東京高裁平成24年10月24日判決〔電気通信事業者が携帯電話番号の名義人の氏名、住所地等についての調査嘱託に回答を拒絶したことに正当な理由がなかったが、不法行為責任が否定された事案〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は、XがA外9名を被告として提起した損害賠償請求事件において、別件訴訟が係属する裁判所に対し、Aに対して訴状副本及び期日の呼出状等を送達するため、電気通信事業者であるYを嘱託先として、Yが使用していた携帯電話番号について、契約締結時から調査嘱託時点までの間の(1)契約名義人の氏名及び住所地、(2)電話料金請求書送付先住所地等、(3)連絡先電話番号、(4)電話料金の支払い方法の事項を明らかにするよう調査嘱託を申し立て、同裁判所は、民事訴訟法151条1項6号、同条2項及び186条に基づき、被告に対し、上記事項について調査の上書面で回答するよう嘱託したところ、被告は、個人情報保護、通信の秘密の保持及び企業機密の非公開等を理由に本件調査嘱託に対する回答を拒絶した。

そこで、Xは、Yに対し、かかる回答拒絶が、原告に対する不法行為であり、原告は被告の上記不法行為によって、乙山の住所を把握できないことによる経済的損失として10万円、慰謝料として10万円及び上記調査嘱託の申出に要した費用相当額1000円の合計20万1000円の損害を被ったなどと主張して、不法行為による損害賠償請求を求めるなどをした事案である。

2 原審は、本件調査嘱託事項のうち、上記(1)ないし(3)は、嘱託事項に対して回答すべき義務は、「通信に関して知り得た他人の秘密」としての秘密保持義務に優越するものと解するのが相当であり、Yが回答を拒絶したことについて、正当な理由があったとは認められないというべきである。

他方、上記(4)については、「通信に関して知り得た他人の秘密」に基づく秘密保持義務は、調査嘱託に回答すべき義務に優越するものであり、Yが回答を拒絶したことについては、正当な理由があったというべきであるとした。

また、Yの回答拒絶行為について、Xに対する不法行為は成立するかについては、調査嘱託に対して回答すべき義務は、嘱託先が当該調査嘱託をした裁判所に対して負う一般公法上の義務であり、当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対して負うものではないから、嘱託先が当該調査嘱託に回答しない行為について、当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対する不法行為が成立する余地はないとして棄却した。

3 本判決は、不法行為の成否について、調査嘱託に対する嘱託先の回答義務は、当該調査嘱託をした裁判所に対する公法上の義務であり、調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者に対する直接的な義務ではないので、上記公法上の義務に違反したことが直ちに上記訴訟当事者に対する不法行為になるというものではないが、調査嘱託の回答結果に最も利害を持つのは調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者であるところ、この訴訟当事者に対しては回答義務がないという理由のみで不法行為にはならないとするのは相当ではないというべきであるとし、調査嘱託を受けた者が、回答を求められた事項について回答すべき義務があるにもかかわらず、故意又は過失により当該義務に違反して回答しないため、調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者の権利又は利益を違法に侵害して財産的損害を被らせたと評価できる場合には、不法行為が成立する場合もあると解するのが相当であるとした。

ただし、本件事案においては、本件調査嘱託にはその目的の記載がなく、Yにおいて、秘密保持等のために回答を拒否したとしてもやむを得ないとして、不法行為を否定した。

4 調査嘱託に対する調査先が原則として回答義務を負うことについては概ね争いはないが、これが訴訟当事者に対する不法行為を構成するかどうかについては、争いがあり、原審は、不法行為を構成する余地がないとした。他方、本件裁判所は、不法行為責任の一般的要件を充たす限り、不法行為が成立する余地があるとした点、実務上、参考になろう。

なお、本件裁判所は、調査嘱託の目的が記載されておらずYにおいて目的が判明しなかったことを理由に故意又は過失を否定したものであるが、目的の記載があれば不法行為が成立しえたとの趣旨なのかは明らかではない(そもそも、調査嘱託書には目的を記載しないのが一般的である。)。

主文

1 本件訴えのうち、東京地方裁判所が同庁平成23年(ワ)第25181号損害賠償請求事件において同年9月15日付けでした調査嘱託に係る別紙記載の嘱託事項について、被控訴人が東京地方裁判所に対し回答する義務があったことの確認を求める部分(中間確認の訴え)を却下する。

2 控訴人のその余の控訴を棄却する。

3 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

(前注)

 略語は、原判決の例による。

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、控訴人に対し、20万1000円及びこれに対する平成23年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 被控訴人は、東京地方裁判所が同庁平成23年(ワ)第25181号損害賠償請求事件について同年9月15日付けでした調査嘱託に係る別紙記載の嘱託事項について、東京地方裁判所に対し回答する義務があったことを確認する。

第2 事案の概要

 次のように補正するほかは、原判決の事実及び理由の第2に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、本件調査嘱託事項(1)から(3)までに関する部分に限る。

1 原判決2頁25行目の次に行を改めて次のように加える。

 「 原審は、控訴人の被控訴人が本件調査嘱託に対して回答する義務があるとの中間確認の訴えを却下し、その余の控訴人の請求を棄却した。これに対し、控訴人が控訴した。なお、控訴人は、中間確認の訴えについて、本件調査嘱託に対し回答する義務があるとの確認を回答する義務があったとの過去の確認を求める訴えに交換的に変更した(以下、上記の交換的に変更した後の中間確認の訴えを「本件中間確認の訴え」という。後に引用する原判決においても、同様である。)。また、控訴人は、本件調査嘱託事項(4)については、控訴人の請求の原因から除外している。したがって、当審において審理及び審判の対象は、本件調査嘱託事項(1)から(3)までに関する部分に限る。」

2 原判決10頁7行目の「利益は、」の次に「自らの権利実現、利益擁護のために」を加え、12行目末尾の次に次のように加える。

 「調査嘱託に対して回答すべき義務が調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対する義務ではないとしても、本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為によって、控訴人の法律上保護された利益が侵害されたことに変わりないから、被控訴人は、控訴人に対し不法行為責任を負う。」

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所は、控訴人の訴えのうち、被控訴人が本件調査嘱託に対して回答する義務があったことについて中間確認を求める部分(当審において交換的に変更した後のもの)は確認の利益がなく、その余の訴えに係る控訴人の請求も理由がないと判断する。その理由は、次のように加えるほかは、原判決の事実及び理由の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、本件調査嘱託事項(1)から(3)までに関する部分に限る。

 (1) 原判決13頁22行目の「訴訟当事者」から23行目末尾までを「訴訟当事者に対して直接負う義務とはいえないと解される。」に改める。

 (2) 原判決15頁4行目の「調査嘱託書の記載自体から」の次に「個々の通信内容とは関係のない情報としての携帯電話名義人の氏名及び住所地等の報告を求めるにすぎないものであることを容易に理解することができ、」を加え、5行目の「通信に秘密」を「通信の秘密」に改める。

 (3) 原判決18頁15行目の「両社」を「両者」に改め、21行目の「自然人」から23行目末尾までを次のように改める。

 「証人尋問と調査嘱託とでは証拠調べの公正を確保するための規制を異にしている(調査嘱託は、公正さに疑問を抱かせないような客観的な事項について調査を嘱託し、その調査報告を証拠資料とする簡易・迅速な証拠調べであり、証人尋問のような規制は必ずしも必要ではない。)のであるから、証人尋問と調査嘱託で異なる扱いをするということが民事訴訟法の統一的解釈を乱すことにはならない。したがって、被控訴人の上記主張は採用することができない。」

 (4) 原判決19頁17行目末尾の次に「被控訴人の指摘するドメスティック・バイオレンスの事例は適正な事例とはいえず、」を加える。

 (5) 原判決20頁2行目から6行目までを次のように改める。

 「 前記のとおり、被控訴人は、本件調査嘱託事項(1)から(3)までの調査嘱託に回答すべき義務があるのに、これをしなかった。控訴人としては、本件調査嘱託を通じて取得できた資料を基に乙山の住所を覚知するなどして有効な訴訟遂行を考えていたが、被控訴人からの本件調査嘱託に対する回答がなかったことにより、乙山の住所を知ることができず、結局公示送達の方法により訴訟を遂行せざるを得なかった。その意味で控訴人の有効な訴訟遂行の権利が侵害されたとみる余地もある。確かに、調査嘱託に対する嘱託先の回答義務は、前記のとおり当該調査嘱託をした裁判所に対する公法上の義務であり、調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者に対する直接的な義務ではないので、上記公法上の義務に違反したことが直ちに上記訴訟当事者に対する不法行為になるというものではない。しかし、調査嘱託の回答結果に最も利害を持つのは調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者であるところ、この訴訟当事者に対しては回答義務がないという理由のみで不法行為にはならないとするのは相当ではないというべきである。したがって、調査嘱託を受けた者が、回答を求められた事項について回答すべき義務があるにもかかわらず、故意又は過失により当該義務に違反して回答しないため、調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者の権利又は利益を違法に侵害して財産的損害を被らせたと評価できる場合には、不法行為が成立する場合もあると解するのが相当である。

 本件調査嘱託の嘱託事項は、別紙記載のとおりである(ただし、本件調査嘱託事項(4)が除外されている。)。控訴人作成の調査嘱託申出書には、本件調査嘱託の目的が記載されている(甲3)が、本件調査嘱託においては単に本件調査嘱託事項のみが記載されているだけで、その目的の記載はない。これを受け取った被控訴人としては、本件調査嘱託の目的が判明しない以上、秘密保持等のために回答を拒否したとしてもやむを得ないと考えられる。したがって、本件調査嘱託事項(1)から(3)までについては、被控訴人に回答すべき義務があったのではあるが、上記の点からして、被控訴人の当該義務違反が故意又は過失により行われ、その結果調査嘱託の職権発動を求めた訴訟当事者の権利又は利益を違法に侵害して財産的損害を被らせたとまで評価することはできない。」

2 以上によれば、本件控訴のうち、本件中間確認の訴えは不適法であるから却下し、その余の控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。なお、原判決主文第1項は、控訴人の訴えの交換的変更により、失効している。

(別紙)

 嘱託事項

 携帯電話番号<略>について、契約締結時から現在までの間の利用契約に関する下記の事項について、確認書等がある場合には同書類の写しを提示して明らかにされたい。

   記

 (1) 当該携帯電話の名義人の氏名及び住所地

 (2) 電話料金請求書送付先住所地

 その他住所地(変更等がある場合には変更前を含む複数の住所地)

 (3) 本件電話番号以外の連絡先電話番号(複数把握しているときには複数)

  以上

主文

1 本件訴えのうち、被告が本件調査嘱託に対して回答する義務のあることの確認の訴え(請求2記載の訴え)を却下する。

2 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

1 被告は、原告に対し、20万1000円及びこれに対する平成23年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、東京地方裁判所が同庁平成23年(ワ)第25181号損害賠償請求事件について同年9月15日付けでした調査嘱託に係る別紙嘱託事項について、東京地方裁判所に対し回答する義務があることを確認する。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

 本件は、原告が、乙山太郎(以下「乙山」という。)外9名を被告として提起した東京地裁平成23年(ワ)第25181号損害賠償請求事件(以下「別件訴訟」という。)において、別件訴訟が係属する裁判所(以下「別件訴訟係属裁判所」という。)に対し、乙山に対して訴状副本及び期日の呼出状等を送達するため、被告を嘱託先として、乙山が使用していた携帯電話番号<略>(以下「本件携帯電話番号」という。)について、契約締結時から調査嘱託時点までの間の契約名義人の氏名及び住所地等の事項を明らかにするよう調査嘱託を申し立て、上記裁判所は、民事訴訟法151条1項6号、同条2項及び186条に基づき、被告に対し、上記事項について調査の上書面で回答するよう嘱託したところ(以下「本件調査嘱託」という。)、被告は、個人情報保護、通信の秘密の保持及び企業機密の非公開等を理由に本件調査嘱託に対する回答を拒絶したが、これは原告に対する不法行為であり、原告は被告の上記不法行為によって、乙山の住所を把握できないことによる経済的損失として10万円、慰謝料として10万円及び上記調査嘱託の申出に要した費用相当額1000円の合計20万1000円の損害を被ったなどと主張して、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、20万1000円及びこれに対する不法行為の日である平成23年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、中間確認の訴えとして、被告が本件調査嘱託に対して回答すべき義務を負うことの確認を求める事案である。

2 前提事実(当事者に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)

 (1) 被告は、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)2条5項の電気通信事業者である(弁論の全趣旨)。

 (2) 原告は、平成23年7月29日、乙山外9名を被告として、同人らは運用実態のない「宝船」及び「福の神」などと称する架空のファンドへの出資金名下に、原告から金員を騙取したなどと主張して、別件訴訟を提起した(甲1)。

 (3) 原告は、乙山の住居所を知るため、平成23年8月16日付けで、乙山の最後の就業場所であるワールドプラン株式会社に対し、乙山の住所や連絡先電話番号について回答を求める照会書を発したが、回答は得られなかった(甲2)。

 (4) 乙山が原告に交付した名刺の裏面には、乙山が、自己が使用している携帯電話の番号として手書きした本件携帯電話番号の記載がある(甲7、弁論の全趣旨)。

 (5) 本件携帯電話番号は、総務省により被告に割り当てられた携帯電話番号である(弁論の全趣旨)。

 (6) 原告は、平成23年9月5日、別件訴訟係属裁判所に対し、以下のとおり本件調査嘱託を申し立てた(甲3)。

  ア 嘱託先

 被告資料調整部資料調整一課

  イ 嘱託事項(以下「本件調査嘱託事項」という。)

 別紙嘱託事項記載のとおり。

  ウ 嘱託の目的

 乙山に対し訴状副本及び期日の呼出状等を送達するに当たり、その送達先が必要であり、連絡先電話番号は住所地が不明の場合に住所地調査の端緒とするため。

 (7) 別件訴訟係属裁判所は、平成23年9月15日、被告に対し、民事訴訟法151条1項6号、同条2項、186条に基づき、本件調査嘱託をした(甲4、弁論の全趣旨)。

 (8) 被告は、平成23年9月27日、別件訴訟係属裁判所に対し、個人情報保護、通信の秘密の保持及び企業機密の非公開等を理由に、本件調査嘱託に対する回答を控える旨回答した。

 (9) 電気通信事業法4条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。」と規定し、同条2項は、「電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」と規定する。また、同法179条1項は、「電気通信事業者の取扱中に係る通信(第164条第2項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。」、同条2項は、「電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。」と規定する。

 (10) 原告は、被告から本件調査嘱託に対する回答を得られなかったことから、平成23年11月16日、別件訴訟において、乙山に対し公示送達の方法による送達を申し立て、乙山に対しては、公示送達の方法により訴状副本及び期日の呼出状の送達が行われた(甲12、弁論の全趣旨)。

 (11) 原告は、被告に対し、当初、被告は本件調査嘱託に対し回答する義務があることの確認を求めて本件訴訟を提起したが、平成24年1月24日の本件第2回口頭弁論期日において、前記請求1記載の損害賠償請求(以下「本件損害賠償請求」という。)に訴えの交換的変更を行い、その後、同年3月13日の本件第3回口頭弁論期日において、中間確認の訴えとして、前記請求2記載の本件調査嘱託に対する回答義務の確認請求に係る訴え(以下「本件中間確認の訴え」という。)を提起した(当裁判所に顕著な事実)。

3 争点

 (1) 被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことに正当な理由はあったか。

 (2) 被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為について、原告に対する不法行為は成立するか。不法行為が成立する場合、被告の上記行為によって原告に生じた損害の金額はいくらか。

 (3) 本件中間確認の訴えは適法か(本案前の主張)。

4 争点に関する当事者の主張

 (1) 争点(1)(被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことに正当な理由はあったか)について

(被告の主張)

 民事訴訟法151条、186条の規定する裁判所の調査嘱託に対しては、正当な理由がある場合には回答を拒絶することができるところ、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことには、以下のとおり正当な理由がある。

  ア 秘密保持義務の有無

  (ア) 憲法21条2項後段及び電気通信事業法4条1項の定める「通信の秘密」としての秘密保持義務

 本件調査嘱託事項は、憲法21条2項後段及び電気通信事業法4条1項の定める「通信の秘密」に該当するから、被告は本件調査嘱託事項について、秘密保持義務を負う。

  a 憲法21条2項後段の規定する「通信の秘密」の保障は、私生活の秘密やプライバシーの保護の一環としての性格を有するから、その保障の対象には、通信の内容のみならず、通信や信書の発信者(差出人)及び受信者(受取人)の氏名、住所、居所、通信の回数(差出個数)並びに通信の年月日等通信の存在それ自体に関する事項も含まれる。憲法21条2項後段の規定を受けて、電気通信事業法4条1項は、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密の保護を規定している。

  b 本件調査嘱託事項は、本件携帯電話番号に関し、その契約者(多くの場合は使用者)を特定し得る情報である、契約名義人の氏名及び住所、電話料金請求書送付先住所及び本件携帯電話番号以外の連絡先電話番号等(以下「契約者情報」という。)をその内容とするが、特定の携帯電話番号の契約者情報は、特定の通信の当事者に係る情報として、「通信の秘密」に該当する。

 本件携帯電話番号は乙山自身が原告に開示したものではあるが、そのことから当然に同人が本件携帯電話番号の契約者情報までも開示の対象としたものとはいえず、上記契約者情報について、原告の保有する情報であるとはいえない。

  c 調査嘱託を受けた嘱託先としては、当該調査嘱託に係る調査嘱託書の記載のみによって、嘱託事項が「通信の秘密」に該当するか否かを判断せざるを得ない。被告は、本件調査嘱託に係る調査嘱託書の記載のみによっては、本件調査嘱託事項が「通信の秘密」に該当しないと判断することができないから、これを「通信の秘密」として扱わざるを得ない。

  (イ) 電気通信事業法4条2項の定める秘密保持義務

  a 電気通信事業法4条2項は、電気通信事業に従事する者に対し、「電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密」(以下「通信に関して知り得た他人の秘密」という。)について、秘密保持義務を課している。同項は、電気通信事業という他人の通信を扱う公共性の高い事業に従事する者について、より広範な秘密保持義務を課して通信の秘密の保護に万全を期すことを目的としたものであるから、通信の秘密を害しないか又は害するおそれがないことが明らかな事項以外は、通信に関して知り得た他人の秘密に該当するというべきである。

  b 本件調査嘱託事項は、本件携帯電話番号に関し、その契約者情報を内容とするものであり、電気通信事業法4条2項の通信に関して知り得た他人の秘密に該当するから、被告は同項に基づく秘密保持義務を負う。

  イ 前記アの秘密保持義務は、回答拒絶の正当な理由となるか。

  (ア) 憲法21条2項後段及び電気通信事業法4条1項に基づく秘密保持義務は、本件調査嘱託に対する回答義務に優越し、回答拒絶の正当な理由となる。

  a 電気通信事業法の定める通信の秘密は憲法がその根拠であるのに対し、調査嘱託に対して回答すべき義務は、民事訴訟法にその根拠を有するにすぎない。

  b 電気通信事業法は、同法4条1項の違反行為につき罰則を定めている(同法179条1項、同条2項)。これに対し、民事訴訟法151条、186条に基づく調査嘱託については、回答を拒絶しても何ら罰則はない。

  c 別件訴訟においては、乙山と原告との間の電話による通信の内容やその存否が争点となる可能性が高く、その場合には本件携帯電話番号の使用の有無等も問題となり得るから、被告が本件調査嘱託に応じることは電気通信事業法4条1項の秘密保持義務と抵触するおそれがある。

  d 被告が本件調査嘱託に対して回答すると、乙山に対して不法行為責任を負うおそれがある(最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁参照)。そのため、被告としては、本件嘱託事項が「通信の秘密」に該当するか否かを自ら判断しなければならない。しかし、被告には、調査嘱託書に記載されたもの以外の事実や事情を調査する義務も権限もないし、一方当事者である原告の主張のみによっては、「通信の秘密」に該当しないと判断することはできない。

  (イ) 電気通信事業法4条2項に基づく秘密保持義務は、本件調査嘱託に対する回答義務に優越し、回答拒絶の正当な理由となる。

  a 電気通信事業法4条2項に基づく秘密保持義務は、電気通信事業に従事する者のみを対象とするから、民事訴訟法151条、186条との関係では特別法の関係にあるし、憲法21条2項後段を受けて定められたものであるから、民事訴訟法に根拠を有するにすぎない調査嘱託に対して回答すべき義務には当然に優越する。

  b 被告の社員は、契約者情報について電気通信事業法4条2項に基づく秘密保持義務を負うから、本件調査嘱託事項について証人として尋問される場合には、民事訴訟法197条1項2号の類推適用により、証言を拒絶することができる。そのため、本件調査嘱託についても、被告はその回答を拒絶することができるとしなければ、民事訴訟法の統一的解釈が果たされない。

  c 被告が契約者情報を第三者に開示するとなると、例えば、ドメスティック・バイオレンスの被害者等が、相手方への開示を怖れて契約上の住所を変更したり、請求書送付先住所を変更することができず、携帯電話の使用の継続ができなくなるなどの萎縮的効果が生じ、被告が電気通信役務の円滑な提供を確保し、その利用者の利益を保護することができなくなる。

  d 前記(ア)dのとおり、被告が本件調査嘱託に対して回答すると、乙山に対して不法行為責任を負うおそれがある一方、被告には、調査嘱託書に記載されたもの以外の事実や事情を調査する義務も権限もなく、一方当事者である原告の主張のみによっては、「通信に関して知り得た他人の秘密」に該当しないと判断することはできない。

(原告の主張)

  ア 秘密保持義務の有無

  (ア) 本件調査嘱託事項は、「通信の秘密」や「通信に関して知り得た他人の秘密」に該当しない。乙山は、自ら原告に本件携帯電話番号を告げたのであり、これを原告に対して秘匿する意思がないことは明らかであって、このようにして取得した情報は、原告にとって自己が保有する情報である。

  (イ) 本件調査嘱託事項は、個々の通信内容とは無関係であり、憲法21条2項後段及び電気通信事業法4条1項の定める通信の秘密や、同条2項の定める「通信に関して知り得た他人の秘密」には該当しない。

  (ウ) 調査嘱託においては、その必要性及び相当性については裁判所の審査を経ている以上、被告が独自にその判断をする必要はない。

  イ 前記アの秘密保持義務は、回答拒絶の正当な理由となるか。

 (2) 争点(2)(被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為について、原告に対する不法行為は成立するか。不法行為が成立する場合、被告の上記行為によって原告に生じた損害の金額はいくらか)について

(原告の主張)

  ア 不法行為の成否

 裁判所を通じて調査嘱託に対する回答を享受する利益は、司法手続を利用する一般国民にとって重要なものであるから、原告には、不当な回答拒絶から不法行為法による保護を受けるべき法律上保護された利益がある。

 原告は、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為によって、上記利益を害されたのであり、上記行為について、原告に対する不法行為が成立する。

  イ 原告に生じた損害の金額

 原告は、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことにより、以下のとおり合計20万1000円の損害を被った。

  (ア) 原告は、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことにより、本件調査嘱託の申出に要した郵券1000円分(裁判所から被告への送付用分500円及び被告から裁判所への返送用分500円)の費用が無駄になり、同額の損害を被った。

  (イ) 本件調査嘱託は、乙山に対する経済的に意味のある債務名義を得るために不可欠であり、本件調査嘱託に対して回答がされることは、原告の訴権の行使及び適切な権利の実現に不可欠であって、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したために乙山の住所を把握できないことによる経済的損失は、少なくとも10万円を下らない。

  (ウ) 原告は、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことにより、訴状等を適切に送達された上で経済的に意味のある債務名義を迅速に取得する可能性を失わされ、その凄惨な詐欺被害について、民事訴訟手続による被害回復を阻害されたが、これは裁判を受ける権利を実質的に侵害されたに等しい。これにより原告に生じた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は10万円を下らない。

(被告の主張)

  ア 不法行為の成否

 民事訴訟法151条、186条の規定する調査嘱託に対して回答すべき義務は、嘱託先が裁判所に対して負う訴訟法上の義務であって、調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対する法的義務ではないから、被告の回答拒絶によって原告の法律上保護された利益が侵害されたということはできない。

 よって、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為について、原告に対する不法行為は成立しない。

  イ 原告に生じた損害の金額

 被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことにより、別件訴訟における原告の裁判を受ける権利は何ら侵害されていない。原告に経済的損失は生じていないし、原告が本件調査嘱託の申出に要した費用は、別件訴訟において訴訟費用の問題として解決されるべきものである。

 (3) 争点(3)(本件中間確認の訴えは適法か)について

(被告の主張)

  ア 民事訴訟法151条、186条の規定する調査嘱託に応ずる義務は、嘱託先が裁判所に対して負う訴訟法上の義務であって、調査嘱託の申出をした当事者に対して負う義務ではないから、原告と被告の間には何らの法律関係も生じていない。本件中間確認の訴えは当事者間の具体的な権利義務又は法律関係を訴訟物とするものではなく、法律上の争訟には当たらないから、不適法である。

  イ 他人間の権利関係の確認を求める訴えを適法に提起するには、その権利関係の確認について独自の法律上の利益を有する必要があるところ、原告にかかる利益は認められないのであって、原告に本件中間確認の訴えについての原告適格は認められない。

  ウ 原告にとって、本件調査嘱託に対する回答を得る利益は反射的利益にすぎず、被告が本件調査嘱託に応じないからといって別件訴訟における原告の法律上保護された利益に対する侵害はないのであるから、本件中間確認の訴えは、即時確定の利益を欠く。

  エ 本件中間確認の訴えと本件損害賠償請求とは、「同種の訴訟手続による」(民事訴訟法136条)とはいえないから、本件中間確認の訴えは不適法である。

(原告の主張)

  ア 確認の訴えにおいて当事者適格の有無の判断は確認の利益の有無の判断に吸収されるから、当事者適格の有無を固有の争点とすることは適当でない。本件中間確認の訴えには以下のとおり確認の利益があるから、適法な訴えである。

  イ 被告は我が国有数の大企業であり、裁判所が本件調査嘱託に対する回答義務を肯定した場合、これに理由なく応じないとは考えられず、被告が義務を履行して原告に生じた不安や危険が除去されることが合理的に期待されるから、本件中間確認の訴えには即時確定の利益がある。

  ウ 大審院昭和8年6月20日判決・大審院民事判例集12巻1597頁は、「訴訟の前提問題である法律関係に争いがあるときには、中間確認の訴えは、何ら特別の煩累を他人に及ぼさないから、当該前提問題である法律関係について争いがあればそれのみで中間確認の訴えの利益は備わり、他に権利保護の利益などの確認の利益を要しない」旨判示しているところ、本件においては前提問題たる被告の本件調査嘱託に回答すべき義務の存否につき争いがあるのであるから、本件中間確認の訴えには訴えの利益がある。

  エ 本件中間確認の訴えは公法上の実質的当事者訴訟であるが、本件損害賠償請求と請求の基礎を同一にするから、民事訴訟法136条により本件損害賠償請求に併合して提起することができる(最高裁平成5年7月20日第三小法廷判決・民集47巻7号4627頁参照)。

第3 当裁判所の判断

1 争点(1)(被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことについて、正当な理由はあったか)について

 (1) 裁判所の調査嘱託に対して回答すべき義務の性質

 前提事実(7)のとおり、本件調査嘱託は、民事訴訟法151条1項6号に基づくものであるところ、同条2項が準用する同法186条は、「裁判所は、必要な調査を官庁若しくは公署、外国の官庁若しくは公署又は学校、商工会議所、取引所その他の団体に嘱託することができる。」と規定し、調査嘱託の制度を定める。この制度は、官庁若しくは公署又は学校等の団体が職務上又は業務上保有する客観的な情報について、簡易かつ迅速な証拠の収集を可能とするものであり、上記規定が裁判所の権限を定める形式を採っていることから、嘱託を受けた内国の団体は、正当な事由がない限り、当該調査嘱託に対して回答すべき義務を負うと解される。

 そして、上記義務は、嘱託先が当該調査嘱託をした裁判所に対して負う一般公法上の義務であり、当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対して負うものではないと解すべきである。

 (2) 秘密保持義務の有無

 被告は、本件調査嘱託事項は、「通信の秘密」(憲法21条2項後段、電気通信事業法4条1項)、「通信に関して知り得た他人の秘密」(同条2項)に該当するため、これらに基づいて被告は本件調査嘱託事項について秘密保持義務を負い、かつ、秘密保持義務は調査嘱託に対して回答すべき義務に優越するから、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことには正当な理由がある旨主張する。

 そこで、まず、被告が本件調査嘱託事項について秘密保持義務を負うか否かについて判断する。

  ア 「通信の秘密」としての秘密保持義務の有無

  (ア) 被告は、本件調査嘱託事項は、憲法21条2項後段及び電気通信事業法4条1項の定める「通信の秘密」に該当するため、被告は秘密保持義務を負う旨主張する。

 憲法21条2項後段の定める「通信の秘密」とは、(a)通信の秘密に属する通信内容や事務上の事項について調査、探求をしてはならないこと(積極的知得行為の禁止)、(b)通信事務取扱者が「通信の秘密」について知り得た事項について秘密を守るべきこと(漏洩行為の禁止)を意味する。電気通信事業法4条1項は、憲法21条2項後段の規定を受けて、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密の保護を規定するものである。

 しかし、本件調査嘱託事項は、いずれも、本件携帯電話番号に関し、その契約者情報を内容とするものであるところ、契約名義人が当該携帯電話による通信の当事者となる場合が多いとしても、契約者情報それ自体から個々の通信の存在や内容が推知されるものではないし、契約者情報が直ちに個々の通信の当事者を特定し得る情報であるともいえないから、憲法21条2項後段及び電気通信事業法4条1項の定める「通信の秘密」には該当しない。よって、被告が本件調査嘱託事項について、これらの規定に基づく秘密保持義務を負うことはない。

  (イ) この点、被告は、本件調査嘱託に係る調査嘱託書の記載のみによっては、本件調査嘱託事項が「通信の秘密」に該当しないと判断することができないから、これを「通信の秘密」として扱わざるを得ない旨主張する。しかし、本件調査嘱託事項は、調査嘱託書の記載自体から「通信の秘密」に該当しないことは明らかであるから、「通信に秘密」に該当しないと判断することができなかったとの被告の主張は採用することができない。

  イ 「通信に関して知り得た他人の秘密」としての秘密保持義務の有無

 被告は、本件調査嘱託事項は、電気通信事業法4条2項の定める「通信に関して知り得た他人の秘密」に該当するため、被告は秘密保持義務を負う旨主張する。

 電気通信事業法4条2項は、同条1項とともに憲法21条2項後段を受けて規定されているところ、電気通信事業法4条1項が「通信の秘密」について定めるのに対し、同条2項は「通信に関して知り得た他人の秘密」について定めており、両項が異なる文言で定められていること、「通信の秘密」そのものではないとしてもこれと密接に関連する事項及び「通信の秘密」に該当するか否かの判断が困難な事項をも保護することは、「通信の秘密」の保護に資すると考えられることからすれば、電気通信事業法4条2項は、同条1項の「通信の秘密」よりも広い範囲の「通信に関して知り得た他人の秘密」を保護するものと解するのが相当である。

 そして、電気通信事業法4条2項は、被告が「通信に関して知り得た他人の秘密」を漏洩することを禁じているところ、本件調査嘱託事項は、本件携帯電話番号に関し、その契約者情報を内容とするものであって、被告が電気通信業務を遂行する過程で取得する情報であるから、「通信に関して知り得た他人の秘密」に該当するというべきである。したがって、被告は、本件調査嘱託事項について、電気通信事業法4条2項に基づく秘密保持義務を負う。

 原告は、本件調査嘱託事項は個々の通信とは無関係であるから「通信に関して知り得た他人の秘密」に該当しない旨主張する。しかし、前記のとおり、電気通信事業法4条2項は、同条1項よりも広い範囲の秘密を保護するものと考えられるから、個々の通信と無関係であることから直ちに「通信に関して知り得た他人の秘密」に該当しないということはできないのであって、原告の上記主張は採用することができない。

 また、原告は、本件調査嘱託事項が原告にとって自己が保有する情報である旨主張するが、乙山が本件携帯電話番号の開示をしたからといって、契約者情報までも開示の対象としたものではないから、本件調査嘱託事項が原告にとって自己が保有する情報に該当するなどということはできない。

  ウ 以上のとおり、被告は、本件調査嘱託事項について、「通信の秘密」としての秘密保持義務は負わないが、「通信に関して知り得た他人の秘密」としての秘密保持義務を負う。

 (3) 前記(2)の秘密保持義務と本件調査嘱託に対して回答すべき義務の優劣

  ア 前記(2)で認められた秘密保持義務は、本件調査嘱託に対して回答すべき義務に優越するか。

  (ア) 本件調査嘱託事項のうち、別紙嘱託事項の(1)ないし(3)は、本件携帯電話番号に関し、その契約者情報を内容とするものであるが、いずれも、個々の通信の存在や内容に関する情報ではなく、単に本件携帯電話番号の契約者に関する氏名、住所及び電話番号の情報であり、これらは、人が社会生活を営む上で、一定の範囲の他者に対しては開示されることが予定された情報であり、個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえず、プライバシーに関わる情報とはいえ、これが開示されることによって当該情報の主体に生ずる不利益は大きなものではない。

 これに対し、調査嘱託は、官庁若しくは公署又は学校等の団体が職務上又は業務上保有する客観的な情報について、簡易かつ迅速な証拠の収集を可能とするものであり、嘱託先が調査嘱託に対して回答すべき必要性は高いというべきである。

 したがって、被告が本件調査嘱託のうち、上記嘱託事項に対して回答すべき義務は、「通信に関して知り得た他人の秘密」としての秘密保持義務に優越するものと解するのが相当であり、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶したことについて、正当な理由があったとは認められないというべきである。

  (イ) 以上に対し、本件嘱託事項のうち、別紙嘱託事項の(4)は、本件携帯電話番号の契約者の電話料金支払方法であり、口座引き落としの場合は、その金融機関名までを問うものであって、氏名、住所及び電話番号とは異質の情報であり、これらに比して秘密性が高いということができる。しかも、本件調査嘱託は、訴状副本及び期日の呼出状等を送達するために行われるものであるから、料金支払方法や金融機関名を知ることの必要性、関連性は比較的低いというべきであり、重要性もまたそれだけ低いというほかない。そうすると、別紙嘱託事項の(4)についての「通信に関して知り得た他人の秘密」に基づく秘密保持義務は、調査嘱託に回答すべき義務に優越するものと解される。

 したがって、被告が別紙嘱託事項の(4)について回答を拒絶したことについては、正当な理由があったというべきである。

  イ 上記のとおり回答拒絶に正当な理由が認められない別紙嘱託事項(1)ないし(3)との関係で、以下被告の主張について検討する。

  (ア) 被告は、電気通信事業法4条2項は、憲法21条2項後段に根拠があるから、民事訴訟法151条、186条に基づく調査嘱託に対して回答すべき義務に優越する旨主張するが、前記(2)イのとおり、電気通信事業法4条2項は憲法21条2項後段の保障する「通信の秘密」よりも広い範囲の「通信に関して知り得た他人の秘密」を保護するものであるから、「通信の秘密」以外の「通信に関して知り得た他人の秘密」については、調査嘱託に対して回答すべき義務に当然に優越するものではない。

 被告は、また、電気通信事業に従事する者のみを対象とする電気通信事業法4条2項は、民事訴訟法151条、186条との関係では特別法の関係にある旨主張するが、両社の関係を一般法と特別法の関係と見ることはできない。

  (イ) また、被告は、被告の社員が本件調査嘱託事項について証人として尋問される場合には、当該社員は民事訴訟法197条1項2号の類推適用により証言を拒絶することができるから、被告が本件調査嘱託に対して回答を拒絶できるとしなければ、民事訴訟法の統一的解釈が果たされない旨主張する。しかし、自然人を対象とする証人尋問と法人その他の団体を対象とする調査嘱託とでその規律を異にすることは当然であるから、被告の上記主張を採用することはできない。

  (ウ) さらに、被告は、最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁を挙げて、被告が本件調査嘱託に対して回答することにより、乙山に対して不法行為責任を負う可能性を指摘する。しかし、これは、前科及び犯罪経歴という、プライバシーの中でも最も他人に知られたくない高度にセンシティブな情報に関する事案についての事例判断であり、このような情報について調査嘱託がされた場合に、「通信の秘密」や「通信に関して知り得た他人の秘密」としての秘密保持義務が当該調査嘱託に対して回答すべき義務に優越すると判断することが困難であるとはいえない。

  (エ) また、被告は、被告が契約者情報を第三者に開示するとなると、例えば、ドメスティック・バイオレンスの被害者等が、相手方への開示を怖れて契約上の住所や請求書送付先住所を変更することができず、結果として携帯電話の使用が継続できなくなるなどの萎縮的効果が生じ、被告が電気通信役務の円滑な提供を確保し、その利用者の利益を保護することができなくなるといった弊害が生ずる旨主張する。しかし、契約上の住所や請求書送付先住所の変更が携帯電話の使用を継続するために不可欠であるとはいえないことに加え、調査嘱託は、裁判所が職権により又は当事者の申立てを審査した上で行うものであり、濫用的な調査嘱託の利用を排除する制度的な保障が設けられているといえることからすると、被告が本件調査嘱託に応じて契約者情報を開示したからといって被告が主張するような弊害が生ずるとも考え難い。

2 争点(2)(被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為について、原告に対する不法行為は成立するか。不法行為が成立する場合、被告の上記行為によって原告に生じた損害の金額はいくらか)について

 原告は、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為によって、不当な回答拒絶から不法行為法による保護を受けるべき法律上保護された利益を害されたから、被告の上記行為について、原告に対する不法行為が成立する旨主張する。

 しかし、前記1(1)のとおり、調査嘱託に対して回答すべき義務は、嘱託先が当該調査嘱託をした裁判所に対して負う一般公法上の義務であり、当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対して負うものではないから、嘱託先が当該調査嘱託に回答しない行為について、当該調査嘱託を申し立てた訴訟当事者に対する不法行為が成立する余地はない。

 よって、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為について、原告に対する不法行為は成立しないのであって、その余の点について判断するまでもなく、本件損害賠償請求には理由がない。

3 争点(3)(本件中間確認の訴えは適法か)について

 (1) 訴えの利益

 確認の訴えについて訴えの利益があるというためには、原告の権利又は法律関係について危険又は不安が現に存在し、かつ、それを除去する方法として、原告と被告との間でその権利又は法律関係について確認することが有効かつ適切であると認められることが必要であると解される。かかる理は、通常の確認の訴えと中間確認の訴えとで何ら異なるところはない。

 これを本件中間確認の訴えについてみると、本件中間確認の訴えにおいて確認の対象とされた被告が本件調査嘱託に対して回答すべき義務は、被告が別件訴訟係属裁判所に対して負う一般公法上の義務であり、原告に対して負う義務ではない。本件調査嘱託に対して被告が回答することによる利益は、原告にとっては反射的利益にすぎないのであって、被告が回答をしないことによって原告の権利又は法律関係について危険や不安が現に存在するとはいえない。

 (2) 原告は、大審院昭和8年6月20日判決・大審院民事判例集12巻1597頁を挙げて、本件においては前提問題たる被告の本件調査嘱託に回答すべき義務の存否につき争いがあるのであるから、本件中間確認の訴えには訴えの利益がある旨主張する。

 しかし、上記大審院判決は、中間確認の訴えを提起する利益は、訴訟物に対し前提の関係をなすところのある権利につき、訴訟進行中争いを生じさえすれば認められるというものであるが、前記2のとおり、被告が本件調査嘱託に対して回答すべき一般公法上の義務を負うか否かの判断と、被告が本件調査嘱託に対する回答を拒絶した行為について原告に対する不法行為が成立するか否かの判断とは無関係で、訴訟物に対し前提の関係をなすところのある権利に争いが生じていると評価することはできないから、上記大審院判決を前提にしても、本件中間確認の訴えには、訴えの利益が認められない。

 (3) 以上のとおり、本件中間確認の訴えには、訴えの利益がないから、その余の点について判断するまでもなく、本件中間確認の訴えは不適法であり却下を免れない。

第4 結論

 以上のとおり、原告の請求2に係る訴えは訴えの利益を欠き不適法であるからこれを却下し、原告の請求1は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(別紙)

 嘱託事項

 携帯電話番号<略>について、契約締結時から現在までの間の利用契約に関する下記の事項について、確認書等がある場合には同書類の写しを提示して明らかにされたい。

   記

 (1) 当該携帯電話の名義人の氏名及び住所地

 (2) 電話料金請求書送付先住所地

 その他住所地(変更等がある場合には変更前を含む複数の住所地)

 (3) 本件電話番号以外の連絡先電話番号(複数把握しているときには複数)

 (4) 電話料金の支払い方法(口座引き落としであればその金融機関名)

以上