水戸地裁下妻支部平成25年10月11日判決〔724条後段の期間制限の適用排除〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は、交通事故により負傷し、後遺障害を残したXが、Yに対し、民法709条及び自動車損害賠償保障法3条に基づく損害賠償請求する事案である。

2 Xは、平成2年生まれで、平成4年12月、Xの父運転の普通乗用自動車とY運転の普通乗用自動車との間で交通事故が発生した(交通事故当時2歳)。

その後、Xは、平成24年8月、整形外科医師により症状固定の診断を受け、その診断書をY側任意保険会社に提出して自動車損害賠償責任保険の事前認定の手続を進めさせ、平成24年9月に後遺障害は併合第10級に該当するとの認定を受け、それから6か月以内である平成25年2月に本訴を提起したが、同訴提起日は本件交通事故日からは20年以上が経過していた。

そこで、Yは、本件交通事故日から本訴提起まで20年以上が経過しているので、Xの損害賠償請求権は、民法724条後段の除斥期間の経過によって、法律上当然に消滅していると主張した。

3 裁判所は、平成24年8月に後遺障害について症状固定の診断を受けたとしても、そのことをもってXに対して事前認定の結果が出る前の事前認定手続期間中に訴えの提起を求めるのは困難であり、事前認定を受けてから訴えの提起を準備するとしても6か月の期間は通常必要と認められることをふまえると、Xが症状固定の診断書をY側任意保険会社に提出して事前認定の手続を進めさせてから本訴を提起するまでの経過は、Xが本件交通事故による損害賠償請求権を行使する一連一体の行為と捉えることができるとした。

その上で、本件では本件交通事故から20年の除斥期間内において権利行使がなされたと見るのが相当であるから、これによって除斥期間の満了は阻止されたことになると判断するのが相当であると判断した。

4 民法724条後段の期間制限について、見解が分かれていたが、最高裁は、除斥期間であると解している(最高裁判所第一小法廷平成元年12月21日判決)。

また、最高裁は、民法724条後段の除斥期間について、民法158条の法意に照らして、規定された期間経過後であっても損害賠償請求権を行使することができる場合があることが認められた(最高裁判所第二小法廷平成10年6月12日判決)。

このほか、最高裁は、被害者を殺害した加害者が、被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人はその事実を知ることができず、相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において、その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条の法意に照らし、同法724条後段の効果は生じないとした(最高裁判所第三小法廷平成21年4月28日判決)。

平成10年判決については、射程が極めて狭いと考えられていたが、本判決は除斥期間の適用を排除した珍しい事案であり、実務上、参考になろう。


■参考判例  最高裁判所第一小法廷平成元年12月21日判決〔民法724条後段の期間制限の法的性質〕

用排除〕

用排除〕

主文

 一 被告は、原告に対し、一七六五万九〇六一円及びこれに対する平成四年一二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 二 原告のその余の請求を棄却する。

 三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

 四 この判決の一項は、仮に執行することができる。


事実及び理由

第一 請求

 被告は、原告に対し、二九九八万九八六四円及びこれに対する平成四年一二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

 本件は、交通事故により負傷し、後遺障害を残した原告が、被告に対し、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償として二九九八万九八六四円及び交通事故日からの遅延損害金を請求する事案である。

 一 前提事実

  (1) 原告は、平成二年○月○日生まれの女性である(争いなし)。

  (2) 交通事故の発生

 原告(交通事故当時二歳)の父であるA運転の普通乗用自動車と被告運転の普通乗用自動車との間で以下の交通事故(以下「本件交通事故」という。)が発生した。

   ア 日時 平成四年一二月二九日午前七時四〇分ころ

   イ 場所 茨城県真壁郡関城町(現、筑西市)〈以下省略〉

   ウ 事故状況 被告が、普通乗用自動車を運転して道路を直進進行するにあたり、道路中央を越えて進行し、対向直進してくる原告の父であるA運転の普通乗用自動車に衝突させた。

  (3) 原告の受けた傷害及び治療経過

   ア 原告の受けた傷害

 A運転の普通乗用自動車に同乗していた原告は、本件交通事故により、軸椎歯突起骨折、特発性側弯症、脳挫傷、右腎挫傷、右鎖骨骨折等の傷害を負った。

   イ 治療経過

 (ア) 入院 二〇二日(平成五年一月一三日分は重複)

  ① 下館市民病院 一六日

 平成四年一二月二九日から平成五年一月一三日まで。

  ② 筑波記念病院 一八五日

 平成五年一月一三日から平成五年七月三〇日まで(平成五年四月二五日から平成五年五月八日を除く。)。

  ③ 滋賀県立小児保健医療センター 二日

 平成一三年八月二七日から平成一三年八月二八日まで。

 (イ) 通院 実日数三五日

  ① 筑波記念病院 一七日

 平成五年八月一日から平成一三年三月二七日まで。

  ② 滋賀県立小児保健医療センター 一八日

 平成一三年六月二五日から平成二四年八月八日まで。

  (4) 後遺障害

   ア 平成二四年八月八日、原告は、滋賀県立小児保健医療センター・整形外科・B医師により、頸椎の障害、左骨盤骨の変形、後頸部等の瘢痕の後遺障害について、同日症状固定の診断を受けた。

   イ その後上記アの診断を受けて自動車損害賠償責任保険の事前認定の手続が進められ、平成二四年九月二六日、原告の上記の後遺障害について、①頸椎の障害につき、「脊柱に変形を残すもの」として、自動車損害賠償保障法施行令別表第二(以下、省略する)第一一級七号に、②左骨盤骨の変形につき、「骨盤骨に著しい変形を残すもの」として、第一二級五号に、③瘢痕のうち後頸部の瘢痕について、「女子の外貌に醜状を残すもの」として、第一二級一四号に、それぞれ該当し、①ないし③を併せて併合第一〇級に該当するとの認定がなされ、そのころ原告は、この認定結果の通知を受けた。

  (5) 本訴の提起(顕著な事実)

 平成二五年二月二三日、原告は、当庁に本訴を提起した。

 二 争点

  (1) 民法七二四条後段の適用の有無

 (被告の主張)

 本件交通事故は平成四年一二月二九日に発生したものであり、それから平成二五年二月二三日の本訴の提起までに二〇年以上が経過している。したがって、原告の損害賠償請求権は、民法七二四条後段の除斥期間の経過によって、法律上当然に消滅している。

 (原告の主張)

 本件に民法七二四条後段の適用はない。

  (2) 原告の損害

 (原告の主張)

   ア 治療費 四五九万三三四六円

   イ 入院付添費 九一万二一九〇円

   ウ 入院雑費 八二万四一〇〇円

   エ 通院付添費 四万五一〇〇円

   オ 通院交通費 七一万七二二〇円

   カ 文書料 一万二八二五円

   キ 傷害慰謝料 二八七万三七〇〇円

 前記一(3)の原告の受けた傷害及び治療経過に照らせば上記金額が相当である。

   ク 後遺障害による逸失利益 一八四九万二七〇八円

 以下のとおり算出される。

 (ア) 基礎収入 三八三万〇六〇〇円

 賃金センサス値(平成二三年・女・高専短大卒・全年齢)である。

 (イ) 労働能力喪失率 二七%

 原告の労働能力喪失率は、併合第一〇級の労働能力喪失率二七%を下回ることはない。

 (ウ) 労働能力喪失期間 四六年

 症状固定時二一歳から満六七歳までの四六年であり、そのライプニッツ係数は一七・八八〇一である。

 (エ) 算式

 三八三万〇六〇〇円×二七%×一七・八八〇一=一八四九万二七〇八円

   ケ 後遺障害慰謝料 五五〇万円

 後遺障害慰謝料は、併合第一〇級に相当する上記金額を下回ることはない。

   コ 以上の損害合計 三三九七万一一八九円

   サ 既払金 六七〇万七六七六円

   シ 既払金による填補後の損害額 二七二六万三五一三円

   ス 弁護士費用 二七二万六三五一円

   セ 損害賠償請求額元金(シとスの合計額) 二九九八万九八六四円

 (被告の主張)

 原告の損害については、ア、イ、ウ、オ及びカの各費目のうち既払金に対応する部分並びにサの既払金を認めるほかは、争う。

第三 争点に対する判断

 一 民法七二四条後段の適用の有無

 民法七二四条後段の二〇年の期間は、被害者側の認識のいかんを問わず不法行為時からの一定の時の経過によって法律関係を確定させるため請求権の存続期間すなわち除斥期間を画一的に定めたものと解するのが相当である。

 しかるところ、本件交通事故は自動車損害賠償責任保険の付保されている交通事故であるところ、原告は、平成二四年八月八日に後遺障害について症状固定の診断を受け、その診断書を被告側任意保険会社に提出して自動車損害賠償責任保険の事前認定の手続を進めさせ、平成二四年九月二六日ころに後遺障害は併合第一〇級に該当するとの認定を受け、それから六か月以内の日である平成二五年二月二三日に当庁に本訴を提起したが、同訴提起日は本件交通事故の日である平成四年一二月二九日からは二〇年以上が経過している。

 そこで検討するに、平成二四年八月八日に後遺障害について症状固定の診断を受けたとしても、そのことをもって原告に対して事前認定の結果が出る前の事前認定手続期間中に訴えの提起を求めるのは困難である(仮にそのような訴えの提起があったとしても、交通事故損害賠償請求訴訟の実際に鑑みれば、訴訟が動き出すのは事前認定の結果が出てからになると思われ、そのような訴えの提起を敢えて求めることに意味があるとも思えない)こと及び事前認定を受けた平成二四年九月二六日ころから訴えの提起を準備するとしても、それから六か月の期間は通常必要と認められることからすれば、原告が症状固定の診断書を被告側任意保険会社に提出して事前認定の手続を進めさせてから平成二五年二月二三日に本訴を提起するまでの経過は、原告が本件交通事故による損害賠償請求権を行使する一連一体の行為と捉えることができ、そうすると、本件では本件交通事故から二〇年の除斥期間内において権利行使がなされたと見るのが相当であるから、これによって除斥期間の満了は阻止されたことになると判断するのが相当である。

 以上のように自動車損害賠償責任保険の付保されている本件交通事故においてその損害賠償請求権行使の行為を一定の時間的な幅を持つものと捉えたとしても、その幅は症状固定の診断書を提出して事前認定の手続を進めさせてから認定結果が出るまでの事前認定手続期間及び事前認定から六か月の訴え提起準備期間に限られているから、法律関係を画一的に確定しようとする除斥期間の趣旨を乱すことはないというべきである。

 以上のとおり、本件では民法七二四条後段の適用はない。

 二 原告の損害

  (1) 治療費 四五九万三三四六円(請求 同額)

 争いなし。

  (2) 入院付添費 九一万二一九〇円(請求 同額)

 争いなし。

  (3) 入院雑費 八二万四一〇〇円(請求 同額)

 甲八及び弁論の全趣旨により認める。

  (4) 通院付添費 四万五一〇〇円(請求 同額)

 甲八及び弁論の全趣旨により認める。

  (5) 通院交通費 七一万七二二〇円(請求 同額)

 甲八及び弁論の全趣旨により認める。

  (6) 文書料 一万二八二五円(請求 同額)

 争いなし。

  (7) 傷害慰謝料 二八七万三七〇〇円(請求 同額)

 前記第二の一(3)の原告の受けた傷害及び治療経過に照らし、上記金額を相当と認める。

  (8) 後遺障害による逸失利益 七二八万二八八七円(請求 一八四九万二七〇八円)

   ア 基礎収入

 賃金センサス値(平成二四年・女・高専短大卒・全年齢)により、三八一万二一〇〇円を相当と認める。

   イ 労働能力喪失率

 原告の後遺障害が併合第一〇級と評価されること及び証拠〈省略〉により認められる被害の具体的実情からすれば、労働能力喪失率は二七%とするのを相当と認める(被告は、原告の後遺障害につき左骨盤骨の変形については腸骨採取によるもので身体機能への悪影響はない等と指摘して、第一一級相当の二〇%で足りると主張するが、文献を引いたのみの主張で具体的検討を欠くこと、併合第一〇級の評価は左骨盤骨の変形のみによってなされたものではないことからすれば、採用できない。)。

   ウ 労働能力喪失期間

 症状固定時二一歳(証拠〈省略〉により平成二四年八月八日を症状固定日と認める。)から満六七歳までの四六年とするのを相当と認める。

   エ 中間利息控除

 本件交通事故日から症状固定時まで一九年超という長期間が介在することから、四六年の逸失利益の中間利息控除は七・〇七五八(=一九・一六一一-一二・〇八五三)を乗じて行うのを相当と認める。

   オ 算式

 三八一万二一〇〇円×二七%×七・〇七五八=七二八万二八八七円

  (9) 後遺障害慰謝料 五五〇万円(請求 同額)

 原告が併合第一〇級と評価される後遺障害を負ったことに照らせば、上記金額を相当と認める。

  (10) 以上の損害合計 二二七六万一三六八円(請求 三三九七万一一八九円)

  (11) 既払金 六七〇万七六七六円(請求 同額)

 争いなし。

  (12) 既払金による填補後の損害額 一六〇五万三六九二円(請求 二七二六万三五一三円)

  (13) 弁護士費用 一六〇万五三六九円(請求 二七二万六三五一円)

 上記金額を相当と認める。

  (14) 損害賠償額元金((12)と(13)の合計額) 一七六五万九〇六一円(請求 二九九八万九八六四円)

 三 よって、原告の請求は、被告に対し、損害賠償として一七六五万九〇六一円及びこれに対する平成四年一二月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。