最高裁第一小法廷平成 27 年 2 月 19 日判決
〔共有に属する株式についての議決権の行使の決定方法(会社法106条)・上告審〕

(原々審)横浜地裁川崎支部平成 24 年 6 月 22 日判決
(原審)東京高裁平成 24 年 11 月 28 日判決


理由


 上告代理人清永敬文,上告復代理人小林敬正の上告受理申立て理由第3の1及び第4について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
  (1) 上告人は,特例有限会社であり,その発行済株式の総数は3000株である。
 上記3000株のうち2000株は,Aが保有していたが,Aが平成19年に死亡したため,いずれもAの妹である被上告人及びBが法定相続分である各2分の1の割合で共同相続した。Aの遺産の分割は未了であり,上記2000株は,被上告人とBとの共有に属する(以下,上記2000株を「本件準共有株式」という。)。
  (2) Bは,平成22年11月11日に開催された上告人の臨時株主総会(以下「本件総会」という。)において,本件準共有株式の全部について議決権の行使(以下「本件議決権行使」という。)をした。上告人の発行済株式のうちその余の1000株を有するCも,本件総会において,議決権の行使をした。
 他方,被上告人は,本件総会に先立ち,その招集通知を受けたが,上告人に対し,本件総会には都合により出席できない旨及び本件総会を開催しても無効である旨を通知し,本件総会には出席しなかった。
  (3) 本件総会において,上記(2)の各議決権の行使により,①Dを取締役に選任する旨の決議,②Dを代表取締役に選任する旨の決議並びに③本店の所在地を変更する旨の定款変更の決議及び本店を移転する旨の決議がされた(以下,上記各決議を「本件各決議」という。)。
  (4) 本件準共有株式について,会社法106条本文の規定に基づく権利を行使する者の指定及び上告人に対するその者の氏名又は名称の通知はされていなかったが,上告人は,本件総会において,本件議決権行使に同意した。
 2 本件は,被上告人が,本件各決議には決議の方法等につき法令違反があると主張して,上告人に対し,会社法831条1項1号に基づき,本件各決議の取消しを請求する訴えである。会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされた本件議決権行使が,同条ただし書の上告人の同意により適法なものとなるか否かが争われている。
 3 原審は,会社法106条ただし書について,同条本文の規定に基づく権利を行使する者の指定及び通知の手続を欠いていても,株式の共有者間において当該株式についての権利の行使に関する協議が行われ,意思統一が図られている場合に限って,株式会社の同意を要件に当該権利の行使を認めたものであるとした。その上で,原審は,本件は上記の場合には当たらないから,上告人が本件議決権行使に同意していても,本件議決権行使は不適法であり,決議の方法に法令違反があることになるとして,本件各決議を取り消した。
 4 所論は,会社法106条ただし書は株式会社の同意さえあれば特定の共有者が共有に属する株式について適法に権利を行使することができる旨を定めた規定であるというものである。
 5 会社法106条本文は,「株式が二以上の者の共有に属するときは,共有者は,当該株式についての権利を行使する者一人を定め,株式会社に対し,その者の氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についての権利を行使することができない。」と規定しているところ,これは,共有に属する株式の権利の行使の方法について,民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(同法264条ただし書)を設けたものと解される。その上で,会社法106条ただし書は,「ただし,株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は,この限りでない。」と規定しているのであって,これは,その文言に照らすと,株式会社が当該同意をした場合には,共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。そうすると,共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において,当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは,株式会社が同条ただし書の同意をしても,当該権利の行使は,適法となるものではないと解するのが相当である。
 そして,共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。
 6 これを本件についてみると,本件議決権行使は会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたままされたものであるところ,本件議決権行使の対象となった議案は,①取締役の選任,②代表取締役の選任並びに③本店の所在地を変更する旨の定款の変更及び本店の移転であり,これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され,又はその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから,本件議決権行使は,本件準共有株式の管理に関する行為として,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものというべきである。
 そして,前記事実関係によれば,本件議決権行使をしたBは本件準共有株式について2分の1の持分を有するにすぎず,また,残余の2分の1の持分を有する被上告人が本件議決権行使に同意していないことは明らかである。そうすると,本件議決権行使は,各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられているものとはいえず,民法の共有に関する規定に従ったものではないから,上告人がこれに同意しても,適法となるものではない。
 7 以上によれば,本件議決権行使が不適法なものとなる結果,本件各決議は,決議の方法が法令に違反するものとして,取り消されるべきものである。これと結論を同じくする原審の判断は,是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸)