(参考判例)名古屋地裁平成24年11月21日判決〔後遺障害14級9号の労働能力喪失期間の制限〕

14級9号の事案で,労働能力喪失期間が5年以下に制限された事案(4年とされた事案)。

■判例 神戸地裁平成25年10月10日判決〔後遺障害14級9号の労働能力喪失期間の制限〕

主文

 1 被告は,原告に対し,162万1397円及びこれに対する平成23年6月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 訴訟費用は,被告の負担とする。

 3 この判決は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要

 本件は,後記交通事故(以下「本件事故」という。)により受傷したB(以下「B」という。)の損害に関し,保険金を支払った原告が,被告に対して,求償(損害賠償請求)した事案である。

 1 争いのない事実等(証拠を挙げていない事実は争いがない。)

  (1) 本件事故

   ア 発生日時 平成21年10月7日午前9時48分ころ

   イ 発生場所 名古屋市中区錦3丁目11番29号先路線上(本町線)

   ウ 被告車 被告運転の普通乗用自動車

   エ 原告車 B運転の普通乗用自動車

   オ 態様 原告車に被告車が追突した。

  (2) 被告は,前方を注視し,前車との適正な車間距離を保って前車に追突しないようにする注意義務があるのにこれを怠り,本件事故を起こしたものであり,民法709条,710条に基づきBに生じた損害を賠償すべき義務がある。また,被告は,被告車を保有し,かつ,自己のために運行の用に供していたから,自賠法3条の運行供用者に該当し,同条の定める責任を負担する(甲1,31,32)。

  (3) 原告は,Cとの間で,平成20年8月10日自動車保険契約を締結しており,これに基づき,平成23年5月31日までの間に,合計357万1397円を支払った(甲29,30)。

  (4) 原告は,自賠責保険から195万円の支払を受けた(甲30)。

 2 争点

  (1) Bの後遺障害の有無

 (原告の主張)

 Bは,本件事故により頚椎捻挫等の傷害を負い,局所に神経症状を残すものとして後遺障害等級14級9号の後遺障害が発生した。本件事故により破損した原告車の修理費は約30万円を要したものであり,本件事故は被告が主張するほどの軽微な事故であったということはできない。

 (被告の主張)

 否認する。被告車がクリープ現象の状態で軽く原告車に当たっただけなのに,Bに後遺障害等級14級の後遺症が残ることはありえない。

  (2) 損害額

第3 当裁判所の判断

 1 争点(1)(Bの後遺障害の有無)について

  (1) 証拠(甲1ないし32〈枝番を含む〉,被告)によれば,以下の事実が認められる。

 赤信号で停止し,後部座席の鞄からたばこをとろうとしてブレーキから足を外した被告車が,停止している原告車に追突した。

 被告車はプレマシーで,原告車はBMWである。原告車は修理に約30万円を要した。

 Bは,頚部挫傷の傷害を負い,こばやし整形外科に平成21年10月8日から平成22年5月31日まで(実通院日数98日),柴田整形外科に平成22年6月1日から同年9月30日まで(実通院日数50日),こうの整形外科クリニックに平成22年10月4日から平成23年3月12日まで(実通院日数72日),それぞれ通院した。

 自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(甲27)が作成されている。傷病名は頚椎捻挫,自覚症状は頚部痛,他覚症状および検査結果には,頚部運動制限なし,知覚障害なし,両上肢腱反射正常,ジャクソンテスト,スパーリングテスト頚部痛+,上肢症状なし,X-P検査,C6-7椎間腔狭小化ありと記載されている。

 そして,Bは,事前認定で後遺障害14級9号の認定を受けている。

  (2) そこで,検討する。

 被告は,クリープ現象によって被告車が前進し,原告車に衝突したものであり,原告車のバンパーに穴はあいておらず,傷もついてなく,大きな衝撃ではなく,後遺障害を負うような怪我はしないと主張,供述するが,原告車は約30万円をかけて修理しており,Bは追突を予期しておらず,予期しない衝撃であれば,比較的小さな衝撃であっても,傷害を負うことはありうることであって,クリープ現象だからといって,後遺障害を負うことはないということはできない。

 そして,原告の通院状況,自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書に不自然な点は認められず,Bは,本件事故により後遺障害14級の後遺症を負ったものと認められる。

 2 争点(2)(損害額)について

  (1) 治療費(請求・認容額120万3943円)

 Bは,本件事故により,前記のとおり通院し,治療費として合計120万3943円を要したことが認められる(甲2ないし26〈枝番を含む〉)。

  (2) 通院費(請求・認容額7万9070円)

 弁論の全趣旨によると,こばやし整形外科につき電車で片道260円を要し,98日分,柴田整形外科につき自家用車で通院し,往復1キロメートルで,1キロメートル当たりガソリン代15円で50日分,こうの整形外科クリニックにつきバスで片道190円で72日通院しており,通院費は合計7万9070円となる。

  (3) 傷害慰謝料(請求・認容額84万7350円)

 Bは,本件事故により1年5月の通院を要する傷害を負い,本件で現れたその他の諸事情を考慮すると,傷害慰謝料額は84万7350円を下らない。

  (4) 後遺障害逸失利益(請求・認容額104万1034円)

 Bは,症状固定時46歳であり(甲27),年齢別平均賃金月48万9300円であり,12か月の587万1600円を基礎収入とするのが相当であり,そして,後遺障害14級で5パーセントの労働能力を4年間喪失したものと認められ,逸失利益は原告の請求どおり104万1034円となる。

 (原告の請求 587万1600円×0.05×3.5460)

  (5) 後遺障害慰謝料(請求・認容額40万円)

 Bは,本件事故により後遺障害14級の後遺症が残ったものであり,本件で現れたその他の諸事情を考慮すると,後遺障害慰謝料は40万円を下らない。

  (6) 以上合計

 357万1397円

  (7) そして,原告は,前同額を支払っており,Bの損害賠償請求権を代位したものである。そして,受領した自賠責保険の195万円を控除すると,162万1397円となる。

 3 よって,原告の本件請求は理由がある。