,いずれも平成18年6月29日から監査役及び監査役(社外監査役)であった者である(以下,被告Y6,被告Y7,被告Y8,被告Y9及び被告Y10の5名を併せて「被告監査役ら」ということがある。)。【争いがない】

 (ウ)被告Y11監査法人は,平成8年のa社の株式の店頭公開前に会計監査人となり,平成18年11月2日までその任にあった者,被告Y12監査法人は,平成18年11月3日に一時会計監査人となり,平成19年4月1日から会計監査人であった者である(以下,被告Y11監査法人及び被告Y12監査法人を併せて「被告会計監査人ら」ということがある。)。【争いがない】

  (2)原告らの受講契約締結と受講料等の支払

 原告らは,別紙損害明細一覧表1及び2の「契約年月日」欄記載の日に,a社と受講契約を締結し,同日又はその後に,同一覧表記載のとおり,受講料等を支払い,又は信販会社に対して信販手数料を支払った。【争いがない】

  (3)a社が行っていた会計処理

 a社の売上高のうち,主たる収入である駅前留学サービスの収入は,入学金と受講料から成り立っており,a社は,この受講料の45パーセントを「△△システム登録料」(以下「システム登録料」という。),55パーセントを「△△システム利用料」(以下「システム利用料」という。)とした上で,入学金全額とシステム登録料を契約時に売上げ(収益)計上し,システム利用料については,契約期間に対応した期間の経過に応じて収益に均等計上していた(以下「本件会計処理方式」という。)。

  (4)平成13年3月期から平成19年3月期までの決算状況

 a社の決算書によれば,平成13年3月期は営業利益6億0183万9000円,経常利益6億3796万4000円,平成14年3月期は営業利益9071万9000円,経常利益4億1388万3000円,平成15年3月期は営業利益10億1392万2000円,経常利益10億2048万4000円,平成16年3月期は営業利益17億0301万3000円,経常利益14億5101万4000円,平成17年3月期は営業利益5億9060万5000円,経常利益8億7347万4000円であったのに対し,平成18年3月期は営業損失19億5454万1000円,経常損失15億8888万3000円,平成19年3月期は営業損失21億6444万7000円,経常損失12億6734万4000円であった。(甲A9ないし15)

  (5)経済産業省及び東京都による立入検査

 a社は,平成19年2月14日,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)違反及び東京都消費者生活条例違反の疑いにより,経済産業省及び東京都の立入検査を受け,同月16日,新聞各紙で報道された。(甲A5)

  (6)a社が定める中途解約時の受講料の清算に関する規定に関する訴訟

 解約金精算金請求訴訟において,最高裁判所は,平成19年4月3日,a社が定めている受講生が受講開始後に受講契約を解除した場合における受講料の清算に関する規定は,特定商取引に関する法律49条2項1号に定める額を超える額の金銭の支払を求めるものであり,無効であるとする判決をした。(最高裁判所第3小法廷判決平成17年(受)第1930号)(甲A6)

  (7)a社に対する行政処分

 経済産業省は,平成19年6月13日,a社に対し,特定商取引法違反(書面記載不備,誇大広告,不実告知等)を理由として,同月14日から同年12月13日までの6か月間,1年を超えるコース及び授業時間数が70時間を超えるコースの新規契約に関する勧誘,申込受付及び契約締結の各業務について,業務停止を命じ,さらに,同業務停止命令に付随して,厚生労働省は,同年6月15日,雇用保険法60条の2第1項に基づき,教育訓練給付金支給の対象となる教育訓練としての指定を取り消した。(甲A5,52)

  (8)a社に対する破産手続の開始

 a社は,平成19年10月26日,大阪地方裁判所に対し,会社更生手続開始の申立てを行い,同裁判所は,同年11月26日,破産手続を開始する決定をした。(甲A5,弁論の全趣旨)

 4 争点及びこれに対する当事者の主張

 〈主位的請求(共同不法行為に基づく損害賠償請求)〉

  (1)被告取締役らの不法行為

 【原告らの主張】

   ア 財政破綻状態の隠匿による受講契約の締結

 (ア)a社の財政破綻

 a社は,被告取締役らの後記イ(ア)の資金流出回避義務違反の結果として,遅くとも平成11年3月期には,企業会計原則に適合した会計処理を前提とすると,13億円程度の債務超過であり,さらに,平成12年3月期は26億円程度の債務超過,平成13年3月期は46億円程度の債務超過と3期連続の債務超過であった。

 a社は,平成8年から日本証券業協会に店頭登録(平成16年からはジャスダック上場)をしていたため,証券取引法24条1項に基づき,有価証券報告書を当該事業年度経過後3か月以内に内閣総理大臣(金融庁)に提出することを義務づけられており,同報告書は,財務局や証券取引所で閲覧することが可能であった。また,a社は,新聞紙上等に財務諸表を公表していた。

 したがって,a社が平成11年6月に債務超過の有価証券報告書を金融庁に提出し,財務諸表を新聞紙上等に公表していれば,a社が債務超過に陥ったことは,瞬時かつセンセーショナルに報道され,a社の債務超過を知った受講生が中途解約の申出に殺到し,a社は中途解約金の返金による現金預金の流出を避けることはできなかったし,長期かつ多額の前払い式チケットの販売が事実上不可能となって,現金収入が激減することも必至であった。

 平成11年3月期においては,a社には未使用チケットが354億円規模で存在したのに対し,a社の現金預金は86億円弱しかなかったから,受講生が中途解約に殺到すれば,a社の現金収入が激減して資金ショートに陥り,倒産に至る可能性が極めて高かった。そして,多額の未使用チケットを抱えたまま,現金収入が激減するため,a社において経営を改善し,平成13年3月期までに債務超過を回避することは不可能であった。

 万が一,a社が平成13年3月期まで生き延びることがあったとしても,a社が当時店頭登録していた日本証券業協会では,店頭売買有価証券の登録及び価格の公表等に関する規則11条2項8号により,「3年連続の債務超過」が登録取消基準と定められているため,平成11年3月期から平成13年3月期まで3期連続して債務超過にあったa社は,平成13年6月に店頭登録が取り消されることになる。そして,平成11年3月期の債務超過が公表され,それ以降の3期連続の債務超過,信用状態の悪化の露呈により,平成13年3月期における442億円規模の未使用チケットについて中途解約申出が殺到し,長期大量の前売りチケットの販売が極端な不振に陥ることは明らかであるから,a社は遅くとも平成13年6月には倒産していたといえる。

 (イ)a社の会計処理方式の違法性・不当性及びそれによる負債の隠匿

  a 前記(ア)の財政破綻状態の隠匿を可能であったのは,本件会計処理方式を採用したからである。

 すなわち,被告取締役らは,前受受講料の45パーセントを,受講生の授業消化率と関わりなく即時に売上計上し,残りの55パーセントについても授業消化率と関わりなく契約期間の経過に対応して均等配分するという本件会計処理方式(すなわち,授業未提供分の前受受講料の多くの部分を前受収益として負債計上しない方式)を採用するとともに,必要な引当金を的確に計上せず(すなわち,①平成17年3月末決算期以前は,解約清算金に関する引当金が全く計上されておらず,②平成18年3月末決算期以降は,引当金が計上されているが,現実の解約率及び解約清算額と乖離した過少な引当金額であったものであり,また,③平成17年以降は,解約清算金の計算方法に関する多数の訴訟において敗訴が続いていたのであるから,遅くとも平成18年3月末決算期以降,解約清算金に関する引当金を計上するに当たっては,解約清算金の計算方法に関して,a社の主張が認められなかった場合についても考慮した引当額が計上されるべきであったのに,そうした考慮は何らなされなかった。),企業会計原則に反する違法・不当な決算書を作成していた(前者について企業会計原則第2,3B,後者について企業会計原則注解18)が,これにより,上記(ア)のa社の真実の財政状態が計算上表示されず,多額の負債の存在が原告らに隠匿されていた。

  b 本件会計処理方式が違法である理由の骨子は,以下のとおりである。すなわち,システム登録料に該当する費用項目は,経常的継続的に発生する営業費用であって,いわゆる初期費用にあたらないし,また,a社が提供するサービスは,ネイティブの講師やテレビ電話機器と一体となって提供されることに意味があるから,受講生が,レッスンを消化しない段階で,システムを利用できる環境だけを享受することなどできない。そして,企業会計原則によれば,売上高は,実現主義の原則に従い,商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限るとしているのであるから(甲A53,企業会計原則第2,3B),システム登録料のうち,有効期間が3年のものについては,初年度に売上に計上できるのは3分の1であるにもかかわらず,本件会計処理方式は,45パーセントを計上している点で,企業会計原則の実現主義に反するのである。

 (ウ)受講契約の締結と原告らの損害発生

 被告取締役らは,上記(ア)のa社の債務超過状態を上記(イ)の方法で隠匿し,授業を継続して提供できず,解約の際に解約清算金を返還できない状態であることを隠して,原告らに対して受講契約を締結させ,受講料等相当額の損害を被らせた。

 a社が平成13年6月に倒産必至の状態に陥っていたことを知っていれば,原告らが受講契約を締結することはなかったから,被告らの企業会計原則に反する会計処理と原告らの損害との間には,相当因果関係がある。

   イ 原告らの受講契約締結後の債権侵害

 (ア)資金流出回避義務違反

  a 取締役は,会社に対して忠実義務及び法令遵守義務を負っているところ,会社の営業活動は,取引相手の存在を当然の前提としているから,会社が取引相手に対して負担した義務を履行できるように会社経営を行うことは,取締役の最低限の義務であり,経営に関する取締役の決定等が明白に違法であって,その結果,取引相手の会社に対する権利が侵害された場合には,取締役は,故意又は過失がある限り,取引相手に対する権利侵害について一般不法行為責任を負う。

 会社が取引相手に対し,その履行期に契約上の義務を履行するためには,義務を履行するのに必要な資金を確保しなければならない。また,会社が法律上の制度である以上,法令及び企業会計原則を遵守した計算を行い,これに基づく決算書類を作成することが当然の前提となる。これら法令・会計原則に違反した会計処理と,かかる会計処理を前提として経営を行った結果,必要資金に不足を来たし,取引相手への義務の履行が不可能となった場合には,それをきたした取締役の行為は,第三者(取引相手)との関係でも違法と評価すべきである。

  b a社は,契約期間が長期になればなるほど,1授業当たりの単価が安くなるという方式を採用して,受講生をできる限り長期の契約締結に誘導し,多額の受講料を前払で受領するという経営方針をとっていた。こうした経営方針の下で,a社は,受講生に対し,長期間にわたって授業の役務を提供する債務を負うことになる。そして,a社と受講生との契約は,特定商取引法上の特定継続的役務提供契約であり,契約の性質上当然に中途解約が予定されるから,a社は,中途解約をした受講生に対する前受受講料の清算を予定した資金計画を講ずる必要があったのであり,経営方針を決定する被告取締役らは,前受受講料の流出を回避し,受講生の解約率等に即して,授業のための経費や解約清算金のための資金を適切に社内に留保すべき資金流出回避義務を負っていたというべきである。加えて,a社と取引関係に立つのは一般消費者であるから,資金確保について配慮する高度の注意義務を負うというべきである。

  c しかるに,被告取締役らは,上記ア(イ)記載の方法により,企業会計原則に適合しない本件会計処理方式によって多額の負債を隠匿し,利益の水増しを行いながら,必要な資金を留保することなく,莫大な宣伝広告費をかけたり,無謀に新規教室を開設したりするなど,実収入に到底見合わない経費を支出し,資金を流出させた。

  d 仮に,原告らがa社と受講契約を締結した時点において,その財政状態が,破綻を回避し得る程度のものであったとしても,原告らの受講契約締結時から,遅くともa社の会社更生手続申立時点までの間の被告取締役らの上記資金流出回避義務違反により,a社は,遅くとも平成19年10月26日までには,授業を継続して提供することができず,解約の際には解約清算金を返還できない状態となり,原告らは,a社の会社更生手続申立時点において,未受講の受講料等相当額の損害を被った。

 (イ)倒産回避・遵法経営義務違反

  a 上記(ア)aのとおり,取締役は,会社が取引相手に対する契約上の義務を履行できるように,法令を遵守して経営を行う義務を負っており,法令に違反する経営を行った結果,会社の信用が毀損される等して倒産に至り,その結果,会社の取引相手が損害を被った場合には,会社の取引相手に対し,一般不法行為責任を負う。

  b a社が大半の受講生と締結していた長期間の受講契約は,もとより受講契約期間中に倒産しないことが当然の前提となるものであるところ,a社は,新規の申込者がいなければ,たちまちキャッシュ・フローが回らなくなる財務状態にあったものであるから,被告取締役らは,監督官庁から業務停止命令や行政指導を受けるなどして,信用を損ない,新規契約申込者が途絶えたり,減少することによって倒産に至ることのないよう,法令を遵守した経営を行う義務を負っていた。また,中途解約時における解約清算方法が違法とされた場合,予測していない巨額の解約清算金債務が発生し,直ちに経営が立ちゆかなくなることが確実であったから,かかる事態が生じないよう,解約清算方法について法令を遵守する義務を負っていた。

  c しかるに,被告取締役らは,①a社における解約清算方法が違法であることを認識し,これが報道等で顕在化すれば,受講生から一斉に返還請求を受けるなどして経営が破綻することを知悉しており,現に消費者センターや消費者団体から解約清算方法が法令に違反するとの指摘を繰り返し受け,受講生から訴訟提起される等していたにもかかわらず,何ら是正することなくこれを放置し,②a社が勧誘時の説明に反して希望の時間にレッスンの予約がとれない事態となる等,特定商取引法上契約取消及び行政処分の対象となる不実告知,重要事項の不告知等の違反状態が発生していたにもかかわらずこれを放置し,③a社の法定書面の記載に行政処分の対象となる不備があり,不備書面の交付を受けた受講生はクーリング・オフ期間の経過後も契約を解除できる状態となっていたのにこれを放置し,④a社が中途解約時において法令に従った中途解約に応じず,履行を遅延し,行政処分の対象となり得る状況であったにもかかわらず,これを放置し,経営を適正化するための措置を講じなかった。

 そのため,a社は,平成19年4月,最高裁判所において解約清算方式が無効であるとの判決を受けたばかりか,同年6月,特定商取引法違反による一部業務停止処分を受けて,信用が失墜したあげく,平成19年10月26日,会社更生手続開始を申し立て,結局破産手続開始決定がなされた結果,受講生に対し授業を継続して提供することができず,解約の際には解約清算金を返還できない状態になったことにより,原告らは,未受講の受講料等相当額の損害を被った。

 (ウ)仮に,資金流出回避義務違反又は倒産回避・遵法経営義務違反のいずれか一つだけでは,授業の役務を提供することができず,解約の際に解約清算金を返還できない状態にならなかったとしても,両者が相まって,授業の役務を提供することができず,解約の際には解約清算金を返還できない状態になったといえるから,原告らは,未受講の受講料等相当額の損害及び入学金その他分割手数料相当額の損害を被った。

   ウ 被告取締役らの共同不法行為(関連共同性(民法719条1項)又は幇助(民法719条2項))

 (ア)被告Y1は,a社を専制支配し,その業務執行において主導的な立場で,上記アの財政破綻状態の隠匿による契約締結行為,上記イ(ア)の資金流出回避義務及び上記イ(イ)の倒産回避・遵法経営義務に違反する行為を行ったことについて,不法行為責任(民法709条)を負い,その余の被告取締役らは,被告Y1の業務執行を監視すべき法令上の義務を履行せずに被告Y1の行為を容認していたことについて,共同不法行為責任(民法719条1項又は2項)を負う。

 (イ)被告Y2の責任の範囲

 a社では,違法な会計処理やこれを前提とした違法な経営が前年度を踏襲する形で継続されてきた。被告Y2は,a社店頭公開時の幹事社である野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)の担当者として,被告Y1から請われて取締役に就任し,本件会計処理方式の問題点について理解していながら,何らそれを指摘することなく,その在任中に違法な会計処理,ひいては違法な経営を行ってきたものである。そのため,被告Y2は,退任後もa社が従前と同様に違法な会計処理及び違法な経営を実施して受講生に損害を生じさせることを十分に予想できたのであって,この因果の流れを除去すべき義務を負っていた。被告Y2は,かかる義務を履行していないのであるから,刑法理論における「共犯からの離脱」と同様,被告Y2の在任中の違法行為である誤った会計処理の影響下において契約した受講生らに対する責任を免れない。

 (ウ)被告Y3,被告Y4及び被告Y5は,名目的取締役にすぎない旨主張するが,同人らはいずれもa社の従業員であり,かつ担当部門の長としてa社の経営に関与していたものであるから,理由がない。

 【被告Y1の反論】

   ア 被告Y1は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ a社は,被告Y3,被告Y4及び被告Y5が起こしたクーデターによって倒産したものである。

 a社が平成19年3月期の決算において赤字になることは,そのころには既に明らかになっていたところ,被告Y1は,教室の統廃合を進め,資本を増強する方針を決定し,a社のメインバンクであった三井住友銀行の助言に従って,大和SMBC証券とファイナンシャルアドバイザリー契約(同社が支配ないしは提携している幅広い多数の企業の中から事業提携するのに適当な企業を紹介・斡旋する契約であり,増資実現まで全て面倒をみるという趣旨の契約)を締結した。さらに,被告Y1は,自らの幅広い交友関係を生かし,八方手を尽くして資本充実のための努力を続けた結果,同年9月20日ころ,「リッチペニンシュラ トレーディング リミテッド」と「タワー スカイ プロフィッツ リミテッド」との間で,上記2社が合同で70億円をa社に出資する合意が成立し,同年10月24日,上記2社から申込証拠金7000万円がa社の銀行口座に入金された。このように,a社は,50億円から100億円規模で増資が着々と進められていたのであり,倒産必至の状態ではなかった。

 しかし,同月25日,被告Y1がいないところで,臨時取締役会が開催され,被告Y1から代表権を奪い,被告Y3,被告Y4及び被告Y5が代表者に就任する旨の決議がなされると同時に,その内容がマスコミに伝達され,翌26日朝には,会社更生手続開始申立書が大阪地方裁判所に提出された(以下「本件クーデター」という。)。本件クーデターにより,上記増資が潰れ,その他被告Y1が追求していたあらゆる出資の道を閉ざされた。このように,被告Y3,被告Y4及び被告Y5の3名の取締役が,意図的にa社の全ての資金調達の途を消滅させた結果,a社は倒産したのである。本件クーデターは,上記3名の被告以外にとって不可抗力であるから,a社の倒産について,その余の者には,法律上の責任はないというべきである。

   ウ 本件クーデター以前に,a社が倒産必至であったとの原告らの主張は,原告ら主張の計算方法で会計の計算をすること及び経営陣が何らの対策もとらなかったことの2つの仮定を前提とするものである。しかし,そのような前提は取り得ない。

   エ 前受受講料の45パーセント相当額を入金と同時に売上げとして計上することは,単なる会計処理上の妥当性の問題にすぎず,抽象的規定である企業会計原則に違反するか否かという問題ではない。

 a社では,受講料の45パーセントをシステム登録料として契約時(入学時)に収益計上していたところ,システム登録料は,個々のレッスンの前提として,受講生が,優れた語学学習環境,すなわち優秀な講師(ネイティブスピーカー)により,利便性の高い場所的好条件の教室で受講できることの対価として支払われるものであり,上記の優れた環境を創出するための費用は既に支出されているから,企業会計原則の費用収益対応の原則(企業会計原則第二・一本文)に適合させるために,支出時に近い時期,すなわち入学時に収益計上することとしたものである。

 原告らが主張する企業会計原則の実現主義の原則は,正に「原則」であり,一種の指針であって,よほど極端な場合でない限り,「企業会計原則に反して違法である」などということはあり得ない。

 なお,受講は毎年連続しているから,受講生数が変動しない限り,連続する数年単位でみれば,本件会計処理方式をとっても,原告らのいう全額均等方式をとっても,結局収益計上する額は同じになる。

 本件会計処理方式は,上場(店頭登録)に向けて採った対策であるところ,上場の主幹事社であった野村證券の審査部とも協議を重ね,厳重な審査を経て完成させたものであり,さらに,店頭登録をする日本証券業協会の審査においても十分に説明をして承認を得ている。

 被告Y1は,会計の専門家である監査法人の承認の下で会計処理をしてきたのであるから,その処理そのものについて被告Y1が責任を問われることはあり得ない。

   オ 原告らが,被告らの違法行為であると主張するものは,いずれも経営判断に属することであり,業務執行者の裁量権の範囲内の行為であって,違法とはならない。

   カ 相被告らの主張は,被告Y1の主張に反しない限りにおいて,その全部を援用する。

 【被告Y2の反論】

   ア 被告Y2は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ 登記簿上,被告Y2が取締役を退任したのは,平成15年8月1日であるが,実質的に,同年4月1日から取締役の任になかった。

 原告らのうち,被告Y2が退任した日までにa社と契約したのは,原告らの主張によっても2名のみであり,この2名のうち,原告X25は被告Y2退任後にa社と再契約をしており,また,原告X26は合計1530ポイントの3つの契約をしながら,消化したのはわずか9ポイントであって異常というべきである。そして,両名の損害は,a社の倒産によってではなく,ポイントの未消化によって発生したものであるから,原告Y2に責任はない。

 すなわち,被告Y2が取締役在任中になされた原告X25及び原告X26の契約は,いずれも,遅くとも平成18年2月24日には契約期限が到来しているものであり,これは,a社の倒産より約1年半も前のことである。この当時a社は,授業という給付の提供を行っていたから,原告X25及び原告X26は,契約期限内に授業を受け,ポイントを消化することができた。また,被告Y2在任中になされた原告X25及び原告X26の契約はいずれも,登記簿上被告Y2が取締役を退任したときである平成15年8月1日を基準としても,その後最も短いもので1年10か月以上,最も長いものにおいては,2年6か月以上の残余期間があったものであり,これらの期間のポイントの消化状況については,被告Y2は,何ら関与できないものであって,被告Y2に,責任を負わせる理由はない。

 その外の原告らは,被告Y2の退任後に受講契約を締結しているものであるから,責任を負わない。被告Y2の退任後,a社のその他の取締役,監査役又は会計監査人に何らかの善管注意義務違反又は任務懈怠があったとしても,被告Y2は責任を負わない。

   ウ 被告Y2は,本件会計処理方式の決定には一切関与していないから,本件会計処理方式について問責されなければならないような先行行為又は刑法理論における「共犯からの離脱」が前提とするような実行行為や加担行為は存在しない。また,被告Y2の取締役在任中に,a社の破綻に直接つながるような経営判断がなされたことはなかった。

 被告Y2の取締役在任中,計算書類や財務諸表,有価証券報告書上は,a社の財務状態や営業状態に問題はなく,a社の連結キャッシュ・フローは健全そのものであって,被告Y2は,計算書類や財務諸表を会計監査人及び監査役が適法,適正として承認したことを信頼しており,a社が破綻することを予測できない状況であったし,仮にこれを予見し,対策をとるとすれば,かえって取締役として会社経営を合理的な理由もなく阻害する不適正なものとして,非難されるべき行為といえる。

 一般に店頭公開会社又は株式上場会社における取締役は,当該会社において採用している会計処理方式について,独自に企業会計原則への適合性を調査,検討することの任務,注意義務を負うものではなく,そして,被告Y2在任中に適合性を調査,検討しなければならない義務を生じさせる特段の事情は存在しなかった。

   エ 被告Y2は,取締役在任中,毎月1回は取締役会を開催するように求め,現実に取締役会が開催されていたものであり,被告Y2は,取締役会開催に際しては,事前準備もして,直近の財務,経理に関する月次報告を行っており,取締役としての注意義務を十分に果たしていた。

   オ 相被告の主張のうち被告Y2に有利なものは,被告Y2の主張に反しない限りにおいて,その全部を援用する。

 【被告Y3,被告Y4及び被告Y5の反論】

   ア 被告Y3,被告Y4及び被告Y5(以下,併せて「被告Y3ら」ということがある。)は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ 被告Y3及び被告Y4が一定期間a社の取締役であったことは認めるが,就任期間は知らない。

 a社は,被告Y1のワンマン企業であって,被告Y3,被告Y4及び被告Y5は,名目的,形式的に取締役に就任していたにすぎず,取締役として業務執行に関する意思決定に関与したことはないし,そもそも,取締役としての権限はなく,取締役会を通じるなどして被告Y1の業務執行を監視を行う前提を欠いた立場にあった。

 被告Y3及び被告Y4は取締役に就任した後も従業員の時と給料が変わらず,被告Y5も役員報酬を受領していなかったのであり,被告Y3らは,a社において取締役としての待遇を受けていなかった。

 また,平成17年12月以前に取締役会が開催されたことはなく,平成18年1月以降も取締役会が開催されることは少なく,開催されても実質的な議論がなされることはなかった。

   ウ 教室の拡大,講師の増員や広告戦略等は,そもそも経営判断に関わる事項であり,取締役に広範な裁量が与えられており,それが忠実義務等に反すると判断される場合は限定されている。

   エ 被告Y3らは,財務関係の業務に関与しておらず,a社の財務状況を正確に把握していなかったため,そもそもa社が倒産必至の状況に陥っているとの認識を有していなかった。被告Y3らが,a社が倒産必至の経営状況であるとの認識を抱くに至ったのは,平成19年6月の経済産業省による行政処分以降である。

 なお,被告Y3らは,平成19年7月以降,a社が経営破綻することを強く懸念し,自らの判断で,名目的に就任していた取締役を辞任することやa社を存続させるための法的手続(会社更生,民事再生,破産)について助言を得るべく複数の法律事務所に相談していたものであり,被告Y1が主張する,a社の増資を阻止したり,乗っ取りを企てたりしたことはない。

   オ 被告Y3らは,a社が売上の計上に関してどのような会計処理方式を採用しているかを知り得る立場になく,実際にも知らなかった。被告Y3らは,専門家である監査法人が了解していた本件会計処理方式の不当性を判断できる能力や経験も有していなかった。

 また,被告Y3らは,名目的,形式的な取締役であったから,仮に本件会計処理方式が不正であったとしても,その是正を実行する権限も義務もない。

   カ 平成18年当時,被告Y4及び被告Y5は,a社の解約清算方法について最高裁判所で敗訴判決が出されたことを知らなかったし,被告Y3も,a社が控訴・上告していることから,上記解約清算方法が違法であるとの認識を持たなかった。

   キ 相被告らの主張は,被告Y3らの主張に反しない限りにおいて,その全部を援用する。

  (2)被告監査役らの不法行為

 【原告らの主張】

   ア 監査役の権限・義務

 (ア)権限・義務の概要

 監査役設置会社における監査役は,取締役の職務の遂行を監査し,その遂行のため会社の業務及び財産の状況を監査する権限(会計監査権限,業務監査権限)を有する(会社法381条1項,2項,旧商法274条1項,2項)。監査役は,これらの監査権限を適切に行使することにより,会社の健全経営を確実ならしめるとともに,会社と利害関係を有する第三者の法的利益を会社が侵害することがないようにすべき義務がある。

 (イ)取締役会における監査役の役割とその重要性

 監査役は,取締役の不正行為,法令,定款に違反する事実,著しく不当な事実等があると認めるときは,遅滞なくその旨取締役会に報告する義務を負っており,また,取締役会に出席し,必要があると認めるときは意見を述べる義務を負っている(会社法382条,383条1項,旧商法260条の3第1,2項)。また,必要であれば,取締役の法令,定款に違反する行為について差止めを求めることもでき(会社法385条1項,旧商法275条の2第1項),監査役の取締役会での言動は,会社にとって極めて重要なものである。

 このように,法が監査役に対し強力な権限を与え,重大な責任を課しているにもかかわらず,監査役が,取締役の違法な職務執行の存在を知りつつも,取締役会でその旨の報告や意見陳述を怠ることは,違法な取締役の行為を是認することとなり,取締役において適法性の承認が得られたとの口実の下,違法な職務執行を改めることなく継続する結果を招来することを意味する。

 (ウ)監査役会監査報告の社会的信用性

 監査役会監査報告(ただし,会社法施行前は「監査役会監査報告書」であり,以下,両者を区別することなく「監査役会監査報告(書)」という。)は,監査役が,取締役,使用人等に対する事業報告請求権,会社の業務,財産の状況に対する調査権等の監査権限の行使結果や,会計監査人からの報告内容等に基づいて作成したものである。

 業務監査の結果,取締役の職務執行に違法性が認められるときは,監査役は不適法意見を述べ,会計監査の結果,会計監査人の監査の方法又は結果が不相当であると認められるときは,会計監査人の監査の方法または結果についての不相当意見を述べなければならない(会社法381条1項後段,会社法施行規則129条1項3号,会社計算規則127条2号,旧商法特例法14条1項,3項他)。

 また,監査役が,監査役会監査報告(書)作成に当たっての義務を怠り,記載すべき事項を記載しないなど虚偽の記載をしたときには,過料に処せられることになっている(会社法976条7号,旧商法特例法30条1項6号)とともに,監査役は損害賠償責任を負うとされている(会社法429条2項3号,423条1項,旧商法特例法18条の4第2項,旧商法277条)。

 このような法規制により,監査役会監査報告(書)の正確性が担保され,その結果,監査役会監査報告(書)には,社会的に高度の信用性が認められている。

 (エ)被告監査役らの認識

 被告監査役らは,本件会計処理方式が企業会計原則に違反していることを認識していた。

   イ 被告取締役らの財政破綻状態の隠匿による契約締結行為への加担

 (ア)被告取締役らの財政状態隠匿による契約締結行為

 上記(1)【原告らの主張】アで主張したとおり,被告取締役らはa社の財政破綻状態を隠匿して原告らに受講契約を締結させた。

 (イ)会計監査義務違反による被告取締役らの財政破綻状態の隠匿行為への加担

 被告監査役らは,取締役会において,被告取締役らが上記(1)【原告らの主張】ア(イ)記載の方法により企業会計原則に反する違法・不当な決算書を作成していることに関する報告や意見陳述を怠り,かえって監査役会監査報告(書)において,企業会計原則違反の存在を看過した被告会計監査人らによる監査の方法及び結果が相当であるとの意見を述べるという会計監査義務違反により,被告取締役らの上記隠匿行為に加担した。

 (ウ)業務監査義務違反による被告取締役らの契約締結行為への加担

 被告監査役らは,取締役会において,上記(1)【原告らの主張】ア(ア)の財務状態の下での新規受講契約の締結が受講生らに損害を発生させる危険性に関する報告や意見陳述を怠り,かえって監査役会監査報告(書)において,新規受講契約の締結をやめようとしない被告取締役らの職務執行について適法意見を述べるという業務監査違反を続けることにより,新規受講契約の締結行為に加担した。

 (エ)被告監査役らの共同不法行為(関連共同性(民法719条1項)又は幇助(民法719条2項))

 被告監査役らは,以上のように,会計監査及び業務監査義務を怠ったことによって,被告取締役らの財政破綻状態の隠匿による契約締結行為に加担したものであり,共同不法行為責任(民法719条1項または2項)を負う。

   ウ 原告らの受講契約締結後の債権侵害

 (ア)被告取締役らによる資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反

 上記(1)【原告らの主張】イのとおり,被告取締役らの資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反行為により,原告らは,授業の役務の提供を受けることも,解約清算金の返還を受けることもできず,未受講の受講料相当額等の損害を被った。

 (イ)被告監査役らによる取締役らの資金流出回避義務違反への加担

 上記(ア)の被告取締役らの資金流出回避義務違反行為は,被告監査役らが,取締役会において,被告取締役らの職務執行が適法であるとの報告や意見陳述をし,また,監査役会監査報告(書)において,被告取締役らの職務執行に対する適法意見,被告会計監査人らの会計監査の方法及び結果に対する相当意見を出さなければ,成立かつ継続することは到底不可能であった。

 被告監査役らは,被告取締役らが企業会計原則に反する違法な会計処理によって,債務超過という真の財政状態と経営成績を隠蔽しながら,授業の提供や解約清算金の返還に必要な資金を留保することなく,これを新規教室の開設や宣伝広告の費用に流用する職務執行をしていることについて,監査役の職務上の義務に違反して,取締役会における報告や意見陳述を一切しなかった。

 また,被告監査役らは,被告取締役らの資金流出回避義務に違反する職務執行が認められる状況下において,その職務上の義務に違反し,監査役会監査報告(書)において,被告取締役らの職務執行について適法意見を出し,被告会計監査人らの会計監査の方法及び結果についての相当意見を出し続けた。

 被告監査役らの上記業務監査,会計監査を通じた監督義務違反行為によって,被告取締役らの資金流出回避義務違反行為に適法性の承認が与えられ,被告取締役らはこれを継続することができたものであって,こうした被告取締役らの違法行為に対する被告監査役らの適法性の付与は,被告取締役らの違法行為の継続に必要不可欠の存在であったのであり,その役割の重要性にかんがみると,被告監査役らは,監査義務違反行為によって,被告取締役らの資金流出回避義務違反にいわば「正犯」として加担したものである。

 よって,仮に,原告らがa社と受講契約を締結した時点において,a社の財政状態の破綻の程度が回復可能なものであったとしても,被告監査役らは,被告取締役らの資金流出回避義務違反行為に加担したことにより共同不法行為責任(民法719条1項または2項)を負う。

 (ウ)被告監査役らによる取締役らの倒産回避・遵法経営義務違反に対する加担

  a 上記(ア)の被告取締役らの倒産回避・遵法経営義務違反行為は,被告監査役らが,取締役会において,被告取締役らの違法な職務執行についての報告や意見陳述をし,また,監査役会監査報告(書)において,被告取締役らの職務執行に対する適法意見を出さなければ,成立かつ持続することは到底不可能であった。

  b 業務監査義務違反行為による加担

 被告監査役らは,平成14年2月1日の東京都の改善指導,平成15年以降の受講生からの訴訟提起及び消費者団体等からの指摘等によって,a社が採用していた解約清算方法の特定商取引法違反への該当性が問題とされていることを認識し,その他の特定商取引法違反についても,a社に寄せられた苦情の内容を確認する等の方法によって容易に認識できたにもかかわらず,取締役会において,これら被告取締役らの違法な職務執行の存在についての報告や意見陳述をすることを怠ったばかりか,監査役会監査報告(書)において,被告取締役らの職務執行について適法意見を出し続けた。

 被告監査役らの上記各業務監査義務に違反する行為は,被告取締役らの特定商取引法に違反する解約清算方法や勧誘行為等の違法な職務執行を助長させるものであり,その結果,平成19年4月の解約清算方法に関するa社敗訴の前記最高裁判決や,同年6月の経済産業省による行政処分等の,倒産に直結する事態を招来させたものである。被告監査役らは,こうして,被告取締役らの倒産回避義務・遵法経営義務違反行為に加担した。

 (エ)上記(1)【原告らの主張】イ(ウ)のとおり,仮に,資金流出回避義務違反又は倒産回避・遵法経営義務違反のいずれか単独によっては,原告らに授業の役務を提供することができず,解約の際に解約清算金を返還できない状態にならなかったとしても,両者が相まって,授業の役務を提供することができず,解約の際には解約清算金を返還できない状態になり,原告らは,未受講の受講料相当額等の損害を被ったものであるから,被告取締役らの資金流出回避義務違反行為に加担するとともに,倒産回避・遵法経営義務違反に加担していた被告監査役らは,共同不法行為責任(民法719条1項又は2項)を免れない。

   エ なお,被告監査役ら各人がそれぞれ負うべき責任の範囲は,以下のとおりである。

 (ア)被告Y6は,平成7年10月11日から平成19年11月26日までの間,監査役の地位にあったのであるから,全ての原告に対して不法行為責任を負う。

 (イ)被告Y7は平成9年6月27日から,被告Y8は平成10年6月26日から,いずれも平成18年6月29日までの間,監査役の地位にあり,同被告らによって形成された違法状態は,監査役退任後a社が破産手続開始決定を受けるまでの間も解消されることがなかったから,同被告らは,全ての原告に対して不法行為責任を負う。

 原告等の受講生らに,a社が授業の継続的提供や解約清算金の支払ができない財政状態であることを隠蔽して,受講契約を締結させることにより損害を発生させる危険性を,同被告らが取締役会において指摘せず,被告取締役らの資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反の職務執行の存在についての報告や意見陳述を怠り続けたことは,上記契約締結行為,義務違反行為に適法性の承認を与え,それを助長する効果をもたらすものであった。

 また,監査役会監査報告(書)に社会的に高度の信用性が認められることから,同被告らが,監査役会監査報告(書)に被告取締役らの職務執行についての適法意見,被告Y11監査法人の会計監査の方法及び結果についての相当意見を出し続けることによって,被告取締役らの上記各違法な職務執行に加担した結果,a社は,その実態とは大きく乖離する過大な社会的信用を確立するという効果も発生した。

 いったんこうした効果が発生してしまうと,それは,打ち消す行為のない限り持続することになるから,同被告らがかかる効果に基づき発生する損害賠償責任を免れるためには,取締役会における自らの監査義務違反がもたらした被告取締役らの違法な職務執行を中止させるとともに,在任中に作成した監査役会監査報告(書)における被告取締役らの職務執行についての適法意見,被告Y11監査法人の会計監査の方法及び結果についての相当意見が虚偽記載であったことを公表するなど虚偽記載によって確立されたa社に対する誤った社会的信用を除去するための方策を講じる必要がある。

 しかるに,同被告らは,何らそのような措置を行っていないのであるから,監査役退任後に受講契約を締結するに至った原告らを含めて,その生じた損害に対する責任を免れない。

 (ウ)被告Y9及び被告Y10は,平成18年6月29日から平成19年11月26日まで監査役の地位にあったから,平成18年6月29日以降,a社との間で受講契約を締結した原告らに対して不法行為責任を負う。

 【被告Y6の反論】

   ア 被告Y6は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ 宣伝広告や新規教室の開設は,専ら取締役らの経営判断に属する事項である。

 また,解約清算金返還請求訴訟に関する事実や特定商取引法違反に関する事実は,取締役会で報告されることはなく,被告Y6が積極的な監査に及ぶ機会はなかった。

 被告Y6が知り得る範囲では,a社の経営について適法性を疑わせる事情はなかったのであり,被告Y6に,原告らが主張するような業務監査の懈怠はない。

   ウ 本件会計処理方式の適法性については,後記(3)において,被告Y11監査法人が主張するとおりである。

 仮に,本件会計処理方式が違法なものであるとされたとしても,本件会計処理方式は,野村證券や被告Y11監査法人が検討し,その審査を通過したものであって,会計の専門家である社外監査役らが違法性を指摘しないのに,会計の専門家ではない被告Y6が会計処理の違法性を認識することは不可能であるから,被告Y6に会計監査の懈怠はない。

   エ 原告らとの各受講契約時において,a社は倒産必至の状態ではなかった。

   オ 被告Y6の行為と原告らの損害との間には因果関係がない。

   カ 相被告らの主張のうち,被告Y6に有利なものについては,その全てを援用する。

 【被告Y7の反論】

   ア 被告Y7は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ 平成13年3月以降,a社が実質的に債務超過の状態に陥っていたという事実はない。

   ウ 新規拠店の開設や広告宣伝は,経営判断事項である。

   エ a社の採用していた解約清算方法(その算定方法)は,少なくとも被告Y7の在任中はその適法性如何が訴訟上も争われていたのであって,当時明確に違法行為とまではいえなかったものであるし,特定商取引法の違反行為についても,被告Y7が監査役に就任していた時期には特に問題として挙がってこなかったことから,監査役として権限を行使する機会がなかったものであり,被告Y7に業務監査義務の懈怠はない。

   オ 本件会計処理方式は違法ではない。

 また,監査役は,そもそも会計監査人の監査の方法及び結果の相当性を判断するものであり,会計処理自体の相当性を判断するものではないから,被告Y7に会計監査義務の懈怠はない。

   カ 相被告らの主張のうち被告Y7に有利なものは,被告Y7の主張に反しない限りにおいて援用する。

 【被告Y8の反論】

   ア 被告Y8は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ 宣伝広告費の支出,新規教室の開設,多数の従業員の雇用等は,いずれも経営判断に属する事項である。

   ウ 平成13年3月以降,a社が実質的に債務超過の状態に陥っていたという事実は存在せず,被告Y8においてもかかる認識は持ち得なかった。

   エ 本件会計処理方式は,主幹事証券会社(野村證券),監査法人及び証券取引所等による検証を経ており,被告Y8においてこれを違法であると認識すべき事実は存在しなかった。

   オ 原告らは,被告Y8が作成した監査報告書を確認した上で,a社と受講契約を締結したわけではないから,被告Y8に不法行為責任が成立する余地はない。

   カ 相被告らの主張のうち被告Y8に有利なものは,被告Y8の主張と矛盾しない限りにおいて,その全部を援用する。

 【被告Y9及び被告Y10の反論】

   ア 被告Y9及び被告Y10は,原告らに対して不法行為責任を負わない。

   イ 被告Y9及び被告Y10は税理士であり,非常勤の社外監査役として,主として税務部門の監査を担当し,常勤監査役である被告Y6から監査報告を受けて,被告Y12監査法人との間で会計監査の方法等について定期的に打合せを行うほか,拠店に往査し,勧誘の進め方,契約時における受講希望者に対する説明方法,受講生からのクレーム対応等について監査を行っていた。なお,受講契約の内容については,被告Y1から,所轄官庁から過去に特段問題の指摘を受けたことはない旨の報告を受けていた。

 経済産業省及び東京都から特定商取引法違反等の疑いで立入検査を受けた平成19年2月以降においては,現状の説明と改善の状況についての報告を受け,意見を述べるべく,被告Y1に対し,再三にわたって面談を申し入れたが,面談できなかった。

 以上のとおり,被告Y9及び被告Y10は,会計監査人設置会社における監査役としての任務を十分に果たしていたのであって,業務監査義務違反も会計監査義務違反も存在しない。

   ウ 被告Y9及び被告Y10が監査役に就任した平成18年6月28日以降,a社は,店数を減らし,広告宣伝費を圧縮しており,平成19年6月13日付け第17回定時株主総会の招集通知には,売上成長という経営の基本方針を180度転換した旨を報告している。よって,被告Y9及び被告Y10は,取締役らの違法な職務執行を防止する義務に違反していないし,原告らが主張する損害との因果関係は,被告Y9及び被告Y10との関係では存在しない。

   エ 相被告らの主張は,被告Y9及び被告Y10の主張に反しない限りにおいて,その全てを援用する。

  (3)被告会計監査人らの不法行為

 【原告らの主張】

   ア 財政破綻状態隠匿による契約締結行為への加担

 (ア)被告取締役らの不法行為

 上記(1)【原告らの主張】アのとおり,被告取締役らは,a社の財政破綻状態を隠匿して,原告らに受講契約を締結させた。

 (イ)会計監査人による会計監査報告が社会的に高度の信用性を有すること

 会計監査人は,計算書類等の監査を行い,会計監査報告をしなければならず,いつでも会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧・謄写をし,取締役らに対して会計に関する報告を求める権限があり,取締役の職務の執行に関し,不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があることを発見したときは,遅滞なく,これを監査役会に報告しなければならない(旧株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律8条及び会社法397条1項)。したがって,会計監査人は,監査対象企業の計算書類に企業会計原則に反する会計処理を発見した場合,(ア)当該企業に指摘した上,企業会計原則に則った処理をするように指導をすべき義務があり,(イ)企業がこれに従わない場合には,不適正意見を出すべき義務があるというべきである。

 なお,会計監査人がかかる義務に反して,記載すべき事項を記載・記録せず,又は虚偽の記載・記録をしたときには過料に処せられることになっている(会社法976条7号)。

 以上の法規制の存在を前提として,会計監査人による会計監査報告は,社会的に高度の信用性を有している。

 (ウ)本件会計処理方式の違法性・不当性に対する被告会計監査人らの認識と財政状態隠匿行為への加担

  a 本件会計処理方式を採用したa社の決算書は,前受授業料の45パーセントを即時に売上計上するという点と,必要な引当金が計上されていないという点において,企業会計原則に反する違法・不当なものであったところ(前の点について企業会計原則第2,3B,後の点について企業会計原則注解18),被告Y11監査法人は,当初から本件会計処理方式が極めて特異で合理性を欠いたものであること,そして,遅くとも第13期(平成14年4月1日以降)には,そのような会計処理方式を取る以上,少なくとも必要な引当金を計上しなければ財政状況の健全性を保つことも,会計処理に実態を反映させることもできないことを明確に認識していたにもかかわらず,平成8年から平成18年3月期決算まで,有価証券報告書に決算内容に対する適正意見を付し,a社経営陣の粉飾決算を容認し続け,被告取締役らによるa社の財政破綻状態の隠匿行為に加担した。

  b 被告Y12監査法人は,本件会計処理方式の違法性・不当性について監査役に報告すること,そして,取締役会に対して企業会計原則に則った処理をするように指導することを怠って,解約清算金のための引当金に関する被告Y11監査法人の従前の対応について検討することなく,漫然とこれを引き継ぎ,平成19年3月決算において無限定の適正意見を付し,被告取締役らによるa社の財政状態の隠匿行為に加担した。

 (エ)被告会計監査人らの共同不法行為(関連共同性(民法719条1項)又は幇助(民法719条2項))

  a 被告会計監査人らは,被告取締役らが行った,a社の財政が破綻し,授業を継続して提供できず解約の際に解約清算金を返還できない状態であったことを隠匿する行為に加担したものであり,共同不法行為責任(民法719条1項又は2項)を負う。

  b 被告Y11監査法人の責任の範囲

 上記(イ)のとおり,会計監査人による会計監査報告は,社会的に高度の信用性を有しており,被告Y11監査法人が被告取締役らの財政破綻の隠匿行為に加担した結果,a社は,その実態とは大きく乖離する過大な社会的信用を確立した。一旦このような誤った社会的信用が確立してしまうと,それは,虚偽記載であったことを公表する等,財政が破綻し経営成績が悪い状態を隠匿する行為の影響を打ち消す行為がない限り持続するから,被告Y11監査法人は,a社の会計監査人を退任する際,上記隠匿行為によって確立されたa社に対する誤った社会的信用を除去するための措置を講じない限り,会計監査人を退任した後も,a社の社会的信用が維持された状態において受講契約を締結した受講生らに対する責任を免れないというべきである。しかるに,被告Y11監査法人は,何らそのような措置を行っていないのであるから,会計監査人退任後に受講契約をするに至った原告らに対しても,不法行為責任を負う。

  c 被告Y12監査法人の責任の範囲

 被告Y12監査法人は,a社の会計監査に関与した平成18年11月3日以降,被告取締役らの行ったa社の財政状態の隠匿行為に加担したのであるから,その任期中に受講契約を締結した原告らに対して,不法行為責任を負う。

   イ 原告らの受講契約締結後の債権侵害

 (ア)被告取締役らによる資金流出回避義務違反

 被告取締役らは,上記(1)【原告らの主張】イ(ア)のとおり,資金流出回避義務違反行為により,原告らに損害を与えた。

 (イ)被告会計監査人らによる被告取締役らの資金流出回避義務違反行為への加担

 被告取締役らの資金流出回避義務違反行為は,被告会計監査人らがa社の違法な会計処理及びそれに基づく計算書類に対して適法・適正意見を出さなければ,成立かつ継続することは到底不可能であった。

 しかるに,被告会計監査人らは,その職務上の義務に反して,被告取締役らが行う企業会計原則に反する違法な本件会計処理方式に対して,適法・適正の意見を出し続け,これにより,被告取締役らの資金流出回避義務違反行為は隠匿され,被告取締役らはこれを継続できた。

 このように,被告会計監査人らは,被告取締役らの資金流出回避義務違反行為の継続に必要不可欠の存在であり,その役割の重要性にかんがみると,被告会計監査人らは,監査業務を通じ,被告取締役らによる資金流出回避義務違反にいわば「正犯」として加担したものであって,民法719条1項又は2項の共同不法行為責任を負う。

 (ウ)被告Y11監査法人の会計監査人退任後の責任

 原告らの受講契約締結後における債権侵害行為としての取締役らによる資金流出回避義務違反及びそれに起因する倒産回避・遵法経営義務違反行為は,被告Y11監査法人が被告取締役らの負債隠匿及び水増し収益計上行為に加担したことにより従来から培われてきた誤った社会的信用を利用して行われており,被告Y11監査法人には,在任中の適法・適正意見が虚偽記載であったことを公表するなど財政破綻状態及び劣悪な経営成績を隠蔽する行為の影響を打ち消すべき責任があったところ,被告Y11監査法人は,その措置を講じていないのであるから,会計監査人退任後も,取締役らの資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反行為の結果原告らに生じた損害に対する責任を免れない。

 【被告Y11監査法人の反論】

   ア 仮に原告らが主張するような資金流出回避義務というものが想定できたとしても,それは業務執行行為そのものに係るものであるから,業務執行行為及びその監督行為を行わない会計監査人が資金流出回避義務なる義務を負うことはない。

   イ 本件会計処理方式は違法ではない。

 また,システム登録料について,システム利用料に関する会計処理方法と同じように,その一部について貸借対照表の負債の部に前受収益として計上する会計処理方式を用いていたとしても,a社が当該登録料に相当する金銭を他の金銭と分別管理して保管しなければならないものではないから,本件会計処理方式が資金流出回避義務違反を招いたとはいえない。そもそも,a社が,受講生から受領した金銭を社内に留保するか経費等に使用するかは,事業経営上の問題であるから,会計監査人は,それが違法であるか否かについて,意見表明するものではない。

   ウ 会計処理(仕訳)の方式如何にかかわらず,a社には,システム登録料に相当する現金収入があったのだから,平成13年3月期において弁済期が到来した諸債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態にあったとはいえず,そのころ既にa社が倒産必至の状況にあったとする原告らの主張は失当である。

   エ 原告らの損害は,a社が倒産したために発生したものであるところ,会社債権者が会社の倒産に起因して損害を被ったからといって,当該会社の会計監査人がその損害を当然に負担するものではない。

 a社は,平成18年3月には116億0300万円にも上る手元流動資産があったが,平成19年2月14日の経済産業省による立入検査,同年6月13日の6か月間の業務停止処分を受けて資金繰りが急速に悪化し,平成19年6月以降,拠店(教室)の賃借料や給与の支払ができない状況に陥ったというのであるから,a社が倒産必至の状況に陥ったのはそのころであったというべきである。被告Y11監査法人は,平成18年11月2日にa社の会計監査人を退任したものであり,a社が倒産必至の状況に陥った平成19年6月以降には全く関与していないのであるから,被告Y11監査法人に法的責任はない。

   オ 原告らは,a社の計算書類における財務情報への具体的な信頼を基に受講契約を締結したものではないから,被告Y11監査法人は,原告らの損害について責任はない。

   カ 被告Y11監査法人は,平成17年3月期以前の決算において,「収入金額に対する返金額の割合が近年増加傾向にあり,相当程度の重要性が認められる比率になってきた」とした上で,「解約に関する詳細なデータの整備を行い」,「『返品調整引当金』に相当する合理的な会計手当を検討する必要がある」ことを報告していた。しかし,a社において,解約率算定のためのデータ管理体制が整備されていなかったことなどから,解約清算金見込額を合理的に算定することができず,引当金として計上できないものと判断した。

 平成18年3月期の決算において,解約件数の増加に伴い解約清算金の重要性が増加してきたことや,被告Y11監査法人が以前から指摘していた解約率算定のためのデータ整備体制が整い,解約清算金見込額を,貸借対照表の負債の部に計上された「繰延駅前留学サービス収入」に過去5年間の平均解約率を乗じるなどして合理的に見積もることが可能になったことから(なお,その時点で解約清算金の計算方法に関する判決は確定していなかった),売上返戻引当金11億8396万円を計上するに至った。

 以上によれば,必要な引当金が計上されていないことをもって,違法・不当であったとの原告らの主張は当たらない。

 【被告Y12監査法人の反論】

   ア 被告取締役らの資金流出回避義務や遵法経営義務は,あくまで業務監査の対象であって,会計監査人の職務内容である会計監査の対象事項ではない。被告Y12監査法人が被告取締役ら及び被告監査役らの不法行為に加担したとする原告らの主張は,主張自体失当である。

   イ 本件会計処理方式については,株式上場するに際して,被告Y11監査法人が監督官庁等と協議した上で採用したものであり,上場審査の際に,妥当性について十分議論され,認められたものである。

 企業会計における大原則である継続性の原則に従えば,特別の事情がない限り,従前の会計基準を引き継がなければならないところ,被告Y12監査法人は,継続性の原則に従って,本件会計処理方式を採用したにすぎず,従前の会計基準を引き継いだ被告Y12監査法人に何ら問題となる点は存在しない。

   ウ 債務超過の状態でも経営を継続している会社は多々存在しており,資金流出回避義務違反は不法行為を形成する根拠とならない。

 受講契約締結前の資金流出回避義務違反が不法行為を形成するとすれば,それは従前の契約者に対するものであって,将来の契約者に対するものではない。

 また,原告らは,受講契約締結後の資金流出回避義務違反について,その前提である,原告らが各受講契約を締結した時点でa社の財政状態の破綻の程度が回復可能であったという点について主張・立証しておらず,主張自体失当である。

 原告らは,a社の財政状態について,原告らが受講契約を締結した時点で回復可能であったと主張したり,他方で,遅くとも平成13年3月期以降実質的な債務超過に陥っていたと主張したりしており,主張が矛盾している。

   エ 被告Y11監査法人の主張は,被告Y12監査法人の主張に反しない限りにおいて,その全部を援用する。

 〈第1次的予備的請求(役員の第三者に対する責任に基づく損害賠償請求(取締役について旧商法266条の3第2項・会社法429条2項1号ロ,監査役について旧商法特例法18条の4第2項,旧商法266条の3第2項・会社法429条2項3号,会計監査人について旧商法特例法10条,会社法429条2項4号))〉

  (1)被告取締役らの損害賠償責任

 【原告らの主張】

   ア 損益計算書等の虚偽記載

 (ア)売上額,利益額及び負債額の虚偽記載

 a社は,本件会計処理方式によって損益計算書における売上高を契約時と決済期末に過大に計上し,また,貸借対照表において,負債項目たる前受収益として計上すべき前受受講料の金額を故意に計上せず,負債額を真実の金額よりも少なく記載していたものであって,これらは,企業会計原則の実現主義(企業会計原則第2,三B)に従わない虚偽の記載である。

 (イ)引当金の不計上

 a社は,以下のとおり,計上すべき引当金を的確に計上しなかった。

  ① 平成17年3月末決算期以前には,解約清算金に関する引当金を全く計上しなかった。

  ② 平成18年3月末決算期以降は,引当金が計上されたが,現実の解約率及び解約清算金額と乖離した過少な引当金額であった。

  ③ 平成17年以降は,解約清算金の計算方法に関する多数の訴訟において敗訴が続いていたのであるから,遅くとも平成18年3月末決算期以降,解約清算金に関する引当金を計上するに当たっては,解約清算金の計算方法について,a社の主張が認められなかった場合についても考慮した引当額が計上されるべきであったのに,そのような考慮は何らなされなかった。

   イ 原告らの損害

 被告取締役らが,上記虚偽記載を止めていれば,a社はそれ以降株式を上場することができなくなり,企業としての社会的信用も失い,多額の広告費や出店費を支出することできなかったのであって,そうであるとすれば,原告らは,a社と受講契約を締結することはなかったのであるから,被告取締役らの上記虚偽記載により,原告らはa社と受講契約を締結し,受講料等相当額の損害を被った。

   ウ 因果関係

 (ア)会社法429条2項1号ロの規定の趣旨は,会社における情報開示の正確性・透明性を重視し,正確性を担保することで,会社債権者等「第三者」の利益を保護しようとした点にあり,かかる法の趣旨及び条文の文言からすると,「第三者」は,計算書類等を実際に閲覧した者に限定されていない。

 (イ)a社は,株式上場企業として財務諸表を新聞紙上等で公表していた。

 (ウ)特定商取引法は,英会話教授の事業者に対し一定の情報開示義務を課し,消費者に対し会計資料の閲覧・謄写請求権を付与している。また,a社は,消費者に対して交付する「PriceList」と題する概要書面に「前受保全措置」につき「なし。但し生徒の方々の受講料は,当社の手元流動資金及び固定資産の時価総額によって,安全に保証されております。また,この内容については,株式上場企業として,監査を受けた財務諸表を新聞紙上等で公表しております。」と記載していた。消費者は,特定商取引法に基づいて入手した当該事業者の財政状態や経営成績に関する情報に対して信頼を抱くものであるから,原告らが計算書類等を現実に閲覧していなかったとしても,被告取締役らによる虚偽記載と原告の損害との間に因果関係が存在する。

 【被告Y1の反論】

 争う。

 【被告Y2の反論】

 争う。

 【被告Y3らの反論】

 被告Y3らの責任については,争う。

 被告Y3らは,虚偽記載の事実は知らない。被告Y3らは,a社の経理に関与していなかったため,その詳細を全く把握していない。

  (2)被告監査役らの責任

 【原告らの主張】

   ア 監査役会監査報告(書)への虚偽記載

 (ア)被告Y7及び被告Y8による虚偽記載

  a 被告取締役らの職務執行に違法性が認められるにもかかわらず,監査役会監査報告(書)において適法意見を付した虚偽記載

 被告Y7は,平成10年3月期から平成18年3月期決算までの,被告Y8は,平成11年3月期から平成18年3月期決算までの各監査役会監査報告(書)において,被告取締役らには,①適法な会計処理を前提とすると,a社は遅くとも平成12年3月期以降債務超過であり,平成14年6月末以降は3期連続の債務超過であることが露見し,上場廃上となって,社会的信用も失い,倒産同様の状況に陥り,授業の継続提供や解約清算金の返還ができない財政状態であったにもかかわらず,これを隠匿して受講契約を締結させた行為,②受講生らの解約率等に応じて授業の提供や解約清算金返還のための資金を確保することを怠り,新規教室の開設や宣伝広告等に資金を流出させた資金流出回避義務違反の行為,③特定商取引法に違反する解約清算方法の採用等の倒産回避・遵法経営義務違反行為の各違法な職務執行の存在,が認められたにもかかわらず,被告取締役らの職務執行について適法意見を付したものであり,これは虚偽記載に当たる。

  b 監査役会監査報告(書)において,被告Y11監査法人の監査の方法及び結果について相当意見を付した虚偽記載

 被告Y7は,平成10年3月期から平成18年3月期決算までの,被告Y8は,平成11年3月期から平成18年3月期決算までの各監査役会監査報告(書)において,被告Y11監査法人の会計監査は,①売上を過大計上し,負債を過少計上する本件会計処理方式の採用,②引当金の不計上(上記(1)【原告らの主張】ア(イ))というそれぞれ企業会計原則に違反する会計処理に基づくa社作成の会計処理に対して無限定の適法・適正意見を出すという不相当なものであったにもかかわらず,被告Y11監査法人の監査の方法及び結果について相当意見を付したものであり,これは虚偽記載に当たる。

 (イ)被告Y9及び被告Y10による虚偽記載

  a 被告取締役らの職務執行に違法性が認められるにもかかわらず,監査役会監査報告(書)において適法意見を付した虚偽記載

 被告Y9及び被告Y10は,平成19年3月期の会計監査報告において,被告取締役らの職務執行について,上記(ア)a①ないし③の各違法な職務執行の存在が認められるにもかかわらず,被告取締役らの職務執行について適法意見を付したものであり,これは虚偽記載に当たる。

  b 監査役会監査報告(書)において,被告Y12監査法人の監査の方法及び結果について相当意見を付した虚偽記載

 被告Y9及び被告Y10は,平成19年3月期の監査役会監査報告(書)において,被告Y12監査法人の会計監査が,①売上げを過大計上し,負債を過少計上し,②引当金を不計上(上記(1)【原告らの主張】ア(イ)②及び③)しないという,それぞれ企業会計原則に違反する会計処理に基づくa社作成の会計書類に対して無限定の適法・適正意見を出す不相当なものであったにもかかわらず,被告Y12監査法人の監査の方法及び結果について相当意見を付したものであり,これは虚偽記載に当たる。

 (ウ)被告Y6による虚偽記載

  a 被告取締役らの職務執行に違法性が認められるにもかかわらず,監査役会監査報告(書)において適法意見を付した虚偽記載

 被告Y6は,平成8年以前から平成19年3月期決算までの監査役会監査報告(書)において,被告取締役らには,上記(ア)a①ないし③の各違法な職務執行の存在が認められるにもかかわらず,被告取締役らの職務執行について適法意見を付したものであり,これは虚偽記載に当たる。

  b 監査役会監査報告(書)において,被告Y11監査法人及び被告Y12監査法人の監査の方法及び結果について相当意見を付した虚偽記載

 被告Y6は,平成8年以前から平成19年3月期決算までの監査役会監査報告(書)において,被告会計監査人らの会計監査が上記(ア)b①及び②というそれぞれ企業会計原則に違反する会計処理に基づくa社作成の会計書類に対して無限定の適法・適正意見を出す不相当なものであったにもかかわらず,被告会計監査人らの監査の方法及び結果について相当意見を付したものであり,これは虚偽記載に当たる。

   イ 原告らの損害

 上記(1)【原告らの主張】イと同じ。

   ウ 因果関係

 (ア)会社法429条2項3号(会社法施行前は,旧商法特例法18条の4,商法266条の3第2項に同様の規定が置かれていた。)の趣旨は,会社における情報開示の正確性・透明性を重視し,正確性を担保することで,会社債権者等「第三者」の利益を保護しようとした点にある。かかる法の趣旨,条文の文言からすると,「第三者」は,監査意見を実際に閲覧した者に限定されない。

 (イ)a社は,監査役会監査報告(書)を定時株主総会の招集通知の際,株主に提供し(会社法437条,旧商法283条2項),本支店に備え置いて株主及び会社債権者に開示していた(会社法442条1項ないし3項,旧商法282条1項,2項)。また,a社は,株式上場企業として,監査を受けた財務諸表を新聞紙上等で公表していた。

 (ウ)特定商取引法は,英会話事業を同法の規制対象とし,消費者保護の観点から,英会話事業者に対し一定の情報開示義務を課し,消費者に対し会計資料の閲覧・謄本等交付請求権を付与している(特定商取引法45条)。

 また,a社は,消費者に対して交付する「PriceList」と題する概要書面に「前受保全措置」につき「なし。但し生徒の方々の受講料は,当社の手元流動資金および固定資産の時価総額によって,安全に保証されております。また,この内容については,株式上場企業として,監査を受けた財務諸表を新聞紙上等で公表しております。(略)」と記載していたところ,かかる説明は,会計監査人の出した適法・適正の意見が基礎となっており,それは,監査役が会計監査人の監査の方法及び結果について不相当の意見を出していないことが前提となっている。

 (エ)監査役会監査報告(書)に,取締役の職務執行についての不適法意見や,会計監査人の監査の方法又は結果についての不相当意見が記載されると,少なくとも,上場企業においては,これらの意見が新聞報道等によって広く一般大衆の知るところとなって企業の社会的信用が失墜し,また,原告らのようなa社との契約をしようとする消費者においても,a社の経営状態について注意が喚起され,契約締結には至らなくなる。反対に,これらが記載されないと,a社が法令を遵守した経営をしており,会計書類に表示された財政状態や経営成績が真実であるとの社会的信頼が形成され,消費者はこの信頼を基に契約を締結する。

 (オ)上記(ア)ないし(エ)のとおり,被告監査役らの監査意見は,現実にそれを閲覧した者に対して影響するものではなく,原告らが被告監査役らの監査意見に対し,現実に閲覧・謄本等交付請求等していなくても,被告監査役らによる虚偽記載と原告らの損害との間には因果関係が存在する。

   エ 被告監査役ら各人がそれぞれ負うべき責任の範囲は,以下のとおりである。

 (ア)被告Y6は,平成7年10月11日から平成19年11月26日までa社の監査役の地位にあったのであるから,全ての原告に対して責任を負う。

 (イ)被告Y7は平成9年6月27日から,被告Y8は平成10年6月26日から,いずれも平成18年6月29日までの間,a社の監査役の地位にあったところ,不法行為責任と同様,平成18年6月29日以降にa社と受講契約を締結した原告に対しても責任を負い,全ての原告に対して損害を賠償する責任を負う。

 (ウ)被告Y9及び被告Y10は,平成18年6月29日から平成19年11月26日まで監査役の地位にあったから,平成18年6月29日以降にa社と受講契約を締結した原告に対して責任を負う。

 【被告Y6の反論】

 争う。

 被告Y6は,監査役会監査報告(書)に虚偽の事実を記載したことはなく,仮に結果として事実と異なっていたとしても,その点について過失はない。

 【被告Y7の反論】

 争う。

 主位的請求(2)【被告Y7の反論】エで主張したとおり,取締役の職務執行について違法と断定すべき行為はなかったのであるから,監査役会監査報告(書)に適正意見を記載したことは,虚偽記載ではない。

 【被告Y8の反論】

 争う。

 【被告Y9及び被告Y10の反論】

 争う。

 被告Y9及び被告Y10は,監査役会監査報告(書)に虚偽記載をしていない。

  (3)被告会計監査人らの責任

 【原告らの主張】

   ア 被告会計監査人らによる虚偽記載

 (ア)被告Y11監査法人による虚偽記載

  a 被告Y11監査法人は,監査報告書において,企業会計原則に反する本件会計処理方式によって売上計上された計算書類に対して適正意見を付して虚偽記載をした。

 被告Y11監査法人は,平成8年以前から平成18年3月期決算までの監査報告書において,企業会計原則に反する本件会計処理方式によって水増しの売上計上が行われた損益計算書と,役務未提供分の前受受講料を負債計上しない貸借対照表について無限定の適正意見を付しており,これは虚偽記載に当たるというべきである。

  b 監査報告書において,引当金計上の指摘を行いながら,引当金計上の欠落した決算書に対する無留保での適正・適法意見を付した虚偽記載

 被告Y11監査法人は,引当金の不計上(上記(1)【原告らの主張】ア(イ))があるにもかかわらず,a社の決算書に対して無留保で適法・適正意見を表明し続けた。計上義務の認められる引当金を計上していない決算書は企業会計原則に則ったものとはいえず,監査報告書においてこのような決算書に適法・適正意見を付すことは,会計監査人としての虚偽記載に該当する。

 (イ)被告Y12監査法人による虚偽記載

  a 被告Y12監査法人は,平成19年度の監査報告書において,企業会計原則に反する計算書類について無限定の適正意見を付しており,これは虚偽記載に当たる。

  b 被告Y12監査法人は,引当金の不計上(上記(1)【原告らの主張】ア(イ)②及び③)があるにもかかわらず,a社の決算書に対して無留保で適法・適正意見を表明した。

   イ 被告会計監査人ら各人がそれぞれ負うべき責任の範囲は,以下のとおりである。

 (ア)被告Y11監査法人は,全ての原告に対してその損害を賠償する責任を負う。

 被告Y11監査法人が退任後の契約者に対しても責任を負うことは,主位的主張の項で主張したのと同様である。

 (イ)被告Y12監査法人は,平成19年6月13日以降に受講契約を締結した原告X22に対して損害を賠償する責任を負う。

   ウ 原告らの損害

 上記(1)【原告らの主張】イと同じである。

   エ 因果関係

 (ア)会社法429条2項1号ロの規定の趣旨は,会社における情報開示の正確性・透明性を重視し,正確性を担保することで,会社債権者等「第三者」の利益を保護しようとした点にあり,かかる法の趣旨及び条文の文言からすると,「第三者」は,計算書類等を実際に閲覧した者に限定されない。

 (イ)a社は,株式上場企業として,財務諸表を新聞紙上等で公表していたものの,そこには,会社計算規則176条3号の規定する「当該公告に係る計算書類についての会計監査報告書に不適正意見がある場合」に記載すべき事項が記載されていない以上,新聞を目にした者は,a社の決算書類には問題がないものと考えるのが当然である。

 (ウ)特定商取引法は,英会話事業者に対し一定の情報開示義務を課し,消費者に対し会計資料の閲覧・謄写請求権を付与している。また,a社は,消費者に対して交付する「PriceList」と題する概要書面において,前記のとおり,前受受講料は安全に保証されている旨記載していた。かかる説明は,会計監査人の出した適法・適正意見が基礎となっており,消費者は,特定商取引法に基づいて入手した当該事業者の財政状態や経営成績に関する情報に対して信頼を抱くものであるから,原告らが計算書類等を現実に閲覧していなくとも,被告取締役らによる虚偽記載と原告の損害との間に因果関係が存在する。

 【被告Y11監査法人の主張】

 虚偽記載を行ったことは,争う。

 【被告Y12監査法人の主張】

 虚偽記載を行ったことは,争う。

 原告らは,受講契約を締結する以前に被告Y12監査法人の監査報告書を閲覧することができなかった。監査報告書を閲覧していない以上,被告Y12監査法人の行為と原告らが受講契約を締結したこととの間に因果関係はない。

 〈第2次的予備的請求(役員の第三者に対する責任に基づく損害賠償請求(取締役について旧商法266条の3第1項・会社法429条1項,監査役について旧商法280条1項,266条の3第1項,会社法429条1項,会計監査人について会社法429条1項4号))〉

  (1)被告取締役らの損害賠償責任

 【原告らの主張】

 被告取締役らの主位的請求(1)【原告らの主張】ア及びイの行為は,少なくとも重過失のある職務執行であり,これにより原告らに損害を与えたものであるから,被告取締役らは取締役の対第三者責任を免れない。

 【被告Y1の反論】

 争う。

 【被告Y2の反論】

 争う。

 【被告Y3らの反論】

 争う。

  (2)被告監査役らの損害賠償責任

 【原告らの主張】

   ア 主位的請求(2)【原告らの主張】イ及びウの各行為は,少なくとも重過失のある職務執行であり,これにより原告らに損害を与えたものであるから,被告監査役らは監査役の対第三者責任を免れない。

   イ 被告監査役ら各人がそれぞれ負うべき責任の範囲は,第1次的予備的請求(2)【原告らの主張】エのとおりである。

 【被告Y6の主張】

 主位的請求(2)【被告Y6の反論】で主張したとおりであって,被告Y6には業務監査及び会計監査について悪意,重過失による任務懈怠はない。

 【被告Y7の主張】

 主位的請求(2)【被告Y7の反論】で主張したとおりであって,被告Y7には業務監査及び会計監査について悪意,重過失による任務懈怠はない。

 【被告Y8の反論】

 争う。

 【被告Y9及び被告Y10の反論】

 主位的請求(2)【被告Y9及び被告Y10の反論】で主張したとおり,会計監査人設置会社における監査役としての任務を十分に果たしていたのであり,悪意,重過失による任務懈怠はない。

  (3)被告会計監査人らの損害賠償責任

 【原告らの主張】

   ア 主位的請求(3)【原告らの主張】ア及びイの被告Y11監査法人及び被告Y12監査法人らの行為は,少なくとも重過失のある職務執行であり,これにより原告らに損害を与えたものであるから,被告会計監査人らは会計監査人の対第三者責任を免れない。

   イ 被告Y11監査法人は,会社法施行日である平成18年5月1日以降に受講契約を締結した全ての原告に対し,被告Y12監査法人は,監査法人としてa社の会計監査に関与した平成18年11月3日以降に受講契約を締結した原告らに対し,損害賠償責任を負う。

 【被告Y11監査法人の反論】

 主位的請求(3)【被告Y11監査法人の反論】において主張したとおりであって,被告Y11監査法人に任務懈怠はない。

 【被告Y12監査法人の反論】

 会計監査人の業務内容は業務監査には及んでいない。

 会計監査の方法に問題がなかったことについては,主位的請求【被告Y12監査法人の反論】において主張したとおりである。

 被告Y12監査法人の行為と原告らの損害は因果関係がない。

 〈損害〉

 【原告らの主張】

  (1)ア 原告らは,被告らの前記各行為により,別紙損害明細一覧表1の損害額(f)欄記載の損害又は別紙損害明細一覧表2の損害額計欄記載の損害を被った。損害としては,未受講の受講料,信販手数料に加え,a社の責めに帰すべき事由によって解約に至っている以上,入学金,教材費,中途解約手数料も含まれるというべきである。

   イ 原告らは,損害を回復するために訴訟代理人に事務を委任せざるを得ず,弁護士費用は上記損害の10パーセントが相当である。

   ウ よって,原告らの損害は,別紙損害明細一覧表1及び2の損害額甲欄記載のとおりである。

  (2)各被告に対する請求額

   ア 主位的請求について

 別表1の1損害額欄記載の損害につき,被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

 別表1の2損害額欄記載の損害につき,被告Y12監査法人を除く被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

 別表1の3損害額欄記載の損害につき,被告Y9,被告Y10及び被告Y12監査法人を除く被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

   イ 第1次的予備的請求について

 別紙損害明細一覧表2の損害額丁欄記載の損害につき,被告らは,原告X22に対し,連帯して責任を負う。

 別表2損害額欄記載の損害につき,被告Y9,被告Y10及び被告Y12監査法人を除く被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

   ウ 第2次的予備的請求について

 別表3の1損害額欄記載の損害につき,被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

 別表3の2損害額欄記載の損害につき,被告Y12監査法人を除く被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

 別表3の3損害額欄記載の損害につき,被告Y9,被告Y10及び被告Y12監査法人を除く被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

 別表3の4損害額欄記載の損害につき,被告Y9,被告Y10,被告Y11監査法人及び被告Y12監査法人を除く被告らは,同表原告欄記載の原告に対し,連帯して責任を負う。

 【被告らの反論】

 いずれも争う。

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

 前記前提事実に加え,証拠(〈書証は特に記載しない限り枝番があるものは枝番を全て含む。以下同じ。〉甲A5,6,9ないし15,25ないし34,37ないし43,45ないし52,55,62,88,114,115,117ないし120,131,146ないし158,乙ア6ないし10,23,24,33,52,55,56,58,59,乙ウ1ないし11,17ないし20,乙ケ10,11,証人F,同G,被告Y1,被告Y2,被告Y3,被告Y4,被告Y5,被告Y6,被告Y9,被告Y10,被告Y7,被告Y8)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。

  (1)a社が倒産するまでの経緯等

   ア 平成11年度以前

 a社は,前記前提事実のとおり,平成5年2月3日,同社の商号を株式会社aに変更した後,同年6月には,累計拠店数が100に達した(乙ア7ないし10)。

 a社は,平成6年ころから,店頭公開の準備を始めた。

 なお,同年3月ころ,全国外国語教育振興会が,自主規制ルールを策定した。そこには,合理的な契約期間は1年間とすること等が記載されている(甲A37)。

 平成7年,a社は,収益計上基準を本件会計処理方式に変更し,同年6月,商号を株式会社aから株式会社a社に変更した(乙ア7ないし10)。

 平成7年当時,a社の会計監査を行っていた被告Y11監査法人(当時はその前身である朝日監査法人)及び監査法人三優会計社は,本件会計処理方式について,より適正な期間損益を算出するためのものであるとして,監査上妥当な処理であると認めた(甲A146)。

 そして,平成8年11月,日本証券業協会(証券取引所)に株式を店頭登録すると,平成11年3月に累計拠店数が300に達し,平成12年4月にはその数は400に達した(乙ア7ないし10)。

 同年3月24日,a社の平成12年3月期における純現金収支が,設備投資額の増加により,約31億4000万円の赤字になるとの見通しであるとの新聞報道がなされた(甲A39)。

 この間,平成4年3月期,平成5年3月期には決算報告書上債務超過になったことがある(甲A140ないし145)。

   イ 平成12年度(第11期)

 a社は,同年度において,新たに79の拠店を開設し,拠店数は468店になった。また,3歳から12歳までの者を対象にした「○○スクール」(以下「○○スクール」という。)も新たに99開設して,240拠店とした。このような新規拠店の開設や,いわゆるIT機器を用い,受講生がa社の店舗に来なくても授業を受けられるお茶の間留学サービスの拡大等により,平成13年3月末決算期における売上高は前年と比べて約13.9パーセント増の519億2300万円となった。もっとも,売上高が当初の予想より低かったこともあり,前年と比べて営業利益は約38.3パーセント,経常利益も約27.3パーセント減少した。

 a社は,平成13年6月12日の定期株主総会通知において,今後も拠店数の増加やお茶の間留学,海外留学サービス等の事業展開をしていく方針を示した(甲A9)。

   ウ 平成13年度(第12期)

 a社は,同年9月から,お茶の間留学サービスを24時間制とした。また,新たに48の拠店を開設して累計で516とし,○○スクールについても,新たに62の拠店を開設して302とした。○○スクールの受講生の数は,平成14年4月からの小学校への英会話教育導入もあって,前年から約64.5パーセント増加し,1万7000人を超えた。

 平成13年3月末決算期のa社の売上高は,前年と比べて約8.1パーセント増加し,561億3700万円となった。他方,営業利益は前年と比べて約84.9パーセント,経常利益は前年と比べて約35.1パーセント減少した。

 a社は,平成14年6月11日の定期株主総会通知において,今後も拠店数の増加やお茶の間留学,海外留学サービス等の事業展開をしていく方針を示した(甲A10,乙ア6)。

   エ 平成14年度(第13期)

 (ア)a社の決算状況,拠店数及び経営方針

 同年度の上半期において,売上が伸び悩んだことから,a社は,新規事業に注力しつつも,不採算事業の縮小や,広告宣伝費の商品別の内訳の見直しをし,平成14年3月末決算期の売上高は前年と比べて約9.6パーセント増加し,615億3400万円となった。また,営業利益は前年と比べて約1017.7パーセントの増加,経常利益は,前年と比べて約146.6パーセントの増加となった。また,拠店数は,新たに47の拠店を開設して累計で561とした。○○スクールについても,新たに68の拠店開設しをて369とし,○○スクールの受講生の数も前年の約1.5倍となった。

 a社は,平成15年6月11日の定期株主総会通知において,今後の課題として,マーケットにおけるa社のシェアポジションをいかに確保していくかという点を挙げた(甲A11)。

 (イ)a社に対する苦情

 平成14年度には,国民生活センターに,a社に関する契約の相談が832件寄せられた。なお,平成9年度から平成13年度までの相談件数は,いずれも年間600件未満であったものの,平成17年度以降は1060件と初めて1000件を超え,平成18年度は1949件,平成19年度は3019件であった(甲A40)。

 (ウ)東京都からの業務改善指導

 平成14年2月6日,a社は,解約清算金の算定方法が不当な違約金の定め(特定商取引法49条2項)に該当することなどを理由に,東京都から業務改善指導を受け,同年3月5日,a社は,この指導に対し,業務改善報告書を提出した(甲A41,42)。

   オ 平成15年度(第14期)

 平成16年3月末決算期におけるa社の売上高は前年と比べて約8.1パーセント増の666億1778万7000円であり,また,営業利益は前年と比べて約68.0パーセント,経常利益は前年と比べて約42.2パーセント増加した(甲A12)。

 平成15年11月5日,解約清算金返還請求訴訟において,同月4日,a社が和解したとの新聞報道がなされた(甲A43)。

   カ 平成16年度(第15期)

 (ア)a社の決算状況,拠店数及び経営方針

 平成17年3月末決算期の売上高は前年と比べて約5.3パーセント増加し,701億1390万円となった。しかし,営業利益は前年と比べて約65.3パーセント減少し,経常利益も,前年と比べて約39.8パーセント減少した。

 営業利益及び経常利益が減少した原因として,a社は,平成17年6月10日の定時株主総会招集通知において,a社を除く外国語会話教室業界全体の新規入学者数が減少傾向にあることを挙げている。

 a社は,平成16年度において,新たに208の拠店を開設し,累計拠店数は829となった。○○スクールについても,新たに221の拠店を開設して687とした。

 a社は,上記定期株主総会通知において,今後の課題として,業界におけるa社のシェアポジションをいかに確保していくかということなどを挙げた(甲A13)。

 (イ)有価証券報告書

 同年6月30日,a社の同年3月期の連結キャッシュフロー(現金及び現金同等物)が14億9537万8000円のマイナスになったとの有価証券報告書が出された(甲A48)。

 (ウ)同年12月ころ,a社は,日本証券業協会への店頭登録を取り消し,ジャスダック証券取引所に上場した。

 (エ)解約清算金返還請求訴訟の動向等

 同月15日,特定非営利活動法人消費者団体京都消費者契約ネットワークは,a社に対し,ポイント等の有効期限の定めや,解約清算金の算定方法の定めが消費者契約法ないし特定商取引法に違反するなどとして,上記の定め等を改める旨の申し入れをした(甲A45)。

 また,東京地裁は,平成17年2月16日,a社に対し,a社の受講生が受講開始後に受講契約を解除した場合の返還額は,受講料を前払いしたときの単価で算定するのが原則であるとして,元受講生の解約清算金返還請求を全部認容する旨の判決を下した(甲A46)。

   キ 平成17年度(第16期)

 (ア)a社の決算状況,拠店数及び経営方針

 平成18年3月末決算期のa社の売上高は前年と比べて約4.5パーセント減少して669億6959万7000円となり,前記のとおり,営業損失と経常損失が発生した。

 平成18年6月13日の定時株主総会招集通知において,a社は,外国語教室業界全体の業績が,平成15年5月から減少してきたものの,平成17年1月から12月まではほぼ横ばいで,下げ止まった感がある中で,a社だけが12か月連続で売上が前年同月比で前年割れしたとし,その原因は,外部の環境変化ではなく,a社が短期間に拠店数を増やした点にあるとした。

 そこで,a社は,平成17年度の下半期以降,業績悪化を防ぐため,新規拠店の開設を大幅に減少させた上,さらに,近傍拠店間で競合が生じないように新規開店を進めていくこと,一拠店あたりの売上が低下しても利益が出るよう研究開発費や通信費等のコストダウンをすること,拠店を総括するマネージャーの人材育成を進めること等に取り組み始めた。

 なお,平成17年度においてa社は,新たに165の拠店を開設し,平成18年3月末の時点での累計拠店数は994となり,○○スクールについても,新たに221の拠店を開設して687とした。

 a社は,上記定期株主総会通知において,今後の課題として,業界におけるa社のシェアポジションをいかに確保していくかということなどを挙げた(甲A14)。

 (イ)監査概要報告書(甲A30)

 a社は,平成16年度(第15期)及び平成17年度(第16期)と,2期連続で営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しているものの,平成17年度末では,継続企業の前提について重要な疑義を抱かせる事象は存在しないとする経営者の評価について,被告Y11監査法人は,監査上,重要な問題点はないと判断した。

 他方,被告Y11監査法人は,平成18年9月中間期において,「2006年度経営計画」が未達の場合には,継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象が存在し,その解消に重要な不確実性が残ると認識することにより,継続企業の前提に基づいて財務諸表を作成することが適切であるという経営者の判断及び継続企業の前提に関する所要の注記について,再度検討が必要となることに十分留意する必要があるとした。

 (ウ)解約清算金返還請求訴訟の動向等

 平成17年7月20日,東京高裁において,a社の解約清算金の算定方法は特定商取引法に反し無効であるとの判決がなされた。

 同年9月26日,解約清算金返還請求訴訟に対して,東京地裁はa社敗訴の判決を下した(甲A5,甲A88)。

 同月28日,特定非営利活動法人消費者機構日本は,a社に対し,a社の受講生のポイント等の有効期限の定めや,受講生が中途解約した場合の解約清算金額の定めが特定商取引法に違反し,また,a社が契約時に受講生に交付する書面の記載方法・内容が消費者基本法及び消費者契約法に違反するなどとして,それらを改める旨の改善申し入れをした(甲A49)。

 平成18年1月30日,解約清算金返還請求訴訟において,京都地裁はa社敗訴の判決を下した(甲A5)。同年2月28日,東京高裁において,解約清算金の計算方法は違法との判決がなされた。

 (エ)売上返戻引当金

 a社は,平成17年3月末決算期以前は,解約清算金のための引当金を賃借対照表に計上しておらず,返金時に処理する方法を採用していた。しかし,返金額が増加してきたこと,平成18年3月末決算期の前は解約清算金とクーリングオフによる返金の合計額のデータしかなかったところ,同決算期において解約による返金のみのデータが作成され,返金率算定のためのデータ管理体制が整い,返金見込額を合理的に見積もることが可能になったとして,11億8396万5000円の売上返戻引当金を負債に計上した(甲A14,証人F)。

   ク 平成18年度(第17期)

 (ア)a社の決算状況,拠店数及び経営方針

 a社は,拠店数を前年度の994拠店から平成19年3月末時点で925拠店まで圧縮し,その他,不採算事業からの撤退や広告宣伝費の圧縮等の施策を行ったものの,同年1月及び2月の新規入学者が計画よりも大幅に落ち込んだことにより,同年3月末決算期の売上高は,前年と比べて約16.6パーセント減少し,558億5527万5000円となった。また,前記のとおり,営業損失及び経常損失が生じた。同年3月末の受講生の数は,前年同期と比べて約12.1パーセント減の約41万8000人になった。

 そして,a社は,同年6月13日の定期株主総会通知において,今後の課題として,業界におけるa社のシェアポジションをいかに確保していくかということなどを挙げた(甲A15)。

 (イ)売上返戻引当金

 a社は,同年度3月末決算期において,18億8044万1000円の売上返戻引当金を負債に計上した(甲A15)。

 (ウ)平成18年9月中間期における検討事項(甲A131)

 被告Y11監査法人は,平成18年9月中間期におけるa社の業績は経営計画を大幅に下回ることが予想されるとした。

 また,被告Y11監査法人は,同中間期において,a社が債務超過となること,新たな資金調達が困難な状況であり,今後1年内に資金不足となる可能性があること,同中間期において経営計画が達成できず,かつ通期を通じて営業赤字となる見込みであること,のいずれかに該当する可能性があるとし,そのうち1つに該当する場合には,継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象が存在し,その解消に重要な不確実性が残ると認識されるため,継続企業の前提が適切であるかどうかについて経営者は評価を行い,中間財務諸表において注記を記載する必要があると判断した。

 (エ)監査概要報告書(甲A31)

 a社は,平成16年度(第15期)から平成18年度(第17期)まで,3期連続で営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しているものの,平成18年度中間末時点では,当該事象が存在するのみで継続企業の前提について重要な疑義を抱かせる事象は存在しないとする経営者の評価について,被告Y12監査法人は,2007年度経営計画(乙ケ10)や経営者確認書(乙ケ11)などを検討した結果,監査上,重要な問題点はないと判断した。

 他方,被告Y12監査法人は,平成19年度中間期において,上記2007年度経営計画が未達の場合には,継続企業の前提に重要な疑義を抱かせる事象が存在し,その解消に重要な不確実性が残ると認識することにより,継続企業の前提に基づいて財務諸表を作成することが適切であるという経営者の判断及び継続企業の前提に関する所要の注記について,再度検討が必要となることに十分留意する必要があるとした。

 (オ)経済産業省及び東京都による立入検査

 平成19年2月14日,a社は,前記のとおり,経済産業省及び東京都の立入検査を受け,それ以降,a社の新規入学者数が,前年同月比で半数を下回り,これに伴う受講料の受け入れも激減し,a社の資金繰りは急激に悪化した(甲A5)。

 しかし,立入検査後に行われた同月28日の取締役会及び同年3月9日の監査役会では,対応等が協議されなかった(甲A114,甲A117)。

   ケ 平成19年度(第18期)

 (ア)前記最高裁判決が下されて以降のa社の状況

 同年4月3日,最高裁判所は,前記のとおり,a社が定める受講料の清算に関する規定は無効であるとする判決を下した(甲A6)。しかし,上記最高裁判所の判決が下された後に行われた同月9日の取締役会及び同年5月25日の監査役会では,対応等は特に協議されなかった(甲A115,118)。

 a社は,経済産業省と東京都の立入検査を受けて,同月7日,経済産業省に対し,業務改善案を提出した。その内容は,書面不備や,誇大広告について改善したというものであった(乙ア58,59の1ないし59の5の2)。

 同年6月13日,前記のとおり,経済産業省は,a社に対し,一定の業務について同月14日から同年12月13日まで6か月間の業務停止を命じた(甲A52)。

 この業務停止処分以降,a社は,新規の長期契約ができないばかりか,受講生から,解約と受講料の返還の申し出が殺到する状況となり,平成19年4月の売上が前年同月の約6分の1,平成19年5月の売上が前年同月の約4分の1となり,平成19年6月以降に至っては,解約清算金が新規収入金を上回った。これによって,a社は,収入がないまま高額の固定費(教室の賃料,講師・従業員の給料等)を支払う状況となり,財務内容(手許流動性等)は著しく悪化した(甲A5)。

 同年6月15日,前記前提事実のとおり,厚生労働省は,教育訓練給付でa社の指定を取り消した。

 同月27日,a社は,日本人従業員の給与を支払ったものの,拠店賃貸料等の支払原資約8億円を調達することができず,賃貸料の支払いが遅れる物件が出始めた(甲A5)。

 a社は,同月19日に支給予定だった夏季賞与約8億円及び同月27日に支払予定の日本人従業員に対する給与約5億円を支払うことができず,5日後の同年8月1日に遅配していた分の給与を支払ったものの,同月27日の給与についても遅配した(なお,同給与については同年9月5日までに順次支払った)。この後,a社は,従業員に対する給与は一切支払っておらず,外国人講師についても同年9月14日以降の給与は全く支払えない状態となった(甲A5)。

 同年9月20日の監査役会において,取締役会が開催されないことについて協議がなされ,被告Y6が文書を作成して取締役会を開催することで合意した(甲A119)。

 同月21日,被告Y6,被告Y9及び被告Y10は,被告Y1に対し,取締役会が近時開催されていないため,取締役会を早急に開催してほしい旨の申し入れをした(甲A120)。

 (イ)会社更生手続開始の申立て

 被告Y3らは,a社の負債等の拡大を傍観できないと判断し,同年10月25日,臨時取締役会において被告Y1を代表取締役から解任し,新たな代表取締役に就任し,会社更生手続開始の申立てをすることを決め,同月26日,その申立てをした。これに対し,同年11月26日,破産手続開始決定がなされた(乙ウ11)。

 破産手続開始決定時におけるa社の負債は,公租公課が約25億円,労働債権が合計約60億円であり,財団債権,別除権の価額等を除く一般債権は,合計約764億円で,そのうち,受講生の債権は約564億円であった。

  (2)a社の広告宣伝費

 a社は,平成17年3月期には,110億円の広告宣伝費(売上高比14.6パーセント)を計上し,また,平成18年3月期には約111億円の広告宣伝費(売上高比約15.9パーセント)を計上した(甲A50)。

 さらに,a社は,平成19年3月期には,約28億9000万円の当期純損失を計上し,他方で約70億円の広告宣伝費(売上高比約12.3パーセント)を計上した(甲A51)。

  (3)a社の経営体制について

   ア a社の株主構成

 a社の株主構成は,平成19年3月31日時点において,b社(被告Y1が100パーセント株式を有する。)が36.02パーセント,被告Y1個人が35.55パーセントを有するなど,被告Y1が実質的に合計77.34パーセントの株式を保有するというものであり,平成19年9月30日に被告Y1及びb社が株式を譲渡するまで,上記割合にほとんど変動はなかった(甲A5,A9ないし15,乙ア7ないし乙ア10,弁論の全趣旨)。

   イ 役員報酬について(乙ウ3~乙ウ9)

 (ア)平成15年度から平成17年度にかけての被告Y1,被告Y2及び被告Y3らの役員報酬月額は以下のとおりであった(乙ウ3ないし乙ウ5)。

平成15年度 平成16年度 平成17年度

被告Y1 1300万円 1300万円 1300万円

被告Y2 160万円 ------------ ------------

被告Y5 62万円 62万円 92万円

被告Y4 17万円 18万円 18万円

被告Y3 23万円 24万円 24万円

 (イ)被告Y4は,平成8年6月29日にa社の取締役に就任し,役員報酬が支給されるようになったものの,年間の給与額は996万8000円と取締役就任前後で変わらなかった(乙ウ1,2,Y4)。

 (ウ)被告Y3は,平成5年2月3日にa社の取締役に就任したところ,平成7年3月の給与支給額は83万5000円,同年4月の給与支給額は84万4700円,平成10年4月の給与支給額は81万9200円でいずれも役員報酬は支給されなかったのに対し,同年5月の給与は役員報酬が支給され,給与支給額は81万9200円であった(乙ウ17ないし20,Y3)。

   ウ 取締役会の開催状況

 a社の取締役会は,被告Y2が取締役を退任した平成15年6月ころまでは,月に1回程度行われていたものの,被告Y2が取締役を退任した後は,ほとんど開催されなくなった(被告Y2,被告Y4,被告Y3)。

 取締役会議事録(甲A148ないし158)の作成について,a社の本部に保管されていた被告Y3らの印鑑が同人らの手によらずに押印され,被告Y3らが印鑑を管理した平成18年以降は,回覧されてきた取締役会議事録に押印する持ち回り決議の形が取られていた(被告Y4,被告Y8)。

 なお,平成18年ころからは,取締役だけでなく,エリア・マネージャー等を加えた多人数での会議が年に何回か行われていた(被告Y4)。

   エ 被告Y1は,a社の創業者で,その株式の大半を保有していただけでなく,a社の業務全体を把握していた唯一の人物であり,その重要な経営戦略や資金の支出は,取締役会決議を実質的に経ないまま,被告Y1単独の意思決定によって決定され,被告Y1から各担当部署に直接指示される形で事業遂行がなされてきた。

 また,税務部門以外への監査役の関与はなされておらず,監査役による業務監査はなかった(甲A5)。

   オ 以上のとおり,a社は,被告Y1のいわゆるワンマン経営であり,被告Y3ら他の取締役は,経営方針につき,影響力を持っておらず,監査役による監査も,少なくとも業務監査はなされていなかった。

  (4)a社の受講料及び途中解約時の返金額の定め(解約清算方法)

 a社のグループレッスンは,1人の講師に4人程度の受講生がついて行われ(現実には平均2人ないし3人程度となる。),グループレッスンを1回受講する毎に1ポイント消費する。その他,個人レッスンを1回受講すると,3ないし4ポイントを消費する(乙ア59の1,被告Y1)。

 受講生がa社のレッスンを受講する際に購入するポイント数と,受講生が支払う受講料の価格及び1ポイントあたりの単価(円)の対比は以下のとおりである。それぞれのポイントの有効期間は80ポイント以下が1年,110ポイント以上が3年であった(乙ア55,被告Y1)。

ポイント数 価格 ポイント単価

600 720000 1200

500 675000 1350

400 620000 1550

300 525000 1750

250 462500 1850

200 390000 1950

150 307500 2050

110 231000 2100

80 184000 2300

50 150000 3000

25 95000 3800

 受講生は,クーリングオフ期間が経過した後も,受講契約を解除することができる。その場合の受講料の返金額(解約清算金の額)は,受講生がa社に支払った受講料の総額から,消費済みのポイント数(以下「役務提供済ポイント数」という。)に,役務提供済ポイント数以下で最も近いポイント数のポイント単価(すなわち,購入時の単価より高くなる。)を乗じた金額,中途解除登録手数料及び教材費等を差し引いた金額となる。

 a社は,この解約清算金の算定方法について,関係省庁から違法であるとの指摘は受けていなかった(甲A33,38,147,乙ア52)。

  (5)受講契約の解約状況と売上返戻引当金の設定について

 a社における受講契約の解約清算金と,それが収入金額に占める割合は以下のとおりである(平成17年度は上期のみ)。

年度 解約清算金 収入金 比率

平成11年度 20億6600万円 454億1200万円 4.5%

平成12年度 29億6400万円 459億1000万円 6.4%

平成13年度 29億5900万円 479億1100万円 6.2%

平成14年度 28億4500万円 536億6800万円 5.3%

平成15年度 40億9400万円 562億5300万円 7.3%

平成16年度 53億5000万円 552億4100万円 9.7%

平成17年度 19億4500万円 211億0000万円 9.2%

 a社は,平成16年3月期末から,収入金額に対する解約清算金額の割合が増加傾向にあるとして,解約清算金に関する引当金を計上する必要があるとしていた(甲A26ないし甲A29)。そして,a社は,平成17年3月末決算期以前は,受講契約の解約に備えて引当金を賃借対照表に計上していなかったものの,解約清算金が増加してきたことと,返金率算定のためのデータ管理体制が整い,返金見込額を合理的に見積もることが可能になったため,平成18年3月末決算期から,解約清算金を解約時に計上する方式を改め,将来の返金見込額に基づいて引当金を計上することにし,同決算期は,11億8396万5000円の売上返戻引当金を負債に計上した(甲A14,甲A30,証人F)。また,a社は,平成19年3月末決算期において,18億8044万1000円の売上返戻引当金を負債に計上した(甲A15)。平成18年3月末決算期は,1年前の解約の実績数字に基づいて計算したが,平成19年3月末決算期は直近の数字まで加味して計算した(証人G)。

  (6)外国語学校事業の需要に関する状況

   ア 小学校における外国語教育の推移

 昭和61年4月の臨時教育審議会において,中学校や高等学校等における英語教育が文法知識の修得と読解力の養成に重点が置かれすぎていることや,大学における教授に実践的な能力の付与が欠けていることを改善すべきであるとの議論がされ,平成8年7月の第15期中央教育審議会第一次答申で,総合的な学習の時間や特別活動などの時間において,例えば英会話等で子供たちに外国語に触れる機会や,外国の生活・文化などに慣れ親しむ機会を持たせることができるようにすることが適当であること,その際はネイティブ・スピーカーや地域における海外生活経験者などの活用を図ることが望まれるとされた。これにより,平成10年に改訂された学習指導要領により,「総合的な学習の時間」が設けられるとともに,学習指導要領の総則において,総合的な学習の時間取り扱いの一項目として,外国語会話の授業を行うときは,小学校の実態等に応じ,児童が外国語に触れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど,小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにすることが規定され,これにより,全国の小学校において,英語教育が広く行われることになった。

 さらに,平成14年7月に文部科学省によって策定された「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」の中で,小学校の英語教育についての調査が行われ,平成15年度には全国の小学校の約88パーセントが何らかの形で英語教育を実施していることが分かり,さらにその割合は年々上昇し,平成19年度には約97パーセントに達した。このような状況から,平成18年3月,中央教育審議会外国語専門部会から「小学校における英語教育について(外国語専門部会における審議の状況)」が出され,その中で「高学年においては,中学校との円滑な接続を図る観点からも英語教育を充実する必要性が高いと考えられる。」などとして,「例えば,年間35単位時間(平均週1回)程度について共通の教育内容を設定することを検討する必要があると考える」とされ,これを受け,平成20年1月中央教育審議会「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」の中で,小学校段階の外国語活動について,小学校段階にふさわしい国際理解やコミュニケーションなどの活動を通じて,コミュニケーションへの積極的な態度を育成するとともに,言葉への自覚を促し,幅広い言語に関する能力や国際感覚の基盤を培うことを目的とする外国語活動について,国として各学校において共通に指導する内容を示すことが必要であるとして,総合的な学習の時間とは別に高学年において一定の授業時数(年間35単位時間,週1コマ相当)を確保することが適当であるとし,外国語活動の新設が答申された。

 そして,文部科学省は,この答申を受けて,平成20年3月28日に小学校学習指導要領を改訂し,小学校第5学年及び第6学年において,外国語活動(英語を取り扱うことを原則とした。)を新設し,それぞれ年間35単位時間の授業時数を確保し,外国語活動が位置付けられた(乙ア6)。

   イ 外国語学校業界の動向

 a社を始めとする外国語会話教室の市場規模は,年々拡大する基調にあったものの,平成14年度からは横ばいとなっていた。,また,同業界全体の受講生の数も平成15年以降は減少していた。(甲A62の2,乙ア23)。

   ウ a社の経営実績

 平成13年度から平成15年度におけるa社の受講生の数と,a社の受講生の数が外国語会話教室業界全体の受講生数に占める割合は以下のとおりである(乙ア24)。

年度 受講生数 割合

平成13年度 約35万人 約56パーセント

平成14年度 約39万人 約60パーセント

平成15年度 約44万人 約64パーセント

   エ 平成15年ころから,a社は,全国の多数の小中学校に対し,外国人教師を派遣してきた(乙ア33,58,被告Y1)。

 以上の前提事実を基に,争点については判断する。

 2 被告取締役らの不法行為(主位的請求の関係)

  (1)財政破綻状態の隠匿による受講契約の締結の有無について

   ア 原告らは,本件会計処理方式は,企業会計原則に反して違法であり,同原則に適合した会計処理を前提とすると,a社は,平成11年3月期から平成13年3月期まで3期連続で債務超過であり,遅くとも同年6月には倒産といえる状態であったにもかかわらず,a社は,本件会計処理方式を採用し,また,必要な引当金を的確に計上しないことにより債務超過状態を隠匿した上で,原告らに受講契約を締結させ,損害を被らせたと主張している。

 そこで,a社が平成11年3月期から平成13年3月期まで債務超過状態であったか検討する。

   イ 本件会計処理方式が企業会計原則に反するか否かについて

 (ア)前記前提事実のとおり,本件会計処理方式は,受講生がa社に対して支払った受講料のうち,45パーセントを「a社システム登録料」として契約時に売り上げ(収益)に計上し,残りの55パーセントは「a社システム利用料」として,契約期間に対応した期間に応じて収益に均等計上するというものである。

 原告らが,本件会計処理方式が違法であるとする論拠は,企業会計原則によれば,売上高は,実現主義の原則に従い,商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限るとしているところ(甲A53,企業会計原則第2,3B),a社のシステム登録料のうち,有効期間が3年のものについては,初年度に売上に計上できるのは3分の1であるにもかかわらず,45パーセントを計上している点で企業会計原則の実現主義に反する,というものである。

 (イ)企業会計原則における実現主義は,役務を提供したものについて収益に計上することができるというものであり,本件会計処理方式におけるシステム登録料は,外国人講師の手配や受講生の受入環境の維持,レッスンや教材の質の維持など,個々のレッスンの実施以外に,その準備のためにかかる費用のことである。それは,a社のレッスンシステムを利用するための対価にあたるととともに,個々のレッスンを受ける前に費やされるものであるから,受講を開始する時点で,役務の提供があるといえる。すなわち,外国語のレッスンを受講生に対して行うには,不動産を借りて教室を確保することが必要であり,また,講師となる外国人を採用し,レッスンのカリキュラムについても研究・作成する必要がある。また,お茶の間留学システムにおいても,事前に必要なIT技術・機器を開発・製造する必要がある。そうすると,レッスンを受けるための人的物的設備を整備することも,初期費用として,役務の提供の一部といえる

 初年度に45パーセントという割合を計上する点について,a社がレッスン実施のいわば前提・準備のために支出する金額が,全経費の何割を占めているかは証拠上必ずしも明らかではないものの,a社は,新規教室の開設して教室数を増やす等のため(その経営判断が違法とまではいえない点については後記のとおり),毎年相当数の外国人講師を採用し,また受講者のための教材の開発・改訂をするなどしており,これらには相当額の費用がかかると認められること(乙ア59の3,被告Y1,被告Y4),本件会計処理方式は,上場時に,監査法人だけでなく,主幹事会社や証券取引所からも妥当な処理であると認められており,逆に45パーセントを計上することが過剰であることを示す証拠が見当たらないことからすると,割合として不相当なものでなかったと推認できる。そして,a社は,受講契約を締結した受講生に対して,当該システムを利用できる環境という役務を提供し,契約時に受講料に占めるシステム登録料の存在及びその割合を明示していた(甲A32)。

 したがって,システム登録料45パーセントを初年度に売上とし計上することが,費用収益対応原則・実現主義に反して違法である,とまではいえない。

 よって,a社が平成11年3月期から平成13年3月期まで債務超過であったとはいえない。

   ウ 解約清算金のための売上返戻引当金について

 (ア)原告らは,a社が平成17年3月末決算期以前に解約清算金に関する引当金を計上しておらず,また,平成18年3月末決算期以降の解約清算金に関する引当金は過少であり,a社の負債を隠匿している旨主張している。

 (イ)企業会計原則によると,引当金は,将来の特定の費用又は損失であって,その発生が当期以前の事象に起因し,発生の可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積もることができる場合には,当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ,当該引当金の残高を賃借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとすると定められている(企業会計原則注解18,甲A53)。

 a社においては,前記認定事実のとおり,初めて売上返戻引当金を計上した平成18年3月末決算期以前から一定程度解約清算金が生じており,その都度,売上を減額する方式で処理していた。

 前記認定のとおり,平成18年度以前から一定程度解約清算金が生じていたのであるから,解約清算金が発生する可能性が高いといえ,また,金額もある程度見積もることができるのだから,引当金として計上しておくべきであったと考えられる。

 他方,平成11年度から平成14年度は,収入金額に占める解約清算金の割合は,4ないし6パーセント程度にすぎず,a社の財政状態を正常に示す上でそれほど重要な割合を占めているとは認められない。

 それ以降の解約清算金の割合は,平成15年度は7.3パーセント,平成16年度は9.7パーセント,平成17年度上期は9.2パーセントと,平成15年度からその割合は増加し始めていることからすると,より重要度が増したといえる。しかし,引当金を計上するためには,解約清算金の見込額を合理的に算定できなければならないところ,平成18年3月末決算期より前は,解約清算金のデータは作成されていなかったのであるから,その見込額を算定することは困難であった。そうすると,同決算期より前に解約清算金に関する引当金を計上しなかったとしても,企業会計原則に反して違法であるとまではいえない。

 (ウ)平成18年3月末決算期においては,解約による清算金のデータが作成されたため,a社は,平成15年度から平成17年度上期までの収入金に占める解約清算金の割合が上昇してきたことを受けて,平成18年3月末決算期に約11億円の引当金を計上している。

 そして,この金額は,負債の部の長期繰延駅前留学サービス収入の期末残高に45/55を乗じ,過去5年間の平均解約率4.6パーセントを乗じたものである。前記のとおり,a社が契約時にシステム登録料として受講料の45パーセントを収入に計上していることからすると,解約された場合に収入から支出に計上するのは,成約時(契約期間の初年度)に売上げに計上される分のシステム登録料であるから,長期繰延駅前留学サービス収入の期末残高に45/55を乗じることが不合理とはいえない。また,過去5年間の平均解約率4.6パーセントを乗じる点も,前記の平成15年度以降の収入に占める解約清算金の割合に比べるとやや低いものの,平成11年度から平成14年度の割合と同程度であることからすると,低すぎるとまではいえない。そうすると,平成18年3月末決算期の引当金の計上が,債務額を低く表示する粉飾決算でとして違法である,とまではいえない。

 (エ)原告は,平成17年以降は,解約清算金の計算方法に関する多数の訴訟において敗訴が続いていたのであるから,遅くとも平成18年3月末決算期以降,解約清算金に関する引当金を計上するに当たっては,解約清算金の計算方法に関して,a社の主張が認められなかった場合についても考慮した引当額が計上されるべきであったと主張する。

 しかし,前記のとおり,平成18年3月末決算期においては,前記最高裁判所の判決がまだ出されていなかったことからすると,当時におけるa社の上記引当金計上方法が,不合理であるとはいえない。

 (オ)以上から,a社が平成18年3月末決算期まで引当金を計上しなかったこと及び同決算期以降の引当金の額は,より妥当な計上が望ましかったといえるとしても,企業会計原則に反するものとまでは認められない。

   エ したがって,被告取締役らがa社の債務超過,財政破綻状態を隠匿したとはいえない。

  (2)原告らの受講契約締結後の債権侵害について

 原告らは,取締役は,会社が取引相手に対する契約上の義務を履行できるように会社経営を行うことは,取締役の最低限の義務であるから,経営に関する取締役の決定等が明白に違法であって,その結果,取引相手の会社に対する権利が侵害された場合には,取締役は,故意又は過失がある限り,取引相手に対する権利侵害について一般不法行為責任を負うと主張する。

   ア a社が経営破綻に至った経緯

 前記前提事実及び認定事実によると,a社は,平成5年に商号を変更した後,拠店数や生徒数を増加させるとともに,売上高を伸ばし,拡大していった。平成12年度以降の営業利益についても,平成17年度に営業損失及び経常損失が出るまで,利益を出し続けていた。平成17年度及び平成18年度は,拠店数が急増したことや,新規入学者が契約よりも落ち込んだこと等もあって,営業損失及び経常損失が出たものの,監査概要報告書には特に問題がないとされていたことからすると,a社の経営状態が倒産状態にあったとはいえない。

 しかし,平成19年2月14日,経済産業省及び東京都がa社に立入検査をしたこと,同年4月3日に,最高裁判所が,a社が定める受講料の清算に関する規定は無効であるとの判決を下したこと,同年6月13日に,経済産業省がa社に対し,一定の業務(新規の長期契約の締結)について6か月間の業務停止を命じたことなどにより,a社の信用は低下し,a社は,一方で長期の新規契約ができなくなるなど新規受講者が減少し,他方で解約申入れが急増して解約清算金の支払に迫られたため,a社の資金繰りが悪化し,被告Y1による新たな出資の獲得の試みもうまく行かず,拠店の賃貸料の滞納,給料の遅配などの事態が発生してさらに信用が低下し,資金繰りが行き詰まったものである。

 以上を前提に,資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反の有無について検討する。

   イ 資金流出回避義務違反

 (ア)原告らは,a社の受講契約はその性質上中途解約が予定されるから,被告取締役らは,授業の経費や解約清算金のための資金を適切に社内に留保すべき資金流出回避義務を負っていたにもかかわらず,企業会計原則に適合しない会計処理によって多額の負債を隠匿して利益の水増しを行いながら,莫大な広告宣伝費をかけたり無謀に新規教室を開設したりして,a社の実収入に到底見合わない経費を支出し,会社財産を流失させたと主張する。

 (イ)a社の採用していた本件会計処理方式が企業会計原則に違反しないのは前記のとおりである。

 (ウ)教室数拡大や広告宣伝費などa社の経営戦略について検討する。

  a 企業の経営に関する判断は,不確実,流動的,複雑かつ多様な諸要素を考慮した専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的なものであり,また,企業活動は,利益獲得をその目標としているところから,一定のリスクが伴うものである。このような企業活動の中で,取締役が萎縮することなく経営に専念するためには,その権限の範囲で裁量権が認められるべきである。

 したがって,取締役の業務についての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断は,取締役によって当該行為がなされた当時における会社内の状況及び会社を取り巻く社会,経済,文化等の諸状況の下において,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見,経験及び能力を基準として,前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否か等の観点から,当該行為を選択・実行することが著しく不合理と評価されるか否かとして行われるべきである。

  b 前記認定事実のとおり,a社は,会社を設立した後,年々拠店数を増やしていき,平成12年3月末に468店であった拠店数は,平成18年3月の最も多いときで994となり,平成18年度において減少に転じた。また,○○スクールについてみても,平成12年3月末で240拠店だったのが,平成17年3月末には687拠店になった。

 このような拠店数の拡大について,確かに,平成14年度から外国語会話教室業界の市場規模は横ばい状態となっていたことからすると,平成15年度以降は,拠店数の増加を抑制すべきであったのに拡大路線を継続し,また,そのような教室数に関する意思決定を,しかも被告Y1単独で行ったことは,結果的には不相当であったことは否めない。

 しかし,前記のとおり,遅くとも平成14年以降,小学校における外国語教育の重要性が指摘され,その実施が予想されていたことからすると,そのごく近い将来,○○スクールの需要が伸びること,ひいては中高校生以上の者を対象とする外国語教授の需要が伸びると予測判断したことが不相当であったとまではいえない。また,小学校及び中学校で外国語教育を行う場合,ネイティブスピーカーが必要になるのであるから,拠店を新たに開設して,その拠店から小学校及び中学校に講師を派遣するという需要があると予想したことも不相当ではない。

 したがって,教室数を拡大し,人員採用数を増やしたことが著しく不合理とまではいえない。

 なお,a社は,平成18年3月期に累計拠店数が994拠店と最大になったものの,拠店数増加により,それらの競合が生じたために,平成17年度後半以降は,新規拠店の開設数を減らし,さらに,開設済みの拠店を統合するなどして,平成19年3月期には拠店数自体を減らしてコストダウン等を図っており,野放図な拡大路線を続けたとまではいえない。。

  c 広告宣伝費について,前記認定事実のとおり,平成17年3月末決算期から平成19年3月末決算期までの広告宣伝費は,売上高の約15パーセント程度である。そして,外国語会話教室業界は,受講生を獲得するため,宣伝が必要となることや,外国語会話教室業界の中でa社は最大手であることなど,広告宣伝の必要度や会社の規模からすると,売上高の約15パーセント程度の広告宣伝費を支出することが,著しく不合理であるとまでは認められず,この点についても,経営判断が違法とまではいえない(被告Y1,被告Y7)。

  d お茶の間留学システムの構築について,同システムは,物理的スペース(実店舗)を必要とせず,また,実際に受講者が教室に来なくても受講できるという特長を有することから,従来のシステムより少ない固定費で済み,通学を要しないことから新たな受講者の獲得も見込めるものである。また,外国語の授業以外の用途にも使えるものであり,その点でも新たな市場を開拓し得るものであった(乙ア30,31)。

 したがって,その開発・普及のために多額の費用を費やしたことが,経営判断上不当であり,違法であるとまではいえない。

 なお,原告らは,このシステムに必要な機器を開発したギンガネットへのa社の多額の貸付等を,資金流出回避義務違反の事情として主張するものの,上記のとおり直ちに違法であるとは断定できないし,a社の破綻との因果関係があるとも認められない。

  e さらに,原告らは,仮に,原告らがa社と受講契約を締結した時点において,a社の財政状態の破綻の程度が回復可能なものであったとしても,原告らの受講契約締結時から遅くともa社の会社更生手続申立ての時点(平成19年10月26日)までの間の被告取締役らの資金流出回避義務違反により,a社は,授業を継続して提供することができず,解約の際には解約清算金を返還できない状態になったと主張する。

 しかし,前記のとおり,a社が破綻に至った経緯は,平成19年の立入検査,最高裁判決及び経済産業省による業務停止処分により信用不安が拡大したといういうものであり,それらの原因となった解約清算金の算定方法等の判断について,被告取締役らには,著しく不合理な点はなかったといえる。そうすると,平成19年10月26日までに,a社が授業を継続して提供することができず,解約清算金を返還できない状態になったとしても,そのことについて,被告取締役らに違法な行為があったとはいえない。したがって,原告らの主張には理由がない。

  f なお,仮にシステム登録料を前受金(正確には前受収益)として計上すべきであったとしても,解約清算金の発生は当然予定されているものでないこと(前提である解約が,著しい信用不安などの事情がない限り,一定の割合で発生するに過ぎない。),少なくとも平成11年当時,その保全措置を法制化することは見送られており,平成20年以降に個別の業者ないし特定の業界団体がその取り組みを開始した状態であったことからは,前受収益を事業のために使用することが絶対に禁止されていたとまではいえない(甲A18ないし23)(a社が前払収益に該当する部分を含めた流動資金を,拠店の増加等の事業展開のために使用したことが違法とまではいえないことは,前記のとおりである。)。

 (エ)以上より,被告取締役らに,資金流出回避義務違反があったとは認められない。

   ウ 倒産回避・遵法経営義務違反

 原告らは,a社の受講契約は,長期間の契約であることが予想されていたのであるから,被告取締役らは,監督官庁から業務停止命令や行政指導を受けるなどして,信用性を損ない,新規契約申込者が途絶えたり,減少することによって倒産に至ることのないよう,法令を遵守した経営を行う義務を負っていたなどと主張する。

 そこで,被告取締役らに法令遵守義務違反があったかどうか検討するに,確かに,平成14年ころから,解約清算金の算定方法について,消費者団体から改善要望が来たり,下級審の裁判所においてa社が敗訴していた事案があったのだから,対処することが望ましくはあったといえる。

 しかしながら,下級審の判断は上級審で覆される可能性もある判断であることからすると,最高裁判所の判断が出るまでは,解約清算金の算定方法を変更しなかったとしても,法令を遵守しなかったとはいえない。

 また,平成19年6月の経済産業省による行政処分の根拠となった事由としては,他に書面記載不備(クーリングオフ条項の記載の不備,役務提供開始日を,契約締結日でなく,生徒登録日とした等),誇大広告(入学金全額免除を通年実施していたにも関わらず,期間限定である旨のキャンペーンをした。),不実告知(予約が取りにくい状況であったにもかかわらず,好きなときに取れるなどと述べた等)が挙げられており,そのような事例があったことは認定できる(甲A52)。しかし,これらに対して,a社は行政処分前に業務改善計画書を提出し,一部は既に改善済みであるとの報告をし,現に改善を図っていたと認められる(乙ア58,59の1ないし5)。

 なお,a社は,平成14年の東京都の立入検査に対しても業務改善計画書を提出している。

 したがって,被告取締役らに倒産回避義務違反及び法令遵守義務違反があったとはいえない。よって,被告取締役らの原告らに対する不法行為は成立しない。

 3 被告監査役らの責任(主位的請求の関係)

  (1)財政破綻状態の隠匿による受講契約締結行為について

 原告らは,被告監査役らは,a社の業務監査及び会計監査を怠り,被告取締役らの財政破綻状態の隠匿をあえて見逃すことで,被告取締役らの財政破綻状態の隠匿による受講契約の締結行為に加担していた。また,本件会計処理方式に基づく会計処理が企業会計原則に違反することを認識していた被告監査役らは,a社の監査役として,自らその問題点を指摘し,被告取締役らに対してその是正を求めるべきであったにもかかわらず,被告取締役らにその是正を求めなかったなどと主張する。

 しかしながら,本件会計処理方式が企業会計原則・実現主義に反しないことは,前記のとおりであり,被告監査役らが,本件会計処理方式が企業会計原則に違反するかどうかを認識していたとする前提を欠くから,被告監査役らに監査役としての義務違反があったとはいえない。

 また,前記のとおり,被告取締役らは,a社の財政破綻状態を隠匿していないのだから,被告監査役らが,被告取締役らの財政状態隠匿行為に加担したとはいえない。

 したがって,被告監査役らに不法行為は成立しない。

  (2)原告らの受講契約締結後の債権侵害について

 原告らは,被告監査役らは,被告取締役らが企業会計原則に反する違法・不当な決算書を作成していることや,必要な資金を留保することなく,広告宣伝費や新規教室の開設等に多額の費用を支出していることに関し,取締役会で意見陳述や報告をしなかったばかりか,監査役会監査報告(書)で適法意見を述べ続け,また,被告監査役らは,監査役会監査報告(書)において,被告取締役らの職務遂行に関し,不正行為又は法令等に違反する事実があったことを指摘しなかったこと等により,被告取締役らの資金流出回避義務違反ないし倒産回避・遵法経営義務違反に加担し,あるいは,会計監査,業務監査を通じた監督業務義務に違反したなどと主張する。

 しかしながら,前記のとおり,被告取締役らに資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反があったとはいえないのだから,被告監査役らがそれらの義務違反へ加担したこと及び被告監査役らに監査義務に違反したとする前提を欠く。

 したがって,被告監査役らに不法行為は成立しない。

 4 被告会計監査人らの責任(主位的請求の関係)

 原告らは,会計監査人は,監査対象企業に対し,企業会計原則に則った処理をするよう指導又は助言をし,会計監査報告書において当該会計処理が企業会計原則に反するか,または反するおそれがあることの指摘をするべき義務があるのだから,被告Y11監査法人は,本件会計処理方式の採用時点から,本件会計処理方式による収益計上基準が違法であることを認識していたにもかかわらず,平成8年から平成18年3月期まで,本件会計処理方式で作成されたa社の決算に適法・適正意見を出し続けたことにより,a社の虚偽記載による粉飾決算を容認し続け,また,被告Y12監査法人は,a社の財政状態が,監査業務を引き継ぐ時点で財政状態が危機的であることを認識しながら,被告Y11監査法人がa社に対して行ったa社の危機的財政状況に関する指摘について十分に検討し,対応することなく,被告Y11監査法人の対応をただ漫然と引き継ぐのみならず,平成19年3月の決算期において無限定の適正意見を付するなどし,よって,被告会計監査人らは,a社の財政破綻状態の隠匿に故意をもって加担し続けたなどと主張する。

 しかしながら,前記のとおり,被告取締役らはa社の財政破綻状態を隠匿しておらず,また,資金流出回避義務違反もない。

 したがって,原告らの主張は,その前提を欠くから,被告会計監査人らには不法行為は成立しない。

 5 以上によれば,原告らの主位的請求は,いずれも理由がない。

 6 第1次的予備的請求について

  (1)原告らは,本件会計処理方式は,企業会計原則の実現主義に反するものであり,また,a社が売上返戻引当金を適確に計上しなかった点も虚偽記載に当たるとして,被告取締役らに対する損害賠償を求めるとともに,監査役会監査報告(書)に適法・適正意見を出した被告監査役ら及び損益計算書と賃借対照表等に適正・適法意見を付した被告会計監査人らも,虚偽記載を行ったとして損害賠償を求めている。

 しかしながら,前記のとおり,本件会計処理方式は,企業会計原則の実現主義に反するとまではいえず,また,売上返戻引当金の計上についても企業会計原則に適合しないものとはいえなかったから,被告取締役らが,損益計算書等に虚偽の記載をしたとは認められない。

 そして,本件会計処理方式及び売上返戻引当金の計上の有無・態様が企業会計原則に反せず,被告取締役らが違法行為を行ったとはいえないことからすると,被告監査役ら及び被告会計監査人らが虚偽記載を行ったともいえない。

  (2)以上によれば,原告らの第1次的予備的請求は,いずれも理由がない。

 7 第2次的予備的請求について

  (1)原告らは,被告取締役らが,財政破綻状態の隠匿行為,資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反を行ったこと,被告監査役らがそれらの行為に加担したこと,被告Y11監査法人が,被告取締役らの財政破綻状態隠匿行為,資金流出回避義務違反に加担したこと,被告Y12監査法人が,被告取締役らの財政破綻状態隠匿行為に加担したことは任務懈怠にあたるとし,被告取締役ら,被告監査役ら及び被告会計監査人らは,取締役の第三者に対する責任を負うと主張する。

 しかし,前記のとおり,被告取締役らは,財政破綻状態隠匿行為を行っておらず,また,資金流出回避義務違反及び倒産回避・遵法経営義務違反もないから,任務懈怠があるとはいえず,そうすると,被告監査役ら及び被告会計監査人らは,被告取締役らの違法行為に加担することもできない。

 したがって,被告取締役ら,被告監査役ら及び被告会計監査人らは,対第三者責任を負わない。

  (2)以上によれば,原告らの第2次的予備的請求は,いずれも理由がない。

第4 結論

 よって,原告らの各請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。