大阪地裁平成27年9月10日判決〔自らの政策を強行する手段として、市長を退職し、市長選挙を実施させ、自ら市長に立候補した市長に対する損害賠償請求権の行使を怠ることが違法であることの確認訴訟及び市長に対し同損害賠償請求をすることを求める住民訴訟〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は、大阪市の住民であるXら及び参加人らが、大阪市長であるA(以下「A市長」という。)が大阪市議会の反対を封じて自らの政策を強行する手段として、大阪市長を退職し、大阪市長選挙(以下「本件選挙」という。)を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に5億2663万6000円の支出をさせたことが違法であると主張して、大阪市の執行機関であるYがA個人に対する損害賠償請求権の行使を怠ることが違法であることを確認するとともに、Yに対し、A個人に対して損害賠償請求をするよう求める住民訴訟である。

2 本件の争点は、①本件各訴えの適法性及び②Aの不法行為責任の有無である。

①については、Xらは、本件各訴えは、YのAに対する5億2663万6000円の損害賠償請求権の行使を怠る事実を財務会計上の行為とするものであって、適法であると主張し、Yは、本件各訴えは、選挙費用の支出の違法性を争うものではなく、Aの退職行為の違法性を争うものであることが明らかであるところ、退職行為は地方自治法上の財務会計行為にあたるものではないから、このような一般行政行為を住民訴訟の対象とする本件各訴えは不適法であると主張した。

②については、Xらは、Aは、法定協議会の委員を自らの政策に賛成する議員に入れ替える、そして、大阪都構想を宣伝するなどの違法、不当な目的をもって、大阪市長を退職し、本件選挙を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に多額の支出をさせたものであり、こうした一連の行為は、最少の経費で最大の効果をあげるようにしなければならないとする地方自治法2条14項に違反し、また、地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えてこれを支出してはならないとする地方財政法4条1項に違反するものであるから、不法行為に該当すると主張し、Yは、地方自治法259条の2は、地方公共団体の長と議会との関係が円滑に進まない等の場合に地方公共団体の長が自発的に退職して住民に信を問うことを可能にするために設けられた規定であるから、政策実行の手段として退職し、再立候補することも認められているのであり、不法行為に該当しないと主張した。

3 裁判所は、①の点について、 地方自治法242条の2第1項に定める住民訴訟は、同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を対象とするものでなければならないところ、本件各訴えは、Aが退職し、本件選挙を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に選挙費用として多額の公金を支出させた一連の行為が不法行為に該当すると主張して、同人に対する民法709条に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象として、その違法を確認するとともに、被告に対し、損害賠償請求権の行使を求めるものであるから、地方自治法242条の2第1項3号及び4号の訴えとして、いずれも適法な訴えであるとした。

また、②の点については、地方公共団体の長が、自らの政策の正当性について住民の意思を問う目的で、自発的に退職の申立てをし、当該申立てがあったことにより告示された選挙に立候補することは、関係法令の趣旨に照らしても許容されることは明らかであるとし、本件においても大阪都構想の実現について意見対立が生じている状況で住民の意思を問うために大阪市長の退職を申し出て、当該申出により告示された本件選挙に立候補したことは違法ではないと判断した。

4 本件は、話題になった大阪都構想についての民意を問うための選挙が違法であったか否かが問題とされた事例であり、このように政策実現に向けた行動の違法性が問題となることは珍しいと言えるだろう。

判旨中でも述べられているとおり、地方自治法、公職選挙法の各規定の趣旨からすれば、地方公共団体の長が自発的に退職し、選挙に立候補して、自らの政策の正当性について住民の意思を問うことが許容されるべきといえ、その意味で妥当な判決であるといえよう。

主文

 1 原告ら及び参加人らの請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告ら及び参加人らの負担とする。 

 

事実及び理由

第1 請求

 1 被告は、Aに対し、5億2663万6000円の支払を請求せよ。

 2 被告がAに対し5億2663万6000円の請求をすることを怠る事実が違法であることを確認する。

第2 事案の概要

 本件は、大阪市の住民である原告ら及び参加人らが、大阪市長であるA(以下「A市長」という。)が大阪市議会の反対を封じて自らの政策を強行する手段として、大阪市長を退職し、大阪市長選挙(以下「本件選挙」という。)を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に5億2663万6000円の支出をさせたことが違法であると主張して、大阪市の執行機関である被告がA個人に対する損害賠償請求権の行使を怠ることが違法であることを確認するとともに、被告に対し、A個人に対して損害賠償請求をするよう求める住民訴訟である。

 1 法令の定め等

  (1) 地方自治法2条14項は、地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない旨を定める。

  (2) 地方財政法4条1項は、地方公共団体の経費はその目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えて支出してはならない旨を、同法8条は、地方公共団体の財産はその所有の目的に応じて最も効率的に運用しなければならない旨をそれぞれ定める。

  (3) 普通地方公共団体の長の選挙に関する法令等の定め

   ア 地方自治法145条本文は、普通地方公共団体の長は、退職しようとするときは、市町村長にあってはその退職しようとする日の20日前までに、当該普通地方公共団体の議会の議長に申し出なければならない旨を、同条但書は、議会の同意を得たときは、上記期日前に退職することができる旨をそれぞれ定める。

   イ 公職選挙法111条1項4号は、地方公共団体の長について、その退職の申立てがあった場合には、申立ての日から5日以内に地方公共団体の議会の議長から、当該都道府県又は市町村の選挙管理委員会にその旨を通知しなければならない旨を定める。

   ウ 公職選挙法114条本文は、地方公共団体の長の退職の申立てがあったことにつき、同法111条1項4号の規定による通知を受けた場合において、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会は、選挙の期日を告示し、選挙を行わせなければならない旨を定める。

   エ 公職選挙法34条1項本文は、地方公共団体の長の再選挙又は補欠選挙(同法114条の規定による選挙を含む。)は、これを行うべき事由が生じた日から50日以内に行う旨を定める。

   オ 公職選挙法264条1項及び3項は、地方公共団体の長の選挙に関するこれら各項に掲げる費用について、当該地方公共団体の負担とする旨を定める。

 2 前提事実(当事者間に争いがない事実(争うことを明らかにしない事実を含む。)のほか各項掲記の証拠等により容易に認められる事実等)

  (1) 当事者等

   ア 原告ら及び参加人らは、大阪市の住民である。

   イ 被告は、普通地方公共団体である大阪市の執行機関であり、損害賠償金の支払を請求する権限を有する行政庁である。

   ウ Aは、平成23年11月に大阪市長選挙に当選して大阪市長を務め、平成26年2月27日にいったん大阪市長を退職した(後記エ参照)ものの、同年3月に実施された本件選挙において大阪市長に再選し(後記カ参照)、以後、現在まで、大阪市長の職にある者である(乙2の11)。

  (2) 本件選挙に至る経過について

   ア Aは、平成26年2月7日、大阪市議会議長に退職の申出をした。

   イ 上記アの退職の申出について、平成26年2月7日、大阪市議会議長から大阪市選挙管理委員会に通知があり、同委員会はこれを受領した(甲1ないし13)。

   ウ 大阪市選挙管理委員会は、平成26年2月8日、上記イの通知をうけ、選挙の期日を、同年3月23日と決定した(甲1ないし13)。

   エ Aは、上記アの退職の申出をした日から20日後である平成26年2月27日、大阪市議会の同意が得られないまま、退職した。

   オ 大阪市選挙管理委員会は、平成26年3月9日、本件選挙につき、選挙期日を告示したところ、Aは本件選挙に立候補した(他に3名が立候補した。)(甲1ないし13)。

   カ 平成26年3月23日、本件選挙が実施されて、即日開票され、同月24日、Aの当選が告示された(甲1ないし13)。

  (3) 本件選挙に関する補正予算及び決算

   ア 平成26年2月12日、大阪市の行政委員会事務局長は、本件選挙のための補正予算として、6億3227万7000円を計上する旨の決裁を行い、財務局へ提出した(甲1ないし13)。

   イ 平成26年2月28日、補正予算が大阪市議会本会議に上程され、本件選挙のための補正予算が可決された(甲1ないし13)。

   ウ 平成26年3月31日、大阪市は、補正予算のうち、本件選挙に係る費用を5億2663万5619円として決算額の算出を行った(甲1ないし13、弁論の全趣旨)。

  (4) 監査請求

   ア 甲事件原告らは、平成26年4月17日、Aが市長選挙を強行したことに伴う大阪市の公金の支出が違法、不当な支出であり、同人に対する損害賠償請求権の行使を怠ることが違法であると主張して、その確認を求めるとともに、大阪市監査委員に損害賠償請求を行うよう求める住民監査請求をした(甲1ないし3、乙1の1、1の3ないし1の5)。

   イ 乙事件原告らは、平成26年5月7日、Aの違法、不当な退職という不法行為により、市長選挙のためにされた公金の支出を放置することは財産管理を怠る事実となるとして、同人に対する損害賠償請求を行う等の損害を補填する必要な措置を講ずることを求める住民監査請求をした(甲4ないし9、乙2の1ないし2の10)。

   ウ 大阪市監査委員は、平成26年6月12日、上記ア及びイの各住民監査請求をいずれも棄却し、その頃、その旨を甲事件原告ら及び乙事件原告らにそれぞれ通知した(甲1ないし9、弁論の全趣旨)。

   エ 参加人らは、平成26年7月25日、Aが市長選挙を強行したことに伴う大阪市の公金の支出が違法、不当な支出であるとして、大阪市監査委員に対し、同人に対する損害賠償請求を行うことを求める住民監査請求をした(甲10ないし13、乙3の1ないし3の4)。

   オ 大阪市監査委員は、平成26年8月12日、上記エの各住民監査請求をいずれも棄却し、その頃、その旨を参加人らにそれぞれ通知した(甲10ないし13)。

  (5) 本件訴えの提起等

   ア 甲事件原告ら及び乙事件原告らは、平成26年7月14日、それぞれ訴えを提起し、同年9月3日、甲事件の口頭弁論に乙事件の口頭弁論を併合する決定がされた(顕著な事実)。

   イ 参加人らは、平成26年9月11日、甲事件に係る訴えにつき共同訴訟参加の申出をした(顕著な事実)。

 3 争点及び当事者の主張

  (1) 本件各訴えの適法性

 (原告ら及び参加人らの主張)

 本件各訴えは、被告のAに対する5億2663万6000円の損害賠償請求権の行使を怠る事実を財務会計上の行為とするものであって、適法である。

 (被告の主張)

 本件各訴えは、選挙費用の支出の違法性を争うものではなく、Aの退職行為の違法性を争うものであることが明らかであるところ、退職行為は地方自治法上の財務会計行為にあたるものではないから、このような一般行政行為を住民訴訟の対象とする本件各訴えは不適法である。

  (2) Aによる不法行為

 (原告ら及び参加人らの主張)

   ア Aは、下記イに述べる違法、不当な目的をもって、大阪市長を退職し、本件選挙を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に多額の支出をさせたものであり、こうした一連の行為は、最少の経費で最大の効果をあげるようにしなければならないとする地方自治法2条14項に違反し、また、地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最少の限度を超えてこれを支出してはならないとする地方財政法4条1項に違反するものであるから、不法行為に該当する。

   イ(ア) 憲法93条1項、地方自治法96条以下からすれば、市政に関する決定権を持つのは議会であるところ、仮にAが大阪市長に再選されても、同人の大阪都構想に反対する大阪市議会の決定権を覆すことはできないのであるから、同人が退職し、選挙を実施することは法的には全く無意味である。そうであるにもかかわらず、Aは、無意味な選挙を実施しても構わないという違法、不当な目的をもって、退職し、本件選挙を実施させた。

 (イ) 大阪都構想を協議する場である法定協議会(地方自治法252条の2第1項(ただし、平成26年法律第42号による改正前のもの。以下同じ。)及び大都市地域における特別区の設置に関する法律4条1項(ただし、平成26年法律第42号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する特別区設置協議会のことをいう。以下同じ。)においては、委員の選任は各会派の議員数の比率によって議会運営委員会で決められることが慣例となっていたにもかかわらず、Aは、自らの大阪都構想に反対する委員を積極的に賛成する議員に入れ替えるという違法、不当な目的をもって、退職し、本件選挙を実施させた。

 Aは、平成26年1月31日、大阪都構想を早急に実現するために同人自らが提案した区割り案を法定協議会により反対多数で否決されたことから、同年2月3日、大阪市長を退職することを表明した。Aは、大阪市長に再選した直後である同年3月28日には、従来の慣例を無視して、法定協議会の委員の入れ替えを申し出ており、その後、実際に大阪都構想に反対する委員を賛成する議員に入れ替え、法定協議会において、大阪都構想の特別区設置協定書(地方自治法252条の2第1項及び大都市地域における特別区の設置に関する法律4条1項に規定する特別区の設置に関する協定書のことをいう。)を作成した。こうした経緯からすれば、Aが法定協議会の委員を自らの政策に賛成する議員に入れ替えるという違法、不当な目的で、大阪市長を退職し、本件選挙を実施させたことは明らかである。

 (ウ) Aは、事実と異なる大阪都構想の宣伝を行うという違法、不当な目的をもって、退職し、本件選挙を実施させた。

 Aは、大阪市が現状維持ならば平成45年までに約2323億円もの赤字が生じるところ、大阪都構想の実現によって財政効果が得られると宣伝していたが、そもそも大阪市は財政危機の状況にあるわけではなく、大阪都構想の実現によって財政効果が得られるという宣伝は事実に反する。このことは、本件選挙前から新聞等において指摘されていたところであるし、本件選挙後も、大阪都構想に財政効果がないことについては追及が続けられ、Aの財政効果に関する姿勢は後退するに至っている。また、大阪都構想が実現した場合の再試算からも大阪都構想に財政効果がないことが客観的に明らかになっている。

 (被告の主張)

 地方自治法は市長の退職に関して制限する規定を置いておらず、本件選挙の手続も公職選挙法に則って適法に行われたものである。原告ら及び参加人らは、Aが自らの政策実行の手段として退職し、本件選挙を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に多額の支出をさせた点が不法行為にあたると主張しているが、同法259条の2は、地方公共団体の長と議会との関係が円滑に進まない等の場合に地方公共団体の長が自発的に退職して住民に信を問うことを可能にするために設けられた規定であるから、政策実行の手段として退職し、再立候補することも認められている。

 したがって、Aの一連の行為に違法性がないことは明白である。

第3 当裁判所の判断

 1 争点(1)(本件各訴えの適法性)について

 地方自治法242条の2第1項に定める住民訴訟は、同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実を対象とするものでなければならないところ、本件各訴えは、Aが退職し、本件選挙を実施させ、自ら本件選挙に立候補するとともに、大阪市に選挙費用として多額の公金を支出させた一連の行為が不法行為に該当すると主張して、同人に対する民法709条に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象として、その違法を確認するとともに、被告に対し、損害賠償請求権の行使を求めるものであるから、地方自治法242条の2第1項3号及び4号の訴えとして、いずれも適法な訴えである。

 2 争点(2)(Aによる不法行為)について

  (1) 憲法93条及び地方自治法は、地方公共団体の組織として、住民の直接選挙により選出される議員で構成される議決機関としての議会に加え、地方公共団体の執行機関としての長を住民の直接選挙により選出することとして、それぞれを直接民意に基礎を置く住民の代表機関として、その権限を分かち、自主性を尊重しながら相互の間の均衡と調和を図ることにより地方政治を実現することを保障しているものと解される。

 このように、我が国の地方自治制度においては、地方公共団体の長と議会がともに住民による直接選挙によって選任され、それぞれ独立、対等な地位において権限を行使することが予定されているから、両者の間に意見対立が生じることも当然に想定されるところである。地方自治法も、第2編第7章第2節第4款(176条ないし180条)において、地方公共団体の長と議会の関係について規定している。もっとも、両者の間に上記のような意見の対立が生じた場合の方策はこれら規定によるものに限られるものではなく、地方公共団体の長及び議会が、いずれも民意に基礎を置くものであることに鑑みれば、選挙に基づく住民の意思により解決する一方策として、地方公共団体の長が自発的に退職し、選挙に立候補して、自らの政策の正当性について住民の意思を問うことも否定されるものではないと解される。

 このように、地方公共団体の長が、自らの政策の正当性について住民の意思を問う目的で、自発的に退職の申立てをし、当該申立てがあったことにより告示された選挙に立候補することは、関係法令の趣旨に照らしても許容されることは明らかである。

 すなわち、地方自治法上、地方公共団体の議会の議員が辞職する場合(同法126条)と異なり、地方公共団体の長は、議会の許可に係らしめることなく、自らの意思で退職することが認められており(同法145条)、退職の申立て事由を制限する規定や当該申立てにより告示された選挙において候補者となることを制限する趣旨の規定もない。むしろ、公職選挙法259条の2は、「地方公共団体の長の職の退職を申し出た者が当該退職の申立てがあつたことにより告示された地方公共団体の長の選挙において当選人となつたときは」と規定しており、地方公共団体の長が自らの意思で退職した後に、当該退職の申立てにより告示された選挙において候補者となり得ることを前提とした規定を置いている。そして、かかる規定が制定されるに至った立法経緯は、地方公共団体の長と議会の意見の対立が存在しているにもかかわらず、議会が不信任議決をしない事例等が認められたことから、地方公共団体の長が任期の満了を待たずに退職を申し出た場合に、当該申出があったことにより告示された選挙において候補者になることができない旨を定めていたかつての同法87条の2の規定を削除し(昭和37年法律第133号)、地方公共団体の長が自発的に退職し、選挙に立候補することを認めることで、住民の信を問う方策を認めたというものである(乙4、5)。こうした関係法令の規定やその趣旨からすれば、地方公共団体の長が自発的に退職し、選挙に立候補して、自らの政策の正当性について住民の意思を問うことが許容されることは明らかである。

  (2)ア そうであるとすれば、Aが推進する大阪都構想の実現について、これに反対するB、C、D、Eの4会派が多数を占める大阪市議会との間で意見の対立等が生じ、法定協議会の場においても、特別区の区割り案の1案への絞り込みが、上記各会派の委員の反対により実現しないこと等から、Aが、自らの政策である大阪都構想を早期に実現する目的で、住民の意思を問うとして、大阪市長の退職を申し出て、当該申出により告示された本件選挙に立候補したこと(甲32ないし35、乙2の11、弁論の全趣旨)をもって、違法であるということはできない。

   イ この点、原告ら及び参加人らは、市政の最終的な決定権限を有するのは議会であるところ、Aが退職し、本件選挙において再選されても、大阪都構想に反対する大阪市議会の決定権を覆すことはできないのであるから、同人が退職し、選挙を実施することは法的には全く無意味であると主張する。しかしながら、上記のとおり、地方公共団体の長と議会は共に民意に基礎を置くものであって、両者の間で意見の対立等が生じたときに、地方公共団体の長が自発的に退職し、選挙に立候補して、自らの政策の正当性について住民の意思を問うことは、その結果を踏まえてのさらなる議論、検討等を通じて、上記対立等を解消することを期待し得る一方策といえることからすれば、本件選挙の前後を通じて大阪市議会の構成員に変動がないからといって、本件選挙の実施がおよそ無意味なものとして違法ということはできない。

 このほか、原告ら及び参加人らは、Aが、法定協議会の委員のうち、大阪都構想に反対する委員を積極的に賛成する議員に入れ替える、また、事実と異なる大阪都構想の宣伝を行うという違法、不当な目的をもって退職し、本件選挙を実施させたものである旨主張するが、本件選挙の結果を踏まえて、法定協議会の委員の入れ替えを企図することをもって、本件選挙の違法を来すものということはできないし、大阪都構想の実現によるメリット、デメリットは多様な角度からの検討がされているところであって、その評価も一律に決することはできないことからすると、そのような大阪都構想を推進する立場から民意を問うために本件選挙に及んだことをもって、これが違法になるということもできない。

 3 よって、原告ら及び参加人らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法65条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。