東京地裁平成24年6月1日判決〔営業秘密情報使用による不正競争防止法違反〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 X(衛星通信サービスプロバイダを主たる事業とし、海外で衛星通信サービスの提供を行っていた会社)は、Y1(前身のジェイサット)がXから開示を受けた営業秘密の本件各情報を、Y2ら(ジェイサットの子会社ら)に開示し、Y2ら自ら営業活動に使用したとして、不正競争防止法2条1項7号、4条に基づき、また、ジェイサットは、本件事業に関するXとの業務提携等を中止し、Xと競合する合併会社を設立して同会社において同事業を行うことを決定していたにもかかわらず、原告に対し資本提携の履行に必要な株式価格の算定のためと偽って原告に対する各デューデリジェンスを実行、継続し、もって詐欺その他の不正な手段により本件各情報を取得したとして、不正競争防止法2条1項4号、4条に基づき、Y1に対し、逸失利益等の損害賠償等を請求し、Y2に対しては、不正競争防止法2条1項8号、2条1項5号、4条に基づき、損害賠償等を請求した事案である。

2 裁判所は、本件情報については、一部につき行政における許認可基準及びその手続に関する情報を指すものであり、広く国民に開示されるべきものであり、行政庁がこれを公開せずに秘匿できる性質のものではないとして、非公知性を認めることができず、不正競争防止法2条6項の営業秘密には当たらないとした。

また、本件情報は、情報が記載された契約書は鍵の掛かった引き出しに保管されており、総務部長等によって管理され、代表取締役等の許可なく同契約書にアクセスできないように管理されていたとか、会計ソフトに入力された情報が経理用サーバに保管され経理課の担当者のみがアクセスできることになっており、ID番号及びパスワードによりアクセスが管理されていたなどとXが主張するが、不正競争があったとされる当時、上記管理方法が実際に行われていたことは認められず、少なくとも秘密管理性が認められず、不正競争防止法2条6項の営業秘密には当たらないとした。

仮に、本件各情報に営業秘密性が認められたとしても、本件情報の一部については、ジェイサットが取得した事実を認めるに足りる証拠はない、また一部についてはジェイサットがXから各契約書の開示を受けたと認めるに足りる証拠もない、その余の情報についても、ジェイサットが詐欺その他の不正な手段で取得したと認められないなく、被告らの不正競争は認められないとしてXの請求を排斥した。

3 本件は、営業秘密情報を使用して原告に損害を与えたなどとして、損害賠償と営業行為の差し止めを求めた事案であるが、不正競争防止法2条6項の営業秘密に当たらないことなどを理由に主張が排斥されている。

この点、不正競争防止法は、同2条1項4号ないし9号において、営業秘密に関する不正競争を規定しており、ここでいう営業秘密とは、①秘密として管理されている(秘密管理性)②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって(有用性)、③公然と知られていないもの(非公知性)をいう(不正競争防止法2条6項)。そして、「秘密として管理されている」とは、情報の種類、性質、管理の方法・態様、情報を保有する事業者と情報にアクセスした者との具体的な関係等の諸般の事情に照らし、客観的にみて、情報にアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認識し得る程度に管理されていることを要するものと解される(東京地裁平成24年4月26日判決名古屋地裁平成20年3月13日判決〔産業用ロボットシステム営業秘密事件〕東京地裁平成19年12月26日判決参照)。

本件は営業秘密該当性を否定した一事例であるが、秘密管理性の立証の困難性を改めて感じる事例であり、オレンジ法律事務所の顧問会社に対しては、機密情報の管理方法についてより一層の注意を喚起する次第である。

【原文】

主文

 1 第1事件原告・第2事件原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は第1事件原告・第2事件原告の負担とする。 

事実及び理由

第1 請求

 (第1事件)

 第1事件被告スカパーJSAT株式会社(以下「被告スカパーJSAT」という。)は、第1事件原告(以下、第2事件原告の表記を含め「原告」という。)に対し、5億6000万円(予備的に4億3000万円)及びこれに対する平成21年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 (第2事件)

 1 第2事件被告JSAT MOBILE Communications株式会社(以下「被告JSATモバイル」という。)は、海上自衛隊、海上保安庁、警察庁の行うインマルサット衛星通信サービスの購入及びインマルサット衛星通信機器の購入に関する入札手続に参加してはならない。

 2 被告JSATモバイルは、原告に対し、1億円及びこれに対する平成22年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1(1) 第1事件

 原告は、被告スカパーJSATに対し、以下の損害賠償を求めている(併合態様は、後記ア~エの請求は選択的併合、後記オ~クの請求は単純併合であり、後記ケの請求は後記オ、カの請求の予備的請求である。)。

   ア 被告スカパーJSATの前身であるジェイサット株式会社(以下「ジェイサット」という。)は、原告から開示を受けた別紙営業秘密目録記載1~8の各情報(ただし、平成19年11月30日時点までの情報に限る。以下、これらの情報を「本件各情報」といい、個別に特定するときは「本件情報1」などと目録記載の番号で特定する。)を、被告JSATモバイル及び子会社の株式会社衛星ネットワーク(以下「衛星ネットワーク」という。)に開示し、被告スカパーJSAT自ら営業活動に使用したとして、被告スカパーJSATに対し、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項7号、4条に基づき、逸失利益等の損害賠償として、28億0765万1872円のうち2億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求1」という。)。

   イ ジェイサットは、平成19年9月18日頃(遅くとも同年11月5日頃)にはインマルサット衛星通信事業(以下「本件事業」といい、本件事業に係るサービスを「本件サービス」という。)に関する原告との業務提携及び資本提携(以下「業務提携等」という。)を中止し、原告と競合する合併会社を設立して同会社において同事業を行うことを決定していたにもかかわらず、原告に対し資本提携の履行に必要な株式価格の算定のためと偽って原告に対する法務及び財務の各デューデリジェンス(以下「本件法務DD」、「本件財務DD」といい、併せて「本件DD」という。)を実行、継続し、もって詐欺その他の不正な手段により本件各情報を取得したとして、被告スカパーJSATに対し、不競法2条1項4号、4条に基づき、逸失利益等の損害賠償として、28億0765万1872円のうち2億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求2」という。)。

   ウ ジェイサットは、①原告の営業秘密である本件各情報を取得するために、原告に対し、資本提携契約の履行のためには原告の株式の価格を決定する必要があり、そのためには本件DDを行う必要があるとの虚偽の事実を申し向けて、平成19年10月5日から平成20年1月15日まで本件DDを行い、本件各情報を取得した、②仮にそうでないとしても、平成19年11月5日頃には原告との共同事業を中止し、ジェイサット自ら原告の競合会社として本件事業を行うことを決定したのであるから、同日以降は本件DDを中止すべき義務があるのにこれを継続して本件各情報を取得したとして、被告スカパーJSATに対し、不法行為(民法709条)に基づき、逸失利益等の損害賠償として、5億9500万2929円のうち2億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求3」という。)。

   エ ジェイサットは、原告との間の平成19年6月19日付け秘密保持契約(以下「本件秘密保持契約」という。)に反して原告から取得した本件各情報を第三者である被告JSATモバイル及び衛星ネットワークに開示したとして、被告スカパーJSATに対し、同契約の債務不履行に基づき、逸失利益等の損害賠償として、5億0457万7929円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求4」という。)。

   オ ジェイサットは、平成19年8月7日(予備的に同年10月4日)、本件事業に関し原告との間で業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結したにもかかわらず、平成20年1月15日、原告に対し何ら解約理由を示さず一方的に同契約を解約する旨の通知をし、以後、その履行を拒んでいるとして、被告スカパーJSATに対し、同契約の債務不履行に基づき、逸失利益の損害賠償として、14億1647万5000円のうち2億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求5」という。)。

   カ ジェイサットは、平成19年10月4日、本件事業に関し原告との間で資本提携契約(以下「本件資本提携契約」という。)を締結したにもかかわらず、平成20年1月15日、原告に対し何ら解約理由を示さず一方的に同契約を解約する旨の通知をし、以後、その履行を拒んでいるとして、被告スカパーJSATに対し、同契約の債務不履行に基づき、逸失利益の損害賠償として、8億0225万5000円のうち2億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求6」という。)。

   キ ジェイサットは、原告から開示を受けた原告と後記ストラトス社との間のサービスプロバイダ契約(以下「本件サービスプロバイダ契約」という。)に関する情報(要旨、原告はストラトス社から一定の価格にて継続して本件サービスを購入できる、というもの。以下「本件契約情報」という。)を使用してストラトス社との合弁会社である被告JSATモバイル(以下、特段の断りがない限り、「合弁会社」とは被告JSATモバイルのことを指す。)を設立し、同被告において原告と競合する本件事業を行うことによって、原告の重要な営業権である本件サービスプロバイダ契約を侵害し原告に損害を与えたとして、被告スカパーJSATに対し、不法行為(民法709条)に基づき、逸失利益3億4559万0085円のうち3000万円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求7」という。)。

   ク ジェイサットは、平成20年1月15日に本件業務提携契約及び本件資本提携契約(以下「本件業務提携契約等」という。)を解約した際、原告が株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ(以下「NTTドコモ」という。)との間で進めていた提携交渉については妨害も干渉もしないとの合意(以下「本件合意」という。)をしたにもかかわらず、これに反して妨害又は干渉(以下「本件妨害等」という。)を行い、その結果、原告とNTTドコモとの間の上記提携交渉は平成20年10月頃打切りになったとして、被告スカパーJSATに対し、債務不履行に基づき、逸失利益の損害賠償として23億4239万9503円のうち1億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求8」という。)。

   ケ 仮に本件業務提携契約等が成立していなかったとしても、ジェイサットが正当な事由なしにこれらの契約を締結しなかったことは、契約の成立に関する原告の期待権を侵害する不法行為に当たるとして、被告スカパーJSATに対し、不法行為(民法709条)に基づき、費用等の損害賠償として1億円及びこれに対する平成21年6月6日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求9」という。)。

  (2) 第2事件

 原告は、被告JSATモバイルに対し、次のア又はイの損害賠償とウの差止めを求めている(併合態様は、ア、イの請求は選択的併合、これらとウの請求は単純併合である。)。

   ア 被告JSATモバイルは、ジェイサットから開示を受けた原告の営業秘密である本件各情報を使用して、①電気通信事業登録者の登録申請及び包括免許申請を行い、総務省から電気通信事業者の登録資格の付与を受け、包括免許を取得した、②原告の顧客に内定していたエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社(以下「NTTコミュニケーションズ」という。)、株式会社テレビ朝日(以下「テレビ朝日」という。)と契約を締結して原告の顧客を奪った、③海上自衛隊の入札手続に参加して落札し、利益を得て原告に損害を与えたとして、不競法2条1項8号、4条に基づき、逸失利益等の損害賠償として28億0765万1872円のうち1億円及びこれに対する平成22年5月22日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求10」という。)。

   イ 被告JSATモバイルは、ジェイサットが不正な手段により取得した原告の営業秘密であることを知りながら、同被告から本件各情報の開示を受け、これを使用して、上記ア①~③の行為を行い、原告に損害を与えたとして、不競法2条1項5号、4条に基づき、逸失利益等の損害賠償として28億0765万1872円のうち1億円及びこれに対する平成22年5月22日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている(以下「本件請求11」という。)。

   ウ 上記ア、イと同じ不正競争を請求の原因として、不競法3条1項に基づき、海上自衛隊、海上保安庁、警察庁の行う本件サービスの購入及びインマルサット衛星通信機器の購入に関する入札手続への参加の差止めを求めている(以下「本件請求12」という。)。

 2 前提事実(証拠等を掲記した事実のほかは当事者間に争いがない。)

  (1) 当事者等

   ア 原告

 原告は、平成11年2月23日に設立された電気通信事業法に基づく電気通信事業等を目的とする株式会社であり、衛星通信サービスプロバイダを主たる事業とし、海外で衛星通信サービスの提供を行っていた。

 原告は、平成18年11月14日に総務大臣から電気通信事業法9条の規定に基づく電気通信事業の登録を受け、平成19年1月5日に関東総合通信局長から電波法27条の5に基づく特定無線局(インマルサット人工衛星局を通信の相手方とする携帯移動地球局)の包括免許を取得した。

 原告は、後記するDP業者であるザンティック社と本件サービスプロバイダ契約及びIRU(Indefeasible Right of User〔破棄し得ない使用権〕)契約を締結し、後記するPSAの資格を取得することによって、電気通信設備を保有することなく、国内で本件サービスの提供をしている。(甲1、2、10~13)

   イ Stratos Global Corporation

 Stratos Global Corporation(以下「ストラトス社」という。)は、米国メリーランド州に本店を有する衛星通信を主な業務とする会社であり、オランダ法人の Xantic Sales B.V.(以下「ザンティック社」という。)を買収した。ストラトス社は、平成21年4月頃、英国法人の Inmarsat plc(以下「インマルサット社」という。)に買収され、インマルサット社の子会社となり、原告とザンティック社との間の上記IRU契約は、ストラトス社に承継された。(甲4、26、弁論の全趣旨)

   ウ ジェイサット

 ジェイサットは、昭和60年に設立された通信衛星を保有、運用し、衛星のトランスポンダ(中継器)による通信サービスを提供する衛星通信事業者であり、固定衛星通信事業を行っていた。(甲5)。

   エ 株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ

 株式会社スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(以下「スカパー」という。)は、平成6年11月10日に設立された委託放送事業、電気通信役務利用放送事業、電気通信事業等を目的とする株式会社であった。(甲7、弁論の全趣旨)

   オ 株式会社スカパーJSATホールディングス

 株式会社スカパーJSATホールディングス(以下「ホールディングス」という。)は、平成19年4月、ジェイサットとスカパーが経営統合して設立された持株会社であり、その設立により、ジェイサット及びスカパーは、ホールディングスの100%子会社となった。(甲6、弁論の全趣旨)

   カ 宇宙通信株式会社

 宇宙通信株式会社(以下「宇宙通信」という。)は、平成20年3月、ホールディングスが買収して子会社とした衛星通信事業者である。(甲6)

   キ 衛星ネットワーク

 衛星ネットワークは、昭和62年に設立されたジェイサットが92%の株式を有するジェイサットの子会社であった。同社は、衛星通信・放送サービスにおけるソリューションプロバイダー事業を行っており、VSAT(超小型衛星通信地球局)を利用した双方向衛星通信、衛星中継車を使用したスポーツやイベントの衛星中継、「スカイパーフェクトTV!」のアップリンク等のサービスを提供している。(甲5、乙29)

   ク 被告JSATモバイル

 被告JSATモバイルは、ジェイサットが株式の66.7%を、ストラトス社の日本子会社であるストラトス・グローバル・ジャパン株式会社が株式の33.3%をそれぞれ出資して平成20年8月8日に設立された、電気通信サービスの提供等を目的とする株式会社であり、移動体衛星通信事業を主たる業務とする。被告JSATモバイルの設立から平成21年6月11日までは、A(以下「A」という。)が代表取締役を務めていた。(甲3、4、54)

   ケ 被告スカパーJSAT

 被告スカパーJSATは、平成20年10月1日、スカパーを存続会社とし、ジェイサット及び宇宙通信を吸収合併して設立された株式会社であり、衛星放送事業と衛星通信事業を主たる業務としている。(甲6~8)。

  (2) 衛星通信事業

   ア 衛星通信事業には固定衛星通信事業と移動体衛星通信事業がある。移動体衛星通信事業に使用されるインマルサット衛星は、昭和54年(1979年)に設立されたロンドンに本部を有する国際移動通信衛星機構(IMSO)が保有するものであり、国際移動通信衛星機構の事業は、世界各国の政府資金で運営されていた(その後、国際移動衛星通信機構の事業は、インマルサット社が引き継いだ。)。国際移動通信衛星機構(インマルサット社)は、インマルサット衛星のほか、ロンドンに地上設備局、イタリア及びオランダにアクセスステーションを有し、通信設備のハードウェアの保有と衛星サービスの運営に必要な情報管理、インターネットと地上電話回線ネットワークへの接続はしているが、各国の地上地球局や通信回線設備は保有していない。そのため、各国においては、地上地球局などの通信回線設備を有する各国の会社が同機構(同社)と契約して本件サービスを行っている。(甲4、9、乙23)

   イ インマルサット衛星の電波を受信する地上地球局を保有、運営し、公衆電話網へアクセスする事業者は、LESO(Land Earth Station Operator)と呼ばれ、各国の主要な電話会社などが登録されており、その中にザンティック社、KDDIなどが含まれている。

 LESOは、インマルサットの第4世代衛星による高速大容量の移動体衛星通信サービスであるBGAN(Broadband Global Area Network)サービスが平成18年頃に開始されると、DP(ディストリビューションパートナー)と呼ばれるようになった。(甲9)

   ウ 本件サービスにおけるエンドユーザーへの電話番号の発給や通信システムの管理などの移動体端末の制御は、PSA(Point of service Activation)と呼ばれる事業者が行うことになっており、その中にKDDI、日本無線株式会社及び原告が含まれている。エンドユーザーへのサービス提供は、PSAが中心となって行っているが、PSAと代理店契約をしているサービスプロバイダやメーカーの販売代理店もこれを行っている。

 PSA業者の資格は、BGANサービスにおいては廃止され、従来のLESO業者にのみPSA資格が付与されることとなった。これに伴い、従来のPSA単独事業者は、BGANサービスにおいては、DP業者に依存しなければ本件事業ができなくなった。(甲9、62、弁論の全趣旨)

  (3) 業務提携等に関する交渉

   ア ジェイサットによる業務提携等の申入れ

 ジェイサットは、平成19年6月頃、原告に対し、ジェイサットが原告に資本参加して資本提携し、原告が提供を受けるBGANサービスを更にジェイサットが提供を受け、これをジェイサット及びNTTドコモが顧客に販売するという業務提携等の申入れを行った(以下「本件申入れ」という。)。ジェイサットの責任者は、同社公共事業部長のAであった。(甲15、42、弁論の全趣旨)

   イ 本件秘密保持契約の締結

 原告とジェイサットは、平成19年6月19日付けで本件秘密保持契約を締結し、互いの営業秘密を開示すること、営業秘密の保持、衛星移動体サービスの協力関係構築に関する検討の目的以外の上記営業秘密の使用禁止等を合意した。また、同契約第9条では、契約の有効期間中も、両社が上記検討と類似又は競合する他の検討を独自に又は第三者と共同で行うことができること、本契約に基づく秘密情報の開示、受領及び上記検討の遂行は、その成果として両者間における売買・業務委託その他の契約の締結を約束するものではないことが定められていた。(甲16、弁論の全趣旨)

   ウ 原告・NTTドコモ間における秘密保持契約の締結

 原告とNTTドコモは、平成19年8月2日、秘密保持契約を締結し、互いの営業秘密を開示すること、2年間の営業秘密の保持、両社間の業務提携の可能性の検討、NTTドコモの原告に対する出資の可能性の検討及び両社が協力し新たなビジネス市場を開拓するための検討目的以外の上記営業秘密の使用禁止等を合意した。(甲17、弁論の全趣旨)

   エ 原告に対するヒアリング調査の実施

 平成19年8月、ジェイサットの依頼により、アクセンチュア株式会社(以下「アクセンチュア」という。)が原告の事業につき調査を行い、同年8月10日頃、アクセンチュアは、ジェイサットに対し、ヒアリング資料文書を提出した(以下「本件ヒアリング調査」という。)。(甲18)

   オ 出資検討に関する基本合意の締結

 原告とジェイサットは、平成19年10月1日付けで、出資検討に関する基本合意書(甲19)を取り交わし、原告に対するジェイサットの出資比率の検討をすること、原告が独占的交渉権をジェイサット及びNTTドコモに与えること、原告がジェイサットの実施するデューデリジェンスに協力すること等を合意した(以下「本件基本合意」という。)。(甲19)

   カ 本件法務DDの実施

 平成19年10月4日、ジェイサットは、原告に対し、法務デューデリジェンスに係る各資料の提出を要請し、原告は、同月12日、ジェイサットに対し、同資料を提出した。(甲20、弁論の全趣旨)

   キ 本件財務DDの実施

 ジェイサットは、株式会社デューデリジェンス(以下「デューデリジェンス社」という。)に財務デューデリジェンスを依頼し、原告は、財務デューデリジェンスに係る資料を提出した。デューデリジェンス社の公認会計士は、平成19年11月9日から同月16日までの間、原告の会社を訪れ、財務調査を行った。

 デューデリジェンス社は、上記財務デューデリジェンスの結果を報告書(甲31、32。以下「本件財務DDに関する報告書」という。)にまとめ、同月27日、これをジェイサットに提出した。(甲21、31、32、弁論の全趣旨)

   ク ジェイサットによる業務提携等の見送り

 ジェイサットは、平成20年1月15日、ストラトス社のアジア太平洋地域担当副社長も出席したジェイサット本社における会議で、原告代表者に対し、原告との資本参加の最終合意書の締結はできない、ジェイサットはストラトス社と合弁会社を設立する旨の説明をした。(乙32、54)

   ケ 本件DDで得た資料の返還

 ジェイサットは、平成20年2月1日、原告に対し、本件DDで得た資料を全て返還するとともに(乙9、32、54)、かかる資料は全て原告に返還済みであること、ジェイサットがストラトス社又はその関連会社との間で現在及び将来において資本上、業務上の提携、協力等を行うことにつき原告は異議を述べないとの記載がされた覚書(甲22)に調印するよう原告代表取締役X(以下「X」という。)に求めたが、Xはこれを拒否した。(甲22、弁論の全趣旨)

  (4) ストラトス社との業務提携等

 ジェイサットは、平成20年8月21日、記者会見を行い、ストラトス社と合弁で設立した被告JSATモバイルが本件事業に参入すると発表した。(甲23~26)

  (5) 登録、免許

 被告JSATモバイルは、平成21年1月29日、電気通信事業の登録を受け、同年2月17日、特定無線局の包括免許を取得した。(弁論の全趣旨)

 3 争点

 (本件請求1、2、10~12に関し)

  (1) 不正競争の有無

   ア 本件各情報の営業秘密性

   イ 被告らによる本件各情報の取得、開示、使用行為

 (本件請求3に関し)

  (2) 不法行為の成否-本件DDの違法性

 (本件請求4に関し)

  (3) 秘密保持契約違反の有無

 (本件請求5に関し)

  (4) 本件業務提携契約の成否

 (本件請求6に関し)

  (5) 本件資本提携契約の成否

 (本件請求7に関し)

  (6) 営業権侵害の成否

 (本件請求8に関し)

  (7) 本件合意及び本件妨害等の有無

 (本件請求9に関し)

  (8) 期待権侵害の成否

 (本件請求1~11に関し)

  (9) 損害の発生及び額

 4 争点に関する当事者の主張

  (1) 争点(1)(不正競争の有無)について

 〔原告の主張〕

   ア 本件各情報の営業秘密性

 本件各情報は、別紙営業秘密目録の各欄に記載のとおり、不競法2条6項の営業秘密に該当する。

   イ 被告らによる本件各情報の取得、開示、使用行為

 (ア) 本件請求1に関し

  a 原告は、本件秘密保持契約に基づき、本件DD等を通じて、本件各情報を含む原告の本件事業に関する全ての情報をジェイサットに開示した。

  b ジェイサットは、平成20年8月8日、原告の競合会社となる被告JSATモバイルを設立し、同時に、原告の営業秘密である本件各情報を被告JSATモバイルに開示した。

  c ジェイサットは、Aが衛星ネットワークの常務取締役に就任した平成21年6月11日頃、衛星ネットワークに対し、本件各情報を開示した。

  d ジェイサット及びその承継会社である被告スカパーJSATは、被告JSATモバイルの設立後、本件各情報を使用して、被告JSATモバイルの代理店としての営業活動を行っている。

  e 上記b~dのジェイサットないし被告スカパーJSATが本件各情報を被告JSATモバイル及び衛星ネットワークに対し開示した行為及び自ら使用した行為は、不競法2条1項7号の不正競争に該当する。

 (イ) 本件請求2に関し

  a ジェイサットは、平成19年9月18日頃、ストラトス社に対し、原告を排除してジェイサットとストラトス社との間で合弁会社を設立し、合弁会社で本件事業を行いたいとの申入れをし、ストラトス社の内諾を得て合併交渉を進めていた。すなわち、ジェイサットは、同日頃には、原告との業務提携等を中止し、原告と競合する合弁会社を設立して同合弁会社が本件事業を行うことを決定していた。しかるに、ジェイサットは、原告の営業秘密である本件各情報を取得するため、これを秘して、原告に対し、資本提携の履行には原告の株式の価格を算定する必要があり、そのためには本件DDを行う必要があるとの虚偽の事実を申し向け、平成19年10月5日から平成20年1月15日まで本件DDを行い、原告から本件各情報を取得した。

  b 仮にそうでなかったとしても、ジェイサットは、同年11月5日頃には、ストラトス社より合弁会社設立について承諾するとの回答を得て、それ以降、ストラトス社との間で合弁会社設立及び事業開始のための活動を開始していたのであるから、同日頃には、原告との共同事業の中止を決定していた。しかるに、ジェイサットは、これを秘して、原告に対し、上記のとおり虚偽の事実を申し向け、既に開始していた本件DDを継続して、原告から本件各情報を取得した。

  c ジェイサットのこれらの行為は、不競法2条1項4号の不正取得行為に該当する。

 (ウ) 本件請求10、12に関し

  a 被告JSATモバイルは、ジェイサットの子会社であり、実質上同一の会社といえるところ、同被告は、ジェイサットより開示を受けた本件各情報を使用して、①総務省に対し電気通信事業登録者の登録申請及び包括免許申請を行い、総務省より電気通信事業者の登録資格の付与を受け、包括免許を取得し、②原告の顧客に内定していたNTTコミュニケーションズ、テレビ朝日と契約を締結して原告の顧客を奪い、③海上自衛隊の入札手続に参加して落札し、利益を得て原告に損害を与えた。

  b 同被告のこれらの行為は、不競法2条1項8号の不正競争に該当する。

 (エ) 本件請求11、12に関し

  a 被告JSATモバイルは、ジェイサットが前記不正取得行為により取得した原告の営業秘密であることを知りながら、ジェイサットより本件各情報の開示を受け、これを使用して、①総務省に対し電気通信事業登録者の登録申請及び包括免許申請を行い、総務省より電気通信事業者の登録資格の付与を受け、包括免許を取得し、②原告の顧客に内定していたNTTコミュニケーションズ、テレビ朝日と契約を締結して原告の顧客を奪い、③海上自衛隊の入札手続に参加して落札し、利益を得て原告に損害を与えた。

  b 同被告のこれらの行為は、不競法2条1項5号の不正競争に該当する。

   ウ ジェイサットが原告から本件各情報の開示を受けたこと

 ジェイサットは、以下のとおり、本件DDの際に原告から本件各情報の開示を受けた。

 (ア) 本件情報1、2は、原告の平成18年10月31日付け電気通信事業登録申請書(甲41。以下「本件電気通信事業登録申請書」という。)添付のネットワーク構成図(以下「本件ネットワーク構成図」という。)に記載されていた。甲10(登録証)と甲41(本件電気通信事業登録申請書)とは一体のものとして綴られており、甲10(登録証)の右上にある「C-2」、「E-5」の書き込みは、ジェイサットが、原告から甲10(登録証)と甲41(本件電気通信事業登録申請書)が一体となった綴りを受け取った後、本件DDの際に記入したものである。上記書き込みは、「法務デュー・ディリジェンス開示依頼資料リスト」と題する書面(甲20添付のリスト。以下「甲20添付のリスト」という。)の項目番号に記載されている番号である。

 (イ) 本件情報3は、原告の特定無線局免許状2通(甲11、12。以下「本件特定無線局免許状」という。)と特定無線局免許申請書2通(甲80、81。以下「本件特定無線局免許申請書」という。)に記載されていた。本件特定無線局免許状と本件特定無線局免許申請書とは一体となって綴られていた。本件特定無線局免許状の右上には、それぞれ、「C-2」、「E-5」の書き込みがなされているが、同書き込みは、ジェイサットが、各免許状を原告から受け取った後、本件DDを実施する際に書き込んだものである。上記書き込みは甲20添付のリストの項目番号に記載されている数字である。

 (ウ) 本件情報4は、原告・ザンティック社間の平成18年3月31日付けサービスプロバイダ契約書(甲82)に記載されていた。同契約書は、甲20添付のリストC-9の「製品・商品・サービス調達に関する契約書」としてジェイサットに提出された。

 (エ) 本件情報5のうち、①衛星通信サービスの仕入価格は、ストラトス社からのものが原告・ストラトス社間の平成20年4月21日付け契約書(甲60)及び原告・ザンティック社間の平成18年3月31日付け契約書(甲82)に、FRANCE TELECOM MOBILE SATELLITE COMMUNICATIONS(後にVizada〔ビザーダ〕と社名を変更した。以下「フランステレコム社」という。)からのものが原告・フランステレコム社間の平成14年7月付け契約書(甲112)及び原告・フランステレコム社間の平成17年12月26日付け契約書(甲113)に、TELENOR SATTELLITE SERVICES AS(後にフランステレコム社に買収された。以下「テレノア社」という。)からのものが原告・テレノア社間の契約書(契約番号 18685。甲114)にそれぞれ記載されていた。また、②衛星通信機器の仕入価格は、原告・Thrane & Thrane A/S(以下「トラネ社」という。)間の平成19年10月19日付け契約書(甲58)及びトラネ社の製品価格表(甲115の1、2)にそれぞれ記載されていた。これらの契約書等は、甲20添付のリストC-9の「製品・商品・サービス調達に関する契約書」としてジェイサットに提出された。

 (オ) 本件情報6は、原告の総勘定元帳及び勘定科目内訳書の電子データ(甲116~118)に記載されていた。これらの資料は、「PJ John 財務DD依頼資料リスト」と題する書面(甲21)に記載されており、電子データとしてジェイサットに提出された。また、これらの資料に基づく本件財務DDの結果が本件財務DDに関する報告書に記載されている。

 (カ) 本件情報7は、原告の顧客別の営業報告書としてジェイサットに提出されており、甲79がその一部である。

 (キ) 本件情報8は、原告の総勘定元帳及び勘定科目内訳書の電子データ(甲119~121)に記載されていた。これらの資料は、「PJ John 財務DD依頼資料リスト」と題する書面(甲21)に記載されており、電子データとしてジェイサットに提出された。また、これらの資料に基づく本件財務DDの結果が本件財務DDに関する報告書に記載されている。

   エ ジェイサットが被告JSATモバイルに対し本件各情報を開示したことジェイサットが被告JSATモバイルに対し本件各情報を開示したことは、次の事実から明らかである。

 (ア) ジェイサットにおける本件DDの責任者は公共ビジネス事業部長のAであり、ほかにAの部下としてB及びC(以下「C」という。)の2名がAと共に本件DDを行い、原告の営業秘密である本件各情報を取得した。

 (イ) 被告JSATモバイルは、Aの起案した稟議(乙38)の決裁によって平成20年8月8日に設立され業務を開始したものであるが、本稟議には、被告が本件DDによって取得したインマルサットとのPSA契約、AA、ストラトス社とのIRU契約などインマルサット衛星通信事業を行うために必要な事項が全て記載されていた。さらに、同時期にジェイサットが総務省に提出した説明資料(乙17の1~3)においてもストラトス社とのIRU契約が要件として説明されており、既にこの時点で原告の営業秘密である本件各情報を使用していたことは明らかである。

 (ウ) Aは、被告JSATモバイルの設立と同時に同会社の代表取締役に就任し、Cは、被告JSATモバイルの設立と同時に同会社の取締役に就任した。また、甲54の取締役等異動のお知らせによれば、Aは、平成21年6月11日に被告JSATモバイルを退職し、衛星ネットワークの常務取締役に就任した。

 (エ) ジェイサットにおいて原告の営業秘密である本件各情報を知ったA、Cが被告JSATモバイルの代表取締役、取締役に就任し、被告JSATモバイルにおいて経営及びインマルサット衛星通信業務を行ったものであるから、ジェイサットが被告JSATモバイルに原告の営業秘密である本件各情報を開示したといえる。

 〔被告らの主張〕

   ア 本件各情報の営業秘密性

 本件各情報はいずれも不競法2条6項の営業秘密には該当しない。個別の主張は、別紙検討表(別紙目録に対する反論)の各欄に記載のとおりである。

   イ 被告らによる本件各情報の取得、開示、使用の有無

 (ア) 本件請求1に関し

 本件情報1~3、7のうち「予算」に関する情報については、そもそもジェイサットが原告から開示を受けた事実はない。

 また、その余の本件各情報についても、ジェイサット及び被告スカパーJSATが、JSATモバイルや衛星ネットワークに開示したことはなく、自ら使用した事実もない(なお、本件情報5に関し、ジェイサットは前記甲58、60、112~115の2の各契約書については原告から開示を受けていない。)。

 (イ) 本件請求2に関し

 ジェイサットがストラトス社と合弁会社を設立することとし、原告との業務提携等の検討を完全凍結することを決定したのは、平成19年12月12日であり、ジェイサットは、それまでは原告との業務提携等の可否を検討していた。そして、本件財務DDは、平成19年11月27日、本件財務DDに関する報告書の提出をもって終了しており、本件法務DDは同年12月4日以降行われていない。したがって、ジェイサットが原告と提携しないことを決定した事実を秘して、原告に対し虚偽の事実を申し向けて、本件DDを実行、継続したという事実はない。

 (ウ) 本件請求10、12に関し

 前記のとおり、本件各情報はそもそも営業秘密に当たらない。また、被告JSATモバイルはジェイサットから本件各情報の開示を受けていない。

 (エ) 本件請求11、12に関し

 前記のとおり、本件各情報はそもそも営業秘密に当たらない。また、ジェイサットが詐欺又は不正な手段により原告から本件各情報を取得し、被告JSATモバイルにこれを開示した事実はなく、被告JSATモバイルがそうと知りながら本件各情報の開示を受け、これを使用した事実もない。

  (2) 争点(2)(不法行為の成否-本件DDの違法性)について

 〔原告の主張〕

 前記のとおり、ジェイサットは、原告の営業秘密である本件各情報を取得するため、これを秘して、原告に対し、資本提携の履行には原告の株式の価格を算定する必要があり、そのためには本件DDを行う必要があるとの虚偽の事実を申し向け、平成19年10月5日から平成20年1月15日まで本件DDを行い、原告から本件各情報を取得した。仮にそうでなかったとしても、ジェイサットは、同年11月5日頃には、ストラトス社より合弁会社設立について承諾するとの回答を得て、それ以降、ストラトス社との間で合弁会社設立及び事業開始のための活動を開始していたのであるから、同日頃には、原告との共同事業の中止を決定していた。しかるに、ジェイサットは、これを秘して、原告に対し、上記のとおり虚偽の事実を申し向け、既に開始していた本件DDを継続して、原告から本件各情報を取得した。かかる営業秘密取得行為は詐欺によるものであるから不法行為に当たる。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 争う。前記のとおり、ジェイサットが、原告と提携しないことを決定した事実を秘匿して、原告に対し虚偽の事実を申し向けて、本件DDを実行、継続したという事実はない。

  (3) 争点(3)(秘密保持契約違反の有無)について

 〔原告の主張〕

 ジェイサットは、本件秘密保持契約に反して原告から取得した本件各情報を第三者である被告JSATモバイル及び衛星ネットワークに開示した。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 争う。そのような事実は一切ない。

  (4) 争点(4)(本件業務提携契約の成否)について

 〔原告の主張〕

 平成19年8月7日、原告代表者とジェイサットの代表取締役社長Y(以下「Y」という。)との間において、本件事業を原告とジェイサットが共同して行う、具体的には、原告がインマルサット社のDPであるストラトス社から購入した本件サービスをジェイサットに卸売販売し、ジェイサットはこれを主に官公庁向けに販売するとの内容の本件業務提携契約が成立した(主位的主張)。仮にそうでなくとも、ジェイサットは、原告に対し、資本提携は業務提携を補強するためのものと説明していたので、遅くとも、本件資本提携契約が成立した平成19年10月4日には上記内容の本件業務提携契約が成立した(予備的主張)。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 主位的主張及び予備的主張はいずれも争う。原告・ジェイサット間に業務提携契約は成立していない。

  (5) 争点(5)(本件資本提携契約の成否)について

 〔原告の主張〕

 原告、ジェイサット及びNTTドコモは、三社間において業務提携契約を締結するとともに資本提携契約を締結して共同事業を行うことを計画し、交渉を重ねていたものであり、平成19年9月11日、原告とジェイサットとの間でジェイサットとNTTドコモの出資比率を34%とする内容の合意がなされ、同年10月4日、ジェイサットの経営会議の了承により、原告・ジェイサット間に本件資本提携契約が成立した(主位的主張)。仮にそうでなかったとしても、同日、本件DDの結果に問題がなければとの解除条件付きで本件資本提携契約が成立し、その後、本件DDの結果については何ら問題がなかったので、条件が成就しないことが確定した(予備的主張)。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 主位的主張及び予備的主張はいずれも争う。原告・ジェイサット間に資本提携契約は成立していない。

  (6) 争点(6)(営業権侵害の成否)について

 〔原告の主張〕

 原告は、インマルサット社の最大のDPであるストラトス社との間で本件サービスプロバイダ契約を締結し、本件サービスを他のDPよりも安い価格で購入していたところ、本件DDにより秘密情報である本件契約情報を知ったジェイサットは、原告を排除し、ジェイサットがストラトス社より上記サービスを購入して日本国内で販売することを企図し、ストラトス社に対し、合弁会社を設立して本件事業を行うことを申し入れた。ジェイサットと合弁会社を設立すれば、ストラトス社が単なるサービスプロバイダ契約の相手方である原告よりも、自己が出資した合弁会社を優先的に有利に取り扱うことは明らかであり、ストラトス社よりサービスプロバイダとして上記サービスを購入していた原告は、上記合弁会社の設立以降は、同合弁会社よりも不利な条件でストラトス社と取引を行わざるを得なくなり、実質上、原告の重要な営業権である本件サービスプロバイダ契約がジェイサットの合弁会社設立により侵害された。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 争う。原告は、本件サービスプロバイダ契約上、日本において本件サービスを販売する非独占的な権利(non-exclusive right)をストラトス社から付与されていたにすぎず(Article 1)、何ら優先的又は独占的な権利、地位を有するものではない。また、同契約の有効期間は1年間とされ、かつ、各契約当事者が1か月前の書面通知をもって同契約を期間内解約できるとされている(Article 4)。原告は、本件サービスプロバイダ契約に基づく取引が従前どおりに維持、継続され、市場における何らかの優先的又は独占的な地位を維持できるかのように主張するが、そのような手前勝手な期待のゆえに、ジェイサット(被告スカパーJSAT)がストラトス社をビジネスパートナーとして選択して合弁会社を設立し、市場に参入することが制約されることはなく、原告の主張は、それ自体が公正競争、自由競争に対する不当な制約である。

  (7) 争点(7)(本件合意及び本件妨害等の有無)について

 〔原告の主張〕

 ジェイサットは、平成20年1月15日に本件業務提携契約等を解約した際、原告がNTTドコモとの間で進めていた提携交渉については妨害も干渉もしないとの合意(本件合意)をしたにもかかわらず、これに反して本件妨害等を行い、その結果、原告とNTTドコモとの間の上記提携交渉は平成20年10月頃打切りになった。すなわち、原告とNTTドコモとの間の上記提携交渉は、同年6月までは順調に推移しており、通常であればそのまま提携が成立していたにもかかわらず、これが成立しなかったのは、ジェイサット(被告スカパーJSAT)が、本件合意に反して、NTTドコモに対し、ジェイサットが本件事業を開始することが可能になったので、ジェイサットとの間で業務提携契約を締結し、ジェイサットより本件サービスを購入して欲しいとの交渉(本件妨害等)を行ったからである。これは本件合意に反するものであり、債務不履行に当たる。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 争う。ジェイサットは、平成20年1月15日、原告に対して、NTTドコモが原告との提携について検討を続けるか否かはジェイサットの関知するところではない旨を述べただけであり、原告が主張するような合意(本件合意)をした事実はない。また、ジェイサット(被告スカパーJSAT)は、NTTドコモに対して、原告との提携を妨害するような行為はしておらず、本件事業に関する営業、働きかけ等も一切していない。

  (8) 争点(8)(期待権侵害の成否)について

 〔原告の主張〕

 仮に本件業務提携契約等が成立していなかったとしても、原告はこれらの契約が締結されることは間違いないと期待し、契約締結の準備行為を行った。しかるに、ジェイサットは何ら合理的理由なく原告との合意を反故にして上記各契約を締結しなかったばかりでなく、合弁会社(被告JSATモバイル)を設立して原告の競合会社として営業活動を行っているものであり、被告が正当な事由なしに原告との上記各契約を締結しなかったことは、契約の成立に関する原告の期待権を侵害する不法行為に当たる。

 〔被告スカパーJSATの主張〕

 争う。ジェイサットは、原告との協力関係構築について、①本件秘密保持契約を締結し(同契約第9条1項では、本検討等と類似又は競合する他の検討を独自に又は第三者と共同で行うことができる旨が、同条2項では、秘密情報の開示及び受領並びに本検討の遂行は、その成果としてジェイサットと原告との間で売買・業務委託その他の契約の締結を約束するものではない旨がそれぞれ明記されている。)、②本件基本合意を締結し(タイトル及び第2条の内容からも明らかなとおり、出資の可否等を検討するに当たり、デューデリジェンスを実施する前提として締結された基本合意書である。)、③本件DDの実施と検討作業を進めていたが、④検討した結果、経営会議においてこれを行わない旨決定したというにすぎず(社内のしかるべき機関決定を経ない限り、本件業務提携契約等を締結できないのは当然である。)、ジェイサットに期待権侵害の不法行為などないことは明らかである。

  (9) 争点(9)(損害の発生及び額)について

 〔原告の主張〕

   ア 不正競争による損害(本件請求1、2、10、11に関し)

 被告らは、被告JSATモバイルの5年後のインマルサット第4世代衛星によるBGAN衛星通信事業の売上高は33億円、営業利益は4億円と公表している。同売上高に対する営業利益率を12.12%とし、6年目以降10年目までの売上高は毎年10%の延び率と仮定すると、被告JSATモバイルの10年間の利益額は、別紙「JSAT売上高・利益額一覧表」の「利益額」欄記載のとおり合計38億6143万2000円となり、これにライプニッツ係数を乗じて中間利息を控除した修正利益額は、同「原告の損害額」欄記載とおり合計27億8765万1872円となる。よって、同額を不競法5条2項により推定される原告の逸失利益の額と主張する。

 これに弁護士費用相当額の損害として2000万円を加えると、被告らの不正競争による原告の損害額は、合計28億0765万1872円となる。

   イ 本件DDを行ったこと又は中止しなかったことによる損害(本件請求3に関し)

 被告らは、原告の営業秘密である電気通信事業者登録申請のノウハウを利用して電気通信事業者の資格を取得し、営業を行っているが、同資格がなければ、被告らは本件事業を行うことができなかった。

 原告の5年間の売上利益は、海上自衛隊の入札に関するものが2億5824万0085円、警察庁の入札に関するものが9517万0824円、NTTコミュニケーションズに関するものが1億5240万円、テレビ朝日に関するものが6919万2020円(合計5億7500万2929円)であり、これに弁護士費用相当額の2000万円を加えると、原告の損害額は合計5億9500万2929円になる。

   ウ 本件秘密保持契約の債務不履行による損害(本件請求4に関し)

 被告らは、原告の営業秘密である電気通信事業者登録申請のノウハウを利用して電気通信事業者の資格を取得し、営業を行っているが、同資格がなければ、被告らは本件事業を行うことができなかった。

 原告の5年間の売上利益は、海上自衛隊の入札に関するものが2億5824万0085円、警察庁の入札に関するものが9517万0824円、NTTコミュニケーションズに関するものが1億5240万円、テレビ朝日に関するものが6919万2020円(合計5億7500万2929円)であり、ここから5年間の販売管理費及び一般管理費7042万5000円を差し引いた5億0457万7929円が原告の逸失利益の額になる。

   エ 本件業務提携契約の債務不履行による損害(本件請求5に関し)

 上記債務不履行による平成21年から平成25年までの5年間の原告の売上利益は、専用線サービスが10億2600万円、BGANサービス(陸上用、船舶用を含む。)が4億6090万円(合計14億8690万円)となり、ここから5年間の販売管理費及び一般管理費7042万5000円を差し引いた14億1647万5000円が原告の損害額になる。

   オ 本件資本提携契約の債務不履行による損害(本件請求6に関し)

 上記債務不履行がなければ、平成21年から平成25年までの5年間に原告の売上高は対前年比で毎年20%増加した。平成21年の原告の売上高は10億5199万円であるので、上記5年間の対前年度売上比率20%増加を前提とすると、上記5年間の売上高は80億7500万円となる。他方、上記20%の増加がない場合の上記5年間の売上高は52億6000万円となる。したがって、本件資本提携契約が履行されていれば、原告の売上高は5年間で28億1500万円増加したはずであり、利益率を31%とすると、これに対する原告の売上利益は8億7265万となる。ここから5年間の販売管理費及び一般管理費を差し引いた8億0225万5000円が原告の損害額になる。

   カ 営業権侵害の不法行為による損害(本件請求7に関し)

 ジェイサットとストラトス社が合弁会社である被告JSATモバイルを設立して海上自衛隊の入札に参加したため、原告はストラトス社からインマルサット専用回線の供給を受けられなくなり、海上自衛隊の入札において2億5824万0085円の損害を被った。また、原告はストラトス社から販売促進活動の費用負担及び販売協力活動を一切打ち切られたため、5年間で1500万円の損害を被った。さらに、原告は、本件サービスの一部をテレノア社より購入していたが、テレノア社は衛星通信サービスの購入量に応じて代理店に対する卸売価格を個別に決定しており、平均すると原告のストラトス社からの購入価格よりもテレノア社の最優待価格は6%低かった。したがって、ジェイサットが原告との共同事業を約束どおり行っていれば、原告は、ストラトス社との価格交渉により最低でもテレノア社の最優待価格で取引ができたものであり、ジェイサットの営業権侵害行為がなければ、原告は5年間で最低でも7325万円の値引きを受けることができたはずであるから、同額も原告の損害額に含まれる。以上合計3億4559万0085円(判決注:3億4649万0085円の違算と認める。)が原告の損害額になる。

   キ 原告とNTTドコモとの間の提携交渉を妨害した債務不履行による損害

 (本件請求8に関し)

 ジェイサットによる本件妨害等がなければ、原告はNTTドコモとの間で本件事業に関し業務提携等の契約を締結できたはずであり、これらの契約が締結されていれば、原告は平成21年から平成25年まで合計24億1282万4503円の売上利益を得ることができ、ここから5年間の販売管理費及び一般管理費7042万5000円を差し引いた23億4239万9503円が原告の逸失利益の額となる。

   ク 期待権侵害の不法行為による損害(本件請求9に関し)

 仮に本件業務提携契約等が成立していないとしても、原告はこれらの契約成立を信じて、本件DDを含む原告の調査に協力し、資料を提出したものであり、そのために多大な労力と時間と費用を費やした。かかる期待権侵害の不法行為により原告が被った損害は1億円が相当である。

 〔被告らの主張〕

 いずれも争う。

第3 当裁判所の判断

 1 本件請求1、2、10~12

  (1) 争点(1)(不正競争の有無)について

   ア 本件情報1~4につき

 原告が主張する本件情報1~3は、いかにして電気通信事業法9条所定の電気通信事業の登録申請及び電波法27条の5に基づく特定無線局の包括免許申請の各要件を満たすかに関する、いわば許認可申請のノウハウであり、原告が、「電気通信事業者の登録申請手続は原告が長年の衛星通信業界における経験と研究により原告が独自に考案した手続であるので不正競争防止法の営業秘密といえる」(平成23年1月31日付け原告準備書面(18)5頁8~10行目)、「上記資格(判決注:電気通信事業者としての資格)取得の手続き、包括免許(判決注:無線局の包括免許)取得手続きは原告の重要な営業秘密である」(平成24年2月29日付け原告準備書面(27)13頁19~20行目)などと主張していることからしても、原告の主張する営業秘密は、行政における許認可基準及びその手続に関する情報を指すものと解される。

 しかし、行政における許認可基準は、広く国民に開示されるべきものであり、行政庁がこれを公開せずに秘匿できる性質のものではない。そして、本件情報1、2は、いずれも登録電気通信事業者の資格取得要件に関する情報であり、その基準及び手続の概要は、総務省平成18年12月発行の「電気通信事業参入マニュアル」(乙3)に記載されて公開されており、記載されていない部分についても総務省に照会することにより取得することができた情報であると認められる。本件情報3は、電波法による特定無線局の包括免許申請の要件の一つである特定無線局に係る通信の制御に関する事項(無線局免許手続規則20条の8第2項3号)について、第3世代衛星サービスに関しては、インマルサット社からPSA資格の付与を受けることにより、第4世代衛星サービスに関しては、ストラトス社との間でサービスプロバイダ契約を締結することによりインターネット回線を通じて上記要件を満たすことができるとの情報であるが、これらの情報が衛星通信業界において非公知であったことを認めるに足りる的確な証拠はない(原告は、これらの情報が非公知であったことの根拠として、総務省が原告から説明〔甲62、109〕を受けるまでこれらの情報を知らなかったこと、原告とストラトス社(ザンティック社)との間のサービスプロバイダ契約〔甲82〕に秘密保持の定めがあり、他社においてこれを知ることができなかったことを主張する。しかし、たとえこれを総務省が知らなかったとしても、それだけで非公知の情報になるわけではなく、それゆえに総務省が申請内容について秘匿すべき義務を負うものではない。また、原告とストラトス社(ザンティック社)との間のサービスプロバイダ契約に守秘義務の定めがあったとしても、同契約の内容にとどまらず、ストラトス社(ザンティック社)との間で同様の契約を締結することによりインターネット回線を通じて上記要件を満たすことができるという点〔この点は、上記包括免許申請の要件に係る情報であり、非公開とすべきものではない。〕についてまで守秘義務が及ぶものと解することはできず、非公知であったということはできない。したがって、原告の主張を前提にしても、これらの情報が非公知であったと認めることはできず、ほかにそのように認めるべき的確な証拠はない。)。

 また、本件情報4は、原告とストラトス社との間のサービスプロバイダ契約におけるサービス料金が従量制であるとの情報であるが、同情報も、衛星通信業界では一般的に知られていた情報であったと認められる(乙41~43、弁論の全趣旨)。

 したがって、本件情報1~4は、非公知性を認めることができず、その余の点について検討するまでもなく、不競法2条6項の営業秘密には当たらない。

   イ 本件各情報につき

 本件各情報については、これらの情報が秘密として管理されていたことを認めるに足りる的確な証拠がない(原告は、本件情報1~5については、情報が記載された契約書は鍵の掛かった引き出しに保管されており、総務部長によって管理され、原告の代表取締役、総務部長の許可なく同契約書にアクセスできないように管理されていた、本件情報6、8については、会計ソフトに入力され電子化された総勘定元帳、勘定科目内訳書が経理用サーバに保管され、経理用サーバは経理課の担当者のみがアクセスできることになっており、ID番号及びパスワードによりアクセスが管理されていた、本件情報7については、原告の顧客別の営業報告書(甲79)に記載され、同報告書はサーバに入力保管されてり、原告の従業員のみがID番号とパスワードでアクセスできる仕組みとなっていたなどと主張するが、いずれも、被告らによる不正競争があったとされる当時、原告において上記の管理方法が実際に行われていたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、採用することができない。)。

 したがって、本件各情報は、少なくとも秘密管理性が認められず、不競法2条6項の営業秘密には当たらない。

   ウ 仮に本件各情報に営業秘密性が認められたとしても、本件情報1~3、7のうち「予算」に関する情報をジェイサットが取得した事実を認めるに足りる証拠はない(なお、本件情報5に関し、ジェイサットが原告から前記甲58、60、112~115の2の各契約書の開示を受けたと認めるに足りる証拠もない。)。また、その余の情報についても、ジェイサットが詐欺その他の不正な手段で取得したと認められないことは後記2のとおりである。そして、ジェイサットは、平成20年2月1日付けで、本件基本合意に基づいて原告から提供を受けた本件DDに関連する資料一式及び本件財務DDに関する報告書を原告に返還し、原告もこれを確認の上、受領している(乙9)が、その後もジェイサットないし被告スカパーJSATが本件各情報が記載された資料等を保有し、これを被告JSATモバイル及び衛星ネットワークに開示したり、自らの営業活動に使用したりした事実を認めるべき的確な証拠はない。この点につき原告が種々主張するところは、いずれも憶測の域を出るものではなく、採用することはできない。

   エ したがって、原告が主張する被告らの不正競争は、いずれも認めることができない。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求1、2、10~12は理由がない。

 2 本件請求3

  (1) 争点(2)(不法行為の成否-本件DDの違法性)について

   ア 前記第2の2の前提事実に後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

 (ア) 原告とジェイサットとの交渉経過

  a ジェイサットは、平成19年6月頃、原告に対し、ジェイサットが原告に資本参加して資本提携し、原告が提供を受けるBGANサービスを更にジェイサットが提供を受け、これをジェイサット及びNTTドコモが顧客に販売するという業務提携等の申入れ(本件申入れ)を行った。(甲15、42、争いのない事実、弁論の全趣旨)

  b 原告とジェイサットは、平成19年6月19日、本件秘密保持契約を締結し、互いの営業秘密を開示すること、営業秘密の保持、衛星移動体サービスの協力関係構築に関する検討の目的以外の上記営業秘密の使用禁止等を合意した。また、同契約第9条では、契約の有効期間中も、両社が上記検討と類似又は競合する他の検討を独自に又は第三者と共同で行うことができること、本契約に基づく秘密情報の開示、受領及び上記検討の遂行は、その成果として両者間における売買・業務委託その他の契約の締結を約束するものではないことが定められていた。(甲16、弁論の全趣旨)

  c その後、原告とジェイサットとの間では、出資比率に関する交渉等が行われ、両社は、平成19年10月1日付けで、出資検討に関する基本合意書(甲19)を取り交わし、原告に対するジェイサットの出資比率(34%)の検討をすること、原告が独占的交渉権をジェイサット及びNTTドコモに与えること、原告がジェイサットの実施するデューデリジェンス(本件DD)に協力すること等を合意した(本件基本合意)。また、交渉の有効期間は6か月とされ、本件DD等の株価算定に必要な作業を実施した後に、出資金額及び出資日を確定して最終合意を行うものとされた。(甲19、争いのない事実)

  d ジェイサットは、本件基本合意につき経営会議の了承を経て、平成19年10月4日、原告に対し、法務デューデリジェンスに係る各資料の提出を要請し、本件DDを開始した。本件財務DDは、デューデリジェンス社が、本件法務DDは、柳田・野村法律事務所の所属弁護士がそれぞれ担当することとなった。本件財務DDは、同年11月9日から同月16日までの間、デューデリジェンス社の担当者が原告の会社を訪れ、財務調査を行い、同月27日、本件財務DDに関する報告書をジェイサットに提出して完了した。他方、本件法務DDについては、上記弁護士が原告の会社を訪れて、ヒアリングを行ったり、必要な資料の提出を求めたりして調査を行ったものの、ジェイサットの指示により、同年12月3日をもって中断し、そのまま中途で終了した。(甲21、31、32、136、乙54、証人A、弁論の全趣旨)

  e ジェイサットは、平成19年12月12日、経営会議において、後記(イ)のとおり本件申入れと並行して検討を進めていたストラトス社との合弁会社設立について同社と基本合意を締結することを承認し、他方、本件申入れについては、官公庁の入札スケージュールとの関係で、当面の間、原告から本件サービスを購入して再販売せざるを得ないとして交渉を継続することも検討されたが、最終的に凍結することが決定された。(乙31、38、54、証人A、弁論の全趣旨)

  f ジェイサットは、平成20年1月15日、ストラトス社のアジア太平洋地域担当副社長も出席したジェイサット本社における会議で、原告代表者に対し、原告との資本参加の最終合意書の締結はできない、ジェイサットはストラトス社と合弁会社を設立する旨の説明をした。(乙32、34~36、争いのない事実)

 (イ) ジェイサットとストラトス社との交渉経過

  a 他方、本件事業に関し、ストラトス社との提携も視野に入れていたジェイサットは、平成19年9月18日、シンガポールで開催された移動体衛星通信サービスに関する国際会議に参加した際、Aにおいて現地でストラトス社のアジア太平洋地域担当副社長と会談し、協力関係構築の見込みについて双方持ち帰って検討することを合意した。(乙54、証人A、弁論の全趣旨)

  b その後、ジェイサットは、公共ビジネス事業部において、ストラトス社と共同事業を行うことについての検討を進め、同年10月頃、再度、ストラトス社に協議を打診し、同年11月5日から翌6日にかけて、ジェイサットの本社においてジェイサットとストラトス社との第1回目の会議が行われた。同会議では、ジェイサットが提案したジェイサットがストラトス社に出資するスキームやジェイサットとストラトス社が共同で合弁会社を設立するスキームについて意見交換が行われ、両スキームについて双方とも更に検討を深めることを確認して同会議は終了した。(乙54、証人A、弁論の全趣旨)

  c ジェイサットは、平成19年11月30日、公共ビジネス事業部においてストラトス社との間で合弁会社の設立に関する検討を開始するための基本合意書(MOU)を締結する方針を固めて、方針稟議を立案し、同稟議は、同年12月12日開催の経営会議において、原案どおり了承された。これに先立ち、ジェイサットは、今後、ストラトス社との合弁会社設立を主として検討を進める可能性が出てきたことから、柳田・野村法律事務所に対し、同月3日をもって本件法務DDの中止を指示していた。(乙31、38、54、証人A、弁論の全趣旨)

  d その後、ジェイサットは、平成20年2月27日にストラトス社との間で上記基本合意書を締結して、同社との間で合弁会社設立に関する本格的な交渉を開始し、同年8月8日、ジェイサットの単独出資により被告JSATモバイルが設立された。同被告は、同月21日付け合弁契約(乙39)により、ストラトス社からの出資を得て、ジェイサットとストラトス社の合弁会社となった。(乙39、54、証人A、弁論の全趣旨)

  e 被告JSATモバイルは、平成21年1月8日、電気通信事業の登録を申請し、同月29日、その登録を受けた。また、同被告は、平成20年12月10日、特定無線局の包括免許を申請し、平成21年2月17日、その免許を取得した。(乙52、53、弁論の全趣旨)

   イ 上記認定のとおり、ジェイサットが原告に対し本件DDの実施を要請した平成19年10月4日の時点ではジェイサットは原告との間で業務提携等に関する交渉を継続しており、同社が原告との業務提携等を凍結することを決定したのは同年12月12日の経営会議においてであること、他方、ジェイサットがストラトス社との間で合弁会社設立を含む共同事業に関する具体的な交渉を開始したのは同年11月5日であり、ストラトス社との間で合弁会社設立に関する検討を開始するための基本合意書を取り交わしたのは平成20年2月27日であること等の事実関係に照らせば、ジェイサットが、本件DDを開始した平成19年10月5日の時点、あるいは同年11月5日の時点で、既に原告との業務提携等の中止を決定していたと認めることはできない。また、ジェイサットが原告との業務提携等を凍結することを決定した同年12月12日の上記経営会議に先立って本件法務DDを中止していたこと、同時点で既に本件財務DDが完了していたことは前記認定のとおりであり、同年10月5日又は同年11月5日の時点で、ジェイサットが原告との業務提携等の中止を既に決定していたと認めることはできず、また、同決定をした後これを秘して本件DDを継続したということもできない。したがって、本件DDが詐欺による営業秘密取得行為であり不法行為に当たるとする原告の主張は、その前提を欠いており、採用することができない。

  (2) 以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、本件請求3は理由がない。

 3 本件請求4について

  (1) 争点(3)(秘密保持契約違反の有無)について

 原告は、ジェイサットは、本件秘密保持契約に反して原告から取得した本件各情報を第三者である被告JSATモバイル及び衛星ネットワークに開示したと主張する。

 しかし、ジェイサットが、平成20年2月1日付けで、本件基本合意に基づいて原告から提供を受けた本件DDに関連する資料一式及び本件財務DDに関する報告書を原告に返還しており、原告もこれを確認の上、受領していること、他方、ジェイサットないし被告スカパーJSATがその後も本件各情報が記載された資料等を保有し、これを被告JSATモバイル及び衛星ネットワークに開示したり、自らの営業活動に使用したりした事実を認めるべき的確な証拠がないことは前示のとおりである。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求4は理由がない。

 4 本件請求5

  (1) 争点(4)(本件業務提携契約の成否)について

   ア 原告は、平成19年8月7日、原告代表者Xとジェイサット代表者Yとの間で、口頭で本件業務提携契約が成立したと主張し(主位的主張)、その根拠として、①ジェイサットは、同時点で既にアクセンチュアにより事業デューデリジェンス(本件ヒアリング調査)を行い、本件事業の全容を把握していたこと、②契約成立の翌日である同月8日に行われたサテマガB1株式会社発行の雑誌「B-maga」の座談会においてジェイサットのAがXの面前でインマルサット第4世代衛星によるBGAN事業を原告と共同で行うことになったと発言していること、③同年10月より原告とジェイサットが共同して平成20年度海上保安庁入札案件等の入札準備を開始したこと等を指摘する。

 しかしながら、上記①については、アクセンチュアによる本件ヒアリング調査は、飽くまで本件事業の内容や市場分析、ビジネススキームについて原告に対する簡単なヒアリング調査を行ったものにすぎず、その作成日付けは、本件業務提携契約が成立したとされる同年8月7日より後の同月10日付けであり、調査の結果ジェイサットに提出された資料もスライドにしてわずか13枚程度のものである(甲18)ことからすると、同調査を業務提携契約の前提として行われた本格的なデューデリジェンスと位置づけることは困難である。また、上記②については、原告が主張する座談会が掲載された雑誌「B-maga」2007年9月号(甲14)によれば、Aの発言は、「……そこで、移動体通信衛星を保有しているインマルサットと協業関係を構築し、サービス提供を行う検討を開始しました」というものにすぎず、原告とジェイサットが共同事業を行うことを正式発表したというような内容のものとは認められない。さらに、上記③については、確かに、当時、原告とジェイサットが、業務提携等に先んじて一部個別の取引を共同で行うことの検討を行っていたことがうかがわれるものの(甲36、68~72)、そのやり取りの中ですら、「まだ、御社(判決注:原告)と弊社(判決注:ジェイサット)の契約や出資が正式なものとなっていない段階」(甲68)であることが前提とされており、飽くまで業務提携等とは別の個別案件にすぎないとの位置付けであったことが明らかである。したがって、これらの点をもって、原告とジェイサットとの間に本件業務提携契約が成立していたことの証左とみることはできない。

 そもそも、本件事業における業務提携等のような企業同士の規模の大きいプロジェクトについて、相手方の信用等に対する本格的な調査や、提携の内容、条件についての具体的交渉を行うことなく、また、しかるべき社内手続を経ることなく(原告が主張する同年8月7日時点までにこれらの調査、交渉及び社内手続が原告及びジェイサットの双方で行われたことを認めるに足りる証拠はない。)、いきなり代表者同士の交渉で、しかも、文書を作成することなく口頭で正式合意に至ることは、経験則上にわかに考え難く、前記認定の原告とジェイサットの交渉経過に照らしても疑問がある。そして、ほかに同時点で原告とジェイサットとの間に本件業務提携契約が成立したと認めるに足りる的確な証拠はない。

   イ 原告は、遅くとも本件資本提携契約が成立した平成19年10月4日には上記内容の本件業務提携契約が成立したとも主張する(予備的主張)。

 しかしながら、そもそも本件資本提携契約の成立が認められないことは後記5のとおりであり、ほかに同日、原告とジェイサットとの間で本件業務提携契約が成立したと認めるに足りる的確な証拠はない。

   ウ したがって、本件業務提携契約の成立を認めることはできず、これに反する原告の主張は採用することができない。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求5は理由がない。

 5 本件請求6

  (1) 争点(5)(本件資本提携契約の成否)について

 原告は、平成19年9月11日、原告とジェイサットとの間でジェイサットとNTTドコモの出資比率を34%とする内容の合意がなされ、同年10月4日、ジェイサットの経営会議が本件基本合意を了承したことにより、原告・ジェイサット間に本件資本提携契約が成立した(主位的主張)、仮にそうではなかったとしても、同日、本件DDの結果に問題がなければとの解除条件付きで本件資本提携契約が成立し、その後、本件DDの結果については何ら問題がなかったので、条件が成就しないことが確定した(予備的主張)と主張する。

 しかし、前記認定の本件基本合意の内容、すなわち、原告に対するジェイサットの出資比率の検討をすること、原告が独占的交渉権をジェイサット及びNTTドコモに与えること、原告がジェイサットの実施するデューデリジェンス(本件DD)に協力すること等についての合意であり、しかも、交渉の有効期間が定められ、本件DD等の株価算定に必要な作業を実施した後に、出資金額及び出資日を確定して最終合意を行うものとされていることによれば、本件基本合意は、飽くまで出資を実行するか否かの検討をする前提として、原告に対するジェイサットの出資比率の検討をすること、原告が独占的交渉権をジェイサット及びNTTドコモに与えること、原告がジェイサットの実施するデューデリジェンスに協力すること等を合意したにとどまり、原告に対する出資を確約したものと認めることはできない。また、上記経営会議の了承も、飽くまでかかる内容の基本合意を締結することについての了承にとどまるものであること、本件基本合意に基づく出資検討の過程において、本件財務DDは完了したものの、本件法務DDはジェイサットの指示により中断し、最終的な結果報告に至ることなく終了していることは、いずれも前記認定のとおりである。加えて、そもそも本件事業における業務提携等のような企業同士の規模の大きいプロジェクトにおいて、資本参加の内容や条件(具体的な出資金額、役員派遣、保有株式の譲渡制限、出資比率の維持等)について詳細を詰めることなく、わずか出資比率の点についての検討のみで、いきなり提携自体の正式合意に至るとは、経験則上にわかに考え難く、ほかに同日、原告とジェイサットとの間で本件資本提携契約が成立したと認めるに足りる的確な証拠はない(解除条件付きの本件資本提携契約についても同様である。)。

 したがって、本件資本提携契約の成立を認めることはできず、これに反する原告の主張は採用することができない。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求6は理由がない。

 6 本件請求7

  (1) 争点(6)(営業権侵害の成否)について

 原告は、ジェイサットとストラトス社との合弁会社である被告JSATモバイルの設立以降は、同被告よりも不利な条件でストラトス社と取引を行わざるを得なくなり、実質上、原告の重要な営業権である本件サービスプロバイダ契約が被告JSATモバイルの設立により侵害されたと主張する。

 しかしながら、そもそも本件サービスプロバイダ契約が日本における本件サービスの提供に関し原告に排他的、独占的な権利を与えたものであるとは認められず(甲82)、ほかに原告がストラトス社からそのような排他的、独占的な権利を与えられていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、原告とジェイサットとの間で締結された本件秘密保持契約においても、契約の有効期間中、両社が上記検討と類似又は競合する他の検討を独自に又は第三者と共同で行うことができる旨が定められていたことは前記認定のとおりであり、ほかに両社間でジェイサットがストラトス社との間で合弁会社の設立を行うことを制限するような合意をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

 したがって、被告JSATモバイルの設立をもって原告の営業権を侵害する不法行為であるということはできず、これに反する原告の主張は採用することができない。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求7は理由がない。

 7 本件請求8について

  (1) 争点(7)(本件合意及び本件妨害等の有無)について

 原告は、原告とNTTドコモとの間の提携交渉は、平成20年6月までは順調に推移しており、通常であればそのまま提携が成立していたにもかかわらず、これが成立しなかったのは、ジェイサット(被告スカパーJSAT)が、本件合意に反して、NTTドコモに対し、ジェイサットが本件事業を開始することが可能になったので、ジェイサットとの間で業務提携契約を締結し、ジェイサットより本件サービスを購入して欲しいとの交渉(本件妨害等)を行ったからであると主張する。

 しかしながら、ジェイサット(被告スカパーJSAT)がNTTドコモに対し原告が主張する本件妨害等を行ったり、あるいは、原告とNTTドコモとの間の提携交渉を阻害するような何らかの働きかけをNTTドコモに行ったりした事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

 したがって、原告とNTTドコモとの間の提携交渉が成立に至らなかった原因がジェイサットにあるとは認められず、これに反する原告の主張は採用することができない。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求8は理由がない。

 8 本件請求9について

  (1) 争点(8)(期待権侵害の成否)について

 原告は、仮に本件業務提携契約等が成立していなかったとしても、原告はこれらの契約が締結されることは間違いないと期待し、契約締結の準備行為を行ったものであり、被告が正当な事由なしに原告との上記各契約を締結しなかったことは、契約の成立に関する原告の期待権を侵害する不法行為に当たると主張する。

 しかしながら、原告とジェイサットとの間の交渉経過は前記認定のとおりであり、①原告とジェイサットが業務提携等の交渉をする前提として締結した本件秘密保持契約においては、契約の有効期間中も、両社が上記検討と類似又は競合する他の検討を独自に又は第三者と共同で行うことができること、本契約に基づく秘密情報の開示、受領及び上記検討の遂行は、その成果として両者間における売買・業務委託その他の契約の締結を約束するものではないことが定められていたこと、②その後締結した本件基本合意も、飽くまで出資を実行するか否かの検討をする前提として、原告に対するジェイサットの出資比率の検討をすること、原告が独占的交渉権をジェイサット及びNTTドコモに与えること、原告がジェイサットの実施するデューデリジェンスに協力すること等を合意したにとどまり、原告に対する出資を確約したものではないことからすれば、たとえ原告が本件業務提携契約等が成立するとの期待を抱いたとしても、かかる期待は事実上のものにすぎず、法律上保護されるものとはいえない。

  (2) 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件請求9は理由がない。

 9 結論

 以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。