東京地裁平成24年1月13日判決〔無催告解除特約に基づく解除〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は,X所有の本件土地につき,建物所有目的でXと訴外Aとの間で締結されていた本件賃貸借契約が,訴外Aの賃料不払いを理由に解除されたとして,本件土地上に建築されていた本件建物の所有権を取得したYに対し,Xが本件土地の所有権に基づき本件建物の収去及び本件土地の明渡し並びに本件土地の使用損害金の支払を求めた事案である。

2 Xは,本件賃貸借契約は,当該契約に付されていた本件無催告解除特約に基づき,(1)平成22年4月分及び5月分の合計2か月分の賃料不払を理由とする解除,(2)破産や不動産競売となって支払が途絶えたときは破産又は競売を理由とする解除が有効であるとして,解除後に競売手続によって本件建物を取得したYは,本件土地の借地権を取得しないと主張した。

これに対し,Yは,(1)については,本件未払賃料が27万2120円であるのに対し,本件建物の買受金額は4533万6000円であったことからすれば,未払賃料は少額であるなどからすれば,賃貸人たるXとの間に信頼関係の破壊は存在しない,(2)賃借人の破産又は借地上の建物の競売を解除事由とする特約は,破産法53条1項及び借地借家法9条の趣旨に反し無効であると主張した。

3 裁判所は,(1)については,①賃貸借契約は,当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから,賃料不払いなどの賃借人の債務不履行があった場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,民法612条の解除権が発生しないものと解するのが相当である(最高裁昭和39・7・28判決),また,②賃貸借契約において無催告解除特約が付されている場合,当該特約は,賃料が約定の期日に支払われず,そのため契約を解除するに当たり催告をしなくても不合理とは認められないような事情が存する場合には,催告なしで解除権を行使することが許されるとの趣旨の約定として有効であると解される(最高裁昭和43・11・21判決)とする2つの最高裁判例を踏襲し,本件未払賃料が2か月分の27万2120円である一方,本件賃貸借契約は約17年間という長期の存続が予定されている上,Yは本件建物と本件借地権を合わせて4533万6000円で買い受けていることから,本件建物及び本件借地権の価値よりも未払賃料は僅少であるといえるなどとして,本件土地の賃料の支払を催告しないことが不合理とは認められないような事情が存在するということはできず,本件解除が有効であるとはいえないとした。

また,(2)については,賃借人が破産又は競売の申立てを受けたときに賃貸人が無催告解除を行いうる旨の本件の特約は,不合理であるとは認められないような事情がなく,借地借家法9条により無効であるとし,解除は有効であるとは認められないとした(最高裁昭和38・11・28判決)。

4 無催告解除特約は,解除するに当たり催告をしなくても不合理とは認められないような事情が存する場合には,催告なしで解除権を行使することが許されるとされているが(最高裁第一小法廷昭和43・11・21判決),賃料不払のみを原因として無催告解除を認める事案は少ない(肯定例として,東京地裁平成23・3・22判決(不払期間が29か月),東京地裁平成23・2・23判決(不払期間8か月。否定例として,東京地裁平成23年3月31日判決(不払期間10か月),東京地裁平成20・6・5判決(不払期間2か月)。

解除における催告は,相手方に翻意の機会を与えるために要求されているものであることをふまえると,催告をしなくても不合理とは認められない事情とは,極端な用法違反を伴う場合等のように信頼関係の破壊が著しい場合に限られるであろう(最高裁昭和49・4・26判決,最高裁昭和38・11・14判決)

このような判例の状況をふまえると,本裁判所の判断は妥当なものというべきであろう。もっとも,代理人としては無催告解除をすることがやむを得ない場合もあることにも,十分に留意するべきである。


■参考判例 最高裁第一小法廷昭和43年11月21判決〔無催告解除特約の有効性〕

■参考判例 最高裁第三小法廷昭和38年11月28判決〔賃料不払を理由とする建物賃貸借契約の解除〕

■参考判例 東京地裁平成23年3月31判決〔無催告解除(特約)に基づく解除(消極)〕

主文

 一 原告の請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第一 請求の趣旨

 一 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載二の建物(以下「本件建物」という。)を収去して,同目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)を明け渡せ。

 二 被告は,原告に対し,平成二三年一月四日から前項の土地明渡し済みまで月額一三万六〇六〇円の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

 本件は,本件土地の所有者である原告が,本件建物の所有者であったB(以下「B」という。)との間の本件土地についての賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を,Bの賃料不払等を理由に解除した(以下「本件解除」という。)と主張し,担当不動産競売により本件建物の所有権を取得した被告に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物の収去及び本件土地の明渡し並びに被告が本件建物の所有権を取得した日である平成二三年一月四日から本件土地明渡し済みまで月額一三万六〇六〇円の割合による使用損害金の支払を求めた事案である。

 一 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

  (1) 原告は,Bに対し,平成二〇年七月一七日,下記の約定で本件賃貸借契約を締結した。

   記

 目的 建物所有

 期間 平成一九年一二月一日から二〇年間

 賃料月額 月額一三万六〇六〇円

 支払方法 当月分を毎月末日限り支払う。

 解除 賃借人が次の事項に該当するときは,賃貸人は催告を要せず,本件賃貸借契約を解除することができる(以下「本件無催告解除特約」という。)。

   ① 賃料の支払を怠り,その額の合計が賃料の二か月分に達したとき

   ② 賃借人につき,競売,破産があったとき

  (2) 当庁は,平成二一年八月三日,Bに対し破産手続開始決定をし(当庁平成二一年(フ)第一四〇二七号),破産管財人にC弁護士が選任された(以下,この破産事件を「本件破産事件」といい,同破産事件の破産管財人であるC弁護士を「本件破産管財人」という。)。

  (3) 本件破産管財人は,平成二二年四月一五日,本件建物を本件破産事件の破産財団から放棄した。

  (4) SMBC債権回収株式会社(以下「SMBC」という。)は,同月二二日,株式会社三井住友銀行(以下「三井住友」という。)の委託を受けて,三井住友の根抵当権に基づき,本件建物につき,当庁に対し,担保不動産競売を申し立て,当庁は,同年五月一七日,担保不動産競売開始決定をした(当庁平成二二年(ケ)第七八八号。以下,この開始決定に基づく不動産競売手続を「本件競売手続」という。)。

  (5) 当庁は,同月二五日,SMBCの申立てに基づき,本件建物の所有を目的とする本件賃貸借契約について,建物所有者であるBが支払わない平成二二年五月分以降本件競売手続における売却許可決定に基づく代金納付の日までの地代を,SMBCがBに代わって弁済することを許可する旨の地代代払許可決定(以下「本件地代代払許可」という。)をした。

  (6) 当庁は,同年六月三日,本件破産事件について,破産手続終結決定をした。

  (7) 原告は,本件破産管財人から平成二一年八月分から平成二二年三月分までの本件土地の賃料を受領したものの,同年四月分及び五月分の賃料が本件破産管財人ないしBのいずれからも支払われなかったため,同年六月一一日,Bに対し,同年四月分以降分の地代が未払となっているため本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

  (8) 被告は,平成二三年一月四日,本件競売手続における売却許可決定に基づく売却代金として四五三三万六〇〇〇円を納付し,本件建物の所有権を取得した。

  (9) 被告は,原告が本件賃貸借契約に基づく借地権(以下「本件借地権」という。)の譲渡を承諾しないことから,同月一四日,当庁に土地賃借権譲受許可の申立てをした(当庁平成二三年(借チ)第三〇〇一号)。

 二 争点

  (1) 本件無催告解除特約に基づく本件解除の有効性

 (原告の主張)

 本件賃貸借契約は,本件無催告解除特約に基づく本件解除により終了しており,その後に本件競売手続における売却許可決定に基づく代金納付により本件建物の所有権を取得した被告が,本件借地権を取得することはない。本件無催告解除特約に基づく本件解除が有効であることは,次に述べるとおりである。

   ア 賃料不払を理由とする解除について

 Bは,平成二二年四月分及び五月分の合計二か月分の本件土地の賃料を支払っておらず,賃料の支払が賃借人の最も重要な義務であることからすれば,重大な契約違反に当たる。また,Bは,平成二一年八月三日に破産手続開始決定を受けた者であり,賃料の支払能力を欠いている上,本件建物に居住していなかったこと,本件建物については既に本件競売手続が開始されており,Bが本件土地の賃料を支払っても,本件建物の所有権を確保することはできなかったこと,Bは,平成二二年四月二一日に破産免責を受けており,本件建物の売却による債務返済額の多寡に関心がなかったことなどからすれば,Bに本件土地の賃料を支払う動機は全くなかったといえるから,同人に支払を催告する実益はなく,無催告解除特約を無効とする理由はない。

 この点,被告は,後記のとおり,原告ないし原告の子で本件土地の実質的管理者であるD(以下「D」という。)が,SMBCの地代代払の意向を知ったなどと主張するが,原告は,SMBCの担当者から何らの申出も受けておらず,同担当者はDに会いたいと言っただけで具体的な申出は何も行っていない。

 また,被告は,後記のとおり,平成二二年四月分以降のSMBCないし被告による賃料の弁済供託をもって信頼関係の破壊は存在しないかのように主張するが,そもそも解除の有効性は,解除当時の事情で判断すべきであり,解除後にされた上記弁済供託によりそのようにいえるものではない。また,本件地代代払許可は,平成二二年五月分以降の賃料について弁済を許可するにとどまるものであるから,SMBCによる同年四月分の賃料の供託は不適法である。

 以上によれば,Bの背信性は明らかで,合計二か月分の賃料不払を理由とする本件無催告解除特約に基づく本件解除は有効である。

   イ 破産又は競売を理由とする解除について

 本件無催告解除特約において,破産又は不動産競売となった場合に無催告解除ができるとしているのは,このような場合に安定した賃料の支払が期待できないからであり,したがって,破産や不動産競売となっても現実に賃料の支払が継続されている場合は,当該事由に基づく解除権行使は制約されるとしても,賃料の支払が途絶えたときには,これらの事由に基づく解除は認められるべきであり,本件はかかる場合に当たる。

 (被告の主張)

 本件賃貸借契約は本件解除により終了しておらず,本件建物の所有権を本件競売手続における売却許可決定に基づく代金納付により取得した被告は,本件借地権を承継取得したものであり,原告が主張する本件解除は,次に述べるとおりいずれも有効であるとは認められない。

   ア 賃料不払を理由とする解除について

 本件解除の意思表示時の未払賃料は,二か月分の二七万二一二〇円と少額であり,未払の期間も,平成二二年四月分ですら一か月半程度と短い。一方で,本件建物の価値は,本件競売手続における評価額で五六六七万円,実際に被告が買い受けた代金額が四五三三万六〇〇〇円であったことからすれば,この価値に比して未払賃料が僅少であることは明らかであるから,本件借地権を存続させることにより,三井住友及び被告を保護する必要性は高い。

 また,原告の子であり本件賃貸借契約の実質的な管理者であったDは,平成二二年五月二八日の時点で,本件借地権の存続につき重大な利害関係を有しているSMBCが地代代払の意思を有していることを認識していたから,原告においても,本件解除の意思表示前にSMBCの地代代払の意思を認識していたことは明らかであり,現に,SMBCないし被告は,賃料の弁済供託を適切に行っている。この点,原告は,SMBCによる同年四月分の賃料の供託は不適法である旨主張するが,弁済供託の有効性は地代代払許可の有無とは無関係であり,SMBCは,借地権付き建物の抵当権者という利害関係のある第三者として,本件土地の賃料を弁済することができるから,SMBCによる同月分の地代の弁済供託は有効である。

 以上によれば,本件土地の賃借人の側に背信性を基礎付ける事情はなく,信頼関係の破壊は存在しないから,本件において合計二か月分の賃料不払を理由とする無催告解除が有効であるとは認められない。

   イ 破産又は競売を理由とする解除について

 そもそも,賃借人の破産又は借地上の建物の競売を解除事由とする特約は,破産法五三条一項及び借地権者の保護を図る借地借家法九条の趣旨に反して無効である。

 また,賃借人の破産又は借地上の建物の競売を解除事由とする特約の趣旨は,賃借人にこのような事態が生じた場合,一般的に賃料の不払が見込めなくなるか賃料の支払能力に疑義が生じ,賃貸借契約における信頼関係が崩れるため,賃貸人保護の観点から早期の賃貸借契約の終了を可能にする点にあると解されるところ,本件においては,原告は,本件破産管財人から賃料の支払を受けており,かつ,上記アで述べたとおり本件解除の前に地代の支払を容易に受けることができたこと,その後,SMBCないし被告が賃料の弁済供託を適切に行っていたことからすれば,上記趣旨は妥当せず,むしろ担保価値を実現するために適切な措置をとった別除権者(三井住友)及び高額な金額で本件建物と本件借地権を買い受けた買受人(被告)を保護する必要性は高い。したがって,背信性を基礎付ける事情はなく,信頼関係の破壊は存在しないから,本件において破産又は競売を理由とする無催告解除が有効であるとは認められない。

  (2) 使用損害金

 (原告の主張)

 上記(1)(原告の主張)で述べたとおり,被告は,本件土地上に不法に本件建物を所有して本件土地を占有しているので,この使用損害金は月額一三万六〇六〇円と認めるのが相当である。

 (被告の主張)

 否認ないし争う。

第三 当裁判所の判断

 一 争点(1)について

  (1) 証拠等から認められる事実

 前提事実,証拠〈省略〉によれば,次の事実が認められる。

   ア Dは,原告の長男であるところ,原告が取締役を務め,土地,建物の賃貸及び管理等を目的とする有限会社b(同社は,平成二〇年一二月一〇日,商号変更し,株式会社bに移行した。)の代表取締役として本件賃貸借契約の締結にも立ち会っており,同社の商業・法人登記情報には原告と同一の住所が登録されている。原告は,Dに不動産の管理を手伝わせており,Dは,重要なことや判断が必要なことについては必ず原告に相談していた。

   イ SMBCは,平成二二年五月七日ころ,本件破産管財人に対し,本件土地の地代の支払状況を確認したところ,平成二二年四月分までの地代は支払っているが,同年五月分以降の地代は支払わない旨回答を得たため,前提事実(5)のとおり本件地代代払許可を得た。

   ウ SMBCの担当者であるE(以下「E」という。)は,原告に対して地代の代払を行うため,平成二二年五月二七日午前一一時ころ及び午後三時五〇分ころ,原告の住所地に所在するa幼稚園の原告宛に電話をかけたところ,Dが不在であったため,翌二八日午前九時一五分ころ,再度電話をかけ,Dに対し,本件建物の担保権者である三井住友の関連会社として,SMBCが裁判所から本件地代代払許可を受けたこと,Bに代わり原告に本件土地の地代の代払を行うことなどを説明した。これに対し,Dは,地代の支払は本件破産管財人が窓口と思っており,本件破産管財人から説明を受けて今の状況が分かってからでないと答えられない旨回答した。そのため,Eは,本件破産管財人に対し,現在の状況について原告に説明をするよう依頼し,同年六月七日午前一一時ころ,Dの携帯電話に連絡し,本件破産管財人から連絡があったかどうかを確認したが,まだ連絡は来ていないと言われたため,再度,本件破産管財人に原告への説明を依頼した。そして,Eは,同日午後五時ころ,改めてDに電話連絡し,Dが本件破産管財人から連絡を受けたことが確認できたことから,Dに対し,地代代払の件で一度説明に伺いたい旨伝えたところ,Dは,どのように対応するか相談するので翌日午前一〇時ころに連絡が欲しい旨回答した。

 そこで,Eは,同月八日午前一〇時ころ,Dに電話連絡したが,留守番電話になっていたため,メッセージのみを登録し,同日午前一一時ころと午後四時ころにもDに電話をかけたが,不在であり,さらに,同日午後五時一〇分ころにもDに電話連絡したが,留守番電話になっていたため,再度メッセージのみを登録した。

 Eは,同月一四日,Bの代理人弁護士から,原告訴訟代理人より本件賃貸借契約に関する通知書を受け取ったとの連絡を受けたため,同日午後四時一〇分ころ,原告訴訟代理人と連絡を取り,裁判所から本件地代代払許可を得たので地代の代払を行いたい旨説明したが,原告訴訟代理人は,原告は既に本件賃貸借契約を解除したという立場であり,地代の代払を受けることはできない旨回答した。

   エ 原告は,平成二二年六月四日,本件競売手続に係る執行官の照会に対して回答する件を,原告訴訟代理人に委任し,原告訴訟代理人は,同月一六日付け「土地賃貸借契約等に関する回答書」を当庁執行官に提出した。

   オ 本件競売手続における本件建物と本件借地権の評価額は五六六七万円であったところ,被告は,売却代金として四五三三万六〇〇〇円を納付してこれを買い受けた。

   カ SMBCは,平成二二年六月一六日,同年四月及び五月分の本件土地の賃料並びにこれらに対する提供が遅れた期間につき年六分の割合による遅延損害金を供託し,以後,同年六月分から平成二三年一月三日までの本件土地の賃料をそれぞれ支払期限内に全額供託した。また,被告は,本件建物と本件借地権の買受代金を納付した日である平成二三年一月四日から同年九月分までの本件土地の賃料をそれぞれ支払期限内に全額供託した。

  (2) 賃料不払を理由とする解除について

   ア 賃貸借契約は,当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから,賃料不払などの賃借人の債務不履行があった場合においても,賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは,民法六一二条の解除権は発生しないものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年七月二八日第三小法廷判決・民集一八巻六号一二二〇頁)。また,本件賃貸借契約においては,本件無催告解除特約が付されているところ,当該特約は,賃料が約定の期日に支払われず,そのため契約を解除するに当たり催告をしなくても不合理とは認められないような事情が存する場合には,催告なしで解除権を行使することが許されるとの趣旨の約定として有効と解される(最高裁昭和四三年一一月二一日第一小法廷判決・民集二二巻一二号二七四一頁参照)。

   イ これを本件についてみると,前提事実(1)及び上記(1)オによれば,本件解除の意思表示の時点における本件土地の未払賃料は二か月分の二七万二一二〇円である一方,本件賃貸借契約は,本件解除直前においては,約一七年間という長期の存続が予定されており,本件借地権と合わせた本件建物の価値は,本件競売手続における評価額で五六六七万円(なお,乙一七によれば,市場性修正,競売市場修正をする前の評価として七八一〇万円と評価されている。),被告はこれを四五三三万六〇〇〇円で買い受けたことが認められるから,本件建物及び本件借地権の価値に照らして,未払賃料の額は僅少であるということができる。

 また,上記(1)カによれば,本件土地の賃料の未払期間は,平成二二年四月分について一か月半程度,同年五月分について半月程度と比較的短いものであり,それ以外に,破産手続中も含め,賃料不払があったとは認められない。

 さらに,上記(1)アないしエによれば,SMBCが,平成二二年四月分の賃料につき,地代代払許可を得ることなく,一か月半も未払の状態であった理由は,同年五月七日に,本件破産管財人に対し問い合わせた際,本件土地の地代は四月分まで支払済みであるとの回答を受け,その旨誤信したことによると思われること,それでも,その直後の同月二二日には,本件地代代払許可を得た上で,本件解除前に,Eが,原告の子であり,原告の不動産の管理を手伝っていたDに対し,地代代払の意向を電話で伝え,その後も,地代代払を説明するためDに何回も電話をかけていること(したがって,実質的には原告と交渉しているとSMBCが想定しても不合理とは言い難い),同年六月二二日には,遅延損害金も含めて全額弁済供託がされており,その後も支払期限内に弁済供託がされていることが認められ,以上の認定によれば,SMBCの対応が背信的であるとは認められず,むしろ,可能な限り原告との信頼関係を維持すべく誠実に対応したということができる。

 一方で,確かに,Bは本件破産手続中であったもので,資力がないことが明らかな同人に,本件土地の賃料の支払を催告する実益はないようにも思われるが,Bは,三井住友のため本件建物に担保権を設定しているのであるから,同社に対して担保保持義務を負うべきものであり,これを履行するために新得財産等から賃料等の支払を継続することは十分に考え得るところである。また,原告からBに賃料の支払の催告がされたことで,Bを通じて本件賃貸借契約の解除の可能性があることを,担保権者である三井住友が知り,同社が賃料の代払をすることも十分に考え得るところであるから,本件土地の賃料の支払を催告する実益がないとはいえない。

   ウ 以上によれば,本件解除がされた当時,本件賃貸借契約を解除するに当たり,本件土地の賃料の支払を催告しないことが不合理とは認められないような事情が存するということはできないから,本件無催告解除特約に基づく原告の解除権は発生しないと解するのが相当である。したがって,本件解除が有効であるとは認められない。

  (3) 破産又は競売を理由とする解除について

 土地の賃借人が,破産又は競売の申立てを受けたときは,賃貸人が催告を要せずして何時でも契約を解除し得る旨の特約が,事情のいかんを問わず無条件に賃貸人に契約解除権を認めるものであるとすれば,借地借家法九条の規定により無効といわざるを得ない(最高裁昭和三八年一一月二八日第一小法廷判決・民集一七巻一一号一四四六頁)。

 そして,上記(2)で認められる事情に照らせば,原告がBに対し,破産又は競売の申立てを理由に,催告を要せずして本件賃貸借契約を解除しても不合理であるとは認められないような事情が存在するともいえない。

 したがって,本件においては,破産又は競売を理由とする本件賃貸借契約の解除権は,本件無催告解除特約によっても,発生しないと解するのが相当であるから,本件解除が有効であるとは認められない。

  (4) まとめ

 以上によれば,被告が本件建物の所有権を取得するよりも前に本件賃貸借契約が本件解除により終了したことを前提とする原告の請求は理由がない。

 二 結論

 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して,主文のとおり判決する。