岐阜地裁平成24年1月17日判決〔交通事故の加害者の保険会社が独立当事者参加をした場合には交通事故の加害者の自白が効力を有しないとした上で,事故の発生が認められないとした事案〕

【オレンジ法律事務所の私見・注釈】

1 本件は,岐阜県関市の駐車場にて,Y1が駐車しようとしてバックさせたところ,不注意で,駐車していたXの車両に衝突してXの車両が損傷したという交通事故について,Xが,Y1に対し民法709条に基づき,車両を所有する会社Y2に対し改正前民法44条1項に基づき,損害賠償請求をしたのに対し,同Y1らが本件事故の発生及び同人らの責任を認めたところ(A事件),Y2との間で自動車保険契約を締結している保険会社Zが独立当事者参加を申し立て,X,Y1,Y2に対し,本件事故に関して上記保険契約に基づく保険金支払がないことの確認を求める事案(B事件),Xが,同人が自動車保険契約を締結している保険会社Y3に対し,本件事故について保険金の支払を求めた事案(C事件)である。

2 本件裁判所は,A事件において,Y1及びY2は本件事故の発生について自白しているが,同事件について,保険会社ZがX及びY2,Y2を相手方として独立当事者参加しており(B事件),合一確定の要請により,当事者の一人がした訴訟行為は共同関係にあるとみなされる他の当事者に不利益になるものはその効力を生じない(民訴法47条4項,40条1項)から,上記自白の効力は生じないものと解されるとした。

その上で,Xが本件事故現場である駐車場に駐車した経緯,本件事故態様,本件事故態様と原告車両の傷との整合性,Xが高級外国車である車両を本件事故の2か月余り前に購入したばかりであるのに,損傷程度や修理内容について関心を示さないこと等を判示した上で,これらを総合すれば,本件事故発生の事実は認められないというべきであると判断し,A事件,C事件のXの本訴請求を棄却し,B事件のZの本訴請求を認容した。

3 民事訴訟法47条1項には,「訴訟の結果によって権利が害されることを主張する第三者又は訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する第三者は,その訴訟の当事者の双方又は一方を相手方として,当事者としてその訴訟に参加することができる」と規定されているが,同47条4項が準用する同40条1項によれば,「訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には,その一人の訴訟行為は,全員の利益においてのみその効力を生ずる」されており,本件Y1,Y2の事故発生の自白は,保険会社Zの不利益になるため,判示内容の通り,効力を生じないことになる。

保険会社が独立当事者参加した事案として参考となる。

【原文】

主文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 参加人と原告との間において,別紙交通事故目録記載の交通事故について,参加人の原告に対する別紙保険契約目録記載の保険契約に基づく保険金支払債務が存在しないことを確認する。

 3 参加人と被告長八総建及び被告Y1との間において,別紙交通事故目録記載の交通事故について,参加人の同被告らに対する別紙保険契約目録記載の保険契約に基づく保険金支払債務が存在しないことを確認する。

 4 訴訟費用及び参加費用のうち,原告に生じた費用と被告Y1,被告長八総建,被告三井住友に生じた費用及び参加人に生じた費用の2分の1は原告の負担とし,参加人に生じた費用の2分の1を被告Y1及び被告長八総建の負担とする。


事実及び理由

第1 請求

 1 A事件

 被告Y1及び被告長八総建は,原告に対し,連帯して1098万4386円及びこれに対する平成20年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 B事件

 主文第2項,第3項同旨

 3 C事件

  (1) 被告三井住友は,原告に対し,615万7386円及びこれに対する平成20年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

  (2) 被告三井住友は,原告に対し,68万3000円及びこれに対する平成22年6月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

 1 本件は,原告が,被告Y1が起こした別紙交通事故目録記載の交通事故(本件事故」という。)について,同人に対し民法709条に基づき,被告長八総建に対し改正前民法44条1項に基づき,損害賠償請求をしたのに対し,同被告らが本件事故の発生及び同人らの責任を認めたところ(A事件),被告長八総建との間で別紙保険契約に基づく自動車保険契約を締結している参加人が独立当事者参加を申し立て,原告と被告長八総建及び被告Y1に対し,本件事故に関して上記保険契約に基づく保険金支払がないことの確認を求める事案(B事件),原告が,同人が自動車保険契約を締結している被告三井住友に対し,本件事故について保険金の支払を求める事案(C事件)である。

 2 前提事実(争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実,なお,以下書証はA事件及びB事件で提出された書証を引用するものとする。)

  (1) 被告長八総建と参加人との間の保険契約の締結

 被告長八総建は,参加人との間で,別紙保険契約目録記載の保険契約を締結している。

 原告は,参加人に対し,本件事故について,上記保険契約に基づく保険金の支払請求をしたところ,参加人は平成20年7月3日付け内容証明郵便で,原告及び被告Y1に対して保険金の支払拒否の通知をした(丙1,2)。

  (2) 原告と被告三井住友との間の保険契約の締結

   ア 原告は,平成19年10月25日,被告三井住友との間で,次のとおり,車両保険等を含む自動車保険契約を締結した。

 ① 証券番号 〈省略〉

 ② 保険種類 一般自動車総合保険(SAI)

 ③ 保険期間 平成19年11月10日午後4時から平成20年11月10日午後4時まで

 ④ 被保険自動車 メルセデスベンツ

 ⑤ 車両保険金額 655万円

   イ 原告は,平成20年4月17日,被告三井住友との間で,上記保険について次のとおり,自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)の変更手続をした。

 ① 証券番号 〈省略〉

 ② 保険種類 一般自動車総合保険(SAI)

 ③ 保険期間 平成19年11月10日午後4時から平成20年11月10日午後4時まで

 ④ 被保険自動車 原告車両

 ⑤ 車両保険金額 1610万円

 ⑥ 特約 本件保険契約には,保険証券に代車費用担保特約の適用がある旨記載がある。

 本件保険契約には,保険証券にもらい事故弁護士費用等担保特約の適用がある旨記載がある。

  (3) 本件保険契約に含まれる保険内容

 本件保険契約に適用される一般自動車総合保険普通保険約款(以下「本件約款」という。)には,以下のように定められている。

   ア 本件約款第3章第1条第1項

 被告三井住友は,衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,台風,こう水,高潮その他偶然の事故によって保険証券記載の自動車(被保険自動車)に生じた損害及び被保険自動車の盗難によって生じた損害に対して,この車両条項及び一般条項に従い,被保険自動車の所有者(被保険者)に車両保険金(車両損害及び費用)を支払う。

   イ 同3項

 被保険自動車には,その付属品を含む。

  (4) 本件保険契約に付帯されている特約

 本件保険契約には,以下の内容の特約が付帯されている。

   ア (55)代車費用担保特約(実損払)

 (ア) 第1条

 この特約は,被保険自動車に普通保険約款車両条項の適用がある場合で,かつ,保険証券にこの特約を適用する旨記載されているときに適用される(同特約(55)第1条)。

 (イ) 第2条(この特約による支払責任)

 被告三井住友は,次の各号のいずれかに該当する事由により被保険自動車が使用できなくなり,かつ,被保険者が代車を借り入れた場合は,被保険者が代車費用を負担したことによって被った損害に対して,この特約に従い,被保険者に代車費用保険金を支払う。

  ① 普通保険約款車両条項および被保険自動車について適用される他の特約の規定により保険金支払の対象となる事故にともなって被保険自動車に損害が生じること

 (ウ) 第5条(支払保険金の計算)

 1回の事故につき被告三井住友が支払う代車費用保険金の額は,次の①の額に②の期間を乗じた額とする。

  ① 次号の代車借入期間における被保険者が負担した1日当たりの代車費用(ただし,保険証券記載の保険金日額を限度とする。

  ② 被保険者が最初に代車を借り入れた日以降の代車借入期間(ただし,30日を限度とする。)

   イ (32)もらい事故弁護士費用等担保特約

 (ア) 第1条

 この特約は,保険証券にこの特約を適用する旨記載されている場合に適用される。

 (イ) 第2条(この特約による支払責任)

 被告三井住友は,被保険者が次の各号のいずれかに該当する偶然な事故により被害を被ること(自動車被害事故)によって,保険金請求権者が,賠償義務者に対する自動車被害事故にかかわる法律上の損害賠償請求を行う場合は,それによって当会社の同意を得て支出した弁護士等費用を負担することによって被る損害に対して,この特約に従い,弁護士等費用保険金を保険金請求権者に支払う。

  ① 自動車の運行に起因する事故

  ② 自動車の運行中の,飛来中もしくは落下中の地物との衝突,火災,爆発または自動車の落下

 (ウ) 第4条

 この特約において,次の用語は,次の定義による。

 (弁護士等費用)

 訴訟費用,弁護士報酬,司法書士報酬,行政書士報酬,仲裁,和解もしくは調停に要した費用またはその他権利の保全もしくは行使に必要な手続きをするために要した費用をいう。

  (6) 原告は,被告三井住友に対し,平成20年6月ころ,本件保険契約に基づいて車両保険金等の請求をしたが,被告三井住友は,同年8月21日付け内容証明郵便により,支払拒否の通知をした。

 また,原告は,被告三井住友に対し,平成22年5月末ころ,本件保険契約に基づいて弁護士費用等の請求をしたが,被告三井住友は,原告に対し,平成22年6月4日付け内容証明郵便により,支払拒否の通知をした。

  (7) 原告は,平成20年11月1日,岐阜簡易裁判所に対し,被告Y1,被告長八総建及び被告三井住友に対し,損害賠償等の支払を求める調停を申し立てたが(岐阜簡易裁判所平成20年(ノ)第178号,以下「本件調停」という。),不調に終わった。

 3 争点

  (1) 本件事故(保険事故)の発生の有無

 (原告)

   ア 原告は,平成20年6月6日ないし7日の夕方,被告Y1と仕事の話をしながら食事をすることになり,被告長八総建の土場である本件事故現場に原告車両を駐車し,食事に出掛けた。原告は,食事の際飲酒したので,原告が経営する会社の従業員に連絡をして迎えに来てもらい,原告車両はそのまま本件事故現場に置いておいた。

 原告は,同月9日の午後4時過ぎ頃,被告Y1から本件事故の連絡を受け,その日の夜に原告車両を取りに行ったが,傷の状況は確認しなかった。

 本件事故の当事者である被告Y1及び被告長八総建は,答弁書において請求原因を自白し,尋問においても本件事故の発生を認めており,本訴において一貫した説明をしている。

 本件事故現場は,未舗装の地面であり,凹凸がある上,被告車両が後退する際には同車両自体も上下に揺れて高さが変化し,原告車両のような損傷がつくことも合理的に説明できる(C鑑定,甲8,10)。

   イ 訴外株式会社キングドーム(以下「キングドーム」という。)は,原告車両を含むベントレーを複数台販売し,自社で整備もしており,同社の見積りによる原告車両の修理代は,原告車両の希少性及びそのグレードを反映した妥当なものである。

 (参加人)

   ア 本件事故現場である土場に,高級車である原告車両を2,3日も放置しておくことは不自然である。

   イ 被告車両の後部には,突入防止バンパーが装着されているため,仮に被告車両が後退して原告車両の前部に衝突したとしても,原告車両は突入防止バンパーの位置(荷台フレーム下ブラケットから22.5cm)よりも奥まで潜り込むことはないところ,原告車両のボンネットフードの剥離塗装は,前照灯の位置から最長35cmにまで及んでおり,前照灯はガラスのみしか破損しておらず,灯器は全く無償であった。

 被告車両の荷台フレーム外側と突入防止バンパーとの間には25cmの間隔が存在しており,この幅であれば,突入防止バンパーとは衝突しないが,原告車両のボンネットフードの剥離塗装と右フェンダパネルの剥離塗装の間隔は,35cm(内側)~37cm(外側)であり,突入防止バンパーと衝突しないで,同一機会に生じる損傷ではない。

 また,被告車両の荷台フレーム下端及び荷台フレーム下ブラケットに原告車両の塗膜片は付着していなかった。

   ウ キングドーム作成の修理見積書(甲3)は,実際にはパテ修正しか行っていないにもかかわらず,あたかも全ての部品を交換したかの如き内容となっている。

 また,キングドーム作成の請求書(甲11)には,実際にはフロントバンパー,ラジエータグリルの損傷がないにもかかわらず,それらの修理費用が含まれている。

 原告は,原告車両の損傷が軽微で板金・塗装等で修理が完了したことを知った上で,あえて高額な見積書を作成して,保険金を取得し,その差額を利得しようとしたと推察される。

 (被告三井住友)

   ア 本件事故現場に,超高級車である原告車両を野晒しにして置いておく合理性はない。

   イ 被告Y1は原告車両の右隣の車の前に駐車しようとしていたのに,被告車両の左後部を原告車両の右前ライトの内側に接触させており,余りにも原告車両に寄り過ぎている等,事故態様が不自然である。

   ウ 原告は,原告車両の修理費用として600万円余りもの高額の修理費を請求しているが,実際にかかる修理費は47万7719円に過ぎず,原告が保険事故を偽装する十分な動機がある。

   エ 原告車両には1610万円もの高額な車両保険が付されていたが,原告車両は,平成19年8月30日,キングドームがオートオークションで870万円で落札し,その後在庫車両として残っていたものであるから,平成20年4月当時1617万1450円もの価値を有するはずはない。

   オ 原告は,平成18年11月10日から平成20年11月10日の2年間に3回もの保険事故が発生したとして車両保険金等の請求をしている。

  (2) 損害

 (原告)

   ア 修理費用

 本件事故により本件自動車が上記のとおり損傷し,キングドームから平成20年9月4日,修理費用として600万7386円(消費税込)の見積書の提示を受けた(甲3)。

 上記見積書による本修理を実施しようとしていたところ,参加人及び被告三井住友からの一方的な支払拒否により中断したため本修理ができなくなった。原告車両は,株式会社アプラスにより所有権留保が付されていたところ,本修理がなされないまま,同社により引き揚げられ,売却された。

 したがって,仮修理自体は終了し,少なくともこれに対応する修理代金の損害が生じていることは明白である(甲11)。

   イ 代車費用の発生

 原告車両が損傷し修理が必要であったため,本件事故後,原告はキングドームから代車としてメルセデスベンツSクラスを3か月間借り受けた。

 原告車両が極めて高級かつ希少な外国車であることからすると,同ベンツは代車としての相当性を有している。

 原告は,キングドームから同年9月29日,代車費用として434万7000円(内訳1日当たり4万5000円の3か月分,消費税込)の請求を受けた(甲4)。

   ウ 弁護士費用等の負担

 原告は,原告訴訟代理人弁護士らに対し,本件事故の損害賠償に関する紛争解決を依頼し,本件調停の申立てのため,弁護士費用42万円及び調停申立費用2万6200円を支払った。

 さらに,原告は,原告訴訟代理人弁護士らを訴訟代理人として,上記調停が不調となった後,当庁に対し,被告Y1に対して損害賠償請求訴訟を提起し,その弁護士費用として21万円及び申立費用として2万6800円を支払った。

 本件事故が保険事故に該当することは明らかであり,被告三井住友が不当に車両保険金の支払を拒否したため,被告三井住友及び被告Y1,被告長八総建に対し調停を申し立て,また,被告Y1及び被告長八総建に対する訴訟を提起せざるを得なくなったのであって,不当な同意拒否であり,被告三井住友が同意をしていないことをもって支払義務の不存在を主張することは信義則に反し許されない。

   エ 本件事故につき被告三井住友が原告に対して支払う代車費用保険金の額は,前記代車費用担保特約第5条から,1日あたりの代車費用中保険証券記載の保険金日額である5000円に,代車を借り入れた期間のうち30日を乗じた額である15万円となる。

   オ よって,原告は,被告Y1及び被告長八総建に対し,上記修理費,代車費用及び弁護士費用(着手金63万円)の合計1098万4386円及びこれに対する本件事故日である平成20年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 また,原告は,被告三井住友に対し,本件保険契約に基づく車両保険金請求権に基づき,615万7386円及びこれに対する原告が上記保険金の支払を請求した日の後である平成20年7月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,本件保険契約に基づく弁護士費用等保険金請求権に基づき,68万3000円及びこれに対する平成22年6月5日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

 (参加人)

   ア 修理費について

 原告車両の修理費相当額は,45~47万円程度であることは明白である(丙11,丁3)。

   イ 代車費用について

 修理費は,せいぜい45万円程度であるのに,その修理期間に修理費の10倍に相当する代車費用を支出する経済的合理性はない。

 原告は,本件事故当時,原告車両以外にワゴン車1台,ジムニー1台,トラック3~4台を保有していた。原告車両は,極めて趣味性,嗜好性の強い車であり,営業活動に使用していた頻度はそれほど多くないと思われる。

 よって,代車の必要性,相当性は認められない。

 (被告三井住友)

   ア 修理費について

 損害賠償請求とは異なり,車両保険により填補される修理費は,約款で定められた範囲でしか支払われない。

 そして,車両保険においては,事故発生時点における一般的な修理技法により,外観上,機能上,社会通念に照らし原状回復したと認められる程度に復旧するために必要な修理費用に限定されているし,その判断は,被告三井住友がすることとされている。

 被告三井住友が認定する本件ベントレーの修理費は,47万7719円である(丁3)。参加人の修理見積額は,45万2823円であり(丙9),被告三井住友の見積額と近く,被告三井住友が認定した修理費47万7719円が,一般的な修理技法により,外観上,機能上,社会通念に照らし原状回復したと認められる程度に復旧するために必要な修理費用である。

   イ 代車費用について

 代車費用の支払は,1日5000円を最高限度として,実際に代車を借り入れて代車費用を負担した場合になされるものであり,実際に代車を借り入れていない場合には代車費用は支払われない。

 原告は他にも車を所有しているはずであり,代車使用の必要性がない。

 原告が実際に代車を使用していたのであれば,長期間経過した現在も未だにその料金を支払っていないのは不自然である。

   ウ 弁護士等費用保険金について

 (ア) 被告三井住友が,もらい事故弁護士費用担保特約に基づき,支払義務を負うのは,同特約第2条第1項①,②のいずれかに該当する偶然な事故により被害を被ることによって,保険金請求権者が,賠償義務者に対する自動車被害事故にかかわる法律上の損害賠償請求を行う場合で,被告三井住友の同意を得て支出した弁護士等費用に限られる。

 しかし,前述のとおり,偶然な事故発生の事実が認められないので,そもそも弁護士等費用保険金の発生要件を満たさない。また,被告三井住友は,原告に対して,原告の弁護士等費用の支出について同意などしていない。

 (イ) 次に,同持約第9条②は,以下のとおり定める。

 被告会社は,次の各号のいずれかに該当する損害賠償請求または法律相談を保険金請求権者が行う場合は,それにより生じた費用に対しては,弁護士費用等保険金を支払わない。

  ① 被害に対して保険金の請求が行われる保険契約(共済契約を含みます)の保険者に対する損害賠償請求またはこれにかかわる法律相談

  ② 損害賠償請求を行う地及び時において社会通念上不当な損害賠償請求またはこれにかかわる法律相談

 本件調停は,被告Y1,被告長八総建とともに,被告三井住友をも相手方としている。また,原告は,被告三井住友に対して保険金請求訴訟を提起し,被告Y1,被告長八総建に対する損害賠償請求事件と併合されている。

 原告の被告Y1,被告長八総建に対する損害賠償請求事件は,実質的には,参加人の対物賠償責任保険の直接請求及び被告三井住友に対する保険金の請求に他ならず,同特約第9条②の①に該当し,弁護士費用等保険金は支払われない。

 さらに,原告は,本件調停及び本訴において,修理費を偽って600万7386円もの莫大な金銭や,434万7000円もの莫大な金額の代車料を請求するなど,社会通念上不当な損害賠償請求を行っているといえるのであり,同特約第9条②の②に該当し,弁護士費用等保険金は支払われない。

 (ウ) また,同特約第11条①②は,以下のとおり定める。

  ① 保険契約者または保険金請求者は,保険金請求者が損害賠償請求を行う場合または訴訟の提起を行う場合には,被告三井住友に次の各号に掲げる事項について事前に書面で通知しなければならない。

   a 損害賠償請求を行う相手の氏名または名称およびその者に関して有する情報

   b 被害の具体的内容

   c 損害賠償請求を行う相手との交渉の内容

   d その他当会社が必要と認める事項

  ② 保険契約者または保険金請求者が,正当な理由がなくて前項の規定に反した場合,被告三井住友は,弁護士費用等保険金を支払わない。

 原告は,被告三井住友にこれらの点につき,書面による通知を何らすることもなく被告Y1,被告長八総建に対して訴訟提起を行っているから,同特約第11条②により,被告三井住友は弁護士費用等保険金の支払義務を負わない。

 (エ) 同持約第14条は,以下のとおり定める。

 被告三井住友に対する保険金請求権は,保険金請求権者が弁護士費用および法律相談費用を支出した時から発生し,これを行使することができる。

 すなわち,原告が実際に弁護士費用を支出していなければ,弁護士費用等保険金請求権は発生せず,支出した後でなければ行使しえない。

 原告は実際に弁護士費用をいつ支払ったのかの主張・立証を一切していないから,原告の弁護士費用等保険金請求権が発生したと認められない。

 また,本件は,独立当事者参加人及び被告三井住友の保険会社2社から保険金の支払を拒否された,いわゆるモラルリスク事案である。調停による解決など見込めないにもかかわらず,原告は,訴訟提起前に調停など申立て,無駄な弁護士費用を発生させてしまったのであり,そのような無駄な費用まで被告三井住友が支払わなければならないというのは信義に反する。

第3 当裁判所の判断

 1 争点(1)(本件事故の発生の有無)について

  (1) A事件において,被告Y1及び被告長八総建は本件事故の発生について自白しているが,同事件について,参加人が原告及び被告長八総建,被告Y1を相手方として独立当事者参加しており(B事件),合一確定の要請により,当事者の一人がした訴訟行為は共同関係にあるとみなされる他の当事者に不利益になるものは,その効力を生じない(民訴法47条4項,40条1項)から,上記自白の効力は生じないものと解される。

 以下,本件事故の存否について検討する。

  (2) 原告が本件事故現場である駐車場(以下「本件土場」という。)に原告車両を駐車した経緯について

 原告は,原告が個人経営していた会社を株式会社化する手続について,被告Y1に食事をしながら相談に乗ってもらうため,本件事故の2,3日前である平成20年6月6日か7日の夕方,本件土場に原告車両を駐車したが,飲酒したので本件土場に置いておいたと供述する。

 しかし,原告は,平成20年6月2日に,D司法書士に株式会社設立登記一式等にかかる手続費用を支払い(甲19),同月10日には株式会社梅村工業の設立登記を了している(甲20)から,上記6月6日か7日に被告Y1に法人化の手続の相談をするというのも不自然であるし,被告Y1も,元請から受領した図面の引渡し及び仕事の打合せであるとの供述をしている。

 また,被告Y1と飲食することは事前に決まっていたのであるから(原告),原告所有の他の車(ワゴン車等)に乗っていくこともできたのに,営業車両としても使用していたとする原告車両で出掛ける理由には乏しい。さらに,本件土場は,被告長八総建が資材置場及び駐車場として使用している未塗装の場所であり,毎日現場へ行くトラックや作業員の車が出入りし,相互に接近した状態で駐車されている(丁1,被告Y1)ことは,被告長八総建の下請けであった原告も十分承知していたにもかかわらず,いつ取りに行くかも決めないまま(原告),1600万円以上の代金で約2か月前に購入したばかりの原告車両を本件土場に2,3日も放置しておくことは極めて不自然である。

  (3) 本件事故態様について

 被告Y1は,本件事故態様について,甲2のとおり,被告車両である2トントラックを駐車するため,本件土場の原告車両の右隣に駐車していた車両(1の車)の前に止めようとしてバックしたところ,衝撃がしたため原告車両に衝突したことに気がついて停止し,その後前進した旨供述する。

 しかし,被告Y1は,1の車を目指してバックしていたのであるから,原告車両の前部の位置まで来たときには,被告車両は1の車の左側面の位置まで来ていなければならないところ,余りにも原告車両側に寄り過ぎている。被告Y1は,原告車両が本件土場に2,3日間駐車されたままであることを認識していたのであるから,その駐車位置や向きは承知していたはずであるし,被告Y1は運転席の窓を開けて目視しながらバックしていたというのであるから,急いでいたとか,夕方で雨が降っていたという事情があったとしても,上記運転は不自然である。また,原告車両の左前には建築資材やカラーコーンが山のように置かれていたから(丁1の4,7の写真,被告Y1),被告車両が原告車両の左前方から斜めにバックしてくるというのも考え難い。

  (4) 本件事故態様と原告車両の傷との整合性

   ア 原告車両の損傷箇所(丙9,丙14,丁2,証人Eにより認められる。)

 原告車両には,ボンネットフードに,右前照灯の位置から最長35cm,右フロントフェンダーパネルに,前照灯の位置から最長25cmの各擦過傷がある。両傷の間隔は35cm(内側)から37cm(外側)である。

 右前照灯のレンズが破損しているが,灯器は無傷であった。フロントバンパー,ラジエーターグリルにも損傷はなく,歪みも認められなかった。

 フロントバンパーと左右フェンダーパネル取付部位に後退はなく,前部の押し込みは認められなかった。

   イ 被告車両がバックした場合に,原告車両に接触する箇所

 (ア) ボンネットフード及び右フェンダーパネルの擦過傷について

 原告車両の右フェンダーパネルの損傷部先端は地上高86cm,ボンネットフードの損傷部先端は地上高84cmであり,被告車両の高さと比較すると,被告車両の荷台フレーム下部(86cm),荷台フレーム下ブラケット(下端81cm,上端86cm)が接触することになると考えられる(丙5,8)。

 (イ) 前照灯レンズの破損について

 原告車両の前照灯の高さは,上端84cm,下端58cm(丙7,p12)であり,被告車両の高さと比較すると,突入防止バンパー(上端63cm,下端53cm)が接触することになると考えられる(丙6,p14,丙8)。

   ウ 上記により,原告車両の前照灯レンズの破損は,被告車両の突入防止バンパーによる接触が原因であるとも考えられるが,他方,被告車両荷台フレーム下ブラケットから突入防止バンパーまでの長さは22.5cmしかない(丙6,P6)ため,被告車両がバックして原告車両に衝突したとしても,前照灯内部やフロントバンパーに損傷が生じておらず,被告車両が原告車両の前部を押し込んだ形跡がない以上,原告車両のボンネットフード,フロントフェンダーパネルの傷は,最長で22.5cmしか生じないはずである。

 この点,被告車両の荷台フレーム外側と突入防止バンパーとの間には25cmの間隔があり,この25cmの幅であれば,原告車両は突入防止バンパーには接触しないことになり,上記22.5cmよりも奥まで損傷が生ずるとも考えられるが,ボンネットフードの擦過傷と右フェンダーパネルの擦過傷との間隔は35cmから37cmであり,しかも,右フェンダーパネルの外側から原告車両の右端まで数cm以上の間隔が認められるから,ボンネットフードの損傷が被告車両の接触により生じたのであれば,必ず被告車両の突入防止パンパーが原告車両の前照灯位置に衝突することになり,ボンネットフードの擦過傷が22.5cmよりも奥まで生じることはない。

 よって,原告車両の各損傷が同一機会に生じる可能性はないと解されるから,同損傷は,本件事故態様との整合性が認められない。

   エ 原告は,C鑑定(甲8,甲10)をもとに,原告車両の損傷と本件事故態様の整合性に疑問はないと主張する。

 しかし,C鑑定は,原告車両と被告車両に約10度の交差角があることを前提として,右フェンダーパネルとボンネットフードの損傷は被告車両がハンドル操作をせずにそのまま前進した際に生じたものであるとしているところ,これは,右フェンダーパネルとボンネットフードの損傷が,いずれも原告車両の車体と同一方向に生じていること(丙7,丁2)と合致しない上,同鑑定では,ボンネットフード及びフェンダーパネルの損傷は,被告車両の荷台フレーム下端との接触により発生したものとされ,荷台フレーム下ブラケットはフェンダーパネルに衝突しないとしているところ,荷台フレームよりも5cm下方に存在する同ブラケットがフェンダーパネルに全く接触しないという結論には疑問がある。C鑑定は,原告車両のフロントバンパーに変形があることを前提としていること等も考慮すると,同鑑定は上記ウの結論を覆すものではないと解するのが相当である。

 また,原告は,本件土場は未舗装の地面であり,凸凹があるから本件損傷も生じうると主張するが,本件土場は被告長八総建の駐車場として日常的に車の出入りがある場所であり,被告車両は1の車の前に停めようとバックしていたのであるから,それほどの凸凹があるとは思われない(丁1)。

 さらに,原告は,原告車両のフェンダーパネルの傷に土様の物体が付着しており,被告車両の衝突によって生じたことを示していると主張する。

 しかし,これは,参加人及び被告三井住友の調査では発錆であると認定されており(丙9の6/13付け写真6頁,丁2),1日で錆が発生することもある(証人E)上,被告車両の荷台フレーム及び荷台フレーム下ブラケットに原告車両の塗膜片の付着は全く認められない(丙7)から,上記原告の主張は採用できない。

  (5) 修理費用について

 原告は,平成20年9月4日にキングドームから修理費用として600万7386円(消費税込)の見積書の提示を受けた(甲3)として,上記金額を請求している。

 上記見積書の内容は,フロントバンパー,ラジエータグリル,ボンネット,フロントフェンダーを全て新品に交換するという内容になっているところ,実際に原告車両に行われた修理は,板金補修である(丁4,証人F)。

 この点,証人Fは,被告三井住友から修理費は出すので修理してもらっていいと言われたので,修理を始めたところ,修理が進んだ後に突然支払わないと言われたため,仮修理の段階に止まったと証言する。

 しかし,前記前提事実のとおり,被告三井住友が車両保険金を支払わない旨の通知をしたのは平成20年8月21日であるのに,キングドームは,それ以前に部品の発注をしておらず(証人F),同年7月16日には板金補修を行っている(丁4)。

 本修理として部品交換が予定されていたのであれば,仮修理である板金補修は行う必要がないから,原告は当初から本修理として板金補修をするつもりであったものと推認される。

 原告は,当初「キングドームは原告車両の修理を完了したと思っていたが,本件訴訟を進めていく中で,キングドームから仮修理だということを聞いた。」などとして(甲15),修理は完了したことを前提に前記600万円以上の修理費用を請求していたのに,本人尋問では,「キングドームから原告車両を受け取る際に,「しっかりは直していない。取りあえず乗れるような状況にはしておいた。」と聞いた。」などと矛盾した供述をしたり,平成22年9月21日付け仮修理の請求書(甲11)をキングドームに作成してもらった経緯について曖昧な供述に終始している。また,原告は,本件事故の夜,自ら原告車両をキングドームへ持ち込んだにもかかわらず,傷については,ちらっと見ただけで,細かいところは見ていないとか,修理内容については知らなかったなどと供述しているところ,自ら車好きを自認し,高級外国車である原告車両を本件事故の2か月余り前に購入したばかりであるのに,損傷程度や修理内容について関心を示さないのは極めて不自然と言わざるを得ない。

 そもそも,原告が原告車両の修理が仮修理に止まっているという主張をし始め,甲11を提出するに至ったのは,参加人から被告三井住友に対する調査嘱託の結果,平成22年7月30日付け回答書により,原告車両の修理が鈑金修理に止まっているということが判明したためであると解されること,甲11の請求書の内容も,前記(4)アのとおり,フロントバンパー及びラジエーターグリルの損傷や歪みは認められなかったにもかかわらず,「フロントバンパーの板金/塗装」,「グリル脱着,変形修正」が含まれており,証人Fもラジエーターグリルの補修方法について曖昧な証言に終始していること等からすれば,それ自体信用性に乏しい。

 原告車両の修理費用は,参加人及び被告三井住友の見積りによれば,45~47万円程度であり,両社の修理範囲・箇所は全く同じであるから(丙9,丁3,証人E),上記原告車両の修理費用としては,上記金額が相当であると認められる。そうすると,原告が過大な修理費用を請求し,差額を不当に利得しようとしていたことが窺われる。

  (6) 代車費用について

 原告は,高級外国車である原告車両を営業車として使用していたため,代車として同クラスのベンツSクラスが必要であったと主張し,代車費用として434万7000円(日額4万5000円)を請求する。

 しかし,原告の仕事が土木作業関係であり,本件事故当時は被告長八総建の下請けの仕事をしていた(原告)ということからすると,営業活動との関連性には疑問があるし,仮に営業活動に使用されていたとしても,2,3日本件土場に置いておいても,仕事には何ら支障はないというのであるから(原告),使用頻度はそれほど多くないものと思われる。

 したがって,代車としてベンツSクラスを使用する必要性は乏しい上,実際に3か月間もの間,原告が上記ベンツを代車として使用していたことを認めるに足りる証拠はなく,この点からも原告が不当な利得を得ようとしていたことが窺われる。

  (7) 原告車両の購入価格について

 原告は,平成20年3月26日,キングドームから原告車両を1617万1450円で購入し(登録年月日同年4月14日),そのうち817万7900円は一括で支払い,残金は株式会社アプラスの自動車ローンを組んだと主張する(甲1,15)。

 しかし,原告車両は,平成19年8月30日にキングドームが870万円で落札したものであり(丁18の5),その後,平成20年1月21日及び同月28日にキングドームがオートオークションに出品したものの,落札されず,キングドームの在庫車両として残っていたものである(丁18の3,18の6の7)。

 このような原告車両が,平成20年3月当時,1617万円もの価値を有していたかは疑問である上,原告は,仕事上自宅に800万円もの大金を置いているとか,その支払についてキングドームから領収証をもらわなかったなどと,常識では考え難い供述をしていること,原告は,本件事故後,上記自動車ローン月13万円の支払を滞納するようになり,結局,本件継続中に株式会社アプラスに引き揚げられたことからすれば,実際に原告がキングドームに1617万1450円で原告車両を購入したかについては疑問がある。

 そして,原告が,平成20年4月17日,被告三井住友との間で,被保険自動車を原告車両に変更するとともに,車両保険金を1610万円に増額し,2か月もたたないうちに本件事故が発生したという経緯を併せ考慮すると,原告が保険金を不当に利得しようとしていたことが窺われる。

  (8) 以上の事実を総合すれば,本件事故発生の事実は認められないというべきである。

 そうすると,原告の被告Y1及び被告長八総建に対する損害賠償請求は理由がなく,参加人の原告,被告長八総建及び被告Y1に対する本件保険契約に基づく保険金支払債務は存在しないものと認められる。

 また,本件事故(保険事故)の発生が認められない以上,原告の被告三井住友に対する車両保険金及び弁護士費用等保険金の支払請求も認められない。

 なお,原告は,被告三井住友に対し,本件事故の発生が認められない場合は,予備的に,原告以外の第三者により原告車両の損傷が生じたとして,保険金を請求するとしている。しかし,被告Y1自ら本件事故を自認し,原告に事故の連絡をするとともに,参加人に対し事故報告しているのであるから,他の事故は存在し得ないというべきあるし,保険金請求者は,保険事故の発生について,識別可能な程度に特定して主張立証すべきと解されるところ,原告は何らこれを行っていないのであるから,上記原告の予備的主張は採用できない。

第4 結論

 よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから棄却し,参加人の請求はいずれも理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。


別紙

 交通事故目録

 事故日 平成20年6月9日午後4時ころ

 事故現場 岐阜県関市〈以下省略〉所在の駐車場

 原告車両(以下「原告車両」という。)

 車名・仕様 ベントレー アルナージR

 登録番号 岐阜 ○○○つ○○○○

 型式 GH-BLC

 車台番号 〈省略〉

 被告長八総建車両(以下「被告車両」という。)

 自家用普通貨物自動車

 登録番号 岐阜11○○ら○○○

 車体番号 〈省略〉

 被告車両運転者 被告Y1

 事故態様 被告Y1が被告車両を駐車しようとしてバックさせたところ,被告Y1の不注意で,駐車していた原告車両に衝突し,原告車両の右前部が損傷した。