(参考判例)福岡高裁平成25年3月28日判決

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 コンビニエンス・ストアをチェーン展開するフランチャイザーであるYと加盟店契約をそれぞれ締結し加盟店を経営してきたフランチャイジーであるXらが,YがXらの支払うべきロイヤリティの算定等の説明を怠り,また,原告らの販売する米飯等,短期の販売期限が設定されたデイリー商品の値下げ販売を禁止したとして損害賠償請求した事案。

2 原審が,説明義務違反等は認められないが,値下げ販売禁止の指導が価格決定権を侵害するとして民訴法248条に基づき損害額を算定し損害賠償を一部認容したが,説明義務違反もなく,フランチャイズ契約における指導助言義務に基づく助言,指導を行ったにすぎず,再販売価格の強制や自由な意思決定の妨害は認められなく,1審原告の請求に理由がないとして,一審敗訴部分につき原判決を取り消し,1審原告の請求を棄却した事案。

■判例 東京地裁平成26年6月19日判決〔FTTHサービス参入妨害差止請求事件(消極)〕

審級関係

福岡地裁平成23年9月15日判決(原審)

主文

 1 1審原告の控訴を棄却する。

 2 1審被告の控訴に基づき,原判決中,1審被告の敗訴部分を取り消す。

 3 上記部分につき,1審原告の請求を棄却する。

 4 訴訟費用は,1,2審を通じ,1審原告の負担とする。

 

 

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

 1 控訴の趣旨

 (1審原告)

  (1) 原判決を次のとおり変更する。

  (2) 1審被告は,1審原告に対し,2638万6682円及びこれに対する平成20年6月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

  (3) 訴訟費用は,1,2審とも1審被告の負担とする。

  (4) 仮執行宣言

 (1審被告)

 主文2ないし4項に同旨

 2 控訴の趣旨に対する答弁

 (1審被告)

 主文1項に同旨

 (1審原告)

 1審被告の控訴を棄却する。

第2 事案の概要

 1 本件は,コンビニエンスストアのフランチャイジー(以下「加盟店」という。)であった1審原告が,フランチャイザーである1審被告に対し,競合店を出店させたことが債務不履行及び不法行為に当たる,加盟店がロイヤリティとして支払う契約上の対価である「セブン-イレブン・チャージ」(以下「チャージ」という。)の算定等に関する説明を怠ったことが債務不履行及び不法行為に当たる,米飯・チルド等の毎日納品される商品で短期間に鮮度が失われる商品(以下「デイリー商品」という。)について再販売価格を拘束したことが不法行為に当たる(当審で債務不履行の主張も追加。),仕入先からの仕入代金に一定金額を上乗せした金額を1審原告から取得したことが不当利得に当たると主張し,上記債務不履行及び不法行為に基づく損害賠償請求並びに不当利得に基づく返還請求として,合計2638万6682円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 原判決は,1審原告の請求のうち,上記説明義務違反及び再販売価格を拘束したことによる不法行為を認め,再販売価格を拘束したことによる損害金200万円及び弁護士費用20万円の合計220万円及びこれに対する上記遅延損害金の請求を認容し,その余を棄却したので,1審原告及び1審被告の双方が控訴を提起した。

 2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,3ないし6のとおり,当審における主張を付加するほかは,原判決の「第3 事案の概要」の「1 前提事実」欄,「2 争点」欄及び「3 争点に関する当事者の主張」欄に記載(2頁19行目から21頁11行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

 ただし,原判決5頁2行目の「a二丁目」を「a町二丁目」と改め,同13頁6行目の「不法行為」の前に「債務不履行ないし」を加え,同14頁25行目の「平成17年1月から」を「平成16年12月16日から」と改める。

 3 争点(1)(1審被告がb店を出店させたことが債務不履行ないし不法行為に当たるか)について

  (1) 1審原告の主張

   ア 原判決は,競合店出店が信義則違反となる要件として,①本件店舗の売上げに与える影響の程度,②1審原告の生活に与える影響の程度,③1審被告の認識ないし認識の可能性を挙げ,②については,生活が困難になるという事実を要求しているようである。

 しかし,加盟店が1審被告と加盟店契約を締結するときには,営業をする前提条件,一定額の売上げの見込みを与えられるのであり,その後の競合店の出店はその前提条件に対し,ほかならぬ1審被告が影響を与えるのであるから,加盟店オーナーの生活が困難にならなければ信義則違反とならないというのは明らかに誤りである。また,1審被告が,競合店と商圏が競合する店舗への影響を認識できないはずもなく,1審被告の認識を要件とする必要などない。したがって,信義則違反の要件としては,①本件店舗の売上げに与える影響の程度,②開店時の事業見込み(事業計画)に重大な影響を与えるものか,③開店からの本件店舗の営業の経過等を要件とすべきである。

   イ 原判決は,1審原告の利益が94万3000円を下回るような競合店を出店させないとの個別合意をしたという1審原告の供述の信用性を否定している。

 しかし,1審原告は,経営していたファミリーマート店に十分な収入があったにもかかわらず,ファミリーマート店の競合店出店を嫌悪して1審被告のフランチャイジーとなるのであるから,1審原告にとって,その収入と1審被告の営業方針は最も重要な事項であり,かつ,1審被告にとっても,それだけ売上げが見込める店舗を得ることができるのであるから,1審原告と1審被告が競合店出店に関する個別合意をすることは極めて合理的である。また,仮に個別合意とまではいえないとしても,このような経緯をもって1審原告と1審被告が本件契約を締結したことは,信義則違反の認定における重要な考慮要素となる。

   ウ 1審被告は,博多地区の他店舗の売上げの平均値と比較し,それと対比して本件店舗の経営が悪化したのは1審原告の運営方針のためであると主張する。しかし,競合店があれば,経営努力いかんにかかわらず売上げが低下するのがコンビニエンスストアなのであるから,平均値との比較において本件店舗の売上等が低下したからといって,本件店舗の運営方針を批判することは的外れである。かえって,平均値と個々の店舗のデータを比較して判明することは,本件店舗の固有の要因(多くは外的要因)の影響である。

 すなわち,平成14年3月を境に本件店舗は博多地区平均日販を下回るようになる。この時期には1審被告c店が開店している。同年5月以降になると,本件店舗の日販は平均値と概ね5万円の差が出るようになる。この時期はd店の開店時期と重なる。次に,平成16年3月以降,本件店舗の日販が減少している。これは,同時期に本件店舗の最寄駅であるe駅内のスーパーが24時間営業を開始したことによる。さらに,同年秋には本件店舗の商圏内にあるスーパー(f店)も24時間営業を開始したために,同年末にかけて本件店舗と博多地区平均値の日販で概ね10万円の差が生じるようになった。

 そして,平成17年2月から,上記日販は概ね17万円から20万円の差が生じるようになった。この外的要因こそがb店の開店である。

 本件店舗は,平成13年には日販が60万円から70万円であったところ,平成16年には45万円から50万円と,約3割も低下している。そして,b店の出店により,日販は40万円から45万円まで低下した。こうなると,多額の投資をして開店した当初の見込みは崩れ去り,1審被告のいう負のスパイラルを招くことになる。この負のスパイラルに追い込んだのがほかならぬ1審被告自らの競合店の出店であるから,その違法性は甚だしく,信義則上も違法といわざるを得ない。

   エ 1審被告は,b店の出店による本件店舗への影響を予測できなかった旨の主張をするが,上記のとおり,1審被告の認識は信義則違反の要件とすべきではなく,仮に要件とするとしても,1審被告は新規出店に際し念入りに市場調査をしており,本件店舗に来店していた地域の顧客の来店を見込んでいなかったはずはない。1審被告担当者もb店の出店が本件店舗にとってマイナス要素となることは認識していたことも証拠上あらわれている(乙61の11)。

  (2) 1審被告の主張

 b店の出店が1審被告の債務不履行又は不法行為を構成しないことは,原判決が正当に認定したとおりである。

 4 争点(2)(1審被告はロイヤリティ算定方式について説明義務を怠ったか(債務不履行及び不法行為の成否))について

  (1) 1審原告の主張

   ア 1審被告には,原判決が認めた①被告方式において,ロイヤリティ算定の基礎となる売上総利益の算出において売上高から控除される「売上商品原価」には廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が含まれないことだけでなく,②その結果,廃棄ロスや棚卸ロスが発生した場合に加盟店側の最終利益がどのような影響を受けるかについての具体的な説明,③1審被告傘下の加盟店における廃棄ロスや棚卸ロスの平均量の提示,④売上規模の縮小均衡や販売機会をロスする危険性の理解と同時に,仕入量の調整を図ることが重要である旨の説明,⑤単品管理の理解と実践と同時に,見切り販売をする方策の提示とそれが禁じられていないことの積極的な説明についての説明義務も認められるべきである。

   イ 1審被告に説明義務が課せられるのは,原判決が述べるチャージ金額が不利な点だけではない。チャージ算定に被告方式が採用されることによって,商品の仕入れや見切り販売など経営上様々な局面において一般的な方式の場合とは異なる事態が生じることから,被告方式が採用されることによって発生する影響を正確に把握していることが,加盟店が適切な経営判断をする上で不可欠であるから,廃棄ロスや棚卸ロスが発生した場合に加盟店側の最終利益がどのような影響を受けるか(上記②)及び加盟店における廃棄ロスや棚卸ロスの平均量の提示(上記③)についても説明義務が認められるべきである。

   ウ 原判決は,1審被告の経営指導の下,加盟店が置かれた状況に対する認識を欠いている。すなわち,原判決(37,38頁)は,説明義務の内容のうち,仕入量の調整を図ることが重要であること(上記④)及び見切り販売をする方策の提示とそれが禁じられていないこと(上記⑤)について,説明を受けなければ理解できないものではないとの認識に立っている。しかし,加盟店は,1審被告の経営指導によって,欠品させないための過剰な仕入れが強制されているものと思い込まされ,値下げ販売が禁止されていると思い込まされていた。

 1審被告にとって,機会ロスを防止するという観点(チャージを確保するという観点)からすれば,仕入量は多いほど好ましいが,加盟店の立場からすれば,過剰な仕入れは売れ残りの危険性を高める。こうして売れ残りの危険が発生した場合,加盟店は見切り販売により損失を回避する必要性が生じるが,1審被告の考え方からすれば,そのような損失が発生しても推奨価格での販売が好ましいことになる。1審被告は,加盟店の信頼を利用して,上記のような利害対立の存在を隠し続け,通常の小売店主がなすべき適切な判断をすることができない状態に置いていた。

   エ 会計処理に関する説明を受けていなかったこと

 1審原告は,1審被告と本件契約を締結する前にファミリーマート店を経営していた際には,従前から税務申告を税理士に委ねていたことに加え,ファミリーマート店経営時のデイリー商品の廃棄量は本件店舗経営時と比べて大幅に少なかったことから,コンビニ会計の特殊性に気がつく契機がなかった。

 1審原告は平成14年5月頃に差出人不明の者から葉書を受け取った後,ウェブサイトでいろいろと調べるうちに,1審被告の会計方式が一般会計(原価方式)ではないことに何となく思い至るようになった。しかし,1審原告は,平成16年12月9日(乙61の3)の時点においても廃棄ロス自体にチャージがかかっているものと認識し,同月25日(乙61の6),31日(乙61の7),平成17年1月8日(乙61の8)の時点においても,いまだ被告方式の理解は進んでいなかった。

  (2) 1審被告の主張

   ア 原判決は,「当該契約の契約内容,契約締結前後の経緯,加盟店となろうとする者又は加盟店の知識及び経験等の事情によっては,本部は,当該契約に付随する信義則上の義務として,加盟店となろうとする者又は加盟店に対し,チャージの算定方法について説明すべき義務を負う場合がある」旨を判示する。

 しかし,そこにいう事情として,1審原告が1審被告と同様のチャージの算定方式を採用していたファミリーマート店をファミリーマートフランチャイズ契約(乙62)に基づいて約6年間経営していたこと,当該契約においては,売上原価に廃棄ロス原価(当該契約にいうロス商品原価高)が含まれない旨が記載されていること(乙62・51頁以下),ファミリーマート店の平成6年及び平成7年の所得税青色申告決算書(乙31の1・2)には,廃棄ロス原価が「売上原価」欄ではなく,「経費」(営業費)欄に,「商品値下損」として明確に記載されていることを考慮すべきであり,これらの事情から,1審原告は,自己が廃棄ロス原価を経費(営業費)に計上しており,売上原価に計上していないことを認識していたと推認でき,その結果,1審被告は1審原告に対し上記説明義務を負わないと結論づけられるべきである。

   イ 原判決は,「企業会計上,一般には,売上原価に廃棄ロス原価や棚卸ロス原価が含まれるものとして理解され,そのように学習されている(以上につき,甲42,43,乙3,8,13ないし17,58,60)」と判示している。

 しかし,原判決の引用する乙3,8,13ないし17,58,60には,そのような内容は全く記載されておらず,むしろ,乙13(8頁),乙14の3(78頁),58の4(106頁),58の5(123頁)は,廃棄ロス原価が営業費に含まれるべきことの裏付けとなる証拠である。

   ウ 原判決は,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を営業費と売上原価の内訳科目とに二重に計上することはできないという知識が一般常識に属するとはいい難い旨を判示する。

 しかしながら,およそどのような活動の収支計算においても,同一の項目を二重に費用計上しないということは至極当然のことである。

   エ 原判決は,1審原告が損益計算書の記載内容を十分に理解していなかったこと(略)に照らしても,1審原告が,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が売上商品原価に含まれないことを認識しているとはうかがわれない旨を判示する。

 しかし,1審被告の従業員であるDは,1審原告に対し,「純売上原価」は「売れたものの原価」であることを説明しており,1審原告は,ファミリーマート店の経営経験を踏まえて,「売れないものの原価」は含まれないことを容易に理解できたはずである。

 また,原判決(22頁)が認定するように,1審原告は,1審被告から,損益計算書のサンプルを示され,売上げから純売上原価を引いた額が売上総利益(粗利)となり,これを本部のチャージとして43%,加盟店の総収入として57%に分配すること(粗利分配方式),営業費の中でも人件費,棚卸しの増減,不良品の3つが大きな額を占め,これらの3大営業費を上手にコントロールすることが最終的に利益を出すことにつながることなどについて説明を受けているのであるから,1審原告は,「純売上原価」が「総売上原価」から商品廃棄等(不良品)を差し引いて計算されていることについて理解しているものと経験則上推認できる。

 さらに,Dは,当時の平均日販の損益計算書を用いて上から順番に記載内容を説明しており,売上総原価から商品廃棄等が控除されて純売上原価が算出されること,すなわち,チャージ算定の基礎となる売上原価(ここでいう「純売上原価」)に廃棄ロス原価が含まれないことについて説明をしている。

 以上からすれば,1審原告は,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が売上商品原価に含まれないことを認識していた。

   オ 原判決は,一般的な方式,すなわち売上総利益の算出において売上原価から廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を控除しない方式と比較して,加盟店が負担するロイヤリティの額が高くなり,加盟店にとって不利な方式となっていると判示する。

 しかし,コンビニエンスストア経営に係るフランチャイズチェーンにおいては,1審被告と同じく,売上総利益を本部と加盟店の利益分配の対象とした上で,商品の仕入れ及び販売が加盟店の責任領域で行われることから,不良品及び棚卸減は営業費として加盟店負担とし,売上原価としない方式が一般である(平成13年10月に公正取引委員会が実施した調査においては,12のチェーン中,1審被告を含む11のチェーンが当該方式を採っていることが報告されている。)。

   カ 上記のとおり,1審被告に説明義務違反はない。また,1審原告は,商品の仕入原価は当然自分が負担すると理解していたと供述しており(1審原告84項),廃棄ロス原価が純売上原価に含まれないと認識していなかったとの供述は,上記供述と相容れず,信用性が認められない。

   キ なお,1審原告が,本件契約締結後,廃棄ロス原価の取扱いについて知悉していたことは,次に述べる1審原告の言動からも明らかである。

 (ア) 1審原告が損益計算書の構造を理解していたこと

 まず,1審原告は,本件店舗の開店当時の担当OFCであったF(以下「F」という。)に対し,本件店舗の開店直後,損益計算書の内訳については1審被告加盟前のファミリーマート店の経営の経験等から,十分理解している旨を繰り返し述べていた(乙83)。

 また,乙61の6(平成16年12月25日のDM業務日報)に添付された1審原告作成に係る損益計算書と題する書面(乙69の1添付)には,その「本部仕様」の欄の計算において,1審原告は,被告方式と同様に,「売上原価」の額から「商品廃棄等」の額を減算している。

 (イ) 不良品にチャージがかかっているとの誤解

 1審原告は,平成17年1月8日,1審被告に対し,「不良品にチャージがかかっているのではないか?」との疑問を呈しており(乙61の8),本件の審理が開始された後まで,廃棄ロス原価自体にチャージがかかっているものと勘違いしていたことにより,1審被告が1審原告に対してチャージの計算方法を説明していなかったことが基礎付けられる旨の主張をする。

 これは,被告方式において,チャージ={売上げ-(総売上原価-廃棄ロス(不良品)原価)}×チャージ率=(売上げ-総売上原価+廃棄ロス(不良品)原価)×チャージ率となることを理解した上で,上記下線部分(廃棄ロス(不良品)原価×チャージ率)に着目し,葉書差出人と同様,不良品にチャージがかかっていると誤解したものである。なお,次のとおり,チャージの基礎をなす純売上原価は廃棄ロス原価の増減に影響されず,したがって,廃棄ロス原価にチャージがかかることはない。純売上原価=総売上原価(売れた商品の原価+廃棄ロス原価)-廃棄ロス原価

 5 争点(3)(1審被告はデイリー商品について再販売価格を拘束したか(債務不履行ないし不法行為に当たるか))について

  (1) 1審原告の主張

   ア 1審被告は,売れ残りの発生が見込まれる状況において,販売価格を変更して値下げすること,すなわち見切り販売を妨害し,これにより1審原告の価格決定権を侵害した。

   イ 不法行為について

 本件契約書31条は,「乙(1審原告)は,商品の販売小売価格を自らの判断で決定し」と,2条は,「甲(1審被告)と乙(1審原告)とは,フランチャイズ関係においては,それぞれ,本部と加盟店を運営する役割を果たすことになるが,ともに独立の事業者であり」と,30条は,「乙(1審原告)は,甲(1審被告)の推薦した仕入先や甲の関連会社から商品を仕入れ,または甲の推薦した商品のみを仕入れることを必要とされたり,また甲の開示した標準小売価格で販売することを強制されるものではない。」と定めている。これにより,1審原告と1審被告の間で,1審被告は1審原告に対し標準小売価格での販売を強制しないとの合意が成立し,1審原告は本件店舗で販売する商品(デイリー商品及び非デイリー商品)の販売小売価格を自由に設定する権利を当然に有しており,1審被告はこの権利を侵害してはならず,また,権利の行使を妨害してはならなかった。しかるに,1審被告は,本件店舗におけるデイリー商品の販売において,標準小売価格での販売を要求し,値下げ販売しないよう販売価格を拘束し,又は値下げ販売をできない状態を作出した。これは,1審原告の上記権利を侵害し,また,上記権利の行使を妨害する行為である。

   ウ 債務不履行の追加主張

 上記のとおり,1審被告は1審原告に対し標準小売価格での販売を強制しないとの合意が成立しているから,価格決定権侵害行為は,不法行為だけでなく,債務不履行でもある。

   エ 1審被告は全国すべての加盟店が同一の価格(推奨価格)で販売するというビジネスモデルの構築を進めている。このビジネスモデルには,売れ残りの発生が見込まれる状況においても,決して加盟店に値下げをさせないという内容(見切り販売の妨害)も含まれる。1審被告がこの点について強固かつ組織的な意思を有し,この意思が従業員すべてに共有されていたことは,1審被告の執行役員や従業員の供述,業務日報等から明らかである。

 1審被告のビジネスモデルにおいては,デイリー商品という販売期限の短い商品が主力商品とされているところ,機会ロスをなくすという観点から,同商品の大量仕入れ,大量廃棄が推進されている。そうすると,売れ残りが大量に発生することは不可避である(いかに単品管理を徹底しても,廃棄をゼロにすることは不可能であるし,ときには大量の廃棄が出ることがある。)。このような場面において,値下げをして売り切る努力をすることは,経営者にとって極めて合理的な行動である。また,被告方式においては,売れた商品の原価のみが売上原価として計上され,廃棄となった商品の原価は売上原価に算入されないから,値下げして販売した場合と,値下げせずに廃棄した場合とでは,チャージの算定基礎である売上総利益に大きな違いが出る。このように,1審被告のビジネスモデルを前提とすると,価格決定権は,一般的な場合よりも,より重要な意味を持つ。

   オ 公正取引委員会が作成した「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(平成14年4月24日公正取引委員会。甲5)においても,売れ残り商品について値下げして販売しなければならない場合などもあることを認め,コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては,売上総利益をロイヤリティの算定の基準としていることが多く,その大半は,廃棄ロス原価を売上原価に算入せず,その結果,廃棄ロス原価が売上総利益に含まれる方式を採用しており,この方式の下では,加盟者が商品を廃棄する場合には,加盟者は,廃棄ロス原価を負担するほか,廃棄ロス原価を含む売上総利益に基づくロイヤリティも負担することとなり,廃棄ロス原価が売上原価に算入され,売上総利益に含まれない方式に比べて,不利益が大きくなり易いと指摘した上,本部が加盟者に対して,正当な理由がないのに,品質が急速に低下する商品等の見切り販売を制限し,売れ残りとして廃棄することを余儀なくさせることが優越的地位の濫用であるとしている。

   カ 1審被告の行為の違法性を評価するに当たっては,本部と加盟店の関係や加盟店の置かれた状況を正確に理解しておくことが必要である。

 まず,本部と加盟店との間において,その立場や知識・情報の点において著しい格差がある。1審被告は資本金172億円,従業員数5686人,加盟店1万4579を有する株式会社であり,フランチャイズ契約に関する豊富な知識,情報を有する。一方,1審原告ら加盟店オーナーは,零細な個人事業者等であり,その知識,情報はごく限られたものでしかない上,小売業の経験がない者も多く,1審被告から与えられる情報がそのすべてであると言っても過言ではない。

 また,フランチャイズ契約において,加盟店は,本部から指導援助を受ける立場にあり,加盟店が本部の指示に反する行動をとることは現実的には困難である。売上金は一度すべてを1審被告に送金するものとされ(本件契約書27条),商品の配送ルート等についても,すべて1審被告の裁量によって決定されるほか,契約更新についても,1審被告が更新をするか否かを判断する(同43条)。したがって,加盟店が本部の指示に反する行動をとれば,契約期間満了時に契約更新がされないおそれもあり,加盟店は非常に弱い立場にある。

 加盟店は,本部が構築したシステムを使用しないと販売活動ができず,加盟店は,自身の店舗を経営する際,本部が構築したSC(ストアコンピュータ)及びレジシステムを使用することになるし,物流や会計についても,本部のシステムに依存せざるを得ないから,経営上必要なシステムの仕組みや使用方法について,本部が加盟店に充分な説明をしなければ,加盟店は,事実上,価格決定権を行使することもできない。

   キ 1審被告の価格決定権侵害行為は,目に見える形で行われるものと,目に見えない形で行われるものがある。

 目に見える形での価格決定権侵害行為は,本件においては,1審原告が値下げ販売を開始した際,Bがこれをやめさせるため,毎週のように本件店舗を訪れたことや,Cが,「絶対にやめていただきたい。」等述べ,これに応じない場合には契約解除をするかのような言動をしたことである。

 目に見えない形での価格決定権侵害行為は,例えば,1審被告が加盟店に対し値下げ販売をするためのSCの操作方法を教えないこと(不作為)があげられる。以下の間接事実を考慮すると,1審被告がこの操作方法を教えなかったのは偶然ではなく,値下げ販売をさせない目的であえて殊更に教えなかったものである。

 ① 研修所にSCを設置せず,値下げ販売の訓練をさせないこと(甲77)。

 ② 研修のテキストに非デイリー商品については値下げのためのSCの操作方法が記載されているのに,デイリー商品については値下げ販売の方法を記載していないこと(甲63)。

 ③ 店舗運営のマニュアルであるシステムマニュアルに値下げ販売の方法を記載していないこと。なお,公正取引委員会の平成21年6月22日付け排除措置命令(甲26。以下「本件排除措置命令」という。)の後,平成22年以降のシステムマニュアル(甲73)には,これが記載がされている。このことは,システムマニュアルに記載することに何の障害もなかったことを示している。

 ④ 非デイリー商品や季節商品中のいわゆる売却できていない「死筋商品」を排除する際,非デイリー商品の値下げ方法だけを指導して,デイリー商品の値下げ方法については指導しないこと(甲63)。

 ⑤ 1審被告の従業員が,値下げ販売を禁止することについて強固かつ組織的な意思を有していること(甲53以下)。

 また,1審原告の本件店舗開店後まもなくして,当時の博多地区のOFCであるFは,非デイリー商品の値下げを指導した際,「デイリー商品はセブンの政策商品だから(値下げをすることは)駄目です。」と指導する等して値下げ方法を教えなかったし,DMのBは,1審原告が手出しの負担のあるクーポン値下げの方法を採っており,損をしていることを知りながら,正規の値下げ方法を教えなかった。

 以上の各事実からすれば,1審被告が加盟店に値下げ販売の方法を教えなかったことは意図的なものである。

   ク このように,1審被告による価格決定権侵害行為は,値下げ販売のためのSCの操作方法を意図的に教えなかった時点から始まっているから,開店時である平成9年4月18日から,1審被告の不法行為ないし債務不履行は成立している。

  (2) 1審被告の主張

   ア 旧不公正な取引方法13項の拘束条件付取引該当性について

 (ア) 原判決が認定した拘束条件付取引の対象となった商品について

 原判決は,その認定の前提とする1審原告と1審被告のやりとりがもっぱらデイリー商品に関するものであるにもかかわらず,1審被告は1審原告の販売する商品すべてについて販売価格を拘束したという事実認定を行っているのは不当である。

 (イ) 拘束の態様について

 原判決は,1審被告がその取引先である加盟店(平成16年度の総店舗数は1万826店,平成19年度で1万2034店)のうち,1審原告の本件店舗1店舗に対する関係で原判決が認定した1審原告に対する価格拘束行為が行われたとして,そのことが他の1審被告の加盟店の販売価格にどのような影響を生じさせるおそれがあるのかについて,全く検討せず,漫然と拘束条件付取引が成立するとの結論を導いているが,このような判断は,公正競争阻害性という構成要件を看過したものであって,独占禁止法上明らかに誤っていることは多言を要しない。

   イ 価格拘束行為に関する債務不履行についての1審原告の主張について

 (ア) 1審原告の主張についての問題点

 債務不履行の主張の争点は,1審被告の行為が商品の販売価格についての「強制」又は「自由な決定の妨害」に当たるかどうかである。

 1審被告がポスレジシステム上,値下げ販売を実施しづらくさせていたとの主張については,原判決(第4の2(3)ア(イ)(43頁))においてこれを明確に排斥しているとおりである。

 (イ) 本件契約に基づく1審被告の助言・指導義務

 「便利さ」という無形の価値を提供するコンビニエンスストアにとって,お客様が買いやすい手ごろな価格で商品が販売されることは,その業態にとって本質的な要素であり,それが徹底されることこそが,セブン-イレブン・チェーンに対する顧客の信頼の確保及びそのブランド力の維持に不可欠である。

 1審被告が設定する推奨価格は,生産者・販売者側の必要性と顧客の期待との均衡を基に設定され,我が国で初めてコンビニエンスストアという業態を確立した1審被告の創業以来のノウハウの集積そのものであって,それ自体極めて合理的かつ最も競争力を持つ水準に設定されている。

 本部である1審被告と,1審原告を含む加盟店の関係は,いわゆるフランチャイズシステムとして,公正取引委員会が策定したフランチャイズガイドラインの言を借りれば,「本部が加盟者に対して,特定の商標,商号等を使用する権利を与えるとともに,加盟者の物品販売,サービス提供その他の事業・経営について,統一的な方法で統制,指導,援助を行い,これらの対価として加盟者が本部に金銭を支払うという事業形態」であり,推奨価格の設定を含めた様々な事業,経営,販売に関する助言,指導を媒介にした,相互に協力的な有機的一体的関係にある。これにより,例えば大規模小売業者を含む各加盟店の競合店舗との間で加盟店の競争力は著しく強化され,その生き残りが可能になっているのである。

 以上のような1審原告と1審被告の関係を規定した本件契約の中で,前記のガイドラインにいう「統一的な方法で統制,指導,援助」について,1条及び27条(1)において,1審被告がOFCによるカウンセリングを行う義務が明記されている。すなわち,担当OFCにとって,見切り販売を行うことが加盟店の経営にどのような影響を及ぼすかについて,本件契約上のカウンセリングすなわち指導,助言を行うことが可能であり,むしろこれを行うことが契約上の義務である。

 (ウ) 1審被告が策定した見切り販売のガイドライン

 1審被告は,本件排除措置命令において加盟者が行う見切り販売の方法等についての加盟者及び従業員向けの資料の作成を命じられたことから,平成21年8月28日付けで公正取引委員会の承認を得た上で,「デイリー商品を見切り処分する場合のガイドライン」(以下「見切り販売のガイドライン」という。)を策定した。

 同ガイドラインは,システムマニュアル(乙75)にも記載され,①売れ残り,廃棄ロスが生じる大きな原因は,お客様のニーズと仮説に基づく品揃えがあっていない,あるいは陳列や販売の仕方に問題があるからであること,②売れ残り,廃棄ロスを減らす上で,本来実施しなければならないことは,単品管理を徹底し,発注精度を高めること(いつでも,欲しい時に,欲しい商品が欲しいだけあるお店)であること,③仮説が外れた場合でも,声かけや試食を通し,売り切る努力をすることによりロスを最小限にすることができること,④見切り販売を行うことは,同一商品の価格が時間帯・店舗によって異なることになり,お客様の不信感を招くことが多分に予測されること,⑤本部のカウンセリングの内容として,デイリー商品の見切り販売によって,経営状況が改善しているか否か,加盟店にとって経営状況の改善のための最良な方法は何かという観点から,必要なデータを示すなどして,発注量の見直し,デイリー商品の見切り販売の方法や程度の見直しについて拡大均衡を目的として助言をする時があることなどが記載されている。

 このガイドラインは公正取引委員会の承認を得て策定されたものであるから,その内容は独占禁止法上何ら問題がないものであることはいうまでもないが,その記載に照らしても,1審被告が見切り販売を実施した場合に生ずると想定される当該店舗の経営に与える影響等を踏まえて,実施すべきでないという助言,指導を行うことが本件契約上当然のことであることは明白である。

 (エ) 本件契約における「強制」又は「自由な決定の妨害」の意義

 以上に述べた1審被告と1審原告のフランチャイズ・システムを前提とすると,本件契約における「強制」とは,本部の助言,指導により,実際に加盟店が標準小売価格で販売することを現実に強制されたこと,換言すれば,そのような販売をすることを余儀なくされたことであり,「自由な決定の妨害」とは,販売価格の決定についての自らの自由な判断を実際に妨害されたことを意味することになる。

 本件排除措置命令においても,加盟店に対しその販売価格についての助言,指導を行うことを不公正な取引方法としての価格拘束行為である拘束条件付取引に問擬することを断念し,見切り販売の取りやめを余儀なくさせる行為について優越的地位の濫用として不公正な取引方法に該当するとしたものである。

 (オ) B及びCのカウンセリングについて

 B及びCが本件店舗を訪問して行った発言は,本件契約上の義務である助言,指導にすぎず,推奨価格での販売を「強制」したり,値下げ販売についての「自由な決定を妨害」したりしたものではない。

 Bが毎週のように本件店舗に来店したのは,売上げ,仕入れともに減少傾向にある本件店舗において値下げ販売を行うことにより売上げ及び利益が減少する懸念から,継続的な値下げ販売を止めた方がよいとカウンセリングするために,本件店舗を訪問し,助言,指導をしたものである。

 平成19年11月1日,Cが本件店舗を訪問した直接の目的は,競合店の出店についての説明であった。また,Cの発言には,本件契約上,セブン-イレブン店経営上の助言・指導をする立場にあることを前提とした上,販売価格の決定は1審原告の自由である旨の発言が多数みられる。さらに,Cの「いまの段階では,口頭ですが,絶対にやめていただきたいという意思だけはお伝えしておきます。」という発言(甲24)についても,1審原告が「うん,うちも対応せんにゃ。当然。」という発言を受けたものであった。Cは,1審原告の誘因の結果,多少感情的になり,売り言葉に買い言葉的に多少強い口調で発言したものの,本件店舗において売上げ及び利益が減少していた状況から,1審原告に対し,「値下げ販売をやめた方が良い」とカウンセリングしたにすぎない。

 Cの「セブン-イレブンイメージを逸脱していますので,改善勧告はさせていただきますから。そのステップを経て,こちらができることをやっていきますから。」(甲24)という発言についても,本件契約の解除ないし解約等の不利益な取扱いをすることも検討する旨を示唆したわけではない。

 1審原告は,デイリー商品の値下げ販売を自分のやりたいようにやってきたものである(甲24,1審原告403項)。

 その後,1審被告は,1審原告に対し,値下げ販売について,何らの追加的対応を実行しなかった。また,1原告においても,商品販売についての考え方が1審被告とは異なっており,セブン-イレブン・チェーンに加盟しているメリットがなかったことから,平成19年12月17日,一方的に本件契約を解除する旨の意思表示をした(乙65)上,平成20年1月11日,本件店舗を閉店したのである。

 (カ) その余の1審原告の主張について

  a 平成9年頃の行為について

 1審原告は,FOFCから,「デイリー商品はセブンの政策商品ですから(値下げをすることは)駄目です。」と指導される等して,価格拘束をされていたと主張する。

 1審原告が原審の3年余りの審理と当審における複数回の期日を経て上記主張をするに至ったのが極めて不自然であることを措くとしても,FOFCが,当時の客観的状況に照らして1審原告からデイリー商品の値下げをしたいとの申出があったとは考え難いと述べている(乙83)ことに照らし,FOFCの上記言動はなかったことが明らかである。

  b ポスレジシステムについて

 原判決が正当に認定したとおり,1審被告の採用するポスレジシステムは値下げ販売を特に困難にするものではなく,1審原告に対する強制又は自由な決定の妨害ではない。

 6 争点(5)(損害)について

  (1) 1審原告の主張

 1審原告は,1審被告の債務不履行又は不法行為によって,1審原告が本来ならば得られていたはずの加盟店最終利益を得られず,もって,損害を被った。

 すなわち,本件排除措置命令後に現実に見切り販売を徹底して行っていたg店等の加盟店4店の不良品の平均額や削減率の実績(乙64)からすると,1審原告がその判断に基づいて自由に見切り販売を行っていたならば,見切り販売を実施しなければ商品廃棄となっていた商品の約95%(金額ベース)を見切り販売によって販売することができたはずであった。このことを前提に,損益計算書の不良品の額は原価ベースで記載されているので,不良品原価率(0.66)で除して不良品を売価ベースに換算し,値引率を3割ないし5割として,平成16年10月から平成17年3月までの本件店舗の現実の営業成績を基礎にシミュレーションを行った。そのうち,1審原告に最も不利なシミュレーション(値引率を定価の50%,そのほかに実績表における商品売上高の5%の商品についても上記値引率での値引き販売となったとするもの。)においても,加盟店最終利益が実績より月額平均14万2377円失われていたことが明らかとなった。

  (2) 1審被告の主張

   ア 損害の証明がないことについて

 1審原告が引き合いに出すg店は,見切り販売開始前の不良品の額(原価)の2倍を超える1000万円(原価)の商品を値下げ販売している店舗であって,その販売手法は,1審原告が主張する見切り販売とは,およそ性質を異にしているため,本件店舗における見切り販売による廃棄商品の圧縮の参考にならない。

 また,本件店舗及び当該店舗の所属する地区の経営数値の分析からは,1審原告は,本件店舗の廃棄商品の削減のため商品仕入高を圧縮するとの経営手法をとった結果,商品仕入高の減少→売上高の減少→利益の減少→商品仕入高の減少という負のスパイラルに陥り,ついには店舗の経営の崩壊を招いている。このような傾向がみられる店舗において,値下げ販売を実施した場合にはかえって経営数値の悪化が認められるところ,本件店舗においても同様の結果を辿ることになったであろうことは明らかである。

 加えて,1審原告がその損害論の根底に据える,見切り販売を実施した場合には不良品のほぼすべて又は95%程度を販売することができるとの想定が画餅にすぎないことは明らかである。

 したがって,1審原告は主張の損害が生じたことにつき何ら立証していない。

   イ 損害額の限定について

 また,仮に,1審原告に損害の発生が認められたとしても,1審原告が現に値下げ販売を実施した期間において,値下げした商品の約4割が売れ残っていること(乙61の6)からして,およそ1審原告の主張する,不良品の95%が値下げにより販売されるとの事態は生じ得ない。本件店舗におけるクーポン券値下げ販売の対象となった「米飯・調理パン」と対象とならなかった他のデイリー商品の不良品削減率が41%,24%であり,その差17%に相当する不良品の額によって算出される1審原告に発生し得る損害は,原審の認定の半分に満たない約99万円である。

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

 前記前提事実,各項末尾に掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

  (1) 契約締結までの経緯等

   ア 1審原告(昭和29年○月○日生)は,母が経営していた「h酒店」で働いていたが,平成2年10月(1審原告は36歳)から,ファミリーマート本社との間で加盟店契約を締結し,ファミリーマートi店を経営していた(甲35)。

 ファミリーマート本社との加盟店契約においては,本件契約と同様,契約上の対価であるロイヤリティ(本部フィー)算定に当たり売上高から控除する売上原価に廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は含まれておらず,1審原告は,所得税申告に当たり,税理士に依頼して,上記算定方法に従った損益計算をして青色申告をしていた(乙31の1・2,62)。

   イ 1審原告は,平成8年3月頃,ファミリーマート本社が,1審原告に相談することなく,上記i店から直線距離で500mの場所に,ファミリーマート店を出店する計画を立てていることを知り,同社に対し不信感を抱くようになった(甲35)。

   ウ 1審原告は,同年10月3日,1審被告の担当者であるD(以下「D」という。)との間で,加盟店契約についての交渉を開始した(甲35,乙29の1)。

   エ Dは,同年11月4日,6日,11日に,本件店舗予定地(当時はファミリーマートi店)について,自動車や人の交通量等の立地調査を行った(乙29の2ないし29の4)。

   オ 1審原告は,同月13日午後1時50分頃から6時頃までの間,妻及び母とともにDと面談し,Dが説明のために1審被告作成のブックⅠと呼ばれる資料(乙5の1)を自ら編集した資料(乙51)を基に説明を受けた。この資料には,「セブン-イレブン」の歴史,店舗経営の実際が詳細に記載され,売上げから原価を控除したものが売上総利益であり,その43%がチャージであり,売上総利益には営業費が含まれていることが記載されていた。その際,Dは,1審原告に対し,損益計算書のサンプルを示し,売上げから純売上原価を引いた額が売上総利益(粗利)となり,これを本部のチャージとして43%,加盟店の総収入として57%に分配すること(粗利分配方式),売上げから実際に売れたものの原価を控除したものが粗利であること,営業費の中でも人件費,棚卸しの増減,不良品の3つが大きな額を占め,これらの3大営業費を上手にコントロールすることが最終的に利益を出すことにつながることなどについて説明をした。Dの示した損益計算書のサンプルにおいては,売上原価から商品廃棄等(廃棄ロス原価)及び棚卸増減(棚卸ロス原価)の各金額を控除したものが純売上原価であり,売上げからこの純売上原価を控除した売上総利益にチャージ率を乗じてチャージが計算され,上記商品廃棄等と同額の不良品(廃棄ロス原価)及び棚卸増減(棚卸ロス原価)が営業費に計上されており,Dはこの損益計算書の各項目を上から下まで順次説明した。(乙29の5,証人D,1審原告)

   カ 1審原告は,同月21日,再びDと面談し,Dから立地調査結果等についての説明を受け,本件店舗を出店する方向で話を進めることとした。そして,Dから,稟議のための書類の提出について依頼され,1審原告は,同月27日及び同月30日に,Dに対して,資金計画表(甲9),ファミリーマートi店の平成6年及び7年の所得税青色申告決算書(乙31の1・2)等の書類を提出した。また,1審原告は,同年12月6日,Dから,本件店舗の建築費用等について説明を受け,最終的な資金計画について話し合った。1審原告は,上記資金計画表に,毎月の利益として必要な額として,月次固定費を94万3000円と記載した。(甲9,乙29の6ないし29の9,31,証人D)

   キ 1審原告は,同月20日,Dから,本件契約の概要について説明を受けた。Dは,この日は,損益計算書については特に説明しなかった。(乙29の10,証人D)。

   ク 同月28日,1審被告において,本件店舗についての稟議が決裁承認された。1審原告は,同日,D及び1審被告のマネージャーであるEと面談し,本件契約書の用紙及び「セブン-イレブンとフランチャイズ契約の要点の概説」と題する書面(甲2)の交付を受け,これには,加盟店から定期的に徴収する金額について1審被告が実施するサービス等の対価として年間売上総利益の43%相当額であり,この金銭が商標権等権利使用の許諾,1審被告の援助及び費用負担等の実費を含むことが説明され,システムや契約についてより詳しく聞きたい場合は担当者に連絡するよう,担当者が具体的に説明することが記載されていた。(甲35,乙29の11,証人D,1審原告)

   ケ 1審原告は,平成9年1月4日午前9時40分頃から午後2時30分頃までの間,妻とともにDと面談し,本件契約書の条項を1条ずつ読み合わせた上,1審被告との間で本件契約を締結した。セブン-イレブン店のフランチャイズ契約のタイプには,加盟店が自己資金又は借入金で店舗を改造又は新築し,1審被告が主な販売用設備を設置するAタイプと,1審被告が店舗を用意してオーナーを募集するCタイプがあるところ,本件契約はAタイプであった。

 本件契約書41条(セブン-イレブン・チャージ)には,「乙(1審原告)は,甲(1審被告)に対して,セブン-イレブン店経営に関する対価として,各会計期間ごとに,その末日に,売上総利益(売上高から売上商品原価を差し引いたもの。)にたいし,付属明細書(ニ)の3項に定める率を乗じた額(以下,セブン-イレブン・チャージという。)をオープンアカウントを通じ支払う。」と規定され,本件契約書18条4項に営業費が付属明細書(ホ)2項に定めるとされ,これには,1審原告が負担すべき費目たる営業費が列挙され,「ヘ.一定量の品べり(棚卸減)の原価相当額」,「ヲ.不良・不適格品の原価相当額」との記載があり,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費となることが定められているが,本件契約書中に「売上商品原価」の定義規定はない。

 もっとも,Dは,本件契約締結に際し,再び損益計算書を示してその各項目を上から下まで説明した。

 (甲1,35,乙5の1,29の12,証人D,1審原告)

   コ 1審原告は,同年2月,ファミリーマート本社との間で,加盟店契約を合意解約した(甲35)。

  (2) 契約締結後,本件店舗の閉店までの経緯

   ア 1審原告は,同年3月10日から14日までの間,妻とともに1審被告のスクールトレーニングに参加した。その際,1審原告は,スクールトレーニングテキスト(乙12)に基づき,経営数値の見方について,粗利分配方式,すなわち売上げから売上原価を控除した売上総利益を本部のチャージ43%と加盟店の総収入57%に分配し,総収入から営業費を差し引いたものが利益となるという説明を受け,その計算の演習を行ったほか,人件費,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が3大営業費であり,利益を上げるためにはこれらを適正にすることなどが必要であるという説明を受けた。しかし,スクールトレーニングテキスト(乙12)には,この売上原価について廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が含まれないという記載はなかった。また,1審原告は,最終日にシステムマニュアル(甲29,乙6(ただし,当時のもの。))の交付を受けたが,その内容についての説明はなかった。

 平成14年2月当時使用されていたシステムマニュアル(甲29)第10章中の損益計算書を説明するための項目中に,「売上総利益」は,「売上合計額」から「純売上原価」を差し引いたものであること,「純売上原価」は,「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されること,加盟店の「総収入」は,いわゆる粗利である「売上総利益」に57%を掛けたものであり,「総収入」は「売上総利益から「セブン-イレブン・チャージ」を差し引いた金額で,これから「営業費合計」を差し引いた残額が「利益」となることが記載されており,1審原告が交付を受けたシステムマニュアルにも同様の記載があった。

 (甲29,35,乙6,12,30,1審原告)

   イ 1審原告は,平成9年3月17日から21日までの間,南区井尻の1審被告直営店でストアトレーニングを受けた。その際,1審原告は,商品発注業務や,店舗内での商品陳列,清掃,会計,精算,店舗運営についての指導を受けたが,廃棄商品の会計処理やチャージの計算の説明はなかった。(甲35)

   ウ 1審原告は,同年4月18日,セブン-イレブンj店(本件店舗)を開店した(甲35)。

   エ 1審原告は,1審被告から毎月損益計算書の送付を受けていたが,本件店舗の開店から3ないし4か月を経過した頃,1審被告から送付された損益計算書の「2 売上原価」中の「商品廃棄等」欄と「6 営業費」中の「不良品」欄に同一の金額が記載されていることに疑問を抱き,1審被告に対し,その理由を質問して,1審被告から回答を受けた(1審原告)。

   オ 平成14年5月頃,本件店舗宛てに,差出人不明者から,廃棄ロス原価がチャージの対象とされている旨記載された葉書が送られてきた。1審原告は,これをきっかけにチャージの算定方式について,税理士に質問したり,この葉書に記載されていたホームページを見るなどして調べるようになった。(甲35,1審原告)

   カ 1審原告は,開店以後,ファミリーマート店当時よりデイリー商品の廃棄が多いことから,廃棄をなくすための値下げ販売を考えていたものの,具体的な方法を検討するまでに至っていなかったが,平成16年頃,上記のような経緯で,売上原価から廃棄ロス及び棚卸ロスの各原価が差し引かれ,廃棄ロスにチャージがかかっているとして,これに疑問を抱き,利益を上げるためには廃棄ロスを減らす必要があると考え,値下げ販売をすることを具体的に考えるようになった。1審原告は,同年11月25日付けで,1審被告に対して,諸事情により販売金額の減少が続いており,それを防ぐためと,利益の確保のため,同年12月1日から値下げ販売を開始する旨を記載し通知(甲6)した。

 すると,博多地区のDMであるBが,同年11月27日,本件店舗に来店し,1審原告に対し,①セブン-イレブン・チェーン店では,デイリー商品の値下げ販売は基本的に開店時しか行っていないため,値下げ販売されている商品を見て嬉しいと思う客よりも,不審がる客の方が多いこと,②仮に,値下げ販売を嬉しいと思う固定客が多くなった場合には,値下げ後来店するようになり,値下げ前の時間帯の販売数は低下するので,結果的には販売数は増えないし,加盟店の負担が増え,メリットはないこと,③周辺の加盟店からの不信感が増し,客から鮮度切れの商品を売っているかもしれないなどと思われると,店の信用は低下することを指摘して,2時間近くにわたり,値下げ販売をやめるように説得し,少なくとも1か月間の猶予が欲しいと述べた。これに対し,1審原告は,同年12月1日からの実施はしないことには応じたものの,不良品が利益を圧迫していること,売価の決定権は加盟店にあるから本件契約上,問題はないこと,テスト的に鮮度切れ3時間前の商品に限ってクーポンを使って値下げ販売をしてみたいこと,値下げ分は自分が負担するが,結局,利益は増え,チャージも増えるはずであることなどを理由に,説得に応じなかった。(甲35,乙61の1,証人B,1審原告)

   キ Bは,値下げ販売をやめさせようと,同年12月2日にも本件店舗を訪れ,値下げ販売を実施しているk店の資料を示して,売上げが低下していることを説明したところ,1審原告は,契約違反にならないか,裁判沙汰になったら1審原告側に弱いところがあるのかBに聞くなど不安で迷っている様子を示し,態度は軟化していた。

 しかし,Bが同月9日に訪問すると,1審原告は,同年11月度の営業成績が悪かったとして,利益改善策として同年12月16日から値下げ販売を実施すると告げた。Bは,業務日報に,「1店舗が実施する事でチェーンの足並みが乱れ,モラル低下になりかねない。他にも実施してみたいと言うような店が出てこないように次の12/15の訪店では全力で止めないといけない。次週はチェーンを守る意味でも強い話をしなければと考えています。」と記載した。また,1審原告は廃棄ロス原価にチャージが掛かっており,収支に影響していることをBに述べていた。(乙61の2・3,証人B)

   ク Bの上司で九州地区全体を統括する立場にあるゾーンマネジャー(ZM)であるGは,同月15日,Bと共に本件店舗を訪れ,値下げ販売を実施しないよう1審原告を説得したが,1審原告は応じなかった。そこで,1審被告は,同月16日からの値下げ販売の実施はやむを得ないので,今後,できるだけ早期に値下げ販売を中止してもらうよう,長期的利益改善策(売上対策)を提案していくことにした。(乙61の4,証人B)

   ケ 1審原告は,同月16日から,クーポン券を付して,クーポン券価格分の値下げ販売を開始したが,デイリー商品の全部を値下げ販売の対象にすると,1審被告から圧力が掛かるのではないかと恐れたことなどから,一部のデイリー商品(弁当,ミニ弁当,寿司,おにぎりを除くご飯)のみをその対象とし,販売期限の3時間前から,値下げ額は売価の25%以内としていた。なお,1審原告は,値下げ分を自ら負担することとし,1審被告のポスレジシステム(レジ精算と同時に商品の販売情報を収集し,集計結果を在庫管理やマーケティング材料として用いるシステム。)上の処理は,通常価格による販売の場合と同様にバーコードの読取りにより行い,客の負担していないクーポン券分は1審原告が入金していた。

 Bは,値下げ販売が利益を増やす要素になっていないことを説明し,中止するよう説得した。1審原告は,客に,鮮度切れの商品を売っているのだろうと言われるなど,不審がっている客が意外と多いなどと述べながら,これに応じなかった。(甲68,乙61の4・5,証人B)

   コ 1審原告は,同月25日,訪店したBが値下げ販売の実績を調べ,ミニ弁当やご飯の販売が低下していることなどから,同月末をもって値下げ販売をやめるよう求めたのに対し,販売と廃棄がうまくいっているのかわからないし,客の中には鮮度の悪いものを売っていると疑っている人が意外に多いと述べるものの,セブン-イレブン・チェーンが使用している損益計算書及び貸借対照表は一般会計のものと異なっており,加盟店が利益を得られない仕様になっているが,これを変えることはできないので,自分でできる値下げ販売を継続したいと述べ,一般の会計方式との違いを記載したとして損益計算書のサンプル(乙69の1)を交付した。これは,「本部仕様」と「一般」を対比させて,「本部仕様」においては,総売上原価から仕入値引高だけでなく商品廃棄等も控除して純売上原価を算出し,売上げからこれを控除した売上総利益にチャージ率を掛けてチャージを算出しており,営業費には上記商品廃棄等と同額の不良品を計上し,「一般」においては,商品廃棄等を純売上原価から控除せず,その額だけ売上総利益が少なくなり,その額にチャージ率を乗じた分だけチャージが低額になっていた。(乙61の6,証人B)

   サ Bは,同年12月31日,本件店舗を訪れ,上記の「一般」の損益計算書の異質性,「本部仕様」の正当性を説明し,値下げ販売をやめるよう説得し(乙61の7),平成17年1月8日,1審原告を呼び出し,他の従業員も交えて,1審原告に対し,前回と同様に損益計算書の違いを説明した。1審原告は,不良品にチャージが掛かっているのではないか,仕入れた段階で仕入代金を支払っているのに,不良品が出たらその金額を経費として計上するのはおかしいのではないかとの疑問を述べた。(乙61の8)

   シ Bは,同月28日に本件店舗を訪れ,1審原告に対し,本件店舗の売上げ,客数,客単価について前年比との推移を示す資料を見せ,3項目とも値下げ販売実施前の平成16年11月下旬よりも同実施後の方が他店舗との差が広がっていること,この間,d店が酒販売を開始し,b店が出店したことがあるが,大きな影響はないことなどを説明した。これに対し,1審原告は,d店が酒販売を開始した影響が大きいこと,1月からは値下げ販売の対象商品を米飯,調理パン,麺類その他,サラダ,総菜にまで拡大し,不良品は減っていること,クーポン券による値下げ販売を行っても儲からないと判断したら,セブン-イレブン・チェーンを辞めようと思う,妻は今すぐにでも辞めたがっているなどと回答した。(乙61の9,証人B)

   ス Bは,平成17年2月10日に本件店舗を訪問した際は,直近2週間で客数が大幅に減少し,営業成績の悪化が著しいこと,デイリー商品の廃棄率も高いこと等について,資料を示して説明し,値下げ販売が利益に結びつかないことを説明した。1審原告は,値下げ販売の対象商品はおにぎり以外の米飯と調理パンだけに縮小していたが,4月までは様子を見ると回答した。また,ファミリーマート店経営から通算すると15年以上になるので,本当に疲れており,辞めてしまおうと思うことがあると述べ,辞めると解約金を取られるのかと尋ねた。さらに,b店の出店の影響が徐々に出ているように思うが,競合店の出店について1審被告の当初の考えの範囲内であると認識しているので,文句は言わないなどと述べた。Bは,売上げ,客数等の数値を示しながら,値下げ販売をやめるよう引き続き求めていくこととした。(乙61の10,証人B)

   セ Bは,同年3月3日に訪店した際には,前年12月以降,d店が酒販売を導入したこと,エーエムピーエムのl店が開店したこと,b店が開店したことを踏まえても,売上げの低下が激しすぎる旨を説明し,一刻も早く値下げ販売をやめるべきであると述べたが,1審原告は,多数の客が店への不信感を持っているとしても,正当な鮮度内で販売していることへの宣伝不足もその原因であり,クーポン支払の方法を変えることで不信感が消えるのではないか,不良品は減っているのは確かで,その分利益は取れていると述べ,値引き販売をやめようとしなかった。1審原告は,売上げ低下が続けば店を辞めるとの発言もした。(乙61の11,証人B)

   ソ Bは,同年6月23日に訪店し,値下げ販売開始から6か月が経過したが,売上げは一向に改善されず,利益も前年割れが続いており,鮮度管理時間変更により廃棄減による利益アップが図れるなどとして,値下げ販売を中止するよう説得したが,1審原告は,廃棄ロスにチャージが掛かっていることが問題であるなどと指摘し,これに応じなかった。(乙61の12,証人B)

   タ Bが同年8月4日訪店した際,同年7月の日販が前年比82.3%にまで低下し,値下げ販売が受け入れられていないと述べたのに対し,1審原告は,b店がフル免許になって夜の影響度が強くなったと述べ,値下げ販売をしていなかったら,もっと売上げが低下したはず,値下げにより不良品は減っているとも発言した。Bは,遠回しに合意解約に誘うような話をした。(乙61の13,証人B)

   チ 1審原告は,3割引程度の値下げ販売をしても廃棄が生じていたことから,同年11月14日から,販売期限前に売れ残った一部のデイリー商品を1円に値下げし,コンピューターに1円に値下げの登録をして,その上で廃棄する方法(1円値下げ廃棄)を実施した(甲17,35,1審原告)。

   ツ Bは,同月17日,本件店舗を訪れ,1円値下げ廃棄は本件契約に違反する行為であることを説明して,中止を要請した。Bは,再度説明した後,内容証明の手配も行うが,解約を誘うという方向性も考えていく旨,業務日誌に記載した(乙61の14,証人B)。

   テ Bは,同月24日,本件店舗を訪れ,1円値下げ廃棄の問題について再度説明したが,1審原告は理解を示さず,Bが合意解約を誘ったが,これにも応じなかった(乙61の15)。

   ト 1審原告は,同月26日を最後に,1円値下げ廃棄をやめた。しかし,1審原告は,その後も一部のデイリー商品(弁当,おにぎり,サンドウィッチ)について原価程度まで値下げをして販売する行為は続けた(甲35,1審原告本人)。

   ナ Bは,平成18年2月4日付けで,1審原告に対し,1円値下げ廃棄が本件契約違反になる理由について,1審原告の質問に対する回答を記載した書面(甲17)を交付した。同書面には,「加盟店基本契約書付属明細書(ホ)において,廃棄ロス原価・棚卸ロス原価は営業費として処理されることが明記されています。営業費として処理する場合,売上総利益を算出する際の売上原価の計算上,廃棄ロス原価・棚卸ロス原価が売上原価から控除されるのは当然のことです。」,上記に明記したとおり,「廃棄商品の原価は全額オーナー様負担です。」,値下げ廃棄は「自らの負担を免れる利己的な会計操作であるために」,「今般の貴殿による値下げ廃棄の行為が営利目的であり,同時に加盟店基本契約に違反する行為である以上,同行為を貴殿が再び行われた場合,当社としましてもこれを看過することはできません。」と記載されていた。(甲17)

   ニ 平成19年2月,博多地区のDMがBからCに代わった(甲35,乙53,証人C)。

   ヌ C,OFC及びリクルート担当者は,同年11月1日,本件店舗に来店し,1審原告に対し,「こちらとしても,どうしても,そういうかたちでおわかりいただけないということであれば,やっぱりチェーンとして,フランチャイズ契約していること自体が,本部としてもメリットがないというかたちで,どこかで判断させてもらいますし。」とか,「オリジナルデイリーの価格を変えて販売することについては,セブン-イレブンイメージを逸脱する行為なので,それはやめていただきたい。」とか,「いまの段階では,口頭ですが,絶対にやめていただきたいという意思だけはお伝えしておきます。」とか,「セブン-イレブンイメージを逸脱していますので,改善勧告はさせていただきますから。そのステップを経て,こちらができることをやっていきますから。」などと言い,1審原告に対し値下げ販売をやめるように指導するとともに,それに応じない場合には,本件契約の解除ないし解約等の不利益な取扱いをすることも検討する旨を示唆した(甲24,25,35)。

   ネ 1審原告は,その後も一部のデイリー商品について値下げ販売を継続した(1審原告)。

   ノ 1審原告は,平成20年1月,本件店舗を閉店した。

  (3) チャージの算定方式

 1審被告は,1審原告が支払うべき毎月のチャージ金額を,次のような計算方式(被告方式)により算定し,1審原告は,この方法に従って1審被告により算定されたチャージを支払ってきた(甲1,8,29,乙5の2,6)。

   ア チャージ金額は,1審被告から1審原告に毎月送付される損益計算書に記載されている「売上総利益」に対して,チャージ率を乗じて算定される。

   イ 損益計算書においては,売上総利益の金額は,「売上」の合計金額から「純売上原価」を差し引いた金額とされている。そして,純売上原価は,月初商品棚卸高に当月商品仕入高を加算した額から月末商品棚卸高を控除して算出される「総売上原価」から,「仕入値引高」,「商品廃棄等」(廃棄ロス原価(不良品として廃棄された商品の原価の合計額))及び「棚卸増減」(棚卸ロス原価(品減り,あるいは品増しの原価額))を控除した金額とされている。

   ウ 以上を計算式で表現すると,次のようになる。

 チャージ金額=売上総利益×チャージ率=(売上高-純売上原価)×チャージ率={売上高-(総売上原価-仕入値引高-廃棄ロス原価-棚卸ロス原価)}×チャージ率

 なお,上記計算式を展開すると,

 売上総利益×チャージ率=(売上高-総売上原価+仕入値引高+廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)×チャージ率となるので,一見すると,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価にもチャージが掛かるかのように見えるが,そこにいう総売上原価には廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が含まれているので,以下のとおり,相殺されることになる。

 売上総利益×チャージ率={売上高-(実際に販売された商品の原価+廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)+仕入値引高+廃棄ロス原価+棚卸ロス原価)}×チャージ率=(売上高-実際に販売された商品の原価-仕入値引高)×チャージ率

 したがって,この被告方式では,廃棄ロスが増え,廃棄ロス原価が大きくなっても,そのことでチャージ金額が影響されるものではなかった。しかし,このように,チャージは売上高から実際に販売された商品の原価を控除した「売上総利益」にチャージ率が乗じられたものであるから,企業会計原則でいわゆる「売上総利益」が売上げから実際に販売された商品の原価のみならず,廃棄や品減りにより在庫から減少した商品の原価をも控除して算出されることからすると,この総利益にチャージ率を乗じて算出する方式によるチャージ額がその分だけこれより高額になることは明らかである。

  (4) 周辺店舗の出店と本件店舗の売上げ及び利益の推移

   ア 平成14年にセブン-イレブンd店が,平成15年にセブン-イレブンc店が,平成17年1月にb店が,それぞれ出店された。

   イ 本件店舗の各年の売上げ及び利益の各合計は以下(上段が売上げ,下段が利益)のとおりである(甲8,枝番を含む。)。

 (ア) 平成9年 1億5424万5738円(ただし,4月以降)

 1003万7997円(同上)

 (イ) 平成10年 2億4858万8009円

 1937万1825円

 (ウ) 平成11年 2億4837万4926円

 1844万6778円

 (エ) 平成12年 2億3880万5545円

 1650万5249円

 (オ) 平成13年 2億3658万5571円

 1552万3072円

 (カ) 平成14年 2億2525万5193円

 1437万5546円

 (キ) 平成15年 2億1004万2344円

 1274万6964円

 (ク) 平成16年 1億8898万0380円

 1069万8676円

 (ケ) 平成17年 1億5867万0463円

 838万9721円

 (コ) 平成18年 1億4279万5704円

 702万0561円

 (サ) 平成19年 1億2368万8178円

 503万5733円

 2 争点に対する判断

  (1) 争点(1)(1審被告がb店を出店させたことが債務不履行ないし不法行為に当たるか)について

 次のとおり判断を付加するほかは,原判決30頁8行目から34頁9行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

   ア 1審原告は,競合店の出店が信義則違反となる要件として,①本件店舗の売上げに与える影響の程度,②開店時の事業見込み(事業計画)に重大な影響を与えるものか,③開店からの本件店舗の営業の経過等を要件とすべきである旨を主張する。

 しかし,上記②については,結局,上記①や1審原告の生活に与える影響を考慮すべきであるというのと同旨であり,1審原告は,その判断に当たり,開店時の事業見込み(事業計画),すなわち本件契約締結に当たり資金計画表に記載した月次固定費が得られるかどうかを重視すべきであるというものと考えられる。この点については,資金計画表(甲9)の月次固定費欄には,「月次固定費に見合う収入は顧客動向と経営努力に掛かっています。本部が保証できるものではありません。」との注記が付されており,店舗経営上必要なものとして,その利益確保が要請されているといえるとしても,1審被告に1審原告が得る利益が月次固定費を下回ることのないよう具体的に配慮すべき義務まで課したものとはいえない。

 また,1審原告は,売上げ等に与える影響についての1審被告の認識や認識可能性を考慮すべきではない旨を主張するが,信義則違反を問う以上,このことを考慮するのが相当であり,上記主張を採用することはできない。

   イ 1審原告は,売上げについて博多地区の他店舗の平均値と本件店舗のそれを比較すると,競合店の影響で本件店舗の売上げが低下し,他店舗の平均値との差が大きくなっていったこと,平成17年2月以降の差はb店の出店の影響である旨を主張する。乙18の1によれば,他店舗,本件店舗とも,毎年1月に前年12月より大きく売上げが減少し,2月以降やや持ち直し,7月にピークを迎える傾向がみられる中,b店が出店した平成17年2月には,本件店舗の売上げは前月より更に低下し,7月から9月にようやく1月の売上げを若干上回るにすぎなかったことが認められる。しかし,この時期は1審原告が見切り販売を始めた時期とも重なり,d店が酒販売を開始したこともあり,それらの影響がないとはいえず,b店の出店がそのすべてに影響したとはいえない。前記認定のとおり,Bも,同年3月3日に本件店舗を訪問した際,本件店舗の売上げの低下がb店の出店を踏まえても激しすぎる旨認識していた。

 上記のような売上げへの影響があったことを斟酌しても,商圏の一部が重なるものの,上記出店によって集客に大きな変動が生じたとは考え難く,本件店舗の売上げの減少につき,他の要因があったことからすると,1審被告において,b店を出店させたことが,信義則に違反するとは認められない。

  (2) 争点(2)(1審被告はロイヤリティ算定方式について説明義務を怠ったか(債務不履行及び不法行為の成否))について

   ア フランチャイズ・チェーンにおいて,加盟店が本部に支払う対価であるチャージの算定方法は,有償契約であるフランチャイズ契約の本質的な要素であり,チャージの額は加盟店を経営して得られる利益の額に大きく影響するものであるから,その算定方法は,加盟店となろうとする者又は加盟店にとって,加盟店契約を締結するか否かの判断,あるいは,加盟店の経営方針の決定に当たり,重要な事項であることは明らかである。したがって,1審被告は,当該契約に付随する信義則上の義務として,加盟店となろうとする者又は加盟店に対し,上記判断や決定に資するように,チャージの算定方法について説明すべき義務を負うものと解することができる。

 しかしながら,その説明の程度については,当該契約の契約内容,契約締結前後の経緯,加盟店又は加盟店となろうとする者の知識や経験等の事情に応じ,一般にフランチャイズ契約を締結し,加盟店を経営するに必要と認められる程度で足りるものと解される。

   イ ところで,前記認定のとおり,本件契約書41条においては,売上総利益について,「売上高から売上商品原価を差し引いたもの」と規定されているところ,「売上商品原価」とは,上記純売上原価,すなわち実際に売り上げた商品の原価を意味し,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価を含まないものである。

 これに対し,企業会計原則における売上総利益は,売上高から売上原価を控除したものであるが,そこにいう売上原価は,期首商品棚卸高に当期商品仕入高を加え,これから期末商品棚卸高を控除することによって求められるもの,すなわち,実際に販売された商品の原価のみならず,廃棄や万引き等による品減りのため在庫から減少した商品の原価(廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価)を含み,売上総利益は,売上高からこれらをも控除したものである。そのため,チャージ計算の基礎となる売上総利益を企業会計原則に従って算出した場合には,売上総利益が廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価の額だけ減少することによりチャージが減少することになり,一方,被告方式によった場合には,1審被告は,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価の多寡に影響を受けることなく,上記計算による売上総利益を企業会計原則に従って算出した場合よりも高額のチャージを徴収することができる。(甲8,甲26・4,5頁,乙3の1,5の2・58頁)

   ウ 本件契約書においては,「売上商品原価」についての定義規定が存しないから,本件契約書自体においては,上記のようなチャージの算定方法が必ずしも明らかではない。したがって,1審被告は,その内容について,1審原告に対し,上記の程度において説明する義務を負っていたというべきであるから,1審被告がその説明義務を果たしたかについて検討する。

 前記認定事実によれば,以下の事実が認められる。

 (ア) 1審原告は,本件契約締結の前,6年以上にわたり,コンビニエンスストア・チェーンの本部であるファミリーマート本社との間で加盟店契約を締結し,ファミリーマート店を経営していたが,上記加盟店契約におけるロイヤリティ(本部フィー)算定方法は,被告方式と同様であった。1審被告は税務申告に当たり,税理士に依頼して,上記方式に従って損益計算をして青色申告をしていた。

 (イ) コンビニエンスストアのフランチャイズ契約においては,売上総利益をロイヤリティの算定の基準としていることが多く,1審被告やファミリーマートを含め,その大半は,売上高から売上総利益を算出するに当たり,廃棄ロス原価を売上原価に算入していない(甲5。公正取引委員会作成の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」7頁)。

 (ウ) また,本件契約書18条において引用されている付属明細書(ホ)2項には,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費となることが定められている。

 (エ) Dは,本件契約締結前及び本件契約締結時に,1審原告に対し,売上げから実際に売れたものの原価を控除したものが粗利であり,これを本部のチャージ43%として支払うことを説明し,損益計算書を示して,その各項目について上から下まで順次説明しており,また,棚卸しの増減及び不良品が人件費とともに営業費となることを説明している。

 (オ) 本件契約締結後であるが,1審被告は,スクールトレーニングの際も,棚卸しの増減及び不良品が人件費とともに営業費となることを説明している。

 (カ) 加えて,システムマニュアルの損益計算書についての項目には,「売上総利益」は売上高から「純売上原価」を差し引いたものであること,「純売上原価」は「総売上原価」から「仕入値引高」,「商品廃棄等」及び「棚卸増減」を差し引いて計算されることなどが記載されている。

 Dの上記説明のうち,売上げから実際に売れたものの原価を控除したものが粗利であるとの説明は,売れなかった商品の原価である廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は売上高から控除しない(「売上商品原価」に含まれない。)ということであるから,被告方式の説明にほかならず,これに沿う損益計算書の記載を具体的に説明したものである。また,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が営業費として加盟店の負担となることは繰り返して説明されているところ,企業会計原則に従って売上総利益を算出した場合は廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は売上原価に含まれるから,営業費に二重計上されることはあり得ないのであり,これらが営業費に計上されるという説明も,廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価は売上高から控除しない(「売上商品原価」に含まれない。)ということと同義である。まして,Dは,損益計算書を示して各項目について上から下まで順次説明しているのであるから,以上認定の1審原告のファミリーマート店経営歴,そこにおけるチャージ算定方法が被告方式と同様であり,かつ,コンビニエンスストア・チェーンのフランチャイズ契約における一般的な算定方法であったことに照らすと,1審被告としては,チャージの算定方法につき十分な説明を果たしたものと認めることができる。

   エ 1審原告は,本件契約締結後においても,1審原告が被告方式を理解していなかった旨を主張する。

 しかしながら,信義則上負う説明義務の程度としては前記のとおりであり,チャージの算定方法の詳細について正確な理解を得るまで説明する義務があるとまでは直ちにいうことはできず,上記のとおり本件契約の契約内容,契約締結前後の経緯,1審原告の経験等の事情に応じ,一般に必要と認められる程度で足りるものであり,上記のとおり十分な説明を果たしたものと認められる。

 1審原告は,前記のような企業会計原則による算定と比較し,廃棄ロスにチャージが掛かるとの主張にこだわり,このことを認めない1審被告担当者への不信を強めたものであり,このことから本件契約のチャージ算定方法が被告方式であることの説明義務が尽くされていなかったということはできない。

   オ 1審原告は,①被告方式において,ロイヤリティ算定の基礎となる売上総利益の算出において売上高から控除される「売上商品原価」には廃棄ロス原価及び棚卸ロス原価が含まれないことだけでなく,②その結果,廃棄ロスや棚卸ロスが発生した場合に加盟店側の最終利益がどのような影響を受けるかについての具体的な説明,③1審被告傘下の加盟店における廃棄ロスや棚卸ロスの平均量の提示,④売上規模の縮小均衡や販売機会ロスの危険性の理解と同時に,仕入量の調整を図ることが重要である旨の説明,⑤単品管理の理解と実践と同時に,見切り販売をする方策の提示とそれが禁じられていないことの積極的な説明についての説明義務も認められるべきである旨を主張する。

 しかしながら,廃棄ロスや棚卸ロスが営業経費であり,これが発生した場合に加盟店側の最終利益に直接影響すること(上記②)及び仕入量の調整を図ることが重要であること(上記④)については,加盟店の常識であり,1審原告も理解しており,ロイヤリティ算定方法(上記①)が理解されれば,その具体的な算出方法も自ずから理解可能である。1審被告は,これを損益計算書によって具体的に説明したのであるから,1審原告においても理解することが可能であったと認められる。

 1審被告傘下の加盟店における廃棄ロスや棚卸ロスの平均量の提示(上記③)については,予めこれを提示して説明する必要性があるとは認められず,1審原告が経営上の必要性から1審被告に照会した場合に対応すれば足りる問題である。

 見切り販売をする方策の提示とそれが禁じられていないこと(上記⑤)については,説明がなく,1審被告においても許されないものと認識していたといえる。しかし,本件契約上,価格決定権が加盟店にあり,値下げ販売が禁じられていなかったことは,1審原告も認識しながら,本部の推奨価格による販売方式を受け入れていたことは明らかである。また,見切り販売の方策については,1審原告が現に行った方法も可能であったといえる。本件契約において,1審被告が長年培ってきた経営ノウハウを活用し,「セブン-イレブン」の統一性のある同一事業イメージのもと加盟店経営をすることが約束され(甲1),見切り販売をするのがその経営上適切ではないと判断され,加盟店経営が行われていたこと,また,その判断が1つの経営方針として一貫したものであり,これが不相当なものとまではいえないことに照らすと,1審被告において,見切り販売の具体的方策を積極的に説明する義務があったとは認められない。

  (3) 争点(3)(1審被告はデイリー商品について再販売価格を拘束したか(債務不履行ないし不法行為に当たるか)について

   ア 本件契約書30条及び31条によれば,1審原告には商品の販売価格の決定権があり,1審被告が1審原告の販売価格を強制したり,販売価格についての1審原告の自由な決定を妨害することは,独占禁止法違反につき検討するまでもなく,本件契約に違反する債務不履行になり,また,不法行為をも構成するということができる。

 一方で,本件契約書前文,1条及び28条によれば,1審被告と1審原告は,1審被告が培ってきた経営ノウハウを活用して,統一性のある同一事業イメージのもとにコンビニエンスストアを開店し,相協力することを約し,1審被告は,加盟店に最も効果的と判断される標準的小売価格を開示するだけでなく,担当者を派遣して,店舗・品ぞろえ・商品の陳列・販売の状況を観察させ,助言,指導を行い,また経営上生じた諸問題の解決に協力するなどの助言,指導を行うこととされ,それが1審被告の義務とされている。また,本件契約の定めを通覧すれば,本件契約においては,1審被告と加盟店は,コンビニエンスストア・チェーンとして,統一性のある同一事業イメージを構築するため,相協力すべきであり,1審原告においても「セブン-イレブン」というのれんの無形的価値を享受する上で,可能な限り,これを損なうことなく,事業活動を行うべきこととされていることがうかがわれる。

 そうすると,1審被告が,1審被告の推奨価格以外の価格で商品を販売しようとする加盟店に対し,その販売による影響や長年の経験に照らして店舗経営上の不利があると判断していることを伝え,これを中止するように求めたとしても,それが直ちに販売価格の強制であるとか自由な意思決定の妨害であるとみるのは相当ではなく,本件契約に基づく上記の助言,指導の範囲であれば,許されると解される。

   イ そこで,検討するに,1審原告が見切り販売の開始を通告して以降,BやCが頻繁に本件店舗を訪れるなどして,見切り販売の中止を求めた事実を認めることができる。

 しかしながら,これらはいずれも,本件契約に基づく助言,指導の範囲内の行為であり,1審原告の価格決定権を侵害する行為であるとはいえない。

 前記認定のとおり,Bは,見切り販売を開始しようとする1審原告に対し,それが利益にならないことを示して説得していたにとどまることは明らかである。1審原告があくまでも見切り販売開始に踏み切ることになってからは,それを一刻も早く中止してもらうとの方針に転換し,長期的な売上改善策,廃棄ロスの解消が必要であるとして,これを勧め,見切り販売実施後の営業成績の資料を示して,見切り販売が利益確保の点でも得策でないことを説得していたものであり,1審原告においても,売上げや廃棄の推移,客の受け止め方などを見極めながら,見切り販売の実施やその方法を自らの判断で決定していったものである。

 もっとも,Bが,1審原告に対し,本件契約の合意解約にいざなうような話をした事実は認められる。しかし,これは,1審原告やその妻の経営意欲が減退し,1審原告が違約金を支払わずに契約関係を解消できるかを尋ねるなどし,廃棄ロスにチャージが掛かっていることに固執する発言をしたことに対し,Bにおいて,相互の信頼関係が失われているとして,合意解約に誘う趣旨の発言をしたものと認められ,1審被告の意向に従わない1審原告を一方的に排除しようとしたものではない。

 また,Bの後任のDMであるCが,平成19年11月1日,「今の段階では,口頭ですが,絶対にやめていただきたいという意思だけはお伝えしておきます。」,「セブン-イレブンイメージを逸脱していますので,改善勧告はさせていただきますから。そのステップを経て,こちらができることをやっていきますから。」などと述べた事実は認められる(甲24)。しかし,これは,周辺の加盟店から1審原告が値下げ販売をすることを中止してほしいとの要望があったこと,それまでに1審原告が1円値下げ販売を実施したこと,1円値下げ販売は本件契約に違反する行為と認識していたことや,その場の雰囲気から,些か強い表現がとられたものであり,助言,指導の域を出るものではない。C又は同席した担当者は,価格の決定権がオーナーにあるとの発言も再三しており,1審原告が「改善勧告をしてくれるわけね。やめてくださいと。」と発言したのに対し,「やめてくださいとは言ってない。これをね。」と発言しており,あくまでも,強制はできないという前提で上記発言をしたことは明らかである。

 このように,BやCは,本件契約上の義務である指導,助言を果たしたというべきであり,Cの発言には,その場のやりとりから,多少感情的な発言になった嫌いのあるものの,見切り販売を行っていた本件店舗の売上げや利益が減少していたことや他の加盟店の意向を受けて,1審原告に対し,強い調子で見切り販売をやめるのが良いとの意見を述べたにすぎないものと認められる。

 以上のとおり,1審被告の担当者らは,本件契約の指導助言義務に基づき,1審原告に対し,デイリー商品の見切り販売によって,本件店舗の経営状況が改善しているか否か,1審原告にとって経営状況の改善のための最良な方法は何かという観点から,必要なデータを示すなどして,発注量の見直し,デイリー商品の見切り販売の方法や程度の見直しについて助言,指導を行ったもので,これが強制や自由な意思決定の妨害になったことを認めることはできない。

   ウ また,1審原告は,1審被告が値下げ販売をするためのSCの操作方法を教えなかった不作為が債務不履行又は不法行為に当たる旨を主張する。

 しかしながら,平成22年以降のシステムマニュアル(甲73)に記載された値下げ販売の方法が,本件排除措置命令前にマニュアルに記載されていたとは認められないが,1審原告において,値下げ販売を検討しながらも,1審被告の販売方式に従っていたところ,廃棄ロスにチャージが掛かっていると認識し,廃棄ロスを減らすため,値下げ販売を実施することを決め,1審被告のやめるよう求める指導を受けながら,これを実行し続けていたのであり,上記不作為が強制又は自由な意思決定の妨害に当たると認めることはできない。

  (4) 争点(4)(1審被告は仕入先からの仕入代金に一定金額を上乗せした金額を1審原告から取得したか(不当利得の成否)について

 原判決45頁24行目から46頁14行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

第4 結論

 以上によれば,1審原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

 よって,1審原告の控訴を棄却するとともに,1審被告の控訴に基づき,原判決中,1審被告の敗訴部分を取り消して,上記部分につき1審原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。