(原々審)横浜地裁川崎支部平成 24 年 6 月 22 日判決

(上告審)最高裁第一小法廷平成 27 年 2 月 19 日判決〔共有に属する株式についての議決権の行使の決定方法(会社法106条)〕
(原審)東京高裁平成 24 年 11 月 28 日判決


第3 判断

 1 原告主張の各決議取消(瑕疵)事由について
  (1) 招集通知漏れについて
 証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,Dに対する招集通知は,平成22年11月8日に,被告の使者であるEがD方を訪れ,口頭で,株主総会の日時,場所及び会議の目的事項を伝えて,行われたことを認めることができる。よって,Dに対する招集通知漏れを理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。
  (2) 招集通知の期間不足
   ア 被告会社から原告宛の本件総会招集通知は,本件総会開催日の2日前の11月9日に発せられているところ,被告の場合,招集通知は会日の1週間前までに発しなければならないから,招集通知の期間が不足していることは,当事者間に争いがない。また,上記(2)のとおり,D宛の招集通知は,平成22年11月8日に発せられているが,これを基準としても,招集通知の期間が不足しているものと認められる。決議取消事由の存否の判断について,原告への通知とD宛の通知のいずれを問題とするか,また,これにより決議取消事由が異なるといえるかはさておき,いずれにしても,招集通知の期間が不足しており,会社法299条1項に違反するものと一応認められ,決議の取消事由に該当するものと解される。
   イ しかしながら,本件決議の内容,被告の株主総数,前提事実のとおり,原告は,同月11日付通知書により,被告に対し,上記臨時株主総会には都合により出席できない旨及び同月11日に上記臨時株主総会を開催しても無効である旨伝えていることからすると,上記瑕疵は,招集手続の法令違反という手続上の瑕疵に過ぎず,その違反に関する事実が重大であるともいえず,かつ,決議に影響を及ぼさないものと認められるから,会社法831条2項により,招集通知の期間不足を理由とする決議取消の請求はこれを棄却するのが相当である。
  (3) Dの委任状の未提出について
 証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年11月8日に,EがD方を訪れた際,Dは,本件総会について,「Eを代理人と定め,本件総会に出席して,議決権を行使する一切の権限を委任する。」旨の委任状を作成し,Eに交付したこと,Eは,この委任に基づき,本件総会にDの代理人として出席し,B株式についてその議決権を行使したことを認めることができる。よって,Dの委任状の未提出を理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。
  (4) 定足数不足について
   ア Dが,委任状を作成して,Eに交付したこと,Eは,この委任に基づき,本件総会にDの代理人として出席し,B株式についてその議決権を行使したことは,上記(3)認定のとおりである。よって,Dの委任状の未提出による定足数不足を理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。
   イ また,原告は,2分の1の準共有持分しかないDには,Eに議決権行使を委任する権限はないから,上記委任は無効であると主張する。しかし,後記ウ認定のとおり,被告は,B株式について,Dが議決権を行使することに同意しているものと認められるから,Dは,同株式の議決権行使を第三者に委任する権限もあるということができる。よって,Dには委任権限がないことによる定足数不足を理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。
   ウ 共有者は,当該株式についての権利行使者を一人と定め,会社に対し,そのものの氏名又は名称を通知しなければ,当該株式についてその権利を行使することはできないとされている(会社法106条)ところ,B株式を準共有している原告とDについては,この権利行使者の定めも,被告に対する通知も,原告とDとの間の協議も,何らされていないことは当事者間に争いがない。しかしながら,証拠(甲4,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,B株式について,Dが議決権を行使することに同意しているものと認められる。したがって,会社法106条ただし書により,Dは,B株式について議決権を行使することができると解される。そして,Dによる議決権行使の内容が原告の意向(甲3及び弁論の全趣旨から,原告は本件決議には反対の意向であったことが推認される。)と異なるとしても,議決権の行使自体に瑕疵はないから,決議取消事由には該当しないと解するのが相当である。
 2 以上によれば,上記の各決議瑕疵を理由として,本件決議の取消を求める原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
 (裁判官 福島節男)