最高裁第一小法廷平成24年10月11日判決〔自動車損害賠償保障法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟における支払基準の裁判所拘束力の有無〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は、X、自動車損害賠償責任保険の保険者であるYに対し、自賠法15条所定の保険金の支払を求めた事案である。

2 原判決が、実際の損害額及び過失割合によらずに、自賠法16条の3第1項に規定する支払基準に従って自賠責保険金の支払を命じたが、上告審において、同支払基準が裁判所を拘束するか問題となった。

3 本件裁判所は、「法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において、裁判所は、法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである(最高裁平成17年(受)第1628号同18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号1242頁)。そして、法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟においても、上記の理は異なるものではないから、裁判所は、上記支払基準によることなく、自ら相当と認定判断した損害額及び過失割合に従って保険金の額を算定して支払を命じなければならないと解するのが相当である」と判示し、同支払基準が裁判所を拘束せず、自ら相当と認定した損害額、過失割合に従って保険金額を算定して支払を命じなければならないとした。

4 まず、自賠法16条の3第1項は、「保険会社は、保険金等を支払うときは、死亡、後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準(以下「支払基準」という。)に従つてこれを支払わなければならない。」と規定し、被保険者が自賠法15条に基づき保険金の支払を請求する場合(加害者請求)、被害者が自賠法16条1項に基づき保険金の支払を請求する場合(被害者請求)のいずれについても、被保険会社は支払基準に拘束される。

支払基準は、一律の基準に基づく迅速な保険金等の支払を目的としており、裁判基準よりも被害者に不利益な内容となっている場合が多いが、他方、重過失減額制度(被害者に重大な過失がある場合に保険金額等から一定割合の減額を行う制度)の下では、被害者に有利となり得る。例えば、8000万円の損害を被った死亡被害者の過失割合が8割であった場合、裁判基準では、8000万円×0.2=1600万円の賠償であるが、支払基準では、3000万円×0.7=2100万円の保険金が支払われることになる。

  民法724条後段の期間制限の法的性質。

主文

 1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。 

 2 前項の部分につき、被上告人の控訴を棄却する。 

 3 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。

理由 

 上告代理人井野直幸の上告受理申立て理由について 

 1 本件は、被上告人が、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の保険者である上告人に対し、自動車損害賠償保障法(以下「法」という。)15条所定の保険金の支払を求める事案である。上記保険金の支払を請求する訴訟において、裁判所が法16条の3第1項に規定する支払基準によることなく保険金の額を算定して支払を命じることができるか否かが争点となっている。 

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。 

  (1) 平成15年9月18日午前2時10分頃、Aが運転する軽四輪貨物自動車が中央線を越えて対向車線に進行し、Bが所有しCが運転する普通貨物自動車と正面衝突する事故(以下「本件事故」という。)が発生した。Aは、同日、本件事故により死亡した。 

  (2) 本件事故当時、上記普通貨物自動車につき、上告人を保険者とする自賠責保険契約及び被上告人を保険者とする自動車共済契約(任意保険)が締結されていた。 

  (3) 自賠責保険の保険金額は、死亡による損害(死亡に至るまでの傷害による損害を除く。)につき、一人3000万円とされている(法13条1項、自動車損害賠償保障法施行令2条1項1号イ)。また、自賠責保険の保険者は、保険金等を支払うときは、国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従ってこれを支払わなければならないとされているところ(法16条の3第1項)、上記支払基準によれば、死亡に係る支払にあっては、被害者に重大な過失がある場合、次のとおり、被害者の過失割合に応じて、保険金額(ただし、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した損害額)から減額を行うものとされている。 

 7割未満        減額なし 

 7割以上8割未満  2割減額 

 8割以上9割未満  3割減額 

 9割以上10割未満 5割減額 

  (4) 上告人は、平成17年3月、Aの相続人らに対し、前記(2)の自賠責保険契約に基づき、1500万円の損害賠償額を支払った。 

  (5) Aの相続人らは、平成18年7月、徳島地方裁判所阿南支部に対し、C及びB(以下、併せて「Cら」という。)を被告として、本件事故によるAの損害賠償金の支払を求める訴訟を提起した。平成20年1月29日、上記訴訟において、Aの相続人らとCらとの間で、要旨次のとおり訴訟上の和解が成立した。 

   ア 本件事故によるAの損害が合計7500万円(逸失利益5400万円、慰謝料2000万円、葬儀費用100万円)であることを確認する。 

   イ 本件事故の過失割合につき、Aが6割、Cが4割であることを確認する。 

   ウ Cらは、Aの相続人らに対し、上記アの損害額から過失相殺による減額及び既払額(前記(4)の1500万円)の控除をした残額1500万円を連帯して支払う。 

  (6) 被上告人は、平成20年2月15日、前記(2)の共済契約に基づき、Aの相続人らに対し、上記和解によってCらが支払うべきものとされた1500万円を支払った。 

  (7) 被上告人は、平成20年3月28日、上告人に対し、前記(5)イの過失割合を前提に、法15条所定の保険金として1500万円を支払うよう請求したが、上告人は、Aには重大な過失があり、保険金額3000万円から5割の減額を行うのが相当であるから、上告人はこれ以上保険金を支払う義務を負わないとして、支払を拒絶した。 

 3 原審は、以上の事実関係等の下において、Aの損害額を7500万円、Aの過失割合を8割とした上で、次のとおり判断して、被上告人の請求を600万円の限度で認容した。 

 支払基準によれば、被害者の過失割合が8割の場合には、保険金額から3割の減額をすべきものとされているから、上告人は保険金額3000万円から3割減額した金額である2100万円を支払うべきであったところ、上告人が実際に支払ったのは1500万円であるから、上告人は、被上告人に対して、その差額600万円を支払うべきである。 

 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 

 法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において、裁判所は、法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである(最高裁平成17年(受)第1628号同18年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号1242頁)。そして、法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟においても、上記の理は異なるものではないから、裁判所は、上記支払基準によることなく、自ら相当と認定判断した損害額及び過失割合に従って保険金の額を算定して支払を命じなければならないと解するのが相当である。 

 しかるに、原審は、Aの損害額を7500万円、Aの過失割合を8割としながら、これらを前提とした過失相殺をせず、上記支払基準によれば上告人が2100万円の保険金を支払う義務があると判断して、被上告人の請求を一部認容したのであり、この判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、上告人は、上記損害額から上記過失割合により過失相殺をした後の1500万円に相当する損害賠償額を既に支払済みであるから、これ以上保険金を支払う義務を負わない。そうすると、被上告人の請求は理由がなく棄却すべきものであって、第1審判決は結論において是認することができるから、上記部分に関する被上告人の控訴を棄却すべきである。 

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

主文 

 1 原判決を次のとおり変更する。 

 2 被控訴人は、控訴人に対し、600万円及びこれに対する平成20年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 

 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 

 4 訴訟費用は第1、2審を通じて、これを10分し、その4を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。 

 事実及び理由 

 

第1 控訴の趣旨 

 1 原判決を取り消す。 

 2 被控訴人は、控訴人に対し、1500万円及びこれに対する平成20年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 

 3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。 

第2 事案の概要 

 1 本件は、平成15年9月18日午前2時10分ころ、徳島県阿南市〈以下省略〉先路上において、有限会社a(以下「a社」という)所有にかかるA(以下「A」という)運転の普通貨物自動車(以下「A車」という)とB(以下「B」という)運転の軽四貨物自動車(以下「B車」という)とが正面衝突し、Bが脳挫傷等の傷害を負い、同日、死亡した交通事故(以下「本件事故」という。)について、A車の自賠責保険を負担していた被控訴人がBの遺族に対し自賠責保険金1500万円を支払い、A車と対人賠償無制限の自動車共済契約を締結していた控訴人が、平成20年1月29日に徳島地方裁判所阿南支部で、Bの遺族とA及びa社との間で成立した訴訟上の和解によりBの遺族に1500万円を支払ったところ、控訴人が、1次的には、被控訴人は上記和解内容の過失割合(Bが6割、Aが4割)に拘束されるから被控訴人の自賠法に基づく自賠責保険金支払義務の額は3000万円であると主張し、2次的には、上記和解内容に拘束されないとしても、本件事故における過失割合は、Bが6割、Aが4割であり、この過失割合に基づいて計算すれば、被控訴人の自賠法に基づく自賠責保険金支払義務の額は3000万円であると主張して、自賠法15条に基づき、被控訴人に対し、1500万円及びこれに対する平成20年3月29日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 

 原審が、控訴人の請求を全て棄却したところ、控訴人が控訴し、前記第1記載のとおりの判決を求めた。 

 2 本件の前提となる事実及び当事者の主張は、後記3のとおり、当審における当事者の補足的主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第二の一及び第三に記載のとおりであるから、これを引用する。 

 3 当審における当事者の補足的主張 

  (1) 控訴人 

   ア 1次的主張について 

 (ア) 仮に、判決の場合に準ずることができないとしても、別件訴訟の和解内容は充分審議が尽くされた上での和解であり、しかも、訴訟告知まで受けた事案であるので、訴訟上の和解の場合の支払基準に従い、妥当性ありとして、信義則上も被控訴人は和解内容に拘束される。 

 (イ) なお、原審の判断が正しいとすれば、控訴人は支払わなくてもよい1500万円をB車に支払ったことになり、法的には、控訴人はBの遺族に対し、同額の不当利得返還請求が可能になるなど、法的安定性を著しく欠く。 

   イ 2次的主張について 

 (ア) 本件事故態様および衝突地点 

 事故発生時間は、午前2時10分ごろで、事故現場付近は、街灯や店舗の照明等はなく、暗く、A車の進路から見て、右にゆるやかにカーブしており、A車からも、B車からも前方の見透しは不良である。 

 衝突地点は、甲17の実況見分調書に表示された衝突地点●点よりも少し北側である。 

 衝突の際、A車およびB車は互いに中央線をはみ出した状態で衝突したものである。 

 (イ) B車は軽四貨物自動車であり、A車は事業用普通貨物自動車であるから、車輌の重量において大きな差があり、かつ積載量および外形上も大きく異なる(甲18、19)。 

 従って、証人Eの証言(甲26)、同人の鑑定書(甲21)および衝突時点での両車輌の速度の差(乙1の8頁鑑定結果)等により合理的に判断すると、必ずしも、衝突の際に直ちにスキッド痕が路面に付着されたともいえないものであり、少なくとも、その可能性も否定出来ないというべきである。 

 よって、衝突地点は●点ではなく、●点より少し北側と見るのが正当であると思料する。 

 なお、別件訴訟の和解案(甲4の2)も、本件の衝突地点は実況見分調書の●点より少し北側であると認定している。 

 (ウ) 過失割合について 

 前記のとおり衝突地点は●点の少し北側であり、A車およびB車は互いに中央線をはみ出していたものであるから(甲4の2)、その過失割合はA車3割ないし4割、B車7割ないし6割であるというべきである。 

 仮に、衝突地点が●点であるとしても、下記に述べる理由により、過失割合は、A車3割ないし4割、B車7割ないし6割であると思料する。 

   記 

  ① 前記のとおり、本件事故発生時間は、午前2時10分ごろ、事故現場付近には街灯や店舗もなく、暗く、事故現場はA車から見て右にゆるやかにカーブしており見透しは悪い。 

  ② A車の運転者Aの証言(甲27)および甲17の実況見分調書によれば、A車がB車を最初に発見したのは③地点でB車は●地点であり、その時A車の前照灯はローで、前方の見透しは約30メートルであった(同人の証言4頁)。 

 その時点では、A車の右側部分は中央線を越えて直進していたことは証拠上明らかである(甲17)。 

 なお、A車がB車を発見したのは、自車の前照灯のライトでB車のライトに気付いたためである。 

 A車はB車のライトに気付いて中央線付近から自車の車線に戻ろうとしたが、B車が突っ込んできたのでブレーキを踏んだが間に合わず、衝突したものであるとしている。 

  ③ 以下述べるとおり、A車は本件事故発生につき、回避措置を取らなかった過失が大きいというべきである。 

   a 本件事故の発生時刻、本件事故当時の照明および見透しの悪いゆるやかな右カーブである事故現場付近の状況を考えると、A車は前照灯をローではなくハイにして走るべきであり、ハイにしておれば③地点より早くB車を発見できた可能性が高く、本件事故を回避できた可能性も高い。 

   b A車はB車●を発見した③地点では中央線を越えて直進しており、その距離は26.8mである(甲17)。 

 事故現場はA車から見てゆるやかな右カーブであるから、A車が自車線を直進しておればもう少し早くB車を発見できた可能性が高い。 

   c 鑑定人Fの鑑定書(乙1)によれば、A車の事故発生直前の速度(急制動直前の速度)は約48~60km/h、B車の事故発生直前の速度は約41~58km/hと計算されている(乙1の8頁、鑑定結果)。 

 ところで、Aは事故現場付近では時速50キロメートルで走行していたと証言しているが、事故発生直前の速度が鑑定結果により約48~60km/hであるとすれば、A車は③地点でB車を発見した後も何らの減速処置を取っておらず、むしろ、速度が加速された可能性すらある。 

 もし、この時点でA車が減速処置を取っておれば、衝突事故は回避できたか、できないにしても重大な結果である死亡事故にはならなかった可能性が高い。 

   d A車は、③地点でB車●を発見しながらB車は自己の進路に進入しないものと漫然と考え、警笛器を吹鳴することを怠っている。 

 もし、この時点で減速し、警笛器を吹鳴していたなら、B車はA車の存在に気付き衝突を回避できた可能性が高い。 

  ④ 以上の事実を総合して判断すると仮に衝突地点が●点であるとしても、本件事故発生の基因としてA車の過失も相当高く、3割ないし4割程度の過失責任はあるというべきである。 

  (2) 被控訴人 

   ア 1次的主張について 

 (ア) 自賠責損害調査センターにおいては、被害者加害者間の訴訟において判決や訴訟上の和解が成立した場合の取扱いについては、実務上、個々の事案に応じた処理がなされており、本件については、控訴人からなされた事前認定依頼に対し、別件訴訟に提出された準備書面、書証の内容や別件訴訟における審理経過も踏まえた上で、別件訴訟における和解の内容には妥当性が見出せないと判断したものであり、この判断には合理性がある。 

 (イ) 本件事故の被害者と加害者との間では、和解が成立しているので不当利得の問題は生ぜず、また、控訴人がa社に支払った共済金に関しても、共済契約の免責条項に該当しない限り、不当利得の問題は生じない。 

   イ 2次的主張について 

 (ア) 本件事故態様に照らせば、本件事故は、Bの基本的かつ重大な過失により惹起されたものであり、B車側の過失割合は9割以上と評価されるべきである。 

 (イ) 損害額についての主張等 

  ① 控訴人は、Bの総損害について、治療費22万8997円、葬儀費用149万円、逸失利益5696万3100円、慰謝料2400万円、弁護士費用280万円を主張している。 

 しかしながら、別件訴訟で成立した訴訟上の和解では、被害者と加害者との間において、Bの総損害につき、逸失利益5400万円、死亡慰謝料2000万円、葬儀費用100万円と具体的に確認のうえ、その余の請求を放棄し、本件交通事故に関し他に何らの債権債務のないことを相互に確認している(甲6)。 

 したがって、上記以外の損害項目の損害及び上記各金額を超過する額の損害は、仮にあったとしても上記和解の請求放棄条項、清算条項により消滅したものである。 

 控訴人は、Bの遺族に上記和解による損害賠償額を支払ったことにより、a社ないしA(別件訴訟被告)が取得した被控訴人に対する加害者請求権(15条請求権)を、保険代位により別件訴訟被告から取得したものである。 

 よって、控訴人は、上記和解により合意された損害項目及び損害額以外の損害をBの損害として主張することはできない。 

  ② 弁済の主張(仮定抗弁) 

 被控訴人は、本訴提起前に訴訟外でなされた直接請求(自賠法16条請求)に対し、死亡による損害分(保険金額3000万円)として1500万円、傷害による損害分(保険金額120万円)として18万5238円をてん補済みである。 

 このうち、傷害による損害分18万5238円は、控訴人の主張する治療費22万8997円(甲13)とそれ以外の諸雑費1100円、文書料1450円の合計23万1547円から重過失減額制度所定の2割減額をした金額である(以上につき、乙5の1・2、乙6ないし9)。なお、死亡による損害分1500万円の既払いについては控訴人と被控訴人との間に争いがない。 

第3 当裁判所の判断 

 1 当裁判所は、控訴人の1次的主張は理由がないが、2次的主張には一部理由があるので、控訴人の請求を600万円の限度で認容し、その余の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。 

 2 控訴人の1次的主張について 

  ア 後記イないしオのとおり補足するほか、原判決「事実及び理由」第四の一1に記載のとおりであるから、これを引用する。 

  イ(ア) さて、自賠責損害調査センターの支払基準(甲7)によれば、訴訟上の和解の金額については、妥当性ありと判断されれば被害者の損害額として採用するとされているところ、妥当性の判断については、立証資料を取り寄せることになっている。また、訴訟の途中で裁判官の和解勧告に基づき和解が成立した事案については、立証資料がないことをもって直ちに不認定とはせず、口頭弁論調書等を取り寄せ、その妥当性を検討の上認定することになっている。 

   (イ) また、訴訟告知事案の取り扱いは、原則として、(ア)と同様に取り扱うとしながら、訴訟告知事案固有の事務処理として、損害保険料率算出機構との協議の上で、訴訟参加しなかった場合には、同機構において訴訟告知事案として取り扱うこと、訴訟参加しなかった場合で、和解で終了した場合には、自賠責保険の引受会社はその内容に拘束されないと規定されているので、同機構において訴訟告知事案として取り扱い、(ア)と同様に、金額の妥当性の認定をするものと解される。 

  ウ そこで、別件訴訟の訴訟経過を認定する。 

   (ア) 別件訴訟の第1回口頭弁論は、平成18年9月8日に開かれ(甲30の1)、弁論準備手続が4回開かれ(甲30の2~5)、平成19年5月8日の第2回口頭弁論期日において(甲30の6)、乙1を作成したFの証人尋問が実施され(乙2)、同年7月10日の第3回口頭弁論期日において、Aの本人尋問(甲27)と甲21を作成したEの証人尋問(甲26)が実施された(甲30の7)上、再度、弁論準備手続に付されて、同年9月14日に同手続が実施され、その期日において、当事者双方が最終準備書面を提出した上で、裁判所が同年11月30日までに和解案を提示することとなった(甲30の8)。 

   (イ) そして、裁判所から、平成19年11月30日に、詳細な和解案(甲4の1・2)の提示があった。 

 その内容は、概ね以下のとおりである。 

 ① 衝突地点については、本件衝突の態様を、やや右よりほぼ正面からのオフセット衝突と推認した上で、衝突の瞬間にガウジ痕が印象されたとは認めにくいこと等から、原判決第1図面の●点よりも少し北側で衝突し、その際、A車及びB車は互いに中央線をはみ出した状態で衝突したこと、及び対向車線へのはみ出しの程度はB車の方が相当程度大きかったものとした。 

 ② A車が、本件事故直前に中央線をはみ出して対向車線上を走行していたところ、本件事故現場付近の見通しが悪く、車線の幅員も約3.4メートルにすぎないところ、A車は大型の車両で車幅が2.29メートルであったことを考慮すれば、Bが、動転して判断及び操作を誤り、B車を対向車線に進入させた可能性を認めて、A車の過失を軽視できないと指摘した。また、互いの衝突速度からすると両車ともにほとんど制動が効いていない状態で衝突したとして、過失割合については、B車7割、A車3割とした。 

 ③ 損害については、逸失利益、慰謝料、治療費、葬儀費用の合計8268万2097円と認めた。 

 ④ そして、前記の過失相殺をして、既払金1512万9466円を控除すると、967万5163円になるところ、遅延損害金等を考慮して、1100万円の和解案を提示した。 

   (ウ) そして、平成20年1月29日の第6回弁論準備手続において、当事者間に和解が成立した(甲6)。 

 その内容は、前記前提事実のとおりであるが、再掲すると、 

 ① 本件事故によるBの損害が合計7500万円(逸失利益5400万円、慰謝料2000万円、葬儀費用100万円)であることを確認する。 

 ② 本件事故の過失割合につき、Bが6割、Aが4割であることを確認する。 

 ③ 上記①の損害額に過失相殺による減額と既払額(1500万円)の減額を施した後の1500万円について、A及びa社は、連帯して、Cほか1名に支払う。 

 というものである。 

   (エ) 裁判所和解案と成立した和解との主たる相違点は、Bの損害額については和解案よりも低額に合意しながらも、過失相殺をB車6割、A車4割とすることによって、裁判所和解案よりも高額の和解になったものである。 

  エ この和解に対する自賠責損害調査センターの見解は、概ね次のとおりである(甲31、乙10、11)。 

   (ア) 衝突地点については、原判決第1図面の●地点である。 

   (イ) 本件事故は夜間に発生し、本件現場付近はカーブであることから、B車がA車の中央線付近走行を認識することも困難であるから、A車の中央線付近走行が、B車が中央線を突破した原因とは考えられない。そうすると、本件事故は「キープレフト」の原則に違反し、中央線を突破したB車の重大な過失によるものといわざるを得ない。 

   (ウ) そして、和解において、事故発生態様の確定、および双方車両の過失割合をB車側6割、A車側4割とした根拠について、客観的資料ないし合理的理由を確認できず、本件和解について、当事者間で主張、立証が尽くされ、適正に争われた結果であると評価できないとしている。 

  オ 以上認定の経緯に鑑みれば、控訴人指摘の訴訟告知の点を踏まえても、この点に関する控訴人の主張は採用できないものというほかない。 

 3 控訴人の2次的主張について 

  (1) 判断の前提となる認定事実等 

 以下のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第四の一2のとおりであるから、これを引用する。 

 原判決5頁22行目末尾に以下のとおり加える。 

 「本件道路には、追い越しのための右部分はみ出し通行禁止の規制があった。また、A車側からの見通し状況であるが、原判決第1図面③地点の北側にあるP点から46.7メートル南方のP’点(原判決第1図面●地点より南方)は見通せた。」 

 原判決5頁23行目の「イ 」の次に以下のとおり加える。 

 「Aは、平成15年9月16日夕方4時ころに、阿南市所在のa社を出て、名古屋に向かった。名古屋で積荷を降ろして、三重県鈴鹿に向かった。途中、名古屋のコンビニの駐車場で4時間ほど仮眠した。鈴鹿では断熱材を積んで、同月17日の夕方5時ころに、鈴鹿を出発し、高知県安芸に向かった。途中、淡路島のパーキングエリアで仮眠した。そして、同月18日午前2時10分頃、本件道路にさしかかった。」 

 原判決5頁26行目の「衝突地点手前」を「衝突地点手前(原判決第1図面③の地点)」に改める。 

 原判決6頁1行目の「B車」を「B車(原判決第1図面●の地点)」に改める。 

 原判決10頁1行目から、14行目までを以下のとおり改める。 

 「 次に、修正要素について検討するに、本件事故の前に、A車が中央線をはみ出して進行していたこと(第1図面③付近)、その地点でA車は、●の地点のB車を発見していたこと、見通しの距離は、PからP’間で47.6メートルであるから、B車は、その時点で既に、A車が中央線をはみ出して走行していたことを発見した可能性があること等を考慮すれば、Bが動転して判断及び操作を誤り、B車を対向車線に進入させた可能性が高いこと、前記認定したようにA車は、2回仮眠を取ったとはいうものの、本件前々日の夕方4時に名古屋に出発してから、鈴鹿を経由して、高知県安芸に向かう途中の、本件事故当日午前2時10分ころに、本件事故を惹起したものであること等の事情を考慮すれば、B車8割、A車2割の過失相殺をするのが相当である。」 

  (2) 損害について 

 控訴人は、Cほか1名(別件訴訟原告)に上記和解による損害賠償額を支払ったことによりa社ないしA(別件訴訟被告)が取得した被控訴人に対する加害者請求権(15条請求権)を、保険代位により加害者から取得したものであるところ、別件訴訟で成立した訴訟上の和解では、被害者と加害者との間において、Bの総損害につき、逸失利益5400万円、死亡慰謝料2000万円、葬儀費用100万円と具体的に確認のうえ、その余の請求を放棄し、本件交通事故に関し他に何らの債権債務のないことを相互に確認している(甲6)。 

 したがって、上記以外の損害項目の損害及び上記各金額を超過する額の損害は、仮にあったとしても上記和解の請求放棄条項、清算条項により消滅したものである。 

 よって、控訴人は、上記和解により合意された損害項目及び損害額以外の損害をBの損害として主張することはできないから、控訴人が主張できる損害は上記の合計7500万円に限られる。 

 そして、支払基準によれば、被害者に重大な過失がある場合で、被害者の損害額が保険金額3000万円を超えている場合には、保険金額から減額すべきとなっており、これによれば、前記過失割合(B車8割、A車2割)の場合には、3割の減額をすることになっているので、保険金額3000万円から3割減額した金額である2100万円を、被控訴人は支払うべきであったところ、被控訴人が実際に支払ったのは1500万円であるから、被控訴人は控訴人に対して、2100万円と1500万円との差額である600万円を支払うべきである。 

 よって、控訴人の2次的主張には一部理由がある。 

 4 よって、上記結論と一部結論を異にする原判決を変更の上、主文のとおり判決する。 

主文 

 1 原告の請求を棄却する。 

 2 訴訟費用は原告の負担とする。 

 事実及び理由 

第一 本件請求 

 被告は、原告に対し、1500万円及びこれに対する平成20年3月29日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 

第二 事案の概要 

 一 前提事実(証拠または弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 

  1 本件事故 

 平成15年9月18日午前2時10分ころ、徳島県阿南市〈以下省略〉先路上において、有限会社a(以下「a社」という)所有にかかるA(以下「A」という)運転の普通貨物自動車(以下「A車」という)とB(以下「B」という)運転の軽四貨物自動車(以下「B車」という)とが正面衝突し、Bが脳挫傷等の傷害を負い、同日、死亡した。 

  2 本件事故当時、A車は、次の保険に加入していた。 

   (1) 被告の自賠責保険 

   (2) 原告の任意保険(対人賠償無制限の自動車共済契約) 

  3 被告は、平成17年3月、Bの法定相続人(C及びD)に対し、自賠責保険金1500万円を支払った。 

  4 Cほか1名は、A及びa社を相手方として、平成18年7月、徳島地方裁判所阿南支部に本件事故の損害賠償を求める訴え(以下「別件訴訟」という)を提起した。 

 同庁同支部が当事者に和解案を提示し、最終的に、平成20年1月29日、Cほか1名とA及びa社との間で、次の内容(要旨)のとおり、訴訟上の和解が成立した。 

   (1) 本件事故によるBの損害が合計7500万円(逸失利益5400万円、慰謝料2000万円、葬儀費用100万円)であることを確認する。 

   (2) 本件事故の過失割合につき、Bが6割、Aが4割であることを確認する。 

   (3) 上記(1)の損害額に過失相殺による減額と既払額(上記3の1500万円)の減額を施した後の1500万円について、A及びa社は、連帯して、Cほか1名に支払う。 

  5 原告は、上記2(2)の共済契約に基づき、平成20年2月15日、上記4(3)の和解金1500万円をCほか1名に支払った。 

  6 原告は、平成20年3月28日、被告に対し、自賠法15条に基づき1500万円の追加請求をしたが、拒絶された。 

  7 Aに対する業務上過失致死被疑事件の捜査は、不起訴処分により、既に終結している。 

 二 本件請求 

 原告は、本件事故において被告の自賠法に基づく自賠責保険金支払義務の額は3000万円であると主張して、自賠法15条に基づき、被告に対し、1500万円及びこれに対する平成20年3月29日から支払済まで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 

第三 当事者の主張 

 以下、本判決の11丁の図面を「第1図面」、12丁の図面を「第2図面」という。本判決13丁の図面は、第1図面の一部を2倍で拡大コピーした上、手書きで記入したものであり、以下「第3図面」という。 

 一 原告の主張 

  1 過失割合 

   (1) 主位的主張 

 別件訴訟において、Aらが被告に対して訴訟告知手続をし、主張、立証が尽くされ、裁判所から詳細な内容の和解案が提示され、最終的に過失割合についてBを6割、Aを4割とする内容で和解が成立した。 

 被告は、訴訟告知を受けた時点で、別件訴訟の争点が過失割合であることは予知できたから訴訟参加すべきであったのに、参加しなかったこと、和解の場合でも「妥当性あり」と判断されれば、その金額を採用するのが被告の内部基準(甲7)であることに照らし、信義則上、別件訴訟の和解の内容(過失割合に関する条項)は、被告を拘束するというべきである。 

 よって、本件事故の過失割合は、Bが6割、Aが4割であり、被告がこれを争うことはできない。 

   (2) 予備的主張 

 本件事故は、A車及びB車がいずれも中央線をはみ出した状態で、第1図面●地点よりも少し北側の位置で正面衝突した事故であり、はみ出しの程度に鑑み、過失割合は、A3割ないし4割、B7割ないし6割と考えるのが相当である。 

  2 被告の自賠責保険金支払義務の額 

 自賠責保険は、政府管掌保険であり、被害者救済の観点から損害保険料率算出機構が一定の支払基準を作成して適用している。自賠法16条の3所定の「支払基準」では、一般に適用される被害者の過失割合を、自賠責保険が適用される限度で過失割合を減額することになっている。これについては、国の政策として被害者救済の観点から定めたものであるから、裁判の前後により、その適用に差異を認めるのは、結果として被害者に不利を科することになり、公平さを欠くというべきであるから、裁判所を拘束する規範性を認めるべきである。 

 よって、この規範を適用すれば、Bの過失割合が6割の場合は、過失相殺しないこととなり、被告の自賠責保険金支払義務の額は3000万円となる。仮に、Bの過失割合が7割の場合でも、上記規範を適用すれば、3000万円の2割減額であるから、被告の自賠責保険金支払義務の額は2400万円となる。 

 二 被告の反論 

  1 過失割合 

   (1) 原告の主位的主張について 

 被告は、別件訴訟の和解の内容に拘束されない。 

   (2) 原告の予備的主張について 

 本件事故は、第1図面のとおり、A車(同図面④)が自車線内において、B車(同図面●)が中央線を大きくはみ出して、同図面●地点で正面衝突した事故であり、Bに9割以上の過失がある。 

  2 被告の自賠責保険金支払義務の額 

 自賠法16条の3所定の「支払基準」は、裁判所に対する拘束力はなく、裁判規範にはならないと解すべきである。 

第四 当裁判所の判断 

 一 過失割合 

  1 原告の主位的主張について 

 別件訴訟において、Cほか1名とA及びa社との間で前提事実4のとおり和解が成立したが、その和解の拘束力が、訴訟告知を受けたに過ぎない被告(訴訟参加していない)に対して及ぶと解すべき根拠はない。 

 この点、原告は、第三の一の1(1)のとおり、信義則上、別件訴訟の和解の内容(過失割合に関する条項)は被告を拘束すると主張する。 

 しかしながら、後記2の認定事実によれば、上記和解金額について、被告が損害保険料率算出機構自賠責損害調査センターの内部基準(甲7)第7章第1節1(2)にいう「妥当性あり」と判断しなかったことが著しく不合理であるとはいえず、その他原告の主張する事情を踏まえて信義則に鑑みても、訴訟告知を受けたに過ぎない被告に対して別件訴訟における和解の拘束力を認めるには足りないというべきである。 

  2 原告の予備的主張について 

   (1) 認定事実 

 証拠(甲15ないし28、乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の状況について、次のとおり認定することができる。 

 ア 本件事故の現場は、南北に走る片側一車線の県道であり、車線の幅員は約3.4mであり、中央線の表示がある。現場付近は、やや西にカーブしており、見通しが悪く、暗かった。 

 イ A車は、本件道路を北から南に向けて時速約50kmで進行しており、B車は、本件道路を南から北に向けて時速約50kmで進行していた。 

 A車は、衝突地点手前で中央線をはみ出し、そのころ、Aは、自車前方に、中央線をはみ出して対向進行してくるB車を発見し、急制動の措置を講じたが間に合わず、B車と衝突した。 

 ウ 本件衝突の前後において、A車の右後輪は、第2図面の「3.9mのスキッド痕」、「1.1mのスキッド痕」記載のとおりスキッド痕を印象し、同車の左後輪は、第2図面の「0.8mのスキッド痕」記載のとおりスキッド痕を印象したと認められる。 

 本件衝突の後において、A車の右後輪は、第2図面の「1.9mのスキッド痕」記載のとおりスキッド痕を印象し、同車の左後輪は、第2図面の「1.6mのスキッド痕」記載のとおりスキッド痕を印象したと認められる。 

 エ 事故現場には、第2図面の「細長い擦過痕●」、「円形状の擦過痕●」、「半円形状の擦過痕●」、「擦過痕」記載のとおり、B車の車体底部によって印象されたと推認できるガウジ痕が残されている。また、B車のタイヤによって印象されたと推認できる擦過痕が中央線上(第2図面のピンク色の位置)に残っている。 

 B車は、本件衝突後、右回りに弧を描くように後退し、第1図面●の地点で停車した。 

 第1図面のピンク色で囲まれた範囲内に、ガラス片やプラスチック片が飛散している。これは本件事故の直後にB車などから飛散した物体であると認められる。 

 オ B車は前部が大きく損傷しており、前部右側の破損変形が大きい。B車のボンネットは脱落し、A車の前部ラジエータグリルに挟まっている。B車の前部バンパーは凹損し、かつ、上部が後方へ倒れ込み、上部が一部切断されている。前部ナンバープレートは破損し、後方へ(エンジン上部まで)押し込まれている。エンジンルーム内の右側アブソーバ(甲21図6)が後方に押し込まれている。シャーシ下左右にある2箇所のフック部下方には路面との擦過痕が認められる。 

 A車は、前面右側が凹損など破損している。フロントパネル下方のラジエータグリルにはB車のボンネットが挟まっている。同グリル下のバンパーは、右側が後方へ折れ曲がっている。右側ドアの下にあるステップは変形しており、前部が車体内側へ15cm入っている。同ステップ後方に位置する右前輪泥除けは、一部後方へ押し込まれるように変形している。右前輪タイヤは一部割損が認められる。 

 両車両の破損状況からすれば、B車の前面(右側から中央付近まで)とA車の前面(右側から中央付近まで)とが、ほぼ正面(やや斜め)から衝突したと推認できる。 

   (2) 衝突地点について 

 ア 前示のとおり、①B車のボンネットがA車のラジエータグリルに挟まった事実、②B車の損傷状況(特に、B車の前部バンパーの上部が後方へ倒れ込み、前部ナンバープレートが後方へ押し込まれ、エンジンルーム内の右側アブソーバも後方に押し込まれていること)、③A車の損傷状況(特に、ラジエータグリルより下の損傷、右最前部から右前輪までの奥行きのある損傷)、④両車両の高さ等の事情からすれば、B車のボンネットより下の部分は、A車のラジエータグリル下のバンパーに衝突し、同バンパーを後方に押しやり、同バンパー部分及びその下のスペースに入り込んだと認められ、その際、B車に下向きの力が加わり、上記(1)エ記載のガウジ痕やタイヤ擦過痕が生じたと考えるのが自然である。 

 このガウジ痕などの位置のほか、前示認定の両車両の衝突姿勢、A車の走行軌跡、飛散したガラス片やプラスチック片の位置などを総合すれば、本件事故の衝突位置は、おおむね第1図面●地点であると認めるのが相当である。 

 イ この点、Eの鑑定書(甲21)では、衝突地点は前示認定地点よりも(B車およそ一台分の車長3.3mほど)北側であり、衝突した際にB車右前部が持ち上げられ、路面にスキッド痕は印象せず、その後、B車が後方に押し戻され、両車両が離れ、B車の前部が落ち、上記(1)エ記載のガウジ痕が印象されたと指摘している。 

 しかしながら、上記指摘にかかる衝突地点は、上記(1)エ記載のガラス片やプラスチック片の飛散位置と符合せず、上記指摘は採用できない。 

 ウ また、別件訴訟における裁判所の和解所見(甲4)では、衝突の瞬間、B車の右前部に上向きの力が加わりB車のボンネットがA車のラジエータグリルに挟まったことから、衝突の瞬間にB車の車体底部によるガウジ痕が印象されたとは認めにくいものの、衝突の際、B車に加わった上向きの力は大きいものであったとは認められず、かつ、B車の左前部に上向きの力が加わったとは認められないことから、衝突後すぐにB車の前部がA車の前面バンパー部に入り込むような形になってB車前面に下向きの力が加わり、その際、B車の車体底部によってガウジ痕が印象されるとともに、B車の左前輪によってスキッド痕が印象されたものと推認するのが相当であると指摘されていた。 

 上記指摘のように、衝突の瞬間、B車の右前部に多少なりとも上向きの力が加わった可能性を否定することはできないが、その直後(ほぼ同時期)にB車の前部がA車の前面バンパー部に入り込み、これらの機序は、衝突の瞬間から衝突エネルギーが吸収されるまでの間の、ごく僅かな時間内に発生したものと考えるべきであるから、上記指摘事項を斟酌しても、本件衝突地点は、第1図面●地点よりも僅かな距離だけ北方であったと推認できるに留まり、その僅かな距離とは、50cmにも満たない程度というべきである。本件衝突地点が、第1図面●地点より50cm以上も北方であることを認めるに足りる証拠はないというべきである。 

 エ 前示認定を踏まえれば、本件衝突地点は、第1図面●地点か、あるいは、●地点よりも少し(50cm未満)北方の地点であると認めるのが相当である。後者の場合における両車両の位置は、おおむね第3図面のピンク色及び緑色で表示したとおりであると推認することができる。 

   (3) 事故態様及び過失割合について 

 ア そして、事故態様は、次のとおり認定することができる。 

 A車は、第1図面③地点を通過して同④地点付近でB車と衝突した。B車は、同図面●地点を通過して同●地点付近でA車と衝突した。両者の衝突地点は、第1図面●地点であるか、あるいは、第3図面のピンク色と緑色が交わる地点である。 

 イ これを前提にすると、B車は、本件衝突時、その車体(車幅1.57m)の少なくとも約75%(約1.18m)は反対車線上にあったと認められる。車幅2.29mのA車にとっては、幅員約3.4mの自車線上に、約1.18mもはみ出して対向してくる車両との衝突を回避することは、ほぼ不可能に近い。 

 他方で、A車は、本件衝突時、最前部がすべて自車線内にあり、中央付近から後部が若干、反対車線上にはみ出た状態であったと認められる。A車の対向車にとっては、A車と衝突することなく自車線上を進行することは、カーブの遠心力を考慮してもなお極めて容易であるといえる。 

 両者の過失割合は、上記はみ出しの程度を基本にして判断すべきである。 

 次に、修正要素について検討するに、本件事故の前に、A車が中央線をはみ出して進行していた(第1図面③付近)ため、これを発見したBが狼狽して運転操作を誤ったことがあったとしても、B車も、本件事故の前に第1図面●付近で中央線をはみ出して進行しており、この点に関しては、両者の落ち度はほぼ等価値とみることができ、また、第1図面③付近でのA車のはみ出しの程度は、著しいものではなく、B車の自車線上には十分な回避スペースがあったのであるから、Bがこれにより狼狽して運転操作を誤ったこと自体が、通常期待される運転水準を下回る不適切な運転であるとも評価できるのであり、よって、この点に関する事情がBの過失割合を減殺させる程度はごく僅かに過ぎない。 

 これらの事情を総合考慮すれば、本件事故の過失割合は、Bが圧倒的に大きいというべきであり、Bが90%、Aが10%と認めるのが相当である。 

 二 被告の自賠責保険金支払義務の額 

 そうすると、本件事故に関する被告の自賠責保険金支払義務の額は、自賠法16条の3所定の「支払基準」によっても、1500万円を超えることはないし、これによらない場合でも、1500万円を超えることはない。 

第五 結論 

 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却すべきであり、主文のとおり判決する。