知財高裁平成24年2月8日判決〔一致点と相違点の認知の誤りと審決取消事由〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 発明の名称を「電池式警報器」とするYらの本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした本件審決には、取消事由があるとXが主張して、その取消しを求めた事案である。

2 本件審決の理由は、要するに、本件発明1ないし4は、①引用例1に記載された発明と、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない、②引用例2に記載された発明と、引用例3又は引用例1に記載された発明と、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない、としたものである。

3 本件裁判所は、「本件審決は、本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあり、この点において、原告の上記主張には理由があるといわざるを得ない。」としつつ、「しかしながら、特許無効審判を請求する場合における請求の理由は、特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定しなければならないところ(特許法131条2項)、同法29条2項の規定に違反して特許されたことがその理由とされる場合に審判及び審決の対象となるのは、同条1項各号に掲げる特定の発明に基づいて容易に発明することができたか否かである。よって、審決に対する訴えにおいても、審判請求の理由(職権により審理した理由を含む。)における特定の引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたか否かに関する審決の判断の違法性が、審理及び判断の対象となると解するべきである。また、そう解することにより、審決の取消しによる特許庁と裁判所における事件の往復を避け、特許の有効性に関する紛争の一回的解決にも資するものと解されるのである。したがって、対象となる発明と特定の引用例に記載された発明との一致点及び相違点についての審決の認定に誤りがある場合であっても、それが審決の結論に影響を及ぼさないときは、直ちにこれを取り消すべき違法があるとはいえない。」とした。

その上で、本件裁判所は、本件について「これを本件についてみると、本件審決において、本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあることは、上記のとおりであるが、前記のとおり、本件発明は、引用発明1に基づいては容易に発明することができないものであり、上記認定の誤りは、結局審決の結論に影響を及ぼさないものであって、本件審決に取り消すべき違法があるとはいえない。」した。

4 本件発明と引用発明の一致点、相違点の認定の誤りのみが独立の取消事由とすると、特許庁と裁判所の無断なキャッチボールを生むことになり妥当ではない。

特定の引用発明から本件発明を容易に想到することができたか否かという、無効理由毎に、取消事由を構成するべきであり、知財高裁も同様の考え方をとるものとして参考になる。

主文

 原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。 

事実及び理由

第1 請求

 特許庁が無効2010-800120号事件について平成23年4月6日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

 本件は、原告が、下記1のとおりの手続において、被告らの下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について、特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には、下記4のとおりの取消事由があると主張して、その取消しを求める事案である。

 1 特許庁における手続の経緯

  (1) 本件特許

 被告らは、平成14年7月16日、発明の名称を「電池式警報器」とする特許出願(特願2002-207418)をし、平成18年12月22日、設定の登録(特許第3895646号)を受けた。以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る明細書(甲10)を「本件明細書」という。

  (2) 原告は、平成22年7月14日、本件特許の請求項1ないし4に係る特許(以下、順に、請求項1記載の発明を「本件発明1」などといい、これらを併せて「本件発明」という。)について、特許無効審判を請求し(甲11)、無効2010-800120号事件として係属した。

  (3) 特許庁は、平成23年4月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の本件審決をし、同月15日、その謄本が原告に送達された。

 2 本件発明の要旨

 本件発明の要旨は、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである。文中の「/」は、原文の改行部分を指す。

 【請求項1】 電池によって稼働し、監視領域の異常を検出して警報を発する電池式警報器であって、/前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視する電圧監視手段と、/前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に、当該電圧の低下を報知するために点灯または点滅する表示灯手段と、/前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を前記監視領域の利用者から受け付ける確認要求受付手段と、/前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、前記確認要求受付手段によって前記確認要求を受け付けたときに、前記電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを前記監視領域に出力する音声出力手段と、/を備えたことを特徴とする電池式警報器

 【請求項2】 電池によって稼働し、監視領域の異常を検出して警報を発する電池式警報器であって、/前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視し、当該電圧が所定の電圧以下に低下すると、当該電圧の低下を示す電圧低下信号を出力する電圧監視手段と、/前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を前記監視領域の利用者から受け付けて、当該確認要求の受付を示す確認信号を出力する確認要求受付手段と、/前記電圧監視回路によって出力された前記電圧低下信号を受け入れることを条件として、前記電圧の低下を報知するために点灯または点滅する表示灯手段と、/前記電圧監視手段によって出力された前記電圧低下信号の入力を受け付けると共に、前記確認要求受付手段によって出力された前記確認信号の入力を受け付けた場合には、前記電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを前記監視領域に出力する音声出力手段と、を備え、/更に前記確認要求受付手段は、前記確認要求のみならず、前記異常の検出を試験するための試験要求を前記利用者から受け付けるものであって、前記確認要求を受け付けた場合には、当該確認要求の受付を示す確認要求受付信号を出力し、前記試験要求を受け付けた場合には、前記異常の検出を試験するために用いられる試験信号を出力すること、/を特徴とする電池式警報器

 【請求項3】 前記電圧監視手段は、前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している間、前記電圧低下信号を継続的に出力し、/前記音声出力手段は、前記確認信号が入力された時点で前記電圧低下信号が入力されている場合に、前記音声メッセージを出力すること、/を特徴とする請求項2に記載の電池式警報器

 【請求項4】 前記電圧監視手段は、前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に、前記電圧低下信号を出力することによって前記音声出力手段にフラグを立たせ、/前記音声出力手段は、前記確認信号が入力された時点で前記フラグが立っている場合に、前記音声メッセージを出力すること、/を特徴とする請求項2に記載の電池式警報器

 3 本件審決の理由の要旨

  (1) 本件審決の理由は、要するに、本件発明1ないし4は、①下記アの引用例1に記載された発明と、下記イないしカに記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない、②下記イの引用例2に記載された発明と、ウの引用例3又はアの引用例1に記載された発明と、下記オないしクに記載された周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない、としたものである。

   ア 引用例1:国際公開第99/08246号(甲5)

   イ 引用例2:米国特許5686896号明細書(平成9年(1997年)11月11日特許。甲7)

   ウ 引用例3:実願昭59-156724号(実開昭61-74765号)のマイクロフィルム(甲2)

   エ 周知例1:特開昭61-39195号公報(甲9)

   オ 周知例2:実願平4-40928号(実開平5-92892号)のCD-ROM(甲3)

   カ 周知例3:特開2002-74547号公報(甲4)

   キ 周知例4:特開平5-282572号公報(甲6)

   ク 周知例5:実公昭63-19912号公報(甲8)

  (2) なお、本件審決は、その判断の前提として、引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)、本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点を、以下のとおり認定した。

   ア 引用発明1:バッテリ駆動式で、大気中の一酸化炭素及び煙の存在を検出して警報を発する検出装置であって、バッテリが運転を維持するのに十分な容量を有していることを確認する低電圧検出回路と、前記低電圧検出回路によってバッテリが運転を維持するのに十分な容量を有していない場合に、LOW BATTERYフラッグをセットし、この状態をユーザに示す手段と、ユーザが押すとバッテリレベルが低であるか否か検出できるテスト/サイレンスボタンと、ユーザが前記テスト/サイレンスボタンを押した後にバッテリレベルが低であることを検出すると黄色LEDをオンにすると共に、煙アラームをシミュレートして煙アラームパターンを発声し、次に、一酸化炭素アラームをシミュレートして一酸化炭素アラームホーンパターンをオンにする手段と、を備える検出装置

   イ 一致点:電池によって稼働し、監視領域の異常を検出して警報を発する電池式警報器であって、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視する電圧監視手段と、を備えた電池式警報器

   ウ 相違点1:本件発明1は、電圧監視手段によって監視された電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に、当該電圧の低下を報知するために点灯または点滅する表示灯手段を有しているのに対し、引用発明1は、低電圧検出回路によってバッテリが運転を維持するのに十分な容量を有していない場合に、LOW BATTERYフラッグをセットし、この状態をユーザに示す手段を有している点

   エ 相違点2:本件発明1は、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を監視領域の利用者から受け付ける確認要求受付手段を有しているのに対し、引用発明1は、ユーザが押すとバッテリレベルが低であるか否か検出できるテスト/サイレンスボタンを有している点

   オ 相違点3:本件発明1は、電圧監視手段によって監視された電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、確認要求受付手段によって確認要求を受け付けたときに、電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを監視領域に出力する音声出力手段を有するのに対し、引用発明1は、ユーザがテスト/サイレンスボタンを押した後にバッテリレベルが低であることを検出すると黄色LEDをオンにすると共に、煙アラームをシミュレートして煙アラームパターンを発声し、次に、一酸化炭素アラームをシミュレートして一酸化炭素アラームホーンパターンをオンにする手段を有する点

  (3) また、本件審決は、引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)、本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点を、以下のとおり認定した。

   ア 引用発明2:バッテリで作動し、住宅又は施設の煙をセンシングして警報状態とする煙検出器であって、低バッテリ状態を監視するバッテリ状態検出回路と、前記バッテリ状態検出回路によって監視されたバッテリの電圧が低バッテリ状態の場合に、当該低バッテリ状態を通知するために点滅する煙センサの発光ダイオードと、前記バッテリ状態検出回路に接続されたバッテリ状態サンプリング保持回路からの出力を受信すると所定時間のカウントを開始する遅延回路と、前記遅延回路が所定時間カウントしても低バッテリ状態の場合に警告音を発する音声サイレンと、を備えた煙検出器

   イ 一致点:電池によって稼働し、監視領域の異常を検出して警報を発する電池式警報器であって、前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視する電圧監視手段と、前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に、当該電圧の低下を報知するために点灯または点滅する表示灯手段と、を備えたことを特徴とする電池式警報器

   ウ 相違点:本件発明1は、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を監視領域の利用者から受け付ける確認要求受付手段と、電圧監視手段によって監視された電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、確認要求受付手段によって確認要求を受け付けたときに、前記電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを監視領域に出力する音声出力手段を有しているのに対し、引用発明2は、バッテリ状態検出回路に接続されたバッテリ状態サンプリング保持回路からの出力を受信すると所定時間のカウントを開始する遅延回路と、前記遅延回路が所定時間カウントしても低バッテリ状態の場合に警告音を発する音声サイレンを有する点

 4 取消事由

  (1) 引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1)

   ア 一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1-1)

   イ 相違点3に係る判断の脱漏(取消事由1-2)

   ウ 容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1-3)

  (2) 引用発明2に基づく容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)

   ア 引用発明1の認定の誤り(取消事由2-1)

   イ 容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2-2)

第3 当事者の主張

 1 取消事由1-1(一致点及び相違点の認定の誤り)について

 〔原告の主張〕

  (1) 本件発明1の解釈論における一致点の認定不足・相違点の認定の誤り

   ア 本件発明1の解釈の誤り

 本件審決は、本件発明1の「確認要求受付手段」及び「音声出力手段」の発明特定事項に関して、特許請求の範囲に記載のない以下の解釈を前提として、引用発明1との一致点・相違点の認定を行っており、その認定に誤りがある。

 (ア) 本件発明1の確認要求受付手段は、単なる電池電圧検査用手段ではなく、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を監視領域の利用者から受け付ける手段である。

 (イ) 上記のような構成・使用方法が前提であるから、確認要求は、電圧監視手段の電池電圧低下検知に基づく表示灯手段の点灯又は点滅を利用者が見て、この表示灯手段の点灯又点滅の意味内容、すなわち電池電圧の低下で間違いないか確認するための要求である。

 (ウ) 電圧低下信号が入力されているときに確認信号が入力されることによって音声メッセージを出力しているから、音声出力手段は、確認要求が入力される前に電圧監視手段からの電圧低下信号が入力されていなければ、構成要件を充足しない。

   イ 使用方法に基づいた「確認要求」の解釈論の誤り

 (ア) 特許請求の範囲の記載について

 本件発明1は、「電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認」する要求を「確認要求」と定義しており、「表示灯手段」の異常報知を受けた要求であるとは何ら特定しておらず、かつ、利用者側の使用方法を限定して、それ以上の「要求」に限定する記載もない。

 物の発明である以上、経時的要素や手順をもって発明特定事項とすること自体が、通常あり得ない解釈論であり、本件審決の認定は、構成・機能をもって解釈すべき物の発明の解釈論から離れた特異な認定である。

 よって、特許請求の範囲の記載において、「確認要求受付手段」につき、「前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための要求」を受け付ける手段である以上の限定を伴う構成がないことは、明らかである。

 (イ) 出願経過について

 本件特許の出願過程においては、表示灯手段が事前点灯しているか否かを判断すべき構成が明細書に記載されていない事項であるとして、特許法36条6項1号違反の拒絶理由が通知され(甲25の23)、これを受けて、被告らは、補正を行い(甲25の25)、特許登録されたものである。

 したがって、本件審決の上記ア(ア)及び(イ)の解釈論は、本件特許の出願経緯にも全く沿わない本件審決独自の使用方法を前提とするものである。

   ウ 「確認要求受付手段」に関する本件発明1の解釈の誤りの結論

 以上の誤りは、引用発明1との間で本来一致点となるべき「テスト/サイレンスボタン」に関する相違点2を認定しており、結論に影響を及ぼすべき違法がある。

   エ 「確認要求」の前後における電池の電圧低下を問題視する「音声出力手段」に関する解釈論の誤り

 (ア) 請求項1に関する特許請求の範囲の記載について

 本件発明1は、「音声出力手段」に関して、その請求項1において、「前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、前記確認要求受付手段によって前記確認要求を受け付けたときに、前記電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを前記監視領域に出力する音声出力手段」として特定されるものであって、各「前記」の記載は、それぞれの対象の構成要素にかかっており、「前記場合であって」と特定されていない以上、本件審決の理由は、特許請求の範囲の記載において成り立たない。

 本件審決がその理由に取り上げる「…の場合であって、かつ、…のとき」との表記についても、当該表記は、通常であれば、単なる両条件が揃った「AND」処理に係る情報処理を意味するだけであり、条件設定に関する情報入力の先後を問題視すべき発明特定事項ではない。

 特許請求の範囲の記載順序とは逆に、「確認要求を受け付けた場合であって、かつ、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているとき」と特定されていれば、物の発明であることを除けば、日本語の解釈として本件審決が示した経時的な制約のある文言解釈があり得ないとはいえないが、本件発明1において「とき」として特定されているのは「確認要求を受け付けた」か否かの「とき」であり、「電池の電圧が所定の電圧以下に低下している」か否かの「場合」ではない。

 (イ) 「…の場合で、かつ、…のとき」との日本語の解釈について

 「…の場合で、かつ、…のとき」に関する本件審決とは逆の上記解釈が日本語としても自然であることは、同一審判体が本件発明1について示した第1次審決(甲24)においても裏付けられる。

 (ウ) 発明の詳細な説明の記載について

  a 課題解決においても使用方法においても、何ら差異が生じないこと

 本件審決が強調する当該課題の解決にとって「確認要求」前のときの「電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合」であるか否かを判断することと、「確認要求」後のときの「電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合」であるか否かを判断することとの間で、上記課題解決において何らの差異も生じない。

  b 実施例の技術内容が本件審決の発明の理解と矛盾していること

 本件発明1の課題解決にとっては、両方の条件が揃えば足りるものであり、各条件の時間的な入力の先後は、その技術的意義において問題になることもなければ、実施例の技術内容においても確保されていない事項であり、本来の発明の解釈論に当たって、公知技術との間の相違点とすべき根拠になるはずもない。本件審決は、本件発明1の解釈に当たって、実施例の「ブロック図」をあたかも回路図と同視した上、図面から読み取ったとする極めて些末な技術的事項をもって、発明の本質論であるかのように解釈論に持ち込んだものである。

   オ 「音声出力手段」に関する発明の解釈論の誤りの帰結

 以上のとおり、本件審決が、本件発明1の「音声出力手段」に関して示した「確認要求」の前に入力された電池の電圧低下信号に基づいて音声出力されなければならないという解釈の誤りは、「音声出力手段」に関して、これを「電池交換を促す内容を含んだ音声メッセージ」との相違点以外にまで相違点3の範囲を広げ、正しく一致点と認定しないとの誤りをもたらしたものである。

   カ 小括

 本件審決は、本件発明1の解釈論の誤りによって、引用発明1と本件発明1との対比を誤り、さらに、引用例3及び周知例1の技術的事項との組合せの検討をしないとの判断の脱漏に至ったものである。

  (2) 引用発明の認定による一致点の認定不足・相違点の認定の誤り

   ア 引用発明1の使用手順が本件発明1と同様になることの位置付け

 本件審決は、本件審決が独自に想定した引用発明1の使用手順をもって、相違点2を認定し、本件発明1との一致点にならない理由としている。さらに、当該使用手順に差異があることを実質的な理由の一つとして、相違点3の認定を行っている。

 引用発明1の内容及び通常の使用手順を考えれば、本件審決の一致点の認定は不足しており、その相違点の認定は誤りである。

   イ 引用発明の具体的な内容

 引用例1には、「SWがグラウンドと短絡し、グラウンドレベルとなり、処理ユニットのピンは、Low信号を検出し、この信号を検出することによって、処理ユニットは、通常時と同様の上記の電圧検出を行い、そのときの電圧検出器のピンに入力されるバッテリレベルが7.5Vを下回っている場合には、電圧検出器のピンからの出力はグラウンドレベルになるため、処理ユニットは、ピンによりLow信号(低論理レベル)を新たに検出して、処理ユニット内に新たにLOW BATTERY フラッグをセットし、ユーザに黄色LEDをオンにすると共に、煙アラームをシミュレートして煙アラームパターンを発声し、次に、一酸化炭素アラームをシミュレートして一酸化炭素アラームホーンパターンをオンにする手段で示す」との技術的事項が、記載されるに等しい事項として開示されている。

   ウ 引用発明1の使用手順

 引用発明1では、「テスト/サイレンスボタン」を押すことによりバッテリレベルが低でなければ最初の「ユーザに示す手段」における報知がやみ、最初の「ユーザに示す手段」が誤報であったことを「確認」でき、かわらずにバッテリレベルが低であれば「黄色LEDをオンにすると共に、煙アラームをシミュレートして煙アラームパターンを発声し、次に、一酸化炭素アラームをシミュレートして一酸化炭素アラームホーンパターンをオンにする」という手段によりその異常が示されるから、最初の「ユーザに示す手段」の意味内容を再「確認」したことになる。上記の使用手順を考えれば、本件審決が重視した「表示灯手段」の内容の「確認要求」するという使用手順においてすら、引用発明1と本件発明1との間で、何らの相違点もない。

   エ 引用発明1の使用手順が技術水準において裏付けられるものであること

 引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」に関する上記使用手順は、周知の刊行物(甲14の2、甲28)においても裏付けられている。

 引用発明1が、「低電圧検出回路」とこれに基づき「バッテリが運転を維持するのに十分な容量を有していない場合に、LOW BATTERYフラッグをセットし、この状態をユーザに示す手段」との構成を備えている以上、「テスト/サイレンスボタン」を押した場合、「ユーザに示す」報知が終了するか、「黄色LEDをオンにすると共に、煙アラームをシミュレートして煙アラームパターンを発声し、次に、一酸化炭素アラームをシミュレートして一酸化炭素アラームホーンパターンをオンにする」報知が再度開始されるかをもって、ユーザが最初の「ユーザに示す」報知の意味内容を確認する使用手順になることは、技術常識に沿った引用発明1の通常の使用といえ、その使用手順に何らの相違点も発生しない。

   オ 小括

 本件審決は、引用発明1に関する利用者の使用手順の相違という発明特定事項とは関連しない理由により、本件発明1と引用発明1との対比を原告が受けるべき機会を、実質的に喪失させているものである。

 したがって、上記引用発明1の使用手順に基づき相違するとの一致点の認定の不足・相違点の認定の誤りは、引用発明1の認定及びその対比においても、本件審決を取り消すべき違法がある。

 〔被告らの主張〕

  (1) 本件発明1の解釈論における一致点の認定不足・相違点の認定について

   ア 本件審決の認定が正しいこと

 (ア) 本件発明1は、①音声メッセージにより警報内容を確実に知らせ、②うるさがって電池を抜き出すことを防止し、③電池の消耗を抑制し、「利用者による電池の交換を促進し、無監視状態で放置される事態を回避することができる電池式警報器」を実現するために、まずは表示灯手段によって報知し、利用者からの確認要求を待って、音声メッセージを出力するという構成を採用したものである。

 上記構成は特許請求の範囲の文言から読み取れ、かつ、本件明細書(【0025】)を参酌することにより一層理解できる事項である。すなわち、特許請求の範囲の「確認要求」とは、表示灯手段の点灯又は点滅の意味を確認するための要求であり、表示灯手段によって電池の電圧の低下を報知するための点滅又は点灯がされたが、その報知の意味を理解し難いので、確認をするための要求である。

 (イ) 本件発明では、確認要求が入力される前に、電圧監視手段により電池電圧の低下が検出されている。

 そして、この構成は特許請求の範囲の文言から読み取れ、かつ、本件明細書を参酌することにより一層明らかに理解できる事項である。「電圧監視手段」は、確認要求とは関係なく、電圧を検出する機能を有する。このため、利用者から確認要求の入力を受けたちょうどそのときに、電圧監視手段がタイミングよく電池電圧が低下していないかどうかの検出を行うとは限らない。場合によっては、確認要求の入力を受けてから次の電圧検出まで相当の時間を要することもあり得る。したがって、特許請求の範囲の文言上、「前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、前記確認要求受付手段によって前記確認要求を受け付けたときに」との要件は、確認要求を受け付けた後に電圧低下を検出することを意味するのではなく、確認要求を受け付ける前に、電圧監視手段が電圧低下を検出していることを意味すると解さざるを得ない(図3)。

   イ 原告の主張について

 (ア) 特許請求の範囲には、「確認要求」の文言が使用されており、これは、任意の時刻に電池電圧が低下しているか否かを知りたいという要求とは異なることを規定している。原告の主張は、「確認要求」の持つ意味を無視して、「確認要求」を単なる電池電圧の試験と同視するものである。

 (イ) 「確認要求」は、表示灯手段による表示の意味を確認するための要求であり、このことは本件明細書にも記載されているから、出願経過に関する原告の主張は失当である。

 (ウ) 原告の主張は、課題を解決し得る構成は全て、本件発明の技術的範囲に含めて解釈すべきであるというものであり、主張自体失当である。

 (エ) 本件特許請求の範囲の記載が実施例と整合していることは明らかである(【0039】)。なお、「…の場合であって、かつ、…のとき」について、「…の場合」の部分を前提条件と解したとしても、「…のとき」とのAND条件と解したとしても、その文言が、確認要求を受け付ける前に電池の電圧が所定の電圧以下に低下していることを規定していることを意味していることに変わりない。

  (2) 引用発明1の認定の誤りについて

   ア 引用発明1における低バッテリインジケータは、点灯している際には、低バッテリであることが明らかなので、低バッテリか否かの確認を目的としてテスト/サイレンスボタンを押すことは想定できない。また、引用発明1では、テスト/サイレンスボタンを押したときに、低バッテリインジケータは、監視によって低バッテリを検知したときと全く同じ表示を行うだけである。本件発明の「確認要求」は、表示灯手段による点灯又は点滅が誤報でなかったかどうかを再確認するものではない。

 原告の主張は、引用例1にも、甲14の2にも、これを裏付ける記載が一切ない。

   イ 原告は、周知刊行物として甲28を挙げるが、甲28と原告の主張する使用手順とは無関係である。甲28記載の発明は、バッテリの低下がそれほど深刻でない場合には、ホーンの駆動を一時的に停止することを可能にするというものである。

 原告は、ホーンによる報知が停止されるかどうかが、バッテリの低下が深刻かどうかの確認に当たると述べるが、甲28記載の発明は、ホーンを停止するだけであって、バッテリの低下が深刻かどうかを確認するものではない。

 2 取消事由1-2(相違点3に係る判断の脱漏)について

 〔原告の主張〕

  (1) 「確認要求を受け付けたとき」の前か後かの容易想到性の判断の必要性

 本件審決は、「確認要求を受け付けたとき」の前か後かで異なると繰り返すが、相違点3に関する容易想到性については、全く判断を示していない。

 このような発明の相違点とも呼べない実施例上でのデータ処理の先後に関して、本件審決が引用発明1との相違点であると認定するのであれば、当然にその容易想到性の判断を示すべきものである。

  (2) 既に周知技術が示されている事実

 スイッチ類の操作をする以前の異常を人声によって報知する周知技術によれば、前で判断するか、後で判断するかといった本件審決の認定した枝葉末節な相違点3に係る容易想到性の議論は、技術常識によって解決されるべき事項である。

   ア 引用例3(甲2)の記載

 引用例3のとおり、任意の時点でユーザから異常事態の発生の確認要求を受け付ける手段があれば、当該要求の受付の前後のいずれの時点の異常状態の検知を実際の報知手段の発動のトリガーにするか等といった事項は、技術常識に基づいて解決されるべき単なる設計事項である。

   イ 周知例1(甲9)の記載

 フラッグを立てる周知技術の例である周知例1を参酌すれば、本件審決が問題視する「確認要求を受け付けたとき」の前か後かといった情報処理など、当業者の技術常識で解決されるべき事項であることがより一層明確となる。

  (3) 周知例1(甲9)記載の発明との組合せによる容易想到性の判断を省略したことが無効審判請求の要旨においても判断の脱漏に当たること

 原告は、周知例1記載の発明に基づく請求については、口頭審理の際の強い審判指揮により、本件発明1との関係で撤回したが、本件発明2を引用する本件発明4との関係では、同発明としての組合せについて具体的に主張しており、当該観点からも判断の脱漏は明らかである。

 原告としては、上記の審判指揮を受けた後も、本件発明4との関係では、周知例1記載の発明をもって、「フラッグ」の容易想到性をその無効審判請求に残しており、かつ、本件発明4が本件発明2をより限定する引用形式の請求項である以上、これに容易想到性が認められれば、本件審決の結論が異なるものになる。

 また、フラッグを立てるか立てないかについては、単なる情報処理の周知技術の適用にすぎず、本件発明4固有の特許性を裏付けるものではなく、本件発明4における判断の脱漏は明らかである。

  (4) 小括

 本件審決は、「確認要求を受け付けたとき」の先後で、相違点3を認定しているものであり、その結果、引用発明1と本件発明1との対比を誤ったものである。

 したがって、上記相違点3を相違点とする理由については、本件審決はその容易想到性に関する判断を示すべきものであり、自身の第1次審決時と異なる判断を行いながら、周知例1のフラッグ技術の適用の容易性については一切判断を示さなかったのは、判断の脱漏に当たる。

 〔被告らの主張〕

  (1) 本件審決は、周知技術を適用する動機付けがなく、仮に、適用したとしても本件発明の構成要件を充足しないと判断しており、原告の主張は失当である。

  (2) 原告は、本件発明4についても判断の脱漏があると主張するが、本件審決は、これを判断している。

 3 取消事由1-3(容易想到性に係る判断の誤り)について

 〔原告の主張〕

  (1) 本件審決自体が、相違点1の容易想到性を認めており、かつ、その余の相違点である「電池交換を促す内容を含む音声メッセージ」についても、周知例2及3により認められる音声メッセージを出力すべき周知技術の存在を肯定しており、上記誤りを是正することにより、容易想到性が肯定されることになる。

  (2) 仮に、本件審決が誤認した相違点2及び3を前提に置いたとしても、本件審決が示したその容易想到性を否定する判断は合理的なものではない。

   ア 相違点3の容易想到性の判断に当たり、本件において、新たに参酌すべき技術水準として、「確認要求を受け付けたとき」より前の時点の「電池の電圧が所定以下に低下している」ことを確認しているか否かなど、単なる技術常識に基づく設計事項でしかない(甲26)。

   イ 引用例2及び3並びに周知例1に示される周知技術からすれば、相違点3は、容易に想到できる。

 本件審決が上記周知技術を2段階に振り分けてユーザに報知する技術として参酌するのは、極めて異常である。これらの2段階に振り分ける技術は、単に2つの種類の報知があることを問題にしているものではない。

 引用発明1において「テスト/サイレンスボタン」の操作の前後に「ユーザに示す手段」が2つ開示されている以上、これとの対比で報知手段を振り分けることの容易性を議論しないで、報知手段自体の振り分けを議論するのは的外れである。いかなる報知手段を採用して報知を行うか自体は、周知技術の適用により容易想到性を肯定できるのであり、発光手段と音声手段とを振り分けることが周知である以上、これを参酌して引用発明1における「テスト/サイレンスボタン」を押す前後で報知手段を選択することなど、適宜の設計事項でしかない。

 〔被告らの主張〕

  (1) 2段階に振り分けてユーザに報知を行う技術が周知である以上、設計事項にすぎないと述べる原告の主張は、本件審決の誤りの主張になっていない。

  (2) 本件審決は、引用発明1に対して、引用例3及び周知例1ないし3に記載された技術を適用できないと判断した。

 この判断は、引用発明1では、機能aによって低バッテリを検知した場合にも、機能bによって低バッテリを検知した場合にも、ユーザに低バッテリを報知する手段としては、低バッテリインジケータしかなく、1種類のシグナルで状態を示していることを指している。したがって、仮に、2段階に振り分けてユーザに報知を行う技術が周知であると仮定したとしても、引用発明1の低バッテリインジケータには周知技術を適用することが不可能であることを述べたものである。

 原告の主張は、引用発明1に周知技術を適用すれば本件発明の構成になると述べるのみで、1つしかない低バッテリインジケータに対して、2種類のシグナルを適用できる理由、及び、独立した機能abに対して周知技術を適用して、なぜ2段階の報知とすることができるのか、全く主張されていない。

  (3) 甲26は、火災等の緊急事態の際に適切に行動することの困難さに鑑みて、メッセージで適切な行動を指示する煙探知器を提供する。甲26記載の発明の構成としては、煙検出器に、人声発生のための回路が接続され、ホーンからの音を中断して、人声によるメッセージを出力するものである。

 甲26のテストスイッチは、バッテリーが低電圧かどうかを確認するスイッチではなく、甲26記載の発明について原告の理解は誤っている。テストスイッチを押したときに人声が出ることが確認できればよく、その確認のためのメッセージは何であってもよい。

 甲26記載の「バッテリーの電圧が限度値内のとき」は、バッテリーの電圧が正常範囲にあるときを意味しており、原告が確認要求手段に該当すると主張するテストスイッチは、人声部の作動をテストするスイッチであって、バッテリーが低電圧かどうかを確認するスイッチではなく、低電圧になっていることを検知している時点で押されるものでもない。

 4 取消事由2-1(引用発明1の認定の誤り)について

 〔原告の主張〕

 副引用例として引用発明1を適用するに当たっては、本件審決は、引用発明1における「テスト/サイレンスボタン」を本件発明1の「確認要求受付手段」と「全く構成の異なるものである」と認定した。

 しかし、上記認定は、前記1のとおり、誤りである。

 〔被告らの主張〕

 本件発明の解釈及び引用発明1の理解について、本件審決に誤りはない。

 5 取消事由2-2(容易想到性の判断の誤り)について

 〔原告の主張〕

  (1) 引用発明2に引用発明3又は引用発明1を適用する動機付けがあること

 引用発明2の課題は、本件発明1と同様であり、さらに発光手段による報知を先にもってきて、発音手段による報知を遅延させるとの引用発明2の構成は、本件発明1と同様、電池の消費電力を抑えるという第3の課題も同時に解決するものであり、本件審決が強調する本件発明1における3つの課題を全て包含することになる。このことは、被告ら自身、本件特許の出願経緯において、自認してきたものである。

 他方、発光手段と発音手段とによる報知技術を共に採用している引用発明2と引用発明3とを対比すれば、課題も同一であり、機能も共通である。

 このため、引用発明3に接した当業者であれば、引用発明2において、使用者が予め設定した時間が経過した後に警報を発すべき遅延回路に代えて、使用者の意思で押圧することにより警報を発する確認スイッチを設けることは、両者の技術的事項が採用された課題の同一性及び機能の共通性からみて、動機付けがあることが明らかであり、かつ、使用者の任意の意思に基づき、能動的に音声手段による異常確認を行える点で単なる遅延効果よりも優れた引用発明3の効果が有意義なことを認識できる以上、その動機付けが強いものになる。

 課題が別の構成によって解決されていても、よりよい効果をもたらすと判断し得る別発明があれば、同一の課題の解決に当たって採用しようとの動機付けを当業者にもたらすものであり、かつ、その際に機能の同一性をもって選択すべき構成の動機付けになるものである。課題及び機能の共通性が認められれば、同じ報知技術に属する引用発明3の適用に当たって動機付けが肯定されることは明らかである。

  (2) 引用発明2に引用発明3又は引用発明1を適用することに阻害事由がないこと

 本件審決が阻害性があるとした事項は、あくまでも引用発明2におけるサイレンによる発音手段が最終的に確保されていることでのメリットであり、使用者が能動的に確認スイッチを使用することを経ない発音手段による報知を使用者がうるさがるとの引用発明3が解決を目的とした従来技術のデメリットは、逆に、当該サイレンによる発音手段においては併存することになり、どちらが優れていると断言できる技術内容ではない。したがって、本件審決が指摘する引用発明2のメリット部分は引用発明2が有する課題に対して引用発明3を適用することにより、より有意義な効果を得ようとする動機付けとの間でバランスを保って総合考慮されるべき事項でしかなく、強い阻害性を有すべき事項と位置付けることはできない。

 「遅延回路」に代えて引用発明3又は引用発明1を適用するのは、「遅延回路」を全て排除して適用することばかりが容易想到性の判断の対象になるものではなく、両者が併存する形で一部機能を代替させれば、その適用に当たっての動機付けを肯定するに十分である。引用発明2のサイレン自体にも、使用者が気付かない場合のセーフティとしての機能が別途あるからといって、引用発明2に引用発明3又は引用発明1を適用するに当たっての発明の課題及び機能としての適用の強い動機付けが排除されるべきものでもない。

  (3) まとめ

 以上のとおり、引用発明2に引用発明3又は引用発明1の適用を容易に想到できないとした本件審決の判断は誤りである。

 〔被告らの主張〕

  (1) 動機付けについて

 引用発明2では、低バッテリを検知したときに、バッテリを交換するための合理的な期間を与えない不愉快な態様で低バッテリを報知していたことを課題とし、所定時間の遅延時間を設け、所定時間経過後に自動的に積極的な通知に切り替える構成によってこれを解決している。したがって、使用者をうるさがらせる不愉快な態様でなくすために、引用発明2が解決手段として採用した構成に代えて、別の構成を採用する動機付けはない。また、時間がくると自動的に警報音に切り替わる引用発明2は、発光ダイオードの点滅が低バッテリを意味することをユーザが理解できることを前提としているので、発光ダイオードの点滅の意味を確認するための確認要求を適用する必要がない。しかも、引用発明3は、バッテリ駆動するものですらなく(甲22)、引用発明3を引用発明2に適用して、本件発明を容易に想到し得るとする原告の主張は、後知恵の論理である。

  (2) 阻害事由について

 原告の主張は、審判請求書における主張と矛盾するものであり(甲11)、失当である。

第4 当裁判所の判断

 1 本件発明について(甲10)

 本件発明の特許請求の範囲の記載は、前記第2の2のとおりであり、本件明細書及び図面の記載によれば、本件発明について、以下のとおり認められる。

  (1) 本件明細書の記載

   ア 発明の属する技術分野

 本件発明は、電池によって稼働し、監視領域の異常を検出して警報を発する電池式警報器に関し、特に、利用者による電池の交換を促進し、無監視状態で放置される事態を回避することができる電池式警報器に関する(【0001】)。

   イ 従来技術の問題点

 一般住宅などの比較的に小さな監視領域の火災やガス漏れなどの異常を検出して警報を発する警報器として広く利用されている電池式警報器においては、従来、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視してこれが所定の電圧以下に低下した場合に電池交換を促すべくブザーによる警報を発するものが存在したところ、このブザー音が火災やガス漏れ発生時のブザー音と同種であるため利用者は取扱説明書を読むまで電池残量の低下であることが理解できず、またブザー音が耳障りであることによって、電池を抜き出してしまい電池交換が促されず、また、電池交換が促されないことによって、早めに電池の残量が少なくなった旨の報知を開始して電池を無駄に消費し電池の寿命が短くなるという問題点があった(【0002】~【0010】)。

   ウ 本件発明の構成

 本件発明は、この問題点を解決すべく、電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に点灯又は点滅する表示灯手段とともに、電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に利用者からの確認要求を受け付けたときに電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを出力する音声出力手段とを備えるものである(【0012】【請求項1】)。

  (2) 本件発明の技術的意義

   ア 上記のとおり、本件発明は、電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に点灯又は点滅する表示灯手段とともに、電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に監視領域の利用者からの確認要求を受け付けたときに電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを出力する音声出力手段とを備えるものである。

 そして、特許請求の範囲には、①「電圧監視手段」が「前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視する」こと、②「表示灯手段」が「前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合」に点灯又は点滅すること、③「音声出力手段」が「前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、前記確認要求受付手段によって前記確認要求を受け付けたとき」に音声メッセージを出力すること、以上の記載がある。そうすると、本件発明には、確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する表示灯手段と確認要求の受付を待って音声メッセージを出力する音声出力手段とにより電池交換を促すべく電池の電圧低下を利用者に示すこととともに、表示灯手段の点灯又は点滅と音声出力手段からの電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージとによって電池の電圧低下を利用者に示すことが規定されているものである。

 この点に関連して、本件明細書の記載(【0028】~【0040】)においては、本件発明の実施例の警報器の構成について、①電圧監視回路が電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視し、この電圧が所定の電圧以下に低下すると、電圧の低下を示す電圧低下信号をランプ制御回路及び音声警報回路に対して出力すること、②電圧監視回路から電圧停止信号を入力した場合には、電池の電圧の低下を報知するために、電源ランプを点灯又は点滅させること、③音声警報回路は、検出制御回路から入力された警報信号や、電圧監視回路から入力された電圧停止信号、スイッチ制御回路から入力された確認信号に基づいて、スピーカからブザー音や音声メッセージを出力するが、その際、電圧監視回路から継続的に出力された電圧低下信号が確認信号入力時に入力されていることを条件としても、電圧監視回路に出力された電圧低下信号により立つフラッグが立っていることを条件にしてもよいことが記載されている。

 そして、特許請求の範囲は、これらのうち、電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に点灯又は点滅する表示灯手段とともに、電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に監視領域の利用者からの確認要求を受け付けたときに電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを出力する音声出力手段とを備えることを特定したものである。

   イ 「確認要求」について

 特許請求の範囲には、「前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を前記監視領域の利用者から受け付ける確認要求受付手段」という記載があり、「確認要求」が「電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するため」のものであることが明示されている。よって、「確認要求」について、これ以外の意味であると解する余地はない。

   ウ 「…場合、かつ、…とき」について

 「…とき」は、「時」と異なり、時点ではなく条件を示すものであるところ、本件発明についてもこれと異なる意味のものと解することはできない。

   エ 使用方法の限定について

 なお、本件明細書(【0025】【0026】【0043】~【0045】)には、利用者が点灯又は点滅に気付いた上で確認要求手段であるスイッチを押し下げた場合に電池の交換を促す音声メッセージが出力されることが記載されており、いわば、警報器が一定の使用方法によって用いられた場合に音声メッセージが出力されることが記載されている。

 しかしながら、特許請求の範囲には、点灯又は点滅に気付かない者がスイッチを押した場合に音声メッセージを出力しないことは記載されていない。のみならず、本件明細書においても、点灯又は点滅に気付かない者がスイッチを押した場合に音声メッセージを出力しない構成は、何ら開示されていない。

 そうすると、このような使用方法は、警報器を使用する者の通常の認識を述べたにとどまり、発明特定事項とはされていないといわざるを得ない。

 2 取消事由1(引用発明1に基づく容易想到性に係る判断の誤り)について

  (1) 引用例1について

 引用発明1は、前記第2の3(2)アのとおりであり、当事者間に争いがない。

 引用例1には、①約10分ごと又は20運転サイクルごとにバッテリレベルが7.5Vdcを超えているか下回るかを検出しこれが下回る場合にはこの状態をユーザに示すべく処理ユニットのLOW BATTERYフラッグがセットされること、②スリープモードから覚醒された処理ユニットがWAKEサブルーチンにおけるTESTスイッチが押されている場合の処理として、バッテリレベルが低でない場合には電力/低バッテリインジケータ回路のグリーンLEDがONとなり、他方、バッテリレベルが低である場合には黄色LEDがONとなり、引き続き、煙アラームインジケータ回路の煙LEDをONにするとともに煙アラームパターンを発声し、さらに引き続き、一酸化炭素アラームインジケータ回路のLEDをONにするとともに一酸化炭素アラームホーンパターンを発声することが記載されている。

 また、図1、2、5、8、12、24、29等に関連する記載に照らせば、「10分毎または20運転サイクル毎に・・・処理ユニットのピンは低論理レベルを検出する。処理ユニットは、LOW BATTERYフラッグをセットし、この状態をユーザに示す」とは、ピンのレベルを検出した時点でこの結果を光によるインジケータによってユーザに示すことを意味するのではなく、LOW BATTERYフラッグが示す状態がテスト/サイレンスボタンを押したユーザに対して、又は、第2の実施例のようにビープ音によって、示されることを意味する。また、「検出装置の音声及び視覚インジケータ」が「種々の自己テスト」及び「ユーザによって開始されるテスト」との関連で使用される旨の記載も、視覚インジケータが自己テストの場合とユーザによって開始されるテストの場合の両方において使用されることを記載したにとどまり、LOW BATTERYフラッグが示す状態を図5や図29と異なる態様によってユーザに示すことを意味するものではない。

 そうすると、引用発明1は、バッテリレベルが所定の値以下である場合に、テスト/サイレンスボタンが押されてTESTスイッチが押されている場合にLEDを点灯するということはできても、これが押される前に点灯するものであるということはできない。

 このように、引用発明1は、ユーザがテスト/サイレンスボタンを押し下げた場合に音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものであり、光のみにより電圧低下をユーザに知らせることや音に先行して光によって電圧低下をユーザに知らせることを予定するものではない。

  (2) 本件発明と引用発明1との対比

 以上を踏まえて、本件発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」は、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための「確認要求」を監視領域の利用者であるボタンを押すユーザから受け付ける手段であるから、本件発明の「確認要求受付手段」に相当する。

 そして、引用発明1の「LED」は本件発明の「表示灯手段」に対応し、引用発明1の「煙アラームパターン及び一酸化炭素アラームホーンパターンからなる所定のパターンを発声する手段」は、電池の電圧低下を利用者に示すために音を出力する手段である点において本件発明の「音声出力手段」に対応している。

 そうすると、両者は、

 ① 点灯又は点滅する表示灯手段と確認要求の受付を待って音によって電池の電圧低下を利用者に示す手段とにより電池交換を促すべく電池の電圧低下を利用者に示すに当たって、本件発明の表示灯手段が確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅するのに対して、引用発明1の表示灯手段が確認要求の受付を待って点灯又は点滅する点

 ② 表示灯手段の点灯又は点滅と音を出力する手段からの音によって電池交換を促すべく電池の電圧低下を利用者に示すに当たって、音によって電池の電圧低下を利用者に示す手段が、本件発明では電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを出力する音声出力手段であるのに対し、引用発明1では所定のパターンをなす「煙アラームパターン及び一酸化炭素アラームホーンパターン」である点

 において、相違している。

 以上のように、本件発明は、確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する表示灯手段と確認要求の受付を待って音声メッセージを出力する音声出力手段とにより電池交換を促すものであり、音声出力手段と異なり表示灯手段については確認要求の受付を待つことを予定しないで電池の交換を促すものである。これに対し、引用発明1の表示灯手段は、確認要求を受け付けて初めて点滅又は点灯し利用者に電圧低下を知らせるものであり、ユーザがテスト/サイレンスボタンを押し下げた場合に音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものであって、前記のとおり、光のみにより電圧低下をユーザに知らせることや音に先行して光によって電圧低下をユーザに知らせることをそもそも予定していない。

  (3) 容易想到性

   ア 以上のとおり、本件発明1の表示灯手段が、確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する構成であるのに対し、引用発明1の表示灯手段は、確認要求を受け付けて初めて点滅又は点灯し利用者に電圧低下を知らせるものであり、音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものである。

 しかるに、引用例1には、利用者からの要求の要否と電圧低下を利用者に示す態様とを電池交換が促されるように組み合わせること、又は、要求を待って電圧低下を利用者に示す表示灯手段と別途に要求を待たずに電圧低下を表示する手段を設けることにより電池交換が促されること等の動機付けの記載が見当たらない。

 そうすると、ユーザがテスト/サイレンスボタンを押し下げた場合に音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものであり、光のみにより電圧低下をユーザに知らせることや音に先行して光によって電圧低下をユーザに知らせることをそもそも予定していない引用発明1に、電圧低下を含む状態変化を光で報知する周知技術を適用したとしても、それによって、表示灯手段が確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する本件発明1の構成に、容易に想到できるということはできない。

   イ すなわち、引用発明1においては、確認要求を受け付けて初めて表示灯手段が利用者に電圧低下を示すことを踏まえれば、利用者からの要求の要否と電圧低下を利用者に示す態様とを電池交換が促されるように組み合わせること、又は、要求を待って電圧低下を利用者に示す表示灯手段を備えてもなおこれと別途に要求を待たずに電圧低下を表示する手段を設けることにより電池交換が促されること等により、引用発明1においても表示灯手段につき確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅することによって電池交換が促されることが論理付けられなければ、表示灯手段が確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅する本件発明の構成に、容易に想到できるということはできない。

 しかるに、引用例1には、上記の論理付けに必要な動機付けの記載が見当たらず、また、他にこのような動機付けの存在を認定する根拠も見当たらない。そうすると、仮に、引用例3、引用例2又は周知例1によって、利用者からの要求の要否と電圧低下を利用者に示す態様とを電池交換が促されるように組み合わせること、又は、引用発明1のように要求を待って電圧低下を利用者に示す表示灯手段を備えてもなおこれと別途に要求を待たずに電圧低下を表示する手段を設けることにより電池交換が促されること等が周知技術であると認定できたとしても、これらを引用発明1において適用することが動機付けられることはない。

   ウ したがって、本件発明1が、引用発明1に基づいて容易に想到できるということはできない。

  (4) 原告の主張について

   ア 取消事由1-1(一致点及び相違点の認定の誤り)について

 (ア) 原告は、本件発明の装置には、利用者が事前認識をしたか否かを判断する手段はなく、利用者は使用方法の限定を受けない旨主張する。

 確かに、前記のとおり、本件発明は、使用方法の限定を受けるものではないから、これを前提とした本件審決の相違点の認定、判断には誤りがある。

 (イ) また、本件審決は、本件発明の「確認要求受付手段」と引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」とが相違するとして、相違点2を認定したが、その認定は、特許請求の範囲の記載に基づいていないものである。

 (ウ) 原告は、「…場合であって、かつ、…のとき」との記載は、単なるAND処理を意味するだけで、各条件の先後という時的要素を持ち込む議論は誤りであると主張する。

 この点について、特許請求の範囲においては、「電圧監視手段」によって「監視」された電池の電圧が低下した場合の表示灯手段と音声出力手段の動作を特定するものの、それ以外の時間的な先後関係は特定していない。そして、「…場合であって、かつ…のとき」との記載における「とき」は場合を指しており、単に音声メッセージを出力する条件を示しているにすぎないことは前記のとおりであるから、この記載が条件のみならず時間的な先後を意味することを前提とした本件審決の説示は、措辞適切とはいえない。

 (エ) 原告は、本件発明が「表示灯手段」の内容の「確認要求」するものであるとしても、引用例1もバッテリ低下を「ユーザに示す手段」を採用した上で「テスト/サイレンスボタン」によって再確認しているのであるから、引用例1の使用手順に照らしてこの点は一致点となると主張する。

 上記のとおり、引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」は、本件発明の「確認要求受付手段」に相当するから、本件審決の相違点2の認定には誤りがある。

 (オ) 以上のとおり、本件審決は、本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあり、この点において、原告の上記主張には理由があるといわざるを得ない。

 しかしながら、特許無効審判を請求する場合における請求の理由は、特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定しなければならないところ(特許法131条2項)、同法29条2項の規定に違反して特許されたことがその理由とされる場合に審判及び審決の対象となるのは、同条1項各号に掲げる特定の発明に基づいて容易に発明することができたか否かである。よって、審決に対する訴えにおいても、審判請求の理由(職権により審理した理由を含む。)における特定の引用例に記載された発明に基づいて容易に発明することができたか否かに関する審決の判断の違法性が、審理及び判断の対象となると解するべきである。また、そう解することにより、審決の取消しによる特許庁と裁判所における事件の往復を避け、特許の有効性に関する紛争の一回的解決にも資するものと解されるのである。したがって、対象となる発明と特定の引用例に記載された発明との一致点及び相違点についての審決の認定に誤りがある場合であっても、それが審決の結論に影響を及ぼさないときは、直ちにこれを取り消すべき違法があるとはいえない。

 これを本件についてみると、本件審決において、本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがあることは、上記のとおりであるが、前記のとおり、本件発明は、引用発明1に基づいては容易に発明することができないものであり、上記認定の誤りは、結局審決の結論に影響を及ぼさないものであって、本件審決に取り消すべき違法があるとはいえない。

   イ 取消事由1-2(相違点3に係る判断の脱漏)について

 原告は、本件審決には相違点3に係る判断がされていないとして、これが判断遺脱であると主張する。

 しかしながら、本件審決が、相違点3について相違点2とともに判断していることは明らかであり、本件審決について判断の遺脱があるということはできない。

   ウ 取消事由1-3(容易想到性に係る判断の誤り)について

 (ア) 原告は、引用発明1において、「バッテリの電圧低下等の異常事態を、発光手段と音声手段の両方によりユーザに報知する場合に、まず発光手段により報知した後に、音声手段により報知するという二段階に振り分けてユーザに報知する技術」という引用例3及び2並びに周知例1から認定される周知技術を適用することで本件発明が容易に想到できる旨を主張する。

 しかしながら、引用例1には、この点の動機付けの記載が見当たらず、また、他にこのような動機付けの存在を認定する根拠も見当たらないことは前記のとおりである。引用例1はユーザがテスト/サイレンスボタンを押し下げた場合に音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものであり、光のみにより電圧低下をユーザに知らせることをそもそも予定していないから、仮に引用例3及び2並びに周知例1から原告が主張する周知技術が認定できたとしても、これを引用発明1において適用することが動機付けられるものではない。

 (イ) 原告は、本件審決の論旨によれば、引用発明1における「テスト/サイレンスボタン」を押す前後で報知手段を選択することなど、適宜の設計事項でしかないと主張する。

 しかしながら、本件発明が音声出力手段と異なり表示灯手段については確認要求の受付を待たないものとして電池の交換を促すものであることを踏まえれば、確認要求を受け付けて初めて利用者に電圧低下が示される引用発明1においても表示灯手段につき確認要求の受付を待たずに点灯又は点滅することによって電池交換が促されるといえない以上、容易に想到できるということはできないのであって、この点が設計事項でしかないということはできない。

 (ウ) この点に関連して、本件審決は、本件発明の「表示灯手段」、「確認要求受付手段」及び「音声出力手段」と、引用発明1の「LOW BATTERYフラッグをセットし、この状態をユーザに示す手段」、「テスト/サイレンスボタン」及び「ユーザがテスト/サイレンスボタンを押した後にバッテリレベルが低であることを検出すると黄色LEDをオンにすると共に、煙アラームをシミュレートして煙アラームパターンを発生し、次に、一酸化炭素アラームをシミュレートして一酸化炭素アラームホーンパターンをオンにする手段」とをそれぞれ対比して、相違点1、2及び3と認定し、その上で、相違点1について「電池式警報器において、状態の変化が発生した場合に利用者に当該状態の変化を伝える手段は、光や音を用いるものが一般的」であるから、状態をユーザに示す手段として点灯又は点滅する表示灯手段を用いることは、適宜想到し得ると判断した。

 本件発明は、前記1(1)のとおり、光による報知と音による報知とでは電池の交換が促される度合いが異なることを前提として、これらを所定の条件において組み合わせて報知するものである。したがって、本件審決のように本件発明の「表示灯手段」と引用発明1の「黄色LED」とを相違点1と相違点3に分けて認定するとしても、判断においては相違点1と相違点3とを一体のものとして判断する必要があり、さらに、上記の前提に照らせば、根拠を明示せずに光と音がいずれも等価な一般的な技術であるということは適切さを欠くといわざるを得ない。

 そうすると、少なくとも相違点1と相違点3とは一体的な相違点として判断される必要があり、本件審決が認定した相違点を前提にしても、「状態の変化が発生した場合に利用者に当該状態の変化を伝える手段は、光や音を用いるものが一般的」であることにより相違点3の判断を待たずに相違点1のみにつき適宜想到し得ると判断した本件審決の説示は、適切なものとはいえない。

 したがって、本件発明が引用例1を主引用例としては容易に想到することができないとした本件審決は、結論において誤りがなく、本件審決の説示を総合すれば、これを取り消すまでの違法があるということはできない。

  (5) 小括

 以上のとおり、引用例1を主引用例とする容易想到性についての本件審決の認定判断の一部には、誤りや不適切な説示があるが、引用発明1に基づいて本件発明を容易に想到することができないとした本件審決の結論に影響を及ぼすものではなく、本件審決は、結論において正当である。よって、原告主張の取消事由1によって、本件審決を取り消すべき違法があるとはいえない。

 3 取消事由2(引用発明2に基づく容易想到性に係る判断の誤り)について

  (1) 引用発明2について

   ア 引用発明2は、本件審決が認定したとおり、バッテリで作動し、住宅又は施設の煙をセンシングして警報状態とする煙検出器であって、低バッテリ状態を監視するバッテリ状態検出回路と、前記バッテリ状態検出回路によって監視されたバッテリの電圧が低バッテリ状態の場合に、当該低バッテリ状態を通知するために点滅する煙センサの発光ダイオードと、前記バッテリ状態検出回路に接続されたバッテリ状態サンプリング保持回路からの出力を受信すると所定時間のカウントを開始する遅延回路と、前記遅延回路が所定時間カウントしても低バッテリ状態の場合に警告音を発する音声サイレンと、を備えた煙検出器であり、当事者間に争いがない。

   イ 引用例2には、以下の記載がある。

 (ア) このような監視回路を介して、ユーザに煙センサにおける低バッテリ状態の通知を提供するという先行技術には、2つの欠点がある。付与される通知のタイプと通知のタイミングである。第1に、付与される通知のタイプについては、この監視回路は、非常に不都合で煩わしく思わせることになりうる音声信号を提供する。…第2に、低バッテリの報知のタイミングについては、監視回路は、バッテリ容量が許容できない状態になったことを検出すると同時に煩わしい信号を鳴らすが、これは夜中を含み、かつ、それが大半である。この回路は、低バッテリ報知を鳴らす前に、バッテリを交換するための合理的な期間を与えない。その結果、ユーザは、非常に不愉快な態様で、多くは不都合な時間に、低バッテリ状態を知らされることになる。

 (イ) 煙センサが、低バッテリ状態を検出した際、所定時間、音声の低バッテリ報知を鳴らすことを抑制し、かつ、そのようにしている間、当該ユーザ及び/又はセキュリティシステムのシステムコントローラを介したセンター本部に、都合よく煩わしくない低バッテリ報知を提供するようにする必要がある。所定の抑制期間は、煩わしくない低バッテリ通知に促された後、ユーザにバッテリを交換することを可能とさせる。この時間内にバッテリが交換されなければ、そこで従来の低バッテリ報知が鳴るようにすればよい。このようにして、以上のような回路は、より快適で好都合な態様で、ユーザに通知するものである。

 (ウ) バッテリが許容できない状態にあると検出されると、最初に、このような状態について消極的な報知が発せられる。このような状態についての積極的な報知は、当該状態のこの最初の検出に続く所定時間、抑制される。この期間内にバッテリが許容可能なものと交換されない場合に、積極的な報知がその後に発せられる。

   ウ 上記の記載によれば、引用発明2は、バッテリ状態検出回路により監視されたバッテリの電圧が低バッテリ状態の場合に発光ダイオードの点滅による通知を行う一方で、音声信号による通知を遅延回路による所定時間カウントされるまで遅延させるところ、この構成は、発光ダイオードの点滅をみたユーザ等にバッテリ交換が可能な時間を確保し、この時間内に交換がされない場合にのみ音声信号を発するためのものである。

  (2) 本件発明と引用発明2との対比

   ア 本件発明と引用発明2との一致点は、以下のとおりであり、争いがない。

 電池によって稼働し、監視領域の異常を検出して警報を発する電池式警報器であって、前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを監視する電圧監視手段と、前記電圧監視手段によって監視された前記電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合に、当該電圧の低下を報知するために点灯又は点滅する表示灯手段と、を備えたことを特徴とする電池式警報器

   イ 本件発明と引用発明2との相違点は、以下のとおりであり、争いがない。

 本件発明は、電池の電圧が所定の電圧以下に低下しているか否かを確認するための確認要求を監視領域の利用者から受け付ける確認要求受付手段と、電圧監視手段によって監視された電池の電圧が所定の電圧以下に低下している場合であって、かつ、確認要求受付手段によって確認要求を受け付けたときに、前記電池の交換を促す内容を含んだ音声メッセージを監視領域に出力する音声出力手段を有しているのに対し、引用発明2は、バッテリ状態検出回路に接続されたバッテリ状態サンプリング保持回路からの出力を受信すると所定時間のカウントを開始する遅延回路と、前記遅延回路が所定時間カウントしても低バッテリ状態の場合に警告音を発する音声サイレンを有する点

  (3) 引用例1を副引用例とした場合の容易想到性

   ア 引用発明1の技術内容

 前記2のとおり、引用発明1は、ユーザがテスト/サイレンスボタンを押し下げた場合に音と光からなる煙や一酸化炭素の警報パターンを用いて電圧低下をユーザに知らせるものであり、光のみにより電圧低下をユーザに知らせることや音に先行して光によって電圧低下をユーザに知らせることをそもそも予定していないのであるから、引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」は、光による報知をみた使用者に異常に対処するための時間を確保するためのものではない。

   イ 容易想到性

 そうすると、引用発明2の遅延回路に換えて、引用発明1の「テスト/サイレントボタン」を採用することが容易であるということはできない。

   ウ 取消事由2-1(引用発明1の認定の誤り)について

 原告は、副引用例である引用発明1の認定に誤りがある旨主張する。

 本件審決の引用発明1の認定について誤りがあることは、前記のとおりである。

 しかしながら、引用発明2が遅延回路を用いるのは、発光ダイオードの点滅をみたユーザ等にバッテリ交換が可能な時間を確保し、この時間内に交換がなされない場合にのみ音声信号を発するためであり、他方、引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」は、上記のとおり、光による報知をみた使用者に異常に対処するための時間を確保するためのものではないから、引用発明2の遅延回路を引用発明1の「テスト/サイレンスボタン」に置換することが容易であるということはできない。

 よって、引用発明1の認定の誤りは、本件審決の結論に影響しない。

   エ 取消事由2-2(容易想到性に係る判断の誤り)について

 原告は、引用発明1が「電圧監視手段」により「ユーザへの低バッテリ状態を表示」するとともに「確認要求受付手段」により「音声でこれを報知」するものであり、機能の共通性から、引用発明2の遅延回路に関して引用発明1の構成を採用することは容易であり、本件審決が阻害事由であると指摘した点も阻害事由とまではいえないなどと主張する。

 しかしながら、引用発明1の技術内容については、前記のとおりであり、原告は、引用例1の記載内容を正解していない。また、引用発明2の遅延回路と引用発明1の「テスト/サイレントボタン」とは、上記のとおり、設けられた趣旨が異なり置換可能なものとはいえない。よって、これを置換することの動機付けは認められないし、適用を阻害する事由も存在するものである。

  (4) 引用例3を副引用例とした場合の容易想到性

   ア 引用発明3の技術内容について

 (ア) 引用発明3は、電源によって稼働し、燃焼状態の異常を検出して報知する燃焼器の異常事態報知器であって、燃焼状態の異常を検出する燃焼制御回路と、前記燃焼制御回路からの異常事態発生信号により、当該異常事態発生を報知するために点灯する発光素子と、使用者が異常事態の内容を知りたい場合に押圧する確認スイッチと、燃焼制御回路が燃焼器の異常事態発生を検出して発光素子が発光している場合であって、かつ、使用者が確認スイッチを押圧したときに、具体的にどのような異常事態であるのか報知する音声合成装置と、を備えた燃焼器の異常事態報知器であり、当事者間に争いがない。

 (イ) 引用例3には、以下の記載がある。

  a 燃焼状態が異常になったときに発光素子等の点灯あるいは点減によって異常事態の発生を報知するものにおいて、前記発光素子等の異常事態発生の報知により使用者がスイッチを押圧すると音声合成装置が前記発光素子等による異常事態の内容を報知することを特徴とする音声合成装置を備えた燃焼器

  b 発光素子を用いたものにあっては異常事態が具体的にどのような異常事態であるかを知らせるには異常事態の種類だけ発光素子が必要であり、単一の発光素子あるいはブザー等で報知するものにあっては使用者は取扱説明書等により異常事態の内容を調べなければならなかった。また、異常事態を音声合成装置で報知するものにあっては、使用者の意思に関係なく音声合成装置が働いてしまい異常事態のうちには使用者が直ちに対応しなくても済むようなものもあり、使用者に不快感を与えていた。

  c 使用者は発光素子の発光を見てどのような異常事態が発生したのか知りたい場合には確認スイッチを押圧する。

  d 発光素子が燃焼制御回路からの異常事態発生信号により点灯し使用者に異常事態発生を視覚的に報知する。使用者は発光素子の点灯を見て必要とあれば確認スイッチを押圧する。

  e 引用発明3は、以上の如く発光素子で異常事態発生を報知し、使用者の意思により確認スイッチを押圧されると音声合成装置によって発生装置から音声で異常事態を報知するものであるので、従来の如き問題はなく使用者にとって極めて有意義なものである。

 (ウ) これらの記載によれば、引用例3においては、従前、発光素子を用いて異常事態を知らせるには異常事態の種類だけ発光素子が必要であり、単一の発光素子又はブザー等で報知するものにあっては使用者は取扱説明書等により異常事態の内容を調べなければならず、異常事態を音声合成装置で報知するものにあっては、使用者の意思に関係なく音声合成装置が働いてしまい使用者に不快感を与えていた、といった課題を、発光素子等の異常事態発生の報知により使用者がスイッチを押圧すると音声合成装置が前記発光素子等による異常事態の内容を報知することによって解決したという技術が記載されている。そして、引用例3において使用者によるスイッチの押圧に応じて音声合成装置による報知を行うのは、発光素子による報知をみた使用者に異常に対処するための時間を確保するためのものではなく、異常の内容を報知するか否かを異常事態が発生した旨の報知を受けた使用者の選択に委ねるためである。

   イ 容易想到性

 そうすると、引用発明2の発光ダイオードの点滅をみたユーザ等にバッテリ交換が可能な時間を確保し、この時間内に交換がされない場合にのみ音声信号を発するために設けられた遅延回路に換えて、引用発明3の異常の内容を報知するか否かを異常事態が発生した旨の報知を受けた使用者の選択に委ねるためのスイッチを採用することが容易であるということはできない。

   ウ 取消事由2-2(容易想到性に係る判断の誤り)について

 原告は、引用発明2と3とは、発光と発音による報知を行い課題も共通であり、課題と機能の同一性からみて動機付けがあり、本件審決が阻害事由であると指摘した点も阻害事由とまではいえないなどと主張する。

 しかしながら、引用発明2の遅延手段と引用発明3のスイッチとは、設けられた趣旨が異なり置換可能なものではない。よって、これを置換することの動機付けは認められないし、適用を阻害する事由も存在するものである。

  (5) 小括

 よって、本件発明は、引用発明2に基づいて容易に想到することができたものとはいえない。本件審決は、結論において正当である。

 4 結論

 以上の次第であるから、原告の請求は棄却されるべきものである。